No.93525

真・恋姫無双 季流√ 第1話 現実後少女達

雨傘さん

ようやく季衣と流琉がでます。

あとがきに書きますが、一つ困ったことができました。

地名に関しては適当なのでコアな方にはスルーでお願いします。(地理さっぱりです)

2009-09-05 00:05:54 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:42750   閲覧ユーザー数:28374

 

気がつくと俺は木々が生い茂る地面に横たわっていた。

 

どこかを痛めたわけではなく、体を起こした一刀は、状況の把握につとめる。

 

確か空から落ちてきていたはず。

 

どうやって助かったのか皆目見当がつかない。

 

__まさか、そこに落ちてる動物の糞で助かったわけじゃないよな……

 

体を軽く動かしながら服装を確認してみたが、糞などはついていなかった。

 

「良かった……ん? あれ」

 

ふと、足元で何かが光を反射しているのに気づいた。

 

「これ、爺ちゃんの刀じゃ……」

 

一刀が身をかがめて足元に落ちている長細い物を拾う。

 

それはかつて見た祖父の愛刀であり、一刀にとって憧れの刀だった。

 

持ち上げていると、真剣の独特な重みが手に伝わる。

 

一刀は少し胸を高ぶらせながら柄に手をかけ、少し刀を引いてみた。

 

シュラっとした涼しげな音が耳を震わす。

 

朝日を反射して、キラキラと刃が煌いていた。

 

「刀だけか、無いよりはいいけど。

さて、どうするかな? あの声の様子からして何か面倒な事に巻き込まれたことは違いないんだけど……とりあえず人がいないかどうか確認を”キャァァァ!!!!”な……なんだ?!」

 

静寂を切り裂く嬌声に驚いた一刀は叫び声が聞こえた方へ走り出す。

 

鬱蒼とした森を駆ける一刀の視線の先、木々の間から僅かに女性が地に倒れ、何かに怯えていた。

 

その女性の先に何があるのかがここからでは見えない。

 

「いやぁぁ! 助け……」

 

ザシュ!

 

何か、肉が断たれたような生生しくイヤな音がした。

 

その音に不快さを感じながら、森を抜けた一刀の前に、一つの集落と血溜まりに沈む女性の前で下卑た笑みを浮かべている男が現れる。

 

「……なんだ……コレ?」

 

そこで繰り広げられていたのは、大量の殺人現場だった。

 

逃げ惑っている人々は古くてボロの服をきている、農民なのだろう。

 

それが物々しい剣や槍をもった連中達によって、どんどんと殺されていく。

 

血が宙へ飛び散り、涙が地へ落ちる。

 

無抵抗に逃げ惑う人達が口々に、”助けて”と叫び、自らの命を省みずせめてわが子だけは逃がそうと奔走している。

 

だが、怒号を上げながら追い詰める奴らは見下した笑いを浮かべ、その凶器を無慈悲に振り下ろしていった。

 

今度は親子が、抱き合いながら刺し殺される。

 

 

 

 

__あ?

 

 

 

 

光景だけみれば冗談みたい。

 

だけれども、目以外の感覚器官全てが、これは現実だと何度も知らせている。

 

嗅覚も聴覚も……全てが事実だ、現実だと告げていた。

 

火が放たれたのか家が燃えていく、火を放った奴が自分の服にまで引火したことに気づいて走り回り、消えないと見るや近くにいた子供を切りつけてその血で火を消そうとした。

 

だが、結局消せずにそいつは焼死した。

 

子供は激しい痙攣の後、まもなく動かなくなった。

 

そんな馬鹿げた光景を、誰も反応することなく、ただただ混乱している。

 

味覚に血の味が情報に追加された。

 

いつの間にか一刀は唇を噛み切っていた。

 

痛覚、というよりも触覚か。

 

感情が伴っていなかったので、映画のワンシーンのようだった。

 

鞘走りした祖父の日本刀、銘は無い。

 

かつて、この刀は人を斬ったことがあるのだろうか?

