友達は泥棒で生計を立てていて私は彼のところに居候をしているから結果的に私も泥棒の片棒を担いでいるようなもので正直なところ心苦しいが、私に働く気が起きないので仕方がなく、彼の家に一緒に住んでいる彼の妻も同じような気持ちらしく、毎日憂鬱な顔で私に話しかけてきてねえ私たちって泥棒の片棒だよねと言われて憂鬱そうにコーヒー豆を挽く私は憂鬱そうにそうだねでも仕方がないねと答えるので、私たちは家に居たって何にもすることはないのだけれども外に行くことはなんだか恐ろしい、きっと外に行けば私たちはたちまちもみくちゃにされて死んでしまうに違いないと私も彼女も思っているらしくどういうわけでそんな風に思っているのか分からないけれどもこの泥棒の家にいればいるだけそう思う気持ちは強まるらしく、彼の盗ってきたコーヒー豆を彼の盗ってきたコーヒーミルで挽く度に私たちは豆の香りに暗鬱な気持ちになる。
働かない私たちに業を煮やした彼は私たちにコンビニなどにおいてあるバイト雑誌などを持ってきてくれるのだけれどもどの仕事も大へんそうでやりがいなどなさそうでしんどそう、牡蠣小屋で牡蠣の殻を潰す仕事などはどうだいと彼は言ってくれるのだけれども暗い小屋の中で重たいハンマーを使って延々と牡蛎の殻を潰している情景を想像して私も彼女も気分が悪くなってスンスンと泣いてしまい彼は露骨に嫌そうな顔をして盗ってきたタバコを盗ってきたライターで火をつけて吸うので、タバコを吸う私は一本ちょうだいといって彼からタバコをねだり、泥棒からタバコをねだるんじゃないよと彼に言われてそれはそうだと思うけれどもと思いながらタバコを吸うととても美味く幸せな気持ちになり、牡蠣小屋で牡蠣の殻を潰すアルバイトでもいいかなと思うけれども、私がバイトに行ってしまうとタバコも吸えず牡蛎の殻を潰すことも出来ない彼の妻が一人で寂しそうに部屋でテレビを見ていたらきっと頭がおかしくなってしまうのに違いないと思うから、私はバイト雑誌をそっと閉じて、ちり紙交換の束の中にきれいに差し込んで見なかったことにすると、彼の妻は少しだけ嬉しそうになり、吸えないタバコを無理して吸ったりする。
ある日、彼が帰ってこなくなり私と彼の妻は心配そうにおろおろとあたりを見回すばかりでもしかしたら警察に捕まってしまったのかもと思うけれども音沙汰はないし今の内に私たちもどこか別のセーフハウスへ逃げ出したほうが良いのでは無かろうかと思うけれども表へ行くのはなんだか怖いし月がでているしこんな夜に表へ出て月で出来た影を引きずって歩いていたら影を取る人に影を取られてしまうかもしれないしそうなったら命はない、仕方がないのでなんだか寒いのでストーブの火を入れてその前に二人して集まって彼の妻も寒いのかなんだかガタガタして歯の根も合わぬよう、かわいそう、だけれども夜半になって彼も帰ってこなくて、仕方がない、私はちり紙交換の束に挟んだバイト雑誌を取り出してきて彼女に見せて、Aちゃん、二人で働こう、彼が帰ってこなくなった以上、私たちはここでこうしているわけにはいかない、私たちは見捨てられたんだと言い、彼女は泣きながらコクリとうなずき私は牡蠣小屋に電話をすると、明日からでも来て欲しいと言われて私は彼が机の上に残していったトンカチを握って精一杯の強がりでにっこりと笑うと彼女も恐怖でひきつった顔で笑い、私たちは怖くて仕方がないがそれでもなんだかやっていけそうな気がしないでもない気持ちになった。
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オリジナル小説です