機動六課のブリーフィングルームに集まったスターズとライトニング及びなのは・フェイト・はやての隊長陣。
「キリランシェロはまだ戻らへんのか?もう9時になるで・・・」
はやてがチラチラと窓の外を眺めながら心配そうにつぶやく。他のメンバーも落ちつかなげにそわそわしていた。
今回の作戦で彼女らはキリランシェロという人物について、自分達は何を知っているのか?という事を考えさせられた。彼が機動六課の仲間になってはや数週間。わかった事は彼女たちにとってはすっかり打ち解けたつもりでも、キリランシェロの心の壁を開くにはまだまだ努力が足りなかったということだ。
そこではやてが提案したのが親睦会。みんなで楽しく飲み食いしてキリランシェロの心の壁を壊しちゃおう!というのが狙い。今日はその計画を立てるための会議をしようとしていたのだが―――
「通信も遮断されていますし・・・何かあったんでしょうか?」
リィンも不安げな表情を浮かべる。六課最強のシグナムすら凌駕するあの少年にそうそう命にかかわる危機があるとも思えないが、やはり心配であることには変わりなかった。
何となく気まずい沈黙がブリーフィングルームを覆ったころ、備え付けの通信機が着信を知らせた。
「は、はい!・・・シャーリーか。どないしたん?」
電話の相手は機動六課で通信主任の職を預かるシャリオ・フィニーノことシャーリーだった。
「なんやて!?キリランシェロのペンダント持った子が来とる!?」
レインズが案内されたのは、幼い彼にも高級感があると理解できるほどのよい部屋だった。
暗い森をがむしゃらに駆け抜け、幾度も転んで傷だらけになりながらもここにたどりついた彼の小さな両手にはキリランシェロから託された銀製のペンダントが。
3分ほど待っていただろうか。ノックと共に開いたドアから茶色の髪をショートカットにした女性―――おそらくは彼女が八神はやてなのだろう―――が入ってきた。
「君が?」
「は、はい。レインズって言います」
レインズはこれまでの顛末を説明した。姉と友人2人の4人で、村で幽霊屋敷として有名な森の中の洋館に侵入し、怪物に襲われた事。キリランシェロと遭遇し、彼と共に3人を探しに洋館に侵入した事、そして―――
「あなたにキリランシェロお兄ちゃんから、これを」
レインズはペンダントを彼女に差し出した。
「確かにこれはキリランシェロの物や・・・」
ペンダントを裏返してみると何らかの文字が刻まれていた。恐らくは持ち主である少年の名前―――キリランシェロと刻まれているのだろう。
「それと・・・八神さんに伝言です。『僕の故郷が見つかったらタフレム市のレティシャ・マクレディにペンダントを渡してくれ』って」
「なんやて・・・?」
彼が肌身離さず持っているペンダントをレティシャ・マクレディなる人物に渡すようこの少年に伝言した?それはまるで―――
(遺言やないか!)
「レインズ君、あのアホガキがおるところに案内してくれんか!」
「え?」
はやては備え付けの通信機を手にとってブリーフィングルームに繋げ、対応に出てきたなのはに告げた。
「なのは!ウチはいまからアホのキリランシェロを迎えに行く!」
『ええっ?いきなりどうしたの!?』
「説明してる暇はあらへん!レインズ君、夜遅く申し訳ないけどその屋敷に案内してくれへんか!?」
「わ、わかりました!」
「・・・なんや、みんな来たんかい」
レインズの両親に連絡を取り六課の正面玄関に向かった2人。はやての要請でヴァイスが用意した車の前に六課の戦闘要員が全員集合を完了していた。
「主はやて。彼は我々の仲間ですから、迎えに行くのは当然でしょう?」
シグナムが―――
「ったく手の焼ける奴だぜ」
ヴィータが―――
「一人で行くなんて水臭いよ、はやてちゃん。私だってキリランシェロ君の事心配してるんだから」
なのはが―――
「ロングアーチのメンバーも準備万端ですよ!」
リィンが、ロングアーチのメンバーが―――
みんなが、キリランシェロの事を案じていたのだ。
はやては、みんなに向けてにやりと笑いかけた。
「さて、手のかかる家族を迎えにいこか!」
『オーッ!』
時間は遡って、レインズがキリランシェロと別れたころ―――
「我は放つ光の白刃!」
キリランシェロは先制攻撃とばかりに熱衝撃波をゴリラに向けてぶつける。いきなりの攻撃にゴリラはかわす事も出来ずに壁まで吹き飛ばされるが、叩きつけられた直後にゆっくりと起き上がる。
(こいつら・・・何の目的で製造されたかは知らないけど、相当頑丈に出来てるな・・・)
キリランシェロは襲いかかってきた犬型の化け物を、かかと落としで地面に墜落させると指を突き付けて叫んだ。
「我導くは死呼ぶ椋鳥!」
ヴヴッという音と共に超音波が犬に命中する。犬は痙攣してぐったりと横たわり、気絶したようだった。
(なるほど、内臓の強さは大したことは無い、か)
キリランシェロは殺気を感じてその場を飛び退くと、鎧の一体が突撃槍を抱えてキリランシェロがいたところを突撃していったところだった。急停止して隙を見せた鎧に魔術を叩きこむ!