 

斬ったことがあるというのなら、それはさぞかし活躍したのだろうと思う。

 

そう思えるぐらい綺麗に、なお鮮やかに……一人の賊の頭と胴体は分離した。

 

それが北郷一刀にとって初めての殺人であり、クリアな思考からストンと抜け落ちた感情が不思議で仕方がない。

 

__正直、そこからはよく覚えてないんだ。

 

後から村人に一刀が聞いたのだが、一刀はすさまじいほどの速さで村中を駆け巡り、次々と向かってくる盗賊を屠っていったとのことだった。

 

そして……全てが終わった時。

 

つまり最後の二人の盗賊を切り倒した血溜りの上で、真赤な炎の光を背に浴びながら、片刃の剣をだらりと手にぶら下げた一刀は

 

 

 

ただ、悲しそうに泣いていたのだそうだ。

 

 

 

目に付く賊を全て殺した一刀は、その後糸が切れたように倒れたのを村人に救出され、村長の家に寝かせて貰っていた。

 

目が覚めた一刀を村人は大変に歓迎してくれた。

 

村を救ってくれた英雄だと。

 

とても何かを食べる気力が出ないので、一刀は水を一杯貰うとなんとか飲み干した。

 

「漢……王朝、ですか?」

 

顔色の悪い一刀が村長の言葉に、更に顔色を青くした。

 

「はぁ、さようですが……ご存じないので?」

 

漢王朝?

 

頭痛がする一刀は頭を手で押さえながら、考え込む。

 

“今は漢王朝です、ハイそうですか”などと言える程、北郷一刀の人生経験は豊かではない。

 

「あの、すいません。

それでは、ここはどの辺りになるんですか?」

 

「そうですのう……どこと言われると、最近難しくてのぅ。

 このあいだ、安慶の州牧様が、この辺りを見捨ててしまったようでしてな。

 今この村はどの地域に属しておるのか、わしらにはようわからんのですよ。

 大体の場所ですと、そうですなぁ……隣は陳留で、元は安慶の一村である洩唐村でした」

 

__陳留に……安慶だと……

 

きっと二日酔いというのはこういう感じなのだろうか。

 

焦げ臭い匂いが、人の言葉が、自分の思考が、頭痛に拍車をかけていく。

 

ガンガンとする頭で、一刀は辛うじて言葉を紡いでいく。

 

「ここは、中国?」

 

「ちゅうごく? なんですかな、それは?」

 

「あ! いや、なんでもないです。

 ところで昨日はなんだったんですか?

 見たところ盗賊か、野盗のようでしたが」

 

一刀がそれを聞くと、村人達が俯いて沈痛な面持ちになった。

 

「はぁ、先ほどもいいましたように、この辺りの州牧様がこの村を棄てているのですよ。

 それが盗賊達にも伝わったようでして……最近、頻繁に襲われているのです」

 

「……そうですか。

 要するに国の軍隊がこないのですね?」

 

恐らく、州牧はこの辺りを統治している役人のことだろうと一刀は当たりをつけて会話を進める。

 

「そうですじゃ、今この村は外から孤立しておる状態なのです」

 

鎮痛な面持ちで語られる雰囲気に、なんといっていいかわからない間がお互いに流れる。

 

重苦しい空気の中、まだ気分の悪い一刀はどうすればいいか迷うが、その重い空気を破ったのは、外から聞こえる元気な女の子の声だった。

 

「お~~~い! 皆! 大丈夫~~!?」

 

バタンっという音とともに、鮮やかなピンクの髪を大きく二つに結んだ、かわいらしい少女が小屋に飛び込んできた。

 

一刀は朦朧とする意識の中で、少女が手にもつ異物に驚く。

 

__鉄球? モーニングスター? いや、鎖だから……フレイル、か?

 

笑顔に満ちる少女は、そのあどけない顔にとても似合わない、巨大棘付き鉄球を、鎖で繋いだ武器を持っていた。

 

「おお! お前さん、無事じゃったか!」

 

村長の姿を確認した少女は、満面の笑顔で言葉を返す。

 

「うん! よかったぁ! なんか盗賊の一部が先に村に向かったって聞いて急いで戻ってきたんだ! ……あれ? その人、誰?」

 

少女は一刀に気づいたようで、指を顎にあて、頭を傾げながら質問した。

 

「おぉ。

 このお方は昨日村を襲った奴らを、退治してくれたのじゃ。

 わしらはこの方に救われたのじゃよ」

 

「え?! 兄ちゃんが? ……ありがとう!」

 

そう言って少女が満面の笑みを浮かべる。

 

