No.907272 真・恋姫†無双~黒の御使いと鬼子の少女~ 25風猫さん 2017-05-25 23:42:05 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:1531 閲覧ユーザー数:1438 |
~立食パーティー~
「え~と、みんな集まったかな?」
北郷が会場である中庭を見渡して、皆の顔があることを確認する。
「よし、それじゃ、これから星の歓迎パーティーを始めます!」
湧き上がる歓声と共に、歓迎会が始まった。
「にゃにゃにゃにゃ~!」
机に並べられた料理を片っ端からがっついてるのは張飛だ。が、
「うっ!」
まぁ、予想通り、喉に食い物を詰まらせる。
「たっく、何やってんだよ」
そんな彼女の背中を何回か叩くと、何とか取れたようで、せき込みながら感謝の言葉をこぼした。
「にゃ~、でも、お祭りの時はめいっぱい楽しまなきゃ損なのだ!」
「いや、これお祭りじゃないだろう」
「にゃはは、細かいことはどうでもいいのだ!」
で、また食い物へと意識を戻してしまう。
「たっく、今度は助けねぇからな」
で、視線をちょっとずらすと、北郷と劉備が楽しげに話している。
「そういえば、ご主人様って料理ができる子と、出来ない子だったらどっちが好き?」
「え~と、それは……」
……うん、あっちには関わらない方が吉だ。で、視線を別の所に向けると、孔明と鳳統がせわしなく動き回っている。
「はわわ!」
「あわわ!」
……手伝うか。
「鳳統」
「ひゃわい!?」
とっ!?
「あっぶねぇ、大丈夫か?」
声を掛けた途端、言葉通り跳ね上がって、持っていたお皿を落としかけた鳳統。それを何とか掴んで、彼女へ渡す。
「だ、大丈夫れふ」
「……手伝おうか?」
「ひゃい!?」
……いちいち驚かんでもいいと思うんだが。
「え、え~と、え~と」
で、今度は顔を真っ赤にしながら、帽子を目深にかぶって顔隠すし。
「雛里ちゃ~ん、焼売が、あ」
そこへ孔明がやってきた。
「ああ、孔明、ちょうどよかった。何か手伝うことあるか?」
「……玄輝さん」
「ん?」
「その前に状況の説明を願います」
あれ? 何故空気がこう、寒くなったんだ? てか、軍師の顔になってませんか、孔明さん。
「え、え~と、二人が忙しそうだったから、手伝おうかって鳳統に話しかけて、で、その返事を待ってる時に孔明がやってきた、って所か?」
とりあえず、正直に話してみると、孔明の顔が一気に笑顔になる。
「そうですか! なら。雛里ちゃんと一緒に焼売を取りに行ってもらえませんか?」
「しゅ、朱里ちゃん!?」
慌てふためく鳳統に、孔明が近づいて何かを囁く。
(いい、……機会……頑張って)
(で、でも)
(このままだと……、愛……が)
(あわわ……)
え~と。
「その、焼売を取り行けばいいのか?」
「はい、お願いしますね!」
で、強引に孔明に背中を押された(かなり踏ん張って抵抗していたが)鳳統と共に調理場へと向かう、のだが。
「…………」
「…………」
無言だけが場を支配している。このままだと何にも会話せずに戻ることになってしまう。
(う~む)
しかし、彼女位の年頃の女の子との会話なんてすぐには思いつかないわけで。
(このぐらいの歳の子つったら、雪華ぐらいだしなぁ……)
戦国の世の子ならばまだそれなりに話せる話題が思い浮かぶのだが、こことは時代が違う以上、同じ話題で盛り上がれるとは思えない。
(さて、どうしたもんかね……)
まぁ、こればかりは考えても埒が明かないか。俺はとりあえず、彼女が通っていたという私塾についての話を切りだすことにした。
