ギンガ団のビル、突撃
ハクタイジムで勝利を収めたクウヤは、ポケモンセンターでポケモンを回復させ、これから町を見て回ろうとしていたときのことだった。
「かえしてよぅ!」
「うっせぇ、お前のものはオレ様のもの、オレ様のものはオレ様のものだ!」
「・・・んっ!?」
話し声がしたところに駆けつけると、ミミロルを抱えたギンガ団が走り去っていくところを目撃した。
クウヤは床にしりもちをついて泣きじゃくる男の子に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「う、うぅ、う・・・ぼくのミミロルとられちゃったぁ~~~!!!」
「・・・今の奴、ギンガ団だったな」
クウヤはギンガ団が去っていった方向をにらむ。
「人のポケモンを無理矢理とるなんてゆるせねぇぜ!
おれ達でそいつ、ぶっとばしてやる!」
「うぇぇぇえっ」
泣きじゃくってる男の子の方を向いて、クウヤは帽子を取ってそれをかぶせて彼に笑いかけた。
「心配するな、お前のポケモンはおれが必ず取り返してやるよ!
だから泣いてないで、待っててくれよな!」
「・・・ホントに、約束だよ?」
「ああ、約束だ!」
どうやら男の子に帽子をかぶせたのはその約束の証らしい。
クウヤはすぐにギンガ団を追いかけていった。
ハクタイシティのはずれに建っているビル。
そこはかつては廃ビルだったのだが、今はギンガ団が地主のことわりなしに秘密裏に改装し自分達のたまり場にしているのだった。
「うるさいわね、なんの騒ぎよ?」
そのビルの最上層にいる、独特な改造を施したギンガ団のコスチュームを身に着けた紫髪の女性が気だるそうに下の様子を気にしていた。
彼女の背後には、たくさんのポケモンがはいった檻があり、その中にはあの男の子のミミロルもいた。
「じゅじゅじゅ、ジュピターさま!」
「いったい何の騒ぎなの?」
自分のところに駆けこんできたのは、ギンガ団の下っ端だった。
「そ、それが・・・妙なガキが突っ込んできて・・・しかもそのガキ、これまでも我々の邪魔をしてきたガキで!
めっちゃ強くて、ほとんどの下っ端のポケモンは倒されて手も足も出ないんです!!」
「そうなの。
今までギンガ団の邪魔をしてきた妙なガキね・・・そういえば聞いたことある気がするわ」
ジュピターは少し考えるような動作の後で下っ端を見下ろす。
「で、アンタは?」
「・・・え・・・」
「負けて、なんでここに逃げ込んできたの?」
「そ、それは・・・ジュピター様に状況を報告するために・・・」
「そんなことしなくても、そのガキというのがここまできたら、すぐにわかるわよ」
「・・・っ」
自分を見下すジュピターの目はこれ以上ないくらいに冷たく、その冷酷な視線にギンガ団は恐怖に身を震わせた。
「ギンガ団として、最後まで戦ってそれで死んでこそあの方への忠節を示せるのよ。
だから敗北したからと言ってここまで逃げるなんて、恥ずかしくないの?」
「・・・ヒ、ヒィィィ・・・お、俺はまだ・・・死にたくない・・・」
「黙りなさい」
そう言いジュピターは毒と悪のポケモン、スカタンクを出して、その牙と爪を下っ端に向ける。
「うわぁぁぁあっ!!!」
スカタンクが自分にとびかかろうとしたとき、どこからか風の刃が飛んできてスカタンクを攻撃した。
「!?」
「おめぇがここの元締めか!?」
「・・・そう、アンタがここを攻撃してきたガキってわけね・・・。
みるからにほんとにガキだわね」
突撃してきた少年・・・クウヤをじろじろと見るジュピター。
先程スカタンクを攻撃したのも、ズーバのエアスラッシュだった。
「人のポケモンを盗るだけじゃなくて、手下まで傷つけるなんて、何を考えてるんだ!」
「ワタシはギンガ団の覚悟をもう一度このろくでなしに教えようとしただけよ。」
「はぁっ!?」
何言ってんだこいつ、と言いたげに顔をゆがめるクウヤ。
「ギンガ団になるということはその肉体も血も思考も心も・・・そして命も、神にささげるということなのよ。
生死を持ってその神への信仰を示させる、敗北などというこの世で最も価値なき行為をするなど、神に信仰を示さないも同然。
だから役立たずは消すつもりよ、神の元には完璧なものしかいらないから」
「だったらなんだっていうんだよ!」
「・・・アンタ、ワタシの話を聞いてなかったのかしら?
