No.920103

真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第二十二話


 お待たせしました!

 今回は拠点三回目という事で、

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2017-08-27 14:04:41 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:3608   閲覧ユーザー数:2895

「斗詩さん…此処は何処ですの?それ以上に今日のご飯は何ですの?もう蛙の丸焼きはしば

 

 らく勘弁して欲しいのですが」

 

「よ~し!んじゃ今日は熊でも狩ってこようぜ~、斗詩」

 

「何言ってるのよ、文ちゃん!?熊狩りなんてこっそり出来るわけないから、下手したら私

 

 達の居場所がばれてしまうかもしれないじゃない!それと麗羽様…此処がどの辺りなのか

 

 は私にも分かりません!下手に人里に出るわけにもいかないのですから!」

 

 連合での戦に敗れてから数ヶ月が過ぎた頃、袁紹・文醜・顔良の三人は并州(当然、三人

 

 はそこが并州だとは知らないのだが)の山中に身を潜め、追手から逃れる生活を送ってい

 

 たのだが…当然の事ながら、贅沢に慣れ切った袁紹が何時までもそんな生活に耐えきれる

 

 はずもなく、文醜は文醜であまり深く考えない発言を繰り返す為、顔良は一人苦悩する日

 

 々を送っていたのであった。そして…。

 

「どうしてですの、斗詩さん!?」

 

「そうだよ、何で熊はダメなんだよ、斗詩!?」

 

「…ふ、二人ともいい加減にしてよ!!私が此処までどんな思いで寝床と食料を確保してき

 

 たと思ってるのよ!?それとも二人は肉があれば処刑されても良いっていうわけ!?もう

 

 知らない!!二人で勝手に熊でも猪でも狩れば良いじゃない!!」

 

 あまりにも二人のひどさに遂に顔良の堪忍袋の緒が切れて、顔良は一人何処かへ走り去っ

 

 ていってしまう。

 

「お、おい、斗詩!待てってば!…どうします、麗羽様?」

 

「しばらくすれば戻って来るでしょう」

 

「それもそうっすね」

 

 文醜はさすがに困惑したのか袁紹にお伺いを立てるも、袁紹のそのおバカ発言を真に受け、

 

 そのまま顔良の帰りを待ったのであったが…。

 

 

 

 二日後。

 

「猪々子さん、食べm…もとい、斗詩さんはまだですの?」

 

「まだですね…あいつ、何処で何をしてるんだろう。ちょっとその辺捜してk…『この私を

 

 こんな所に一人にするつもりですの!?』…はぁ、まぁ、そんじゃもう少し待ってみまし

 

 ょうか?」

 

「…食べる物がもうありませんわよ」

 

「…それじゃちょっとその辺に調達w…『で・す・か・ら!こんな所に私を一人にするつも

 

 りですの!?』…そんじゃ、麗羽様も…『私はもう此処から一歩も動けませんわ!』……

 

 はぁ、一体どうすりゃ良いんだよ…もう!」

 

 出て行った顔良が戻って来る気配もなく、文醜は我が儘放題の袁紹に振り回されて、今更

 

 ながらに顔良の苦労を思い知る事になったのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 一方その頃、南皮にて…。

 

「真直さん、先程の分は終わりましたかぁ~?」

 

「七乃さん…あなたは本気でこれだけの量が一刻程度で終わると思っているんですか?」

 

「あらあら、そうでしたか。ならば仕方ないですね…美羽様、真直さんはお仕事でお忙しい

 

 みたいですので、洛陽から送られて来た新作の蜂蜜入りのお菓子は私達だけで食べてしま

 

 いましょう」

 

「おおっ!?ならば真直の分は…」

 

「はい、美羽様がお召し上がりください」

 

「ぬははっ!さすがは七乃じゃ、褒めてつかわす!!」

 

「えっ!?あの、ちょっ…『それでは失礼しま~す。お仕事頑張ってくださいね~』…うう

 

