天の御遣いとして義勇軍を率い黄巾党を蹴散らす日々は終わり、俺は華琳の配下に加わる事に。
ただし配下というのは建前上の名目であり、実際の間柄は盟友といったところだろう。
まぁ、俺にとっては配下だろうが盟友だろうがどちらでも大差はない。
華琳や風達と共に乱世を生き抜き、そしてこの不可解なループの原因を突き止め抜け出す。
その目的を果たす為、俺は前に向かって進んでいくだけなんだから。
……等とちょっぴりシリアス風に決めてみたはいいものの、
「北郷 一刀……そ、そう。それが貴方の名前なのね。て、天の御遣いに恥じない素敵な名前じゃないの」
「ど、どうも、曹操さん」
「………私の真名は華琳よ」
「え?」
「な、何よ……私の真名は呼べないっていうの?」
一体これはどうなってるんだ?
恋姫†無双 終わらぬループの果てに
第13話 21週目 その5
21周目の世界で出会った華琳はハッキリ言って変だった。
初対面で俺の顔を見ていきなり顔を真っ赤にして黙り込んでしまった彼女。
その後普段の調子を取り戻したかと思いきや、
先程のような発言を恥ずかしそうにしつつも上目遣いで繰り出してくる。
もう正直堪りません。
「華琳様! 何故こんな下賤な男に真名を…「誰が下賤な男ですって? 死にたいのかしら、桂花?」…ヒィ!?」
しかしその一方、いきなり真名を許した事に抗議した桂花に問答無用で絶を突きつけるという問題行動も。
この件については後で華琳本人がちょっとした冗談だったと釈明したが、どう見ても目がマジだった。
それはこれ以降、桂花が華琳の前で俺の暴言を吐かなくなったことでその本気具合が窺える。
こうなってくるともしかしたら俺の事を覚えているのでは…とも思ったが、どうやらそういう訳でもないようだ。
何が何だか分からなくなった俺はとりあえず風と相談する。
「風、これはどういう事なんだ?」
「どうやら華琳様はお兄さんに一目惚れしてしまったようですね~」
俺の問いかけに対し、お兄さんを愛する者だからこそ解ります、と自信満々に告げる風。
そうキッパリ言われると悪い気はしない…というかちょっと気恥ずかしい。
いやいや、恥ずかしがっている場合じゃない。
「一目惚れって、あの華琳がか?」
風の意見は俺も全く考えなかった訳ではない。
しかし、過去のループ世界での華琳を知っている身としては違和感がありすぎた。
言っちゃあれだが、一目惚れなんてのはどう考えても華琳のキャラじゃない。
「それ以外に説明のしようがありません」
「しかし仮に一惚れだとしても、それはそれでおかしいと思うんだけど……」
女の子としての華琳は基本的に寂しがりやで甘えん坊で嫉妬深く、そして時折ツンデレを発揮する。
だけどそれを見せてくれるのはかなり親しくなってからの話であり、
それも俺と二人っきりの時や風などの嫉妬の対象がいる場合に限られていた。
したがって今回のように不特定多数の人間がいる前で女の子としての自分を晒すような真似は絶対にしない。
「まぁ、現時点では判断材料もほとんどありませんから色々考えても無駄だと思いますよ~?」
どんどんと深みに嵌っていきそうになる俺とは対照的に楽天的思考の風。
だけど彼女の言うとおり、今これ以上の事を考えても無駄かもしれない。
(ループの影響が変な感じに作用した、ということで納得しておくしかないのかもな)
(例え華琳様がお兄さんに一目惚れしたところで、もはや風の優位は揺るぎませんからね~)
「ん? なにか言ったか?」
「いえいえ、なんでもありませんよ~♪」
……などと安易に割り切ってはいけない事を俺"達"はすぐに思い知らされた。
「一刀、今夜は私とね……閨を、共になさい」
城に戻った後で開かれた会議終了直後、顔を赤くした華琳の口から飛び出したとんでもない爆弾発言。
出会ったその日にいきなりベッドインですか?