「そういやさ」
「ひゃい!」
……いや、ここで気にしたら話が続かなくなる。
「鳳統が通っていた私塾、水鏡塾だっけか? どんな塾だったんだ?」
「え、えっと」
さっきと同じように顔を真っ赤にしながら帽子で顔を隠しながらも、すぐに話を始めてくれた。
「その、正しい名前は、水鏡女学院って言って、そこの先生が水鏡先生で、いつもニコニコしてる、すっごい美人の先生でした」
「へぇ~、女学院ってことは、女の子しかいなかったのか?」
「は、はい」
そこから先、彼女はとても嬉しそうに話しだした。
お菓子を作るのがとっても上手だった子の話、物語の主人公で盛り上がった話、書物についての論議、どれもこれも楽しそうに話してくれた。
「……で、その時朱里ちゃんが、あ」
で、楽しい時間というのはすぐに過ぎてしまうものだ。俺達は折り返し地点である調理場へとたどり着いてしまった。
「ご、ごめんなさい」
「ん? 何が?」
「わた、私だけずっと話してばっかりで……」
「……別にいいさ。気にする必要はねぇよ」
そう言いながら彼女の頭を帽子越しになでると、湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして小さくなってしまう。
「さて、焼売を回収して、会場に戻ろうぜ」
「は、ひゃい!」
彼女の返事に小さく笑いながらも、俺達は調理場から焼売を持ちだすと、会場へと足を進めた。
「…………」
「…………」
で、また無言の空間が展開されるのだが、今度は鳳統がそれを破った。
「あ、あの!」
「ん?」
「そ、その玄輝様は」
「ちょい待ち」
「ふぇ!?」
……気にしたら負け、気にしたら負け。
「その“様”ってのはちょっとな。出来れば、呼び捨てで呼んでほしいんだが」
前に他の面々(張飛は除く)に呼び捨てで構わない、って言ったんだが、関羽は至極真面目な理由で断られ、劉備と孔明にはこっちの方が呼びやすい、そして、趙雲には呼ばれて欲しくないような呼び名の候補を散々出された結果、玄輝殿で落ち着いたわけだ。だから、せめて彼女には呼び捨てで呼んでもらいたいところなのだが。
(何つーか、こそばゆいんだよなぁ……)
こう、むずむずするというか、落ち着かないというか。さん付け、ならまだ平気なんだが。
「あ、あわわ……」
……望み薄、だなぁ。
「……せめて、さん付けにしてくれ」
しばらく、恥ずかしそうに俯いて黙っていた鳳統だが、ようやく小さな声で呼んでくれた。
「……げ、玄輝さん」
まっ、これが限界だよな。
「おう、改めてよろしくな」
「は、はい!」
何とも微笑ましい笑顔で答えてくれた彼女と焼売を持って会場に戻った俺達を待っていたのは、
「あ~! ひな~りちゃんとぐぅえんきさんだ~」
酒乱となった、劉備だった。
「……ふぅ」
他の面々に助けを求めようと思ったが、北郷、張飛、孔明は彼女に飲まされたのか、屍となり果てて、趙雲はメンマを一人で食べながらちまちま酒を煽っていた。そして、我が軍の良心、関羽はその場にいなかった。
雪華もいなかったが、時間が時間だ。もしかしたら関羽が避難させてくれたのかもしれない。まぁ、つまり、こいつを何とかできるのは、俺しかいないって訳で。
「いいだろう。これでもちったぁ名の知れた酒飲みだったんだ。覚悟しろ」
「え~、玄輝さんこわ~い」
こうして、劉備との初対決(?)が始まった。
~対戦後~
「……へにゃぁ~」
「やっと、やっと潰れやがった……」
あれから、どのくらい時間がたっただろうか? 俺は劉備との戦いに勝利はしたものの、俺も、うぷぅ!
