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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ二十七

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2016-12-01 01:00:37 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:2848   閲覧ユーザー数:2513

 

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ二十七

 

 

 地鳴りが聞こえ、空が日蝕の様に暗くなる。

 だが、その地鳴りは直ぐに止み、陽の光も明るさを取り戻した。

 

〈ご主人さまがザビエルを倒されましたっ!ザビエルは塵になって消えましたっ!〉

 

 直後に小波の句伝無量が全員の心に届いた。

 

〈ご主人さまの勝利ですっ♪ご主人さまは江戸城へ向かわれましたっ♪私もご主人さまと共に風魔の棟梁の救出に向かいますっ!〉

 

「祉狼くんっ♪やってくれたっすねえっ♪」

 

 柘榴が歓喜の声を上げるのを皮切りに、連合軍から大歓声が湧き起こった。

 

「浮かれんのはまだ早いんだぜ!鬼がまだウジャウジャと集まって来てるんだぜっ♪」

「そう言いながら声が嬉しそうだぞ、粉雪♪」

「その言葉!そっくりお返しするんだぜっ♪春日っ♪蹴散らせっ!赤備えっ♪」

「拙らも参るぞっ♪この日の本を救うため!奮うは今ぞっ!!」

 

 粉雪を先頭に武田赤備えが鬼の群れへ突撃し、春日もその横から武田騎馬軍団を突進させる。

 その背後から彼女達の主君の声が朗々と聞こえて来た。

 

「其の疾きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、知りがたきこと陰の如く、動かざること山の如く、動くこと雷霆の如し!」

 

 楯無に宿る新羅三郎義光に繋がる源氏の精霊が顕現した。

 

「新羅三郎義光を祖とする甲斐源氏が嫡流、第十九代甲斐武田家当主、武田太郎光璃晴信が命ず。我が血に繋がる源氏の武者どもよ!我が怨敵を蹂躙せよ!」

 

 精霊は騎馬武者となり、粉雪と春日を追い越して鬼の群れへと迫る

 更に光璃独自の御家流、風林火山も掛け合わせ、春日と粉雪の隊も強化された。

 

「あれ?」

 

 光璃が戸惑いの声を漏らす。

 御家流は見事に効果を発揮しており、美空達四人の正室がどうしたのかと心配になって光璃に駆け寄る。

 

「どうしたのよ、光璃!?まさかザビエルの奴が何か霊的な罠でも………」

「違う………その逆。」

「え?」

「予定以上の効果が出てる。春日と粉雪の隊に鼓舞の効果を付与する筈が…………連合軍全体に………」

 

[それはザビエルくんの結界が消えたからよ♪]

 

 その声は光璃が初めて耳にする声だった。

 振り返ると昴が小さな水晶玉を手の上に乗せ、ちょっと顔を引き吊らせている。

 

「その水晶玉は………」

 

 それは光璃が以前、祉狼の母に向けて挨拶の手紙を送る時に見せて貰った物だった。

 その時は水晶玉に文字しか映っていなかったが、今はひとりの女性が映っている。

 長い黒髪と雪の様に白い肌、そして何より微笑みを湛える紅い唇と金色の瞳が印象的な、何処か人間離れした美しい女性だった。

 

[やっほーーー♪吉祥伯母さんでーーす♪みんなには管輅って名前の方が判りやすいかな〜?]

 

 光璃は第一印象とのギャップに面食らった。

 

「は、初めまして……武田太郎光璃晴信です………」

 

 それでも光璃は水晶玉に向かって丁寧にお辞儀をする。

 

[はい♪初めまして♪それで光璃ちゃんの疑問の答えは今言った通り、ザビエルくんの結界が解かれたから。それまで押さえ込まれていた力が解放されて鉄砲水みたいにドカンと出ちゃったのよ♪]

 

 吉祥の説明をしっかりと頭に刻みつつも、それ以上に祉狼の身内と会話をしている事に舞い上がっていた。

 少し前に聞こえた聖刀の母、曹孟徳と名乗った声も、天空から聞こえた優しげな声も、祉狼から教えて貰った人達の声だと思うと興奮が治まらない。

 それは光璃だけではなく、久遠、一葉、美空、眞琴も同じだった。

 

 しかし、そんな気分を吹き飛ばす事態が発生した。

 

[ちょっと、兄さんたちっ!さっきの地鳴りと突然空が暗くなったのっ!祉狼達と何か関係がっって!吉祥さんが関わってるって事はそうなのねっ!!]

