No.892127

レイドリフト・ドラゴンメイド 第26話 今しか見えない物

リューガさん

 やったぜ!
 選ばれし1匹と30人、全員登場!

 これを見た人は2ちゃんに書き込んでください!

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2017-02-06 19:43:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:470   閲覧ユーザー数:470

 オルバイファスの後部傾斜版を駆け下りる一団。

 黒い雨合羽が幾つもひらめいた。

 

 先頭を行く一人は、その上にチェ連陸軍の革ベストを重ね着している。

 小銃の弾倉や手榴弾を満載した。

 ただし、やけにきつそうに張り出していた。

 

 手にしたのはチェ連製のボルボロス自動小銃。その銃身を短く切り詰めた、カービンタイプ。肩当は無かった。

 そして手は、金属の間接やモーターがむき出しの義手だ。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

『文化祭実行委員会――』

 オルバイファスの紹介が、いつもどうり始まろうとした。

 だが。

 

『待ってください! 』

 通信越しに、サフラに止められた。

『急襲チームについては、私たちに説明……いえ、復習のために話させてください』

 

 ほほう、とオルバイファスが興味深そうにつぶやいた。

 他の面々も、驚いて目を見張る。

 

『いいだろう。では彼は? 』

 オルバイファスはそう言ったが、先頭を走っていた男は、影も形も見えなくなっていた。

 

 新たなウインドウが開く。

 その中に彼はいた。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 先頭を行くサイボーグの顔は、人間の形をしていた。

 後でまとめられた、脇下まで届く黒髪。

 ほっそりした面持ちに、大きな目。

 かわいい。という感想を抱く顔立ち。

 

 その首元から、不自然な長い影が飛びでている。

 先端に3本の指を持つ、機械でできた長いアームだ。

 関節は布で覆われている。

 その装甲は、刀のように鋭かった。

 

 ウインドウの中で、サイボーグは前方の敵めがけて駆けだした。

 駈けだした、と言っても一歩一歩の帆幅が大きい。

 ジャンプを繰り返している感じで、その動きは水中を歩く姿にそっくりだ。

 見れば、周りの人間も、炎も瓦礫も、微動さえしていない。

 彼は、実際には目にもとまらぬ高速で走っている。

 その際の空気抵抗は、彼にとっては水中を歩いているのと変わらない。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 そんな彼を、オルバイファスのセンサーだけが追っている。

 

『文化祭実行委員長、入船 有希』

 サフラは、よどみなく答えた。

『能力は、時間の流れを変えること。

 自らの時間を加速すれば、高速移動。

 さらに周囲の時間を止めれば、相手の動きを止めることもできる。

 また、物理法則を捻じ曲げる事にもつながるため、異能力を無効化できる』

 

 オルバイファスが採点する。

『よし。正解だ。次はプロフィールも言ってみろ』

 ウインドウが消え、ライブ映像だけになった。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 道に並ぶ消火栓が次々に叩き斬られた。

 水が噴水の様に吹き出す。

 人間が見ただけでは、何の前触れもないように見えるが、誰が原因かは明らかだ。

 あの、刃の装甲を持つ背中のアーム。

 激しい水流に、押し流される防衛隊員が続出した。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

『入船君は、その能力の便利さのため、幼いころ人身売買組織に誘拐されています』

 サフラの説明は続く。

『そして犯罪の凶器として、サイボーグに改造されました』

 

 映像の中で、自国民が混乱に陥っている。

 その光景を見て、感情がうずかないわけではない。

 握り締めた手。顔を伝う汗がそれを訴える。

『今はドラゴンメイドと同じサイボーグボディを使っていますが、以前は人間とも思えない姿でした』

 

 パチパチパチ

 

 ドラゴンメイドが、満足そうに拍手を送った。

「一つ補足するとね、彼のボディは実験機である私やワイバーンの物と違って、エネルギーを生み出す人工内臓は旧式なの。ワイバーン君、説明の方を」

「ええっ? 今は仕事中だよ!? 」

 ワイバーンはドラゴンメイドを深く愛しているが、仕事自体は真面目だ。

 彼が見ているモニターでは、未だ続くフセン市の戦いが。

 

