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真・恋姫無双~魏・外史伝36

 こんにちわ、アンドレカンドレです。
 投稿が遅くなりました。ここ最近、夏バテ気味で朝夜逆転
しています・・・。三日前に前期試験の結果が出ました。結果は全て通っていましたので、再試を回避しました。ですので問題なく投稿できます・・・、やったねwww。
 前回、新たな鎧を手に入れて心機一転した一刀君。これからどんな活躍をしていくのか・・・?
 それでは、真・恋姫無双 魏・外史伝 第一五章~道化芝居の果てに・後編~をどうぞ!!

2009-08-30 13:25:50 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4956   閲覧ユーザー数:3684

第十五章~道化芝居の果てに・後編~

 

 

 

  魏領の長安より西、蜀と魏の国境付近を流れる黄河の支流の一つ、渭水の南岸の台地またの名を

 五丈原。正史では三国時代後期、第5次北伐の時、諸葛亮率いる蜀と司馬懿率いる魏が戦った地である。

  五胡の軍勢がこの渭水を渡河する前に、俺達は接敵する事が出来、この五丈原にて両軍が激突した。

 最も春蘭達が五胡に遅れを取るはずも無かったが・・・。そして俺は魏軍本陣にて・・・。

  「なぁ・・・、華琳。」

  「何、一刀?」

  俺はふと思いついた疑問を側にいた華琳に話しかけた。

  「いや、俺達が戦っている五胡の目的って何なのかなって思ってさ・・・。」

  「そうね・・・、あなたはどう思っているのかしら?」

  華琳に逆に問われる俺・・・。俺も何も考えていないわけでは無いが・・・。

  「最初は・・・、蜀の北部から侵攻してきている五胡の動きに呼応して・・・とも

  考えていたけど、それにしては少し対応が遅いというか。」

  五胡といっても、それが1つの国としてではなく、複数の外国の総称であり、必ずしも涼州の

 部族連合の様に同盟を組んでいるわけではない。だから、次に考えたのは蜀に侵攻している五胡に

 先を越されまいと、別勢力の五胡が動いたのかとも考えたが、わざわざ魏を横切って蜀に侵攻する

 必要性がない。俺達の警戒網をくぐり抜けて、魏領のど真ん中に出現したのだから、そのまま洛陽

 に軍を進めた方がメリットがあったはず。俺達に背を向けて蜀に侵攻する事自体に何のメリットも

 無い気がした。

  そんな俺の思考を読んでいるかのように、華琳は口を開く。

  「となれば、数多ある利を捨ててでも蜀に入らなくてはいけない理由があるんでしょう。」

  「今の蜀にそれだけの価値があるのか?色んな勢力が入り込んでかなり混乱しているのに?」

  話を聞くだけでも、蜀には蜀軍、正和党、五胡、正体不明の武装集団の勢力が集中している

 群雄割拠状態・・・。そんな中に割り込んでさらに混乱するだろうに・・・。

  「・・・例えば、私達の目を蜀に向けさせるために・・・とか?」

  「それって、おかしくないか?」

  華琳の言っている意味が分からなかった。五胡がそんな事する必然性は無いだろ。

 言われてみれば、五胡の動きを知るために、蜀の情勢にも目が向けられてはいたけど・・・。

  「あなたがここに戻って来てから、おかしな事が立て続けに起きたのだもの。

  もう何が起きても驚きはしないわ。」

  「順応性高いのな・・・。仮にそうだとして、向こうの利はどこにある?」

  「そうね・・・、腑に落ちないわね。」

  おいおい・・・。自分で言っておいて腑に落ちないとか・・・。

  「腑に落ちないといえば・・・、正和党の反乱も腑に落ちないわね。」

  そして話題の切り替えですか・・・。でも、確かにこの件も腑に落ちないのは確かだ。

  「戦況は終息に向かうどころか、どんどん泥沼化している。しかも劉備さん達に劣勢

  な形で・・・。」

  「桃香達の相手は今や正和党だけでなく、五胡に正体不明の集団と増えてしまったの

  た上に愛紗という主戦力の損失、彼女達も対応しきれていないのでしょうよ。逆に

  正和党からすればこの状況は好機以外のなにものでもないわ。」

  混乱しているって事は隙が出来るって事だ。それは攻めやすい状況を作り事に他ならない。

  「後ろから吹いてくる風に乗らない手はないからなぁ・・・。偶然にしては出来過ぎ

  だけどな・・・。」

  とはいえ、この状況あまりにも一方的過ぎる、そこに何か悪意を感じる、というか何というか

 ・・・。どれも偶然の類でしかないけど、ここまでタイミング・・・時期が重なって起きている

 となると、それはもはや偶然じゃなくて必然としか思えない。意図的に劉備達を陥れようとする

 誰かがそうなるように仕組んでいる・・・、そんな気がしてならない。

  「華琳・・・。」

  「あなたが言いたい事は分かっているわ。偶然の重なり・・・、そんな言葉で

  片づけるには、この戦い・・・浅はかなものでは無いわ。」

  華琳の奴・・・、本当に俺の心を読んでいるんじゃないか?

