No.912569

「真・恋姫無双  君の隣に」 第73話

小次郎さん

戦から二年が経った。
新たな道を歩き始めた華琳と麗羽。

2017-07-03 00:48:22 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7221   閲覧ユーザー数:5320

腹立ちの治まらない私は書簡を手にしたまま城を出る。

何かあった時に自然と足の向かう場所へ、着いた私は赤子をあやしていている後ろ姿に声を掛ける。

「麗羽」

「あら?華琳さん。・・また一刀さんと揉めましたの?」

「そうよ、あの馬鹿!」

「仕方ないですわね、お茶を用意しますから待っててくださる事」

此処は孤児を預かり育てている施設。

麗羽は国を失ったあと、美羽の勧めで子供達の世話役として働いているわ。

話を聞いた時は信じられなかったけど、拙いながらも懸命で子供達に慕われていた。

あの戦から、二年が経ったわ。

桂花達は直ぐに新しい役職を任じられ、各地で統治に忙殺されてる。

私は権力を持つ立場のままだと危険視される事もあり、一刀の従者となって働く事になった。

身を粉にして働いて、ようやく華国領は落ち着いてきたわ。

法制度に街道や治水の整備、旧権力者の排除と異民族との外交、私が一刀と共に移動した総距離は大陸を軽く数周するでしょうね。

そして私は新たな法制度の下で、高位の官職に就任した。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第73話

 

 

数日前は御機嫌で顔を出してました華琳さんですけど、今は不機嫌を全身で表してますわね。

まあ、珍しい事ではありませんけど、この二年間繰り返してましたしね。

一応理由を聞いておきましょうか、一刀さん絡みですと最後には惚気るだけなのですけど。

「それで、どうしましたの?」

「一刀よ!私が書き上げた新しい法の草稿を上奏したら却下したのよ」

それは、いくら華琳さんが法家として突出してましても、些か自信過剰な反応では?

「一刀さんの政と沿わないのではなくて?」

「その一刀と何度も話しての草案よ。どうして取り下げられるのよ!」

確かに変な話ですわね、ですが一刀さんの事ですし、何かがあるのでしょうね。

もう一度見直してはと言おうとしましたら、新たな来客が来ましたわ。

「麗羽、突然でごめんなさい。ちょっと聞いて欲しい事があるの」

蓮華さん。

そしてまた一人。

「麗羽さん。相談に乗ってもらえませんか?」

桃香さんまで。

千客万来ですわね、ひとまず入っていただきましょう、華琳さんが待ってますし。

「華琳、どうして貴女がいるのかしら?」

「蓮華こそ何故かしら?私は友人に会いに来ただけよ」

「奇遇ね、私もよ」

「か、華琳さん、蓮華さん、喧嘩は駄目だよ」

そういえば、華琳さんと蓮華さんの不仲は有名でしたわね。

とりあえずお茶をと思いましたけど、一箇所に集合しましたのは失敗でしたかしら。

 

とんでもない時に来ちゃったよ。

蓮華さんは以前に華琳さんの騙し討ちした戦の事を凄く根に持ってるんだ。

それに二人とも本当に優秀だから、頻繁に政の事で意見をぶつけ合ってて一刀様の仲裁が入るまで終わらないんだよ。

でも私も用があって来たから帰れないし、どうしよう。

お茶を飲むのに嬉しくない空気が流れて誰か助けて欲しいと思ってたら、可愛い救世主さんが現れてくれたよ。

「どうしましたの?・・そう、それなら一緒に行きましょうね。ごめんなさい、少し席を外しますわ」

小さな男の子が麗羽さんを呼びに来て、一緒に歩いて行きました。

毒気が抜かれた今の内に空気を変えよう。

「あのね、私が此処に来たのは麗羽さんに相談したくてなの。医師さんのお手伝いをする人を専門的に育成出来ないかなと思って、それで一刀様に嘆願書を作って上奏したけど返されちゃったんだ」

「桃香も?私も一刀に計画書を出して取り下げられたわ。今後の外海への進出は国を大きく発展させるわ、その為に長江の出口にあたる建業の港や造船施設等を増築したいのに」

「・・私も新しい法案が認められなかったわ、大陸を統べるのに絶対に必要なのよ」

それで二人も相談にきたんだ、此処って何時の間にか皆の溜まり場になってるから。

折角だから互いに書簡を読みあう事になったよ。

「桃香、医師の手伝いの者が必要なのはよく分かるけど、財源や教育の計画が曖昧過ぎると思う。これでは一刀も認められないわ」

「蓮華、貴女も人の事が言えるの?計画は良く出来てるけど多額な出費や民の動員に見合うものなの?私には本当に必要なのか疑問ね」

「華琳さんだって、こんな難しい言葉ばっかり使ってる法なんて意味無いですよ。分かる人だけが都合良く使うだけです!」

空気がもっと悪くなったよ、でも私、間違ってない!

 

最悪な日ね、これなら思春の誘いに乗って遠乗りにでも行くんだったわ。

もう麗羽に相談出来る状況でもないし、お暇させてもらおうかしら。

「やったのじゃっ、やったのじゃあ!」

「よかったですねえ、美羽様」

大きな声が聞こえてきて、施設に姿を見せたのは美羽と七乃。

凄い喜びようね、何か良い事があったのかしら?

「美羽さん、どうしましたの?」

何時の間にか戻って来ていた麗羽が美羽に声を掛けた。

「麗羽お姉様!やったのじゃ!遂に一刀が妾の要望書を認めてくれて、実施する事になったのじゃ!」

「そうなの、認めてもらえたのですね。よく頑張りましたわ、美羽さん」

美羽の要望書が認められた?

