凪「沙和、真桜!!そっちに行ったぞ!!」
沙和「分かったなの~!!」
真桜「待てや、おんどりゃあ!!」
陳留の城下町、ここで三羽鳥が自分達の部隊と共に治安維持にあたっていた
凪「窃盗の罪で拘束する!!」
「捕まるか、ボケ~♪」
「鈍間な奴らが何人追っかけて来ても怖くもね~ぜ♪」
「悔しかったら追いついてみな~♪」
追いかけているのは数人のチンピラで、どうやらこの辺りの地理に詳しいようで三人がかりでもなかなか捕まえられなかった
路地裏など入り組んだ場所に入り込み、三羽鳥の追跡を躱していく
凪「ええいまどろっこしい!!」
そして次の瞬間、凪の全身から強力なオーラが立ち上る
真桜「あ~、ちょい待ちいな、凪!!」
沙和「凪ちゃん駄目なの~!!こないだ街中で氣弾を使って桂花ちゃんにすっごい怒られた事忘れたの~!!?」
凪「ぐぅぅ・・・・・」
どうやら以前に犯人確保の為に氣弾を使い大きな被害を出したことがあるようだ
思い留まり氣を引っ込めるも、その間にチンピラは逃走してしまう
「へへ~ん、軽いもんだぜ♪」
「これだから盗人稼業は止められねえぜ♪」
「こんなザル警備でよく警邏部隊なんて張ってるな~♪」
そして、大通りに向かうチンピラ達、どうやら人混みに紛れて逃走を図るらしい
しかし
ドカッバキッドゴンッ!!
「ごぎゃっ!!!」「べはぁっ!!!」「ぼふぅっ!!!」
凪「え!?」
沙和「な、なんなの~!?」
真桜「なんや、どないした!?」
大通りにチンピラ達が飛び出した途端に打撃音と共に悲鳴が上がる
急いで三羽鳥が通りに踊り出ると、そこには
一刀「まったく、こんな奴らに何を手古摺っているんだ?」
凪「か、一刀様!!?」
沙和「あ~、一刀さんなの~」
真桜「ど、どないして一刀はんがこないな所おるんや!?」
自分達が追いかけていたチンピラが一人の男の足元で伸びている姿があった
梨晏「も~、一人くらい残してくれてもいいじゃん、一刀~」
華雄「ああ、独り占めは許せんな」
一刀「しょうがないだろ、咄嗟の事だったんだから」
凪「あ、この人達は・・・・・」
梨晏「やっほ~、君達以前に見た事あるね♪」
華雄「ああ、黄巾の時に洛陽でまみえたな」
凪「え、えっと・・・・・」
沙和「あ~、この人知ってるの~、確か孫堅さんの所の人なの~」
真桜「もう一人は・・・・・堪忍、思い出せんわ・・・・・」
華雄「な!!?揃いも揃って人の顔と名前を憶えない奴らばかりか!!?」
凪「す、すみません・・・・・」
一刀「華雄だよ、漢の将軍の」
沙和「あ、そう言えば居たの~」
真桜「居たな、そないなの」
華雄「こいつらめぇ~」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
一刀「どうどう・・・・・それで、こいつらはどうするんだ?」
凪「はい、私達の部隊が連行します」
沙和「手伝ってくれてありがとうなの~♪」
真桜「恩にきるで♪」
伸びているチンピラ達を凪達の部下に引き渡し、本題に入る
一刀「それで俺がここに来た理由なんだけど・・・・・」
そして、掻い摘んで一刀は凪達にここに来た理由を説明した
凪「そうだったんですか♪」
沙和「それなら大歓迎なの~♪」
真桜「一刀はんの同盟やったらウチらも絶対結びたいわ~♪」
そして、一刀達は凪達の案内で陳留の客間に招かれた
凪「それで一刀様、何か警邏を効率よくする方法はありませんか?」
沙和「そうなの~、沙和達も頑張ってるけどなかなか治安が良くならないの~」
真桜「幽州の治安の良さは聞いとるで、一刀はんやったら何か凄い妙案持っとるやろ」
一刀「そうだな・・・・・一通り街中を見てみたけど、凪達の部隊は良くやっていると思う、少ない人数で広い範囲を満遍無く警邏しているのが分かる、それでもああいう輩が出てくると言う事は、今のやり方ではそこが限界と言う事だ」
凪「限界・・・・・」
沙和「沙和達じゃ、あそこまでしか出来ないの~?」
一刀「話は最後まで聞け、あくまで今のままだったらと言う話だ・・・・・これは、幽州でも取り入れている方法なんだが、覆面警邏を実施してみたらどうだ?」
真桜「覆面警邏?・・・・・なんかの仮装祭りかいな?」
沙和「なになに、新しいおしゃれなの~♪」
一刀「違う違う・・・・・警邏部隊の一部の人間を市民と同じ格好をさせて、街に潜り込ませるんだ」
凪「あ、なるほど!」
沙和「え、え?何がなるほどなの~?」