 とそこに一人の兵士が陣に入って来る。稟がその兵士の話を聞き、その内容を華琳に報告しにきた。

  「華琳様、五胡の軍勢が撤退を開始したようです。既に夏侯惇隊、張遼隊、楽進隊が

  追撃の準備をしているようです。このまま追撃させますか?」

  「追撃の必要は無いわ。そのまま陣に帰還するよう伝えて頂戴。」

  「はっ!」

  稟は報告に来た兵士にその指示を伝える。兵士は俺達に一礼すると急いで陣を出て行った。

  「華琳様、この後は如何なさいますか?」

  桂花が今後の行動について華琳に尋ねると、

  「その事だけど、私は成都に向かう事にしたわ。」

  華琳はさらりとそう答えた。

 

  蜀・・・、北では五胡の侵攻を食い止めるべく、馬超、馬岱、黄忠、公孫讃、雛里が奮戦し、南では

 正体不明の武装集団に対処するべく、追撃する孫策達と合流しようとした趙雲、呂布、陳宮は消息を

 断った・・・。そんな中、劉備率いる本隊は主戦力を失い、さらに軍神・関羽が正和党に敗北したと

 いう結果は蜀軍内に浸透、関羽将軍を倒した連中に自分達が勝てるはずが無いと言った、不安が

 高まり、軍を抜ける兵士が後を絶たない・・・、遂には正和党に寝返る者も現れる始末であった・・・。

 その結果、蜀軍本隊は敗走を繰り返し成都まで撤退していた。正和党は成都より数里先の広漢の

 防衛拠点にて成都攻略の態勢を整えていた。

  