 っ、何よ何よ、もう!!いっつもいっつも仕事をこっちに押し付けて!!」

 

 

 

 一人喚いている真直と呼ばれたこの少女は、元は袁紹に仕えていた軍師の田豊である。

 

 本来なら軍師である以上、袁紹と共に遠征に参加するはずであったのだが、運悪く大病を

 

 患い、南皮で療養を兼ねて留守居をしていた所、袁紹の改易・袁術の赴任が重なり、路頭

 

 に迷うよりはと袁術に仕える事にしたのだが…当然、袁術が政務に励むはずもない上に張

 

 勲も仕事の大半を彼女に押し付けて袁術と遊んでばかりいるので、彼女の忙しさは加速度

 

 的に増し、日々ストレスが溜まっていくばかりなのであった。

 

「はぁ…今更もうどうしようもない話ですね。こうなるのはある意味最初から分かっていた

 

 事なんだし…今何処で何をしているかすら分からない麗羽様達に比べれば衣食住が揃って

 

 るだけマシなのでしょうから」

 

 田豊はそう一人ごちると再び書簡の山の処理を始める。しかしそこに…。

 

「田豊様、大変です!!」

 

 慌てた様子の兵士が駆け込んでくる。

 

「…何ですか、今度は!?そっちで対応出来る物はそっちでやってください!!こっちだっ

 

 てそんなに暇じゃないのですよ!!」

 

「…い、いえ、お忙しい所を大変に申し訳ないのですが、さすがに我らではどう対応して良

 

 いものか分からなかったものでして…袁術様も張勲様もいらっしゃらないようなので」

 

「…致し方ないですわね。それで、一体何です?」

 

「はい、実は…」

 

「…えっ!?本当なのですか!?」

 

 その報告に田豊は驚きを隠せずにそう問い返す。

 

「は、はぁ…田豊様もご存知の通り、兵の中には元は袁紹様にお仕えしていた者も多いです

 

 ので、見間違いでは無いと…」

 

「…分かりました、案内しなさい」

 

 

 

「うん…此処は?私はどうして…そういえば、麗羽様達の所を飛び出したけど、さすがに放

 

 っておけないって戻ろうとしたら崖から足を滑らせて…あれ、何で寝台の上に?」

 

「眼が覚めましたか、斗詩さん?」

 

「えっ…真直ちゃん?どうして…これは夢?」

 

「夢ではありませんよ」

 

「えっ!?それじゃ此処って…」

 

 ・・・・・・・

 

「そうだったんだ…それじゃ崖から落ちて気を失っていた私は美羽様の所の兵士さんに見つ

 

 かって此処に…」

 

 田豊に報告があった事こそ『并州と冀州の境目の辺りで崖から落ちて気を失っている顔良

 

 を発見した』という事であり、田豊の指示で近くの民家(急遽田豊が借り上げた物)に運

 

 びこまれていたのであった。

 

「はい、お医者様の話では擦り傷以外には目立った異常は無いそうですのでご安心ください」

 

「…でも、私達って、その、お尋ね者なんだよね?やっぱり洛陽につきだされるのかな?」

 

「斗詩さんはただ命令に従っただけと言い張ればお助け出来るかもしれませんが…今、あな

 

 たを助けるとなると、間違いなく麗羽様達の居場所と引替えという事になるでしょうね」

 

「やっぱりそうなるよね…」

 

「さらに言わせていただくと、このまま斗詩さんを見逃すというわけにもいきません。あな

 

 たを発見したのは前は麗羽様の所にいた兵ですから…一応、口外しないようにとは言って

 

 いますが、完全に隠す事は出来ないでしょう」

 

「分かった…なら真直ちゃん、私を美羽様の所につきだして」

 

「えっ…それはどういう…って、まさか!?」

 

「うん…麗羽様と文ちゃんを助けるにはこれしか無いよ。後は私が粘ればいいだけだから」

 

 そう言った顔良の顔には悲壮な決意の色が表れていた。

 