 

 背後から聞こえて来た激しい声に吉祥が慌て出す。

 

[拙いわっ!祉狼くんのお母さんが来ちゃったから話は一時中断よっ!]

 

 祉狼の正室五人が固まった。

 全員が祉狼の母親、つまり姑に会う事は無いと心の何処かで思っていたのが、突然の来訪となったのだ。

 心の準備など全くしておらず、頭の中が真っ白になる。

 水晶玉から吉祥の姿は消えているが、二刃の騒ぐ声とそれを宥めようとしている大勢の声は引き続き聞こえて来ていた。

 

「………こ……この様な場合どうするべきなのだ?」

 

 久遠は結菜の母、斎藤利政に初めて顔を会わせた時でさえ「デアルカ」で済ませたのに、今は完全にパニックを起こしている。

 

「そ、そんなの私にだって判んないわよっ!」

 

 戦略の天才と謳われる美空にも対処方法がまるで浮かばない。

 小姑ひとりは鬼千匹に向かうと言うが、ならば姑は一万匹相当か?

 尤も今の彼女達ならば、一万匹の鬼を相手にする方がまだマシだろう。

 

「そうじゃ!主様の御母堂は日の本の方であると聞いておったではないか!礼法に則り御挨拶を申し上げればこちらの誠意も伝わるであろう♪」

「あの、公方さま……ボクは祉狼兄さまから、母上は庶人の出身と聞いています………慇懃無礼になるのでは………」

「ぬおっ!そうであったっ!!」

 

 天下の暴れん坊将軍も冷静さを欠いて碌なアイディアが浮かばず、眞琴も最近は態を潜めていた弱気な所が顔を見せてしまっている。

 

「……………………………これは祉狼の助けが必要……」

 

 光璃の出した結論に他の四人は無言で頷いた。

 ならば目指すは江戸城と顔を向ければ、光璃の風林火山で戦闘力の上がった各部隊が鬼を次々と蹴散らしている。

 

「昇竜っ!槍天撃ぃいいいいいいいいいいっ!!」

 

 掛け声と共に柘榴の御家流が地を走り、地中から現れた巨大な槍が鬼を串刺しにして行く。

 

「うっひょぉおおおおおおおお♪なんかいつもより遠くまで届くっす♪このまま祉狼くんの所まで道を拓くっすよぉおおおおおお♪」

 

「横の鬼は任せろっ!」

 

 壬月が氣を送り込んだ金剛罰斧はこれまで見た事も無い程の大きさになっており、どう見ても人が振り回す物には見えない。

 例えるならF-15戦闘機の機首を掴んで斧として使おうとしていると言った感じだ。

 

「うぉりゃぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 それでも壬月はいつも通りに金剛罰斧を振り抜いた。

 後に続くのは一乗谷の時の数倍は有る轟音と衝撃。

 あの太った鬼ですら纏めて瞬時に叩き潰し、後に残るのは巨大なクレーターだけであった。

 

「「「壬月さまの後に続きますわよっ!」」」

 

 蒲生三姉妹、エーリカ、歌夜、不干がゴットヴェイドー隊の攻撃隊を連れて柴田衆の後に続く。

 

「いやいや流石、尾張の猛将鬼柴田殿。これでは某の出番はございませんなぁ♪」

 

 一葉の後ろから幽がいつもの笑顔を浮かべ飄々とした態度で現れた。

 