  「ここまで来てしまったか・・・。」

  拠点の一室・・・、恐らく拠点の一番偉い人間が使うような大きな執務室に廖化が一人、部屋の

 椅子に腰を掛け、執務用の机に両肘を乗せていた一人溜息交じりに呟いた。

  「正直・・・、ここまで戦況をひっくり変わろうとはな。」

  最初は自分達の言い分を通すため、逆賊の汚名を着せようとした蜀、そして劉備達に自分達の所業

 を認めさせるために反乱を起こした。戦力ではこちらが圧倒的に劣勢であった。奇襲を中心に各拠点

 を落としてきたが、大した戦果とはならなかった。とはいえ、このままでは戦力差に押され、自分達

 の敗北は火を見るより明らかであった。そうなっては、それこそ逆賊として葬られてしまう・・・。

 それでは本末転倒だ。

  「一か八かの賭け・・・、樊城に陣を張った関羽を討ち取るという作戦。

  まさかああも上手くいくとは思いもよらなかった。」

  形勢を押し返すための関羽を倒す・・・、そのために樊城衆周囲の地形を徹底的に調べ、天侯の

 流れ、防衛拠点に陣を張った関羽隊の数も調べた。その結果からあの水攻めの策を提案した。

 しかし、この作戦は関羽をいかに水攻めを悟られないかが重要な点であった。そのために拠点前に

 大きく展開し、舌戦、攻城戦と注意を背後の河川からこちらに向けさせる。そして関羽は見事、

 こちらの術中にはまった。水攻めによって関羽は部隊の大半を失い、撤退を余儀なくされた。

  そして麦城での撤退戦・・・、関羽一人が自分達の前に立ち塞がり兵達の撤退の時間を稼ぐため、

 殿を務めた。それはあまりにも愚行、たった一人で自分達を相手にする・・・軍神と謳われるばかり

 に生まれた彼女の過信から出た行動・・・。とはいえ、彼女の武はまさに軍神が如く。党員達の

 一斉攻撃にひるむ事無く、果敢に立ち向かって行った。関羽雲長の実力は本物だった・・・、過信

 するだけのことはある。そんな彼女を倒したのが、あの姜維であったのだから自分は驚きを隠せなか

 った・・・。

  姜維は幼いながら、その武を開花させ、今では党の主戦力になる程までに成長した。とはいえ、

 あの関羽に致命傷与えるまでに成長していようとは思ってもいなかった。しかし、一方で不安である。

 あの時、姜維は自分の過去の事を、その怒りの中に混じらせていた・・・。

  俺が姜維と初めて出会ったのは、二年前・・・蜀の八珂村だった。偶然にもその近くを通りかかった

 俺と俺を慕って付いてきた仲間達は山間を赤く染めているのを見つけた。急ぎ、その方向に足を速める

 と俺達の目に映ったのは、あまりに悲惨なものであった。小さな村が何処かの軍の残党に襲われ家々が

 燃え盛っていた、そして地面に転がる村人達。残党の人間達の手には金銀財宝・・・とまではいかない

 金目になりそうなものを持っていた。俺は迷う事無く、剣を取り、残党共を斬り捨てた。俺達は村の中

 を駆け回り、村の生き残りを探したが、見つかるのは死体のみ。村の人間は皆、奴等の手に・・・、と

 思いかけた時だった。残党の兵士二人に襲われていた少年を見つけたのだ。その少年こそ、姜維だった。

 彼を助け出した俺は腰を抜かしている彼に手を貸そうとしたが、それを振り払ってどこかへと走り出す

 ので俺も急いでその後を追いかけたが姿を見失う。が、すぐに彼の居所が分かった。どこからともなく

 少年の叫び声が聞こえる。その声を辿って行き着いた先は、一件の家。その家の中に彼はいた。その腕

 に幼い少女の死体を抱きかかえながら、大粒の涙を流し泣いていた・・・。その少女が彼の妹で、彼の

 家族も殺されていたのだった。

  数刻後・・・、闇夜から太陽の光が射し込み、朝になった事を俺達に教えてくれた。

 燃え盛っていた火は鎮まった頃・・・、俺達は村人の死体を村の中央の地面に埋めて埋葬した。

 姜維もまた自分の家族を埋めた、その手で・・・。その姿に俺達は掛ける言葉が無かった。これからこの

 少年はどうしていくのだろうか・・・、そんな事を考えていた。因みに、残党の兵士達は近くの林の中に

 埋めた。その時、奴等が劉璋軍の人間であった事が分かった。確かあの時期、劉備殿が入蜀して間もない

 頃だった・・・。

  村人達を埋葬した後、その村を後にした。姜維と共に・・・。

 行く場所を失くした彼は俺達と共に行く事を選んだのだ。私は彼に生きる術、戦う術を教えた。

 最初は、家族と家を失って間もないせいもあり、欝状態に陥っていたが、俺達と触れ合う度に彼本来の元気

 な姿を取り戻していった。それと同時に、彼は劉備殿を憎むようにもなった。彼女が入蜀したせいで村は、

 家族が死んだと・・・、そう思っているのだろう。そしてその思いは今回の戦いでさらに大きくなっている

 のが見て分かる。俺はこのまま憎悪に身を任せて戦い続ける事を彼の姿を想像すると、不安になて仕方が無い。

  「果たして、このまま・・・成都に向かうべきなのか。それとも現状を考え、彼女達と共闘して外敵と

  戦うべきなのか・・・。」

  俺とて、この国の現状を知らない訳では無い。劉備殿達がどのような状況にあるのかも・・・。

 しかしそれは俺達にとっては好機である事もまた事実。党内でも、徹底交戦を推す者と、現状を考慮して

 停戦を推す者と二分している。今の所は前者の方で話を進めているが、まだ決断出来ずにいた。

  「あなたが廖化って人かい?」

  「っ!?」

  突然、後ろから声が掛かる。一体いつの間にこの部屋に入って来たのだ。

  「貴様、何者だ。」

  俺は取り乱さないよう、そう聞いた。

  「僕の事なんかどうでもいいじゃない?」

  「では、俺に何用だ?」

  俺は質問を変えた。

  「別に僕はあなたに用があるわけじゃないよ。伏義があなたを連れて来てくれって頼まれただけさ。」

  「何だと・・・。」

  あの男が俺に何の用だと言うのだ。巴郡の一件から姿を現さなくなったあの男が今さら・・・。

  「奴は何処にいる?」

  「今からそこに連れていくんだよ?」

  そう言って、そいつは俺に左手を伸ばしてくる。

  

  「一体何があったんですか!?」

  「姜維か!奇襲だ、蜀軍が奇襲して来た!!」

  広漢の拠点・・・、そこに陣を張っていた正和党は蜀軍と思われる伏兵に奇襲を受けていた。

 突然拠点前に姿を出したため、対応に遅れた。党員達は急ぎ攻城戦に入る。姜維は他の党員達に混じって、

 城壁の上で伏兵の対処に協力していた。

  「この事を廖化さんは!?」

  「今、別の党員に知らせに向かっている!」

  「分かりました!」

  そう言って、姜維は慣れない手つきで弓を引き、城壁下の兵士達に矢を放った。城壁の上下共に矢の

 撃ち合いが展開される。しかし、数は圧倒的に正和党の方が上であった。伏兵達だけでは相手の虚を突く

 事は出来ても、攻略までは難しい・・・。

  「おい!連中の増援の様子は!?」

  「成都方面から増援が来る様子はまだありません!!」

  「攻城兵器を所持していない所を見ると、この後増援として来るか・・・、もしくは時期を見計らって

  撤退するか・・・。そのどちらかになるが・・・。」

  とそこに、一人の党員が息を切らしてやって来る。

  「た、大変だ!廖化さんが・・・、廖化さんが・・・!!」

  「落ち着け!廖化さんが一体どうしたというんだ!」

  「・・・廖化さんが何処にもいないんだ!全部の部屋を探したんだが、何処にもいないんだ!!」

  「何だって!それは本当なんですか!?」

  近くにいた姜維がその党員に確認する。

  「ああ、間違いない!それと、廖化さんの部屋にこれが!!」

  そう言って、党員は手に持っていた二つに折られた紙を姜維に手渡した。姜維はその紙を開く。

 そこには文字が書かれていた。姜維はその内容を読んでいると・・・。

  「おい!蜀軍が撤退していくぞ!!」

  攻城戦に参加していた党員が大声でそう言うと、他の党員達も城壁下を見る。その言葉通り、伏兵の兵士達

 は撤退していく。

  「一体・・・、連中の目的は何だったんだ?」

  伏兵達が撤退していく方向に目をやるが、砂塵は見えない。

  「増援の様子は無い・・・。となると、俺達が成都に行くのを遅らせるためか?それとも・・・。」

  「奴等は目的を果たしたんだ・・・。だから撤退した。」

  「何を言っている、姜維?」

  突然、姜維が話が分からない事を言い出す。党員は姜維に聞き直す。すると、姜維は手に持っていた紙を

 手渡した。党員はその紙に書かれた内容を見る。

  「奴等の狙いは、俺達じゃなかった・・・。狙いは廖化さん一人だったんだ!!」

  周囲にいた党員達は姜維の言葉に驚く。そして、手紙にはこう書かれていた・・・。

  『廖化は預かりました。返してほしくは成都まで来て下さい。待っています。』

  ただそれだけが書かれていた。頭領の無き正和党はその頭領を取り戻すべく、急ぎ成都へと向かった。

  