覚悟を確認させたかったって」
クウヤはぎん、とジュピターを睨みズーバとヒーコに攻撃の態勢を取らせる。
「覚悟すんのはお前だぜ、おばちゃん!
とにかく、人殺しをやめさせて、ポケモン達は返してもらうぞ!」
「・・・おばちゃん・・・?」
ピク、とジュピターは反応した。
「偉そうな口を利く生意気なガキ・・・このジュピターの恐ろしさを思い知らせてやる!
いくのよスカタンク、ゴースト!」
「ヒーコ、ズーバ、いけぇ!」
「ゴースト、シャドーパンチ!」
「かえんぐるま!」
「つじぎり!」
「つばさでうつ攻撃!」
相手のポケモンの攻撃に攻撃で迎えうつ。
ゴーストのシャドーボールもひのこでかきけし、再びつじぎりをしかけてきたスカタンクの攻撃もズーバは軽々とかわしてはがねのつばさで攻撃した。
非常にテンポよくバトルをしているクウヤのスタイルに踊らされ、ジュピターはクウヤのことが気に入らなくなってきた。
「ヒーコ、ズーバいいぞ!」
クウヤが無邪気にポケモン達に激励を送る様子をみて、ますます気に入らないジュピターはスカタンクのほうをむいて技を指示した。
「くろいきりよ、スカタンク!」
「なっ・・・!」
突然放たれた黒い霧に驚き視界を奪われ敵を見失うクウヤたち。
「な、なんだ!?」
「かえんほうしゃ!」
どこからかかえんほうしゃがとんできて、ズーバを攻撃してきた。
かえんほうしゃを放ったのはスカタンクだ。
「ズーバ!」
かえんほうしゃによってズーバは翼に大きな火傷を負って動けなくなっていた。
ヒーコは黒い霧で視界を奪われ戸惑い、まともに攻撃ができない。
その中でゴーストのシャドーパンチが連続で襲いかかっていた。
「さぁこの強力な攻撃に、あんたどーするつもり!?」
ジュピターはクウヤたちを挑発してきた。
その声を聞いてクウヤはあの男の子の姿を思い浮かべる。
「約束、したんだ・・・」
クウヤは黒い霧の中でも目を閉じなかった。
「あの男の子のポケモンを取り返すって、約束したんだ!
だからこんなところで負けて、たまるかっ!」
そういってクウヤがボールから出したのはトームだった。
「トーム、ここの機械に入って換気扇を動かしてこの霧を取り払ってくれ!」
クウヤの言うとおりに動きトームは換気扇のスイッチに潜り込んで、換気扇を動かし黒い霧を追い出す。
「くろいきりが晴れた!?」
「やりぃ、もっとやっちゃえ、トーム!」
クウヤの言うとおりトームはこのビルのありとあらゆる電子機器をいったりきたりして、ギンガ団を混乱させた。
「うぎゃあああああああ!!!!!!!」
「な、なに!?」
やがてトームが入り込んだのは、庭においてあった草刈り機の中。
ギザギザの歯でにたりと笑いながらその姿でギンガ団を追いかけ回して彼らを恐怖に陥れていた。
「トームすげぇ!」
「すげぇってことばっですまないわよ!?」
ギンガ団がトームから逃げるために建物に入ったらまた異変が起こった。
トームは今度は洗濯機に入り彼らにハイドロポンプを放ったのだ。
「スッカーーーン!」
「ぎゃああああ!?」
その攻撃は、スカタンクやジュピターにもヒットした。
「あのロトム、許さないわ・・・スカタンク、あくのはどう!」
ジュピターの指示にあわせてスカタンクがあくのはどうを放ったがその技が当たったのはただの洗濯機だった。
どこにいった、と周囲を探っていると扇風機に入ったトームが現れエアスラッシュを仕掛けてスカタンク達を攻撃した。
「こ、このぉぉぉっ!!!」
ジュピターがさらなる攻撃を仕掛けようとすると彼女の通信機に通信が入った。
「なによ?」
『ジュピター、ボスからの指令だ、ただちに帰還しろ。
今回その町で集めたポケモンはすでにいらぬからおいて行けとも言っていたぞ』
「ボスが・・・わかったわ」