「ええ、これ以上却下しましたら一刀さんは先ず明日の朝日は拝めなかったですねえ」

待って、七乃、一体何をする気だったの?

取り合えず要望書の事が気になるから、美羽にお願いして手持ちの控えを見せてもらったわ。

そして中身は、現在ある孤児の預かり施設の法制化と充実。

それは社会との繋がりを強化して、孤児達の将来への展望を大きく描いたもの。

財源等も様々な形で確保出来る様になっていた。

「凄いよ、美羽ちゃん!これなら一刀様が直ぐに認めてくれたのは当然だよ」

確かに、私もそう思うわ。

「直ぐに?桃香、これは七度目なのじゃ」

七度!?

「一年以上掛かって、ようやく認められたのじゃ。何度も駄目で心が折れそうじゃったが、皆が色々と協力してくれての。それに一刀も陰で応援してくれてたのじゃ」

「美羽様自身で答えを出して欲しかったんですよ。何度も私に様子を聞いたり、さりげなく便宜を図ってましたしね」

・・そういえば、取り下げられた後に殊更私の苦手な張昭の事を話題に上げていたわ。

あれは、政に精通してる張昭に相談してみたらと言う事?

却下されてあの厭味な張昭の事だったから、まともに話を聞こうとしてなかったけど。

急速に顔が火照る。

・・は、恥ずかしいわ。

一回却下されただけで全て駄目だと思ってたなんて。

そもそも急いで書き上げたもので、桃香や華琳だけでも幾つも疑問を持たれてたのに、更に多くの人を説得できる中身だったの?

そんな訳がないわ!

「ごめんなさい、私はこれで失礼するわ」

「私も、麗羽さん、お茶をありがとうございました!」

 

蓮華と桃香が急いで出て行ったわね。

私は麗羽ともう少し話そうと思って残ったわ、城に戻ったら徹夜で仕上げると心に決めて。

・・美羽の歌声が聞こえてくるわ。

子供達が聞きいってて、麗羽はその様子を温かい目で見ている。

麗羽は変わったわ、本当に色々と。

肩に届かない辺りで切り揃えてある髪も其の一つ。

「その髪には未だに違和感を感じるわね」

「邪魔だったのですもの、伸びたら直ぐに切ってますわ」

寿春で再会した時は別人かと思ったわ。

「自分自身が宝だと言って、髪にもあれだけ神経質だったのにね」

子供の頃に悪戯で少し切ったら本気で泣いてたでしょ、私もあの時だけは本気で謝ったわ。

「フフ、そうでしたわね」

麗羽が指に嵌まっている指輪に触れる、それは銀製の高価とは言えない素朴な指輪。

一刀と出かけた時に貰った、一刀が自ら作ったらしい贈り物。

「以前の私は人が羨む宝物を沢山身に纏ってましたわ。・・ですが大事な人から頂けました物こそ、本当に掛け替えの無い物でしたわ」

愛しく指輪を見て、また子供達の方を見つめる麗羽。

「それに本当の宝物とは、きっとあそこにいる子供達の事。未来を切り開く全ての子供達こそ至宝なのだと今の私は思いますの」

ありふれた衣服を身に付けて化粧も殆んどしていないけど、今の麗羽を私は綺麗に思うわ。

以前からこうだったら、私は疾うに口説いていたわね。

「為政者に戻る気はあるかしら?」

「ありませんわ。美羽さんに協力は惜しみませんけど、政の舞台に戻る気はありませんから」

「そう、御馳走になったわ」

「ええ、何時でもいらっしゃって」

 

 

この二年で戦後処理は殆んど片付いて、新しい統治体制が整えられつつある。

仲と魏に、それと華にも残ってた不穏分子を粗方排除出来た。

七乃に言われた通り益州制圧は後回しにしたら、俺に不満を持つ者達が挙って劉璋に渡りをつけ様とした。

その証拠をちらつかせたら馬脚を現す者が続出して、速やかに退場願った。

逃げた者達も故意に放置して益州に行かせてる。

普通は合流させないが、無駄にプライドが高い連中が集まる場合は、その分だけ団結の害になる。

混乱が極みになったところで始末しようと決まった。

如何に大軍でも益州は攻めにく過ぎる地なので、早期の大陸統一よりも慎重論を採った。

その間に漢中と交州が降服した。

穏便に済んで本当に良かった。

劉璋だけは厚かましい条件を高圧的に言ってはくるが、一切相手にしない。

ただ細作の情報では、最初こそ煽てあげられた劉璋も、今では亡命者達を持て余してるらしい。

どうやら条件も亡命者達が決めているようで使者もその中からだ、書簡だけ預かって門前払いしてるけど。

話し合いは人の話を聞こうとする姿勢があって成り立つもので、それが無かったら只の言い合いで時間の無駄だ。

実際、書簡の中身に歩み寄りは見られない。

漢の亡霊達によって、益州の時間は止まっている。

・・そろそろいいだろう。

益州を平定して、大陸を一つの国にする。

最後の戦だ。

そして俺も、これで区切りをつけよう。

自分の過去に対して。

出陣する者の名を書き連ねる。

かつての、魏の仲間達の名前を。

 

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あとがき

小次郎です。

読んでいただきありがとうございます。

前回は甘いとの感想を頂き、あれ?と首を傾げました。

私としては終戦という事でシリアス成分満載で書いていたのですが、改めて読み返してみましたら、確かに甘かった。

どの面さげて書いてたのか、不思議です。

ご支援、ご感想、ありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

 


 
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