その笑顔は太陽のように眩しくて、一刀の暗く沈む気持ちを照らしてくれる。

 

「昨日野党の本隊がこの村に向かって来ているっていうからさ、ボクと流琉で退治しにいったんだけど、一部の盗賊が回り道して村を襲ってきちゃったんだぁ」

 

「そうか……そりゃあ災難だったね。

 俺は、北郷一刀っていうんだ。

 君は?」

 

一刀は、この輝く笑顔の少女に興味を持った。

 

「僕? 僕はね許緒。

 性が許、名が緒、字が仲康だよ。

 真名が季衣っていうんだ」

 

__許、緒? ……まさか、あの?

 

「えっと、許緒ちゃん?」

 

恐る恐る名を呼ぶ一刀に、季衣は鉄球を床に落として一刀の膝に乗り上げる。

 

軽い身体から、日向のいい匂いがする。

 

暖かさの塊のような少女だ。

 

「季衣でいいよ! 兄ちゃんいい人そうだし、皆を助けてくれたし」

 

季衣の明るい声に一刀も気分が良くなるが、真名という言葉の意味がわからない。

 

「ん……と。

その性や名、字はなんとなくわかるんだけど、真名ってなんだい?」

 

「えぇ?! 兄ちゃん真名知らないの?

 う~~ん真名っていうのはねえ。

 本当の自分の名前って意味で、心を許した人以外の人が呼んじゃいけない名前なんだよ?

 勝手に呼んだりするとすっごい侮辱なんだってー、殺されちゃっても文句が言えないんだってさ」

 

それは随分優しくない制度だと一刀は思う。

 

「へぇ……じゃあ大事な名前なんだよね?

 いいのかい? 俺なんかに教えても?」

 

「うん! いいよ。

兄ちゃんいい人そうだもん。

これでも勘は良いほうなんだ」

 

季衣は一刀の膝上で笑顔にぴょこぴょこと喋ってかわいらしい。

 

「そっか、ありがとなぁ季衣。

 ……季衣は強いんだね」

 

「うん! 僕は村で一番……強いからね!」

 

今の発言にちょっとだけ間があったが、とりあえずスルーしておくことにする。

 

すると、また外から一人の女の子が慌てて入ってきた。

 

「季衣! もう、そんなに急いでいかないでよ!」

 

「えへへ~、ごめーん! 皆のことが心配でさ!」

 

「それは私もそうだけどぅ……季衣、この人は?」

 

光に反射しそうなほどに明緑の髪を短く揃え、頭の前を大き目のリボンで結んでいる少女と目が合う。

 

この子も、手に何十キロもありそうな巨大円盤をもっていた。

 

人間より大きいネコを、トラではなくネコと呼べるほど度量の大きい方なら、もしかしたら、この巨大円盤をヨーヨーと呼ぶのかもしれない。

 

ずううぅぅん、という重く鈍い音とともに地に下ろされる武器。

 

二人ともどれだけ凄まじいまでの怪力なのだろうか?

 

「流琉、この兄ちゃんが昨日村を守ってくれたんだって」

 

「え?! そうなの? あの……私は」

 

緑髪の女の子が身なりを整えて自己紹介をしようとしたところ、いつの間にか膝上で寝転がっている季衣が代弁する。

 

「典韋っていうんだ、真名は流琉!」

 

「ちょっと季衣!!?」

 

いきなり真名まで呼ばれた典韋ちゃんこと、流琉は慌てて季衣を叱りだす。

 

「いいじゃん別に~、だって村を守ってくれたんだよ? それにいい人そうじゃん」

 

「そうかもしれないけど!」

 

言い争いが始まった二人を見ながら、一刀は思考が停止したかのように固まっていた、あまりに情報が混迷過ぎる。

 

__典韋? あの”悪来”典韋? この子が?

 

そして許緒?

 

女の子?