「我は放つ―――」
はっとして魔術を中断し、床に飛び込んで前転。その直後に地面をすさまじい衝撃が襲った。
「なんてパワーだよ・・・」
振り返ってみると、ゴリラのハンマーがキリランシェロが一瞬前にいた場所を打ち砕いていた。気がつくのが一瞬でも遅かったら彼は即死していただろう。
「さて、どうする?」
キリランシェロは周りを見渡して現在の状況を再確認してみた。叩き伏せた犬は既に起き上がってキリランシェロを睨んでいる(様に見える)。鎧たちはキリランシェロの退路を断つように入り口付近に展開している。ゴリラはすでにハンマーを持ちあげてキリランシェロに対峙していた。
『人と戦う時は、敵を超えようなどとは思わない事だ。それでは自分よりも強い敵に出会った時にひとたまりもない。それよりも敵の弱点を見つけることだよ。弱点を見つけたら後は実行を恐れない事だ。それが何であれ、たったひとつでも弱点を見つければ――――』
その言葉はかつて師が自分に言った言葉。自分を勇気づけるようにその言葉の続きを呟いた。
「それこそ、打つ手は無限にある―――!」
その言葉と共に襲いかかってきた犬達。キリランシェロは右手を掲げ、叫んだ。
「我は砕く原始の静寂!」
ホールの空間に波紋が広がり、空間爆砕の魔術が発動する。怪物たちが四散しているうちにキリランシェロは背後にあった鋼鉄の扉のカギ穴に先ほど遺体のあった部屋に隠されていた鍵を使用して開ける。特に扉は錆びついている様子もなく、スムーズに開いた。
(あの狭いホールで迎撃してもいずれ追いつめられる。なら、少しでも開ける可能性がある場所で迎え撃つしかないか・・・)
キリランシェロは地下につながる階段をかけぬけた。
階段を降り切ったキリランシェロの目の前には、使い古されたソファーやテレビがぽつんと隅に設置され、天井からシャンデリアが吊り下げられていたエントランスホールだった。
さらにホールの中央には巨大な石像が鎮座している。
「こんな部屋が屋敷の地下にあるなんて・・・」
ひとりごちるキリランシェロだが、背後の階段をかけてくる気配を感じた。
(四足で駆けてくる―――あの犬か!)
迎え討つために入り口から距離を取るキリランシェロ。ふと、彼の視界にあるものが映った。
(あれは―――?)
キリランシェロはテレビの上に乗っていた『それ』を手に取ると、ホールに突入してきた犬目掛けて―――
ドウッ、ドウッ
キリランシェロの手の中にあったのは『ヘイルストーム』。『牙の塔』が秘密裏に製造していた拳銃である。ただし彼の世界の拳銃は性能が悪く、すぐに熱を持って暴発してしまうが。
拳銃の弾丸はあやまたず犬を撃ちぬき、もんどりうって倒れる犬に駆け寄って頭に拳銃を突きつける。
「これで、最後だ」
キリランシェロは引き金を引いた。
キリランシェロはソファーの上に置いてあったホルスターを脇の下の武装ベルトに装着し、そこに拳銃をしまう。
「まずは一匹・・・か」
それにしても腑に落ちない事がある。
(このヘイルストーム・・・)
王室の命令で彼らが保持している騎士軍や派遣警察の管理職以外は製造・使用が禁じられている拳銃。しかし教会総本山たるキムラックや『牙の塔』では秘密裏に製造されている。彼がいま所持している『ヘイルストーム』は先ほどにも述べたとおり『牙の塔』が秘密裏に製造していたものであり、キリランシェロは訓練の一環でこれを兄弟子と共に扱った事がある。
(何者かが『塔』から盗み出した?いや、『塔』の警備は完璧だ。あそこからヘアピン一本だって盗み出せる奴なんていないだろう。そもそも異世界なんだし、『塔』どころかキエサルヒマ大陸だって行く手段は無いんだぜ?)
