No.895046

艦隊 真・恋姫無双 123話目

いたさん

取り合えず進めます。

2017-02-26 16:23:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:896   閲覧ユーザー数:812

【 不安 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

あれから、不機嫌な桂花を宥めつつ一刀達は、皆の前に元気そうな顔を見せた。 一刀の体調を憂いていた者、心配していた者達が、元気そうな一刀の姿を見付け駆け付けたのだ。 

 

一時は瀕死の重症だと聞いていたのだから、この騒ぎも無理はない。 

 

多くの者が歓声を上げて近付き、その生還を喜んだ。 そして、一刀が無事だったのは、華佗の医術のお陰と口々に褒め讃え感謝の言葉を挙げていた。 

この様子を遠巻きに伺っていた艦娘達も、赤城や加賀を伴い確かな足取りで歩く一刀を確認し、ホッとした表情をしている。  

 

だが、そんな喜びに溢れる皆の前で、逆に浮かぬ顔をしていた一刀は、付き従う加賀と赤城に命じ、華琳達へ自分の話を聞いて貰うよう集めさせた。 

 

─────『報告と謝罪したい事があるから』と。

 

そういう訳で集められた訳だが、その中に意外な顔ぶれがあった。

 

ーー

 

雪蓮「…………へぇ~、あんな大怪我したのに、もう動く事が出来るの? 天の御遣いって、私達以上に頑丈なようねぇ」

 

祭「策殿、そう好戦的な目付きを向けると、冥琳や権殿に叱られますぞ?」

 

雪蓮「ふふ………女はねぇ、強い男を見ると本能的に興味を示す者なのよ。 ほら、祭だって……あの御遣い君に満更じゃないんでしょ?」

 

祭「まあ……不定は致しませぬがの………」

 

ーー

 

華雄「ふん、たかがあれぐらいで倒れるなど………軟弱な奴だ」

 

霞「そうまで言わんくてもいいやぁん。 何にせぇ……全員無事だったんやからな。 それにぃ~華雄っちも敵の攻撃で倒れたんやないか、んん~?」

 

華雄「ふ、ふんっ!!」

 

ーー

 

一刀が集めた者は部屋に居る華琳達ばかりでは無く、部屋外で警護に付いてくれた雪蓮達も呼ばれていたのだ。 

 

だが、雪蓮達には……未だ一刀と過ごした記憶が甦らないまま。 それなのに、彼女達を呼ぶ意味がハッキリと理解できない。

 

ーー

 

桂花「─────ちょっと、『加賀』!」

 

加賀「……………何かしら? まだ、私は忙しいのだけど……」

 

ーー

 

一足先に話を聞いていた桂花は、忙しそうに歩く加賀を掴まえ問い詰める。

 

一刀が加賀達に『皆に報告したいから、全員を集めてくれ』と命じていたのを確かに聞いていた。 

 

最初は、記憶が甦った報告をするのだろうと考えたのだが、呼ばれた者の顔ぶれを確認すれば、雪蓮達も居るのだ。 

 

それでは記憶に関する事では無い事は直ぐに理解できる。

 

では────何か?

 

桂花は前に赤城から聞いた話を思い起こす。 

 

あの時、赤城の頼みを聞き入れ、部屋へ案内した際に得た話は…………

 

★☆★

 

 

『────刺客の襲撃は、提督の想定範囲内だったんです。 勿論、提督の身は絶壁、じゃなくって……あれ? 何ですか、桂花さん……その赤い顔は……』

 

『ア、アンタねぇ! 一刀の胸が絶壁なのは当たり前じゃない!? アイツは男なのよ! お・と・こっ! それとも……な、何なの? 天の国、ううん~! か、かかか、一刀の……その……む、胸が膨らむ………なんて………』

 

『ア、アレ? そ、そぉ~なんですよ! 天の国では、男性でも胸が大きくなる術がありまして、それはもう……バインバインになっちゃうんですっ!』

 

『な、なんて……羨まし……んんっ!? ちょっ、一刀が……私より…………はぁっ!?』

 

ーー

ーー

 

『ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ! だ、だって~桂花さんが私の言葉を信じて、世界に絶望したような表情するものですから………ぷぷっ』

 

『( ̄^ ̄*) ツーン!』

 

