No.911312

真・恋姫†無双~黒の御使いと鬼子の少女~ 32

風猫さん

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。


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2017-06-23 23:26:03 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1048   閲覧ユーザー数:1003

~劉備軍・陣地~

 

 陣に戻ってきた俺は北郷にさっきの謝罪の件を報告する。

 

「そっか、よかった」

「じゃあ、俺は戻る」

 

 とりあえず、雪華のところへ戻ろうと踵を返したとき、北郷から声がかかった。

 

「……玄輝、大丈夫?」

「ん? 何がだ?」

「いや、その、なんか雰囲気がさっきまでと違うというか、ピリピリしているというか……」

 

 ……チッ、やはり表に出るか。

 

「ちょいとな。あのバカの皮肉のことを思い出しただけだよ」

「それならいいけど……」

 

 と、北郷があまり納得してないような返事を返したところで、陣が騒がしくなる。

 

「何事だ?」

「あ、もしかしたらさっきの約束の……」

「ああ」

 

 それにしては早い気もするが、考えられるのはそれぐらいしかない。

 

「様子を見に行くか」

「そうだね」

 

 二人で騒がしいほうへ行くと、袁紹軍の鎧を着た男たちが集まっていた。どうやら北郷の予想通りだったようだ。

 

「ご主人様」

 

 そこへ関羽が駆け寄ってきた。

 

「愛紗、袁紹の軍事物資と兵士だよね?」

「はっ、どうやらそのようです」

 

 奥を見やると、鳳統や孔明が袁紹軍の人間と話し合っていた。物資の確認をしているのだろう。

 

「……にしても、本当に早かったな」

 

 俺が小さくつぶやくと、関羽がそれに答えた。

 

「おそらく、我らの気が変わらぬうちに既成事実を作っておくのが目的ではないかと。これなら逃げようがないですからね」

「なるほどねぇ」

 

 一応、それなりの知恵はあるか。

 

「う~ん、案外御しやすいと思ってたけど、さすがというべきかな。これくらいはできないとやっぱ大領主になれないってことだよね」

 

 などと北郷が感想を漏らしていると、孔明がこちらに駆け寄ってきた。どうやら確認が終わったらしい。

 

「朱里、どうだった?」

「はい。間違いなくご主人様がお願いした通りの物資と兵が来ました。でも……」

 

 そこで彼女は顎に手を当てて険しい表情になる。

 

「正直、この人数で連合軍の先陣を切るのは、かなり厳しいと思われます」

「……そう、だよね」

「まだ正確な情報ではないのですが、董卓さんの軍勢は約二十万。対して私たちの連合軍は十五万ほどです」

「兵法の基本だと、敵よりも多くの兵士を集めて、的よりも多くの兵で対峙するんだよね」

「ええ」

 

 北郷の答えに孔明はさらに険しい表情になる。

 

「その基本を連合軍は守ってないのですから、苦戦は必至でしょう」

「そうなると、俺たちが考えるべきは、いかに生き残るか、ってことか?」

 

 俺の問いに孔明は頷いて、その先をつなげる。

 

「でも、これはある意味、好機でもあります。ここを生き残ることができれば間違いなく私たちの名も上がりますし、兵隊さんにも大きな自信がつきます」

「……そうだね。じゃあ、生き残るためにもどうしたらいいかみんなで話し合おう。朱里、雛里の確認が終わったらみんなに天幕に集まるように言っておいて」

「御意です!」

 

 かわいらしく返事をした孔明は鳳統のもとへと駆け寄っていった。

 

「さて、俺は先に天幕に行くけど、玄輝はどうする?」

「いや、俺もほかのやつらに声掛けをしてくる」

「では、私もお供します」

 

 そういった関羽と共に俺は趙雲や張飛を探しに行ったのだが、二人とも案外近くにいたのですぐに見つかった。

 

 さっきの北郷の伝言を伝えた俺は、関羽に雪華のもとに行くと告げた。

 

「そうですか。雪華もだいぶ寂しがっていましたからね」

「あ~、面倒くさいことにならなきゃいいが……」

 

 あいつ、一度拗ねると長いんだよな。色々と。ましてや、ここは戦場だ。アイツの機嫌を取れるものはない。

 

「はぁ、まぁ、考えてもしゃあないか」

 

 なんてぼやいて向かおうとした俺の後頭部にコツンと何かがぶつかった。

 

「いてっ」

 

 反射的に出た言葉の後で、頭をさすりながら後ろを向けば、関羽が偃月刀の柄尻を地面に置いたところだった。どうやら、刃の背の部分でたたいたらしい。

 

「なにすんだよ……」

「その雰囲気のままで雪華に会うおつもりですか?」

「む」

「先ほどからどうしたのです? 妙に張りつめているというか、殺気立っているというか」

「……別に、袁紹の皮肉を引きずっているだけだ」

 

 でも、関羽の言うことももっともだ。雪華の前では抑えなければ。余計面倒くさいことになる。

 

 一度深呼吸をして、目を閉じながら心を静める。

 