「幽!何処へ行っておったっ!」

「何処へって……一葉さまが拙者の制止も聞かずに飛び出されたんじゃないですか!馬廻りを連れてやっと追い付いたのに何て言い種!」

「そんな事はどうでもよいっ!一大事じゃっ!」

「そんな事とは何ですか!一葉さまの身に何か有りましたら!…………………双葉さまに将軍職を継いでいただけば宜しいですな♪そうなれば双葉さまも晴れて正室♪拙者も空いた側室の座を頂きウハウハ♪ああ、双葉さまに三千世界の継承だけは済ませてくださいませ。落ち目の将軍家からあれまで無くなると西国の大名が双葉さまを将軍と認めないでしょうからな。」

 

「貴様は双葉を使って傀儡政権でも作るつもりかっ!!」

 

[今あたしの名前を呼ぶ声が聞こえたわよっ!!]

 

 再び聞こえた二刃の声にまたも全員の動きが固まる。

 

[[[今のはお前の事じゃないから気にするな!]]]

[あたしじゃない…………って事は義秋ちゃんじゃない!やっぱり向こうと通信が……]

 

 二刃の声が徐々に小さくなり、殆ど聞こえなくなった所でようやく安堵の息を吐いた。

 

「幽……今のが主様の御母堂のお声じゃ………」

「それは先程も聞いておりましたから存じ上げております。」

 

「だったらっ!!…」

 

 一葉は思わず出た大声に、慌てて口を手で押さえる。

 

「(判っておるなら良い知恵を出せっ!)」

「いや、それは先程一葉さまと御正室の方々で祉狼殿の助力を乞うとお決めになったのでは?」

「おおっ!そうであったっ!では主様の所へ疾く参るぞっ!伴をせいっ!」

「御意に。そうそう、昴殿。その水晶玉でこちらの状況というのはどこまで伝わるのでしょうな?」

 

 今まで水晶玉の台座と化していた昴が、出来るだけ腕を伸ばして水晶玉を遠ざけながら小声で幽に答える。

 

「(実は私も突然こんな事が出来る様になって驚いているんですが、ザビエルの結界が在った時でもこの場から祉狼がザビエルと闘った様子を確認出来ていたようです。その時は師匠達も氣を水晶玉に送っていたからと思っていました。その師匠達も今はあの有り様………)」

 

 昴がチラリと視線を送った先には貂蝉と卑弥呼が枯れ草の上で体を丸め、親指を咥えて完全に寝入っていた。

 

「(ですけど、先程の二刃さまのご様子からこちらの状況は筒抜けみたいです…………きっとザビエルの結界が破れた為でしょうね。)」

 

 貂蝉と卑弥呼が説明せずに眠ってしまった為、昴ですら自分が外史の壁を越えているとは丸っきり気付いていなかった。

 

「(それでは何か?余らの行動はこの水晶玉から離れても向こうに伝わってしまうという事か?)」

「(はい。そう考えておいた方が宜しいかと。)」

 

 正室五人は再び顔を見合わせ頷いた。

 

「ならばやる事はひとつよの。」

「うむ。先程とそうは変わらんがな。」

「とにかく先ずは祉狼の所に行きましょう!」

「ボクらの力をお義母様に見ていただきましょう!」

「我らがどれだけ祉狼を愛しているかも!」

 

 五人は馬に飛び乗り、鬼と戦っている味方の軍勢の中を駆け抜けて行く。

 

「道を開けいっ!余が自ら血路を拓いてくれるわっ!三千世界っ!!」

 

 一葉の声に応えて異世界から名刀、名剣、名槍が千本以上現れ天を埋め尽くす。

 

「おおっ♪確かに結界が消えておるっ♪これまで感じていた靄のような物が完全に晴れておるぞっ♪行けっ!足利の名を慕う武具達よっ!主様への道を示すのじゃっ!!」

 

 天に浮かぶ武器が陽光を反射し、光の奔流となって彼女達の進む道に在る障害を尽く刈って行く。

 その後を連合軍が追い駆け、人馬の津波となって武蔵野を東へと押し寄せた。

 

 連合軍の人波の中、朔夜も馬を駆っているのだが呆れた様に溜息を吐いていた。

 

「はぁ………他人の領地だと思って好き放題に荒らしてくれちゃって………」

 

