No.898756

東方魔術郷#1 【休話】

shuyaさん

再び書く日が来るまで、設定・裏設定等を公開します。

1・八雲紫の計画
2・八雲紫の独白
3・事の流れと装飾無しのラストシーン

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2017-03-26 17:43:53 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:335   閲覧ユーザー数:333

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  --博麗の巫女修行計画--

 

                                                               八雲 紫

 

 

1.なぜ今なのか

 

 近年、博麗大結界の綻びが頻度を増している。管理責任者の一人として調査をした結果、結界の効力に大きなブレが生じていることが判明した。結界の効力が強まる周期のトラブルは対処するまでも無いものばかりだが、弱まる周期のトラブルは幻想郷の存在を揺さぶるようなものも少なくない。

 由々しき事態であると判断した我々は、追跡調査と情報の詳細な解析を行った。その結果、日や時期によって、また時刻や天候や宴会の頻度等々、多種多様な側面を持つ事象によって相関関係を持つブレが生じていること突き止めた。そして対象を個々人に絞り、結界のブレとメンタルのデータを調査したところ、検証するまでもないレベルで一致している者がいた。対象の個人とは博麗霊夢であり、その後の調査で『気分次第で仕事がブレている』という結論に至った。これは過去に例のないパターンであり、その主な原因は『博麗霊夢の成長による勘・霊力の衰え』にある可能性が濃厚である。

 結界が弱まる頻度は増している以上、放置するわけにはいかない。原因が確定できた今、可能な限り早急に対処することが望まれる。

 

 

2.計画の必然性(従来の手法を転換する理由)

 

 異変を起させて退治に向かうよう仕向ける、月への侵攻と称して稽古をつける、等々。過去の実力向上プログラムはそれなりの結果を出していた。しかし幻想郷にも勢力が増え、異変解決も争うように行われてしまう現在では、博麗霊夢自らが動く機会など皆無に近い。博麗霊夢当人は常々、『全員が敗れ去った時こそ私の出番』と嘯いている。しかし、実際にそのような状況になった場合、若かりし頃の未熟なりとも勘と勢いで乗り切ってしまえる時期ならいざしらず、現在の博麗霊夢では期待する結果など望むべくもない。『異変解決は私の仕事』と言い切っていた博麗霊夢は過去のものとなった。従来の手法では、博麗霊夢を動かす意味すら持ちえない状況に陥っているのだ。

 

 

3.当該計画案

 

 新計画の骨子として、まずは『博麗霊夢を巻き添えにすること』を目指す。これは、今の彼女が事態の解決に乗り出す確率が低いことから、計画の確実性を高めることが求められているためである。

 次の段階として『博麗霊夢に鍛えることの喜びを体験させること』を目指す。まだ若いにもかかわらず、明らかに衰えを見せている博麗霊夢が再び力を持つための必須事項である。自主的な修行を行えるようなパーソナリティを獲得できればなお良いが、こちらは努力目標としたい。

 そして最後に、『この計画を通して博麗霊夢の実力を向上させること』を目指す。この項目は最重要課題であり、達成のためであれば多少の犠牲はやむなしとしたい。

 以上につき、成果が認められる場合のみ計画完了とする。万が一、計画完了は困難であるという状況に陥ろうとも、対策がある限り継続を基本路線とする。意図と大きく逸脱するような場合は、どのような手法を用いてでも軌道修正を行うこと。

 

 補足:現在、結界のブレは八雲の管理で調整できる範囲ではある。しかし、このまま行けばもう数年でブレの最下限値が博麗大結界維持の最低数値を下回る恐れがある。当該計画において博麗霊夢が最終段階まで到達できなかった場合、幻想郷の結界が何の前触れも無く消失する危機を迎える未来が確定する。博麗霊夢の強化は幻想郷の維持管理に必須であり、最も可能性の高い危機回避手法であることをご留意願いたい。

 

 

4.必須事項(用地・人員・期間等)

 

 別紙参照。

 

 注:参考として各人にお配りしている資料に関して、『隣り合わせの灰と青春』だけは全員必読のこと

 

 

5.終わりに

 

 博麗霊夢が現在の形に落ち着いて以来、最大の異変を仕組もうとしている。そして、状況を外の世界由来のゲームに委ねるという、過去に例を見ない手法を選択している。これは、博麗霊夢による『異変解決への意識』を抑えたままにするためのものである。異変解決だけに意識を向けてしまえば、このゲームの特性を鑑みるに、序盤を凌げば勝利は確実なものとなる。性質上、制限時間を定められないため、ゲーム的なレベル上げを選択されてはならない。だからこそ、博麗霊夢にはやる気に満ちた何者かによって『巻き込まれて』もらう必要がある。やる気のないままにゲーム内で『成長への魅力を体感してもらうこと』こそが、真の目的の達成へと至る唯一の道筋と思うが故に。

