No.91850

感動をぶち壊す終幕劇

もぺさん

今日の魏は祭り騒ぎどころの話ではなく。

2009-08-27 12:01:21 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4872   閲覧ユーザー数:4028

 許子将に言われた言葉。

 大局に逆らえば、待ち受けるは身の破滅。

 その言葉通りに、北郷一刀はこの世界から消えようとしていた。

 一刀は華琳と2人で最後の時を過ごす。

 月明かりに照らされて、2人は言葉を交わす。

 目を閉じれば、瞼に浮かぶ思い出の数々。

 懐かしみながら、初めて出会った日から、今日に至るまでを語りあう。

 でも、2人の会話は長く続くことはない。

 一刀の体は世界に解けるように、徐々に薄れていく。

「どうしても……逝くの?」

 華琳は一刀に背を向けて、内に秘めた感情を隠しながら一刀に尋ねる。

「ああ……もう終わりみたいだからね……」

 一刀も、自分がどうなるかわかっているからこそ、普段通りを装う。

 2人だけの時間。2人だけの世界。

 ──別れの時。

「ああ! 一刀の体が透き通ってる?」

 それを邪魔する春蘭の声。

 春蘭だけではない。

 秋蘭に桂花、季衣等、魏の面々に加え張三姉妹までもが2人の世界に乱入してきた。

「華琳さま、一体これは?」

 桂花は一刀を指さしながら華琳に尋ねる。

 華琳は2人の世界を壊され、苛立ちを覚えたが、耐えて逆に聞き返す。

「あなた達、大勢で来て一体何の用かしら?」

 華琳の問いに答えぬ訳にもいかず、代表して秋蘭が華琳に報告する。

「はっ。戦時中でしたので申しておりませんでしたが、戦争が終わった今が報告の機会かと思い、一刀と華琳さまに報告せねばならぬことがございます」

「何かしら?」

「ここにいる者皆、一刀の子を身籠っております。」

「「なっ?」」

 驚きの声を上げたのは、勿論一刀と華琳。

 余りに予想外の爆弾発言であった。

「秋蘭、それは本当のことなの?」

 念の為、確認を取る華琳。

 しかし、秋蘭がそんな冗談を言う筈もなく、

「大陸一の医師である華佗の診断ですので間違いないかと」

 一刀の子を身籠ったことは嘘偽りのないことであった。

「ところで華琳さま。何故一刀は体が透き通っているのでしょうか?」

「役目を終えて、この世界から消えようとしているのよ」

 華琳は頭を押さえながら答える。

 それを聞いた面々が一刀に詰め寄る。

 当然だ。

 父となる筈の人物が、子が日の目を見る前にいなくなろうとしているのだから。

 しかし、彼女らを遮り、華琳がゆらりと、一刀の前に出る。

「どういうことかしら、一刀……」

 低い声が、とても恐ろしく、一刀は思わず華琳と距離を取る。

「どういうことって言われても、こればっかりは確率の問題で……」

「やることやっているのに、どうして私だけ懐妊しないのよ!」

「ちょっ、華琳? 何てこと言い出すんだよ」

 華琳に詰め寄られている間にも、一刀の体はどんどん薄くなっていく。

「……恨んでやるから」

「ははっ、それはまじで怖いんですけど……」

「……逝かないで」

「ごめんよ……華琳」

「……一刀」

「さよなら……愛していたよ、華琳──────」

 その言葉を最後に一刀は世界から消えた。

「…………一刀?」

 華琳はその場に崩れ落ち、膝をついた。

「一刀……? 一刀……!」

 いなくなった者の名前を呼び続ける華琳。

 周りにいた者は誰一人として、口を挟むことはできなかった。

「ばかぁ……っ! ホントに消えるなんて……なんで、私だけ子を授けてくれないの……っ!」

 そこにいるのは、誇り高き王なのではなく、

「ばか……ぁ……!」

 ただ一人の寂しがり屋の少女だった。

 

 ──月明かりの下、少女は泣き続けた。

 ──自分だけ、懐妊しなかったことを悲しみながら……。

 

 

                                                                      ≪了≫

     あとがき

 応援メッセージが届いてるそうなので、確認しようとしたら見習いは使用できませんとのことで、急遽書かせて頂きました。

 念の為、「母に語りて」とは一切関係ありません。

 ただの一発ネタです。

 多少端折っていますが、3ページ目は可能な限り魏エンドに合わせています。

 やることやってんだから呉エンドみたいな状況になっても、可笑しくないはず。

 一刀いないけどねぇ。


 
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