真桜「アホ、沙和!ここまで言われて分からんのかい!?」
凪「警邏部隊が市民と同じ格好をしていれば、不逞の輩は何処に警邏の人間がいるか分からない、覆面警邏と連携すればより効率よく取り締まれる・・・・・そういう事ですよね、一刀様♪」
一刀「それと同時に、犯罪を抑止する事にもつながるぞ」
梨晏「ふぅ~~ん、一刀と一緒に居ると勉強になるなぁ~」
華雄「うむ、北郷の言葉は為になるものばかりだ」
客間では三羽鳥の質問攻めにお茶を啜りながら答える一刀がいた
その横では、梨晏と華雄が興味深そうに話を聞いていた
季衣「あ~、兄ちゃんだ~♪」
流琉「お久しぶりです、兄様♪」
その時、話を聞いたのか季衣と流琉が駆け付けて来た
一刀「よう、季衣、流琉、久し・・・・・」
麗春「一刀ぉ~~~~~♪♪♪」
ムギュウウウウウウウウウ
一刀「うおおお!!?」
挨拶の言葉を遮り、麗春が抱き付いてきた
梨晏「ええええ!!?」
華雄「な、なんだ!!?」
麗春「私のものになりに来てくれたんだな、そうなんだな、嬉しいぞ一刀ぉ~~~♪♪♪」
ムニュムニュムニュムニュ
一刀「むぐぁ~~~~~!!//////////」
露出した胸元を顔面に押し付けられ、当然息が出来なく悶える一刀
燈「まぁまぁ、麗春ちゃんてば、大胆ねえ♥///////」
喜雨「・・・・・不潔」
その後に続き、陳親子が入って来た
一刀「ちょ、ちょっと麗春、離れてくれ!///////」
麗春「ああん、相変わらず恥ずかしがり屋だなぁ~♪」
なんとか麗春を押し退け陳親子と向き合う
一刀「初めまして、幽州宰相の北郷一刀です」
燈「初めまして、御遣い様・・・・・私は陳珪、字が漢瑜と申します♪」
喜雨「娘の陳登元龍です」
梨晏「太史子義だよ~♪」
華雄「華雄だ、よしなに頼む」
一刀「(陳珪に陳登か・・・・・)」
『三国志』や『後漢書』によると、陳珪は豫州沛郡の相であった
揚州を中心に朝廷から半ば独立していた袁術に、文書で配下となるよう求められた事がある
陳珪と袁術は共に漢の大官の子孫であり、若い頃から交遊があった事による勧誘であった
しかし、時勢が帝を推戴した曹操によってまとまり始めており、朝廷に仕え続けると答えてこれを拒否した
また、袁術が呂布に縁談を持ちかけた際には、この二人が提携する事で騒乱がさらに深まる事を恐れ、呂布に持ち掛けて破談させた
怒った袁術が張勲に大軍を率いさせ徐州に攻め込ませると、呂布は陳珪に『貴公のために袁術が攻めて来たではないか』と詰問した
しかし陳珪は、巧みな計略で袁術軍を混乱させて破り、その一方で子の陳登を許に遣わし、呂布に左将軍の官位を与えて有頂天にさせるとともに、陳登に呂布を討つよう曹操を唆させた
と、この資料が事実だとすれば、この親子が現段階で華琳に仕えているのはおかしいだろう
しかし、この矛盾だらけの世界ではそんな知識など役には立たない事はこれまでで嫌と言うほど思い知らされているので、深くは追及しないでおこう
燈「御遣い様のお噂は聞いていますよ、幽州を短期間で見違えるように発展させたとか♪」
一刀「周りに良く動いてくれる人達が沢山いましたからね、自分に出来た事は政策の提案だけですよ」
燈「何を仰るのです、御自身も部隊を持ち最前線で戦っていると言うではありませんか♪」
一刀「戦っていると言っても、自分の部隊は治安維持を専門としていますので、血生臭い事はしていませんよ」
喜雨「ふぅ~~ん・・・・・僕も後で話を聞きたいな、農についても幽州は相当な収穫量を誇っているそうだし」
一刀「農だって?陳登さんは、農に興味があるのかい?」
喜雨「うん、僕は農を専門としているから」
一刀「分かった、それなら色々と助言ができると思う、後で現場に連れて行ってくれ」
喜雨「・・・・・うん♪」
燈「では、華琳様がお待ちしていますので、玉座の間にご案内しますね♪」
麗春「よ~~し、一緒に行こう、一刀♪」
そんなこんなで一刀の腕を取り共に行こうとする麗春だったが
燈「麗春ちゃん、麗春ちゃんはまだお仕事が終わっていませんよ♪」
麗春「構わない、一刀の方が優先事項だ♪」
喜雨「そうもいかないよ、以前の遅れを取り戻すと、華琳様と約束していたでしょう」
麗春「う・・・・・」
以前に華琳の召集を断り続けていた経緯がある為、麗春は口篭もる
ここに一刀が来たと言う報を耳にした途端にすっ飛んできたが、執務を途中で投げ出して来ているので、口答えできない
