No.926575

九番目の熾天使・外伝 ~短編29~

竜神丸さん

因縁 その2

2017-10-17 23:04:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3676   閲覧ユーザー数:1596

「な、何だ今の音は!?」

 

「お、おい!? 後部車両の方で何か爆発してるぞ!!」

 

後部車両から響き渡る轟音を聞いて、列車を操縦していた機関士達が驚いた様子で後部車両を見据える。その轟音が響き渡る後部車両では、管理局が送り込んだ暗殺者達と、任務遂行の為に潜入していた旅団メンバー達が対峙しているところだった。

 

「チィ……頑丈な両足ですこと…!!」

 

「お褒めに預かり光栄だよ。お礼に僕の両足で切り刻んで差し上げよう!」

 

「ご遠慮願いますわ!!」

 

赤髪の女性―――ラミスは機械となっている両足の先端から鋭利な刀身を伸ばし、青竜の振り上げた太刀目掛けて右足を踵落としの要領で振り下ろす。振り下ろされた刀身の一撃が思っていた以上に重かったのか、青竜は少しだけ苦悶の表情を浮かべながらも太刀に魔力を纏わせてラミスの右足を弾き返し、すかさず左手を前方にかざす。

 

「ファイガ!!」

 

「おっと…ッ!?」

 

青竜の伸ばした左手から強力な火炎魔法が放たれ、ラミスの全身が灼熱の炎に包まれる。しかしラミスはそれでも倒れる様子を見せず、逆に全身を包んでいた炎が少しずつラミスの両足へと吸収されていく。

 

「無駄さ。魔力を用いた攻撃は僕達には通じない」

 

「ッ……魔力を吸収するとは、厄介なのをお持ちですわね…!!」

 

ならば魔法ではなく普通の武器で倒すしかない。そう判断した青竜は魔法を使う戦法を即座に放棄し、太刀を一度納めてから代わりに薙刀を装備。ラミスの繰り出す回し蹴りと青竜の突き出した薙刀がぶつかり、金属音と共に火花を散らし合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーッハッハァッ!! ぬるい、ぬる過ぎるぜぇ!!」

 

「俺はアンタが暑苦しくて敵わんよ…!!」

 

右半身が機械化した男―――ネルガは右腕をガトリング砲に変形させ、FalSig目掛けて銃弾を乱射。FalSigは予め身体の各所に何重にも巻き付けておいた糸を使って銃弾を防ぎ、多少のダメージは覚悟の上で2本のナイフを構えてネルガに突撃する。

 

(あんまり時間かける訳にはいかないし、ここは速攻で決めに行くしか…!!)

 

「あぁん? この俺に特攻しようってか、舐めてんじゃねぇぞゴラァ!!」

 

「ご冗談、オッサンなんて俺は少しも舐めたくないよ気色悪い!!」

 

ネルガは右腕のガトリング砲を乱射しつつ、左手で長剣を勢い良く振り下ろす。FalSigは2本のナイフを投擲し、その内の1本がガトリング砲の砲身に突き刺さり、ガトリング砲がジャムを起こす。そして振り下ろされて来た長剣をヒラリとかわし、ネルガの頭を真っ二つにするべく日本刀を振り下ろすが…

 

「甘いんだよチビがぁ!!」

 

「!? ぐぉあ…!!」

 

ネルガは首を右に反らし、日本刀はネルガの左肩に食い込んだ。しかし日本刀はそれ以上斬る事が出来ないまま停止してしまい、ネルガの振り上げた右腕がFalSigを天井に叩きつけた。FalSigは苦しげな表情を浮かべながら床に落下し、ネルガはガトリング砲の砲身に刺さっていたナイフを抜き取ってから、ガトリング砲を巨大なアームへと変形させてFalSigを掴み上げる。

 

「諦めな、テメェ等じゃ俺達には勝てねぇよ」

 

「ぐぅ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アグロォ…!!」

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

更に列車から飛び降りていた蒼崎はと言うと、降りた先の森林奥深くまで追跡して来たモノアイの男―――エイブラハムの機械化した右腕によるパンチを必死に回避し続けていた。エイブラハムの振るうパンチは周囲の樹木を何本も薙ぎ倒していき、蒼崎は蒼白な表情を浮かべながら全力で走って逃走中だ。

 

「くっそ、何でこんな変態マスク野郎に追いかけ回されなきゃいけないんだ!! どうせ追いかけられるならあの赤髪の女の子の方が断然良かった気がする!!」

 

「ガゥラ…!!」

 

「どぇい!? あ、怒っちゃった!? 嫌われてる事に気付いて怒っちゃった!?」

 

