「ふぅ~……このマスク野郎め、やっとくたばりやがったか」
「ガゥ、ラ……ッ……!!」
列車の走る線路から大きく外れた森林内部。追いかけてきたモノアイの男―――エイブラハムをやっとの思いで撃破した蒼崎は、戦闘不能に陥ってなお奇妙な言語を発するエイブラハムのモノアイを右足で踏みつけていた。その周囲にはエイブラハムの破壊された義手が転がっており、蒼崎に踏みつけられているモノアイも、蒼崎が踏みつける力を強めていくたびに少しずつ罅割れていく。
「テメェはもう負けたんだ、大人しく死んどけ」
「アグ……」
グシャリという鈍い音と共に、エイブラハムのモノアイから赤い光が消え、エイブラハムはそのままピクリとも動かなくなった。蒼崎はエイブラハムの死亡を確認した後、ふぅと小さく溜め息をついてから列車の走って行った方角に振り返る。
「他の皆は無事かなぁ……まぁたぶん大丈夫でしょ。俺もさっさと向かうとしま……あれ、ロキさん!?」
列車の走って行った方角へと駆けていく蒼崎だったが、その道中にて、全身に毒が回った影響でフラフラな状態のロキを発見する。彼は今にも倒れそうだ。
「ロキさん、どうしたのさ!? そんなボロボロな状態で!!」
「お、ぉう、蒼崎か……げ、解毒剤をくれ……全身に、毒が回って、マジでくたば、りそ、う……ゴフッ」
「ちょ、ロキさぁぁぁぁぁぁぁん!? ヤベぇ、早く治療しないと―――」
猛毒で遂に倒れ伏したロキを治療するべく、蒼崎は急いで彼の下へと駆け寄って行く蒼崎だったが、その時…
-ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!-
「!?」
巨大な爆発音が、蒼崎達の所まで響き渡って来た。
その数分前…
「…何だ、随分と呆気ないものだな」
ククリナイフに付着した赤い血を舌で舐め取りながら、マウザーはつまらなさそうな口調で呟く。そんな彼が見据えている先には…
「……が、ぁ…ッ…!!」
「ゲホ、ゴホ……ッ……!!」
マウザーの左手に首を絞められたまま持ち上げられている青竜と、床に突っ伏しているFalSig、そして木箱の山に倒れ込んだまま動かないmiriの3人だった。miriだけでなく、2人がかりで挑みかかった青竜とFalSigも全身ボロボロの状態であり、マウザーはフンと鼻を鳴らしてから青竜の首を絞める力を強めていく。
(ッ……くそ、どうなっている…!? この男、報告で聞いていた以上の戦闘力だぞ…!!)
「どうした? 旅団の一員ともあろう者共が、この程度の実力ではあるまい?」
「ッ……あぁあっ!!!」
「おっと」
首絞められながらも繰り出された青竜の回し蹴りは、マウザーのククリナイフで防御される。しかしその拍子にマウザーの左手から抜け出す事に成功し、青竜はマウザーを警戒しながらも息を整えようとする。しかし…
「はぁ、はぁ、げほ、ご……ッ!? か、は…ッ!!」
「おや、苦しそうじゃないか。大丈夫かな?」
息を整えたいのに、何故か上手く呼吸が出来ない青竜は、苦しそうに喉元を押さえながらその場に膝を突く。そんな彼女の様子をマウザーは下卑た笑みを浮かべながら見下ろし、彼女の頭部目掛けてククリナイフを振り下ろそうとするが…
「…! ほぉ、糸か」
「ッ……!!」
FalSigがマウザーの全身に糸を巻きつけた事で、動きを封じられたマウザーのククリナイフは青竜の頭に命中する寸前でピタリと止まる。しかし今にも窒息しそうなFalSigによる拘束は、未だピンピンしているマウザーの動きを抑え切る事は出来なかったのか、マウザーは瞬時に転移してFalSigの目の前まで迫る。
「少し眠っていたまえ」
「ごは!?」
マウザーに蹴り飛ばされたFalSigがmiriの隣まで吹っ飛ぶ中、その隙に青竜が繰り出した火炎魔法がマウザー目掛けて飛来する。しかしマウザーに命中する直前で、火炎魔法が突如としてフッと消滅してしまう。
「…ッ!?」
「何故炎が消えたのか、不思議そうな顔をしているな」
「がっ!?」
再び転移したマウザーが、ククリナイフで青竜の右足を斬りつける。右足を斬りつけられた拍子に倒れた青竜の腹部をマウザーが右足で強く踏みつけ、今度こそククリナイフを振り下ろそうとするが、その直後に今度は青竜が右手を置いた床から巨大な氷の刃が次々と発生し、即座にマウザーが回避すると共に青竜は再び呼吸を行う事が可能になる。
「がは、ごほ……ッ……!!」
「既に意識が朦朧としているじゃないか。大人しく捕まれば楽になるのではないかね?」