喜雨「華琳様に見つからないうちに部屋に戻った方が、懸命だと思うけど」
麗春「うぅ~~、仕方ない・・・・・一刀!一刻も早く仕事を終わらせるから、それまで待っていてくれ!」
そして、一刀の縮地と同じではないかと言う速度で麗春は客間を後にした
流琉「麗春様って、なんで兄様の事となると見境なくなるのかな?」
季衣「決まってるじゃん、兄ちゃんの事が大好きだからだよ♪」
一刀「・・・・・そうだといいけどな」
傍から見れば、一刀そのものではなく、一刀の力や能力に惚れ込んでいるとも取れるが、真実はその人の中にしかない
燈「凪ちゃん達は、もうお仕事に戻っていただいていいですよ♪」
喜雨「うん、案内は僕達がするから」
凪「分かりました・・・・・一刀様、後でまたお話を聞かせて下さい♪」
沙和「またなの~♪」
真桜「ウチの発明も手伝ってくれたらありがたいわ♪」
そして、一刀と梨晏と華雄は玉座の間に招かれた
季衣「華琳様、兄ちゃんを連れて来ましたよ~♪」
燈「太史慈様と華雄様もお連れしました」
華琳「ご苦労様・・・・・遠路はるばるようこそ、一刀」
綾香「お久しぶりですね、一刀君」
秋蘭「久しいな、北郷」
風「お久しぶりです、お兄さん~」
稟「ご活躍は伺っていますよ、一刀殿」
一刀「皆、息災みたいだな」
桂花「死ねばいいのに、変態」
一刀「桂花は相変わらずだな・・・・・そういえば、春蘭はどうしたんだ?」
秋蘭「姉者は、現在軍の訓練中だ」
梨晏「孫堅軍の将、太史子義です」
華雄「華雄だ」
と、其々が其々の挨拶を済ませた所で華琳が本題を切り出す
華琳「さて一刀、貴方の事は聞いているわ、色々と同盟を結んで回っているみたいね、そろそろ来る頃だと思っていたわ」
一刀「もう知っているのか、情報が入るのが早くないか?」
華琳「何を言っているの、あんなもの隠している内にはいらないわ、尤もあなたは隠す気なんてないみたいだけど」
桂花「そうよ、吹聴している張本人のくせに」
一刀「それにしたって早過ぎやしないか?」
華琳「各州に私達の草を放っているもの、あらゆる情報が入って来るわ、特に幽州には重点的にね」
綾香「凄いではないですか、一刀君、聞けば聞くほど幽州の発展ぶりが窺い知れます」
秋蘭「ああ、大したものと感心するぞ」
風「はい~、一体どんな政策をしているのか、興味が尽きません~」
一刀「詳しい事はこの資料を見てくれればいい」
そして、ショルダーバッグの中から一冊の資料を取り出す
一刀「幽州で進めている政策を詳細に記してあるから、分からない事があれば聞いてくれ」
稟「ええ!!?そのような事をして大丈夫なのですか!!?」
一刀「既に冀州と徐州には提出済みだよ」
華琳「あの麗羽と同盟を結んだ事も知っているわ、それについては素直に褒めてあげる・・・・・あんな自己顕示欲が服を着て歩いている愚者と、よく同盟を結べたものね」
一刀「まぁ確かに、麗羽本人はそんな感じだけど、周りの人間は比較的まともだからな」
桂花「そうかしら?あんな俗物の所でくすぶっているんじゃ、皆同族だと思うけど」
一刀「斗詩や真直とも色々話をしたけど、あの二人は一番まともだと思うけどな」
桂花「まぁね、真直の頭脳は私も買っているけど、あんな所に居続けているんじゃ何も変えられないわよ」
一刀「安心しろ、俺も今後冀州には足を運び続けるつもりだ、あの麗羽を改心させると真直とも約束しているからな」
華琳「あの筋金入りの愚者が改心した姿なんて未来永劫見れるとは思わないけどね・・・・・それより一刀、その資料とやらをさっそく見せてもらえるかしら?」
手元の資料を稟に渡し、華琳は稟から資料を受け取った
華琳「・・・・・・・・・・」
そして、パラパラと資料を流し読みしていく
綾香「・・・・・いかがですか、華琳」
稟「どのような事が書かれているのですか?」
華琳「焦らなくても後であなた達にも見せてあげるわ、今は黙りなさい」
「・・・・・・・・・・」
ここに居る者全員が一刀の持って来た資料に興味津々な眼差しを向ける、特に文官組は今か今かと逸る気持ちを隠せない
あの桂花でさえも、早く見てみたくてウズウズしている有様である
そして、一通り読み終えた華琳は一刀に向き直る
華琳「一刀・・・・・あなたこのようなものを麗羽と劉備に渡すなんて、正気なの?」
一刀「俺はその中身をこの大陸の標準にするつもりだからな、何も問題は無い」
風「どのような事が書かれているのですか~?」
桂花「こいつの事だから、どうせ碌でもない政策よ」
