No.91879 Tuonoざとさん 2009-08-27 16:38:05 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1032 閲覧ユーザー数:987 |
Tuono
硝煙の臭いがやけに鼻につく。
剥き出しの鉄筋とコンクリート壁に叩きつけるような雨音が酷く不快な騒音となって鼓膜を刺激し、ボルサリーノを目深にした男は未だ熱を失わぬ銃身を下げて小さく舌打ちをした。
目の前には倒れた男。額と胸に風穴を開けて空を仰ぎ、自らの体から溢れ出た紅い泉で溺れたようなその屍体に、同情も嘲笑もないただただ冷め切った冷徹な眼差しで一瞥し踵を返す。
滑るような足捌きは、水濡れたその場に踏み出したところで僅かの音も響かせることはない。
気配を殺し足音を殺し、呼吸を殺して後は証拠を雨水で洗い流す。標的も方法も後始末すらも、退屈なほど簡単で溜め息が出た。
「……暇で死にたくなるよりゃあマシか」
呟き、手にしたM36チーフスペシャルをホルスターへと戻す。使い慣れた愛銃よりも重く左肩を下げる感覚に、苦々しく舌打ちをした。
途端、目の前の闇が密やかに蠢く。
「そろそろ、終わったかい?」
視認した蠢きの先へ銃弾を撃ち込むべく右手がホルスターに掛かる前に、コンクリートに反響し響く声。その耳慣れた音に溜息を吐き、黒塗りに橙をあしらった影は視線を上げた。
「アホ牛か」
「毎日毎日、皮肉しか出てこない口だよね。マジ腹立つ」
せっかく迎えに来てやったのにと尖る口元に失笑を返し、今回の始末場所となった工事現場の脇に停められていた黒のアベンシスに乗り込む。どうやらこの出迎えも、今や堂々たるボンゴレのボスとなった教え子の差し金らしいと察してリボーンは唇の端を吊り上げた。
「弾痕の偽装の次は、逃走車両のタイヤ痕の偽装か。確かに、殺ったホシが歩いて帰ってちゃあ随分な余裕じみてて疑われるからな。スケープゴートの拳銃に車まで用意するとは、ツナも多少は始末の仕方に慣れてきたか」
「癒着者同士の仲違いに見せかけて、出来るだけ穏便に悪い芽を摘んでおきたいらしいから。廃車置場にこれを置いて、次は俺のターゲット。アンタが殺った奴の取引相手な。ホントはそっちもアンタの仕事になるはずだったらしいんだけどさ、天気が天気だし、雲の中がやたら帯電してるってんで、俺が呼ばれたわけ」
ボンゴレの情報を外部に売り渡してた奴を雷の守護者である俺が雷で殺すっていうんだから、結構洒落が利いてるよね。
笑うランボの声にリボーンはネクタイを緩め、ボルサリーノを後ろへとずらし溜息を吐く。闇夜を激しく叩く雨が、景色など素知らぬ顔で流れては弾け飛んでいた。
「殺せるんだろうな」
「殺せるよ。さすがに俺ももう餓鬼じゃない」
銃を握ることは出来ても引き金を引くことを戸惑っていたのは、もう随分と昔の話だ。
それでも釈然としない面持ちのリボーンを横目で見遣り、やれやれと呟いて車を脇に寄せ、エンジンを落とす。
「……俺にボンゴレの仕事を任せるのは、不安?」
「まぁな」
「ショック。アンタにかかれば、俺もまだまだ格下ってわけだ」
「足元にも及ばねぇ」
「やれやれ。これでもちょっと前から、名実共にボヴィーノ一のヒットマンなんだけどな」
「試すか?」
「ここで?」
鼓膜を揺らすのは激しい雨音。互いに伏せられた視線の先は足元の闇。欲しいのは、ただ得物を手に掛けるほんの一瞬。
呼吸さえも止めた沈黙を破り、稲光が闇を刺す。
「……ッフフ」
「だろうな」
突きつけられた銃口。片方はリボーンの心臓を僅か下方に反れ、もう片方は正確にランボの心臓へ。そして。
リボーンの左手に握られたCz75は、ランボのこめかみに押し当てられていた。
「俺の負け。どこに持ってたのさ、それ」
「残念ながらホルスターは邪魔者が占領中だったんでな。本命は失礼ながらベルトに収まってもらってた」
「そりゃ可哀想。無骨なリボルバーに最愛の持ち主の胸を寝取られて、流麗なベレッタちゃんは随分寂しかっただろうに」
「ベレッタなんぞと一緒にするな」
「やれやれ、ベタ惚れだとさ」
突きつけていた銃口をくるりと回して腰に取り付けたホルスターへと愛銃を収めるランボの姿に嘲笑を漏らし、リボーンも二丁の拳銃をそれぞれの場所へ戻す。
「牽制を簡単に解きやがって。俺がてめぇを撃ってたら後悔してる暇もなく死んでたんだぞ」
「格下は相手にしないってアンタの常套句、嫌になるくらい聞いてるからね。そんな心配はご無用」
「泣き喚くしか能がなかったアホ牛が、口の減らねぇオッサンになったか」
「ランボさんはまだオッサンじゃありません」
ムカつくと一言呟いて、停止していたエンジンを掛ける。フロントガラスから空を見上げると、雨は小降りになったものの、雷雲は未だ上空に留まり、不機嫌な音を鳴らしていた。
「さて、寄り道しちゃったし早々に仕事を済ませてボンゴレに報告に行かないと。うちのボスもきっと心配してる」
「ランボ」
「んー?」
「腹減った」
「……帰ったらなんか作るから、ちょっとガマンしてくれ」
困って笑うランボの顔に、楽しそうにリボーンの喉が揺れる。
我慢をするのは好きではないが、この目の前にいる牛の専売特許を取ってやるのも悪くは無いと唇を吊り上げた。
‐‐‐了.
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家庭教師ヒットマンREBORNの二次創作です。一昨年の七夕に書いたものですので、リボーンの本当の姿などの設定が出る前に書いた、20年後設定物でした。
21歳設定リボーンと、25歳設定ランボしか出てきません。
捏造ですので、苦手な方は回避をお願い致します。