 ドラゴンメイドのモニターには、市役所だけでなく付近の大型施設の様子を集中して映している。

 チェ連で大型施設と言えば、人工の小山のようなシェルターか、広大な地下施設を意味する。

 臨時病院などの複合施設として使われていた。

 一応、それを見るドラゴンメイドの視線は微動さえしていない。

 それが彼女に与えられた機能だからだ。

 だが、その態度はどこまでも上機嫌だ。

 

 それを見たチェ連人達の心に、ネコの習性の一つが思い出された。

 ネコが人間をじっと見つめる時、考えていることは。(こいつには勝てる)

 熱い怒りが沸き起こった。

 だが同時に、それを消し去る冷たさも沸き起こった。

 ドラゴンメイド自身は、この星に希望を生みだせるとは考えていない。そう悟った。

 希望を生みだせる者達は、日本へ送り届ける。

 その後は、目先の敵を倒せばそれでいい。

 そう考えているに違いない。

 

『よせ。ドラゴンメイド』

 止めたのはオルバイファスだ。

『説明は我が行う。お前たちは、自分の仕事をせんか! 』

 

 チェ連人達は思った。

 この機械巨人の説明も意味不明だ。

 今も戦いの最中なのに、なぜそれに集中しないのか。

 そんなものは並列処理で、片手間でいいと思っているのか。

 それとも、本当にチェ連人に、この戦場の事を知ってもらいたいと思っているのか?

 

 そんな士官候補生たちの心を知っているのか知らないのか、オルバイファスの説明は続く。

『……確かに、入船のボディは量産品で、人工内臓はすべて機械式なのだ。

 基本構造こそ同じだが、ドラゴンメイドのような魔法や、ワイバーンの自己進化機能による強化が加えられていない』

 

 再び現れる、時間を操って加速する有希の映像。

 その姿が一番大きくなったところで一時停止した。

『服の内側に、肉体ではない分厚い物があるのがわかるか。

 ボディに増設された、大容量のリチウムイオンバッテリーだ。

 背中に入っていったオプションパーツも、試作機のようなジェットパックではなく、最も消費電力の少ないサブアームだ』

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 再びライブ映像。

 陣地を崩した防衛隊へ、カマキリ型異星人、カーマが踏み込んだ。

 二丁のサブマシンガンが火を吹き、車の燃料タンクを打ち抜く。

 キノコ型の炎がまいあがった。

 カーマはそのまま陣地の上を突っ切り、時々消火栓を蹴ってへし折りながら、他の敵を探す。

 

 後には、青鬼の様な異星人、ディミーチが突っ込む。

 ハルマードが電柱を次々に倒し、大通りを分断した。

 

『逃げるな! 戦え! 』

 それでも攻撃は弱まらない。

 防衛隊は、オルバイファスの後ろに回り込み、建物に潜んでいた。

 路地裏から、燃え残った家の窓から、銃撃を再開した。

 大きめの光はロケット砲だろう。

 

 だがそこで、紫電が空間を満たし、弾道を阻んだ。

 黒い肌の少年が、右手から放った。

 髪は茶色がかった黒。

 それを肩まで伸ばし、すべて細く何本も編みあげた、見事なドレットヘア。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

『し、新聞委員長、アラン・オーキッド』

 次に言い当てたのは、ワシリーだ。

 

 アランの手に、小さく金色に輝く物がある。

 何かを握っている。

 それは、チェ連ではあるはずのない物だった。

 だが、それをワシリーは、本人から聞いていた。

『手に持っているのは、メイメイが貸した武器のひとつで、ヴァジュラという』

 サイズ自体は小さい。

 手一つで握る柄があり、その上下に3本づつ、鋭い槍が突きでている。

 槍の間に、高熱の何かが浮いている。

 映像に注意書きがあった。{高圧電流 注意}

『能力は電撃。しかもヴァジュラの力でコントロールが増している』

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 防衛隊はあきらめない。

 雨あられと銃撃してくる。

 隠れた場所から、じりじり近づきながら撃つ者もいる。

 映像の中で、彼らの必死の表情がはっきりわかった。

 

