遺跡に封印されていた凶悪な魔物の封印を解除した罪で、カースは査問委員会に連行されてしまった。ゲルスはカースの無実を訴えたが、大人たちは聞く耳を持たなかった。
「兄貴の奴、頭いい癖にバカだ!」
「どうしてカース君が監獄に入れられてしまったの?私、わかんないよ…」
「兄貴は俺たちをかばったんだ。遺跡に俺たちを連れて行ったのは、自分だと嘘をついて…」
「なぜそんな嘘を…」
「封印解除の魔法は高度な技術が必要だからな。魔術の成績の悪い俺たちには、どう転んでも使えないだろうと理事長から言われたよ…」
クラリスの頬を大粒の涙がボロボロと伝っては落ちた。カースは死刑にされてしまうことが確定だったからだ。
「お願い…誰か…カース君を助けて!」
「…クラリス…泣かないで…僕が…君の大事な人を…助けに行くから」
「その声は…ジュン君?」
ゲルスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながらクラリスを見ていた。
「あのね、ゲルス君。ジュン君がカース君を助けてくれるんだって!」
「そのジュンって奴は本当に信用できるのか?」
「ジュン君は良い人だと思うの…」
「クラリスがそう言うなら俺も信頼するよ」
その頃、地下牢に投獄されているカースは、小さな格子の隙間から虚ろな目で空を見上げていた。
「…君が…カースだね」
「誰だ?僕の名を呼ぶのは…」
「…君に…僕の力を…貸してあげるよ」
カースの純白の翼がみるみる漆黒に染まってゆく。何かが体内に入ってくるのを感じていた。
「なんだこれは?力がどんどん湧き上がってくる…」
カースは強力な結界の張ってある牢獄の壁を、いとも容易く破壊すると脱獄に成功した。すぐに追っ手が現れたが、簡単にいなして逃亡することができた。カースの脱獄は瞬く間に噂が広がった。ゲルスは夜中になっても寝付けずに、二段ベットの上でゴロゴロしていた。
「ゲルス、起きてるか?」
ゲルスが二段ベットの上から下を覗き込むと、そこにはカースがいた。
「兄貴…。おかえり」
「あまり長居はできない。お前に話がある」
「ジュンって奴が助けてくれたのか?」
「全てを理解した。今、僕はジュンと言う者の記憶を共有している…」
「クラリスがジュンは良い奴だと言っていた。ジュンって名前はクラリスが名付けたらしい」
「クラリスの言う通りだ。僕は天使族であることを恥だと思う…。お前も我々の先祖が過去に何をして来たか知れば、その愚かさに失望するだろう…」
「一体、過去に何があったんだ?」
「ジュンは世界を滅ぼせるだけの力はあったが、まだ何も罪を犯してはいなかった。強大な力を恐れて封印されてしまったのだ」
「そりゃ濡れ衣も良いとこだな…」
「クラリスも同じだ。ジュンは全てを知っていた。クラリスはまだ自分の力をコントロールできていない」
「クラリスの力つっても、クラリスは魔法は使えないはずだが…」
「クラリスは全ての魔法を打ち消す能力がある。クラリスのそばにいると魔法が使えなかったのはその為だ。ジュンの封印も打ち消してしまった」
「そいつはスゲェ能力だな…」
「クラリスのことを守ってやってくれ。僕はジュンと共に旅に出る。査問委員会の連中に見つかると面倒だからな」
「兄貴。俺、アカデミー卒業したら、ファッションコーディネーターになるよ」
「お前ならなれるよ。応援している…」
そう言い残すと、カースは忽然と姿を消していた。
fin
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オオカミ姫の双子の天使をメインに書いた、二次創作ストーリーの最終話です。