華琳ならあり得ない話でもないけど、やっぱりありえないだろ。
「いかに華琳様といえどそのような出鱈目は認められませんね~」
その発言を春蘭や秋蘭、桂花達が驚きの声を上げる前にキッパリと却下する風。
道中に見せていた穏やかな笑顔はなりを潜め、決戦を前にした軍師のそれに変わっている。
「………どうして貴女にそんな事を言われないといけないのかしら?」
そして即行で却下されたのが癪に障ったのか、乙女から一転覇王モードに切り替わる華琳。
対象が俺以外の人間に移った途端、この切り替えの速さ。
見事というかなんというか……とりあえず風に負けず劣らず怖い。
「決まってるじゃないですか。お兄さんは風のお兄さんだからですよ~」
「あら、それは知らなかったわ。でも、一番大切なのは一刀の意思ではなくて?」
「確かにそうですね。
ですが、結果が解っているにも関わらずお兄さんに無駄な手間をとらせる訳にはいきません」
「……それはどういう意味かしら?」
「……風と華琳様なら、お兄さんは間違いなく風を選んでくれるという事です」
言葉が飛び交うたびに空気が凍りついては砕け散るという衝撃の光景。
華琳も風も既に目の前の相手以外眼中にないらしく、完全に2人だけの世界に入り込んでいる。
それにしても驚きなのは華琳だ。
「そもそもお兄さんと風は身も心も許し合った深い関係にあるんです。
今更華琳様が入る余地なんてこれっぽっちも存在していませんよ~」
「それほど深い関係だというのなら、一晩くらい別の女と過ごしても何の問題もないのではないかしら?
それとも深い関係というのは口先だけで、本当は自信がないの?」
今までなら早々に言い負かされて破壊神となっていたというのに、未だ舌戦は互角。
ついさっきの風の台詞だって前のループじゃ一発でブチ切れた可能性もある必殺ワードだ。
それを涼しい顔で軽やかに受け流したばかりか反撃まで行うとは。
「まぁ、貴女のその貧相な身体では無理もないでしょうけどね」
「………華琳様だって人の事は言えないと思いますが?」
「確かに春蘭や秋蘭と比べたらそうでしょうね。でも、私は貴女と違って幼児体型ではないわ。
一刀だって触ればすぐに違いが解るはずよ?」
「っ……お、お兄さんは風のような体形が好みなんです!」
「他に選択の余地がなかっただけでしょう? 一刀も可哀想に……クスッ」
て、なんか華琳が優勢になってきてないか?
あの風が口で華琳に押されてるのなんて初めて見たぞ。
「……一刀様、今のうちに避難しましょう」
「え? 凪?」
なんだか面白い展開になってところで不意に服の袖をひっぱられたと思ったら、
少し顔を青くした凪が俺のすぐ傍に立っていた。
その呼びかけで俺は初めて俺達以外の全員がこの部屋から出ている事に気づく。
みんな早々に退避したか。
「今はまだお互いにしか意識が向いていないようですが、
このままここにいては一刀様まで巻き込まれてしまいます」
「……確かにその可能性は高いな」
凪の指摘はもっともだった。
この舌戦が平行線のまま続けられれば、おそらく最悪のタイミングで俺に話が振られるだろう。
そうなってしまえば俺に死亡以外の選択肢はなくなってしまう。
「だけど、ここで2人を放置するのも危険だと思うんだが……」
「それでもこのままこの場に留まっているよりは良いはずです」
「う~ん……」
とりあえずこの場に残った場合と逃げた場合を頭の中でシミュレートしてみる。
「うん。凪、行くか」
「はい!」
こうして結論を出した俺は、凪と共にそそくさと広間を後にしたのだった。
それにしても他の連中が我先にと逃げ出していく中でわざわざ声を掛けてくれるとは、さすが凪だ。
(戦いは力押しだけでは勝てない……そうでしたよね、風様)
「ん? 凪?」
「いえ、なんでもありません」
一瞬、凪が妙に勝ち誇った顔をしたように見えたのは気のせいだろうか?
というか凪、別に腕を組んで引っ張らなくても自分で歩けるから。
そんなこんなで俺が華琳の陣営に加わってから一月ほどが経過。
正式な部下となった凪、沙和、真桜と旧義勇軍で構成されている北郷隊を率い、
俺は黄巾党討伐に精を出していた。
それに伴い同じ部隊の凪達3人のうちの誰か、もしくは全員で一緒にいる事が多くなった。
「一刀様、こちらです!」
「もぅ、一刀さん遅いの~」
「先に行くところやったでぇ?」
今日も今日とて4人一緒に夕食を食べる約束。
待ち合わせの場所に到着するのが遅れてしまったが、3人ともちゃんと待っていてくれたようだ。
「ちょっと華琳に呼び出されちゃってね、遅れてごめん」
「「「!!!」」」
遅れた理由を正直に告げながら3人に謝る俺。
しかし3人はその理由を聞き過剰なまでの反応を見せた。
何故に華琳の名前を出しただけでそこまで動揺するんだろう?