 

 

 数日後。

 

「えっ、顔良が袁術の所に?」

 

「ああ、何でも以前袁紹に仕えていて今は袁術の家臣になっている田豊ってのが捕まえたっ

 

 て話だそうだ。それで、たまたま近くにいる俺達にも立ち会うようにって月様からのお達

 

 しだ」

 

 改良した農機具の使用状況の確認及び指導の為に冀州に来ていた俺達の所に、顔良が捕ま

 

 ったのでその尋問に立ち会うようにとの月様からの指令が届く。

 

「…でも、何故俺なんだ?尋問の立ち会いっていうなら、もっとそれらしい人選もあるだろ

 

 うに」

 

「お前さんはもう少し自分の立場を理解した方が良いんじゃねぇかな?それに、今回は時間

 

 が惜しいんだろうさ。無いとは思うが、顔良を捕まえたってのが元お仲間となれば、な」

 

 …お仲間同士で変な企みをさせない為の予防を一時でも早くって事か。月様はどうなのか

 

 分からないけど、詠やねねはまだまだ袁術に対して警戒しているようだからな…やれやれ、

 

 こういう類の話は得意じゃないんだけどな。

 

 ・・・・・・・

 

「これはこれは北郷殿、南皮へようこそおいでくださいました」

 

「…ご無沙汰しております、張勲殿。ところで…袁術様は?」

 

「申し訳ございません、我が主は本日少々体調を崩しておりまして…心の底から反省してお

 

 りますれば、何卒ご容赦の程を」

 

 …まぁ、実質この人が治めてるようなものだし。正直な話、袁術とは少しでも関わりにな

 

 らずに済むならそれに越した事も無い…っていうか、色々と面倒くさいし、あの人。何度

 

『蜂蜜を永久に生みだし続ける絡繰』なんて無いって言っても信じないし。

 

「分かりました…大事なお身体ですから、ご自愛くださいますようお伝えください。それで、

 

 顔良殿はどちらに?」

 

 

 

「初めまして、董相国様の下で参軍を務めさせていただいております北郷と申します。本日

 

 は主の命により、あなたへの尋問に加わらさせていただく事になりました」

 

「あなたがあの…初めまして、顔良と申します」

 

 張勲さんに連れられて俺は顔良さんがいる部屋に入り、彼女と挨拶を交わす。

 

「さて、早速ですが…袁紹殿は今何処におられるのです?知らないとは言わせませんよ?」

 

「……………さあ?今は何処でどうしているやら私にも分かりかねます。私も結構長い事会

 

 っておりませんもので」

 

「張勲殿?」

 

「はい、この通り何度問い質しても同じ答えしか言わないので、少々困っている所なのです。

 

 彼女も結構強情な所がありますし…拷問でもすれば或いはといった所かもしれませんが」

 

「拷問したいのならご自由にどうぞ…但し、私は知らないものは知らないとしか答えられま

 

 せんが」

 

「彼女もこう言っていますし、此処は北郷殿が凄い拷問器具とかパパッと造ってもらったり

 

 とかどうでしょう?」

 

「…張勲殿も可愛い顔して随分と空恐ろしい事を仰る」

 

「いやですよ、可愛いだなんてお世辞は…きゃっ♪」

 

 …いや、お世辞じゃなく実際に顔は可愛いのだけどね。言ってる事は過激過ぎるけど。

 

 しかし、拷問っていってもねぇ…あまりそういう方面は詳しくないしなぁ。ギロチンは…

 

 あれは処刑道具か。むしろすっぱり死なせる方だな。後はアイアンメイデン位しか…って

 

 いうか、あれが拷問具がどうかも知らんし、構造も詳しく知らないから無理だけど。

 

「まぁ、そういうのはあまり趣味じゃないので、最終手段って事にしておきましょう。顔良

 

 殿の見つかった場所から考えるに、もしかしたら并州側にいるかもしれませんので、月様

 