華琳「いいえ、少し読んだだけだから私も完全に理解したわけではないけれど、この資料に書かれている事は革新的と言ってもいいわ」
桂花「そ、そうなのですか?」
華琳「ええ、私が見た事も聞いた事もない政策ばかりが記されていて、ご丁寧にもこれらの政策を実施した幽州での成果までもが記載されているわ、しかもそのどれもが爆発的な成果を叩き出している」
秋蘭「という事は、その資料は本物と見て間違いないと?」
華琳「それについては認めましょう、しかしそれゆえに分からないわ・・・・・一刀、あなたはさっきこの中身を大陸の標準とすると言っていたけど、本気なの?」
一刀「本気さ、そうしなければ、この大陸の人々の生活は決して良くならない」
華琳「しかし、このような革新的な政策は自国内で独占するものよ」
一刀「そんな事をしてしまったら、その政策は本当の意味での効果を発揮できない、この大陸全体の為にならないんだ」
華琳「大陸全体・・・・・この大陸は、これから確実に乱世に向かっていくと言うのに、今そのような事を言っていては、生き残れないわよ」
一刀「前に言っただろう、俺は必ず乱世を防いでみせると」
稟「一刀殿、まだそのような事を言っているのですか・・・・・」
一刀「俺は本気だよ、じゃないとこの大陸の皆は不幸になるだけだからな、誰も幸せになんてならない」
華琳「・・・・・華雄殿、太史慈、少し席を外してもらってもいいかしら?」
梨晏「どうしたの?」
華雄「なぜだ?」
華琳「ここから先は、一刀とだけ話したいのよ、我が国の機密事項に係わるとでも言うのかしら」
華雄「・・・・・では、致し方あるまい」
梨晏「うん、分かったよ・・・・・」
華琳「燈、喜雨、二人を案内して差し上げなさい」
燈「はい、承知いたしました」
喜雨「こっちだよ」
そして、燈と喜雨の案内で梨晏と華雄は玉座の間を退出する
その直後、華琳の雰囲気が一変する
華琳「・・・・・一刀、随分と姑息な事をしているみたいね」
一刀「姑息とは酷い言い草だな」
華琳「前からあなたには言いたい事があったけど、この際はっきり言わせてもらうわ・・・・・北郷一刀、あなたはどうしようもない愚か者よ」
一刀「俺が愚か者だって?」
華琳「そうよ、出来もしないと分かりきった事に挑み続ける、それが愚か者でなければなんだと言うの?」
一刀「出来もしない事だって?平和な世の中を作る事がか?」
華琳「それそのものが出来ないとは言わないわ、問題はそのやり方、あなたのやり方では未来永劫そのようなものは作れない」
一刀「何を言うんだ!?挙兵して戦場を生み出す事そのものが、平和を壊し遠ざける事だと気付かないのか!?」
華琳「今の平和は仮初のものよ、漢王朝の求心力がここまで地に落ちてしまい、何時何処かの諸侯が戦端を開いてもおかしくない不安定なもの、ならば独自に力を蓄え来たる乱世を生き延びる事こそが必定、たとえその果てに多くの犠牲を産み出したとしても、それらを糧とし新たな太平を作る、あなたはそれを完全に否定しているみたいだけどこれは必ず有益なものになるのよ」
一刀「何が有益なもんか!あんな血生臭くて野蛮なものが、有益であってたまるか!」
華琳「あなたの言う平和こそ幻想よ、そのようなものはこの世には無いと言うのに」
一刀「は?平和がこの世に無いだって?」
華琳「そうよ、人は常に争い合うものよ、それを認めようとしないあなたは、本当に度し難い愚か者よ」
一刀「まさか・・・・・それは市の事を言っているのか!!?」
そう、なにも武器や兵器などの人殺しの道具を用いて殺し合うだけが戦争ではない、経済もまた戦争である
得をしている人間が居ればその分損をしている人間が必ずいる
全ての人間が己の願望を叶えられる筈も無く、均等に金品が分け与えられるなんてこともありえなく、この世から貧富の格差がなくなる事は絶対にない
もちろん、そう言う本質的かつ根本的な意味合いで、争い事をこの世から無くす事が出来ないことは一刀も重々承知している
一刀「おいおい、なに屁理屈を言ってるんだ!?それすらも争いだの殺し合いだのと言い出したら、それこそ人は何も出来ないだろうが!」
華琳「そうよ、あなたの言っている事はそれと同じ、人の世の根本を否定しているのと同義よ」
確かに、資本主義社会での強者とは、金を持っている者で、弱者は金を持っていない者の事だ
強者は、自らが持つ金を利用し弱者の搾取を拡大し、結果的に少数の富める者はますます富み、大多数の貧しい者はますます貧するようになっていく
