第34話 キッサキを目指して
キッサキシティを目指すことになったクウヤは、さっき別々の目的のために別々に別れた友人たちとともに購入した防寒着を持って、キッサキシティを目指して歩き出した。
「キッサキシティへの道にでるには、テンガン山を越えなきゃいけないんだよな・・・めっちゃ長いけど」
地図をみて、クウヤはそういいながら思い出した。
自分はこの山の洞窟の中で、ある人物と初めて会ったことを。
「テンガン山・・・アカギと初めて会った場所か・・・。」
ギンガ団のボス、アカギ。
あのとき会ったときは、血色の悪い以外はふつうの男性だと思って、行く道が同じだからと言う理由でともに洞窟を進んだ。
そして、カンナギで再会したときにアカギの正体を知り、敵対することになった。
ギンガ団を率いて悪事を働き、さらになにかをやらかすなら、自分が阻止しなければ。
悪を許さない正義感を持っているから。
「・・・でも、もしもおれが負けたらアカギの悪が正義になっちまうかもしれねぇ。
なんか、それは絶対にやっちゃいけないことだと思う!
だから・・・おれは強くならなきゃ!
強くなって、ギンガ団の・・・アカギの野望を止めて、その間違いをたださなくちゃならねぇ!」
今までギンガ団は人やポケモンを傷つけ苦しませた。
その行動を今後続けさせることも、見逃すことは絶対にしてはいけない。
だからクウヤはここで立ち止まったり、ポケモンを強くさせることをやめるわけにはいかないのだ。
「・・・もちろん、おれだけじゃなくて、お前達と一緒にな」
そういってクウヤはモンスターボールに手を添えて笑いかける。
自分に勇気と強さを与えてくれる、ポケモン達の存在を、絶対に忘れてはいけないと思い直すために。
「さ、気合いを入れ直して、テンガン山を抜けるぞ!
そして、キッサキシティへ進むんだ!」
クウヤはえいえいおーっとかけ声をあげて、洞窟の中に入っていった。
一方、鋼鉄島では、そこに残っていたゲンとジンダイが話をしていた。
話の内容は、鋼鉄島であったとき戦った相手のこと。
ギンガ団の存在とその目的について二人で話をしていた。
「ギンガ団とかいう連中・・・今までもクウヤは戦っていたのか」
「そのようです、クウヤくんは既にその連中について知っていて、しかも以前から衝突を繰り返してたみたいでした。」
「・・・」
ジンダイはクウヤが、自分の生き別れの息子なのではないかと思っている。
そこは詳しいDNA鑑定でもしないとはっきり言い切れない。
だが、クウヤには、初めてあったという感覚がない。
「・・・奴らのねらいが、このシンオウにいるという伝説のポケモンだというのは間違いないのか」
「可能性は高いかと。」
シンオウ地方に伝わる伝説のポケモン・・・。
有名なものでいえば、このシンオウにある3つの湖に眠ると伝えられてる3匹と、時間と空間の神と呼ばれる2体。
それに手を出せば、まずこのシンオウ地方が危機に陥る。
「ただ己の欲のために伝説のポケモンに手を出そうというのは、気に入らないな・・・。
しかも神と呼ばれるポケモンを操ろうなどと計画を。
神に手を伸ばしたものは自らの手を奪われるなどと知ってるのか知らぬのか・・・。」
自分も、伝説のポケモンを3体も所持している。
だがそれは彼が、謎を解いて彼らと真剣に向かい合い、3体に認められたから手持ちにすることができた。
また、ジンダイ自身が強い心と精神力を持っているからこそ、3体を自在に操ることができるのだ。
強い心と精神力、そして真剣に向かい合えなければ、伝説のポケモンを操るなどできない。
「もしも、クウヤがそのギンガ団とやりあうつもりなら、その伝説ともやりあってしまうかもしれないな。
だから俺はその時に備えておかねば・・・」
「ジンダイさん・・・」
「あれが本当に俺の息子だろうが、ただ同じ名前なだけなのか・・・今はそれはどうでもいい。
だが・・・同じ名前だからという理由だけでも、あの少年を放っておくことはできない。
絶対に助ける・・・!」
クウヤには、特別なものを感じる。
だから、助けて、未来のために生かしたい。
そう、ジンダイは思っていた。
ところ変わって、カンナギタウン。
そこでは、久しぶりに故郷に顔を出していたシロナが、ある人物と通信をとっていた。
「久しぶりね、ミクリ」
「こちらこそ久しぶりだシロナ・・・未だにポケモンリーグのチャンピオンとしての無敗記録は更新しているようだな」
「そちらこそ、ジムリーダーからチャンピオン、そして今はポケモンコンテストのコンテストマスターになってからというもの、コンテストのためとかで世界各地をまわってるじゃない、忙しいわね」
「はははっ・・・」
シロナが通信をしていた相手は、ミクリだった。
「そうそう、おばあちゃんから聞いたわ。
クウヤくん・・・血はつながってないとはいえ流石は貴方の弟ね。
ポケモンバトルの腕前だけじゃなくて、ポケモンに対する思いやりや姿勢は高く評価できるわ」
「ふふ、そうだろう。
ポケモンとのつきあい方は師匠と私が教えたのだからな。」
ミクリが自慢げにそう語るところをみて、シロナはふと彼の困った性格を思い出し、苦笑して小さい声でつぶやく。
「でも、ナルシストまで似なくて本当によかったわ・・・。」
「なにかいったか、シロナ」
「なんでもないわよ。」
「そうか・・・?