  その頃、成都の街。

 つい数日前まで多くの人達で賑わっていたはずが、今ではその面影はなく、戦に巻き込まれまいと街の人間の

 多くは別の土地へと避難し、街には人の姿はほとんどなかった・・・。耳を澄ませば、家々の隙間風が聞こえ

 てくる。今、街の中には蜀軍の兵士が来るべき戦いに備え、闊歩していた・・・。

  そして城内の王宮では、今後の対策を立てるべく、桃香、朱里、鈴々、桔梗、焔耶がいた。

 なお、桔梗と焔耶は成都の留守を任されていた・・・。

  「戦況は・・・、余り芳しくないようですな・・・。」

  桔梗は朱里達から現状を聞き、溜息をつきながら答えた。

  「くっ・・・、私が戦場に出ていれば・・・、こんな事には!!」

  握り拳を震わせながら、声を荒げる焔耶。

  「お前がいたって、たいして変わらないのだ。」

  その横で口を尖らせて付け加える鈴々。

  「何だとぅっ!!」

  「はわわ!二人とも喧嘩しないで下さいよ~!」

  鈴々と焔耶が喧嘩しないよう、朱里が間に入って仲裁する。敗走に敗走が重なり、彼女達に余裕がない

 証拠である。

  「翠ちゃん達の方は・・・まだ戻ってこれないのかな?」

  桃香は別行動を取っている翠達の動向を朱里に尋ねる。

  「まだ五胡の攻勢が緩まないようでして・・・、やっぱり戦力差が響いているんだと思います。」

  「そっか・・・、それじゃあ星ちゃん達は・・・?まだ連絡は取れない?」

  朱里は首を横振る。

  「残念ですが・・・。」

  「そっか・・・。」

  そして俯く桃香。

  「お姉ちゃん、大丈夫なのだ!あの星のことなのだ!きっと、大丈夫なのだ・・・。」

  「・・・そうだね。」

  鈴々の励ましに、桃香は笑って返したが、その笑顔には元気は無かった・・・。

 まだ愛紗の事を引きずっているようである。愛紗の生死は未だに確認出来ずにいた事もあり、その不安は

 一層強くなる一方であった。

  「桃香様・・・。」

  桃香の身を案じる朱里。

  「うん、大丈夫・・・。」

  その朱里の言葉に答える桃香。

 

  『不様だなぁ・・・、劉備!関羽が今のお前の姿を見たら、さぞかし失望するだろうなぁ。』

 

  「えっ・・・!!」

  「な、何なのだ!?」

  王宮内に響き渡る聞こえる男の声・・・、その姿を探すべく王宮内にいる桃香達と兵士達は武器を構えて

 周囲を見渡す・・・。

  

  『だが・・・、それが現実だ。所詮貴様はそこまでの器だったと言う事だ。大した器でもないくせに虚勢

  を張るから、人の怒り憎しみを受け止めきれず器から溢れ出てしまう。』

 

  「何処に隠れている!姿を出せぇ!!臆病者が!!」

  焔耶も自慢の大金棒を構え声の主の姿を探す。

 そして、王宮の一本の柱の陰からぬっと出て来る・・・。

  「・・・そして大事なものさえもだ。」

  桃香達はその男の姿を捉える。兵士達は武器の切っ先をその男に向け、牽制するが男は怯える様子も無く

 何事も無い様に桃香達に飄々と近づいて行く。

  「貴様、何者だ!!」

  男に名前を聞く焔耶。男はニヤッと笑った。

  「俺に名前は無い・・・。仲間内では伏義と呼ばれている。」

  歩みを止めない伏義。そんな彼の行動に耐えかねた焔耶は自分の得物を振り上げようしたが、それを桃香

 に止められる。そして桃香は兵士達より一歩前に出る。

  「伏義さん・・・、あなたはここへ何をしに来たんですか?」

  「何をしに・・・?舞台の進行を早めるためだ。」

  「進行を?」

  「早めるだと?」

  「うにゃぁ?」

  「だが、まだ肝心の役者が揃っていない。」

  「ぐはぁっ!」

  突然、伏義の背後で男の叫び声が聞こえる。そちらに目を逸らすと、そこには何故か廖化が倒れていた。

  「おっちゃんっ!?」

  「廖化さん、どうしてここに!?」

  彼の姿を見て、鈴々と桃香が反応する。その声に気が付いたのか廖化が首を上げる。状況が理解出来ない

 のか、その目を大きく見開いて驚きを隠せない。彼の視線は桃香達から伏義の方にずれる。

  「劉備殿・・・、張飛殿・・・。・・・伏義!貴様、何を企んでいる!!」

  廖化の言葉が聞こえていないのか、伏義は顔を後ろに向けない。

  「仕事が早いな、女渦?」

  伏義がそう言った瞬間、さらに後ろから男が突然現れる。

  「仲間想いだからね、僕。君の力になりたくてさ。」

  「ふんッ、お前が言うなよ・・・!」

  「じゃあ伏義。僕、忙しいから帰るね。」

  そう言い残して、女渦は左手で自分の胸を触ると、その姿が一瞬にして消えた。

 その怪奇現象にその場に居合わせる者達の間に動揺が走る・・・。

  「き、消えたのだ・・・!」

  「奴は妖術でも使ったのか?」

  「妖術・・・か。まぁ、言った所で・・・お前達には到底理解出来ない事さ。」

  「はわわ・・・。」

  「さて・・・舞台の役者が揃った事だ。そろそろ話を始めるとするか。」

  「あの・・・、さっきからあなたの仰っている事が分からないんですが・・・。」

  そう桃香が答えると、伏義が面倒臭そうと言いたげな顔をする。

  「茶番だよ・・・。」

  「え・・・?」

  伏義の言葉に困惑を隠せない桃香。そんな彼女に気を掛ける事無く話を続ける。

  「お前達は踊っていたのさ。」

  「踊っていた・・・とな?」

  困惑する桃香に代わって、桔梗が聞き返す。

  「そう、お前達は俺が作った舞台の上で踊っていたってわけだ・・・!俺が書いた脚本の通りにな・・・。」

  「脚・・・本・・・だと?」

  焔耶は伏義の口から出た言葉の中で最も気になった単語を口に出す。

  「お前はおかしいとは思わなかったのか・・・?