『だからぁ…………ちょっとだけ、言い間違えただけじゃないですか? それに勘違いしたの桂花さん何ですよ?』

 

『うるさいっ! い、一応……お、おお、可笑しいとは……思ったのよ!? だけど………赤城! アンタが、変な事、言い出すからっ!!』

 

『だから、鉄壁と絶壁を間違えたのは謝っているんじゃないですか! 《提督の身は鉄壁の護衛で守られている》って言いたかったんです! 左慈さん達が妖術を使用し攻撃を止めるって自信満々に言っていたんですから!」 

 

『そんな紛らわしい言い方してるんじゃないわよっ!!』

 

『いぃ~だ! 桂花さんの怒りん坊ぅ!』

 

ーー

ーー

ーー

 

『そうですね………提督は御存知だったと言うか、提督が考えていている事を試せば、向こうから出撃して来ると言っていたんですよ』

 

『…………向こうから?』 

 

『え、えぇ~と、専門用語で………何て言ったのかな~? 頭に《や》が付いて……や、やや………や、焼豚っ! じゃなくて、焼芋っ!』

 

『ハア~。 アンタねぇ……思い付くのが食べ物ばっかりじゃない。 食べ物以外っていう考えは湧かないの?』

 

『た、食べ物以外………や、やや………藪!? そう、藪なんですっ! 最初の言葉が藪! だから、藪、藪…………え~と───あぁっ、藪医者っ!!』 

 

『─────聞き捨てならないな。 患者を治療する俺の腕が、そんなに不安なのか?』

 

『『 ────えっ!? 』』

 

『ゴッドヴェイドォーの信念たるは《人の上に人を優遇せず 人の下に人を差別せず》! 天上天下是一家の熱き想い、そして……この煮えたぎる血潮と共に存在する卓越した医術! 君達には是非とも理解して貰う必要がある!!』クワッ!

 

『あ、赤城ぃ────アンタ! 藪をつついて蛇を出してどうするのよ!?』

 

『桂花さん───それ! それですよ!! 思い出しましたっ! 藪蛇ですっ!! 提督は藪蛇と────』

 

『今頃、思い出しても遅い─────』

 

『医者としての使命の重さ、そして患者を必ず救うという、この矜恃に懸け! この俺が!! 全力全開で存分に語り尽くしてやろう!!!』

 

『『 キャアアアア──────! 』』

 

 

★☆★

 

 

と、まあ………役に立ったのか立たないのか、よく判らない話だった。

 

加賀に問い詰めようと、思い出したくない記憶を精密に掘り起こせば、そんな膨大な出来事が走馬燈の如く駆け抜け、桂花の身体は怒りに震える。

 

特に、赤城の一言を聞き付けた華佗が現れ、五斗米道(ゴッドヴェイドォー)の医術と既存の医術と違う事を────

 

『声を大に!』 

 

『情熱的に!』 

 

『魂が震える程に!』

 

専門用語を散りばめた熱弁、何回も執拗に繰り返される『ゴッドヴェイドォー!』の絶叫を伴い、聞かされる羽目になったのだ。 

 

ーー

 

桂花「─────っ! 何で赤城と一緒に居ると、こんな目ばっかり遭わないといけないのよっ!! 全く、これはどう考えても……私を疲労困憊にして離反の計を企てる赤城の緻密な策略だわっ!!」

 

加賀「………………赤城さんが? それが……何?」

 

桂花「………くっ! そ、そんな話は……どうでもいいのぉ! 私が聞きたいのは──────!!」

 

ーー

 

桂花の言葉に何の鷹揚もなく答える加賀。 桂花の怒声だけが部屋の中を谺するが、皆が皆……素知らぬ顔で無視をする。 

 

加賀と口論している(ように見える)桂花が面倒……とかではなく、瀕死だった筈の一刀が自分達を呼んでいるというなら、そちらを優先するのが当然だったからだ。 

 

まあ、一隻だけ……意図的に避けた者が居たが、別に明記しなくても聡明な提督諸兄に掛かれば、自ずから答えを得られる事だろう。 

 

だが、加賀をこうして呼び止めた理由は、鬱憤を晴らす為に怒鳴りつける為ではない。 赤城の情報だけでは不十分と感じた桂花は、更に何らかの情報を共有していると思われる加賀へ……こうして尋ねたという経緯である。