まぁいい・・・それでシロナ、キミがそうしてクウヤの話題をだしているということは、期待しているのか?」
「ええ。
きっと、クウヤくんだったらさらにレベルアップして、私といい勝負ができそうな予感がするの。
そして、このシンオウを取り巻く陰謀を、終わらせることができるのも・・・」
「・・・」
シンオウを取り巻く陰謀。
きっと、あの組織の存在のことだ・・・。
その存在と、自分の義理の弟の姿を思い出し、ふっとミクリは表情を暗くする。
「正義感が強く、アクア団やマグマ団を壊滅に追い込む一因となったクウヤのことだ・・・ギンガ団に牙をむき戦おうとしないはずがない。
そして、彼のポケモンも彼の気持ちに呼応して、ともに戦おうとするだろう・・・」
「心配?」
「当たり前だ、彼は私にとって、最早実の弟といってもいい子なんだよ。
幼い頃から成長を見守り、支え、苦難を乗り越えさせるために安らぎを与えていた・・・。
そして、今でも彼のことを思っている」
「・・・」
ミクリは自己心酔しやすいのが玉にきずではあるが、基本的には穏やかで他者やポケモンを愛し思いやる、とても心優しい性格だ。
だからコンテストマスターとして活動を起こし、苦労を苦労と呼ばない。
クウヤのことも、放っておけず兄として接し、彼に孤独感を与えないようにしていた。
ときには自分のポケモンとスキンシップを図らせていた。
その気持ちは今も変わらず、トレーナーとして成長した彼のことを案じている。
「それに・・・・」
「それに?」
ミクリは真剣な顔で、シロナに言った。
「師匠が・・・話をしていたんだ。
クウヤの・・・本当の家族が見つかったかもしれないと・・・」
「えっ・・・?」
「だから、今ここでは特に、クウヤを失うわけにはいかない。
彼を本当の家族に併せてあげられるそのときまで、絶対に・・・!」
家族が見つかるとか、義理の兄弟とか・・・彼らの事情はわからないことだらけだ。
だが、これだけはわかる。
彼らが、クウヤのことをどれだけ思っているか、その強さはわかる。
その思いを知ったシロナは、彼に向かって笑いかけた。
「大丈夫、私が貴方の代わりに、クウヤくんを守ってみせるわ」
「すまないシロナ・・・私も、なにかあれば必ず力になるから・・・私がいないときは彼のことを頼む」
「ええ」
二人の強者たちは、約束した。
一人の少年を守るという約束を。
「へっくしょい!」
テンガン山をすすむクウヤは、広くて安全な場所で暖をとって、ポケモン達とともに休憩していた。
そのとき、急に鼻がむずむずしたので大きいくしゃみを出した。
そのくしゃみに、彼のポケモンも一部の野生ポケモンもびっくりした。
「ずぉーっと・・・ごめんごめん、びっくりさせちまったな」
鼻をかみつつクウヤは周囲のポケモンに謝る。
「ゴォウ?」
「大丈夫だよヒーコ、風邪はひいてねーから・・・。
もしかしたら誰かおれの噂してんのかもしんねーな!」
あっはっはっはと笑うクウヤ。
そこでポケモンフーズもインスタントのスープもあったまったのを確認し、昼食休憩をとる。
「・・・なぁみんな、おれさ、キッサキシティまでの道でさ・・・もしいいポケモンと出会うことができたら、そのポケモンを六匹目の仲間にしたいんだけど、どうかな?」
「トートットットット」
「え、好きにしろっていってんのかトーム?」
「トトトッ!」
トームがうなずきながらそういうと、ほかのポケモン達もうなずいた。
クウヤはそっかと笑うとスープを飲む。
コーンスープの温かさを口に含み体を温めて、次の道のことを考えていた。
「なんか、進めば進むほど・・・寒くなってきたな。
これって、キッサキシティに近づいている証拠なのか?」
「ゴオォウ」
寒さはほかのポケモン達も同じくらい感じていたようで、特にヒーコが反応した。
そんなヒーコの反応を見てクウヤはまさかと思い、彼にきく。
「え、ヒーコもしかして、このままおれを出したまますすめっていいたいのかよ?」
「ゴォゥ」
「しかも周りのみんなまで、外にでたままおれと一緒にいく体制に入ってるし!」
こんなにたくさんのポケモンを外に出したまま行って大丈夫なのか?
とこのときクウヤは思ったが、同時にボールに戻しても勝手にでそうだなとも思ったので、ポケモン達の気持ちを優先することにした。
「まーでも、お前達みんないい奴らだからな・・・変なトラブル起こす心配もねぇか!」
「クロバッ・・・」
「シャワァ」
「リン」
一番のトラブルメーカーはクウヤだ、と言いたげに全員クウヤをみたが、彼はのんきにスープを飲んでいてその視線に気づくことはなかった。
そんな会話をしつつ昼食を完食した彼らは再出発のため、片づけを終えた後で立ち上がる。
「よし、休憩おしまい!
みんな、キッサキシティめざしてまたしゅっぱーつ!」
元気いっぱいのかけ声をして、クウヤはポケモン達とともに進んだ。
道中で凶暴な性格の野生ポケモンにおそわれたりもしたが、ヒーコ達はそのポケモン達と戦い追い払っていく。
そんなことをしつつ洞窟を道なりに進めば進むほど気温は下がっていき、冷たい風も吹いてくる。
やがて光が見えそこを目指して全力疾走し洞窟を抜けたクウヤ達を待っていたのは、辺り一面に広がる銀色の世界だった。
「うっわぁ、さっみー!
そしてまっしろだぁーっ!」
ホウエンには一部地域にたまに降る程度でしかない雪。
その雪は今、彼の目の前で一面に降り注ぎつもっていた。
これが、シンオウ最北端の姿だった。
「この道を抜ければ・・・キッサキシティなんだ・・・!」
目の前に広がる雪景色をみて、クウヤはそう言ったのだった。
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キッサキシティ編です、この道はゲームで最初はいったときに迷子になりました。