  街一個が焼失する程の大火災!正和党がお前達に喧嘩をふっかけてきた事!関羽の敗北!

  五胡と謎の武装集団の同時侵攻!これだけ見ても、これらがただの偶然の出来事だと・・・、

  まさかそう思っていたのか?」

  くくく・・・と喉を鳴らして笑う伏義。そんな不真面目な態度が桔梗の癪に障った。

  「聞き捨てられんなぁ。それではまるで、自分がそうなるように仕向けたと、そう言いたいのかのう?」

  「そう言ってるのさ。」

  桔梗の言葉をそのまま返す伏義。つまり、この男がこの戦いを裏で糸を引き、戦いを起こした張本人だと

 認めた瞬間であった・・・。

  「そんな・・・!そんな事、出来るはずがありません!!」

  「はっ・・・!ありえない?それは貴様の常識での話だろう!?伏龍といえどその知謀ってやつもお前等

  の常識の範疇でのもの・・・。それ以上の事になれば測る事など出来ないってことさ・・・。」

  そう言って、伏義は朱里を睨みつける。

  「はわわ・・・。」

  その睨みに、朱里は蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。

  「だが、俺としてもここまで上手く踊ってくれるとは思いもしなかった。序幕である巴郡での一件、

  ここでの結果次第で、最悪脚本を大きく書き換える羽目になるだろうと覚悟していたが・・・。」

  「えぇっ!?」

  「何だとっ!?あの一件に貴様が関与していたというのか!」

  桃香と廖化が同時に驚く。そんな二人を声に出して笑う伏義。

  「街に火を付けただけだけどな・・・。後、あの街にいた兵士達を使って混乱するようにした程度だがな。」

  「兵士達を使って?どういう事・・・。」

  「兵士達に街の人間を襲わせるように仕向けたのさ。それを正和党の連中に目撃させ、兵士を殺させる。

  そして今度はそれを後から来た蜀軍が目撃して、また戦いがおこる。そんで中途半端に終われば、今度は

  互いを犯人だと疑い始める。」

  「そんな計画、上手くいくはずがない!!皆が街の人を襲うはずが無い!」

  伏義の言葉を頑なに否定する桃香。しかしその反面、廖化の顔は浮かばない・・・。

  「だが、事実蜀軍の兵士が街の人間を襲っていたのを見た者がいた・・・。」

  「そんな事・・・!何かの見間違いです!!」

  先程から否定してばかりの桃香にククッと笑う伏義。

  「見間違い?それを言うなら、馬岱が見たって言う、正和党が兵士達と街の人間を

  殺していたっていうのも見間違いだろうが?」

  「え・・・?」

  桃香は廖化から伏義に急いで視線を変える。

  「そしてその見間違いからお前達は正和党が犯人だと断定したんじゃないか?」

  「ですが、そんな行き当たりばったりで一か八かな計画が上手くいくはずは・・・。」

  蛇睨みからようやく解放された朱里は伏義の計画に反論するが、伏義はそれがどうしたと言わんばかりの

 顔をする。

  「だが、事実上手く行っただろうが。馬岱と姜維の馬鹿な餓鬼達の活躍で予想以上の

  良い結果を残してくれた。奴等の勘違いのおかげで、お前達は疑心暗鬼に陥った。

  犯人は向こうだと指し合ってな。」

  「そ、そんな事・・・!」

  「無いってか?本当にそうかぁ?微塵も感じなかったのか?一度疑ると、そこから抜け

  出せなくなる・・・。劉備、お前だってひょっとしたらって・・・、思ったりしていた

  んじゃないか?」

  「うぅっ・・・。」

  言葉を失う桃香・・・。伏義の言葉を否定できない自分がそこにいるからである。

  「あの一件で・・・蜀、正和党の間に疑心暗鬼が芽生えた・・・。後もうひと押しをすれば、

  それは戦いという花を咲かせる事が出来る程までに。」

  「でも、それじゃあ・・・私が送った書状が正和党の人達を怒らせたって言うの?」

  「その書状って・・・、これの事かい、劉備?」

  そう言って、伏義はどこから取り出したのか・・・、竹簡を朱里の前に投げ捨てる。朱里はその竹簡を

 拾い上げると、その中身を確認しようと広げる。そして中身を見た朱里の顔色が青ざめる。

  「こ、この書状は・・・!?どうしてあなたがこれを持っているのですか?」

  その竹簡は桃香が廖化宛てに書いた書状であった。それを何故この男が持っているのか朱里はそれが理解

 出来なかった・・・。

  「どうしても何も、お前が俺に渡したからだろうが?」

  「っ!?私はあなたに渡した覚えはありません!!私が渡した人は・・・。」

  「こんな顔の奴か?」

  そう言いながら、伏義は自分の顔を手で隠す。そして手を顔から離すと、そこには伏義でない、別の顔が

 そこにあった。その顔を見て、朱里は驚愕する、彼女が竹簡を渡した人物の顔がそこにあったのだから。

  「そ、その顔は!?」

  「つまりお前が渡した相手はこの俺だという事さ・・・。」

  そして再び伏義の顔に戻る。

  「ど、どういう事ですか!?」

  「どういう事もなにも・・・そう言う事だ。この顔に変えた俺がお前から書状を承った、そして別の

  書状とすり替えてそれを廖化に渡したって事だ。」

  「・・・・・・。」

  自分の知らない所でそんな事になっていようとは朱里も予想外であった。すり替えられた竹簡の内容は

 分からないが、少なくともその竹簡が廖化達の怒りを買った事は容易に分かった。

  「それを見たこいつは大激怒ってわけだ。」

  伏義の言葉に廖化は歯軋りを立て、睨みつける。

  「つまり、俺は・・・、貴様の思惑通りに動かされたと言う事か!?」

  「今更気付いたのか?俺がお前に近づいたのは、全てはお前等が戦い合う事ように仕向けるだったのさ!