 

ーー

 

桂花「どういう事よ! なんで雪蓮や霞達まで集めなきゃいないの!?」

 

加賀「私は提督に命じられて集めただけ。 それ以上も、それ以下の仕事も……今、する気は無いわ。 それでは……失礼」

 

ーー

 

桂花に呼び止められた加賀だが、一刀に命じられたから動いたと簡潔に伝えると、そのまま立ち去る。 

 

流石に赤城と違い、顔や言葉に情報公開への拒絶の意思が宿っていた。 

 

ーー

 

桂花「あぁ、まだ話がぁ…………って、もう! 赤城といい、加賀といい、どうして一刀の周りには変な娘しかいないのよっ!!」

 

赤城「…………人の事、言えると思ってるんですかねぇ………」スタスタ

 

桂花「何よっ!? 品行方正、清廉潔白、方正謹厳の私が……って、今……赤城の声が聞こえた筈だけど、もう、居ないじゃない!! 話掛けるぐらいなら、私にだけでも説明してくれればいいのに………何なのよっ!!」

 

ーー

 

あのプニプニ騒動の後、完全に目が覚めた桂花は、赤城と加賀へ厳しい叱責を浴びせたのは当然ある。

 

また、これを罰する事で終わらせず、貸しと言う事で加賀達に恩を着させたのは、今後の展望を少しでも有利にする為の深謀遠慮でもあった。

 

だが、自分の中に………別の感情がある事に気付く。

 

 

『(私が、寂しいって………思う……なんて……)』

 

 

桂花は、そう自分の感情を冷静に結論付けると、つい先程まで行ったやり取りと今の場面を比較し……軽く溜息を吐く。 

 

ーー

 

『桂花さんのプニプニほっぺが、私達を惑わすのが悪いんですっ!!』

 

『………赤城さんの意見に賛成……』

 

『本人の許可無しで弄くりまくる方が悪いに決まってるでしょうがっ!!』

 

『ぶぅーぶぅー、桂花さん、横暴ぅ~』

 

『あのほっぺは、私の物………他の誰にも譲れないわ』 

 

『アンタ達は反省という言葉の意味さえ知らないの!? それに、私のほっぺは私の物、他の誰の物でも無いわよっ! こんな事で文句を言う前に、この私を弄んだアンタ達が悪いという認識、しっかり自覚なさい!!!』

 

ーー

 

ここまで、馬鹿を言い合う者は…………つい最近まで居ないかったと、ふと気付いたのだ。 

 

あの哀しき前の世では、一刀が居ない寂しさを仕事の忙しさで埋めるしかなかった。 華琳達と集まれば、一刀の話が出ない事は一度もない。 元気にしているのか、何をしているのか……そんな話ばかり。

 

そして、この世界で生を受けて我武者羅に軍略を学び、一刀の話を耳にして急いで華琳の下へ来てみれば………肝心な一刀を知る者は殆ど居なかったのだから。 最後に残り、二人で励ましあった………あの華琳さえも。

 

そして洛陽に来てから、ようやく一刀の事を知る相手が見付かり、それはそれで楽しかったが、それでも心から楽しむ事が出来なかった。 

 

何故なら、世は漢の御代と言っても………何時か崩壊し群雄割拠になる事を全員知っている。 皆が皆、友人として過ごした者ばかりだが、何かの拍子に敵になる可能性も無くはない。 

 

そうなれば、自分の本心を曝け出すのは、自分の弱点を曝け出すのも同様だからだ。 もしかすると……自国を崩壊に導く導火線になるかも知れない。 

 

それ故に、断腸之思で関わりを少なくしたので……言葉を交わす機会も少なかった。

 

『(赤城や加賀は、一刀だけに従う忠実な臣下。 他の国とは関わりは、ほぼ無い者達だったから、私は彼女達とのやり取りが少なからず楽しかった。 誠意として……真名まで預ける程まで。 だけど……あの二人には……)』

 

問い掛ければ、加賀からの素知らぬ態度。

 

関わりたくない時は頻繁に接する癖に、こういう時は近寄らない赤城。

 

二人との間に出来た疎外感。

 