 朔夜の直ぐ横では十六夜が苦笑いをしている。

 

「ま、まあ、母さま♪…………そうだ!関東の大規模な治水工事をしたいっておっしゃっていたじゃないですか♪その地ならしと思えば………」

 

 言ってて流石に無理が有るなと思った十六夜の声が尻つぼみになっていった。

 

「そう?十六夜が良いならお母さんは構わないけど♪」

「え?それってどう言う意味ですか?」

「北条家ご本城さまはもう十六夜よ♪いきなりそんな大仕事をしようだなんて、お母さん嬉しいわ♪」

「え?え?え?………………私がご本城さま?」

「ほら、お母さんは祉狼ちゃんに禄寿応穏をあげちゃったでしょ♪その時点で当主を退いた事になるの♪祉狼ちゃんに当主の仕事をさせると光璃ちゃんとか美空ちゃんとかがブーブー言ってくるでしょうから当主は十六夜♪」

「そ、そんなっ!突然言われても困るよぉ………」

「それにね、十六夜♪これで晴れて十六夜は祉狼ちゃんの正室になれる権利を得るのよ♪」

「私も正室に…………で、でも、母さまは!?」

「お母さんは愛妾で充分♪祉狼ちゃんの傍にずっと侍って子作り三昧〜♪」

「そんなあ!母さまズルいよ〜!」

「そう思うなら十六夜も励みなさい♪あなたの妹か弟が先か、私の孫が先か。お母さんは楽しみにしてるからね♪」

 

 十六夜は母の言葉に困り果て、言葉が出てこなかった。

 

(そんな状況じゃ母さまに勝てる筈ないよぉ〜〜〜〜!)

 

 

 

 

 祉狼は江戸城を目の前にして立ち止まった。

 

「ご主人さまっ!どうされたのですかっ!」

「小波っ♪来てくれたか♪」

「それは勿論!」

 

 小波は祉狼がザビエルを倒した所で一度追い付いたが再び離されていた。

 祉狼が立ち止まった事でこうして追い付けたのだが、その立ち止まった理由が判らず心配になる。

 

「あそこに見えるのが江戸城ですね……………城の周囲にっ!」

 

 祉狼が見ていた先に視線を向ければ、江戸城周辺には数千の鬼が蠢いていた。

 

「小波。今から江戸城に姫野と宝譿を助けに行く。」

「はいっ!」

 

 祉狼の決意は僅かも揺らいでいない。

 小波も今こそ己の全てを賭ける時と力強く応えた。

 

「但し、姫野と宝譿の所に行くまでは、鬼を全て躱す事にする!」

「はいっ!………………え?躱すんですか?」

「そうだ!」

「ですが、今のご主人さまならば、先程目を覚まされた直後みたいに向かってくる鬼を人に戻して道を拓く事ができるのでは………」

「確かにそれは可能だし、あの鬼にされた人達を早く元に戻してあげたい!だが、あの江戸城を取り囲む鬼を全て同時に治療出来なければ、人に戻った途端に鬼に食い殺されてしまう。」

 

 小波は祉狼に言われて初めて気が付いた。

 これまでは祉狼が鬼を人に戻せばゴットヴェイドー隊が、さもなくば近くに居る隊が保護していたのだ。

 この場には小波と祉狼しか居ないのだから、間違いなく祉狼の言う通りの結果となる。

 その味方の到着を待つ時間が無いと判断したから、祉狼は鬼を全て躱すと言ったのだ。

 

「かしこまりました!先ずは宝譿殿と風魔小太郎の囚われている部屋に突入しましょう!あの場に居る鬼を全て治療なさって下さい!後は私が二人の宝譿殿の張っている結界を強化して部屋を丸ごと…」

「ちょっと待ってくれ!二人の宝譿?」

「あっ!ご主人さまの意識が戻られる直前に天からもうひとりの宝譿殿がやってこられたのです!」

「天からっ!?という事はもしかして……」

「はいっ♪ご主人さまのお国の宝譿殿だとおっしゃっておられました♪」

 

