量子トンネル効果はランダムな過程なので、宇宙の遠く離れた場所は、異なる真空が次々と立ち現れる。こうして、ひも理論の風景はくまなく探検される。そこにあるすべての安定な真空は、宇宙のどこかで実現しているのだ。
結果として、宇宙は膨張する泡の中にいくつもの泡が入れ子になり、それが多数集まった構造になる。それぞれの泡の中では、それぞれの物理法則が成立している。そのような泡の中で、ごくわずかなものだけが、銀河や生命体といった構造を生み出すことができる。私たちが見ている宇宙は半径100億光年を超えるが、それすらこれらの泡の1つの、ほんの限られた領域に過ぎない。
著者 Raohael Bousso / Joseph Polchinski
原題名 The String Theory Landscape / SCIENTIFIC AMERICAN September 2004 より引用
ひも理論の方程式の解となるエネルギーを、余剰次元を表す6次元多様体の構造を決定するパラメーターの関数として描くと1枚の風景が現れる。エネルギーが多様体全体の大きさだけに依存するなど、パラメーターが1つしかない場合、風景は単純な1本の曲線になる。
実際のひも理論の風景は、すべてのパラメーターの変化を反映し、膨大な次元を持った形状になる。余剰次元を示す多様体は、最後にはどれか谷底に落ち着く。
そこはひも理論の安定な解、つまり安定な真空を表している。谷の底にいる多様体は、長期間そこに落ち着いている。
だが多様体はある時、量子効果によって尾根を抜け、隣接するより低い谷へと突然移動する。宇宙の異なる領域はランダムに違った経路を通ってゆく。これは無限に多くの探検家が、ひも理論が描く多次元山脈を縦走し、すべての谷を踏破するのに似ている。
多重宇宙とは、宇宙の泡の中で異なる現実が生まれることだ。
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