(相変わらず微妙にズレているんだよな、お前は)
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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)
EX回:第10話(改2.2)<第2ラウンド>
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演習の、いわば『第1ラウンド』は終わった。
格が違いすぎる……最初からある程度は予想された結果だ。
もちろん裏では、とても『平和的』に事が運んでいた。私が双眼鏡で海上を覗くと美保の龍田さんがブルネイの龍田さんに助け起こされている。
「どうなるのかな……これで終わりか?」
思わず呟いた私としては、さっさと終わって欲しい。そもそも初っ端から実力の差があり過ぎた。
だが、物事はうまく行かないものだ。
『ぽいぽいぽーぃ』
(あれ? この声)
……と思う間もなく美保鎮守府の夕立が叫んだ。そして無謀にも猛然と立ち向かっていく。もちろん相手は浴衣を着たブルネイの『夕立』だ。
「おいおいマジか?」
今までずっと棒立ちだった美保の夕立は急に『やる気』になったらしい。
(相変わらず微妙にズレているんだよな、お前は)
やっぱりアイツは正真正銘の『バカ』だったのか? ……私の不安とは裏腹に会場は再び歓声に包まれて盛り上がる。まぁ『やる気』になっただけでも褒めてやるべきか。
『フフ……』
不敵に笑ったブルネイの夕立。やおら魚雷を発射するかと思いきや……
「え?」
驚いたことに彼女は魚雷を『投げて』いた。
『ぽいっ?』
美保の夕立が困惑するのも無理は無い。常識を逸した魚雷が滑空してくる。
しかも妙な迷彩(マーキング)が施されて……
『ちょ、そんなの反則っぽいーっ!』
彼女は血相変え180度ターンして逃げ出した。
私も空いた口が塞がらない。
(なんで魚雷が空中を飛んでいくんだ?)
あんなのが空を飛んで向かってきたら当然、逃げるよ。
『あらぁーすごい。あんな魚雷があるのね』
美保の龍田さんの呟きがインカムに入るが呑気過ぎるというか『彼女らしい』というか。
相手側の龍田さんはニッコリしながら小声で応えている。
『大丈夫よぉ、あれは単なる脅し……ちょっと作戦上、本隊から遠ざかって貰うから』
『おおっと! 龍田と夕立は相手の夕立をジワジワと敵戦艦群から引き剥がしに掛かる!』
実況も叫んだ。
『……巧いな。挟み撃ちの形を活かして敵主力から遠ざけている。何か仕掛けるつもりだぞ』
武蔵様の解説もヒートアップ。
海上では相手の『空中魚雷』が美保の夕立の周囲に着弾し無数の水柱を林立させていく。ほぼギリギリで必死に着弾を避ける夕立。それは手に汗握る展開だが……明らかにブルネイの夕立は意図的に着弾を外している。
必死な形相で夕立は逃げ惑う。
『ぽいー!』
その直後を狙って次々と水柱が上がる。結果的に彼女は徐々に主戦場から遠ざけられて行った。
私はふと観覧席に居る相手の提督(大将)を見た……やはり彼は美保鎮守府側の、あまりの弱さに呆気に取られているようだ。いや、それ以上に何か『疑い』の表情すら浮かべ始めていた。
そうだよ。今回の演習だって恐らくブルネイの艦娘と互角の相手が本来居たはずだ。それが何かの理由で来られなくなって……そこに幸か不幸か私たちの部隊が入り込んだらしい。
「あ……」
大将が、こっちを見た。
(やばい!)
私は思わず目を逸らしてしまった。だが私の今の行動は余計に拙かった。
(彼の疑念を深めさせただけじゃないか?)
私は非常に焦り始めた。別に悪いことはしていないけど、こうなってくると針のムシロだ。もはやジッと座って居られない。
だがしかし今、逃げ出したら余計に疑われる。夏なのに冷や汗が出た。さりげなく会場を見回すと憲兵さんも点在しているし。
「やば……」
つい、口走ってしまう。
この夏に境港の神社で憲兵に詰められた、あの嫌な緊張を思い出してしまった。
しかし今さら逃げ出せない。こうなったら仕方ない。私は深呼吸をすると自分の不安を隠すように双眼鏡で再び海上を覗く。
「あれ?」
……ウチの金剛はまだ本調子じゃないのか? やたら小さく見える。もしかして蹲(うずくま)っているのか?
その金剛の前にいるのは妹。
「おい、比叡? 何をやっているんだ?」
思わず呟く。その比叡はブルネイの金剛と比叡の前で両手を広げている。どういう事態だ?