何が起こるのか判らないけど、軍師の勘が警告を鳴らす。

 

『(私はアンタ達を仲間だって思って……真名を預けたのに、アンタ達は私を信じてくれないの…………?)』

 

そう言って………最後に小さく呟いた。

 

付近には、誰も居ない事を確認しての……呟きだった。

 

 

◆◇◆

 

【 謝罪 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

一刀の呼掛けに応えてくれた者達を、加賀が有無を言わさず二つに分ける。

 

内訳は『艦娘』と『恋姫』───それぞれの心情は一旦さておき、義務的に分けた後で、一刀の指示を仰ぐ。 確認した一刀は、加賀を自分の横へ付かせ……艦娘側に移動し恋姫側へと対面する。

 

その行動を不思議に思いつつ、一刀の顔を恋姫側が見れば………緊張で強張る様子が窺えた。 真面目で堅物との認識が強い男が、こんな姿を見せるとは余程重大な事を語るのだろうと、華琳達は固唾を呑んで見守る。

 

ーー

 

一刀「君達には、俺から謝罪しなけれはならない。 何故なら、俺は、俺達は………敵対する輩からの襲撃を………知っていた。 いや、君達を利用して……敵を炙り出そうと利用していたんだ。 申し訳ない!」

 

「「「 ───────!? 」」」

 

ーー

 

唖然とする華琳達だが、そこは歴戦の将達。 

 

直ぐに表情を戻して一刀の言葉を吟味しつつ、次の言葉を待った。

 

ーー

 

一刀「俺は……白波賊の官軍襲撃に……違和感を感じたんだ。 これは、俺の軍師として加わってくれている『臥龍鳳雛』、そして仲間の『川内』と『霧島』からも同意見を貰っている」 

 

ー─

 

詠「朱里と雛里って………今、アンタの所に居るの!?」

 

月「…………そうですか。 道理で二人が此方に来ない筈です。 もし、お二人が此方へ付いて貰えないかと、水鏡女学院に使いを送っていたのですが……」

 

詠「ああ~無駄骨だったみたいね……でも、案外これで良かったじゃない? 軍師多くして兵、指示に翻弄す……なんて事にもなりかねないもの」

 

月「……………………うらやましいなぁ……」

 

ーー

 

冥琳「ほう、霧島殿か……」

 

雪蓮「………冥琳、知ってるの?」

 

冥琳「この前、報告した筈だぞ? 蓮華様が世話になった金剛四姉妹の御一人だ」

 

雪蓮「あぁっ! 冥琳が変な言葉を練習し始めた将の───な、何よ!? 本当にそうじゃ……い、痛い痛い痛いぃ! 耳、や、やめ、やめぇぇぇっ!!」

 

ーー

 

華琳「川内………昨夜の戦いで武勲第一の猛将ね。 春蘭と違って頭も回る様子だし、厚遇するから私の下に来てくれないかしら………」

 

春蘭「か、華琳様! 北郷配下の川内なる将より、是非、この夏侯元譲をっっ!!」

 

華琳「冗談よ。 春蘭が私に忠義を尽くしてくれるように、川内もまた……かず……うぅん、北郷へ命懸けで期待に応える志を持つ将。 そうでなければ、あんな大功……立てようとも立てられないもの」

 

秋蘭「………嫉妬する姉者。 くうっ、今日も可愛いな………」

 

ーー

 

一部の者から声が上がるが、一刀は咳払いを行いつつ話の続きを始める。 

 

後ろの艦娘達は黙って一刀の行動に従い、咳(しわぶき)一つせず立ち並んでいるので、華琳達も自ずから口を閉じ静かに聞くしかなかった。

 

ーー

 

一刀「夜戦とは奇襲の一手であり、普通の戦より何倍も手間が掛かる。 場所の特定、兵の配置、武器の選択………そして何より……相手の出現時間だ」

 

冥琳「…………北郷の言いたい事は判る。 準備までは仕掛ける側で調節できるが、肝心な相手『兵力』『装備』『将の性格』と『出陣する日時』の情報が欲しい。 そうなると………相手の内部を知る者が必要だ」

 

一刀「うん………官軍が何度も殲滅された理由は、これが原因だと思ったんだ。 洛陽城内において………内通者が居る。 だから、俺は────」

 

