・オリキャラ中心の二次創作です。
・^o^
東倣現想境 その他の2
蘇生「神代の桜と大和の心」
もう誰も妖怪なんて知らない、妖怪の時間を恐れない。
肩身が狭いのを通り越して、最近は割りと暢気に暮らしている今日この頃。
普段は樹海の屋敷で寝て起きてを繰り返している自称春風の妖怪、
伊都美桜子にも毎年桜の季節になると必ず訪れる場所があった。
今では住んでいる人間も少なくなり、信仰も無く何時の間にか
無くなってしまったとある神社跡の裏に、異彩を放つ桜の大樹がある。
彼女は、毎年花見と言いつつ開花から葉が開くまでこの桜を見届けていた。
既に満開も過ぎ、葉の緑が目立ってきた頃、この樹に訪れた彼女は
樹の下に人影を見つけた。
桜子が人影の元に向かうと、少々驚いた様子で話しかけてきた。
? 「あら、こんな所に妖怪なんて珍しい。」
桜子 「そう言うあんたも妖怪なのかしら?」
今の人間には似合わない風変わりな服装、顔立ち、髪、それに
近くにいるのに気配が感じ取れない・・・どこからどう見ても妖怪である。
桜子もこんな所で妖怪と遭遇するのは、珍しい事であった。
桜子 「花見をしに来たのなら残念。
桜のシーズンはもうとっくに終ってるわ。・・・で、あんた誰?」
妖怪 「私はただの通りすがりのしがない妖怪ですわ。
あらそうですか、桜を見に来たのに・・・遅すぎたようね。」
桜子 「私もただの通りすがりのしがない妖怪ですわ。
・・・って訳でも無いんだけど。」
妖怪 「あら、あなたは何か用事があったのですか。」
目の前の妖怪も長く生きているのか、ただならぬ雰囲気を持っているが
幸い敵視はされていないようだった。
最近は例の神社の影響で、他の妖怪と出会う機会が多くなったものの
その数はまだまだ少ない。
数少ない同胞とは、なるべく友好関係を築いておきたいものである。
桜子 「この桜は、元々私が管理していたのよ。
今はもう引っ越しちゃったけど、毎年花見のついでに
異常が無いか見ていくの。」
妖怪 「仕事を放棄して移り住んでしまいましたと?」
桜子 「う~ん、まあそう言われるとねえ。 でもね・・・」
最近は特に変化も無く、ただ花見をして帰るだけだった為
思い出す機会も無くなりすっかり忘れていたが、彼女にはこの桜を離れた理由があった。
桜子 「私にはもう、この桜を守るだけの力は無い。
正直、いてもいなくてもどうでも良くなったのよ。」
妖怪 「・・・」
桜子 「大昔は、この樹に住んでいた神様と妖精と私で樹を守っていたんだけど、
環境の悪化で妖精も消え、信仰不足で神様もいなくなって・・・
この樹はもう枯死するのを待つだけになった。」
妖怪 「その割には、今でも立派な姿をしていますわね。
確かに、妖精や神様はもう住んでいないようですが・・・
ここまで巨大な桜の樹は、この国にも数えるほどしか無いでしょうに。」
桜子 「この樹は一度蘇生したのよ。人間の手によって。」
かつて素桜と呼ばれたこの桜の大樹もその昔、枯死の危機が訪れた。
彼女は、残った妖精や妖怪を集めて治療を試みたが、どうする事も出来なかった。
しかし、当時周辺に住んでいた人間達がこの桜を救ったのである。
桜子 「私にはどうする事も出来なかったこの樹を、
人間達は復活させたのよ。」
彼女は、自分よりも人間の方がこの樹を守る力がある事を確信した。
人間達にこの樹を守る気持ちがある限り、自分の出番は無いと思ったのだ。
桜子 「人間が守るって言ってるんだから、妖怪の私が混じってても
仕方ないと思って移住したわけ。
私は、人間達がちゃんと樹を守ってるかどうかの監視役。
というか、私がこの樹に出来る事はもうそれくらいしか――」
彼女が振り向くと、先ほどまでいた妖怪の姿は無かった。
ついでに、この桜の見所を教えておきたかったが相手がいないのでは仕方が無い。
一体、何時から独り言になっていたのだろうか。
ただでさえ気配が無いのだから、帰るなら一声くらいかけて行って欲しかった。
そんな事を思いながら、樹海へ帰っていくのであった。
大昔は神様や妖怪にしか出来なかった事も、今の人間達は簡単に成し遂げてしまう。
そういった面でも、妖怪はもうこの世界から必要とされていない。
それでもまだ、この世界に残っている連中には何かしらの理由があるものだ。
桜子は桜から生まれた妖怪である。
故に桜を愛し、桜の為に生き、より美しい桜を見る為に活動する。
その昔、例の結界が現れた際、誘いを受けたことがあったが
向こう側へ渡ろうとは思わなかった。
幻想郷は狭いが美しい所だと聞いていた。だが、ただ美しいだけでは物足りない。
たとえ美しくは無くとも、変わりゆく環境の中で力強く咲き誇る桜こそ彼女が求めているものなのだ。
それに向こうに渡ってしまっては、毎年同じ桜ばかり見るハメになるではないか。
彼女がこの世界と縁を切る事はきっと無い。
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