 アランは、その真正面に飛び込んだ。

 そして猛然とヴァジュラを振りかざす。

 槍からほとばしる紫電が、満ちる空間を広げた。

 

 電撃から放たれた磁力が、迫りくる弾丸やロケット砲、金属物を完全にからめ捕り、空中に静止させた。

 手にしっかり握られていたはずの銃も、奪い去る。

 

 電撃は、今度は防衛隊そのものにふるわれた。

 そのたびに、彼らはまとめて崩れ落ちる。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

『うわあ! やられる! 』

 マイルドの車内で、ワシリーが悲壮な声でさけんだ。

『安心しろ。気絶させているだけだ』

 オルバイファスは、そう言い切った。

 だが、ワシリーは食い下がる。

 

『そんな事! わかるもんか! 』

 もう、オルバイファスの無数の砲弾も関係なかった。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 枝分かれしてのたうつ電撃が、不意にまっすぐ物陰に伸びた。

 レーザーは、通った空気をイオン化する。

 すると、本来電気を塔さない空気に、通りやすい道を作る。

 

 レーザー銃は電撃を受けて爆発、熱で溶けてしまった。

 そして、磁力に引かれて飛んでいく。

 だが、その持ち主も、共に飛んでいく。

 彼は銃を奪われないよう、銃を体にぶら下げるベルトを腕に巻きつけていたのだ。

 

『ああっ! 』

 それを見て、真っ先に驚いたのはアランだ。

『ビーチャムさん! あの人を捕まえて! 』

 アランがたのんだのは、もう一方の前線を広げる、白い巨人。

 2年生であるが30代の男。ティモテオス・J・ビーチャムは、すぐにアランの元に駆け付けた。

『引き寄せます! 』

 電撃がアランの手前で収縮する。

 その中に、ティモシーは無然と飛び込んだ。

 そして突き抜けた時、その手にはレーザー銃の男が握られていた。

 あっけにとられた顔でティモシーを見ている。

 銃のベルトは、引きちぎられてもうない。

『よかった。息はある』

 

 アランはティモシーの言葉を聞くと、かざしたヴァジュラの雷を、今度は川に向けて振り下ろした。

 それにつられて銃や弾は、すべて川へ落下。

 水中で爆発したロケット弾が、巨大な水柱を立ちのぼらせた。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

「ワシリー、思い出したかい? 」

 カーリタースがおずおずと、しかし彼を信じて言った。

「自分たちの事を知ってほしいと、最初に僕たちに話しかけてきたのはアランなんだよ」

 

『アラン……』

 ヘルメット状の画面に透けて見える顔は、もう怯えていなかった。ただ、悲しげだった。

 

「説明、するんだろ? 」

 カーリタースにせかされた。

 

『ああ。アラン・オーキッドが生まれたのは、アメリカ合衆国の南部。人種差別の激しい田舎町だった』

 ワシリーは思い出す。

『話はそれるが、異能力が後天的に発生する場合、その原因となるのは本人の強い意思による。猛烈な欲望が多い。

 アランの故郷では、黒い肌の人間は白い肌の人間から、知性の低い人種だと決めつけられていた。

 差別する方からしたら文明の進歩差がその根拠らしいが、そんな物は広い海で隔てられていた、何百年も前だから成立した差にすぎない。

 移動や情報交換が激しくなれば根拠のない違いなる……はずだった』

 

 そうだ。それは士官候補生たちもそうであるように。

 

