No.93259

1年0組

春風さん

勉強以外にも大切なものは、あるんです。

2009-09-03 21:22:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:425   閲覧ユーザー数:414

 

 

日常に色栄えがなかった。

いつも同じ日々。

朝、目覚ましと共に目を覚まし、親の作った朝食を食べる。

昨日準備を終わらせた鞄を背負い、家を出る。

同じ時間に教室に入る。

誰かと会話を交わす事などない。

挨拶すらもない。

 

ただ自分の席で教科書とノートを広げる。

机に広まる本を睨みながら、問題を解いていく。

 

自分だけじゃない。

クラスメイトは全員だ。

 

それが、この教室では当たり前だった。

 

 

 

 

1年0組。

本来は9組だが、あまりにこの学校では異質なため、このクラスは0組と呼ばれていた。

…その、異質という理由で誰もこの教室に入りたがるヤツはいなかった。

教師ですら、だ。

このクラスは誰もが勉強にしか興味がない。

友情とか、恋愛とか、この歳の人間が持つべきであろう感情は何もない。

 

 

ただひたすら勉強をし続けた。

 

 

だからクラスの中には、クラスメイトの名前すら知らないヤツなんて沢山いる。

現に俺だって、半分の名前を言える自信がないからだ。

 

 

 

 

そんな時、やつが来た。

俺らのそんな色栄えのない日常を変える存在。

 

 

 

「はじめまして!今日越してきたんだぜ!!」

 

 

 

山田花丸。

それが、そいつの名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

今日も、俺はいつものように机で自学していた。

あいつが転入してくる前までは一番に登校していた俺だったが、今では二番目だ。

教室に入ると、そいつは呑気に花瓶の花の水を入れ替えていた。

…ちなみにその花瓶と花を学校に持ってきたのもヤツだ。

 

「お、やっほー!」

「…」

 

挨拶をされたがそいつを無視した。

俺の隣の席が訳有りで空いていた所、そいつの席が俺の隣となってしまって以来、そいつは無駄に俺に話しかけてくる。

ただ、こいつと会話をした事は一度もない。

挨拶だって交わされても今のように無視する。

 

こういう煩いやつは嫌いだ。

 

「おーい、おはよー!!」

「……」

 

気にする事なく、机に教科書とノートを広げる。

すると花瓶を置いてあった場所に戻し、自分の席に座った。

…鞄から何か本の形の物を取り出したから、珍しく勉強するのかと思って、一度だけ目を向けた。

 

「じゃーん!ジャ○プー!」

「……」

 

そんな事を思った俺が馬鹿だった。

漫画雑誌を広げて読み始めた。

 

ちなみに俺は、こいつが転入してからの三ヶ月でこいつが勉強をしている姿を一度も見ていない。

……授業中であってもだ。

ありえない。

こいつは何しに学校来てるんだ?

 

「読む読む?これ面白いんだぜ!多分今一番流行ってるね!!」

「…………」

 

俺はそいつをもちろん無視する。

いつもそうだ。

変に話しかけられて、無視する。

どうしてこいつは気付かないんだ。

何度話しかけても無視され続けてるって事に。

 

「ほら、あとこの漫画も俺一押しだぜ!」

 

返事もしないヤツに話しかけて何が楽しいんだ?

何で無視されてヘラヘラしてられるんだ。

まるで木と喋ってるのと変わらないじゃないか。

 

ああ、いい加減ウザいな。

でかい声が鼓膜を破りそうな勢いだ。

 

お願いだからもう構わないでくれよ。

 

「…ッいい加減に黙れよ!!!!」

 

気付くと俺は声を荒げて椅子を倒していた。

目の前にはキョトンと目を見開いたこの男。

俺の持っていたシャーペンは二つに折れてしまっていた。

 

「…あ」

「邪魔なんだよッ勉強の!何でいつもいつも俺にばかり話かけてくるんだよ!!無視されてるだろ?!気付けよ誰もお前の相手してる暇なんかねえんだよ!!!」

 

一回開いた口は、容易く閉じてはくれないようだ。

今まで胸にしまっていた言葉がボロボロと零れてきた。

 

「お前みたいに勉強してないヤツと違って俺には未来があるんだ、勉強が一瞬一秒でも大切なんだよ!!!!!」

 

辺りの視線が痛い。

突き刺さりそうな視線だ。

それに気付いた俺の口は、ようやく閉じてくれた。

 

俺は、何事もなかったように席についた。

目の前にいた俺の隣の席の男は、静かに漫画に目を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分楽しそうに話してたわね。さっき」

「………」

 

放課後。

クラスはほとんど蛻の殻だった。

誰かが自分に話しかけてくるなんて珍しかった。

赤い縁の眼鏡をつけたその女は、一応このクラスの委員長でもある。

その後ろに立ってるツインテールの女と図体のでかい男。

クラスメイトである。

名前は、…忘れた。

 

「別に。どこが楽しそうなんだよ」

「……まぁ、あんたが誰と喋ろうが何を喋ろうが勝手だけど、ああも大声出されると勉強の邪魔だから今後はやめて頂戴ね」

「二度と喋らねえよ、あんなヤツと」

「そう。それなら良いの」

 

久し振りにクラスメイトと喋った。

何だよ、このイライラは。

 

「……行くわよ」

 

委員長が言うと、後ろの二人も教室を出て行った。

 

残された俺は、あの男が持ってきた花を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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