この格差こそが華琳の認識する『人の世の根本』であり、資本主義社会の形態の一つでもある
現代のアメリカでも、全国民の5%にしか過ぎない富裕層が全ての富の6割を独占し、全国民の30パーセントもが貧困家庭という、まさに華琳の認識する通りの超格差社会が形成されていて、日本でもこれは社会問題になっている
悔しいが、華琳の言葉は残酷でありながらも資本主義の本質を突いている
しかし
一刀「違う!!人はもっとお互いを尊重し合い、愛し合い、慈しみ合えるんだ!!華琳はそれに気付いていないだけだ!!」
確かに、戦争はビジネス、戦争経済という言葉がある通り、戦争はこの世一ともいえる経済活性剤であるが、そんなものは一刀からすればナンセンスな話である
なにせ戦争ほどの環境破壊、金食い虫は他に無く、終戦後の復興にかかる資金と時間を考えれば、仮に経済がこれ程なく活性化されたとしても、所詮はその場しのぎの刹那的なものにしかならないのだ
むしろ復興の方が圧倒的に根気がいり面倒臭い、ただ暴れて壊す作業よりも一から何かを作る作業の方がはるかに難しいのは想像に難くない
戦により荒廃した人心の回復を計算に入れれば、更なる年月がかかる
戦争というのは、一度始まってしまえば、どちらが先に仕掛けたか、どちらが先に戦端を開いたかなど、二の次三の次となってしまう
後は殺った者勝ち、滅ぼした者勝ちの殺し合い
もはや倫理など無い、人を殺せば殺すほど感覚が麻痺していき、何が良いことか悪い事かも分からなくなってしまうのである
そういった事が起るそもそもの原因が、飢えや貧困による民達の不平不満である
ならばどうしたら争い事をより少なくし、戦争や紛争を未然に防ぐことが出来るのか
それは、富める者が貧しい者をいかに救済するか、そこにかかっているのである
富める者は無尽蔵に富み、貧しいものは永遠に地を這いつくばる、そんな負の仕組みを作り出してはいけないのである
そんな状況に陥ったからこそ、黄巾党などという暴徒が出て来てしまったのだから
もちろん、これは黄巾党だけの話ではない、世界中の戦争や紛争の主な原因はこれである
一刀「華琳は、黄巾党の惨状を、あの地獄を見ても何とも思わなかったのか!?あんなものを有益だって言うなら華琳・・・・・君は狂っているとしか言いようがないぞ」
華琳「黄巾党ですって?あんなものは大したものではないわ、地獄というには生温いわ」
一刀「ああその通りだ、そう思うのも当然だろう、華琳達が見たものは地獄のほんの片隅でしかないんだ!!俺は知っている、あれよりも何百倍、何千倍も酷い惨状を!!」
華琳「何を知っているというの!!?そんな平和ボケの甘い考えしか持っていないあなたが、あれより酷い惨状を知っているとはとても思えないわ!!」
一刀「華琳達と初めて会った時に言わなかったか?俺は、今から二千年後の世界から来たって」
華琳「・・・・・・・・・・」
一刀「俺の知っている歴史でも、長いものでは百年、二百年、更に長い目で見れば千年いがみ合っている連中だっているんだ・・・・・華琳、君はその果ての見えない負の連鎖を作り上げる事に加担しようとしているんだぞ」
日本史から世界史、そのほとんどを網羅している一刀からすれば、華琳の言動はとても理解できるものではない
現代に置いて、なぜイスラム教徒によるテロ事件が後を絶たないのか
様々な要因があるであろうが、主な原因は1000年前の十字軍遠征にある
当時の十字軍は、イスラムを悪魔の手先として、聖地奪還という大義名分を掲げて戦を仕掛けた
しかし、そのような一方的な言い分など、イスラムの人達からすれば訳の分からない言いがかりである
イスラムの人達からすれば、十字軍は只の侵略者でしかないのだから
実際十字軍は、イスラムの人達を女子供関係なく殺し、金品の強奪を繰り返していた
悪魔の手先云々などというのは、物資確保の為の口実、やっている事はただの略奪行為である
もちろん十字軍に従軍した兵士達も、幼き頃よりの宗教教育によって洗脳された哀れな被害者である
当然、それは現代のISに従軍している兵士達も同じである、十字軍が残したしわ寄せが、現代に至るまで続いているのである
一刀が言った1000年いがみ合っている戦争と言うのは、これのことだ
なぜ、現代の世間では第一次大戦や第二次大戦、太平洋戦争の悲惨さばかりが強調され、それ以前の戦争は軽視されがちなのか?