 祉狼は穏やかな笑顔を浮かべ、伯母達と伯父達に心の中で感謝した。

 

「よしっ!小波の策で行こう!」

「はいっ!」

 

 祉狼と小波は同時に地を蹴り、江戸城に向かって走り出す。

 鬼達も二人の存在に気付きワラワラと動き出していた。

 その動きはザビエルと美奈という司令塔を二つとも失い、全く統制が取れていない烏合の衆となっている。

 それでも二人に向ける意識は同じ。

 祉狼を食欲を満たす獲物、小波を性欲を満たす獲物と捉えていた。

 雲霞の如き鬼の群れが眼前に迫った所で、祉狼と小波は全く同じ動きで鬼の頭上を跳び越える。

 鬼の頭を蹴って更に跳び、足下に着地しては股の間を潜り抜け、鬼の振るう腕を発射台に利用して更に加速する。

 時には祉狼が小波の手を引き、小波が祉狼の足場となって鬼の群れの中を風となって駆け抜けた。

 その間に言葉は勿論、句伝無量ですら明確な意思を交わしていない。

 互いの気持ちを、意識を感じ取り、二人でひとつの人間であるかの様に体が動く。

 

 ついに江戸城の堀に辿り着くと、祉狼が小波を抱き上げ水上を滑り加速して、小波を天守に向けて砲弾の様に放った。

 祉狼も氣を水面に叩き付け小波の後追う。

 小波は縄を手にしており、その縄の端は祉狼が握っている。

 堀の水面から天守の屋根に一足飛びで降り立った小波は、縄を引いて祉狼を自分の傍らへと引き寄せた。

 二人は天上に開いた穴、天から飛来した宝譿が開けた穴に躊躇せず飛び込む。

 

「「「祉狼っ!」」」

 

 床に倒されている姫野と、姫野を守る二人の宝譿が同時にその名を呼ぶ。

 祉狼は応える代わりに両手を氣で輝かせた。

 

「人にっ!なれぇええええええええええええええええええええええええっ!!!」

 

 鬼の数は全部で十六匹。

 突然現れた祉狼と小波に反応するまえに、十六匹全てへ同時に拳を叩き込む。

 室内に居た鬼は床に倒れ、体が塵になって崩れ去ると中から人が現れた。

 

「宝譿殿!結界を張るお手伝いをいたします!」

「それより姫野の呪縛を解けるかっ!?ザビエルの野郎が死んだってのにまるで解ける様子がねぇんだっ!」

「呪縛が解けない?…………術者が死んでも解けないとなると、体のどこかに印を施されたのでしょう。調べます。」

「え?ちょっと、服部!調べるってまさか………」

 

「服を脱がす。」

 

「わああああああっ!!なにすんのよ変態ぃいいいいいいっ!!」

 

 姫野は大声を上げるが体がまるで言う事を聞かないので小波の為すがままだ。

 

「いつまでもこのままという訳にもいくまい!手早く済ませるから我慢しろ!」

「わぁああああん!せめて祉狼は見ないでぇえええええ!」

 

「俺は医者だ!気にするな!」

 

 相変わらず天然な祉狼だった。

 

「そうだ!もしかしたら長い間拘束されていたから筋肉や関節が固まっているだけかも!よしっ、俺がマッサージをしてみよう!」

 

 姫野はマッサージと聞いて戦慄した。

 前に駿府屋形でされた時みたいに便意を催すのではと思ったのだ。

 こんな所で、しかも呪縛で体が動かない状態でそんな事になったら………。

 

「祉狼はあっち向いててっ!服部っ!早く呪縛を解いてぇええええええっ!」

「最初からそう言えばいいのだ…………ん?この服はどういう構造に………」

「ひゃんっ!ちょっとどこ触ってんのよっ!や、やだ!そこはらめぇええええ!」

「呪印はどこだ!?見えていた肌には無かったから服の下に違いない筈なんだが………」

 

 祉狼は姫野に言われた通り部屋の出入り口を向いて鬼の動向を探っている。

 しかし、ダブル宝譿はしっかりと姫野と小波をガン見していた。

 

