(流)
穏やかな風がベンチの上で眠っている老女を包み込んでは離れていく。
遠い旅を終えようとしていた老女はゆっくりと閉じていた瞼を開けて夜空を見上げていく。
屋敷の中では賑やかな声が聞こえてきていた。
かつて一時代を築いた者達の大半は彼女を一人遺して彼女達が愛する男のもとで過ごしており、彼女を知る者はごく僅かになっていた。
「長い夢ね」
自分がこうして生きている事すら夢のように感じる日々。
老女はかつてこの身を強く抱きしめ愛してくれた温もりを未だに忘れる事などなかった。
「まったく……」
気が付けばいつも自分ばかりが待たされるのような気がしてならなかった老女は思わず愚痴りたくなった。
数十年という月日は老女を孤独にさせることはなかったが、寂しさを感じさせていた。
「一人でいるなんてつまらないわ。だからさっさと迎えに来なさいよ」
いつまで自分を見世物にされていることが不愉快でならなかった。
「絶対に文句いってあげるから覚悟しておきなさいよ」
杯に酒を注いでいく老女は何十年たっても変わらない不敵な笑みを夜空に浮かべた。
彼女の望む味を失った酒はゆっくりと喉へ流れていく。
一気に呑み干した老女は空になった杯へ再び酒を注いでいく。
だがそれを持つことはなかった。
ただ、誰かに呑んでもらおうと用意しているように見えた。
「文句を言われたくなかったらさっさとここにきて私が注いだ酒を呑みに来なさいよ」
再び瞼を閉じて老女は屋敷の中から聞こえてくる笑い声に耳を済ませていく。
彼女達が遺していったものがそこにはあったが、今更、自分が出て行くようなことでもないことを知っていた。
いつしか鼻歌を歌っていく。
今も愛している老女がこの世でただ一人、本気になれた男。
彼のためなら何でも出来た。
同時に彼女をもっとも美しくもっとも儚い華として遺していった。
「愛しているわ、今もずっと……」
老女は酔いが回ったのか、ベンチにもたれるようにして眠っていった。
その表情は穏やかなものだった。
風は穏やかに老女を包みそして離れていった。
(座談)
水無月:これを書いている時、明日試験だよ~っていう状態です。当然、今日の投稿は奇襲作戦です!
雪蓮 :まぁあなたらしいわね。それよりも試験は大丈夫なの?
水無月:なんとか!
雪蓮 :まぁその試験が終わればいよいよ本格的に最終章ね。
水無月:そうですね。何とかここまで来れたのは皆様のおかげだと思っています。
雪蓮 :そういうわけだから最終章もよろしくね♪
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いよいよ最終章開始です。
長かったこのお話もこの第三期で最後です。
そして一刀と雪蓮の運命も一つの終わりを迎える事になります。
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