「目が覚めたかい?」
不意に声を掛けられ、矢崎は声の方へと体を向ける。
見ると、アリスが椅子に腰を掛けてカップに口をつけている。
「ここはどこなんだ?」
「あたしの家だよ、安っぽい賃貸マンションだけどね」
そうは言うものの、矢崎の目から見ればかなり上のランクの物件である。
「迷惑掛けたみたいだな」
「まったくだよ、父親思いのお姫様がいなかったら、今頃公園で寝てるとこだよ」
「すまん…」
そう言ったところで矢崎の背中に重みがかかる。
「お姫様もお目覚めだね」
秋穂は無言で矢崎の背中に抱きつき、首に手を回した。
「ごめんな、怖かったろ?」
「…お父さんが遠くにいっちゃう気がして怖かった」
あのままバグを撃ち殺していたら、矢崎は遠い世界の人になってしまうんじゃないか? という不安が秋穂の中で渦巻いていた。
唯一の理解者をなくす辛さは矢崎も知っている。
だからこそ、秋穂にそんな思いをさせてはならなかった。
「その娘、あんたが寝てる間はずっとあんたの手を握ってたんだよ、よほど心配だったんだろうね」
「そうか、ありがとな?」
矢崎は秋穂の頭を優しく撫でてやる。
秋穂は心地よさそうに目を細めている。
「それと、ちょっと前にこんなものが投函されたよ」
不意にアリスの声が真面目になったことに矢崎は緊張感を覚えた。
アリスから投げ渡されたのは一通の封筒だった。
封が開いてるところを見るとアリスも中身を確認したのだろう。
中には三つ折になった便箋が二枚入っていた。
『親愛なる何でも屋の矢崎氏へ 君に預けてある少女を返していただきたい。
なにぶんこちらにも余裕がなくてね、事は穏便に済ませたい。
先日破棄の決まった当社の廃工場へ来てくれたまえ。御堂』
そして廃工場への詳細な地図が入っていた。
「どう考えても罠だろ」
「あたしもそう思う、いや、誰だってそう思う」
アリスは眉間に指を当てて考えている。
「でも、行くしかないだろうね」
「何でだ?」
アリスの出した正反対の意見に矢崎は目を丸くする。
「考えてもみな? 御堂財閥は全国的に幅を利かせてる企業だ、その情報網は半端じゃないさ。下手に逃げようものなら、文字通り地獄の果てまで追ってくるだろうね」
「かといって、これに乗り込んでいくのはさすがに無謀が過ぎる」
「私、行く」
「なっ!?」
突然の秋穂の発言に2人は驚いた。
「多分、このまま逃げても何も変わらないもん、私はお父さんと一緒にいたいってはっきり言いたい」
「へぇ」
アリスは感心したように声を漏らした。
「危険だぞ、いいのか?」
「逃げるだけの生活なんていやだもん」
「そこまでの覚悟があるなら、あたしは何も言わない、それに乗ることにするよ」
「わかった、秋穂は俺が守ってやる。 俺たちの生活を守るために立ち向かうとするか」
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