「「キマシタワーーーーーーーーーーーーー♪♪」」

 

 結界の範囲が下の階にまで一気に広がる。

 

「凄いぞ宝譿っ♪鬼が弾き飛ばされた♪下の階が確保出来たから寄って来た鬼を少しずつ人に戻して保護出来るぞっ♪」

 

 祉狼が喜び勇んで振り返ると姫野は小波に服を乱され胸がはみ出てていた。

 

「ひにゃぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 姫野のうなじが小さく光ったかと思うと体の自由を取り戻し、腕で胸を隠してゴロゴロと部屋の隅に転がった。

 

「おっ♪丁度呪縛が解けた所かっ♪良かったな、姫野っ♪」

 

「良くないしっ!なんで振り返るのよっ!祉狼のバカバカバカーーーーーーーっ!!」

 

「え?す、すまん………」

 

 困惑する祉狼に小波はヤキモチを妬いて、素っ気なく句伝無量で報告する。

 

「はい、風魔小太郎の呪縛が解けました。」

 

 

 

 

 久遠達が江戸城へ向かって駈け出した後、スバル隊と聖刀と桐琴は動かずに集まった。

 因みに森一家は雹子が引き連れて江戸城へ向かっている。

 

「なんだよ、母。獲物が全部持ってかれちまうじゃねぇかよぉ………」

 

 ブツクサと文句を垂れる小夜叉に桐琴が笑う。

 

「どうせ向こうに行ってももう獲物はおらん。全て祉狼が片付けちまうからな♪」

「さっきのみたいにか?んじゃ、しょうがねぇな。鬼がまだ潜んでるだろうから、それを探しに行っか♪」

「それも少し待て。」

 

 そう言った桐琴は西を見ていた。

 新たな土煙が現れ、その先頭で狸狐が必死に馬を駆っているのが見える。

 狸狐の後ろには薫、葵、悠季、白百合が見え、逍遥軒衆、松平衆、松永衆を引き連れていた。

 

「ご主人さまぁーーーーーーーーっ!!」

「聖刀お兄ちゃーーーーーーーーんっ!!」

「「聖刀さまぁーーーーーーーーっ!!」」

「我が君っ!ご無事かっ!」

 

「聖刀が鬼なんぞに遅れを取る訳無かろうに♪」

 

 桐琴が笑うと聖刀も微笑んだ。

 その聖刀に向かって狸狐が駆ける馬から飛び降りる。

 

「ご主人さま!ご主人さま!ご主人さまぁ………」

 

 狸狐は大粒の涙を流しながら聖刀の胸に飛び込み、聖刀もしっかりと狸狐の体を抱き止める。

 

「ごめんね、狸狐。心配を掛けてしまって…………薫、葵、悠季、白百合も。」

 

 聖刀は狸狐の頭を優しく撫でながら四人にも頭を下げる。

 

「薫は祉狼お兄ちゃんのことを心配して飛び出した聖刀お兄ちゃんを見て嬉しかったよ♪」

「祉狼さまも聖刀さまもご無事でホッとしました………」

「北条家御家流の禄寿応穏を祉狼さまが継承していなかったらと思うとゾッといたしましたよ………」

「我は反骨者なれど、我が君の祉狼さまを想う気持ちに感動いたしました。心配するのは我ら妻の特権でございます故、頭を下げられますな。」

 

[聖刀の嫁が全員揃った様ね。]

 

 昴の持つ水晶玉から再び華琳の声が聞こえた。

 

「母上。二刃叔母さんは?」

 

 聖刀が水晶玉を見て母と呼んだ事に、水晶玉から声が聞こえて来るという摩訶不思議な現象に疑問を持つ暇も無く、桐琴以外の五人の表情が固まる。

 

[璃々と駕医が来て落ち着かせているわ。一刀たちがまたボロ雑巾みたいになったけど、まああれは直ぐに元に戻るから大丈夫でしょ♪で、その子が…]

 