通信を切りボールからクロバットを出すとその足につかまり飛び上がる。
「逃げるのか!?」
「ボスの命令は絶対服従、どんな状況であろうと従う、それがワタシよ」
そんなジュピターをみてクウヤは微妙な表情を浮かべる。
ただ一つの存在を神と崇め他や己を一切顧みない様子に、どことなく不気味さを感じているのだ。
「アンタ・・・このギンガ団を敵に回して、ただではすまさないわよ」
「お前等みたいな連中、もう飽きたよ!」
ジュピターがビルからさっていく。
追いかけて止めたい気持ちもあったが、ポケモン達を助けるためにクウヤは檻を破壊してそこにいるポケモンを外に出した。
その中にいたミミロルを抱えてビルからでると、そこにはクウヤの帽子を持った男の子がいた。
男の子の姿を見たミミロルはクウヤの腕を飛び出しその男の子に駆け寄る。
「みみぃ!」
「ミミロル!」
男の子もミミロルが返ってきたことがうれしくて、ミミロルを抱きしめる。
「ありがとう、おにいちゃん!」
「そのミミロル、大事にするんだぞ!」
「うん!」
クウヤの姿をみて男の子は、こんなポケモントレーナーになりたいと思うようになっていた。
帽子をかぶるとクウヤはポケモンを回復させて次の町へ向かうと告げると、男の子は寂しそうにしたが、いつかはトレーナーとしての特訓にもつきあってバトルもしてくれるという約束を聞いて笑顔を取り戻す。
「またね、おにいちゃん!」
「ああ、またな!」
返してもらった帽子をかぶってクウヤはにっと笑ってみせた。
どこかの機械的な建物の中で、ギンガ団のジュピターはパソコンをいじり頬杖をつきながら調べ物をしていた。
「全国の裏のネットワークにある裏情報・・・にあるはず。
・・・ああ、あったわ。
あのガキ・・・クウヤって名前なのね・・・。
ふんふん・・・へぇ、そうなの」
モニターに映し出されていたのはクウヤの個人情報だった。
どこからか盗撮されたようだ、目線が違う方向に向いている顔写真もあり細かい情報が載っていた。
「なにをしている」
「あらサターン。」
ジュピターを呼ぶのは通信機と同じ声。
そして暗がりから姿を見せたのは青い髪に鋭い目の男だった。
「ボスの指令はどうした」
「ワタシが後戻りすると思った?
あれくらいの簡単な仕事、早々に終わらせたわよ」
「ふん、まぁ流石といったところか・・・ボスに心酔しているだけのことはある。」
「褒めてもなにもでないわよ」
「・・・まぁいい、それで、なにをみていた」
サターンと呼ばれた男はジュピターのみていたパソコンの画面をのぞき込みクウヤの情報をみる。
「このガキ・・・以前マーズが報告していたやつじゃないか」
「発電所の襲撃や金稼ぎの密漁・・・全部邪魔したのね」
「・・・ふむ」
次にサターンがみたのは、クウヤの過去の実績。
「ホウエンのポケモンジムを8つすべて制覇し、バッジもそろえているな。」
「しかも、それだけじゃないわ。
アクア団もマグマ団も、彼が関わったことが原因で壊滅したみたいよ。
しかもあのグラードンやカイオーガだけじゃなく、レックウザにも接触しているようね。」
情報を読み上げはじめる。
「一見すれば普通の元気のいいだけの、13歳の少年。
実際その実力はとどまることを知らぬポケモントレーナー。
若さと明活さ、無限の可能性を秘めていることから、この少年に対する期待を抱くものもいる。
そしてその実力と実績、正義感の強さのために・・・」
モニターに参考としてのせられている、無邪気な笑顔のクウヤの写真を見た。
「全国の犯罪者の、ブラックリストだな」
サターンはクウヤの顔を手で覆い、口元をにたりとゆがめた。
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この長編大丈夫かな…ってこの感じはデジャブ。