翌日。
帝からの使者が来訪する当日となった。
俺達はその使者を迎えるため、一同勢ぞろいとなり広間へ集まっていた。
【兵】「曹操様。使者の方がお目見えになりました。」
【華琳】「お通し差し上げて。」
【兵】「は。」
華琳はいつも以上にかしこまった言葉で使者を迎える。その顔はあまり機嫌のいいものとは思えないが、それが相手と華琳の地位の差というものなんだろう。
そして、使者と呼ばれる二人が広間の中へと入ってきた。
【??】「………………」
【???】「呂布殿は先の戦ご苦労であったと言っておりますぞ!」
【華琳】「もったいなきお言葉です。」
華琳が膝を着き、その二人に返事をする。
それから、二人のうち小さいほうが色々と話しているが、必ず頭には「呂布殿は…」とついている。
俺はもう一人のほうをみた。深紅の髪色に瞳。女の子にしてはかなり高い身長。引き締まったからだ。持っている雰囲気。すべてが物語っていた。この子があの呂布なんだと。
使者の話に耳を傾けていると、広間のほうから扉の開く音がした。
【薫】「あ、ごめんなさい…遅れました…。」
前言撤回。勢ぞろいではなく、一人いなかった。遅れてきたその子は申し訳なさそうに広間の端のほうへと歩いていく。
【一刀】「何してるんだよ」
俺は小声で薫に話しかけた。
【薫】「昨日は早めに寝たはずなんだけどなぁ……」
昨日は明日には使者が来るということで、かなり早めにみんな寝静まった。薫も同じような時間に部屋へ戻ったはずなんだが…
【一刀】「気をつけないと、また華琳からお仕置きくらうぞ」
【薫】「いや…さすがにもうあれは勘弁してほしいな……」
【???】「………に、東郡太守。そして西園八校尉に任命するのです」
【華琳】「は。」
と、俺と薫が話している間にあっちも終ったようだ。
【華琳】「はぁ……まったく、春蘭、秋蘭、少し付き合いなさい」
【秋蘭】「華琳様…」
【春蘭】「はい!」
話が終わり使者が広間を出ると、緊張が一気にほどけていくように華琳は口を開いた。
【華琳】「皆も疲れたでしょう。今日は休日にするからあとは自由にしなさい」
【季衣】「はーーい」
【桂花】「ありがとうございます。華琳様」
【琥珀】「………わかった」
【薫】「りょ~かい~」
【凪】「は。」
【沙和】「はいなの~」
【真桜】「あいよ~」
皆がそれぞれの返事をして、その場は解散となった。
俺はせっかく空いた時間だからと、琥珀を追いかけた。前回は断られてしまったが、何故か太刀を返せとは言われなかった。
広間の扉をあけ、外に出ると琥珀の姿はそこにはなかった。
【一刀】「…………ん。あ、季衣~~」
【季衣】「兄ちゃん?」
仕方なく、俺は近くにいた季衣に声をかけた。
【一刀】「季衣、琥珀何処いったか知らない?」
【季衣】「琥珀?ん~……あ、さっき庭のほう歩いていったよ」
【一刀】「お、そっか。さんきゅ」
俺はそのまま歩いて、中庭に向かった。
【季衣】「?」
【琥珀】「……………。」
季衣の言うとおり、琥珀は中庭にいた。どこかを眺めているようにぼーっと突っ立っている。
【一刀】「琥珀。」
【琥珀】「………ん。なんだヘタレか」
【一刀】「ヘタレっていうなよ…。それより鍛錬。手伝ってくれないか?」
【琥珀】「………嫌」
【一刀】「はぁ…頼むよ」
【琥珀】「………なんで、コハクにいうんだ」
【一刀】「……え?」
【琥珀】「別に華琳でも、秋蘭でも、誰だって教えてくれる。なんでコハクにいうんだ」
【一刀】「それは……」
琥珀の戦い方が気になったから…。いや、それはおそらく後付だろう。それも理由のひとつではあるが、一番大きいのは――
【一刀】「お前がかっこいいと思ったからだよ」
【琥珀】「………は?」
琥珀が珍しく普通に話してくる。目を見開いて、何を言っているのか理解できないという顔だ。
【一刀】「俺は戦場でみんなの戦いを見てきた。けど、お前が一番かっこいいと思ったからだ」
文句あるかという風に胸を張ってやる。
【琥珀】「………………。」
琥珀は急に黙り込んだ。そして、少しの間が開いて、話し出す。
【琥珀】「………弱いくせに」
なんだか、少し顔が赤く見えるのは気のせいだろう。
【一刀】「だから、強くなりたいんだよ」
【琥珀】「………………前に」
【一刀】「え?」
唐突な話題の変化に少し戸惑う。
【琥珀】「前に貸した太刀。しばらく預けといてやる。」
【一刀】「あ、あぁ…」
琥珀はそういうと、俺と距離をとろうと、すこし歩く。