 

外史……人の想念が……新しい世界……

 

…鏡に行けば解る……パラレル・ワールドみたいな……銅鏡の光……光に飲み込まれる世界……

 

そして、漢王朝……陳留……

 

これだけの情報がそろえば、一つの仮説が成り立ってきた。

 

正直嘘だと思いたい。

 

あの野太い声は言っていた、“直ぐにわかる”と。

 

ドッキリならばはやくバラして欲しい気分だ。

 

そんなふざけたことを考えている脳が半分。

 

でも、もう半分が昨日の人を斬った感触は、現実だと伝えてくる。

 

__ここは、三国志を基にした世界だ……

 

しばらくそんな思考がグルグル回って頭が停止していた一刀だが、頭を思いっきり振り回して思考を振り払った。

 

そんな一刀を見て周りが不思議な目をして空気が止まっているが気にしない。

 

__もう……疑うのはやめよう。

 

現実なのだ、コレは。

 

だからこそ、受け入れてこそ、最善策がとれるのだ。

 

「皆さん、俺は北郷一刀といいます」

 

 

その北郷一刀の笑顔を交えた自己紹介に、季衣と流琉と村人達は心が軽くなったような気がした。

 

 

互いに自己紹介を終えた後、一刀は流琉からも真名の許可をもらい、荒れた村を散策にでた。

 

__酷いものだった。

 

村人も盗賊も、皆等しく、死んでいる。

 

盗賊の中で、綺麗に切断された死体をみると、これは自分がやったんだなということがわかってしまい、背筋に冷たいものが走った。

 

胃の中がせりあがる感覚を、グッとこらえる。

 

だが、一刀の顔色が恐らく余程酷かったのだろう。

 

隣に一緒についてきてくれた季衣と流琉が、ぎゅっと手を握ってくれた。

 

2人の手から温かさが伝わり、その優しさが嬉しい。

 

この、まだ死臭が蔓延する中で、それだけでも救われる気がした。

 

「……行こう、兄ちゃん」

 

季衣が困ったような悲しいような顔で、一刀に話しかけてくる。

 

__こんな顔をさせている自分が情けなくて仕方がない。

 

「そうだな。

 でも……せめて……」

 

一刀は2人の手を離して合掌する。

 

せめて成仏してほしいと思った。

 

それが例え殺した人であっても……それは傲慢なのか? それはわからない。

 

でも、一刀が手の平に込めた想いだけは、確かに本物だった。

 

 

 

しばらく黙祷をした後、2人をつれて部屋に戻る。

 

それから一刀は村の復興を手伝った。

 

死体を片付け、怪我人の手当てをしていく。

 

気分の晴れない一刀は、ふと気づいたことを聞いてみた。

 

「これから、皆さんどうするんですか?」

 

「……どうすれば良いのかのう……州牧様は取り合って貰えぬし、まだ盗賊は残っておるし……村を棄てるしかないのかのぅ……」

 

村長の言葉に話を聞いていた村人達が反対をするが、皆具体的な案があるわけじゃない。

 

「盗賊の人数はわかりますか?」

 

「昨日の襲撃で、北郷殿とあの子たちの活躍で大分数を減らしましたので……増えていなければ80人程でしょうか」

 

__80人か。

 

数だけならば村人と大差はない。

 

だが、向こうは若い男達で構成されており、こちらの半分以上は老人と子供と女が占めている。

 

そして何より村人達は精神的に疲弊していた。

 

逆に昨日の襲撃を下手に退けたことで、相手は怒り心頭だろう。

 

次は全開でくるとみて間違いない。

 

実際、季衣と流琉の実力ならば80人程度なら楽に倒してしまいそうな感じはするのだが、昨日のように敵に分散されると、対処のしようがなくなってしまうのだろう。

 

__俺は人を殺したいわけじゃない。

 

だが、季衣、流琉、お世話になった村人達は助けたい。

 

相手の盗賊にも言い分があるのはわかる。

 

この頃の漢王朝はまさに疲弊した国の末期で、おそらく盗賊になる前は食い潰れた、ただの農民達なのだろう。

 

だが、それでも……見なかったことにしてここを去る気にはなれなかった。

 

ただのエゴだとしても、偽善だって構わない。

 

 

__俺が俺でいたい。

 

 

 

 

そう決心した一刀の行動はまさに迅速だった。

 

とりあえず、片づけをしている村民達を集め、村の修復作業をやめさせる。

 

そして動ける人達に各々武器を持つように伝えた。

 

「お……おいら達が戦うんですかい?」

 

「そうだ、ここで皆が立ち上がらずに戦わなければ、盗賊に舐められっぱなしになるんだ。

 それじゃ何もかわらない。

 だから皆で戦うんだ」

 

「でも、こっちは動けるのは、これしかいないだよ?」

 

一刀が辺りを見渡すと、動けるのはわずか30人に満たない人数だった。

 

装備だって、昨日の盗賊の持っていたボロボロの武器や、使い古した農具といったところ。

 

ここで心を折らすわけにはいかないと一刀は声はできる限りの声を張る。

 

「大丈夫だ! 必ず……退治してみせます!