 にも捜索の依頼を出しておいた方が良いかと思いますが」

 

 

 

「それは既に依頼済なのでご心配なく…とはいっても、ただ闇雲に捜しても広範囲に過ぎま

 

 すし、此処はもう少し範囲を絞れる情報とか得られれば良いのですけどね~」

 

 張勲さんはそう言って困ったような顔を顔良さんに向けるが、彼女の顔色は変わる気配す

 

 ら見えない。完全に覚悟を決めた眼だな、これは。

 

「やれやれ、何とも忠誠心の高い事で…張勲殿、これは拷問したって何の情報も得られない

 

 ですよ、多分。諦めて山狩りをした方が良いんじゃないですか?顔良殿が見つかってから

 

 の時間を考えるとそこまで遠くには行ってないでしょうし…というか、ほとんど動いてい

 

 ない可能性もあると思いますけどね」

 

「なるほど…確かに言われてみれば、斗詩さんの行方が分からないのに二人だけで何処かに

 

 逃げ出すとか可能性としては低そうですね。おそらく斗詩さんはそれに賭けてのだんまり

 

 だったのだろうとは思いますけど」

 

 張勲さんがそう言った途端、顔良さんの顔が歪む。どうやら、張勲さんの指摘通りだった

 

 ようだ。

 

「ですが、北郷殿。ただ山狩りをするだけでは我らの兵も相国様の兵士さん達も広範囲を歩

 

 き回る事になるので、大変なの事には変わりありません。すぐにガッと捕まえられるよう

 

 な絡繰とか無いんですか?例えば、中に手を突っ込んで相手の事を思い浮かべるとそれを

 

 捕まえる事の出来る鞄とか、思った所にすぐに行ける扉とか…」

 

 …俺は未来から来た猫型ロボットか何かか。未来から来たってだけは合ってるけど。

 

「そんな便利な道具があったらとっくの昔に袁紹達を捕まえて相国様につきだしてますって」

 

「それもそうですね。何かそういうのを知ってそうな気がしましたもので…それはともかく、

 

 うまくおびき寄せる事の出来る方法とか無いですかね?近くに来なくても隠れている所か

 

 ら出てきさえすれば何とか出来るんですけど…」

 

 

 

「おびき寄せるか…ふうむ、陳腐過ぎる手だし、普通だったら引っかからないとは思うけど、

 

 一つ考えがあるんで、ちょっと試してみますか」

 

 どう考えても成功する確率は低いとか思いつつ、もしかしたらと思いついた方法を試す為

 

 に準備に入る。まあ、これがダメだったら地道に山狩りだな。

 

 ・・・・・・・

 

「…まさか此処まであっさり成功するとか思いもよりませんでした」

 

「…そうですね。これだったら北郷殿の助け無しでも出来たかもしれません」

 

 俺と張勲さんはそう言ってため息をつく。その眼の前には…。

 

「きーーーっ!この三公を輩した袁家の棟梁たるこの袁本初がこのような田舎者丸出しの手

 

 口に落ちるなんて…それもこれも全て猪々子さんのせいですわ!!」

 

「何言ってんすか!?どっちかっていったら、麗羽様の方が匂いにつられてたじゃないっす

 

 か!?あたいはちょっと怪しいって言ったっすよ!」

 

 あっさり捕まった袁紹さんと文醜さんの二人の姿があった。そして…。

 

「バカバカバカ!麗羽様と文ちゃんのバカバカバカ!!何で逃げてないの!?これじゃ何の

 

 為に黙秘して時間稼ぎをしてたか分かんないじゃない!!」

 

 その横で顔良さんは涙目でそう喚いていた。そりゃ、自分が犠牲になって時間稼ぎをして

 

 いる間に二人に逃げてもらおうと思っていたのに、肝心の二人がこれじゃあねぇ…。

 

 ちなみに俺が考えた方法というのは、沢山の肉を用意して一斉に焼くというものだ。おそ

 

