自分宛に届いた一通のクリスマスカードに指定されていた、街の大きなクリスマスツリーの下で俺はある女性を待っていた。絶対に来る事は無いだろうと思いながらも待っている自分に嫌気が差し、でも(もしかすると来るのでは・・・)と複雑な心境で待っていると、声がかかる。何時からそこに居たのだろう、自分のすぐ横に彼女が立っていた。俺はかなり驚きながらも、それ以上に彼女が来た事が心からうれしかった。
じっとしている訳には行かなかった。彼女の冷たい手を取って、クリスマスに賑わう町へと走り出した。
幸せそうな人々で行きかう歩道を歩き、所々のお店を見て回り、喫茶店でただ何気ない話をする。それは普通のカップルが行う何処にでもある普通のデート。しかし俺にとって・・・きっと彼女にとってもこれほど幸せな事は無かった。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。何時の間にか日も暮れ、俺たちは子供の頃の約束の場所である思い出の公園に着いた。
クリスマスカードに書かれていた最後の場所。俺は・・・ここに来たくはなかった。
「来ちゃったね…」
彼女がつぶやく。彼女の手からはぬくもりは伝わっては来ない。
「あの日の約束を」
彼女が俺の正面に立つ
彼女はポケットから二つの玩具の指輪を取り出すと、一つを俺に渡す。俺は今にも泣き崩れてしまいそうになるのをぐっと堪える。
彼女を見てから、今日一日俺が泣けばきっと彼女は悲しむから彼女の前で泣くまい。そう心に決めていた。
彼女が悲しそうに自分を見ている。そんな顔は絶対にさせたくない。
俺はすぐさま笑顔に戻って彼女の手を取ると、さっきの指輪を彼女の薬指にはめた。彼女も俺と同じように俺の薬指に指輪をはめる。
二人だけの結婚式、彼女はうれしそうに指輪を眺めている。
それを見て俺はとっさに彼女を抱きしめる。彼女は少し吃驚して、それでも俺の気持ちがわかっていたのか、俺をやさしく抱きしめ返して
「ごめんね」
一言そう言った。
「謝らないで、君は何も悪くないんだ。」
「ううん。悪いのはやっぱり私だよ。守れない約束なんかして、来ちゃいけないのに来てしまって・・・私のわがままであなたを悲しませてしまった」
違う、これは俺が願ったこと。あの日サンタに願ったのは、他でもないこの俺なんだから。
「もういいよ、約束は守った。それで良いじゃないか」
「約束は守れてないよ」
その先は聞きたくは無かった。
「私は・・・もう死んじゃってるんだから」
・・・あの日、大好きだった彼女が今と同じクリスマスの日に亡くなった日。俺はサンタに彼女がほしいと願った。それがかなわぬ願いと知りつつも、願い続けた。・・・何かにすがってでももう一度彼女に会いたかった。
それが今日、叶えられたのだ。たった一日だけ。
彼女は笑顔でこちらを見ると、
「ほら、まだやることがあるよ」
彼女は目を瞑る。俺は我慢しきれずに流した涙をを吹き飛ばすように息を深く吐き、彼女と口付けを交わす。
永遠に叶う事の無い誓いの口付けは、何処までも冷たかった。
何時の間にか雪が降り出していた。彼女は俺から離れる。もう時間だと、態度が告げていた。
俺は最後ぐらい決めた事をやろうと、笑顔で彼女を見送る。
「どうか・・・お幸せに」
雪がまるで羽毛のように見えた瞬間、目の前には真っ白な雪だけが積もり始めていた。
まるで彼女の思い出をも、真っ白に埋め尽くすように。
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結構前に書いたストーリー。久々に見たら後味が悪すぎるwwwwwwwwww