『アランが受けた差別は様々だが、直接能力に結び付いたのは、白い肌の女の子にラブレターを送った一軒だったそうだ。

 その女の子、クラスの人気者だった。

 でも、どこで知ったのか、白い肌のクラスメートに襲われた。

 4人がかりで殴られて、蹴られて。

 その暴行の最中に能力に覚醒した。

 最初の4人は、全身やけどで病院送りとなった。

 アランは、それで調子に乗ってしまった。

 彼はこれまでの仕返しに暴れようと、近くの駅へと向かった。

 その街で一番人が集まるところだからな。

 だがそこで、偶然あるものを目にする。

 白い肌のご夫人が、同じ白い肌の男を罵っている光景だった。

 その男は、顔に大きな傷があった。

 ご婦人はその顔が気に食わなかった。なぜ家にこもっていないのかと文句を言った。

 それを見て、アランはむなしさを感じた。

 ほんのわずかな違いにさえ、気に食わない人はいる。

 そんなやつに時間を使うのが、どれほどバカバカしいか、思い知ったそうだ。

 彼は、能力のことを親に話した。

 そして誰のそしりも受けないような、立派な人間になろうと決意した。

 だからと言って日本まで来るのは、彼も、彼の家族にとっても、大変な決断だったろう』

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 ライブ映像ではティモシーは、動かなくなったバスに組みついていた。

 バスと言っても、周りには鉄板が、窓には鉄の格子が溶接されている。

 前面には、ビルの柱に使われるH鋼材が槍ぶすまのように並び、バンパー代わりに太いゴムタイヤが鎖で縛りつけてあった。

 ティモシーは、その窓を覆った格子を引きちぎり、ガラスを割ると、中で気絶している運転手を引きずり出した。

 さらに奥の窓をのぞいて無人なのを確かめると、やおらそのバスを持ち上げた。

 全長10メートル強のバスが、その重さでしなった。もう車としては使えないだろう。

 

 その横を、畳大の燃える板が飛んで行った。

 文字道理、屋根をさらう暴風。

 その風を利用し、ちぎれかかった翼に受けて、地中竜の一体が突貫を始めた。

 大砲のような足音を響かせ、家々をなぎ倒して向かってくる。

 

 ティモシーが、負けないほどの足音を響かせ、地中竜に向かう。

 振りかざした装甲バスは、その加速を受け、投げ槍のように飛んで行った!

 巨大な鉄の塊が、粉々になる音。燃料が一瞬で炎に変わる音が響き、地中竜を押し倒した。

 勢いは止まらない。後ろの住宅地も一直線にえぐりながら、銀色の鱗をすすで汚し、転がっていく。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

『次は、俺の番だな。ティモテオス・J・ビーチャム。あだ名ティモシー』

 ウルジンが始める。

『能力は、全身の細胞を活性化させることによる、巨人化。

 彼が生まれ育ったのは、平行世界の地球型、スイッチア型惑星だ。

 そこでは、惑星全土を滅ぼす戦争が巻き起こっていた。

 彼と彼の家族はかろうじてシェルターに逃れたが、そこにわずかな割れ目があったのだ。

 そこから有害な化学物質が流れ込んできた。

 シェルターに逃げ込んだことは、かえって逃げ場を捨てたようなものだった。

 そんな環境から彼を救ったのは、生きたいという願いが呼び込んだ異能力だ。

 あの巨人の姿になると、高圧や高温、低温、宇宙空間の真空や放射線にも耐えられる。

 だがその結果、たった一人で22年間生き続けることになった。

 今年で33歳になる。

 最近になって、ようやく人とふれあい方がわかってきたと言っていたな』

 

 残る急襲チームはテレジ・イワノフただ一人。

 カーリタースかシエロが説明しなければならない。

 2人の目がテレジを確認した。

 ところが、2人の視線はその後で奇妙な一致を見せた。

 遠い空に移ったのだ。

 友達と、自国民の戦いを見るのは辛すぎる。

 そう思ってのことだったのだが……。

「あれ。なんだ、あれ」

 カーリタースは、そう言って指差した。

 だが示した物を、他の者は分かってやれなかった。

 チェ連人達は、頭の回りに表示された立体映像を見ている。

 それを外から見れば、ヘルメットをかぶっているようだ。

 

