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「改訂版」真・恋姫無双 ~新外史伝~ 第20話

前回の投稿で初めて冠を頂きました。

これも応援していただいている皆様のおかげです!これからも応援よろしくお願いします。

そして今回は桃香の症状が悪化していますが、この作品の桃香は三国志演技の劉備風味も加わって更に拗らせているということをご承知下さい。

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2017-05-31 20:00:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5671   閲覧ユーザー数:4429

「……それ本気で言っているの?」

 

一刀は張梁の言葉を聞いて、再度確認する。

 

「はい、私たち姉妹を『御遣い様』のところに匿って欲しいのです」

 

「何故私たちが貴女達姉妹を匿う必要があるのか、匿うにもその理由を聞かせて欲しいわ」

 

それは当然の事であった。縁も所縁も無く漢の謀反人と言える人物をいきなり匿って欲しいと言っても「はい、匿います」と承諾する者はまず居ない。紫苑の言葉に皆、頷いていた。

 

しかし尋ねられた張梁の表情が今一つ冴えない。

 

「今回私たちが起こしている乱なのですが…勿論私たちに責任があるのは分かっています。でも…私たちでは手に負えなくなるほど人数が増えてしまい、一部の人がそんな人たちを管理してくれると言ってくれたので安心して任せていたら、その人たちが各地の官軍を攻撃してしまい、何時の間か私たちが首領という形になっていたのです」

 

「でもよ、アンタたちはもし反乱が成功していたら、そのまま勢いに乗じて上に立つつもりだったんだろう?」

 

「……それは否定できません」

 

張梁の説明を聞いて翠は、口では一応責任があることを言っているが、責任逃れとも取れる発言をする張梁に釘を刺す。翠自身は一刀たちと共に反乱を起こした時は覚悟を決めて行動を起こしたことに対して、張梁に覚悟が無いまま反乱を起こしたことに少々失望していた。だがこれについては仕方がない翠が武人であるが、張梁は武人ではないからだ。

 

一刀は張梁に乱になった原因について聞く。

 

「張梁さん、人が集まったというけどその人たちって元々どういう形で集まったの?」

 

「私たちは元々、歌の旅芸人として各地で活動してきました。でも全く売れず日々の生活費を稼ぐのがやっとの生活でした。そんなある日、姉の張角が私たちを応援している人からある書物を貰ったのです。私たちはその書物を読んで私達では考えつかない方法で人を集める方法や歌が売れる方法とかが書かれていたので、今のままでは駄目だと思い物は試しにやってみたら今までとは比較にならない程の人が集まり、歌が売れ始め、それから一気に応援する人が増えて行ったのです」

 

「その書物の名前は?それとその書物は今、何処にあるの?」

 

「書物の名前は『太平要術』と書かれていました。それでその書物ですが、私が燃やして捨てました」

 

「その本を燃やしたのは本当の話なの?」

 

「はい。最初は人が多く集まり成功したと喜んでいたのですが、それと同時にならず者も集まりだし、それが段々と増えて、やがてその人たちが中心となって暴動を起こして乱が起きてしまったのです。乱が起きてからしばらくしてその本から怪しい妖気な様な物が見えたので、私は何だか怖くなり、その本を燃やして捨てたのです」

 

一刀たちはまさか黄巾党の乱が宗教問題の乱では無く、歌芸人の反乱とは思ってもいない話を聞いてしまった。

 

「ただ…私たちは、私達のような芸人が安心して芸ができる様な場所が欲しかった。ただそれだけなのです。お願いです!「御遣い様」、貴男の所に行けば朝廷も手出しが出来ないと思います。どうか私たちを助けて下さい!!」

 

張梁は一刀が漢と和睦したことを知っており、漢では無く、一刀の所に降伏すれば漢も手出ししにくいと考え一刀の元に降伏を申し出たのであった。

 

「そう言ってもな…非戦闘員なら兎も角、首謀者である君たちをそのまま受け入れるのは正直難しいな」

 

一刀は張梁たちの受け入れに難色を示す。

 

「ご主人様、一言いいでしょうか」

 

紫苑が真剣な表情をして一刀に助言する。

「ご主人様は今まで、できる限り血を流さない方法で多くの命を救ってきました。ですがこのまま張梁さんを帰せば恐らく張梁さんたちはもう後が無いと分かっているので最後まで抵抗するでしょう。そうすれば更に被害が大きくなりますわ」