「く、くそ、とんでもねぇ蟒蛇だな、こいつ」
かぱかぱと酒を飲み込んでいくさまは、まさしく蟒蛇としか思えなかった。途中で助けようとしてくれた鳳統も、彼女に中てられ、今では孔明と同じ場所で眠りこけている。
で、俺が吐き気と格闘していると、隣から小さな笑い声が聞こえてきた。
「いやはや、よもや桃香様があそこまで酒乱だとは思いもよりませんで」
「まさ、か、お前か? 飲ませたのは?」
「ええ、なかなか面白いことになりそうだったので、つい」
メンマのツボを脇に抱えていまだに小さく笑っている主犯、もとい趙雲はこちらに杯を差し出す。
「てめぇ、まだ飲めってか」
「まさか、これはただの水ですよ」
……怪しい。
「……私にとっては水に等しいものですよ、なんて後で言ったら、お前の秘蔵のメンマの隠し場所、公孫賛にバラすぞ?」
「……何のことやら」
このシラの切り方、もっと怪しい。ならば、
「公孫賛の城の中庭にある、長椅子」
「すいませぬ、これは酒です」
ちっ! 予想通りか!
「普通の水寄越せ、普通の!」
「……つまらん」
こいつ! 小さな声でなんつった!?
「少々待たれよ、さすがに井戸まで行って帰ってくるのには時間が掛かる故に」
そう言い残して、彼女はこちらに渡そうとした杯を一気に飲み干してから、井戸のある方向へと歩いて行った。
「たっく、とんでもねぇ奴だな……」
襲いくる吐き気と眠気に耐えながら俺は横になって夜空を見上げる。
「くそっ、気持ちワリィ……」
と、その視界に竹筒が映り込んできた。
「とっ、ずいぶん早い、な」
だが、それを差し出していたのは、趙雲ではなかった。
「まったく、酒には飲んでも呑まれるな、とは言われなかったのですか?」
首を後ろへ傾けた先には、どこかに消えていた関羽がいた。彼女が竹筒を差し出していたのだ。
「あ、いや、これには事情がだな」
「…………」
呆れ顔のまま竹筒をもう一度差し出してきたので、仕方なく俺はそれを受け取って一気に中身を飲み込んだ。冷たい水が喉を通り抜け、胃袋へと入り込んでいくのが感じられた。
「ぷはっ」
俺は全部飲み干すと、彼女へ竹筒を返した。
「助かった。おかげで少しスッキリしたよ」
「そうですか」
で、なおも呆れ顔のまま俺を半眼で睨んでくる関羽。
「……だから、事情があるんだっての」
「…………」
それでも表情を変えない彼女に、どうしてここまで飲む羽目になったのかの事情を説明すると、ため息と共に、ようやく呆れ顔を普通の顔に戻してくれた。
「まったく、あやつは楽しければ何でもいいのでしょうか?」
「まぁ、限度は弁えている、ハズ」
ここで確信を持って言えないのは、アイツの人徳としておこう。
「それにしても、桃香様がそこまで蟒蛇だったとは、初めて知りました」
「そうなのか?」
「ええ。桃香様はあまり飲まない方でしたので。最初の1、2杯程度なら飲まれるのですが、ここまでは」
何か、いいことでもあったのでしょう、そう言って彼女は丸まって眠りこけているもう一人の主の頬をやさしくなでた。
「にゅふ~」
それに彼女はくすぐったそうな声をこぼして、眠ったまま満面の笑顔を浮かべた。
「えへへ~、頑張ったでしょ~……」
何をがんばったのやら、俺はその様子を見ながら小さく笑う。と、それにつられてか、関羽も小さく笑っていた。
「そういや、雪華はどうした?」
「私が部屋までお運びしました。始まる前から眠そうだったので」
「そうか」
となると、今頃は夢の中か。
「さてと、俺らもこいつらを運ばないとな」
「それもそうですが、その前に」
そう言いながら彼女が袖から取り出したのは、
「……おいおい、勘弁してくれよ」
小さな徳利だった。
「良いではありませんか、たまには」
「さっき説教をかました人間の言葉とは思えねぇな」
俺は溜め息一つ吐いて、彼女から差し出された杯を受け取った。
「……明日、仕事代わってくれよ?」
「それは星にでも言うことですね」
「ひっでぇ」
そう言いながらも、俺は隣に座った彼女から注がれた酒に満月を映しながら、彼女が自身の杯に酒を注ぐのを待つ。