「一人一人見ている映像が違うから、その外を指さしても何もわからない」

 シエロに言われ、悟ったカーリタースは言い直す。

『山脈と並行して伸びる平原。外洋がある方向』

 そこを見ていると、全身が震えてくる。それを、自分をなだめていく。

『今は、無数の宇宙戦艦が並んでいる。

 その向こうに見える、あれ』

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 宇宙戦艦は、どれも巨大だ。

 全長1000メートル。高さ300メートルなどざらにある。

 それが何百隻と並んでいるのだ。

 山脈と呼ぶにふさわしい。

 

 その向こうにある、あれは、金色に輝いていた。

 どれだけ遠くにあるのかわからない。

 もしかすると、外洋から立ち上がっているのかもしれない。

 どれだけの幅があるのか、高さもわからない。

 どちらの端もあまりに遠すぎて、かすんでいる。

 ただ、今火を巻き上げる暴風は、そこから来ている。

 金色の何かの近くで巻き上がる埃のような物。

 それは、巻き上げられた巨大な岩や、へし折られた森の木だった。

 

 もし、新しい火山が生まれ、一斉に噴火した。と言われても、信じたかもしれない。

 舞い散る大木が、燃えている。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

『あれか。あれは天上人だ』

 オルバイファスが、不愉快そうに言った。

『この星では大陸が一つしかない分、海も広い。

 そのため、大量の水蒸気が巨大な台風を発生させる。

 天上人は、その台風に自らの体を混ぜ、コントロールするすべを得たのだ。

 彼らの体はガスだ。それが水分に溶け込まぬよう、バリアを張ってな』

 

「台風警報は!? 出ていないのですか!? 」

 カーリタースが気付いた。

「長距離レーダー35号は?どうなったのですか!? 」

 恐ろしいことがわかる。そのことを確信したような声だった。

 それは、正しかった。

『逃げた』

 オルバイファスはそれだけ言うと、ノーチアサンが撮影した映像を見せた。

 フセン市の最寄りの山頂にある、4階建てのビルのまわりには、1台も車がなかった。

 

 シエロの目から、涙が零れ落ちた。

 カーリタースも同じように、膝に大きなしみを作る。

 

 モニター越しの仲間も、涙で滲ませながら見守る事しかできない。

 シエロはそんな自分が情けなくなり、逃げ出したくなった。

 だが、どこを見ても映像、映像、映像。

 そして鍛えられた彼の目は、ライブ映像の変化を見逃さない。

「あ、あれは何だ? 」

 シエロが指摘した物。

 それは、宇宙戦艦の並びだ。

 そこのエネルギー反応が棒グラフとして跳ね上がった。

 反応は増え続ける。

 突然、天上人に向かっていくつもの光が放たれた!

「ほ、砲撃だ! 」

 カーリタースが叫んだ。

「あ、あれもボルケーナ……様の力なんですか? 」

 

 オルバイファスが答える。

『そう、そのとうりだ。

 ボルケーナは存在するだけで、その周囲の滅びの概念を破壊する。

 銃を撃てば弾が外れる。弾詰まりを起こす。又は銃が壊れる。

 偶然としか思えない現象が重なり、滅びが消えてしまうわけだ』

 

「と、いう事は……」

 その説明が、受け継がれた。

 カーリタースだ。

「今も、神獣ボルケーナの能力で偶然としか思えない現象が重なり、宇宙戦艦が再び稼働した。

 そして付近の滅びが起こらない範囲にのみ、攻撃やバリアが起動する」

 天上人の前に、色とりどりの壁が立ち上がっていた。

 そこで金色の光が、止まる。

「そう……ですよね……? オルバイファス様」

 だが、その声の響きは、まるですすり泣くよう。

 自分を納得させ、安心させるために言ったようだ。

 

『うむ、良い説明だ』

 だが、オルバイファスはそれをほめつつも、容赦しない。

『ただし、それほど都合のいいものではない。建物の崩れるタイミングを見てみろ』

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 地域防衛隊員の中に、火炎放射器を持つ物がいる。

 消火栓が破壊されていない地域では、その炎が新しい家も瓦礫となった家も次々に焼いていく。

 だがタイミングに気を付けてみると、確かにおかしい。

 加速度的に、崩れる家が増えていく。

 大して燃えていない建物も、同じタイミングで崩れていく!