 

「だから救えと言うの?」

 

「ええ、勿論無条件と言う訳にはいきませんが」

 

雪蓮の指摘にも紫苑は冷静に答える。

 

紫苑の言葉を聞いて一刀も決断する。

 

「張梁さん、貴女たちの身柄を預かる。でもこれだけの乱を起こして無条件という訳にはいかない。今から言う条件を承諾する事が条件になる」

 

一刀からそう言われると張梁の表情にも緊張が走る。

 

「ここまでの乱を引き起こした首領である張角さん達の責任は重大で、このまま張角さん達が存在していると分かれば再び利用される恐れがあるし、これからの事にも差し障りが出るから、だから張角さんたちには当面涼州内に居る事と今ある名を捨ててもらう。そして非戦闘員や降伏した者には涼州で三年程の開墾や内職等の労役を科すけど、その間に問題を起こさなければ死罪を免ずるつもりだよ。勿論、労働への対価として賃金や食料を渡すつもりでいる。罪を償い終われば開墾した農地を今後の生活の為の田畑の割譲をするよ」

 

一刀は以前の外史で董卓たちを救った時の様に名を捨てる事を条件に命の保証をして、非戦闘員達に対しても罰と言いながら、今後の事を考えたら温情がある刑でもある。

 

「名を捨てるのですか…?」

 

「ああ、これが絶対条件だ。しばらくして乱のほとぼりが冷め、君たち自身がその間おとなしくしていれば、領土内に限って歌の巡業とかも認めてもいい」

 

「……私はこれでもいいのですが…姉さんたちがこれで承諾するかどうか…」

 

「ちょっと待って、その言い方だとここに来たのは張梁さん一人の考えで来たの?」

 

「はい…」

 

一刀から指摘されると張梁は暗い表情をしながら答える。

 

「お願いです!今の条件で構いません。これで姉たちを説得します!!」

 

「けど、アンタが説得できる保証がどこにあるんだ?明日の総攻撃までに絶対に説得できるのか?」

 

「それは…」

 

翠の言葉に張梁は言葉を濁す。

 

「張梁さん、今回の勧告が最初で最後の勧告になる。さっき言った条件を受け入れるのであれば、一刻(2時間)後この場にお姉さんたちを連れて来て貰いたい」

 

一刀は張梁を見据えて言うと張梁は逡巡するも気持ちが固まったのか深く頷き

 

「分かりました。説得して姉たちをここに連れてきます」

 

張梁は翠に連れられ、再び城内に戻った。

 

張梁が外に出てから鶸が不安そうな表情をしながら

 

「ご主人様、3人を助けると言いましたが、どうやって助けるおつもりですか?」

 

「ちょっと待って、鶸。その前に一刀、一時の感傷で彼女たちを助けるつもりじゃないでしょうね」

 

鶸の質問に雪蓮が遮る。雪蓮は一刀に性格的に甘い部分があるので感傷的になって張角たちを助けるのではないかと問い質す。

 

「正直言って感傷がないとは言い切れないな。でも、彼女たちを裁いて終わりという訳じゃないんだよ。ここまで彼女たちを追い込んだ漢王朝にも責任はある。それに戦をしている兵たちも元々は民なんだよ。俺はできるだけ民が血を流さずに民が暮らし易い世を創りたいだけだよ」

 

一刀が雪蓮に説明すると

 

「分かったわ、一刀。一刀、その想いをいつまでも忘れないでおきなさい。貴男は私よりも立派な為政者よ」

 

「雪蓮…」

 

雪蓮は一刀の顔を見ながら微笑んでいた。

 

「それと一刀、彼女たちを助けるのに偽首を差し出すのでしょう?」

 

先程の鶸の質問に代わりに雪蓮が答えるが、既に雪蓮は一刀の考えが分かっていた。

 

「何で分かったの」

 

「まあ彼女たちを助ける方法はそれ位しか無いと思うし、それに私の勘がそれに間違い無いと告げているのよ」

 

一刀は雪蓮の勘の鋭さにただ呆れるしか無かった。

 

「それでここから真剣な話なんだけど、今回のこの話、孫家にも1枚噛ませてくれない?」

 

「どういう事?」

 