 皆々様には、どうかこの計画の重要性・妥当性・必然性を十分にご検討頂きたい。

 

 

 

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「ふうっ……」

 

 ここまで一気に書き上げたので、少しだけ腕が疲れている。外の世界の道具ならいざ知らず、粗悪な紙に筆と墨ではメモ程度の書き物でも、書き上げられる文字数は限られてしまう。そもそも、という話にはなるけれど。『計画の概要を文字だけで表現することは不可能』という現実も、書き上げた文章の内容と文体の乖離に直結している。書かれた文章には『幻想郷の危機を告げ、その現状を書き表し、対策が必須であり、その対策としての計画を立案した』とあるのだから、真実であるのならば最重要機密に指定されるほどの、極めて重要な代物である。しかし、その最重要事項たちは淡々と、事実を一つ一つ紙の上に置いただけとも言える文体で書かれている。これでは賛同者は現れまい。書かれていることが真実であるという共感を得ることができず、説明もまともに聞いてもらえない。この文章が完成稿であるならば、その未来は避けられないものとなるだろう。

 

「まずは、こんなところかしら?」

 

 まずは。つまり、次がある。

 この文章は八雲紫の書いた『博麗の巫女修行計画(仮題)・第一稿』である。決して表に出ることは無く、誰の目にも触れられない。まだ八雲紫が演出する、八雲紫という妖怪の諸要素を注入される前の、素の文章。今後、結界の危機感を煽り、幻想郷の危機であることを訴え、さらには私自身の未熟を前面に押し出して憐憫さえも誘う。それでいて、得体の知れなさという”八雲紫らしさ”を加えられていく。何度も何度も書き直す。いい表現が思い浮かばず苦悩する。時に、いい発想を得るために夜の散歩にも行く。夜中に書き進めて、朝に赤面しながら修正する。どうしても思いつかないのでそれっぽい話を誰かに振って、その反応から着想を得ようとする。まるで出来の悪い小説家のような仮定を経て、そして、八雲紫が「こんなものかしらねえ」と呟ける出来になれば、八雲藍に下見をさせる段階に進む。

 八雲紫は、どこまでも八雲紫でなくてはならない。その昔の八雲紫がそう規定したのだ。己の想像する『最も相手にしたくない敵』のイメージを万物に与えられるように、他者の絡む生活全てを厳しく律している。

 

「……弱いわねえ」

 

 やってみなければわからない。何もかもがあやふやで、心はいつも不定のまま。彼女の中の境界は、彼女の力を拒絶する。

 単純な腕力であれば、鬼にも天狗にも、下手をすれば意外と力持ちな河童にも負ける。八雲紫という妖怪の持つこうした脆弱な一面を、果たしてどのくらいの幻想郷住人が理解しているのだろうか。磨き抜かれた優れた頭脳や、積み重ねてきた経験によって裏付けされた自信があるからこそ、八雲紫という個性を演出できるのだ。大妖怪たる者が己を隠し、暗躍するからこそ彼女は誰からも一目置かれている。しかし、この在り方を続ける限り、八雲紫が内に秘める劣等感はいつまでも彼女を侵し続けることになる。

 

 演じているから上手くやれているのだとしても、演じてしまえば己自信が満たされることは無い。己が消えて、結果だけを残す張りぼてになる。達成感など微塵もない。ただただ、虚しさだけが連なっていく。過去も、そして現在も、恐らくは遠い未来もからっぽのまま。生が続くその限り、幻想郷への慈しみにすがり続けるのだろう。

 

 

 

 

○事の起こり

 

 想定通りのメンバーで挑むことになる。が、最も魔術師適性が高いと見ていたパチュリー・ノーレッジの『冒険者適性の低さ』が徒となり、持続的な探索が不可能になる。また、遊び気分の吸血鬼とお気楽な巫女がwizardryでやってはならないイケイケの探索方針をやらかしてしまう。当然、二階に行った瞬間にパーティは半壊。立て直しが困難になる。

 

 

○事の悲劇化

 