いや、風の名前を出した時も同じような反応だけどさ。
「……任務かなにかですか?」
「いや、多分その系統の話じゃなかったと思う」
「多分?」
「なんで話聞いた一刀はんが疑問形やの?」
「華琳が話し始める前にいきなり風が乱入してきたからな。あとはいつもの如くだ」
「「「ああ、なるほど」」」
詳しく言うまでもなく一同納得。
なにしろ合流初日以来、風と華琳は暇さえあれば言い争いをしている状態なのだ。
しかもこの世界の華琳は風と互角に渡り合えるため、舌戦も一段と激しさを増している。
2人とも仕事の最中は自重してくれているのがせめてもの救いだが、
現在の華琳の性格を考えればそれもいつまで保つのか解らない。
万が一戦闘中なんかに私情を挟み仲違されたら……
いかん、考えれば考えるほどにマイナスの要素しか見えてこない。
内部崩壊による敗北なんて洒落にならんぞ。
「うん、こんな時は開き直るしかないな」
「一刀様? 突然どうなさったのですか?」
「いや、何でもない。それより今日は俺が奢ろう。食べたいものがあったら何でも言ってくれ」
「えっ、いいの~?」
「もちろん。3人にはいつも世話になってるし、これくらいはさせてくれ」
「さっすが一刀はん! よっ、太っ腹!」
凪は若干不思議そうに首をかしげていたが、残りの2人は奢りという発言にバッチリ食いついてきた。
こんな時は開き直って目の前の事を楽しんだ方がいいに決まってる。
問題を先送りしてるだけだなんて意見は断じて認めないからな?
それにこの3人に世話になっているのだって嘘じゃないし。
「ははっ、何しろ3人は俺にとって掛け替えのない存在だからな」
主に風と華琳の争いに巻き込まれる哀れな俺の癒やし的な意味で!
「「「ッ!? か、一刀様(さん)(はん)……」」」
「さぁ、俺達4人の絆をもっと深めるため、食事に行こうじゃないか!」
「「「はい!!!」」」
うん、さすがは凪達。
全員ノリが良くて頼もしい限りだ。
こうなったら今日はとことんハメを外して騒いじゃうぞー!!!
「凪達と一緒に高級料理店で夜通し宴会、ねぇ?」
「凪ちゃん達と随分イロイロな事をシて楽しんだみたいですね~、お兄さん?」
翌日、俺は王座の間にて正座させられ華琳と風の2人からネチネチといびられていた。
ていうかお前ら、普段あれだけいがみ合ってるくせになんで今回はコンビネーション抜群なんだよ。
「「聞いているの(ですか)、一刀(お兄さん)」」
「はい、聞いております。私が全面的に悪いんです。ごめんなさい」
こんな事でバッチリ協力されても全然喜べねぇよ、ちくしょう。
ちなみに酒の勢いはあったけど、ちゃんと双方同意の上だったんだからな!
「「………………」」
………orz
あとがき
どうも、『ささっと』です。
何故か一刀に一目惚れした強化?華琳様と風の激闘。
2大巨頭の陰で漁夫の利を得る三羽烏。
ストーリーが進んだようで全然進まなかった第13話でした。
Q.どうして華琳様は風に言い負かされないの? ていうかそもそも性格変わってない?
A.全ての原因は謎の補正による一目惚れです。
Q.こんなの華琳様じゃねぇ! 作者出てこい!
A.お帰りの際はウィンドウを閉じて私もろとも全てを忘れてください。
Q.で、次回は? 恋は出てくんの?
A.恋登場は確定済み。しかし彼女も………
Q.やっぱり風タソ萌え!!!
A.それがジャスティス!!!
コメント、および支援ありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
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P.S.最近『あと1ターン……あと1ターンしたら寝よう……あと1ターンだけ……フヒヒ』が口癖。
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黄巾党の大軍団を追い払い秋蘭達と合流した一刀は、そのままこの世界の華琳と対面する事になった。
しかし出会った直後に華琳が見せた反応は……