ねね「まさか………内通者を捜す? はっ! 何を世迷言を………」

 

詠「一言で簡単に言ってくれるけど、この城の中で働く者が高位から下位の者まで、どれだけ居ると思っているの? その人数は数百以上、しかも日替わりで代わる者までいるのよ? そんなの捜せる訳ないじゃない!」

 

ーー

 

一刀の話を先読みした軍師の二人が、それは無理だと断言する。 

 

確かに城内の人数もあるが、問題は他にもある。 

 

その一つが……普通の内通者は、必ず複数人で行動するものあり、連絡手段も多岐に渡る事が上がるだろう。

 

これは、一つが潰れても別ルートで情報を届ける防止策であり、万が一偽情報を流された場合、複数の情報で精査して正しいか確認するためのチェック機能として付属されているからである。

 

だから、内通者を捜し出すと聞いて、ねねと詠は呆れたのだ。

 

しかし、一刀は────

 

ーー

 

一刀「内通者は判ったと思うよ。 俺の仲間に命じて、動きを探らせていたんだ。 その証拠に予想通り、相手が……俺を襲撃して来たんだから」

 

詠「─────はっ!?」

 

ねね「な、何ですとぉっ!?」

 

一刀「だけど、その為に………皆に迷惑を掛けてしまったんだ。 それが、この報告と謝罪なんだよ」

 

ーー

 

そう言って一刀は、再び頭を下げるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 新たな艦娘? の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

この言葉に疑問を投げ掛けた将が一人。

 

元三国の中で一番諜報に長じていた孫呉の知将、周公瑾である。 

 

彼女も一刀と同じ疑問を持ち、短い滞在の内に何度も思春や明命を動かし、孫呉の……いや、皆の為に情報を入手すべく懸命に働いていたからだ。

 

ーー 

 

冥琳「北郷、それは確実な情報か? 私も思春や明命に命じ調べれきれなかった内通者だぞ。 それをどうやって………」

 

一刀「そうだな、それなら本人に直接聞いてみよう。 呼び出せば、直ぐに来てくれる手筈になっている。 少しだけだが……待って貰えないか?」

 

冥琳「……………ここに……か……?」

 

ーー

 

周公瑾こと冥琳は、まるで出前を呼ぶようかの如く簡単に言う一刀へ 

疑問を抱く。 

 

何故ならば、ここは洛陽、王朝の中心部。 皇帝はもとより極官が数多(あまた)と暮らす政治の中枢の場。 その守備、警護は大陸一厳格と言っていいほど、侵入が困難な金城鉄壁の場所である。

 

そんな場所で情報収集がどれだけ困難か、命じて調査させた冥琳自身が身に染みているからだ。

 

★☆★ 

 

因みに、北方棲姫が港湾棲姫を連れて来れたのは、皇帝から城内を歩く許可を認められているから。 自分達を十常侍から助けてくれた恩人であり、家族として厚遇しているのであるから、当然の結果ではある。 

 

だが、こうも簡単に通行が許可されたのは、他にもある。

 

片言の言葉を語りつつ気軽に挨拶を交わす北方棲姫は人気者。 そんな北方棲姫が『ホッポノ……オ姉チャン……ナノ……』と言われば、どんな厳めしい近衛兵でも笑顔で通さずにはいられない。 

 

そして、その後ろに付き従う港湾棲姫が、ペコペコと御辞儀を繰り返し、しかも御辞儀をする度に、その兇悪な胸部装甲が上下に揺れ動く! それを注視した九割方の兵が、前屈みになり仕事にならずサッサッと通すしかない。

 

これの繰り返しで、一刀の居る部屋まで来てしまった二人である。

 

後に胸部装甲に自信がない少女達の集まる集団が、この洛陽での話を聞き、希望と絶望を同時に噛み締める事になった。

 

★☆★

 

だが、そんな冥琳の視線にも意に介さず、一刀は付近に居る者を呼ぶように軽く声を上げた。 

 

ーー

 

一刀「おーい、青葉っ!!」」

 

青葉「…………………あっ、一刀司令官! 呼ばれましたかぁ~?」

 

ーー

 