 ただ、この村がこれからも襲われないようにするには、皆の力が必要なんです。

 昨日きたばかりの俺なんかを、信じろというのが難しいのはわかります。

 だけれど信じて欲しいんです! 俺は……もう昨日みたいなのを二度と見たくないんだ」

 

しん……と村民達が押し黙った。

 

それは当然だ、いきなり外からきた人間を信じろなんていわれても困るだろう。

 

__だが、この村を守るのに他に手はないんだ。

 

俺や季衣や流琉が殴り倒して解決って方法だけじゃ駄目なんだ。

 

それじゃあ根本的な解決にならない。

 

この村は皆が戦う”意思”がある、そう相手に知らしめなければならない。

 

村人達はまだ黙っている。

 

誰もが声をあげない中、助け舟は小さな少女達から出された。

 

「……戦いましょう、私達の村は私達が守るんです」

 

小さく、だけど力強く流琉が呟く。

 

「そうだよ! 皆! 官軍なんて僕らのことを守ってなんかくれないんだ!

 僕達の村は僕達で守ろうよ!」

 

必死な季衣が皆を大声で励ます。

 

すると2人に力を与えられたかのように一人、また一人と村民が声を上げていく。

 

「そう…だ。

そうだな! ここはオラ達の村だ! オラ達で守るんだ! そうだろ皆の衆!」

 

場の士気が少しずつ上昇していく。

 

その光景を見ていた一刀は、感激に心を奮わせながら季衣と流琉の頭に手を置いた。

 

「……兄ちゃん?」

 

「……兄様?」

 

不思議そうな2人は頭を挙げるが、一刀は優しく撫でる。

 

初めは嫌がられるかもと思ったが、2人とも嬉しそうに微笑んでくれた。

 

 

__やってやるさ。

 

そう心に決めた一刀だった。

 

 

 

それからの一刀達の動きはなんとも鮮やかだったというべきものだろう。

 

周辺の地理に詳しい人たちに、盗賊の居場所を突き止めさせ、正確な人数を把握する。

 

予想通り80人ほどという報告を受け、現在賊達は昼から酒を飲んでいるとの報告を受けた。

 

昨日、なんだかんだやられたので奪った酒で自棄酒でも飲んでいるのだろう。

 

大声で騒ぎ立てる連中の声はまだ距離があってもよく聞こえてくる。

 

「今度あの村を燃やし尽くしてやる!」

 

調子に乗ってふざけたことをぬかす輩。

 

「血祭りだ血祭り! 皆ぶっ殺してやるぜ!」

 

自分達の力を過信している男。

 

「なんか小さなかわいい女の子が何人かいたな~グフ。

 そいつらはオデが貰っていい?」

 

身の毛がよだつ声は、本当に気持ちが悪かった。

 

一緒に聞いていた季衣は、皆は僕が守ると憤慨している。

 

どうやら自分達が言われていることに、気がついていないらしい。

 

流琉はというと少し涙目で一刀を見上げていた。

 

「兄様~……」

 

ちょっとだけ凹んだ流琉の頭を、優しくなでてあげる。

 

「大丈夫だよ。

俺がそんなことはさせない」

 

一刀の言葉に安心したのか流琉は顔をあげて、はい!ってかわいく笑い返す。

 

__この子がアノ悪来なんて言われたら俺は泣くぞ?

 

一刀達の作戦自体は、とてもシンプルなものだった。

 

相手の逃走経路はすでに判明している。

 

そこに村民を5人組ずつ分けて配置しておき、村民には無理に前を塞ぐ必要はないと伝えた。

 

つまり、ただ相手が逃げるのを追いかけて、後ろからただ斬りつけていけばいいとだけ伝えておいたのだ。

 

そして、深夜の寝静まった頃に作戦を決行する。

 

一刀と、季衣と流琉の三人が酒で酔った盗賊達のアジトに殴り込みをかける。

 