それは、それらを写し取った映像や写真が存在しないからである
戦争の悲惨さが本格的に認知され始めたのはベトナム戦争、メディアやジャーナリストが発達したからである
最前線の状況を市民に一切伝えず戦争の本質を市民から隔絶し、戦争に対して好い印象を与え、人殺し事を正当化する
事実は小説よりも奇なりという諺の通り、例えその偉人がどれだけ非人道的なことをしたとしても、全ては隠蔽され歴史の闇に葬り去られるのだ
もっとも、戦争をしている時点で、それがこの世一ともいえる非人道的かつ凄惨な行いに他ならないのであるが
これが、歴史の偉人達が常に行ってきたプロパガンダである
現代では、ナチスドイツのそれが大々的に強調され悪の権化同然の様に言われているが、これば決してナチスだけがやって来た事ではない、歴史を紐解いてみればナチスよりも残虐な事をしている組織や偉人など他にいくらでもいるのだ
大河ドラマ?時代劇?そんなものお遊びに過ぎない、実際の現場に行ってみれば、人がバタバタと死んでいくのである
一刀の様にこうして過去に遡り、実際に自分達が英雄だと思っていた人物達が目の前で人を殺す様を見てみれば、それまで自分達が思い描いてきた英雄像など180°ひっくり返る、人間とはそういうものである
それでもなお、その人物が英雄だと言い張る人間がいれば、一刀にとってその人物は狂人以外の何者でもない
槍や剣で突き殺し合うのと、マシンガンやロケットランチャーで打ち殺し合う、この二つに違いなどありはしない
違う所があるとすれば、使っている武器、兵器の質に圧倒的な差があるだけ、やっている事の本質は同じ殺し合いである、それは三国志だろうと第二次大戦であろうと同じなのだ
現代において世界中で起きているあらゆる紛争も、過去に起きた全ての戦いの延長戦でしかないのである
そう、有史以前から人は何も変わっていないのだ
過去にこれだけの凄惨な出来事が起きているにも拘らず、これだけ多くの事例があるにも関わらず、何も学んでいない、学習能力が皆無なのである
一刀は、こういった人間の短慮な部分に苛立ちを隠せない、犬猫でもここまでくればいい加減悟るはずである
犬や猫よりも知性が発達している人間がこんな有様では、下等生物とみなされても文句は言えまい
一刀「俺は、必ず今の漢王朝を改善し、華琳の言う仮初の平和とやらを磐石な平和にしてみせる!!」
華琳「はぁ~~~~、どうやら何を言っても無駄みたいね・・・・・好きにしなさい」
一刀「ああ、好きにするさ」
そして、一刀は玉座の間を退出した
風「待って下さい、お兄さん!」
稟「華琳様、今暫しの猶予を!!一刀殿を説得してきます!!」
焦る気持ちを隠しきれず、稟と風は急いで一刀の後を追った
華琳「まったく、あれは麗羽と同じくらいの重傷ぶりね・・・・・」
桂花「イカれていますよ!!あいつは現状というものを全く見ていません!!節穴も良いところです!!」
季衣「でも華琳様、兄ちゃんの言っている事も正しいんじゃないですか?」
華琳「確かに、一刀の言っている事も正しいわ・・・・・間違いに気づく事、嘘をつかない事、相手を慈しむ事、人を殺さない事、とても大切で簡単な事よ・・・・・でも、時代がそれを許さない、この大陸には全ての人間の願いを叶えるだけの物資は無い、そこに飢饉やら天災やら挙句の果てに王朝の腐敗までもが絡んで来れば、そのような美徳や倫理は通用しない、むしろ悪害なのよ」
流琉「でも兄様の言う通り、なにも乱世を起こしてまでこの大陸を一つにする必要はないのではないですか?」
華琳「それも無理な相談ね、一刀は気付いていないわ、本当の平和というものは栄光と勝利の果てにあるという事を」
綾香「しかし華琳、一刀君の目指しているものは私達と同じものではないのですか?ただ、その実現の仕方が違うだけで」
華琳「違うわ、一刀が目指しているものは私達の考えている太平の世ではない、もっと上の領域、恒久の平和なのよ」
流琉「でも・・・・・」
季衣「うん、ずっと平和ならそっちの方がいいし・・・・・」
秋蘭「季衣、流琉、はっきり言ってこれは現実的ではない、不可能と言ってもいい、北斗の彼方を目指すのと同じ話だ」
華琳「そうよ、そのようなもの、この現から人という存在が滅びでもしない限り、絶対に訪れる事は無いのよ」
