【阿知賀女子学院・麻雀部部室】
≪南三局の新子憧≫
西家:小走 29,300
北家:戒能 20,400
東家:赤土 22,400
南家:末原 27,900
憧『意外な展開よね』
憧『この面子を見たら、普通の人は戒能プロのぶっちぎりを予想するはず。私たち阿知賀の関係者なら、ハルエが食い下がるという予想になる。流石にハルエの勝ちを主張するのは灼さんくらいだろうけどさ』
憧『まあ、わかっているのは小走先輩と末原先輩の勝ちを予想する人なんて皆無だってこと。麻雀というゲームの性質上、誰にでも勝ち目はあるはずなのに、絶望的な格差がその両者を隔ててる。オッズがいくらであろうとも、誰一人としてベットしないんだ』
憧『だけど、今のトップは小走先輩で、二着は末原先輩。比較的小場で局が進んだからとか、格上二人が不調っぽいとか。色々理由はあるにしても、プロだって予想できないような展開に入り込んじゃってる』
憧『戒能プロの親は末原先輩の仕掛けとハルエの差し込みで流れた。なら、このハルエの親だって、協力してでも流したいところだよね。幸いにも微差なんだから、ここは順位云々を無視してでも連荘を防いだ方がいいと思う。この親は厄介すぎるもん』
憧『打ってるのが私たち阿知賀のメンバーなら、絶対に連携して潰しにいくんだけどなあ。今打ってるみんなはどうするんだろう。万が一を起こすためには、この局を凌がなきゃいけないし。開局前の様子でなんかわかんないかな?』
憧『あ、末原先輩、ものすごい気合入ってる。この局は本気で集中してくるみたいね。小走先輩と戒能プロは、変化なしっぽい。小走先輩はアレだけど、戒能プロはオーラスとの兼ね合いでも考えているのかな?私的にはオーラスよりも大事な局だと思うんだけど』
憧『うかうかしてるとさ、ハルエに勝負を決められちゃうよ?』
……
…
憧『さあ二人の配牌はどうかな』
憧『ハルエは、いいねこれ。今日見た中で一番いい。役牌の東が対子で、イーペーコー目もある。それ以外はカンチャン二つだけど、変化しそうな形だから好形に仕上がりそう』
憧『対して末原先輩は、こっちもいい。1ソウ、東、北以外は全て中張牌。仕掛けられるなら、すぐに食いタンが決まる手だよ……まあ、上家がハルエだから無理なんだけどさ』
憧『んーでもこれ東の切り時がネックになりそう。急ぎたい時にこういうの、困るよねー。普通に1ソウあたりから切って様子をみたいところだけど、っと孤立牌の八マンからか。少しでもタンヤオ気配を消そうって魂胆?』
憧『となると、次からの切り出しも難しくなる。東はギリギリまで切りたくないにしても、1ソウと北は完全に無駄な牌だ。捨て牌を読まれ難いように作っていくのなら、ある程度受け入れが狭くなることを覚悟するわけだけど。末原先輩はどこまで許容するんだろ。こういうのは人によってかなり違うから、学んでおきたいところよね』
憧『まあ1ソウ、北の順で切るのは確実ね。戒能プロが一色手だった場合、仕掛けられることもあるだろうから。確認してから切り時を考えたい局面のはず。あとは引いた中張牌をどれくらい捨て牌にバラ撒いていくのか。ちょっと楽しみ』
憧『しっかしこれ、マズいなあ。私がハルエなら仕掛けてすぐあがっちゃいそうな手だよ。戒能プロは絞ってくるのかな?そんなことしてる場合じゃなさそうだけど、プロならできたりするのかも』
憧『ってゆーか、この半荘って仕掛けが少なくない?ほとんど末原先輩の仕掛けだったんじゃないかな。ハルエがちょっと仕掛けたけど、アレあんまりあがる気のなさそうな仕掛けだったから考慮外よね』
憧『うーん。小走先輩のところに私が入ってたら、全然違った半荘になってるだろうなあ。太刀打ちできないのはわかってるんだけど、やっぱ打ってみたかったなあ』
――七巡目・赤土晴絵の手牌――
三四888(55667)東東東 ドラ 4
憧『七巡目でこの形。やっぱハルエが強いわ』
憧『この半荘で、たぶん唯一よね。配牌が良いのも、ツモが良いのも』
憧『一番いい手が南場の親で来るかねえ。これも上手く耐えた結果なのかな?リーチをかけて親満ツモまで狙いたくなるけど、さてさてどうするか』
憧『末原先輩は、ちょっと進んだけど苦戦中か。仕掛けたいとこだけど、微妙に手牌が噛み合ってないんだよね。8ソウや(5)ピンなら仕掛けられるのんだけど、ハルエが手に組み込んでるから出ないんだよなあ』
憧『まあどこ引いてもテンパイを取るから、両面が先に入れば8ソウは鳴ける。でもそれでやっと良形リャンシャンテンだから、ちょっと間に合いそうにない。ハルエがいつあがるか、何点になるかって勝負になりそう』
