No.88194

おにむす!⑱

オリジナルの続き物

2009-08-05 00:41:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:768   閲覧ユーザー数:740

「目が覚めたかい?」

不意に声を掛けられ、矢崎は声の方へと体を向ける。

見ると、アリスが椅子に腰を掛けてカップに口をつけている。

「ここはどこなんだ?」

「あたしの家だよ、安っぽい賃貸マンションだけどね」

そうは言うものの、矢崎の目から見ればかなり上のランクの物件である。

「迷惑掛けたみたいだな」

「まったくだよ、父親思いのお姫様がいなかったら、今頃公園で寝てるとこだよ」

「すまん…」

そう言ったところで矢崎の背中に重みがかかる。

「お姫様もお目覚めだね」

秋穂は無言で矢崎の背中に抱きつき、首に手を回した。

「ごめんな、怖かったろ?」

「…お父さんが遠くにいっちゃう気がして怖かった」

あのままバグを撃ち殺していたら、矢崎は遠い世界の人になってしまうんじゃないか? という不安が秋穂の中で渦巻いていた。

唯一の理解者をなくす辛さは矢崎も知っている。

だからこそ、秋穂にそんな思いをさせてはならなかった。

「その娘、あんたが寝てる間はずっとあんたの手を握ってたんだよ、よほど心配だったんだろうね」

「そうか、ありがとな?」

矢崎は秋穂の頭を優しく撫でてやる。

秋穂は心地よさそうに目を細めている。

「それと、ちょっと前にこんなものが投函されたよ」

不意にアリスの声が真面目になったことに矢崎は緊張感を覚えた。

アリスから投げ渡されたのは一通の封筒だった。

封が開いてるところを見るとアリスも中身を確認したのだろう。

中には三つ折になった便箋が二枚入っていた。

『親愛なる何でも屋の矢崎氏へ 君に預けてある少女を返していただきたい。

なにぶんこちらにも余裕がなくてね、事は穏便に済ませたい。

先日破棄の決まった当社の廃工場へ来てくれたまえ。御堂』

そして廃工場への詳細な地図が入っていた。

「どう考えても罠だろ」

「あたしもそう思う、いや、誰だってそう思う」

アリスは眉間に指を当てて考えている。

「でも、行くしかないだろうね」

「何でだ?」

アリスの出した正反対の意見に矢崎は目を丸くする。

「考えてもみな? 御堂財閥は全国的に幅を利かせてる企業だ、その情報網は半端じゃないさ。下手に逃げようものなら、文字通り地獄の果てまで追ってくるだろうね」

「かといって、これに乗り込んでいくのはさすがに無謀が過ぎる」

「私、行く」

「なっ!?」

突然の秋穂の発言に2人は驚いた。

「多分、このまま逃げても何も変わらないもん、私はお父さんと一緒にいたいってはっきり言いたい」

「へぇ」

アリスは感心したように声を漏らした。

「危険だぞ、いいのか?」

「逃げるだけの生活なんていやだもん」

「そこまでの覚悟があるなら、あたしは何も言わない、それに乗ることにするよ」

「わかった、秋穂は俺が守ってやる。 俺たちの生活を守るために立ち向かうとするか」


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択