「ハァ、ハァッ……管理局に捕まるくらいならば、死んだ方が遥かにマシですわ…!!」
「そうか、それは残念」
「くっ……あ、がぁ…ッ!?」
マウザーが人差し指をクイッと動かした途端、青竜は再び呼吸が出来なくなり、その場で苦しそうな表情でのた打ち回る。その様子を嘲笑うマウザーだったが…
「…ッ!?」
突如、マウザーの余裕そうな表情が一変。表情から笑みが消えた彼は周囲をキョロキョロ見渡すと、即座にその場から逃げるように撤退し始めた。
「チッ、何だこの気配は…!!」
「ッ……ぷはぁ!? かは、こほ…!!」
マウザーの撤退と同時に、再び呼吸が出来るようになった青竜の下へ、miriを担いだFalSigが駆け寄る。
「はぁ、はぁ……青竜さん、立てますか? ここは今すぐ引きましょう…!!」
「? どういう事ですの…? あの男、何故私達を置いて…」
「自分にも分かりません、けど……ここにいたら、俺等もヤバいっす!!」
う る せ ぇ ん だ よ テ メ ェ 等
-ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!-
一瞬だった。謎の巨大な衝撃波と共に、列車は線路や地面ごと纏めて吹き飛ばされた。轟音と共に森林の奥深くへと吹き飛ばされた列車は、衝撃波に刺激されたレリックによる大爆発で跡形も無く消し飛んでいき、その様子を空中に転移したマウザーが眺めていた。
「おのれ…! 誰の仕業か知らんが、貴重なレリックを…」
「残念だったなぁ、マウザーさんよ」
「!?」
その直後、宙に浮いていたマウザーの真下から複数の糸が伸び、マウザーの全身を拘束する。見下ろした先で糸を伸ばしているFalSigの姿を見て、マウザーは忌々しそうな表情に変化する。
「その手にはそろそろ飽きて来たよ」
「じゃあ、
「!?」
「「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」
そんなマウザーの真後ろから、蒼崎に後ろから支えられた状態のロキがフラガラッハを構えて突撃して来た。その事に気付いたマウザーは、全身が糸に拘束されているせいですぐに対応できなかった。
「ッ……忌々しい!!」
マウザーは即座に転移し、ロキと蒼崎の背後を取るようにククリナイフを振り下ろす。しかし振り下ろされたククリナイフは空振りに終わり、更にマウザーの頭上に移動したロキがフラガラッハを突き立てるも、身体を反らしたマウザーのマントを少しだけ破るだけに留まった。
「チッ惜しい……蒼崎、ちゃんと支えてくれよ!! 俺もう力が入らないんだからな!!」
「いや無茶言わんといて下さいよ!? アンタの動きが速過ぎて付いて行くのがやっとですって!!」
「ふん、小賢しい奴等め…!!」
「「うぐ…ッ!?」」
マウザーが指を動かした途端、ロキと蒼崎も同じように呼吸困難に陥り始める。しかしその直後、マウザーを含めた3人の落下速度が急に速くなり始めた。
「ぬ、これは…!!」
「グラビガ、さっさと落としなさい…!!」
地上で青竜が発動した重力魔法で、3人の落下速度が急速に速まったのだ。落下速度が上がると共にフラガラッハがマウザーの眼前まで一気に迫り来るも、マウザーは頭部を横にズラす事でフラガラッハの突きを回避し、即座に転移して重力魔法の範囲内から脱出。しかし呼吸困難に陥りながらも、ロキと蒼崎は地面に着地すると同時に素早く駆け出し、少し離れた位置に転移したマウザーを狙う。
「無駄だ、貴様等は私に攻撃を当てられんよ…!」
「ならばこれはどうですの!!」
「む…!?」
「「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」
青竜が繰り出す風魔法で、ロキと蒼崎の走るスピードが急激に上昇。突然のスピードアップにロキと蒼崎も一緒に驚いたが、それでも攻撃の手は緩めず、マウザー目掛けてフラガラッハを突き立てる……が、マウザーが指を動かした途端、二人の走る速度が急激に低下し、フラガラッハの剣先はギリギリのところで止まってしまう。
「ぐっ…!!」
「ふん、残念だったな…」
「テメェがな、マウザーッ!!!」
「!? オブライエ―――」
その時だ。いつの間にかロキと蒼崎の真後ろに隠れていたmiriが、自身の構えた忍者刀をロキと蒼崎が支えるフラガラッハの柄部分に突き立てた。それによりフラガラッハの突きの速度が格段に上がり、miriの復活を予測していなかったマウザーの左肩を勢い良く貫いてみせたのだ。
「一矢報いてやったぜ…!!」