 本来、ゲームの仕様上の事柄しか起こらないのだが、稀代のトラブルメーカーである霧雨魔理沙がいらないことを仕出かす。事前に宝箱が出てくることを知った魔理沙は、盗賊になることの魅力に抗えなくなってしまう。しかし魔法使いでありたい気持ちもあるので二者択一に悩まされることになる。そこで、魔理沙は『ゲームシステム上は盗賊、戦いは魔法使いでいこう』と決める。得意のきのこを使った魔法的なアレを、体のあちこちに忍ばせて事に臨んだのである。

 しかし、ゲームシステム的にはアイテム処理されるはずのそれらは、当たり前だがwizardryには存在しない代物。有り得ないアイテムで敵を倒してしまえば、ゲーム側が異常を示すことになる。そして魔理沙が自前の魔法を使用した時点で、完全にバグを引き起こしてしまった。

 ゲームと現実を融合させた異常な空間で、ゲームをバグらせてしまう存在がいたら?ゲームであれば止まることになるが、現実であれば異常は排除されてしまう。魔理沙はこの世界で、 『危険な害のあるアンノウン』と認識されてしまう。よって、ゲーム的な死亡を機に存在そのものがバグってしまう。もちろんバグ状態のまま行ったゲーム上の復活は失敗して、灰になることもなくロストでもない、命はあるけれど何かが失われているという状態に陥ってしまう。

 

 

○事の拡大化

 

 これをきっかけに、本気になったレミリアとパチュリー。レミリアは遊びモードから紅魔館の主モードへと切り替え。パチュリーは参謀モードへと切り替え。それぞれが本気で事態に当たる。まずは適材適所ということで、やる気のなさからお偉いさんの使いっぱに収まっていたアリスを実戦部隊に編入。パチュリーを対お偉いさん用の交渉要員兼事態の解明担当とする。

 レミリアは気合の入った咲夜や美鈴と共に戦いに出る。不貞腐れたアリスはいくら言っても聞かないので、初回に多少痛い目を見てもらうつもり。危険だとわかれば対処するだろうと見ている。この時点では霊夢の違和感の正体は不明。

 翌日、霊夢が妙に強いことに気付く。現実の力量差からレミリアだけが多少強い状態で始まったこのゲームだが、実力差のあまりなかったはずの美鈴と霊夢に明らかな差が出ていた。レミリアは実戦の中でいくつか試してみた結果、『脱落していたはずの霊夢が、何故か私と同レベルの強さに成長している』ことを確信する。

 レミリアは職業選択時に君主ではなく戦士を選び、霊夢は僧侶(巫女)でも戦士でもなく何故か君主を選んでいた。ゲーム上、君主は上級職に位置するので、レベルアップに必要な経験値がやや多いことは説明を受けていた。戦士であるレミリアの方がレベルアップが遅いというのは異常である。この時、レミリアは何かおかしなことが起こっているという確信に近い気付きに至る。

 

 

○事の進展

 

 パチュリーは、お偉いさん方の弱みであるはずの魔理沙の件を利用して切り込んでいく。契約書を片手に相手側の不履行を訴え、トラブル発生時の交渉を執り行うよう求める。が、アリスが会うはずだった面々に却下される。そこで、小野塚小町を使って四季映姫・ヤマザナドゥへ話を通してもらい、事情説明と責任追及を行うことでお偉いさんの不始末を追求する側へと誘導する。

 四季映姫主導の会議では、蓬莱山輝夜や八意永琳、西行寺幽々子や八雲紫といった関係者も出席する。事前根回しが一切できないほどの早さで集められた会議では、意見の集約や思考の共有が全くできず、契約不履行を認めざるを得ない展開へと向かうことになる。パチュリーは終始優勢のまま『計画の即時凍結』を求めつつ、最低限の要求である『魔理沙復帰後の再開』を確約させざるを得ない方向へと突き進んでいた。

 ゴール間近というところで、ほぼ会議に加わらなかった八雲紫が「無理だ」と告げる。パチュリーはなおも追及を始めるが、紫はそれを止めて「覚悟があるなら全て話すが、他言無用」と告げる。幻想郷に紅魔館がある限りレミリアにも話さないことを誓うと、紫はパチュリーを事態解決の協力者として引き込むように動き始める。

 

 

○事の説明

 

 魔理沙がバグらせたゲームは、すでにゲームとしての世界観から逸脱していた。むしろ、参考資料としていた『隣り合わせの灰と青春』に近く、加えて#1だけでなく#2#3#5などの世界観も少しだけ流入している。パチュリーが見せられた『くんれんじょう』でのステータス画面によると、現在探索活動をしているレミリア・咲夜・美鈴・アリスあたりはほとんど影響がなさそうに見えた。だが、霊夢のステータスはほとんどがバグっていて、魔理沙に至っては画面全てが表示できないアイテムで埋まっていた。