 らく二人はお腹をすかせているだろうから、少し位は匂いにつられて動きを見せてくれた

 

 りしてくれたらいいなぁと実践してみた所、始めてから四半刻もしない内に山の中から二

 

 人が肉に向かって猛ダッシュをかけてきて、一応焼肉の台の前に用意してみた落とし穴に

 

 見事なまでに落ちて、あっさりと捕まったのであったが…何だろう、この虚しさは?自分

 

 で発案した事とはいえ、普通こんなアホな手に引っかかるわけないと…まあ、これ以上考

 

 えるのはやめよう。何か余計に虚しくなってくるだけだし。

 

 

 

「何を仰るのです、斗詩さん!この私は落ちぶれたとはいえ、三公を輩した袁家当主、袁本

 

 初ですわよ!!捕まった家臣を犠牲にしておめおめと生き残るなど、我が生き様には存在

 

 しない…いえ、存在してはいけない事ですわ!!それならば、袁家の誇りとあなたの忠誠

 

 心を胸に共に処刑台の露と消えましょう…天命という物があるならば、まさにそれこそが

 

 我が天命なのでしょう」

 

「麗羽様…」

 

「そうだぜ、斗詩!死ぬなら三人一緒だ!!斗詩一人で泰山府君とかいう奴の所に行かせな

 

 いぜ!!」

 

「文ちゃん…」

 

「さあ、斗詩さん!!」

 

「斗詩!!」

 

「麗羽様、文ちゃん!!」

 

 …さて、どうしたらいいんでしょうね、これ?何やら突然始まった三文芝居は。一応麗し

 

 き主従関係って事で良いのか?何か張勲さんも微妙な顔してるけど…。

 

「真直さんは加わらなくて良いのですか、あれに?」

 

「…あれに加わる位なら、まだ七乃さんに押し付けられた書簡の山と格闘している方が一万

 

 倍はマシです」

 

 そしてその張勲さんに話をふられた田豊さんはこめかみを押さえつつ加わる事を拒否して

 

 いたりする。

 

「そうじゃ、あんなものに加わる必要は無いのじゃ!!そもそも麗羽の言には大間違いがあ

 

 るのじゃ!!」

 

 さらにそこに余計な混乱と火種を投下するかの如くに袁術さんがやってくる。はぁ…もう

 

 帰っていいかな、俺?

 

 

 

「あら、美羽さん。久しぶりにお会いした割には随分とおかしな事を…この私の言の何処に

 

 間違いがあるというのです?」

 

「何を言うか!袁家の当主は妾に決まっておるではないか!!なぁ、七乃?」

 

「え…ええ、はい、そうですね」

 

「ほら見ろ、七乃もそう言っておろうが!!」

 

「何ですってぇ~!」

 

「ふん、そもそも陛下に逆らってお尋ね者になっている麗羽が何を偉そうな口を叩いている

 

 のじゃ!七乃、真直、こやつらをさっさと洛陽へ連行するのじゃ!!」

 

『………………』

 

「…どうしたのじゃ?妾が何かおかしな事でも言うたかの?」

 

「いえ、そういうわけでは…」

 

 袁術さんが正論を吐くという事態にその場の時間が止まったのような衝撃が走る。

 

「まぁ、此処は袁術様のお言葉の通りでしょう…洛陽へは我らが連行いたしますので、ご安

 

 心を」

 

「おおっ、そうか。ならば陛下に『この不埒者どもはこの袁公路が見事に捕えて北郷に引き

 

 渡した』とよろしく伝えてくれ」

 

「はぁ、かしこまりました」

 

 …ほぼ何もしてないのにいい性格してるよ、本当に。そもそも体調を崩していたんじゃな

 

 いのか、この人?