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 オルバイファスは説明する。

『概念宇宙論による異能力の発動。

 それは未来において起こる現象を、現在において発生させるものだ。

 ボルケーナの場合、無意識にそれを垂れ流した状態にある。

 それが問題なのだ。

 人が入れば危険な建物は、そうなる前に、ボルケーナの神力が押しつぶす。

 この燃え落ちる街自体が、滅びだからだ。

 50年間も手入れもなく無事な建物など、ありえんからな。

 結果、火災は加速度的に燃え広がる』

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 オルバイファス戦車が進んでいく。

 装甲から突き出た突起で、切り裂かれ、スクラップにした武装バスを引きずったまま。

 

 難を逃れた防衛隊は、武装トラックを中心に抵抗を続ける。

 あるトラックの荷台には重機関銃が。もう1台には連装ロケット砲がすえつけられ、絶え間なく火を放っている。

 そんな彼らに、次々に銃弾が撃ち込まれた。

 真っ先に、重機関銃を操る隊員が肩を打ち抜かれ、その場に崩れ落ちた。

 次に、ロケット砲の隊員に。

 彼らが上げた恐ろしい悲鳴。

 それが周りの隊員の気をひいた。

 

 燃え残った塀の影に、一瞬で駆け込んだ有希の姿が。

 左足は曲げ、右足は大きく右へ開き、上半身を左へ倒している。

 そうすれば地面すれすれに、車の下越しに銃を撃てる。

 機械的で迷いのない動きがはっきり見えた。

 右手でグリップを。左手で銃口近くのハンドガードを握っている。

 

 まず、手前にいた隊員が足をおさえて倒れた。

 手を突けばそこから力がうばわれる。

 有希の射撃が、効率的に相手を無力化していく。

 

 他方では、アランの電撃か、ティモシーの怪力とそこから生まれる戦火が、夜の闇を染め上げる。

 その染められた夜が、今度は無数の影に覆い尽くされた。

 

 空中を埋め尽くす影は、鳥。

 しかも、鋭いくちばしと鍵爪を持つ、猛禽だ。

 地上も、唸り声を上げながら駈ける獣に覆い尽くされた。

 突如現れた群れは、協力して地域防衛隊に襲いかかった。

 シロフクロウのカギヅメが、突き出された銃をとらえ、空へ奪い去る。

 オオワシのくちばしが、隊員の守られていない皮膚、つまり顔を貫く。

 

 地上で敵陣を取り囲むのは、灰色の毛並みのタイリクオオカミの群れだ。

 人間の腰の高さに、無数の牙がぎらつく。

 その群れには、いるはずのない仲間がいた。

 黒い毛並みに、分厚い筋肉を持つ、ヒグマ。

 その重さだけで人間を突き刺せそうな角を持つ、ヘラジカ。

 そして俊敏に家の屋根から屋根へ駆けまわりつつ、油断なく見張る、アムールトラ。

 極寒のシベリアゆえの、黄色に黒い縞の入った長い毛皮が、風邪に波打った。

 

 群れの一番奥、オルバイファスから大して離れていないところから、1人の女性が進みでる。

 背は高く、2メートル近い。

 広い背中には陸軍のベスト。ボタンは豊満な胸ゆえ、止められなかった。

 手には、銃身をのばしたボルボロス小銃。

 カメラに映ったのは横顔だけだが、不敵な笑みはしっかりとみえた。

 のばしたクリーム色の髪を後頭部で左右に分け、2つの輪に丸めている。

 その二つの輪が、激しく揺れていた。

 

 その揺れは風だけではなく、彼女自身から放たれるもので起こっている。

 悠然と歩を進める彼女から、異能力が、この群れがはなたれている。

  

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

「格闘部部長、テレジ・イワノフ。趣味は狩猟。

 能力は、これまで自分が狩った動物の実態ある幻を作りだせる」

 語り始めたのは、シエロだった。

 よどみなく、なめらかに。

 