  そしてお前は俺の言葉に乗せられ・・・、そして蜀に宣戦布告なんてしやがった!!」

  「ぐぅっ・・!」

  「一つの可能性だけを見るな、とか姜維に言っていたくせに。当の本人は一つの可能性しか見えて

  いなかったわけだ!あっははははははははははははははッッ!!!」

  「・・・・・・。」

  伏義の言葉に返す言葉も無い廖化。

  「廖化さん・・・。」

  項垂れる廖化を見て、言葉を投げかけようとするも言葉が見つからない桃香。

  「お前達が戦いをおっぱじめた後も、俺は裏で色々と手を加えてやった。麦城の連中を血祭りに上げたり、

  その後時期を見計らって五胡だの何だのを侵攻させたりと・・・。」

  「それもあなたが・・・!」

  「さっきからそう言ってんだろうが。話ちゃんと聞いていたのか・・・?そして今・・・、正和党は頭領

  を奪還するために、ここに向かって来ている。そして怒りに狂った奴等とお前達は殺し合うんだ!!!

  この成都の街の中で!!そしてお前達は終わる事の無い血で血を洗う戦いに身を委ねる!!これが、俺が

  書いた脚本の結末だぁあッ!!」

  伏義は上半身をのけ反らせながら大笑いする。まるで全てを成功させ、勝ち誇るかのように・・・。

  「何処までふざけた男だ!!」

  「そうよのう!そして、わしらはこのふざけた男に踊らされていたというか・・・。」

  「だったら、もう鈴々たちはおどらないのだ!!」

  「もう遅い!お前等はもう舞台から降りる事は出来ない!死ぬまで踊り続けるしかないんだよ!」

  「そんなこと無いのだ!皆に本当のことを教えれば、戦いは終わるのだ!!」

  「果たしてそう上手くいくかな?」

  「鈴々たちが上手くいかせるのだ!おっちゃん!!」

  伏義に食い下がる態度を示す鈴々。鈴々は伏義の横をすり抜け、廖化の傍に駆け寄る。

  「張飛殿・・・っ!」

  「こんな奴に好き勝手言われていいのかなのだ!こいつの言った通りになっていいのかなのだ!」

  「・・・・・・。」

  「こんな戦い、しちゃいけなかったのだ!この事を正和党の人たちにも教えてやるのだ!」

  「・・・そうですな!」

  鈴々の言葉に動かされる廖化。

  「おいおい・・・、それを俺が黙っていると思っているのか?」

  そこに伏義が割って入って来る。そしてその手には小型の片手用鉈を握られていた。鈴々は自分の得物、

 八丈蛇矛を構え、庇うように廖化の前に立ち塞がる。

  「黙らせるのだ・・・、鈴々たちがお前を黙らせるのだ!!」

  ブオゥウウンッ!!!

 八丈蛇矛を伏義に振り下ろす。が、その一撃は伏義が後ろに下がる事で避けられてしまう。

  「てえぇええいっ!!」

  「でやぁあああっ!!」

  焔耶と桔梗が伏義の背後から攻撃を仕掛ける。

  ブオウンッ!!!

  ゴウゥウンッ!!!

  二人の放った一撃は床の石畳を破壊する。肝心の伏義はその破壊された石畳の一歩後ろに立っていた。

  「おいおい・・・、後ろから攻撃するなんて、義を重んじる人間のすることか?」

  そう言いながら、伏義は鉈を手の中でくるくると器用に回す。

  「今なのだ!おっちゃん行くのだ!」

  「うむ!」

  鈴々は廖化を連れて、王宮を急いで出て行く。

  「桔梗様!こ奴の相手は自分がします!!鈴々一人では心許ない!」

  「うむ!では任せるぞ!焔耶!!桃香様をしっかりと守るのだぞ!」

  そう言うと、桔梗は鈴々達の後を追いかける。

  「どうやら貴様の狂言もこれで終幕の様だな!」

  大金棒を構え直す焔耶。伏義の周囲はすでに兵士達に取り囲まれていた。

  「・・・・・・。くくッ・・・、くはははは・・・、あははははははははっははははは・・・!!!」

  絶体絶命の中・・・、伏義は腹を抱えて笑い始める。そんな彼の姿に兵士達は困惑する。

  「貴様・・・、何が可笑しい!!」

  「くくく・・・、そりゃおかしいさ・・・。お前等が勝ったつもりでいるんだからなぁ!」

  「まだそんな戯言を・・・!貴様はどうやら今自分が置かれている状況が分かっていないようだな!」

  「何言ってやがる・・・、分かっていないのはお前達の方さ。」

  「どういう事だ・・・?」

  「どうして俺がわざわざ自分からネタばらしをしたと思っている?親切心からでた行動だとでも思っているのかよ?」

  「・・・しまった!?」

  伏義の言葉の意味に気が付いたのか、朱里ははっとする。

  「朱里ちゃん!?」 

  「はッ!!気が付くのが少し遅すぎたな!!」

  