蒼崎の発言を真に受けたのかどうかは不明だが、エイブラハムのより激しくなった攻撃は蒼崎を上回るスピードで繰り出されていく。そして蒼崎が途中で運悪く岩壁に追い込まれると同時に、エイブラハムの機械化している両腕が変形し、巨大な狼牙棒となって振り下ろされる。

 

「グァロッ!!!」

 

「え、ちょ、それデカ過ぎじゃ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……チィ!!」

 

「遅い」

 

「がっ!?」

 

そして青竜とFalSigが戦っているのとは別の車両にて、左半身が機械化した男―――ゴルドフの攻撃にロキが翻弄されていた。ロキの繰り出す魔法は全て回避され、デュランダルを振るおうものならそれを上回る速度で腕や足を短刀で斬りつけられる。スピードでは完全にロキを上回っている相手だった。

 

(コイツ、こんな狭い場所でもこんなスピードを……だったら!!)

 

現在自分達がいる車両の狭さを利用しようと、ロキは車両の出入り口の前に立つ。そんなロキの動きにゴルドフは素早く追いつき、構えた短刀をロキの頭部に突き立てようとする。ここまではロキの想定内だ。

 

(来た!!)

 

しかし…

 

「攻撃の軌道を絞るつもりか」

 

「!? ぐぁっ!!」

 

ゴルドフには既に読まれていた。ロキに短刀を突き立てようとする直前でゴルドフの動きがピタッと止まり、ロキがカウンターで繰り出そうとしたデュランダルの斬撃は回避されてしまう。その隙を見逃さないゴルドフは迷わず機械化している左手の指から数本の針を射出し、1本はロキの右肩に、もう1本はロキの左足に命中する。

 

「ッ……身体、が…!?」

 

「猛毒の味は如何かね」

 

右肩と左足を針で刺されたロキは身体の動きが鈍り、ゴルドフはそんな彼を容赦なく蹴り飛ばす。壁に激突したロキが咳き込む中、ゴルドフは左手の指から更に数本の針を射出し、ロキの身体のあちこちに突き刺していく。

 

「ぐ、がぁあっ!?」

 

「像や猪ですら数分で死に至る猛毒だ。それを経穴に撃ち込まれれば、いくら貴様とて長くは持つまい」

 

≪マスター!!≫

 

「ッ……テメェ…!!」

 

「白黒の傭兵よ、貴様ではこの俺には勝てない。管理局に歯向かった事、後悔しながら死に行くが良い」

 

「…お前は」

 

「ん?」

 

毒が全身に回り始めたのか、ロキの全身が痙攣し、視界もグニャリと歪み始めた。もはや立つ事すら出来ない。そんな状態でも、目の前で自身に短刀を突き立てようとしているゴルドフに対してロキが告げる。

 

「お前は、何故管理局に従う…? あんな趣味の悪い連中に、従う価値があんのか…!」

 

「先程も告げただろう。その趣味の悪さに救われた人間もいると」

 

「…お前がそうだってのか」

 

「ご名答」

 

ゴルドフは着ていた黒服を脱ぎ捨てて上半身を露わにする。彼の左半身は頭部から左足にかけて機械化しており、肉体と機械の境目には複数の縫い傷が存在していた。

 

「元々、俺は普通の生まれ方をしてはいない。物心ついた頃には、既に培養液の中に存在していた」

 

「!? まさか…」

 

「この地を考えれば分かるだろう? かつてこの地で、ある女が引き起こした事件を」

 

「…!!」

 

ゴルドフの言葉に、ロキはかつて“愛する者”を蘇らせる為に事件を起こした女性を思い浮かべる。同時に、その女性が関わっていた研究を思い出した。

 

「…プロジェクトFか…!」

 

「その通り。かつてこの地で事件を引き起こした女―――プレシア・テスタロッサは愛娘のクローン、フェイト・テスタロッサを生み出した。それと同様、俺もとある男のクローンとしてこの世に誕生した」

 

ゴルドフは赤く発光している左目に触れながら語り続ける。

 

「俺のオリジナルは優秀な魔導師だった。愛する妻を遺して戦死し、遺された妻は死んだオリジナルにもう一度愛されたいが為に、クローンとしてこの俺を誕生させた……が、妻は俺を夫として受け入れなかった。所詮は俺も失敗作だったという事だ」

 

「お前…」

 

「その時点で俺は、クローンとしての存在意義を失った。だが偽物とはいえ、生前は優秀な魔導師として活躍していた男のクローンだったからか、管理局はこの俺を受け入れた。俺は俺に存在意義を与えてくれた管理局の為に強くなろうとした。戦いの中で失った左半身を機械で補ってでもな」

 