「では」
注ぎ終わった関羽が俺へ杯を差し出してくる。
「乾杯」
俺がその杯に自分の杯をぶつけると、澄んだ音が小さく鳴る。
「んっ」
で、互いにそれを一気に飲み干した。
「……ほぉ」
思わず感嘆の声を出してしまうほどにその酒は美味かった。酒もそんなに強くはなさそうな味だ。
「どうですか?」
「美味いな、どこで買ったんだ?」
「西の大通りの酒屋です。買った、というよりも、そこの店主が悪漢に絡まれておりましたので助けたら、お礼、として押し付けられたのですよ」
苦笑しながらそう語る関羽。
「なるほどな。まっ、いいじゃねぇか、おかげでいい酒が飲めたんだからさ」
「そう、ですね」
互いに空に浮かぶ月をしばし眺める。耳を澄ませば、辺りには虫の小さな鳴き声が聞こえている。
「……なんか、ここだけ別世界みたいだな」
「玄輝殿?」
「平和すぎてさ。そりゃ、まだ戦乱の気配は消え去ってないし、相変わらず賊は湧いてくる。でも、ここだけは、今この瞬間だけは、本当に平和だからさ、妙な感じがするんだよ」
俺は再び杯の中へ視線を落とす。
「本当に、妙な感覚だよ」
「……私もです」
「関羽?」
隣を見れば、彼女も俺と同じように視線を杯へと落としている。
「玄輝殿の仰ることは、私も何となくわかります。でも、それは私にとって明日の活力なのです」
「活力?」
「ええ」
でも、次の言葉を発する時には、その視線は空の月へと向かい、目には力強い光を宿している。
「この平和を、何としても守り抜く。悪漢共に触れさせるものか、と」
「そうか……」
やっぱり、彼女は強い。武だけではない、その心も。
(……眩しいな)
俺にとっては、その純粋な強さが、うらやましいかもしれない。
「お前は、強いんだな」
思わず、こぼれた言葉に俺は焦った。
「玄輝殿?」
「いや、何でもない」
俺は何とか取り繕うとするが、彼女はそれをさせてくれなかった。
「あなたも十分に強いではないですか。私など、まだ及ばぬところが……」
違う、違うんだよ。
「俺は、俺の強さは……」
言いたい。言ってしまって楽になりたい。でも、いや、だが、
(楽になりたいって何だ? 俺は、どうしたいんだ? なんで彼女に話したいって思ったんだ?)
酒に酔ったのか、思考が回らない。だからだろう、本音を、少しだけ漏らしてしまったのは。
「あいつらを、殺すためにある」
「玄、輝殿……?」
「あいつらを、あの、アイツらを……!」
思い出すのは、赤い空と大地、そして、その上に立つ白。それが、俺の、
「玄輝殿~、水を持って、おやこれは」
はっ!?
「せ、星!?」
関羽が驚いたように後ろに振り返る。だが、それよりも先に俺はさっきの自分に対して酷く後悔していた。
(俺は、何を言おうとしていた!? 馬鹿か!?)
クソッたれ! 本当に馬鹿だ!
「すまん、助かった」
すぐに立ち上がって星から大きめの竹筒を受けとり、その中身を一気に、全部飲み干した。
「ん?」
趙雲が少しだけ眉根を寄せたが、俺はそれよりも頭を回すことを優先した。
(落ち着け、これは誰にも話さない、誰も巻き込まない、そう決めただろうが!)
小さく歯ぎしりをして俺は関羽に向き直った。
「そろそろお開きだ。片付けは明日で問題ないだろう」
「玄輝殿!」
「……すまん、さっきのは忘れてくれ」
あそこまで言ってしまった以上、下手に取り繕うよりは、さっさと打ち切ってしまう方が良い。そう判断した俺は二人から逃げるようにその場を離れ、自室へと戻った。
だが、その日は後悔が頭の中を埋め尽くして眠ることが出来ず、結局寝付いたのは辺りがほんの少し明るくなった、夜明けだった。
そして、人というのは、そんな時に限って、悪夢をみるものだ。
……一言だけ、言わせていただけるなら。
申し訳りまっせんしたぁ!
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話
真・恋姫†無双の蜀√のお話です。
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