No.897811

始まりの美女

ヒノさん

前に浮かんだやつです

2017-03-19 04:17:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:407   閲覧ユーザー数:405

むかしむかしあるところに

世が生まれ、空が生まれ、星が生まれ、ものが生まれ

そしてすべてが生まれたあとで、一人の美女が目覚めました

目覚めた美女は、何人もの神様に囲まれていました

「おはようございます、あなたの目覚めを心待ちにしておりました」

神様の一人がそう言いました

「あなたはすべてを産みだしました」

もう一人の神様はそう言いました

「あなたのお役目は見とどけることです」

さらにもう一人の神様はそう言いました

何人もの神様は、美女をある部屋につれて行きました

美女はそこで、ある星の一生を見とどけることになりました

見おわったらべつの星、また見おわったらまたべつの星、すべてみおえたらせかいが作りかえられくり返し

そうやっているうちに、美女はある星の中の、自分に似たものたちのことが気になりました

気になって気になって、美女は部屋から飛びだしました

そうしてついたところは、その星の中にあるふかいふかい森の中でした

あたたかいひかり、すずしいかぜ、ざらざらした木、ごつごつした石、目にうつるすべての色

ありとあらゆることをはじめてかんじた美女は、まるであたらしいおもちゃで楽しむ子どものようにはしゃぎ回りました

そうしているうちに夜になり、いちまいしかきていない美女は、さむくなりました

どこかあたたかいばしょをさがし回っていると、おおかみのむれに見つかってしまいました

美女はじぶんのみをまもるために、力をつかおうとしました

その時おおかみのいっぴきが、どこからかとんできた矢にささってたおれました

それを見たおおかみのむれは、いちもくさんににげました

「まったく、こんなところでなにやってんだ」

おおかみがいなくなったあと、美女の前にひとりの男があらわれました

「いくらなんでもよなかにであるくとか、あんたはバカにもほどがある」

美女はそういわれてかっとなり、そのばからはしりさっていきました

それから美女はよく男とであうようになり、そのたびにバカにされ、そのたびにはしりさっていきました

ある時は山の中、ある時は原っぱで、ある時はすなしかないばしょで、なんどもなんどもめぐりあいました

会っているうちに男のことが気になりだして、美女は力をつかって男が今いるおうちに行きました

おうちに来られた男はおどろきましたが、とりあえずむかえ入れました

美女は力をつかってまで男のところに来ましたが、心をひらいたわけではありませんでした

ですが男とせっしている内に、とざされていた心をひらいていきました

こうして美女は男に対して、じぶんがなにものであるかをはなしました「私はすべてを産んだ神様で、この星のいきものが気になってここにきた」と

男はすこしかんがえこみましたが、「じゃあそんなにかわらないな俺もいろんなことが気になっていろんなところをまわってたから」と言いました

美女はそこまで驚いてない男にぎゃくにおどろき、「なんでそんなにおちついてるの?私はほかの神様がうやまったりこわがったりするんだよ?」と聞いてきました

すると男は「それがどーした、俺からすれば、いまのあんたは俺とにていて、そのくせむてっぽうでバカなかわいいおんなのこだよ」と返しました

美女はバカと言われてすこしむすっとしましたが、男になでられてなぜだかふにゃっとしました

おおきくてあたたかい手であたまをなでられて、美女ははじめて笑いました

こうして美女は男のことが好きで好きでたまらなくなり、それからはあまえるようになりました

男も美女に好かれるようになってから、そのえがおにほだされていきました

神様たちがいなくなった美女をさがしてみつけたころには、ふたりのあいだには子どもができていました

それをいちだいじとみた神様たちは、おつげをつかってほかの人たちをつかい、美女と結ばれた男を殺させました

男の死を心から悲しみ、泣きに泣きつづける美女に神様たちは言いました

「悲しまないでください、しょせんにんげんとはこういうものです」

「あなたとしあわせそうにしていたあの男をねたみ、あんなことをしたのです」

「さあもどりましょう、あなたとその子どもには罪はありませんから」

神様たちはつれもどした美女をふたたび部屋にいれ、子どもは神様たちでそだてることにしました

悲しみによって何もかんじなくなった美女はある時、部屋の外から漏れた声を聞いて知りました……男は神様たちが殺させたのだと

美女はあいする男を殺した人間と殺させた神におこり、くるい、そのすべてを力のかぎりほろぼしました

ゆるしをこう人たちも、言いわけをする神たちも、わけへだてなくころしました

さいごのさいごにのこった神様は、美女の子どもと美女が愛した男のたましいをつかい、死ぬそのまえに美女を本にふうじました

こうしてひとつの世がおわり、めぐり、またあたらしい世と空と星とものが生まれました

すべてがうまれたそのあとで、一つの本がそこにありました……はじまりとなっただれか、そのかわりに


 
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