憧『親の時にこんな手が入ったらほんと楽よね。誰が打ってもこの形になるもん。私が代打ちしてもいいくらいの局だわ』
憧『おっ、高めの(7)ピン引いてきた。8ソウ切りリーチ、いっちゃう?たぶんツモれると思うから、私ならノータイムで――――』
ツモ:(7)
打:四
三888(556677)東東東 ドラ 4
憧『は?』
憧『えっ、なにこれ』
憧『四暗刻狙い?いやいや、んなわけないよ。私たち、無意味な役満狙いはやめろって教わってるもん』
憧『仕掛けてトイトイ?有り得ない。引かなきゃ7,700点止まり。しかもあがりにくい待ちになる。両面リーチの方がはるかにマシ』
憧『なんなのこれ。いっつも思うけど、ハルエの麻雀ってちょっと難しすぎるよ。なに考えてたら、こんな打牌になるのかなあ』
憧『うーん……』
憧『だめだ。役満狙い以外の案が思いつかない。これでもし役満狙いだったら、後で問い詰めてやるから』
ツモ:八
打:三
八888(556677)東東東 ドラ 4
憧『まあ三マンよりは少し安全っぽい?こう受けたなら普通の打牌よね。末原先輩が一枚切ってるから、枚数的には少ないんだけどさ』
憧『にしても、末原先輩は形が変わるだけでシャンテン数が変わらないなあ。5・8ソウが薄くて引けないのが辛いとこ。ちょっと厳しいかも。ハルエが5ソウでも引いちゃったら、仕掛けのチャンスが出てくるけど』
憧『他の二人は、たぶんテンパってなさそう。ってか小走先輩、どれだけ幺九牌持ってるんですか。そっちで手を作った方がマシなんじゃ』
ツモ:七
八888(556677)東東東 ドラ 4
憧『あ、くっついた』
憧『でもこれ、意味ないんだよね。三四マンを嫌ったんだから、この両面も受けないでしょ。ハルエの狙いはわかんないけど、それくらいはわか――――』
打:8
憧「は……ふあぁ、っとすみません。失礼しました」
憧『あっぶなあい!』
憧『とっさにあくびっぽくして誤魔化したけど、びっくりし過ぎて声出ちゃったよ』
恭子「チー」
憧『ですよね。当然仕掛けますよね』
憧『今の今まで鉄壁の防御で仕掛けさせなかったのに、ここにきて一回止めたような8ソウを食わせるとか。しかも二・五マン待ちを嫌ったのに六・九マン待ちなら受けるって。もうね、なんと言うか』
憧『素人かっ!』
憧『ちょっと四暗刻を狙ってみたけどやっぱやーめたって打ち方じゃん。打ってるのがハルエじゃなかったら鼻で笑うレベルだよ。この手順はない。有り得ない』
憧『でも、でもこれハルエが打ってるから、何か意味が……いや流石になあ』
憧『もーこれ過去最高でわかんないよう』
小走「……」 打:九
憧『あ、出た』
憧『いや結局あがれちゃったけど、この手順の4,800点に意味があるの?トップ目からの直撃が欲しかったとか?にしても、この待ちなら出るって確信は持てないと思うんだけど』
憧『まあ、これで小走先輩もトップ陥落か。末原先輩がトップ目になってハルエが二着に浮上、ってこれ、ますます意味わかんないじゃん!オーラスが親の末原先輩をトップに押し上げてどうすんのさ。やっぱ両面リーチで満貫狙った方が良かったんじゃ――――』
戒能「……?」 打:六
憧『……あー』
憧『そりゃ戒能プロも怪訝そうな目でこっち見るよね』
憧『ハルエ、なんであがってないの?』
憧『ほんともうわかんないよ。なんかすごいこと考えてるのかもしれないけどさ、もう馬鹿にしてるようにしか見えなくなってきちゃった。なにさ、この手順。この見逃し。全部意味ないじゃん』
憧『三着目がトップ目から見逃して、役満狙いでもなくて、いったい何をやりたいの?ほんとにトップを取りたいって思ってる?この対局でやりたいことって、こんなことだったの?』
憧『わかんない。わかんなすぎ。わかりたいのに』
憧『なんかもう泣きそう。なんでこんなにかけ離れてるかなあ』
憧『ハルエがすごいのは知ってるけどさ。言わないけど、尊敬もしてるけどさ。そういう人が全然理解できないのってさ、なんかすっごく寂しいんだよ?』
恭子「……」 打:東
小走「……」 打:八
戒能「……」 打:南
赤土「……」 打:1
恭子「……」 打:九
赤土「ロン」
恭子「えっ?」
赤土「その九マン、ロンだよ。4,800点」
恭子「え……はああっ⁈」
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対局の模様(新子憧視点)