「ッ……貴様ァ…!!」
予想外の攻撃を受けたマウザーは忌々しげな表情を浮かべ、即座に転移してロキ達から大きく距離を取る。貫かれた左肩から血を流しつつ、マウザーはロキ達をギロリと睨みつけた後、小さく笑い始める。
「……ク、ククククク……良いだろう、それなりの余興にはなった。今回はこの場で引くとしよう」
「ッ……待ちやがれマウザー!! テメェだけはこの場でぶっ殺して……ッ!!」
「どの道、貴様も満身創痍だろう? いずれ決着はつける……その時まで楽しみにしていよう」
「ッ……おい待て、待てって言ってんだろぉが!!」
「miriさん、そんな身体では無茶ですわ!! 管理局の正規部隊も向かって来てます、ここは引くしか…!!」
「知るか!! おい、離せ!! 奴だけは、奴だけは俺の手でぇ!!」
「うわ、ちょ、どんだけ力強いんすかmiriさん!? 蒼崎さん、ごめんちょっと手伝って!!」
「いや無茶言うなよ!? お前等どんだけ俺を扱き使う気だよ!?」
「げふっ!? ちょ、蒼崎お前、いきなり俺を投げ捨てるんじゃねぇよ…!!」
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! 待ちやがれマウザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
意地でも逃げたマウザーの後を追おうとするmiriを、青竜やFalSig達が必死に押さえつける。それでも頭に血が上り切っているmiriは怒りが収まらず、ひたすらにマウザーの名を叫び続けるのだった。
「あぁ全く、ここじゃうるさくて睡眠も取れやしないなぁ……ここじゃなくて別の場所で眠るとするかね…」
そして、列車を丸ごと吹き飛ばした張本人はと言うと、miriの怒りの叫びを聞いて不満そうな表情を浮かべ、その場から森林のより奥深くへと立ち去って行く。
時空管理局地上本部、特務虚数課本部…
「チッ! やってくれたな、オブライエンの奴め…」
左肩から血を流しつつも、無事に帰還したマウザーは不機嫌そうに舌打ちし、マントを脱ぎ捨てて左肩の傷の治療専念していた。そんな彼の前に、ある人物が姿を現す。
「おやおや。旅団の実力を測りに行っただけとはいえ、手痛くやられたようだね。マウザー」
「…貴様が言えた義理では無いだろう。あの程度の連中を相手に、無様に敗北した分際で」
「おっと、それについては悪かったよ。正体を隠す為とはいえ、
「貴様の力なら、その場に立っているだけでも奴等を殲滅できるだろう……ミスラ」
マウザーの前に現れた人物―――
「こらこら、今のボクは
―――青竜に焼き殺されたはずのラミスは、不気味な笑顔でマウザーを見据えていた。義足だったはずの両足は生身の足になっており、身に纏う黒服の腰には鎖と十字架のアクセサリーを、首元には山羊の角を模したネックレスを着けている。
「ふん……いずれはミッドチルダをも喰らおうという化け物が、今更人間らしい態度を見せるな。気色悪い」
「酷いなぁ、ボクだって正体を隠すのに必死なんだよ。あの女に負けた時だって、ボクの身体の事を気付かれる訳にはいかなかったんだからさ」
「…つまり、これを見られたくなかっただけの事だろう?」
-ザンッ!!-
マウザーが振るったククリナイフで、ラミス―――否、ミスラの右腕が斬り落とされる。すると斬り落とされたミスラの右腕は、切り口が赤から黒へと変色し、グニャリと歪んでから新しい右腕が生え揃う。そして斬り落とされたの右腕は黒いスライムのようになり、そのまま静かに蒸発して消えていく。
「人間に擬態するのだって楽じゃないんだ。ボクの身体も、そろそろ新しい“依り代”が必要なのかも知れない」
「私に乗り移るのだけはやめろ。まだ貴様と私の約束は果たされていない」
「もちろん、君の存在を消すような真似はしないさ。ボクにもまだ、果たさなければならない使命がある」
ミスラは目を瞑り、その場で両腕を大きく開いて天井を見上げたポーズを取る。
「そう、全ては“来たるべき日”の為に……ボクは“伝達者”として、“あの方”を導かねばならないのだから…」
「…フン」
ミスラの周囲に発生する、複数の青白い
(何が“来たるべき日”だ、化け物め…………まぁ良い。いずれはこのミッドチルダも滅び去る
旅団が倒すべき真の闇は、時空管理局の内部にその身を潜めていた…
To be continued…
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因縁 その4