 

 そして張勲さんは俺が眼を向けるとあからさまに視線を逸らすし…はぁ。

 

「そういう事で…袁紹殿、顔良殿、文醜殿、洛陽までご同行願います。一応言っておくと拒

 

 否権なんて物は無いですからね」

 

 こうして俺達は袁紹さん達を洛陽に連れていく事になった…誰か代わってと結構本気で思

 

 う今日この頃。

 

 

 

 数日後。

 

「袁紹、顔良、文醜、今日まで随分と逃げおおせてきたわね。でも、その悪運も今日これま

 

 でよ!」

 

 袁紹さん達が洛陽に着いて、詠は早速にその場で裁判的な物が始めようとする。

 

 三人は既に覚悟を決めたのか大人しくしている…ように見えるが、何やら様子がおかしい。

 

「なぁ、この三人何かおかしくないか?」

 

 霞もそれに気付いたようで、三人の所に近付いて顔を覗き込む。

 

「ちょっ、霞!?」

 

「ダメや、この三人、眼が何やおかしい方を向いてるし…腹から盛大に音鳴らしてるで。こ

 

 れじゃ何言っても聞こえへんちゃうん?」

 

 腹から音って…えっ!?

 

「公達、ちゃんと三人に飯食わせたのか?俺と白蓮は先に洛陽に報告に向かったから、その

 

 辺はお前に任せたよな?」

 

「何言ってんだ、どうせ処刑するんだろ?そんな無駄な事をしてどうするってんだ。ふん縛

 

 って車の中に押し込めといたに決まってるだろ」

 

 何涼しい顔してそんな…それじゃこの数日、三人は飲まず食わずなのか!?それはある意

 

 味拷問状態といっても過言じゃないぞ。

 

「いや、一応水は用意しておいたけど」

 

「どの位の量だ?」

 

「竹筒一本」

 

 数日間で竹筒一本の水を三人でって…よく見ると空腹だけじゃなく軽い脱水症状も起こし

 

 てるし…何か変な臭いもするぞ。

 

「ダメだ、詠。このまますぐに処刑するっていうのならともかく、何かしらの話を聞こうっ

 

 ていうのなら、食事と数日の休憩が必要な位、おかしくなってるぞ」

 

 

 

「ええっ!?まったくもう…分かった、とりあえず尋問と処罰は延期!一刀、三人の事はと

 

 りあえずあんたが何とかしなさい!」

 

「白蓮、三人を医者の所へ!それと着替えと飯の用意も!!」

 

「分かった!!麗羽、斗詩、猪々子、しっかりしろ!!」

 

 詠に指示を受けて俺達は袁紹さん達を急ぎ医者の所へ搬送したのだった。

 

 ・・・・・・・

 

 そして次の日。

 

「おかわり!!」

 

「私もですわ!!」

 

「あの…私もお願いしても良いですか?」

 

 診療と着替えを済ませた三人は、用意した麦粥を止める間もなくあっという間に食べてし

 

 まい、おかわりを要求する程には回復していた。どうやら、急に食べて胃が破れるとかい

 

 う事は無さそうなので良かったけど。

 

「っていうか、肉は無いのか、肉!!」

 

「そうですわ!このような貧相な食事など、この袁本初の末期の食事にふさわしくありませ

 

 んわ!!」

 

「文ちゃん、欲張り過ぎだよ。それと麗羽様、末期の食事って…まぁ、多分そうなるとは思

 

 いますけど、そう堂々と言わなくても。それと本当にすみません、北郷さん…こんな二人

 

 で。本当はもう少し礼儀とかちゃんとしてるんですけど…」

 

 顔良さんが申し訳なさそうに謝る横で、袁紹さんと文醜さんはあっけらかんと自分の要求

 

 をしていたりする。しかし、顔良さんも出されたおかわりはしっかり食べている所を見る

 

 となかなかに良い性格をしているようだ。

 

 

 

「何もこんな無駄飯食わさないでも、さっさと処刑してしまえば良かったんじゃないのか?」

 

「少なくとも、将であった以上は、処刑の前に一応の尋問的な事はするんだとさ。こんなん

 

