ある晴れた日のバニー・カクタス-----
「わーっ!?仲間が混乱…今度は疫病!?わ、長老がバーサーカーにってまたやられたあ〜!!」
店に置かれたモニターの前で、ゲームコントローラーを手にしたトゥーナは頭を抱えて叫んだ。
「…あー、まだハンドレッドエルダーズやってたんだ…」
そんな母親を呆れ顔で見ながらノパルスはそうもらした。その横にはクラスメイトのステラとクレアがア然とした顔で並んでいた。既に三分程、母親の様子をうかがっていた。
「あ…ごめんごめん、お帰り。二人もいらっしゃい。どうしても憤怒の赤龍がたおせなくってね、あはは…」
三人に気づいたトゥーナは恥ずかしそうに苦笑いしながらゲームの電源を消し、子供達に向き迎えた。
「ところで何かご用かな?」
「あ…えーと、なんていうか何か危ない目にあった時に知らせる様な、防犯ブザーみたいなのがないかなって…」
我に帰ったステラが事情を話した。
「防犯ブザー?」
「最近何かと物騒じゃん。それで何かないかなと思ってみんなと話してたらノパルス君がね」
「…母さん最近防犯用のアイテム出したって言ってたでしょ?その事話したら二人がそれを見たいって」
「なるほど…」
子供達の話を聞くと、トゥーナは商品棚からいくつかネックレスを取り出して、彼らに差し出した。
「防犯アイテムと言っても出したのはいくつかあるからね。例えばこれ」
そう言うとその中から一つ、ラピスラズリを思わせる青い石のものを差し出した。
「“カイロスストーン”。これに念じると大きなブザー音が鳴り響くんだけど、もう一つちょっとした効果を付けたんだ」
「効果って?」
「もし誰かに襲われた時に、そいつの動きを止めるっていうものだよ。まるで時間が止まったようにね。そんなに長くは止められないけど、逃げる時間はあるし通報も可能だよ」
「へー。でも万が一腕とかとっ捕まったりしたら…」
「その辺はまあ大丈夫。止まってる時は筋力も抜けてるから簡単に振りほどけるよ」
「ほへー。どうやって動かすの?」
「危なくなったら石に向かって念じる、それだけ」
三人はまじまじとその石を見つめた。
「他にもあるけどこれなんかもどうかな?“スタンボイス”、声を衝撃に変えて相手にぶつけるんだ。これでフ○ロダごっこができるよ」
「あー、アブナいの勧めるのはやめようね母さん。てかレオーネさん達ドヴァ○ンにしてどーすんの」
「え…えーと…(フス○ダ…?ド○ァキン…?)」
「んー、気にしないで。母さん好きなゲームのVR版が出るの決まって浮かれ気味になってるだけだから」
「はあ…」
そんなこんなで、店主親子の漫才みたいなやりとりを交えつつ色々商品を紹介されたが、二人は最初に紹介されたカイロスストーンを買ったのだった。
数日後、暗くなりだした頃-----
「すっかり遅くなっちゃったなあ…」
放課後の図書館で調べ物をした帰りのステラ。首には先日購入した“カイロスストーン”がかけられていた。
…そんな彼女を密かに見据える存在が…。
「ウヒヒヒヒ…可愛いライオンっ子みーっけ…」
明らかに人の少ない、暗い路地を一人歩くステラ。
「!!」
急に何かが腕を掴み、引っ張りあげる。
「やあ!!」
彼女は瞬く間に路地裏に引っ張り込まれてしまった。
「ウヒヒヒヒ…可愛いねえ…大きいねえ…」
覆面を被った大男が、左手でステラの両手を拘束しながら、彼女を見据えて右手をわきわきと動かしていた。
「やだあ!!お願い!!離して!!」
どうにか抵抗するが、力が強く逃れられない。
「だからね…大人しくしたらね…たーっぷり可愛がってあげるからねヒヒヒヒ…」
恐怖で震えるステラだが、この時首に掛けた“カイロスストーン”を思い出した。
(これに念じれば…確か逃げられるって…!)
ステラは一心にストーンに念じた。
「!?」
石が白く光りだした。その光に大男が驚いた。その光は数秒のうちに消えた。
…だが…
「…なんのつもりかなあ〜…?」
男が止まる気配はない。拘束も解けない。
(そ…そんな…失敗…!?)
「さあて、お楽しみタイムの始まりだよお〜」
ステラは恐怖に目をつむった。
「…ウヒィッ!?」
突然、男の頓狂な声と共に両手の拘束が解ける。
「…え?」
ステラが恐る恐る目を開くと…
「…なっ、なんだお前ら!?どこから来た!?ヒィッ!?こっちにも!?」
大男が何かに怯えるかの様に叫びながら周りをキョロキョロと見回していた。
「よせ!!止めろ!!オレにそんな趣味はない!!」
何かに迫られ、それから逃げようとする仕草をしていたが、ステラには何も見えない。
(ど…どうなってるの…?)
「いやだ!!やめてくれ!!オレが悪かった!!だからもう…勘弁してくれぇぇーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
絶叫すると大男はそのまま路地に飛び出し、走っていった。
その様子を、ステラはア然として見ていた。
「…もしかして…石の効果…かな…?でも、説明と違うような…」
男はすぐ近くの交番に駆け込んで自首した。その場で必死に全ての罪を白状する様は、まるで警官に助けを求める様だったという。男はサイプロクス型のミシィカルだったが、何かに迫られている様子は数日程続いたという。
「…あー、それだったんだあ…」
後日、再びクレアと共にバニーカクタスに訪れたステラはカイロスストーンを差し出しながらトゥーナに先日の事件の事を話すと、やってしまったと言わんばかりにそう言った。店にはノパルスの他、商用に来ていたレインと魔法ちょうちんもいた。
「え…どういうこと…?」
「ごめん、僕君に別の、それも変なの渡しちゃったんだ。実はこの前の防犯グッズ、店に出したもの以外にもいくつか試作品だけでボツにした奴もあったんだ。ひとつ無くしたと思ったら商品に紛れてたんだね…」
「じゃあおばさん、ステラに渡したのって…」
「うん、無くしたボツ商品。念じたら相手に恐怖中枢を刺激する幻覚を見せるっていうのを作ったんだ。でも、人に持たせるには色々危ないからボツにしたんだよね」
「母さんそそっかしい」
「面目ない…」
「…でもそれでステラさんが助かった訳だし、結果オーライということでいいんじゃないでしょうか?」
「でも、間違った商品渡した手前、あまり喜べないかなあ…」
レインのフォローにトゥーナは複雑な表情で答える。
「ところでレオーネさんを襲った犯人、どんなまぼろしを見たんだろね」
「それがよくわかんないんだけど…“オカマのルチャドールの集団がキスを迫ってくる”とかなんとか…」
「なにそれ超こわい」
「確かにそれは…恐怖かもですね…あれ?まほちゃん?」
レインが辺りを見回すと店の片隅で魔法ちょうちんが、頭を抱えてうずくまりながら青い顔で震えていた。
(な…なんて恐ろしい幻覚なんだ…!!)
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ステラさんピンチ!!だがその時…!?
うん、またなんかごめん。
お借りしました。
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