  一方・・・成都の街。

 そこに正和党の軍勢が押し迫って来ていた。彼等は自分達の頭領を取り戻すべくやって来たのだ。

  「城門が開いている!!」

  「良し!そのまま街に入るぞ!!進めーーー!!!」

  「「「応ーーーーーーっっっ!!!」」」

  正和党の軍勢が城門を突破しようとしているにもかかわらず、城壁では何ら動きが無い。そもそも兵士の

 姿が見えないのだった。何故なら、既に城壁の兵士達は屍と化していたのだから・・・。何ら抵抗も無く、

 城門を突破していく正和党の党員達・・・。あっさりと抜け過ぎて、逆に不信になる者も少なくなかった。

  「・・・!全軍、停止!!停止ーーー!!!」

  前を走っていた党員が全軍に向けて停止命令を出す。停止命令は人を伝って最後列まで伝わる。

  「あ、あれは・・・!廖化さんだ!」

  前方を走っていた姜維が前方に乗馬する廖化の姿を捉えた。そして彼の後ろには蜀軍の将二人と大勢の

 兵士達がいた。廖化は一人馬に乗って、正和党の方に近づいて行く。

  「廖化さん!無事だったんですか!?」

  「ああ・・・、皆には心配をかけたな・・・。」

  「でも・・・これは一体?何が起きているんですか?」

  「その事なのだが・・・、我々は・・・。」

  ビュンッ!!!

  「・・・っ!?」

  急に喋るのを止め、目を見開く廖化。そして馬から落ちる。

 姜維と党員達は落馬した廖化の傍に駆け寄る。

  「廖化さん!どうしたんですか!?・・・こ、これはっ!」

  姜維は廖化の背中に一本の矢だ刺さっているのに気が付く。

  「おのれ!蜀軍!!!卑劣な真似をっ!!」

  近くにいた一人の党員が、怒りの表情で前方の蜀軍を睨みつける。それに釣られるかのように、

 他の党員達も廖化の言葉で鎮まったはずの怒りを再び露わにする。彼等にはもはや迷いは無かった。

 蜀軍は自分達の敵、卑劣にも後ろから廖化を撃った、と・・・。

  「お前達は・・・、お前達はっ!!こんな時まで、自分の身が大事なのかよ!!!」

  その怒りは姜維にも伝播していた。あの時の記憶が彼の脳裏を過る。全てを奪われたあの日の記憶を・・・。

  「誰だ!今、矢を撃った愚か者は!?」

  桔梗は声を荒げながら、廖化を撃った人間を軍内から探し出す。が、兵士達は困惑するだけで、名乗り

 出る者はいなかった。

  「桔梗、まずいのだ!!正和党の人達が物凄い怖い顔でこっちを睨んでいるのだ!」

  鈴々は正和党の党員達の様子を後ろを振り返っている桔梗に慌てて言う。

  「自分達の頭領を後ろから撃たれたのだ!!それは至極当然の事だ!

  桃香様を後ろから撃った者をお前は許せるか、鈴々?」

  「許せるわけないのだ!!」

  何を当たり前の事を言わんばかりに答える鈴々。

  「そう言う事だ。」

  「あ・・・。」

  そして桔梗に諭される鈴々。だが、それが分かったとしてももうどうする事も出来ない状態に

 あった・・・。もうすでに手遅れであったのだ。

  「全軍、突撃ぃいいいーーーーーーっ!!!」

  誰が言ったのか、いやそんな事は彼等には関係なかった。その誰かが言った言葉に呼応するように、

 正和党の党員達は武器を手に取り、鈴々、桔梗達率いる蜀軍へと突撃していく。

  「ま、待て・・・、ち、ちが・・・違うのだ・・・。」

  もはや廖化の言葉すらも彼等に届かなかった・・・。

 蜀軍と正和党の戦いは今、最悪の方向へと進んでいた・・・。

 