「今回の件、もし一刀たちだけで進めたら官軍から変に疑われる可能性あるわよ。元々は一刀たちも反乱軍扱いだから、さっきの軍議で反対した劉備という子だけじゃなく、官軍の首脳陣から疑われるわよ(先の軍議での話は雪蓮に説明済み)」

 

「だから一刀たちが非戦闘員を受け入れて、私たち孫家がその後攻めて、“城内に残っている張角たちの首を取る”という段取りよ」

 

「ご主人様、今回は雪蓮さんの言う通りにした方がいいかもしれませんわ。もし張角さんたちの首級などの手柄を取れば官軍やその他の諸侯から嫉まれる可能性があります。それでしたら私たちは非戦闘員を得る事で人口が少ない涼州においての労働力が手に入れるという利があることを説明して、非戦闘員の助命の許可を皇嵩甫将軍から得ましょう」

 

一刀は雪蓮と紫苑の二人からそう言われると納得して孫家の力を借りることにした。時間が無い為、雪蓮が母親である孫堅の陣に行って直接事情説明に赴いた。

すると一刻後、闇夜に紛れ、そして人目を避ける様に3人の少女が一刀の陣にやって来た。

 

「初めまして北郷一刀と言います。貴女たちが張角さんと張宝さんですか」

 

「そうよ!何か文句あるの!まだ私たち負けた訳じゃないわよ!」

 

行き成り喧嘩腰で一刀に喰って掛かってきたのは話し始めたのはポニーテールの髪型をしている次女の張宝だった。

 

「地和姉さん!」

 

「だって癪じゃない!私たちにはまだ兵が残っているのに…『姉さんそれ本気で言っているの?城に居る半分近くが非戦闘員か負傷者で、大軍に囲まれている官軍に勝てると思っている?』」

 

張梁からそう言われると張宝も城内の逼迫した状況が分かっているので黙るしか無かった。

 

「あの~『御遣い様』もし人和ちゃんから聞いた話を拒否したらどうなるのですか?」

 

のんびりした口調で長女の張角が一刀に尋ねる。

 

「君たちをこのまま城に戻して、全軍で城を攻めて君たちの首を刎ねるだけの事だよ。俺は張梁さんの願いを聞いて君たちを助ける為の条件を出した。これを受け入れるか受け入れないか、張角さん、貴女次第だ」

 

「……分かりました、私達三人の命と私たちに付いて来た人が助かるのであればその話受け入れます」

 

「姉さん!」

 

「だって地和ちゃん。このままじゃ私たちに付いて来てくれた人を死なせる訳にはいかないでしょう」

 

先程ののんびりした口調と違い、決意を持った言葉で張角が降伏する事を決意し、それに反対しようとする張宝には自分たちに付いてきてくれた支持者の為にと説得すると張宝も承諾するしかなかった。

 

そして雪蓮からの説明を聞いて、承諾した炎蓮ら呉の将たちもここから話に加わり、今後について相談を行う。

 

炎蓮らは初めて一刀たちから事情を聞くと共に首謀者である張三姉妹がこのような少女であったことに驚きを隠せなかった。

 

段取りとして早朝に城内から非戦闘員らの降伏を申し出があり、それを一刀たちが聞く。一刀たちが皇甫嵩らを説得して降伏を受け入れる方向で話を受ける。城内の主戦派については張三姉妹が非戦闘員を城外に出すことで食料の確保することを説明して、張三姉妹は非戦闘員への“お別れ集会”を行った後、城外へ退去させるが、そのどさくさに紛れて張三姉妹も城外へ退去。

 

その後孫堅軍ら官軍が攻撃を行い、孫堅軍が城主の部屋に1番乗りして城主の部屋に死体を3体入れてその部屋で“自決している張角らの首”を取り今回の武勲とする。一刀たちが孫堅たちを1番乗りできる様にフォローする形を取る。そして張角らの首実験に“その張角ら”に歌芸人として慰み者扱いされていた張三姉妹が「この者が張角らに間違い事」を告げるという事を取り決めた。

 

だが当然、張三姉妹が城内で予定通りの行動が取れるかどうか疑問の声が上がる。

 

その言葉に炎蓮が

 

「それだったら、良い人材がいるわよ。明命!」

 

「はい!炎蓮様!!」

 