 でも元太守様だからその辺はきっちりしなきゃならないんだって詠が言ってたぞ」

 

「ふうん、そんなもんかね?」

 

「ちなみに公達…お前が護送中に三人に食事を与えなかった件については今回は不問に付す

 

 そうだが、今後は差し控えるようにだとさ」

 

「はいはい、分かりましたよ~」

 

 公達はそう言ってそっぽを向く。やれやれ…納得してない顔だな、これは。

 

「それと御三人方、あなた方の裁きの件については相国閣下も立ち会いの下、明日改めて行

 

 うとの事になりましたので、申し訳ありませんが今日の所は牢に入ってもらいます」

 

「分かりました…こうなった以上、今更逃亡などするつもりもありませんが、あなたの指示

 

 に従いましょう」

 

 袁紹さんは俺の言葉にそう毅然とした態度で答える。まあ、この辺は名家の元ご当主って

 

 所だな。

 

 ・・・・・・・

 

 そして次の日。

 

「一刀、いる!?」

 

 そろそろ準備の為に部屋を出ようとしていた時、詠が慌てた様子で入ってくる。

 

「どうした、そんなに慌てて?」

 

「どうしたもこうしたも…袁紹の件が皇帝陛下のお耳に入ったらしくて、今回の裁きに御出

 

 座される事になったのよ!」

 

 …皇帝陛下が?これは碌な事にならなさそうな予感しかしないのだが。

 

 

 

 一刻後。

 

 袁紹さんの裁きに皇帝陛下が御出座される事で、場所が玉座の間に変更になり、そこには

 

 月様始め、宮中のお偉い方々が集まっていた。

 

「御三方、準備はよろしいですか?」

 

「ええ、何時でも…この袁本初の最期の大舞台、気合が入ってきましたわ!お~っほっほっ

 

 ほ!お~っほっほっほ!!」

 

 そして袁紹さんは裁かれる側の人とは思えない位にハイテンションで高笑いしており、そ

 

 の後ろで顔良さんと文醜さんは若干呆れ気味の表情を浮かべていた。

 

 ・・・・・・・

 

「皇帝陛下の御出座です!」

 

 月様のその言葉と同時にその場の全員がかしこまって礼を取る。無論、俺も含めてほとん

 

 どの者が顔を上げる事など許されないが、ゆっくりとした足音と玉座に座る音が聞こえた

 

 事で陛下のお出ましが分かる。

 

「麗羽、面を上げよ」

 

 続いてのその言葉で袁紹さんが顔を上げる。どうやら、今のが陛下の声という事だな。

 

「久しいな、まさかこのような再会の仕方になろうとはのぉ…しかし、思ったより元気そう

 

 で何よりである」

 

「はっ…空丹様もご機嫌麗しゅう」

 

 なるほど…袁紹さんと陛下は真名を預けあう程だったのか。でも、本来であれば、罪人と

 

 して裁く相手に対してそういう対応はどうなんだろうかと思ってしまうのはおかしな事な

 

 のだろうか…月様が何も言わない以上、俺にはどうにも出来ない話ではあるが。とりあえ

 

 ず、陛下がまともな裁きをしてくれればそれで…と思った瞬間、陛下がとんでもない事を

 

 口走る。

 

 

 

「ところで月、麗羽は何の罪で裁かれるの?」

 

 …何を言ってるんだ、この人?俺や他の面々、裁かれる袁紹さん達も含めて呆気に取られ

 

 たような感じになる。顔を上げられないから表情は分からないが、月様からも困惑してい

 

 る雰囲気は伝わってくる。

 

「何…何かおかしな事言った?」

 

「いいえ、大丈夫ですよ。空丹様は何もおかしな事は申しておりませんから」

 

 …そしてその横からさらに輪をかけておかしな事を言う人が。

 

「そうね、黄がそういうのなら何もおかしな事は言ってないって事で良いのね」

 

 おいおいおいおいおいおい、誰だ訳の分からない事を陛下に吹き込むのは?陛下は陛下で

 

 そのまま信じちゃうし!こんなんで大丈夫なのか、漢帝国!?