(…………焦るな。奴らがここにいると分かった以上、必ず機会はある。だから、今は抑えろ)

 

 そう言い聞かせて気持ちを落ち着けて、目を開く。

 

「これでいいか?」

「そうですね。それなら問題はないでしょう」

 

 そう言った彼女にも微笑みが宿る。

 

「では、後で天幕に」

「ああ、少ししたら行く」

 

 そして俺は雪華のいる天幕に入る。

 

「おい、せつ、ぐべはっ!?」

 

 入って早々、俺の腹に重い一撃が飛んできた。

 

「……う~」

「ってて、悪かったっての」

 

 俺の腹に頭突きをかました雪華はそのまま腰を掴んで離れようとしない。

 

「……遊んで」

「いや、今は、いたたたた! 角をぐりぐりすんのはやめろ! 本当に痛い!」

「……………遊んで」

 

 はぁ~……。たっく、このわがまま姫は……。

 

「独楽ぐらいでしか遊べんからな」

「……っ!」

 

 あ~、目を輝かせるな、目を。

 

「んっ!」

 

 で、やっとこさ離れた姫様はいそいそと独楽を二つ出して、俺に片方を渡す。

 

 その時、俺はふと雪華の今後を考えていた。

 

(……こいつを、どうするか考えねぇとな)

 

 約束をした手前もあるから、今まで旅を一緒に続けてきたが、ここならば問題ないのではないだろうか。

 

 劉備たちはもとより、町の人間すら彼女を鬼子と蔑んだりしない。そう考えればこの世界こそ、彼女がいるべき世界、彼女が“人”として生きられる場所ではないだろうか。

 

「ゲンキ?」

「っと、すまん。考え事をしていた」

 

 独楽にひもを巻きながら俺はさっきの考えを続ける。

 

(だが、ここにいられるのは“天の御遣い”だからだ。町の人間もそういう存在だからと受け入れているに過ぎない。ならば、それは“人”として生きているということになるのだろうか)

 

 だが、今までの、戦国の世での生活に比べれば十二分に人と言える。ならばやはり……。

 

 そう考えながら独楽を投げる。雪華も同じようなタイミングで独楽を投げると、ぶつかり合う独楽を楽しそうにみている。

 

(……迷うことはない、か。俺の目的が、俺の願いがすぐ近くにある。ここまでくれば十分、約束を果たしたって言える)

 

 その結論を出すと同時に独楽の勝負もついた。雪華の勝ちだ。

 

「やった!」

「おめっとさん。じゃあ、俺は天幕に行く。もう少しだけ待っててくれ」

「え~……」

「……後でもう一回やってやるから」

「約束?」

「ああ、約束だ」

「ん、じゃあ待ってる!」

 

 そういった雪華の笑顔を見てから俺は北郷たちが待つ天幕へと向かった。

 

(……さて、俺の戦いも始めるとしよう)

~劉備軍・天幕~

 

 天幕に入ると、すでに全員が集まっていた。

 

「すまん、遅くなった」

 

 それに対して北郷は首を振って、

 

「いいよ。それじゃあ、始めよう」

 

 俺たちが生き残るための話し合いを始めた。

 

「まずは朱里、予想される戦場の状況説明を」

「はい。まず、洛陽についてはみなさんご存知だと思いますが、河南省西部に位置し、東は虎牢関、西は函谷関を備えた漢王朝の王都です。黄河の中流に位置し、渡河点にもなっています。また、支流である洛河との分岐点でもあるため、非常に水上交通の便が良いところです」

 

 なるほど。

 

「いわゆる、衢地ってやつだな」

「その通りです。そして今回、私たちが進軍するにあたって道は二つあります。東から虎牢関を抜けるか、西から函谷関を抜けるか、ですね」

 

 そういいながら孔明は机に地図を広げて進軍の道を指でなぞっていく。

 

「う~ん。私たちのいるところから考えると、東から進軍したほうが手っ取り早いかな?」

 

 劉備のその意見に、鳳統はその先にある関を指さす。

 

「そうなると、虎牢関を抜けるということになります」

「難攻不落絶対無敵七転八倒虎牢関を抜けるとなると、かなり厳しい戦いになりますね」

 

 ちょっと待て。

 

「なんだ、その物騒な言葉の羅列は。なんかの冗談か?」

 

 そんな俺の軽口に鳳統は首を振って否定してから答える。

 

「それだけ強大かつ凶悪な要塞だということです……」

「おいおい……」

 

 鳳統や孔明がそう言い切るのであれば、間違いないのだろう。となれば……。

 

「西の、函谷関だっけか? そっちはどうなんだ?」

 

 その問いに鳳統は少し眉をひそめて答えてくれた。

 

「あまり得策では、ないかと。私たちは総大将を決めるのに無駄な時間を浪費してしまいましたから……」

「これ以上は一刻たりとも無駄にはできないってことか……」

 

 もし、これ以上時間を浪費するということになれば、間違いなく董卓は関の防備を固めるはずだ。

 