季衣「でもでも、兄ちゃんが今の朝廷を変えてくれれば・・・・・」
流琉「はい、この大陸は平和になるのではないですか?」
華琳「一つの王朝が腐敗して、その王朝が再び健全化したという実例は無いわ、その王朝が築き上げた歴史が長ければ長いほどにね、そのような腐りきった王朝などこの大陸には不要よ、完全に打ち壊し新たな王朝を建てるより他に道は無いのよ」
桂花「その通りです華琳様!!あんな奴追い返しましょう!!居ても災厄を招くだけです!!」
華琳「いいえ、一刀が持ちかけた同盟の内容を見ても、我が国に有益なものが多くあるのも否定できないわ、それに遠路はるばる来た使者を追い返す様な無礼な振る舞いは決して許さないわ、思う所があるでしょうけど全員控えなさい」
稟「お待ちください、一刀殿!!」
風「お兄さん~、いくらお兄さんでもあの発言は看過できません~」
早歩きで去っていく一刀にようやく追い付いたのは中庭に面した廊下だった
二人に振り向いた一刀の表情は悲哀に満ちていた
一刀「風、稟・・・・・どうして華琳はあんな野蛮なんだ、俺には華琳と言う人間が理解できない」
風「それは、お兄さんが理解しようとしていないからです~」
稟「そうです、一刀殿の気持ちも分かりますが、どうか一刀殿も華琳様を理解しようとしてください!」
一刀「それは未来永劫出来そうにない、戦争と言う野蛮極まりない事をしようとしている奴の気持ちなんて・・・・・そんな頭のいかれた大量殺戮者に触発されて一体どれだけの多くの人々が、武勇だの名誉だの、そんな下らないものに誘惑されて貴重な青春を台無しにし犬死にしていったかと思うと・・・・・俺は悲しくてしょうがない」
稟「下らないものではありません!!」
風「そうですよ~、お兄さんは朝廷を改善すると仰っていましたけど、風達もその様な事が出来るとは到底思えません~」
稟「その通りです、一度腐ってしまった朝廷が齎すものは戦場以上の地獄だけです、そのような朝廷を野放しにしていては、それこそこの世には地獄が具現化する事になってしまうのですから!」
一刀「おいおいおいおい、稟と風は戦場が地獄よりもマシなものだとでも思っているのか!!?」
悲哀な表情から一変、今度は驚いた様で怒気を含んだ表情に移り変わる
一刀「冗談じゃない、あれは本当の地獄だ!戦場に希望なんてものは無い、有るのは掛け値なしの絶望だけだ、敗者の痛みの上でしか成り立たない、人間の悪害そのものだ!」
稟「・・・・・確かに一刀殿の言っている事も間違ってはいません、しかしそれもまた人の営みなのです!たとえ命のやり取りだったとしても、それは必ず有益な事に繋がるのです!」
風「はい~、そういった失敗を積み重ねていって、風達は法という秩序を構築していくんですから~、それが努力というものなんですよ~」
一刀「努力だって!?そんな同じ失敗を繰り返していく事が努力だって言うなら、何て不毛な事だよ!?それに失敗だって言うならこの時代にだって既にいくらでも例があるだろう、それを省みずに何の努力だって言うんだ!?」
そう、春秋時代や戦国時代などの間に行われた様々な悲惨な例がこの時代にだって存在する
それらを教訓にせず、次の戦争の参考にしか使わないと言うのであれば、余りに不毛としか言いようがないであろう
風「風達にだって分かっていますよ~、本来戦というものは極力起こしてはいけないものだと言う事くらい~」
一刀「違う!極力起こしてはいけないものじゃない!絶対に起こしてはならないものだ!」
稟「そのような事は不可能です!我々は神ではないのです、万能でないだけに、羅刹にもならねばならない時もあります!」
一刀「羅刹だって!?そんな生易しい名前じゃない、大量殺戮者と言うんだ!」
そう、長い目で見れば、太平洋戦争で戦争犯罪者になった東条英機やその他幾人もの将校以上に人を殺している歴史の偉人など他にいくらでもいるのだ
西欧における百年戦争、応仁の乱から数えれば約百年続いた日本戦国時代、これらを引き起こした人物は誰だ?
そして、この百年間に渡る戦乱に巻き込まれ無残に殺された一般人、戦死した兵士達の数は第二次大戦の比ではないはずである
なのに何故、東条英機らは犯罪者で他の偉人達は英雄扱いされているのか?