 

「さあ、月。麗羽は何の罪なの?」

 

「は…はぁ、あの、諸侯を率いて洛陽に攻めて来た事なのですが…」

 

 …一応、月様からの説明は続いているが、雰囲気的に陛下が理解しているようには感じな

 

 いのは気のせいではあるまい。これはとんでもない結果になりそうな気がするとか思って

 

 いると…。

 

「なるほど、良く分かったわ」

 

「はい、ご理解いただけて何y『だったらもうこれ以上罪は無いって事よね?』…はっ!?」

 

 分かったとか言ったんで、月様が安堵の声を上げた瞬間、陛下は再びとんでもない事を口

 

 走る。

 

「だって、洛陽に攻めて来たって罪はもう改易になった事で終わったのよね?じゃあ、もう

 

 これはおしまいでいいじゃない。丁度新しい側近が欲しいと思っていた所なの。麗羽の事

 

 は私がもらうわ」

 

「しかし…陛下『相国閣下、陛下の仰せですよ』…はい、かしこまりました」

 

 月様は反論しようとしたが、側近の黄とか呼ばれた人にそう返され、それ以上の反論は封

 

 じられる。

 

 

 

「それじゃ、そういう事で。麗羽とその家臣の二人、このまま一緒にいらっしゃい」

 

 そして陛下は袁紹さん達にそう声をかけるとさっさと奥に下がってしまう。袁紹さん達も

 

 さすがに戸惑いを見せていたものの、陛下のお言葉である以上従わないわけにもいかない

 

 ので、慌てて後を追う。

 

「なぁ…大丈夫なのか、これ?」

 

「大丈夫なわけねぇだろ…だからさっさと処刑しとけば良かったんだ」

 

 公達はそう忌々しげに呟いていたが…最初は暴論にしか聞こえなかった公達の主張が今と

 

 なっては正論にしか感じなかったのであった。

 

 そして場は半ば白けたような感じになって集まった人達も何となく解散みたいな感じでい

 

 なくなってしばらくしてから…。

 

「北郷殿、よろしいですか?」

 

「王允殿?何でしょう?」

 

「とりあえずこちらへ」

 

 ・・・・・・・

 

 俺と公達は王允殿に別室に連れて来られた。

 

「何です、このような所で?」

 

「良いですか、これから起こる事は他言無用です。月様は既にご存知の事ではありますが…」

 

 そう言って王允殿がその部屋の扉を開けるとそこには…。

 

「りゅ、劉協様!?」

 

「しっ、北郷、荀攸、私が此処にいるのを知っているのはあなた達を除けば月と詠だけです。

 

 大きな声を出さないで」

 

 一体何で此処に劉協様が…そしてどうやら俺達に用があるみたいだけど、一体何を…もう

 

 此処まで来ると不安感すら麻痺してきそうな気がしてきたのであった。

 

 

                                       続く。

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回も投稿が遅くなりまして申し訳ございません。

 

 全ては蒼天の覇王とドラ○エがダブルで来るのが悪い…

 

 わけはなく、単なる私自身の遅筆のせいなのですが。

 

 さて、今回は袁家一派再登場でしたが…皇帝陛下のせい

 

 でとんでもない事になりました。今後どうなる事やら?

 

 とりあえず平穏では済みませんので。

 

 そして最後に一刀達は白湯に呼び出されます。本来なら

 

 直に会う事が許される身分ではないので若干回りくどい

 

 感じになってますが…果たして劉協は何を?

 

 というわけで次回はこの続きからです。

 

 

 それでは次回、第二十三話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 陛下と一緒にいた黄の事についてはまた改めて…

 

    十常侍が始末されたのに何故彼女はいるのかも含

 

    めて…出さないって言ったのに出してしまったお

 

    詫びも含めてですが。

 

 


 
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