No.905157

双子物語77話

初音軍さん

大学生の友人エレン視点。家族に対する悩みを抱えていたけれど双子とその
周りの人たちと付き合っている内に少しずつ気持ちが強くなっていた彼女は
自分と家族と正面から向き合おうというそんなお話。地味に姉妹百合(姉は無自覚;)

***

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2017-05-11 20:41:37 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:523   閲覧ユーザー数:523

双子物語77話

 

【エレン】

 

 朝起きてカーテンを開けると眩しい光が差し込んできた。

頭はすっきりしていてインスタントコーヒーを飲んで爽やかな気分で玄関扉にある

入れ物に目を通すといくつかのハガキの中に封筒に入った手紙が混ざっていた。

 

 いい気分のままそれに手を伸ばしてみるとその爽やかな気持ちは一変。

どんよりした状態で食堂に向かうと私の様子に気付いた彩菜が「どうしたの」と

声をかけてきた。

 

 最初は彩菜だったら相談してもいいかなって思ったけど自分のことだし

迷惑をかけたくないから大丈夫と言ってから彩菜と春花の正面の席につく。

相変わらず二人は仲良く食事をしている。見ている私が微笑ましく感じられるくらい。

それと同時に羨ましいとさえ思ってしまうのだ。

 

 別に彩菜や春花とくっつきたいという意味ではなくて、また別の…私の好きな人と

私がこの二人のようになりたいという願望からきているのかもしれなかった。

 

「ねぇ、アヤナ」

「ん、どしたの。エレン」

 

「今日みんなのところにお邪魔してもいい?」

「え、何を突然」

 

 彩菜の隣にいた春花がそう言うと確かに突然過ぎたかな~と思いながら目の前にある

大皿に乗っているおかずに箸を伸ばす。

 

「みんなのとこでお泊りしたら楽しいかなぁって思ってね。でもやっぱりだめか~」

「いいよ」

「ちょっと彩菜!?」

 

 ごく普通にご飯を食べながら彩菜は軽い感じで私のお願いを受け入れてくれた。

一瞬自分の耳を疑ったけれど彩菜の恋人の春花の反応でわかることだった。

 

「それに可愛い子二人に囲まれてお喋りできるのは嬉しいしね~」

「貴様…」

「あ、春花。あまり眉間にシワ寄せると可愛くなくなるよ…?」

 

 ケンカまではしなくても春花から出る殺気溢れるオーラが私と彩菜を震え上がらせる

くらいには怖かった。

 

 けど怯える私を見た春花は普段通りに戻り一日だけねと言って許可をもらえた。

準備もあるから、と。明日お邪魔することになったのでした。

 

 その日の夜。何だか私はそわそわしながらベッドの中に潜る。

楽しみもあるけれど今朝見た手紙のことを思い出したことで気持ちが複雑になって

眠れなくなっていた。

 

 横になったまま手を伸ばして何とか傍にあるカーテンを開けるとそこからは

綺麗な月の明かりが部屋の中に入ってくる。

 

 手紙は妹からのものだった。すごい強気で私を責めてくるような書き方。

いつから私のことを嫌っているのだろう。小さい頃はあんなに慕ってくれていたのに。

思い出すと少し泣きそうになったので布団を被って無理にでも寝ようとした。

 

 …寝ていたのか眠れなかったのかわからないけどいつしか朝になっていることに

気付いて私は体を起こして外を見た。外は見事な晴天だけど私の心はどんより曇り空。

 

 今日は彩菜のところにお泊りするから気持ち切り替えなきゃと思い頬をぺしぺしした。

お邪魔するのは夕方以降になるため、休日の昼間はやることがなく私は近所を

ブラブラ散歩をしていた。

 

 周りは店も住宅もほとんどなく木々や草、畑田んぼ等が多くを占めていた。

何もない代わりに何も考えないで散歩することができた。都会と比べて空気が澄んで

気持ちいい。伸びをすると、んんっと声が漏れる。

 