おかしいと思わないのか?矛盾していると思わないのか?
勝ったか負けたか、単に勝者と敗者の違いしかないというのであれば、三国志に英雄などいないはずである、何せ勝者が居ないのだから
大義名分の有無だと言うのであれば、当時の枢軸国にだって祖国防衛という大義名分があった
この理屈が通るのであれば、三国志の英雄と呼ばれる者達は、全てが戦争犯罪者として扱われて然るべきであろう
逆に言えば、ヒトラーや東条やムッソリーニだって英雄として祀り上げられていなければ嘘ということになる
なぜ宮本武蔵は人斬りではなく剣豪なのか?なぜ沖田総司は剣豪ではなく人斬りなのか?
なぜ信長、ナポレオン、始皇帝は英雄なのか?なぜヒトラー、ムッソリーニ、東条らは犯罪者なのか?
これらの人物達がやって来た事に違いがあるとでも思っているのか?
英雄と大量殺戮者、この二つを分ける明確な境界線、違い、理由は何だ?考えた事はあるか?答えることが出来るか?
だから一刀は全ての戦争を起こした歴史の偉人を犯罪者として扱うのだ、そうしなければ矛盾するからだ
一刀「二人は華琳に仕える従者なら、そんな愚かしい事をしようとしている華琳を止めるべきじゃないのか?」
稟「それは・・・・・」
一刀「戦いなんて虚しい、勝ち負けに対した意味なんてない、華琳や稟は戦いは有益なものとか言っていたけど、戦いから得られるものなんて無益なものだ、たとえそれが有益なものであったとしても・・・・・悲しいだけだ」
稟「・・・・・・・・・・」
風「・・・・・・・・・・」
一刀「二人は俺と旅をして、それをまるで学んでいないみたいだな、俺としてはその事実に気付いてほしかったのに・・・・・残念だよ」
稟「・・・・・しかし、それは華琳様も同じです!華琳様もその御身を犠牲にして、この国の為に、この大陸を統一しようとしているのですから!」
一刀「華琳は戦いに拘り過ぎだ、なんていうか、生きる事そのものが戦いといった感じだ・・・・・俺は華琳にそんな悲しい事をして欲しくないんだ」
風「・・・・・お兄さんは、華琳様に同情しているんですか~?」
一刀「同情だって?」
風「はい~、お兄さんの華琳様を見る目は、余りに哀れで、可愛そうなものを見ている目でしかありません~・・・・・」
一刀「俺は、華琳がしようとしている事が理解できないだけだ、だけどこれだけは分かる・・・・・それが自分を、ましてや他人を犠牲にする程のものじゃない事だけは確かだ」
稟「そのようなこと、分かるはず無いではありませんか・・・・・」
一刀「分かるだろう?他人からしたら華琳がこれからやろうとしている事は、はた迷惑な行いでしかないんだ、生きるという人間が持っている最大の理由を阻害することでしかないんだぞ・・・・・風、稟、人は殺せば死ぬんだ、華琳はそんな単純な原理から目を逸らしている、俺からすれば風や稟も人殺しの片棒を担いでいるようにしか見えない」
風「・・・・・・・・・・」
稟「・・・・・・・・・・」
一刀「秤っていうのは天秤という意味だぞ、二人はそれが何と釣り合うのか考えるべきだ、そしてこの言葉を華琳に伝えるべきだ、じゃないと・・・・・待っているのは地獄のみだ」
稟「・・・・・一刀殿ぉ」
風「お兄さん・・・・・」
変わらない、何も変わらない、出会った時から今日まで一刀は何も変わっていない
一刀の知識の潤沢さや能力は二人も知っているが、二人からすれば今の一刀はまるで成長の無い子供にしか見えない
いや、この場合、どちらが子供なのだろうか・・・・・
背を向け去っていく一刀の背中は、風と稟の目にかつては大きく映っていたかもしれないが、今は限りなく小さく霞んでしか見えない
まるで今にも消えてしまいそうな一刀の姿に、二人は悲壮感を拭えなかった
どうも皆さん
新年になる前に投稿で来てよかったです
投稿出来たは良かったものの・・・・・重い話ですみません
この重さは、ある意味前作の北郷伝を超えるかもしれません
最大の要因は、一刀の設定を極端にしている自分自身なんですが
しかしご勘弁ください、ご存知の通りこの鎮魂の修羅は全体的に重い物語ですから
という訳で、新年になる前に投稿することが出来ましたが、このような重い話で申し訳ありません
今年は阿修羅伝を含めると、11話の投稿となりました・・・・・遅いです、一月に付き一話にも届かない・・・・・
このような執筆速度ではいったい完結はいつになる事やら・・・・・
では皆さん、メリークリスマス、そしてよいお年を
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悲哀の修羅