静かに近づいた一刀は、ぐっすりと眠っている髭を濃く生やした男の胸に刀を突き刺す。

 

ザク……

 

指したところから血が溢れ出し、これで賊の一人が死んだ。

 

その死に逝く男が最後にあげた悲鳴で、辺りの賊が一刀達に気づきだす。

 

一刀は辺りを混乱させるように、事前に捕まえて袋に入れておいた蛙や蛇を辺りにばら撒いた。

 

寝ぼけた頭で突如蛇が頭に乗った賊達は、面白いように慌てふためき始めた。

 

「な? なんだぁ!?」

 

状況を見失って慌てている賊を、一刀はあっさりと切りつけて殺す。

 

だが、一刀は以前のように自分を見失うことは無かった、むしろ至極冷静といっていい状態だ。

 

相変わらず体を襲う不快感は強いが、この間よりずっとマシだった。

 

__これなら、いける!

 

 

起きだして騒ぎ立てる賊を、一刀が丁度24人目を切り倒した頃だった。

 

ようやく一刀や流琉達の強さに気づいたのか、相手に後退ムードが漂ってくる。

 

既に賊の数は半分を軽く割っていた。

 

__これで後は一押しすれば、崩れるな。

 

一刀は辺りをよく見渡して、最後の一押しとなる要素を探す。

 

そして一刀は退路の出入り口の方に、何人かを付き従えている大男を見つけた。

 

__恐らくあれが頭領か。

 

そうして当たりをつけると一刀は、一直線に大男にむかって駆けた。

 

「オイ、てめえら! しっかりしやがれ! 相手はただの餓鬼どもじゃねえか!」

 

「親分! なんかこっちに向かってきやすぜ!」

 

「なにぃ?」

 

残り後5メートルで、一刀と親分と呼ばれた男の視線が交錯する。

 

「おうおうおう! なんじゃこの餓鬼ゃぁ!!!

 俺様の大斧に引き裂かれたくなけ?!! ・・・・ありぃ?」

 

その大男の言葉は最後まで続かない。

 

数歩で間合いを詰めきった一刀は、相手の口上なんぞは無視して相手の首を一突きにしていたのだ。

 

「でめぇ……びきょ…う!!」

 

空気が上手く声帯に伝わらないのか聞き苦しい声をあげる男を、一刀は突き刺した刀を引き抜き、その勢いで首半分を綺麗に切断した。

 

頚動脈もばっさり切ったので、勢いよく吹きでた鮮血が周りにいた部下達に雨のように降りかかる。

 

脆弱な心を折るのには、充分だ。

 

「頭~~~!!!」

 

「う、うおわああ!! 逃げろ!!!」

 

「ヒィィィィイイイイ!!」

 

場から1人逃げ出せば、後は至極簡単。

 

もう既に盗賊の統率を取るものは存在しない、恐怖に掻き立てるように盗賊団は潰走を始めた。

 

「……ふう」

 

一刀は一息ついて、大地に横たわっている親分と言われた大男の亡骸を一瞥する。

 

逞しい顔の中に、これでもかと目を見開きながら絶命していた。

 

一刀は敵が敗走して、いなくなったのを確認すると、そっと手を添えて見開いた目を閉じさせる。

 

「兄ちゃん!」

 

「兄様!」

 

声のしたほうを振り向くと、季衣と流琉が二人で走り寄ってきた。

 

「二人とも無事だったか?」

 

「うん! 兄ちゃんって凄い強いんだね! ボクびっくりしちゃった!」

 

「そんなことないよ、二人のほうこそ凄かったじゃないか。」

 

二人の頭に手を置いて撫でた。

 

勿論、血で濡れた手は拭いてある。

 

「あの……兄様? 逃げた奴らはどうしましょう?」

 

「そうだね、後は村の皆だけでも大丈夫だと思うけど、俺達も追いかけようか?」

 

一刀は笑って二人に言う。

 

すると二人はかわいらしく笑ってくれて。

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 

彼女たちの笑顔を見ている、ただそれだけでも救われる気がするのだった。

 

 

 

一刀達は逃げた盗賊団を追ってみると、村人達が皆で盗賊団を追い立てていた。

 

まともに戦えば賊達もある程度抵抗ができるはずなのに、既に盗賊達は混乱に頭が支配されている。

 