 シエロには、物語でよく出る嫌いな言葉があった。

 (いま行われたことは、必ず歴史が判断するだろう)という物だ。

 それも、自分が好きで見る戦記物で、しかも兵士役の、しかも主人公がよく言う。

 

(これまでは、それが嫌で仕方がなかった)

 シエロは、戦争とは相手の政治形態を根こそぎ変えさせることだと考えていた。

 仲間と、自らの命と引き換えに。

 文字道理かけがえのないことだと。

 ゆえに、その実行と、戦後どのようにしていくか、慎重に準備しなくてはならない。

 戦後に裁判に明け暮れるようでは、何も決められない。そう思っていた。

 

 だが、魔術学園生徒会と、彼らを追って来た者達を見ていると、自分の中に何かが芽生えるのを感じた。

(いや、芽生えたというより、まだ種のような物かもしれない)

 

 カーリタースにすべてを押し付け、量子世界に引きこもった科学者たち。彼らはチェ連の危機を救うため、生徒会を召喚して乗り切ろうとしたという。

 同じような決定をした異世界は、他にもあるらしい。

 そして、それを行う異能力を操るのは、強い人の意思であるとも聴いた。

(もしかすると、そんな意志の力がどこかにたまるか、エスカレートしたのかも。そう思うと笑えてくる)

 以前には思いもよらなかったことが、次々にわいてくる。

 

(今なら、これまで敵対してきた三種族のために。父さんが身を投げ出した気持ちがわかる気がする)

 今だから知ったこと。生みだせた種を、いつか芽生えさせたい。

 たとえ好みが力尽きても、誰かに受け継いでもらいたい。

(そうか。これが歴史に判断させるという事! )

 

 その時、達美専用車がゆっくりととまった。

「待機場についたよ~」

 ドラゴンメイドが言った。

 今いる乗客席に、窓は無い。

 

「外の様子が見たい」

 シエロのそのつぶやきが、頭のまわりの光景を切り替えた。

 達美専用車の表面に張り付けられた、シート状カメラによる全方位映像に。

 そこは、見たことのないスタジアムだった。

 足元には立派な芝生。その周りを円形に囲むのは、万単位の収納人数がありそうな、観客席。

 そのすぐ向こうに、観覧車が見えた。

 かつてフセン市にあった遊園地。

 そのレプリカだ。

 その証拠に、足元の芝生は、どこもめくれていない。

 そこには、PP社の戦力。ドラゴンドレスマーク7と6。オーバオックス。キッスフレッシュ。10式戦車。マークスレイ。そして多数のSUVが並んでいた。

 その向こうに立ち並ぶのは、トラックコンテナを積み上げた臨時の施設。会議室や休憩場。ほか整備工場など。

 

『我が秘書たちも、ついたぞ』

 一番端だった達美専用車。

 その隣に、マイルド・スローンが駐車した。

 現実世界とは対照的な、晴れ渡った空が、銀色の岩のようなSUVを輝かせる。

 その隣にはジャニアル・アイが。

 4つのローターをタイヤに変形させ、支柱を純白の機体に収めながら着地した。

 

「これより、生徒会を召喚した科学者の元へ突入します。先陣はメイトライ5。チェ連の士官候補生の皆さんには、司令部で見届け人となっていただきます」

 1号がそう言って立ち上がった。

「では、全員下りてください」

 その後ろでは、2号が後部ドアを開けている。

「夏の火鉢、旱(ひでり)の傘! 」

 そして、自分の座右の銘を唱えた。

 「夏に火鉢を抱くような、旱に傘を差すような、無駄とも思える忍耐をしなければ、部下はついてこない」という言葉。

 

 それに従って、皆が立ち上がる。

 これから、いよいよすべての黒幕。

 科学者たちの元へ踏み込むのだ。

 

 ところが。

「待ってください! 」

 ドラゴンメイドに止められた。

「決して時間のかかる事ではありません。ボルケーナお義姉ちゃんから賜った映像を見てください! 」

 彼女は立ち上がり、期待を込めて皆を見回した。

「信じて……」

 


 
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