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  王宮内に風が吹く・・・。否、それは風では無かった。

 伏義を囲んでいた兵士達はその風が吹き抜けた途端、血を流しながらその場に崩れ去る・・・。

 兵士達はすでに命が絶たれていた・・・。

  「なっ・・・!」

  焔耶の目には何も映らなかったのだ。今の目の前で何が起きたのかが、理解出来なかった。

 唯一理解出来たことは、囲まれていた伏義の手に握れらていた鉈が血で濡れていると言う事だ。

  「俺を追い詰めたと思っていた様だが・・・、それは逆だ・・・。追い詰められているのはお前達の方だ。」

  「・・・した。」

  「あ?」

  小声で聞き取れなかったので、伏義は焔耶に聞き直す。

  「何をしたのだと聞いているのだーーーっ!!」

  今度は怒声を出して答える焔耶。伏義はそんな彼女を見ても動じる事無く、むしろ呆れた風に顔を手で

 覆い隠した。

  「はぁ・・・、何を言うかと思えば・・・。周りにいた連中を殺しただけだってのに・・・。

  何をそんなにむきになっているのだか・・・。」

  「き、貴様ぁあああっ!!!」

  そんな態度に、焔耶は怒りを露わにし、怒りの一撃を伏義に放とうとした瞬間、伏義の頭が上がる。

 そして・・・、そこにあったのは桃香の顔。

  「と、桃香様・・・!?」

  それを見た焔耶の動きが止まる。そして焔耶の左首に伸ばされた右手。その手には伏義が持っていた

 片手用の鉈が握られていた。その刃は焔耶の首筋に当てられていた。

  「馬鹿が・・・。」

  桃香の顔が豹変する、普段では有りえない笑顔・・・、あの桃香がこんな顔をするのかという毒々しい

 笑顔・・・。ゆっくりと右手を引く。そして、焔耶の左首すじに鉈の刃でついた一文字の傷・・・、

 その傷はみるみると広がり、赤くに滲んできたと思った瞬間、綺麗な弧を描いておびただしい鮮血が飛び出した。

  「なっ・・・・・・!」

  目の前にいるのが桃香でない事に気付いたのは、桃香の顔が豹変した時であった。だが、何故桃香の顔が

 今自分の目の前にあるのか、それが理解できなかった。振り上げられた大金棒は彼女の手から離れ、その

 先端は石畳を砕いて、突きささる。その持ち主である焔耶は、足元から崩れさるようにその場に倒れた。

 その首筋から飛び出す鮮血はその勢いは衰える事無く、王宮の床を赤く染め広げていった。

  「焔耶さ・・・!」

  「焔耶ちゃん!!」

  朱里が彼女の名を叫ぶより先に、桃香が彼女の名を叫びながら、側に駆け寄っていく。血の池の中で

 倒れる焔耶、桃香は広がる血に気に留める事無く焔耶の横に腰を下ろし、焔耶の背中を揺する。まだ意識が

 あるのか、虚ろな目で桃香を見ていた。

  「と・・・う、・・・か・・・さま・・・。」

  かすれた声で桃香の名前を言う焔耶。

  「焔耶ちゃ・・・、あぐっ!?」

  まだ焔耶に意識があった事に安著した桃香だったが、そこに伏義の手が桃香の前髪を乱暴に掴んだ。

 乱暴に掴まれた桃香は痛みに顔を歪める。

  「まだ終わりじゃねえぜ。・・・折角だ、舞台のクライマックスを特等席で見せてやる。」

  「いや・・・!いやぁ!!離して・・・、離してぇ!!!」

  桃香の前髪を掴みながら、伏義はそのまま中腰の桃香を展望台へと引きずっていく。焔耶の血で濡れた

 桃香の足跡がひきずった跡として残る。前髪を乱暴に引っ張られる痛みからか、桃香は両手でその手を掴み、

 握られた手を開こうとするが、彼女の握力では到底無理な事、泣き叫ぶ事しか出来なかった。

  「とう・・・、か・・・さ・・・。」

  朦朧とする意識の中、焔耶は泣き叫ぶ桃香を見送る事しか出来なかった・・・。

 そして街の全景を見渡せる展望台・・・。伏義は引きずっていた桃香を前方に投げ飛ばす。

  「きゃあっ・・・!」

  投げ飛ばされた桃香は展望台の手すりに背中からぶつかる。整えられていた前髪はくしゃくしゃになって

 いた。ぶつかった衝撃に苦痛に顔を歪めていた桃香の耳に色々な雑音が入って来る。人の声、金属音、肉を

 切る音・・・。桃香は手すりの隙間から街の様子をうかがう。彼女の目に映った光景は・・・、彼女が望ん

 でいなかったものであった・・・。戦いはすでに始まっていたのだ・・・。蜀軍と正和党が成都の街で殺し

 合い、街に残っていた住民達は逃げ惑う・・・。桃香にとって、まさに悪夢以外の何物でもなかった。夢で

 あるならば覚めて欲しい・・・、だがこれは紛れもない現実であった。

  「うぅっ・・・!」

  その光景から背く様に、桃香は目を閉じる。が、伏義はそんな事を許すはずが無かった。

  「おらッ、何目ぇ背けてんだ?ちゃんと見ろってんだよ!」

  「ぐぅっ・・・!」

  伏義の両手は桃香の顔を横から掴み、無理やりその閉じた瞼を開かせ、再び地獄絵図を見せつける。

  「いや・・・、いやぁぁあああ!!やめて・・・、やめてええええええええええええええええ!!!」

  桃香の目から涙を零す。そんな桃香を見下ろす伏義は逆に笑いを零す。

  「はっははははははははッ!!!泣け泣けぇ!!そして自分を恨め!何もできない、ただ見ている

  しかない愚かな自分をぉッ!!あっははははははははは・・・、はっははははははははッはははッ!!!」

  桃香の叫びが成都中に響き渡る・・・。だが、その叫びに誰一人気付かなかった。彼女の言葉に耳を傾け

  ようとする人間は、もはやここにはいなかった。そんな惨めな桃香を見て、伏義は笑う事を止めない。

  もう何もかもがこの男の思惑通りに進んでしまったのだった・・・。この喜劇と悲劇はもう誰にも止められ

  ない・・・?

 

  「ッ!?!?」

  伏義の顔面に足が食い込む、真正面から堂々と。伏義の視線は目の前の自分の顔に

 全体重を乗せた蹴りを放つ人物に注がれていた・・・。

  「・・・。」

  「ほ、北郷・・・!」

  伏義はその人物の名を呼ぶ、と同時に勢いよく、後ろへと吹き飛んでいく。

 その体はまるで水面を跳ね返る石のように、地面に何度もぶつかり、何度も跳ね返る。

 そして後ろの壁に激突。壁は激突した衝撃で破壊される。伏義はその崩れた壁の下敷き

 になった。

  一方で、伏義を蹴り飛ばした一刀は桃香の前に身を屈めて、着地する。

 そしてゆっくりと立ち上がりながら・・・。

  「伏義・・・、お前に・・・、これ以上好き勝手な事はさせない。

  悲劇と喜劇は・・・、これで終幕だッ!!!」

  一刀は怒りにその顔を染め上げていた。温厚な彼に似つかわしくない、怒りの表情が

 そこにあった・・・。

 

 

 

 

 

 


 
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