「お、お初にお目に掛かります!狸狐でございます!曹相国様っ!先日もお手紙をいただき誠に恐悦至極!こ、この度は…」

「初めまして、狸狐♪」

「は………ははっ!」

 

 狸狐は聖刀に教えられた包拳礼で華琳に応えた。

 昴は何だか自分に包拳礼をされている様に見えると思い、麻袋から台座を取り出して水晶玉を設置する。

 その水晶玉に映る華琳が微笑んで頷くと、次に薫を見た。

 

「は、初めまして!武田逍遥軒信廉です!通称…じゃなくて真名は薫ですっ!」

[初めまして、薫♪貴女は絵が上手だと聖刀の手紙に有ったわ♪見せて貰う日を楽しみにしているわね♪]

「きょ、恐縮です………」

 

 薫が真っ赤になってモジモジする姿に華琳は笑顔で応えた。

 

「松平二郎三郎元康にございます。真名は葵。曹相国様にこうしてお目に掛かれ、誠に嬉しく思います。」

 

 葵は落ち着いた態度で恭しく頭を下げる。

 

[初めまして、葵♪成程、正に百聞は一見に如かずね♪]

「……あの……それは………」

[ああ、うちの人たちが貴女をどんな子かって心配した事が有ったのよ。]

 

 これを聞いて葵は舅に対して何か粗相が有ったのかと不安になる。

 

[聖刀が嫁と認めた時点で私は安心していたし、こうして顔を見ればあれらも杞憂だったと思うでしょう♪]

 

「はい♪ありがとうございます♪」

 

 葵は華琳が庇ってくれた事を喜び心に余裕が出来ると、華琳が夫である皇帝を『うちの人』や『あれ』扱いしていた事に気が付いた。

 自分の中の『曹操孟徳』より、良い意味で庶民的な人だと好感を覚えた。

 華琳が一刀たちをこう呼ぶ様になったのは、桃香と蓮華の三人で城下に繰り出し、市井のおかみさん連中と話をしている内に感染ってしまったのだ。

 

「お初にお目に掛かります。本多弥八郎正信、真名は悠季にございます。御母堂様のご尊顔を拝謁賜れ、お声まで拝聴賜りこの悠季、感激に打ち震えておりまする。」

 

 悠季の慇懃な態度にも華琳は笑顔で応えた。

 

[そこまで畏まる事は無いわよ♪貴女はこれから気苦労が絶えないでしょうから葵の為にも励みなさい♪]

「御意に。御母堂様♪」

 

 悠季は華琳から覇王の凰羅をヒシヒシと感じていたので、誤魔化しは無駄と悟り誠心誠意己の気持ちを言葉にした。

 それを華琳が察してくれた事に胸を撫で下ろし、最後に笑顔を返す事が出来たのだった。

 

「曹相国様。我が名は松永弾正少弼久秀、真名を白百合と申しまする。此度は斯様な戦場にてのご挨拶となり恐悦至極。されど我が君、北郷聖刀子修輝琳様の御母堂、曹孟徳様にお会い出来ました事、誠に嬉しゅうございます。」

 

 白百合は典雅に通じた作法を以て緩りと挨拶を述べた。

 華琳も白百合が礼を尽くしていると判り、これにも笑顔で応えた。

 

[貴女は日の本の『茶の湯』に精通しているそうね♪いずれ私にも教えて貰えるかしら?]

「我如きで宜しければ喜んで♪もし叶うなら我が手ずから茶を立てて進ぜとうございます♪ですが異界への扉を開く(すべ)が未だ判りませぬ故、何時になります事やら………」

 

 白百合は心底残念に思い顔を曇らせる。

 

[あら、一番大事な事を伝えるのを忘れていたわ。聖刀。]

「はい、母上?」

 

[貴方達の居る日の本だけど、今はこちらの世界に転移して倭と融合しているから。]

 

「……………………………は?」

 

 流石の聖刀も華琳の言葉の意味が理解出来なかった。

 

[詳しい説明は後で吉祥にさせるわ。とにかく今、貴方達と私達は同じ空の下に居るのよ。こうして淀みなく通信出来るのもそのお陰♪こちらの水晶玉にはさっきまでより鮮明に貴方達が映っているわ♪]