私は慌ててインカムを下ろして通信する。
「おい比叡、いくら演習とは言っても実戦的なものだぞ!」
私も問いかけるが彼女には聞こえないのだろう。敵(ブルネイ)の前で両手広げ続けている。
(あいつ……)
私は境港の路地で私を庇(かば)っていた寛代を連想した。艦娘っていうのは状況によって人間以上に使命感に燃えるようだな。
「あれ?」
振り返ると寛代本人は祥高さんの膝の上に頭を乗せて熟睡中だった。
「寝てるのか?」
もちろん祥高さんもコックリと「船」を漕いでいる。いやこの二人……逆にこの緊張する演習会場の喧騒の中で、よく眠れるよなあ。
健気な比叡が居るかと思えば、龍田さんやこの二人のようにマイペースな艦娘もいる。この落差と緊張で私も混乱しそうだった。
演習している海上では風向きが変わった。水柱の霧が視界を再び悪化させている。
私は急に独りで敵地に放り出されたような孤独感に包まれた。もちろん私も軍隊生活は長いから、様々な危機的状況は通過しているつもりだが、さすがに予測不可能な事態が積み重なると混沌としてくる。
そうやって一人で緊張している私の異常な雰囲気に気が付いたのだろう。ブルネイの五月雨が声をかけてきた。
「提督? どこか調子がお悪いのでしょうか」
「あ、いや別に」
私はインカムの送話口を跳ね上げて応えた。
それでも彼女は心配そうな瞳でこちらを見詰める。
「あの……何か冷たい物を、お持ちしましょうか?」
「あ、そうだね」
ブルネイの五月雨は親切だ。軽く会釈をして彼女は立ち去った。その心遣いにホッとした。
(五月雨か)
確か美保にも居たはずだ。今度、もし無事に日本に戻ったら調べてみよう。
突然、実況が叫んだ。
『み、見て下さい! ……アレ?』
観客は一斉に制空権争いが繰り広げられている上空を見た。私も再び双眼鏡を覗き込む。そこではブルネイの赤城さんと日向が放った瑞雲と彗星が各々爆撃体勢に入ろうとしていた。相手の瑞雲は水平爆撃、彗星は急降下爆撃か。
(まずいな)
演習とは分かっていても、この構図は絶望的な状況だ。
だが美保の比叡が健気に叫ぶ。
『お姉さまを、お守りしますっ!』
彼女は対空砲火を開いて迎撃を始める。そのとき蹲(うづくま)っていた美保の金剛も起き上がり歯を食いしばって共に反撃を試みた。
『Fire……』
いつもの覇気がない金剛。何となく砲撃も弱々しい。
(そうだよ、ついさっきまでゲロゲロやっていたのだから)
そのときインカムに美保の龍田さんの声。
『金剛さん比叡ちゃん、無理に反撃すると被害が増えるわ。相手の赤城さんたちも直撃は避けてくれるから、その場を動かないで!』
続けて美保の赤城さんの声。
『そうよ。ちょっと痛いかもしれないけど』
「あれ?」
魚雷の水柱に隠れて見え難かったが双方の赤城さんと日向は戦っていないのか? お互いに並んで状況を見ているようだが。
『私たちの司令の為にも、お願い』
日向の通信に思わずドキッとして冷や汗が出た私。
『私のことは、どうでも良い』
つい口走った。
『……』
何となく日向に伝わった感覚はあった。
元々勝ち目のない演習だ。ここは割切って上手に負けを演じてイベントを盛り上げる方がスマートだろう。その方が大将に顔向け出来そうだし。
美保の赤城さんと日向は元々冷静な子達だ。それを悟ってブルネイの二人と上手く交渉でもして『停戦』に持ち込んだのかも知れない。ある程度イベントが盛り上がったら、さっさと停戦させる。それは一種の『作戦勝ち』だよ。
龍田さんの通信が届いたのだろう。爆撃機を落とそうと砲撃を加えていた金剛たちは急に砲撃を停止した。
『シット』
さすがに悔しそうな金剛。通信には入らなかったが何となく比叡が隣でなだめているような気配を感じた。
龍田さんが言う。
『判定が出るまで動かないでね』
それを受けて金剛姉妹が海上で抱き合って防御体制を取った次の瞬間だった。
彼女たちを覆うようにして無数の水柱が上がった。二人の姿が一瞬見えなくなる。激しい炸裂音と水柱……観客の目は釘付けだ。
だが私は別の緊張でガクガクになっていた。
「提督」
「あ」
振り向くとブルネイの五月雨だった。
「ミネラルウォーターです」
「有難う」
私は彼女が持ってきた氷水を飲んだ。これで少しでも落ち着けば良いけど。
「ごほっ、げほっ!」
緊張して吹いた。
すると彼女が優しく背中をさすってくれた。
「あの……大丈夫ですか?」
(さ、五月雨……)
さすがに声には出さなかったが思わず心の中で『君は天使か?』と思った。
「す、済まない」
やはり恥ずかしそうに微笑む五月雨。
「いえ……」
純朴そうな良い駆逐艦だな。絶対に帰ったら美保でも確認してみよう。
「げほっ」
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
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PS:「みほ3ん」とは
「美保鎮守府:第三部」の略称です。
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美保鎮守府側の夕立が果敢にブルネイへ反撃を試みる。しかし見たこともない兵器に逃げ回る結果に。それはまたブルネイ提督の大きな疑念を生むことになるのだった。