 ぽかぽかあったかい陽気の中しばらく歩いてから帰ると少しだけ疲れたけれど

ちょうどいい気分転換になった…と思う。

 

 ちょうど戻ってきた時に買い物袋を持って帰ってきた彩菜と春花の姿があった。

買出しにでも行っていたのだろうか。

 

 明らかに買いすぎだと思う量を彩菜は嬉しそうに春花は心底疲れたような顔をして

二人共正反対の表情をしていたのが印象的だった。

 

「おかえり、エレン」

「た、ただいま」

 

「泊まりはしないけどせっかくだから雪乃たちとも一緒におしゃべりしようかと

思って」

 

 あ、だからこの量なのか。それにしてもその面子の中で一人男の子がいるのだけど

それはどうするんだろうと考えていたら、まるで私の考えが見えてるかのように

彩菜が…。

 

「あ、大地は管理人さんに相手してもらうから安心して。ついでに管理人さんと一緒に

いた女の子も誘っておいたよ♪」

 

 話の後に鼻歌をしながら部屋に入っていった。そして何も喋る気力すらわかなそうな

春花を見て少し申し訳ない気持ちがあった。

 

 

***

 

 それからしばらくしてから彩菜から連絡があった。スマホの画面にできたよの文字と

可愛らしいスタンプが一つ。

 

 私は嬉しくなって、小さい頃からいいことがあった時に歌っていた歌を口ずさみながら

部屋を出て彩菜の部屋の前で立ち止まると少し間を置いて隣から雪乃と叶ちゃんが

出てきて顔を合わせた。

 

「どうしたの、中に入ろ」

 

 雪乃が最初にドアを開けて中へと入っていった。

 

 やっぱりというか何というかカップル二組の中に中学生の女の子と私は話について

いきにくく、やや浮き気味になっていた。そう思っていた矢先、中学生の子は

管理人さんとの話を振って二組の中へと入っていく。

 

(あの二人…付き合ってたんだ!?)

 

 年の差もあったし関係ないと思っていたけれど、何の理由も関係もなくあの年の差で

一緒にいることが不思議だろうと今更ながら考えていた。

 

 まぁ、本人の話しによると元々病弱で自然の多い綺麗な場所にいたところに出会った

らしい。甘い話に積極的に参加できて羨ましい限り。

 

「まぁ、これはまだ私の一方通行だけどね…」

「応援してるよ、がんばれがんばれ」

 

 楽しそうに喋った後、しょんぼりする女の子の肩を彩菜が軽く叩きながら応援すると

言った。

 

 私も…。私も相談したら応援してくれるのかな…。

 

 手紙のことを思い出してもやもやが出てきてしまう。今は楽しい時間なんだから

このことは今は忘れよう。忘れなきゃいけないと自分の奥底にしまいこむ。

 

 楽しいはずのお話も少ししか耳に入らなくていつしか時間は過ぎていって

みんな帰っていった。残ったのはお泊りメンバーの彩菜と春花と私。

ここは彩菜の部屋であるから二人はいて当たり前なのだけれど。

 

 少しの間が空いてから春花が立ち上がって私の分の布団をベッドの近くに引いてきた。

 

「すぐには寝ないけど楽な格好してたほうがいいでしょ」

 

 その気遣いは嬉しくて、彩菜が寝巻き姿になったのを確認したら私も普段使っている

パジャマを着る。すると彩菜が目を輝かせながら私を見ていた。

 

「可愛いパジャマだね」

 

 色んな模様があって可愛い雰囲気になっている。悪く言えば子供っぽいとも言えるけど。

そんな寝巻きを見てはしゃぐ彩菜に癒される。

 

 それから他愛もないけど趣味の話や大学やこれからをどうするかを深く考えず

簡単に思ったことを言い合った。すると時計もとっくに日付が変わる時間になっていた。

 

「ふわぁ…。眠くなってきたから先に寝るわね」

 

 可愛いあくびをする春花は彩菜と一緒に寝てるであろうベッドに先に潜っていった。

 

「ねぇ、エレン。みんなの前だと言い難いことでもあったんじゃない?」

「え、どうしてそれを…」

 