 「やってくれたわ……」とは、ほとほと疲れた顔をした紫の弁である。魔理沙のバグが全てのきっかけで、霊夢に影響が出た理由は未解明。修正方法は現状ないが、今はロム解析からバグを見つけて、直にプログラムを手打ち修正する準備中なのだとか。そのやり方やプログラミングの習得からやる必要があるので時間がかかっているという説明を受けて、パチュリーは困惑する。

 計画を停止するということは、このゲームを停止するということ。つまり、バグを放置してデータを消すことになるので、魔理沙は助からず霊夢はバグったまま放置されることになるのではないか。その可能性がある限りゲームを維持することは大前提で、ゲームを維持するのであれば冒険者はその効果範囲である迷宮~白玉楼付近から出ることはできない。紅魔館に戻ることすら許可できない事態に陥っている。パチュリーはすでに冒険者登録を外しているから戻ることもできるが、しかしもしバグがパチュリーまで及んでいたとしたらどんな影響が出ていたのか想像もつかない。

 『一刻も早い事態の解決を』

 紫とパチュリーの思いは一致した。

 

 

○事の異常化

 

 まずはできることから、ということで魔理沙の持つきのこ魔法に関するアイテムを全て廃棄した。どこにこれだけのものを仕込んでいたんだ、というほど次から次へと出てきたので、面倒になって服ごと穴を掘って地中深くに埋めた。するとバグアイテム表示しかなかったステータス欄が見えるようにはなったが、どうやら霊夢並みのバグり方をしているようだった。ただ、魔法使いとしての能力と盗賊としての能力が発揮できそうなキャラに見えなくもなかった。そして、魔理沙は今、生ける亡霊のような姿になっている。

 

 wizardryの世界に造詣の深い紫は、とても嫌な予感がした。

 

 卓越した魔法使いで、かつ盗賊のような真似をしでかしたキャラに覚えがあったのだ。もし、多くの人がクリアに至らなかったであろう#4の世界観が混ざっていたとしたら。加えて、そのキャラと同じようなバグり方をしている君主ともなれば……

 

 

○事のまとめ

 

 考えがここに至った頃、狂王と化していた霊夢はすでにパーティから姿を消していた。『全力を出せるって、こんな感覚だったのね!』と言って、敵に切り込んだまま帰ってこなかったらしい。場所は5階。隠し通路の奥にあった階段から5階に降りて、すぐの戦闘で消えたとのこと。「なら間に合うかもしれない」と言って、パチュリーは『ウィザードリィのすべて』という本を取り出した。紫が外の世界で仕入れてきた攻略本である。

 この迷宮は#1を元に作られているので、5~8階は立ち入らなくてもクリアできるようになっている。むしろ、ゲーム的には罠とも言える階層で、8階から9階への階段は存在しないのだ。4階にあるエレベーターで9階に降りるのが、製作者が用意した正しい道。

「先回りして9階から探索を進めることを提案するわ」

 

 (窒息による巨人族狩りから、奇跡を使ったグレーターデーモン狩りを駆使することで、レベルを20あたりまで引き上げる)

 

 

○事の結末

 

 10階の奥にいる迷宮の主を倒していた霊夢は、恐ろしく強い狂王を思わせる実力となっていた。しかし、実際の狂王と違うのは装備面。宝箱の開錠が出来ないので、4階を探索していたままだった。対してレミリアたちは、攻略本を駆使して最強クラスの装備を揃えていた。倒しきれるかと思った瞬間、霊夢はまよけを使った転移により逃亡する。

「これじゃきりがない」

 まよけは体力が回復するので、次に会う時は全快した霊夢と戦う必要がある。霊夢の手にまよけがある限り、戦いで倒すことは不可能なのかもしれない。しかし一行は追わざるを得ない。ゲームの性質上、今は必ず1階にいるので転移によって移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢は魔理沙が倒れた因縁の部屋にいた。

「魔理沙は元気になった?」

「回復したとは聞いていない」

「そう……」

 

 薄暗い部屋に、剣戟の音が鳴り響く。次第に押されていく霊夢。

「やっぱり駄目ね、この剣」

「私の剣と打ち合えることがもうおかしいんだけどな」

 

 戦いは終わりを迎えようとしていた。しかしやはり。

「もう駄目ね。次はちょっと装備を考えてみるわ」

「逃がさないよっ」

「間合いはとったから間に合わないわね」

「私は間に合うけどな」

 

 霊夢の後ろに魔理沙がいた。

「お前からまよけを盗めるのは、私だけだ」


 
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