炎蓮に呼ばれた少女は体的少々小柄で、足元まで届く長い黒髪で顔付きはまだ幼さが残っているものの動きが俊敏そうに見えた。

 

「初めまして私は、姓は『周』名は『泰』字は『幼平』と言います」

 

「この周泰は隠密としては一流の腕を持っている。周泰とその配下の者を護衛に付けておけば黄巾党の兵士には手出しはさせないわ。それと非戦闘員を城外に出た後も明命たちの配下の数名には城内に残って貰い城内を撹乱させ、城への1番乗りを目指すわよ」

 

「ご協力感謝します、炎蓮さん」

 

「何、良いって事よ。これで“張角”の首を取って、漸く恩賞にも有り付けそうだし無位無官の地位からやっと脱出できるってものだよ。でもまずはアンタが皇嵩甫を説得する事が幕の始まりだから」

 

炎蓮からそう言われると一刀は頷いた。

早朝になると予定通り城から改めて一刀の元に非戦闘員の降伏を認めて欲しい使者がやってくる。

 

これを聞いた一刀と紫苑は皇嵩甫の元に非戦闘員の降伏、城外避難を認めて欲しい旨を告げる。

 

皇甫嵩は一刀からの話を聞いて驚きを隠せず、一旦全面攻勢を中止して各諸侯を陣に集めた。

 

皇甫嵩自身は非戦闘員とは言え、城内の居る者の数が減ることにより黄巾党の力が弱まり、滅びるのも時間の問題だと思い一刀の話を承諾しようと考えていた。

 

だが話が重大な事なので、皇甫嵩は各諸侯に配意して意見を聞くことにした。

 

多くの諸侯は一刀の話に賛同を示したが、一部の者から反対の意見があった。これについては非戦闘員を自分の所に押し付けられる事を危惧して反対の声を上げたが、これについては一刀のところで労役等に従事する事を説明したことで承諾された。

 

だがこれに真っ向から反対する者が居た。

 

「何故、北郷さんは非戦闘員とは言え黄巾党の人を許すのですか!」

 

再び一刀に反対の声を上げたのは劉備であった。

 

「今回は北郷様の言う通りです!ここは引いて下さい桃香様!!」

 

「だっておかしいよ、朱里ちゃん!幾ら民とは言え国に反逆を起こしたんだよ!」

 

朱里は今回一刀が非戦闘員である民を助ける事に賛成していたが、主君である劉備が反対の声を上げたことに驚き、慌てて制止するが既に一刀に敵対心剥き出しにしている劉備にその声が届かない。

 

劉備の言葉を聞いて一刀は呆れるしかなかった。これが仁徳と言われた劉備玄徳なのかと。

 

ただ劉備自身にも言い分はある。

 

劉備自身の理想は「漢の元、皆が笑って暮らせる国にしたい」としていたが、一刀の存在が漢という国の存亡が危ぶまれる様になり、劉家の血筋を自称している劉備にとって逆に一刀を排除しなければならないという思いと漢への忠誠心が強くなり過ぎ、例え民でもあっても漢に反乱を起こした者を許してはならないという考えに行きついてしまった。

 

「別に許した訳じゃないよ。だから今回罪を起こした者については3年くらい涼州で労役とか就いて貰うと言っている。その費用とかもこちらで負担する。君はこの処置にどこに不満があるんだ?」

 

「それは…」

 

「いい加減しろ!君の目には、この大陸がどう見える!?民達の苦労とかを知っているのか!?そして国があって民が居るのでは無い!民が居てこそ初めて国が成り立つのだ!!そして国が絶対の正義ではない!!」

 

一刀は劉備の発言に腹を据えかねて、怒りを劉備にぶつける。

 

「ちょっと落ち着きなさい、北郷。貴男の今の発言、かなり危険な発言よ」

 

これを聞いた曹操が一刀を宥める様に発言する。

 

「ああ…すまない、曹操さん。ちょっと興奮してしまった」

 

「劉備、貴女は後でここに残りなさい。北郷殿、では貴男に非戦闘員の受け入れをお任せします。そして城攻めは非戦闘員受け入れ後に行います」

 

皇嵩甫は劉備の発言を無視して非戦闘員の降伏を受け入れる事にしたが、この後劉備が皇甫嵩から叱責されたことは言うまでもなかった。

 


 
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