「いつもより表情が固かったから、何かあったのかなって」

 

 彩菜が春花に聞こえないくらいの小さな声で私の耳元で囁くように聞いてきた。

びっくりした私は声が大きくなりそうだったのを彩菜の指で唇を軽く押されて止めた。

 

 それから私の布団に二人で入ってから少しずつ話した。過去の自分と妹のことを。

この間、私のところにきた手紙のことを。

 

「妹は私のこと嫌っていて何をするにも怒られて…」

「ふむふむ」

 

「小さい時はずっと私の傍にいてくれたのに…どうしてだろうって悲しくなって」

「そっか…。でも妹ちゃんのこと好きなんでしょ?」

 

「うん…誰よりも好きかも。お互い少しずつ大きくなってから妹を見てると少し

ドキドキしてきちゃったりして」

 

 思い出して小さく笑う私に彩菜は複雑そうな顔をしながら「それは…」って言って

言葉を止めた。

 

「何?」

「ううん、なんでもない。じゃあ今度会いに行くんだ?」

 

「うん、一度両親にも話しにいかなきゃいけないし。でも妹とは会い辛いなぁ…」

「大丈夫、エレンはがんばってるんだから」

 

「うぅ…」

 

 かけ布団を被って唸る私に一緒に潜り込んできた彩菜が私の額に口付けをした。

 

「上手くいくおまじない」

「そんなのあるの…?」

 

「今私が考えた」

「なにそれ」

 

 いつもめちゃくちゃでポジティブな彩菜に元気付けられた。彼女が言うように

本当に上手くいきそうな気がしてきたのだった。

 

 

***

 

 お泊りで元気が出た私は実家に戻ってきた。片道3時間…。長く電車に揺られてきたが

いざ家の前までくると怖気付きそうになる…。今は頼りになるあの人たちはいないのだ。

 

「がんばれエレンがんばれエレン」

 

 小さい声で自分を鼓舞しながら前へと進む。玄関に入ると目の前には睨みつけるように

待つ可愛い妹の姿があった。

 

「ただいま、エリス」

「…」

 

 私よりもずいぶんちっちゃくてツリ目でメガネをかけていた。

地味めな服装で輝いているように綺麗な金髪とは正反対な感じ。

外に出るときはコンタクトレンズをつけているらしい。それにしても挨拶してるのに

黙っているのは悲しい…。

 

「お母さんとお父さん待ってるから」

「はい…」

 

 お互いどっちが年上かわからないような態度を取りながら私は居間へと向かった。

 両親が座っていて私は恐る恐る視線を向ける。

優しく微笑む母と無表情でやや俯きがちな父。私はそんな二人を見て以前のように

心細くて仕方ないような心境は不思議と薄らいでいた。

 

「ただいま」

 

 それから面談のような雰囲気で話は始まり、趣味に走りすぎて成績が落ちたことに

関しては私は人生の中でほとんど見せなかった強気を出して語った。

 

「両立を目指してがんばります。仕事に関してはまだ見つからないけど以前のように…

ううん、以前よりも勉強をしてがんばります。私の好きなもののために!」

 

「そうか、わかった。エレンがそこまで言うならその本気信じてやろう」

「ありがとう、パパ」

 

 私は久しぶりに両親の前で笑顔になれた気がした。これで肩の荷が下りたと

思うだろうけど私の中の本番はこれからだった。

 

「よかったね、お姉ちゃん」

「ありがとう」

 

 言葉と表情が全く合ってない私の愛する妹。もう昔のように仲良くできないのだろうか。

泣きたくなってきた。

 

「趣味…」

「え?」

 

「あんな趣味ずっと続けるつもり…?」

 

 あぁ…私のオタな趣味のことを言ってるのだろうか。

それに関しては好きなものだから「うん」と答えるしかないのだけど。

 

「うん、多分ずっと」

「なんで!?」

 

 これまで冷静に私の痛いところを突いてきたクールな妹がいきなり怒鳴り声をあげて

びっくりした。

 

