「関平ちゃん、千早ちゃんが妊娠したんだって~」
「ついに我らが父上もお祖父さんですか・・・」
呉に滞在している劉禅と関平は、成都の父から届いた手紙を額を突き合わせて読んでいた。
彼女らの異母弟である趙広の妻である千早が身籠ったという内容で、その文面からいまだ髪の毛に一本の白髪の生えていない父の「ついに俺もおじいちゃんか・・・」という哀愁と初めての孫が嫁に出来たという喜びが感じられた。
「あ・・・ほらほら関平ちゃん、ここ見て!愛紗さんも身籠ったんだって!」
「全く父上は・・・我らの弟妹をあと何人増やすおつもりでしょうか?」
2人が笑ったり呆れたりしている背後から、茶と点心を持った紫苑が入ってきてお茶の時間になった。
「紫苑さん、そういえば永君は?」
「劉永様は、さきほど港町に出かけられましたが・・・」
孫家が治める呉の国は、三国の中でも水に最も親しい国であり海運がもっとも発達している国である。そんな国の港町が栄えていない訳は無く―――
「はーっ、これはすごいなぁ・・・」
建業の港町に繰り出した劉永は、活気のよさに圧倒されていた。例えるなら、鈴々・張苞の親子が50人ぐらい元気に騒ぎまくっている感じだろうか。そんな町にならぶ店を冷やかしながら歩いていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「おお、劉永殿ではないですか!」
「あ、睡蓮さん・・・・ってどうしたんですかそのカッコ」
劉永を呼びとめたのは、先日の円救出戦で共闘した呂覇こと睡蓮だった。彼女はなにやら追われているらしく、髪や衣服が少し乱れていた。
「劉永殿、少し助けて下され」
彼女は劉永を店の建物の外壁に立たせて自分はその後ろに隠れた。けっこう通行人が多いので、こうしていてもあまり気づかれないようだ。彼女が隠れた10数秒後、港町に黄色い声が響き渡った。
「呂覇様ぁ!どちらにいらっしゃるのですか!?」
「私の愛を受け取ってくださぁい!」
発生源の主は少なくとも20人はいる少女達だった。彼女達は何かを―――おそらくは劉永の背後にいる人物を探し求めて走り去って行った。
「・・・なにあれ?」
「あの娘たちは私の『親衛隊』だそうだ」
完全に彼女達が見えなくなるまで走り去ったのを確認してから、睡蓮はゲンナリとした顔で劉永の背から出てきた。
「・・・親衛隊?あの、数え役萬☆姉妹の熱狂的なファンの人みたいな?」
「彼らの方がナンボかマシかもしれん」
きっぱりと言ってのけた彼女に、劉永はこう返すしかなかった。
「・・・そうだね」
劉永は睡蓮の「少し休みたい」という希望に従って、孫家の居城・建業城の近くの森にやって来ていた。
「この森って確か・・・」
「うん。蓮華様の母君・文台様のお墓がある森だ」
睡蓮は歩を進めながら、墓がある道から少しだけそれた。
「この先には小さな滝があってな。そこでよく一人で昼寝などをするのだ」
説明しているうちに、2人は目的の場所にたどりついた。真夏の強い日差しを2人を守るように広げられた木々の葉が遮って、柔らかな光が2人を包んでいた。先ほどの街の喧騒とは一変。聞こえるのは小さな滝から水が落ちる涼しげな音と、鳥とセミの鳴く声だけ。
「いいところだね・・・」
「そうだろう?ほら、劉永殿もそんなところに立ってないで座られよ」
すでに座っていた睡蓮に誘われて劉永も腰を下ろした。
「失敬」
睡蓮は劉永の膝に頭を乗せて、体を横たえた。いわゆる膝枕だ。
「睡蓮さん、やっぱり眠かったんだね?さっきから小さくだったけどアクビしてたもんね」
「おや?劉永殿にはお見通しでしたかな?」
劉永の言うとおり、睡蓮は親衛隊の少女達に朝から劉永に遭遇するまで追われて疲れがピークに達していたのだ。それで眠気を覚えたという訳だったのだが、劉永にはお見通しだったようだ。
まどろむ意識の中で睡蓮はぽつりと思った。
(全く不思議な御人だ。人をこれほどまでに惹きつけるこの才は天性のものなのだろうな。さすがは雪蓮様が円の婿に選んだ御方だ・・・)
結局劉永も熟睡してしまい、2人が目覚めたのは日もとっぷり暮れたころ。あわててそれぞれの住まいに戻ったが、劉永は異母姉に涙交じりの鉄拳制裁を食らい、同母姉には泣きながら「心配したんだよ!」と説教され、引率の母的存在には心配をかけた事と2人の姉という女の子を泣かせたとして一晩中廊下で正座という罰を下し、劉永はそれを甘んじて受け入れた。
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今回は久々に劉永君登場の呂覇ルートです。久々すぎて真名とかほとんど忘れちゃってた作者でございます・・・(反省)