考えれば考えるほど謎は深まるばかり。しかもキリランシェロには考えている暇は無いのだった。
カシャーン、カシャーン
「来たかっ!」
入り口から現れたのは3体の鎧のうちの1体だった。鎧は突撃槍を背負い、右腕に機関銃を抱えていた。
鎧は銃口をキリランシェロに向けると、躊躇うことなく引き金を引く。
「チィィッ!」
一瞬にして彼を肉片に変える弾丸の嵐を、石像に隠れる事でやり過ごす。やり過ごしながらキリランシェロは次の手を考える。
(あの鎧は3体いた。でも残りの2体はどこだ?)
キリランシェロは石像を背に、敵の現れるであろう予想地点を探る。この屋敷には様々な隠し扉がある事は、何となく予想できた。
(このまま隠れていても仕方がない、打って出るか―――?)
キリランシェロが隠れていた石像から一歩踏み出そうとしたその時だった。
(殺気!)
「我は踊る天の楼閣!」
殺気を感じ、空間転移の魔術を行使して床から2メートル上の地点に転移する。一瞬前に彼がいたところはキラキラと輝く細く鋭い何かが貫いていた。
(鋼線かっ!)
その鋼線が射出されているのは石像の背後にある朽ちた扉から見える部屋からだった。扉から赤い鎧の姿が見える。位置を特定さえすれば暗器もさしたる脅威ではない―――!
キリランシェロは発生源目掛けて駆ける。彼目掛けて鋼線が一本、二本、と彼目掛けて走る。キリランシェロは紙一重でそれをかわすが、頬から一筋の血が流れる。さらに三本、四本、五本と飛ばされる鋼線が戦闘服に守られたキリランシェロの腕、足、そして無防備な髪の毛の一部をかすめる。それでもキリランシェロは止まらない。ドアの前に到達した彼は腕から鋼線を射出している鎧に手のひらを向けた。
「我は砕く―――」
鎧の一部が開く。鋼線を放つつもりだろうがもう遅い!
「我は砕く原始の静寂!」
空間に波紋が広がり、直後に鎧を中心に大爆砕が起こった。鎧は体が四散し、キリランシェロの足元に頭が転々と転がってきた。彼はそれに足を乗せて呟く。
「これで、2体目」
グシャッ、と言う音と共に案外脆くキリランシェロの足に踏み潰されて、ただの金属の屑になり果てる。
「我は描く―――」
浮かび上がった複数の光球が主の号令を待って、射出される。
「光刃の軌跡!」
呪文の終了と共に擬似球電が目標―――マシンガンを放ち終わっていた鎧と突撃槍を構えて突進してきた鎧に殺到する。
(ん・・・?)
2体の鎧に疑似球電が着弾した後の鎧たちの反応にキリランシェロは眉をひそめた。マシンガンを持った鎧は壁まで転がされていたが、突撃槍を持った方は僅かに仰け反っただけだった。
(同じ鎧でも、強度とか性能に差があるのか?)
そう考えるとさきほどの暗器を使っていた鎧の頭が、踏みつけられただけで粉々に砕けてしまうのはおかしな話だという事になる。恐らく先ほどの鎧は暗殺などの身軽さが必要となる任務用に製造されたのではないかという仮説がキリランシェロの頭に浮かんだが、今はどうでもいいことだ。
キリランシェロは仰け反って動けない鎧を無視して、爆風に吹き飛ばされた方の鎧に向かって駆けだした。キリランシェロの接近に気がついた遠距離支援用の鎧(暫定名)は弾切れになったのだろう機関銃を放り出して突撃槍を取り出して駆けてくるキリランシェロを迎撃せんとするが―――
「なってない、全然」
ひょいっと体を逸らして回避したキリランシェロは、鎧の頭に手をポンと置く。
「これはさすがに耐えられないだろ?―――我は放つ光の白刃!」
熱衝撃波が遠距離支援用鎧の頭を撃ち抜き、頭は消失、胴体は横倒しになった。
「これで3体目―――うわっ!?」
キリランシェロが3体目を屠ったその直後、地面が揺れた。敵の仕業かと思って残った鎧に目をやるが、敵も地面の揺れに困惑しているようだった。天井のシャンデリアの錆びた鎖がギシギシと左右に揺れる。
キリランシェロはそれに気づく事無く、突進してきた接近戦用の鎧をスローイングダガーで迎撃する。
鎖が今にも切れそうな事に気がつかぬまま・・・
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なんだかんだで結構長引いてます・・・やっぱり戦闘シーンは苦手です~!!(泣)
今回で47作目の小説です!49作目投稿後にアンケートを行うのでどしどしご意見よろしくお願いします!