「キモイ!キモイキモイキモイキモイ!どうして…!どうしてそうなっちゃったの!」

「え、どうしてって…」

 

 何もかもが唐突で頭が真っ白になる私。でも一つだけ気になったことが…。

妹が少し俯いていてよく見えてないけど泣きそうな顔に見えたから顔を近づけて言う。

 

「あのね、私のこと嫌いでもいいから。趣味のことは貶さないでくれる?」

「ばか…」

 

「え?」

「嫌いだったらこうやって手紙で呼びつけたりしないよ!」

 

 えっ、えっ。あれって両親が呼んだわけじゃなくてエリスが…?

わけがわからなくなって「?」が頭の中で浮かんでいると。

 

「昔のお姉ちゃんはかっこよくて頭よくて自慢の姉だったのに…!」

 

 怒っている今のエリスの姿は昔私にわがまま言ってた頃の姿に似ていて

色々言われているはずなのに何だか嬉しくなってくる。

 

「ふふっ」

「なによ!話聞きなさいよ!」

 

「もしかして、私のこと趣味に取られちゃったと思ってたの?」

「な!?」

 

 怒って顔を上げていた妹が私の言葉に動揺して顔真っ赤にしてうろたえていた。

図星だったのだろうか、途端に言葉が出なくて困っている姿が可愛い。

 

 私は感情に素直に愛しい妹を優しく抱きしめた。

 

「勘違いしてると思うけど、私はいつも貴女のことを一番に思ってるんだよ」

「…」

 

「趣味はまた別。それにああ見えても奥が深い世界なんだから」

「…」

 

 ぐすっぐすっと小さく音を立てている妹。中学生になってもまるで子犬みたいだ。

 

「そうね、エリスの気持ちもわからなくもないから。姉さん趣味を大事にしながらも

エリスに好かれるような姉を目指してがんばるわ!」

「ほんと…?」

 

「うん、だからね。仲直りしよ。私も寂しかったし」

「うん…」

 

 一度顔を上げて頷いた後、また私の胸の辺りに顔を埋めてきてちょっとくすぐったい。

来る前は怖かったけれど、こうして会ってちゃんと話し合えてよかったと心から思った。

 

 まだ完全に距離が縮まったとは思わないけど、少しずつ二人の距離がこうやって

くっつけたらいいのになって。

 

「よし、じゃあ今から服を選びにいきましょ!」

「え!?」

 

「私もエリスも服が地味じゃない。前みたいになりたかったらおしゃれにならなきゃ!」

「あ、いや…それはお姉ちゃんだけで」

 

「だーめっ。私もエリスのかわいいとこみたい」

「うー…わかったよ…」

 

 その会話の後、両親に許可をもらって買い物へ出かけた。久しぶりの妹との買い物が

楽しくて楽しくて、まるで夢のような気持ちになって…夢だったら嫌だなぁ。

 

 買い物の途中、互いに空いた手を繋ぎながら歩いている時に私はエリスに話しかけた。

 

「今度ね、エリスに時間があったら私が過ごしてるアパートに遊びにくる?

私に勇気をくれた子たちがいるから、楽しいよ」

「うん…気が向いたらね」

 

「ありがと」

 

 楽しそうにしているかちょっとわからない表情でいるけど拒まないってことは

嫌ではないのかもって思って今日一日は私に引っ張りまわされる妹。

フードコーナーで好きなソフトクリームを頼んで口元についたのを舐め取ったら

真っ赤な顔して怒られたり、お互いに似合いそうなアクセサリー選んだり。

 

 お金いっぱい使っちゃったけれど、それ以上に嬉しいことがあったから満足だった。

今度のイベントで出る同人誌は少し買うの控えなきゃ。

 

 すっかり日も赤みが差して夕暮れになった頃、私達は家に帰るのに歩いていた。

当然帰りも手を繋ぎながら。どちらからも離すことなくずっと…。

 

そして…いつかエリスも入れて彩菜たちとまたお泊り会ができたらいいなと思うのだった。

 

続。

 


 
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