そんな冥琳の心配を余所に、呑気な声を上げて部屋の隅からセーラー服姿の少女が飛び出し、一刀の傍に控える。 

 

そして、対面する恋姫達に気付くと、簡単に名乗りを上げ敬礼したのち挨拶を始めた。 別に発光信号を使って『ワレアオバ ワレアオバ』とやった訳でなく、いつもの簡単な挨拶である。

 

ーー

 

青葉「あっ……これは、これはっ! 後に有名になられる御歴々が御揃いで………どもっ! 恐縮です! 青葉ですぅ!」

 

冥琳「─────なっ!?」

 

「「「 ──────っ!? 」」」

 

ーー

 

いとも簡単に現れた青葉を見て、冥琳は元より今いる将達が驚愕の表情で見詰める。 名を呼ばれ現れた者は、今まで出会った者ではない。 

 

此処に現れたと言うことは、あれだけ厳重な城内を好き勝手に動ける力があると見ていいだろう。 

 

それは、自分の配下である思春や明命に迫る実力がある事を、雄弁に物語っているのだ。

 

ーー

 

一刀「お、おいっ! そんな簡単な挨拶じゃなくて────」

 

冥琳「………なに、構わん。 これは……お初にお目に掛ける、私は周公瑾という孫呉に仕える将の一人だ。 貴殿が北郷配下で諜報に関わる将なのか?」

 

ーー

 

その様子を見て慌てるのは、彼女を呼び寄せた一刀本人だが、冥琳自身は気にも留めず大丈夫だと一刀を押し止め、青葉に接した。

 

登場と共に示した実力の一片、自分達を『後の英雄』と断言しつつ天真爛漫に接する態度。 これが他の者なら警戒しそうなところだが、前に出会った英国淑女と話した経験もあり、問題にするつもりは全くない。

 

それよりも、彼女が持っている情報の内容が気に掛かる。 だから、冥琳は普通に青葉へ話し掛けたのだ。

 

ーー

 

青葉「孫……呉? あ、あぁ……どーも恐縮です! 『青葉型 1番艦 重巡洋艦 青葉』と言います。 諜報活動というより取材活動ですね。 活きのいいネタを捜して、東奔西走あっちこっちをチェックしてるんですよぉ」

 

冥琳「………取材活動? 活きのいい?」

 

青葉「はいっ! 例えば周公瑾さんって………あの『美周嬢』ですよね?」

 

冥琳「………ん? まあ……そう言われる事も……」 

 

青葉「わあーっ! そんな有名な人に出会えるなんて青葉、感激ですぅ! 記念に一枚、いただきますねぇ!」

 

冥琳「────なっ!?」

 

ーー

 

冥琳と挨拶をそこそこで交わすと、何時ものようにカメラを取り出し、冥琳を写そうとした。 

 

しかし、忘れてはいけない。 

 

ここは────遥か昔の大陸の世界。 

 

初見の相手の前へ何かを突き出せば、敵対行為と見なされ攻撃される可能性が高い。 現に雪蓮や祭が顔色を変えて、動こうとした。

 

ーー

 

雪蓮「冥琳───っ!?」

 

祭「い、いつの間に!!」

 

ーー

 

しかし、冥琳も間近に居た雪蓮達も……青葉の動作が余りにスムーズで、予備動作さえも気付かず、青葉を遮る事に足踏みしてしまう。

 

別に青葉は攻撃する為ではなく、無害な自己満足とちょっとした商業価値を目の前にしたため、何時ものように行うつもりだった。 だから、当然………殺気など出ていなかった為に、気付くのが遅れたのだ。 

 

ーー

 

一刀「────そこまでぇ!!」

 

青葉「きゃあっ!?」

 

冥琳「─────っ!」

 

ーー

 

だが、二人の傍に居た一刀が、血相を変えて横から手を伸ばし、青葉からカメラを奪い取る。 これは、礼儀の違いによる軋轢を危惧した一刀が、傍で警戒をしていたので阻止出来たのだ。 

 

冥琳も青葉も一時だが、その行動により思考と動きが止まった。

 

ーー 

 

青葉「あっ!? 司令官、青葉のカメラっ! 返して下さいよぉ!!」

 