「……厄介ですな。つまり、我らは虎牢関を抜けるしかない、と」

 

 苦虫をかみつぶしたような表情の趙雲の言葉に続いて北郷が孔明に話しかける。

 

「朱里、虎牢関ってどんなところなの?」

「両脇に崖がそびえたつ一本道で、その道中にいくつかの関が存在する、防衛のお手本のような場所です。これほど防衛のしやすい土地は他にないといっても過言じゃありません」

「そこまで言い切っちゃうんだ……。聞けば聞くほど嫌になってきた」

 

 まぁ、北郷のその気持ちもわからんではないが。

 

「そうも言ってられんだろう。それで、孔明。この道を通るとして、この道に関はいくつあるんだ?」

「大小合わせて二桁はあります。でも、そのほとんどは連合軍の進撃を阻むに値しないものです」

「その言い方だと、警戒すべき関があるってことだよな?」

「そうです。注意すべき関は二つ、虎牢関と汜水関です」

「この連合軍の進撃を阻める関が二つもあるのか……」

 

 俺も聞けば聞くほど北郷と同じような気持ちになってくる……。

 

「では、敵軍の配備情報は?」

 

 関羽がそう問いかけると、

 

「ご主人様たちが軍議にいらっしゃっている間に斥候を放ちましたから、おいおい情報は集まるかと」

「斥候、そうだ。出立前に出していた細作はどうなった?」

「あ、はい。もう戻っていますよ」

「なら、そいつは何か情報を持ってなかったのか? 函谷関を抜けたにせよ、ないよりかはマシだろう」

 

 そういうと、孔明の顔が少し曇る。

 

「どうした?」

「その、後でお話ししようと思っていたのですが……」

 

 そう前ふりをしてから孔明は細作の話を始める。

 

「実は、洛陽に潜入する前にばれてしまったらしく、命からがら逃げだしたようなんです。なので、ほとんど情報を持って帰れなかったみたいで……」

「……そうか」

 

 まぁ、仕方がないといえば仕方ない。

 

「しかし、潜入する前に気が付くとは。董卓、やはり侮れない相手ですな」

 

 しかし、趙雲のその言葉に孔明は少し腑に落ちない表情になる。

 

「朱里? どうしたのだ」

「……その、細作さんの話だと、潜入に気が付いた兵は董卓さんのところの兵には見えなかったみたいなんです」

 

 なんだと?

 

「……孔明、その兵ってのはもしかして白装束をまとっていたんじゃないか?」

「はわわ!? どうしてそれを!?」

 

 やはりか。

 

「実は、袁紹のところでその話を聞いてな。アイツはそこまで重要視していなかったみたいだが……」

 

 こちらの細作の潜入に気が付くとなると、ただ者じゃない。

 

「その白装束、警戒したほうがいいんじゃないか?」

 

 俺のその意見に孔明と鳳統はたがいに見合って頷いた。

 

「そうですね。玄輝さんの言う通りかもしれません」

「……では、白装束の情報も集めるように、後で斥候さんに伝えます」

 

 よし、これで俺のところにも情報が手に入る。

 

「では、現状はその白装束の人たちを含めた情報を集めるということでいいでしょうか?」

 

 その孔明の問いに全員がうなずいた。

 

「では、作戦も決まったところで、主」

「星? 何?」

「作戦が決まった今、我らがすべきは勇を鼓して出陣することです。いつまでも暗い表情では、全体の士気に影響いたします」

 

 その言葉で北郷の顔を見れば、確かにいつもより暗く見えた。こういった機微には反応いいんだよな、こいつ。

 

「星……」

 

 いわれた当人は少しだけ目をつぶって、勢いよく両頬を自分で叩いて再び目を開けた。その眼には迷いも何もない。覚悟ができた目だ。

 

「そうだね。暗い顔したってなにも進みはしない。なら、今はすべきことをしなきゃ!」

 

 そう言った北郷はすぐに指示を飛ばす。

 

「愛紗と星は袁紹が提供してくれた兵の確認と采配を、朱里と雛里は袁紹の兵糧を確認しながら、斥候の人が戻ったらすぐに作戦を立てられるように準備を」

 

 その言葉に4名は各々返事を返す。

 

「お兄ちゃん、鈴々はどうするのだー?」

「鈴々は玄輝と一緒にここにいてほしいかな。桃香もここにいて」

「ん、わかった」

 

 俺も劉備と同じような返事を返す。

 

「よし、それじゃあみんな、準備に取り掛かろう!」

 

 その一言に全員がひときわ大きな声で返事を返す中、俺はこれから起こり得ることに武者震いをせずにはいられなかった。

 

(さて、俺の運はどっちに転がってくれることやら……)

 

 その震えは歓喜から来るものか、興奮から来るものか、それとも……。

 

はいどうも、作者の風猫です。

 

ちょっとばかり筆が乗ったので、前よりも早く更新できました。

 

このまま続いてくれればいいのですが……

 

では、次のお話でまた会いましょう。

 

 

 


 
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