「ぐ、が……ぁ…ッ!!」

 

ゴルドフの右手がロキの首を掴み、立ち上がれない彼の身体を無理やり立たせる。かなりの握力で首を絞められたロキが血を吐いているのにも目を暮れず、機械の左腕を変形させて長い刀身を出現させる。このままロキにトドメを刺すつもりだ。

 

「そしてそれは、あの女……フェイト・テスタロッサも同じだ」

 

「…!」

 

「母親からは失敗作の烙印を押されても、管理局にとっては優秀な魔導師である事に変わりは無い。管理局は優秀な人材であれば誰だろうと受け入れる。あの女も俺と同じ、管理局に救われた幸せ者(・・・)だよ。失敗作と見なされたクローンながらも、この世に存在する意義を与えて貰っているのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アホ抜かしてんじゃねぇぞガラクタ野郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何?」

 

ゴルドフのロキを見る目付きが鋭くなる。しかし首絞められているロキは、そんな物には動じなかった。

 

「何が存在意義を与えて貰っている、だ……そりゃ要するに、替えが利くだけの捨て駒扱いじゃねぇか……そんなもん生きてるとは言わねぇよ…」

 

「…何が言いたい?」

 

「…アイツを、一緒にすんじゃねぇ」

 

「…?」

 

血を吐きながら息絶え絶えのロキは、毒で動かせないはずの右手(・・・・・・・・・・・・)で、自身の首を絞めているゴルドフの右腕を掴む。

 

「アイツはなぁ……自分がクローンだと知っても……母親から拒絶されても……生きる事を諦めなかった」

 

「ッ!?」

 

「アイツの親友(ともだち)が……アイツの仲間が、アイツをもう一度立ち上がらせた……クローンでもない、偽物でもない……1人の人間として受け入れてくれた仲間の為に、アイツは立ち上がる勇気を出した」

 

(ぐっ!? コイツ、まだこんな力が…!!)

 

ロキに掴まれたゴルドフの右腕がミシミシと悲鳴を上げ始め、ゴルドフは初めて苦悶の表情を浮かべる。このままではマズいと判断し、ゴルドフは左腕の刀身をロキ目掛けて勢い良く振り下ろし…

 

「…なっ!?」

 

その刀身が、ロキを斬る事は無かった。振り下ろしたはずの刀身が、いつの間にか出現していた1本の剣に防がれていたからだ。

 

「ただ使い捨ての駒として生きてるお前と…」

 

「貴様…!?」

 

「他の誰でもない、1人の人間として生きているアイツと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイト・T・ハラオウンと、一緒にしてんじゃねぇよ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ズバァァァァァァァァァァァァンッ!!!-

 

「が、ぁ…っ!?」

 

出現した剣を左手で掴んだロキは、そのまま機械の刀身を真っ二つに斬り裂いた。その斬撃はゴルドフの上半身をも斬りつけ、鮮血が舞うゴルドフをロキの拳が殴り飛ばす。

 

「ッ……馬鹿な、何故…!!」

 

「俺じゃお前には勝てないって? 確かに、俺じゃお前のスピードには追いつけそうにねぇ……だから少しばかり卑怯な手を使う事にした。実力不足なのが悔しくてしょうがねぇが、命あっての物種って奴だ」

 

ロキは左手に握っていた剣を右手に持ち替える。それと共に、握られていた剣の刀身が輝き始める。

 

「悪いな。俺にも死ぬに死ねない事情がある……テメェはもう、俺の攻撃は何一つ防げやしない」

 

「貴様……言ってくれたものだな!!」

 

負傷してもなお、ゴルドフは先程と変わらないスピードでロキの周囲を動き回り始める。たとえどれだけ力が残っていようとも、今のロキは全身に回った毒で限界寸前、おまけに視界も歪んだ状態。自身が勝つ事は明白だとゴルドフは認識していた。

 

(ならば防いでみよ、この俺の一撃を…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その認識が間違っていた事を、ゴルドフはすぐに思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――は?」

 

ロキの振り下ろした剣が、ゴルドフの右腕を斬り落としたからだ。

 

「な、何…」

 

「我が思いに応えよ……我に仇名す者へ報復せよ……」

 

「!? ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

ロキの繰り出した突き技が、機械の左腕で防ごうとしたゴルドフを壁まで吹き飛ばす。血を吐きながら膝を突くゴルドフの前に、両手で剣を構えたロキが立ちはだかる。

 

「“フラガラッハ”……またの名を“アンサラー”よ……我が敵を討ち、我が思いに応じてみせよ…!!」

 

魔剣フラガラッハの刀身は、その言葉に応えるかのようにキラリと輝いてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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