隙だらけな大振りで村人に斬りつけられても、逃げるだけで反撃はほとんど無かった。

 

5人1組にしていたので、盗賊団が後退するにつれて段々と村民が増えていく。

 

これは盗賊側からしたら恐怖以外の何者でもないだろう。

 

自分達を殺しにやってくる者が、逃げれば逃げるほど増えていくのだ。

 

こうして連中の心を砕いていく。

 

この村は手をだすと不味いと認識させる。

 

恐怖を与えねば、いくらでも奴らは戻ってくるからだ。

 

だから一刀達も徹底的にやった。

 

数人をわざと逃がし、残りは皆……殺してしまった。

 

村民の顔は疲れていたが、表情は明るい。

 

自分達で村を守ったという自負に溢れている。

 

恐らく時間が経てば、人を殺したという自責の念に駆られるだろうが、せめて今だけは……

 

 

__勝利を噛み締めていたかった。

 

 

 

どうもamagasaです。

 

今回、季衣と流琉と出会っての盗賊退治ですが、楽しんでもらえましたでしょうか?

 

途中に出てきた地名は適当です(陳留以外)、ちゃんと調べたほうがよいのでしょうが資料も手元にあるわけではないので、それっぽい地名を勝手につけてしまいました。

知識人の方ゴメンナサイ。

 

 

 

 

そして2つ……いえ、注意を入れて3つほどいいたいことがあります。

 

 

1・支援ありがとうございました!

まだよくTINAMI様の機能はわからないのですが、支援様が40人も超えることなど完全に想定外でした。(朝、起きて喜びで吹きました。今回期待外れになっていないかと心配しています)

 

2・コメントに関してです。

すいません、返事の仕方がわかりませんでした。

どなたか正しいやり方を教えていただけると嬉しいです。

それで今回はこの場を借りて0話の返事とさせていただきます。(現時点迄)

 

ルーデルさん 初コメントありがとうございます。

       フルスイングは一本ではないとのご指摘、完全にこちらの勉強不足です。

       正直自分、格闘経験者でもマニアでもないズブのド素人ですので、

       「面、胴、小手に強く当てたら一本じゃないか? 弱ければ技有りみたいな感じで」程度の認識でした。

       こういう素人考えは説得力にも影響すると思うので、これからもご指摘頂ければ幸いです。

 

st205gt4さん  誤字報告、確認しました。

        ですが、修正の仕方がわかりませんので、わかり次第直させてもらいます。

        基本魏は全員好きです、(無印ですと若干桂花に抵抗があったのですが、

        真で華開いた感じがしています。 今ではあのけなしもイイ!って言えます)

        基本、知的なお姉さんがちょっとデレた時が大好きなんです。姉御肌も同じ。

        むしろ妹キャラは他作品ではあまり興味がないんです。

        妹萌えができないんです!(リアルの関係で)

        だからこの2人が特に例外であって、だから書いてもいるのですが……

        風さん人気ですよね、自分……”終わらぬループ”……大好物です。

 

マルさん 竹刀を落としたら反則一回で試合続行というのは知りませんでした。

     ですが、ここはあまり細かい描写をしていないのでわかりにくいかと思いますが、一刀が不思議な動きをして、相手が戦意喪失したと考えていただければ嬉しいです。

 

nanashiの人さん ありがとうございます!筆が遅いのでそんなに頻繁に更新はできませんがいけるところまで頑張りたいです。

 

キラ・リョウさん スイマセン……深い意味もなく空から落としてしまって……

         ただオチに使えるかなぁと思っただけなんです、スイマセン。

 

jackryさん お待たせしました! 楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

以上を持ってコメントの返信とさせていただきます、ありがとうございました。

 

 

3つめは次の話についてなのですが……本日中に投稿します。

短いと思います。

理由としましては、応援メールが2件来ていますと表示されているんです……

 

見習いなので読めないんです!!!(涙)

 

開けようとしたら、使えないよ~、と言われまして……

 

3話分投稿したら見習い卒業とのことですので、かなり無理して書いてます。

 

本来なら2話も第1話に入れる感じでよかったんじゃないか? とも考えています。

 

 

 

以上です。

 

前作では蓮華・思春ペアが好きでした。

 

 

 

 

 

 

一言

 

高校生クイズ……凄いですよね? 答え聞いてもわかりませんもの。

 


 
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