【琥珀】「…鍛錬、つけてやる。」
【一刀】「お。おう。ありがと」
俺の脚で十歩くらいだろうか。その辺りで琥珀は足を止める。
【琥珀】「あぁ、そうだった。お前。ヘタレから炉利懇に格上げしてやるからな。喜べ」
【一刀】「なんでだよ!!」
【華琳】「ようやく振り出しというところね」
【秋蘭】「琥珀があの太刀を預けるとは……」
【華琳】「天の遣いの成せる技…ということかしら……ふふ」
場所は変わって書庫。
【桂花】「それにしても、あなた最近うっかりしすぎじゃない?」
【薫】「そうなんだよね~…。気をつけてるんだけどなぁ」
休日とされても、二人は書棚の整理をしていた。
【薫】「あたし、どうにも最近夜になるとぼーっとしちゃって。」
【桂花】「体調はしっかり管理しなさいよ。いざという時に動けませんじゃ話にならないんだから。」
【薫】「うん」
会話しながら、二人の手がとまることはない。
【薫】「……ん?なにこれ」
薫は書棚の一番はしにあった書に手をかける。他の書に比べ、妙に表紙が派手だったことから気になったのだ。
【薫】「え……えぇえええええ!???」
【桂花】「薫?何しているのよ」
【薫】「い、いや!別にあれがあんなところにささってるとかありえない構図というか!いや、そもそもこれ相手もついてるような………。え、えぇ…ありなのか……これは…」
書を開いた薫はこれでもかと顔を真っ赤にしながら壮絶に慌てふためき、意味不明の言葉を乱発する。
【桂花】「?………何を言って……」
不思議に思った桂花が、その書を覗き込んだ瞬間。彼女は真っ白になった。
【桂花】「……………。」
【薫】「うわ……すっごい体位……………えぇええ…」
さながらトイレでエロ本をみつけた中学生のように騒ぐ薫。しかし、そんな状況も長くはつづかなかった。
【桂花】「まったく、誰がこんな汚らわしいものを書庫にいれたのよ。目が腐るわ」
【薫】「あれは……未知の世界だ…うん」
復活した桂花がかなり慎重に布越しにその艶本を手に持ち、きっちりと火葬処分してしまった。
しかし、後にこの手の書が大陸中で見かけるようになるとは、このときの二人は知る由も無かった。
夜になり、誰もいない兵舎で少女が一人いた。
【薫】「んしょ。とりあえずこんなもんかな。」
軍事関連の資料は一応書庫に保管するのだが、現状で使用頻度の高いものは直接兵舎で保管するようになっていた。
【薫】「てか、こんな雑用、別にあたしでなくてもいいじゃん。もう…」
ぼやきながらも一通りの作業を終える。薫がしているのは資料の整理と交換。これから、兵舎で必要なくなったものをもう一度書庫へと戻り保管するのだ。
【薫】「んじゃ、もどりますか。よいしょ」
独り言を言いながら、薫は兵舎の書棚から不要になった資料を抜き取り、まとめ、持ち上げる。
書庫へと向かおうと歩き出す。
――ズキッ
【薫】「っっ!」
突然、薫の頭に電流が流れたように頭痛が起こる。どんどん速くなる脈動にあわせるかのように頭に痛みが突き抜ける。
【薫】「くっ…………………」
痛みはどんどん膨れ上がり、やがて意識を支配する。視界がぼやけ始め、そして暗闇に染まった。
………………。
……………。
………。
……。
【薫】「………ごめんね。”私”が動けるのは今だけだから」
兵舎の中で”彼女”は立ち上がり、呟く。
落としてしまった資料を拾い集め、書庫へと向かう。
【薫】「ふぅ……」
少しの距離を歩いた後、書庫へとたどり着き、”彼女”は持っていた資料を一度棚においた。
【薫】「…軍師かぁ………やっぱり、”司馬懿”はすごいね」
その軍略についての書を眺めながら呟く。
【薫】「”私”がいられなかった場所をどんどん手に入れる………」
無色だった表情に憂いの色が浮かぶ。その場に座り込み、”彼女”は続ける。
【薫】「”私”が…望んだ場所…………。あの時見た夢に……いた”司馬懿”は―――。」
何かを思い出すように、ひとつひとつそれらの記憶をかみ締めながら飲み込んでいく。
【薫】「………”私”も………ここにいたい……」
最後は、俯いて、表情すら見えなかった。
【薫】「”薫”で………いたいよ……先生」
誰もいないその場所で、”彼女”は一人呟き続けた。
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24話です。
いよいよ使者来訪。
久々に挿絵とかつけてみました。
……しかし、初見さんには厳しい展開になってしまった(’’;