一刀「馬鹿っ! そんな文明の利器を急に見せる奴があるかっ! 利敵行為で反撃されても、文句なんか言えない事をしたんだぞ! 早く謝れっ!!」 

 

青葉「へっ? え、えぇっと………あぁーっ! す、すいませんっ! 此処じゃタブーでしたねぇ! ついつい舞い上がり過ぎちゃいましたぁ~!!」

 

ーー

 

青葉として興味の対象を見つければ、呼吸を行うようなものだが、此処は青葉が居た世界では無い。 

 

だから、何時ものように有名人物という事で、冥琳にカメラを向けたのだが、一刀から怒鳴られ謝罪を命じられる。 

 

カメラという道具を知る者が居ない場所で、いつものに相手へ向ければ、危害を加えると勘違いされても無理はない。 冥琳にしては見知らぬ人物より理解できない物を向けられれば、大変失礼であるからだ。

 

その事を改めて指摘され、青ざめる冥琳にペコペコと謝罪する青葉。 

 

青葉が謝罪するのを見てから、一刀も横から口添えして頭を下げる。

 

ーー

 

一刀「…………ごめん、冥琳。 俺の指導不足だ。 だが、青葉の技術は本当に凄い物なんだ。 少し浮わついた所はあるが────」

 

冥琳「い、いや……大丈夫だ。 確かに言葉の意味は……まあ、よく分からないが……この進取果敢な性質、そして………あの『かめら』か。 ふふ……諜報に優れた将なのは、よく理解できたよ」

 

一刀「………しかし……」

 

冥琳「『英雄欺人』……優れた人物は人を欺くというが、なるほど私すらこうも驚かす御仁。 金剛殿といい、鳳翔殿といい、そこの青葉殿といい、北郷の下には優秀な人材が数多く集まっている。 それでいいじゃないか……」

 

一刀「…………ありがとう……冥琳」

 

ーー

 

冥琳は一刀の謝罪に答えた後で微笑んで、『気にしていない』と言外にも暗示させて見せる。 これは言葉だけでは安心しないだろうという、冥琳の心遣いでもあるが、実は機嫌が良かったからでもあった。

 

それは、前の世界で真桜が作成した『かめら』の元となる、実物が存在する事を知ったのだ。 実物があるという事は、一刀の見聞で造られた『かめら』を、実物に近付けさせ性能を向上できる事を意味する。

 

冥琳ならずとも、かめらの特性を知る者ならば、諜報に役立つ事は間違いないと太鼓判を押すだろう。 そんな機会をもたらした者を、邪険に出来るわけが無い。 

 

だから、そんな喜びも冥琳の心証を良くする結果となったのだが、一刀としては、そこまでは理解できない。 ただ、そんな仕種も含まれて漸く安堵できた一刀は、冥琳に礼を述べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

ちょっとした思い付きです。

 

 

【 段ボール……の件 】

 

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

《 桂花と赤城の会話より 》

 

 

 

『え、えぇ~と、専門用語で………何て言ったのかな~? 頭に《や》が付いて……や、やや………や、焼豚っ! じゃなくて、焼芋っ!』

 

『ハア~。 アンタねぇ……思い付くのが食べ物ばっかりじゃない。 食べ物以外っていう考えは湧かないの?』

 

『た、食べ物以外………や、やや………藪!? そう、藪なんですっ! 最初の言葉が藪! だから、藪、藪…………え~と───あぁっ、藪蛇っ!!』 

 

『─────待たせたな!』

 

『『 ────えっ!? 』』

 

『俺には……伝えなければいけない事がある! 俺達が信じたもの、大切だと思えることだ。 正しいかどうかではない、正しいと信じる……その想いこそが未来を創る事になる!』

 

『あ、赤城ぃ────アンタが藪をつついて蛇を出してどうするのよ!?』

 

『桂花さん───それ! それですよ!! 思い出しましたっ! スネークですっ!! 提督は藪蛇………スネークと────』

 

『今頃、思い出しても遅い─────』

 

『…………いいか? これがダンボール箱だ。 これをいかに使いこなすかが、任務の成否を決定すると言っても過言ではない! 段ボール箱に命を救われた工作員は、古来より数知れないんだ! 君達も段ボール箱を被り慣れろ!!』

 

『『 キャアアアア──────! 』』

 

 


 
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