「こちらは水晶玉が小さい所為か、あまり良く判らないんだけど………」

[まあ、それは一度置いといて、そちらでの嫁の最後のひとりとも話をさせて貰うわ。桐琴、聞こえているのでしょう。]

 

 呼ばれて桐琴は不機嫌そうに水晶玉の前に立った。

 

「おう!ワシが森三左衛門桐琴可成じゃ!」

[ふふ♪良い野生ね♪どう?貴女の望みが叶ったけど♪]

「ワシの望み?」

[魏武の大剣や武神と死合うのが望みだったのでしょう♪まだまだ大勢居るから退屈はしないで済むと思うわよ♪]

 

 華琳の言葉に桐琴の目が輝いた。

 

「くくく………あーーーーっはっはっはっは♪いや、流石聖刀の母君よ♪ワシの事を理解しておられわっ♪」

[私の真名は華琳よ♪桐琴、狸狐、薫、葵、悠季、白百合。私の真名を呼ぶ事を許します!その意味をしかと胸に刻みなさいっ!]

 

「おうっ♪」「「「「はいっ!」」」」「御意っ!」

 

 桐琴は胸を張って応え、他の五人は恭しく頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 華琳と聖刀の嫁達が話をしている最中、スバル隊の少女達もワイワイと話し合っていた。

 

「なーなー、昴ちゃん。三日月にはむつかしくて意味がわかんなかったぞー。」

「いや、三日月ちゃん、ちょっと待ってて…………私も理解出来なくて………」

「昴。お主が理解出来んのは言葉の意味では無く、言葉通りの事が本当に出来るのか信じられないのじゃろう?」

 

 沙綾に言い当てられて昴は素直に頷く。

 

「華琳さまは日の本を私が居た世界に丸ごと移動させたって言ったのよ………いくら吉祥さまと師匠二人が力を合わせたからってそんな大掛かりな術…………信じられないよ………」

 

 その術を最終的に成功させたのが自分の父親の幼女愛だとは、当然昴は夢にも思い付かない。

 

「綾那もむつかしいことは判んないですけど、風が変わったのは感じるです。」

「鞠も♪鞠も感じるの♪さっきの地鳴りとお空が暗くなって、直ぐに元に戻った時からなの♪きっとあの時じゃないのかなぁ?」

「犬子の鼻でも感じてるよ。鬼の嫌な匂いを吹き飛ばす様な優しい香りがする風だわん♪」

 

「綾那ちゃんと鞠ちゃんと犬子ちゃんが言うんだもの、間違いないのね………」

 

 昴は帰って来たという感慨よりも、これだけの大掛かりな術の影響が日の本に今後どの様な結果をもたらすのかが気になった。

 

「なに深刻な顔してんだよ、似合わないぞ♪」

「和奏の言う通りだよ〜♪いくらザビエルを祉狼くんが倒したって言っても鬼はまだまだたくさん居るんだよ〜。」

「鬼は大将を失っても退却しないでやがるからな。」

「それ処かここのは統制を失って我先にと襲い掛かってくるですよ。後顧の憂いを断つにも根切りにするのです!」

 

 和奏、雛、夕霧、夢に励まされ、昴は「ヨシッ」と気合を入れる。

 

「ありがとう、みんな♪それじゃあスバル隊は本隊が後ろから襲われない様に鬼の伏兵を探しに行くわよっ!」

「ちょっと待ってください、昴さまっ!また西から土煙がっ!」

 

 桃子の指差す方角を見れば、旗差物の影が見えるので味方だと判った。

 

「ゴットヴェイドー隊ですっ♪」

「!」

「北にも土煙が見えるってお姉ちゃんが言ってるよっ!こっちは鬼だってっ!」

 

 小百合が赤十字旗を捉えたと同時に烏が新たな鬼の群れの出現に気付いた。

 幸いな事に鬼はまだ距離が有るので、ゴットヴェイドー隊と合流してから対処が可能だ。

 

「あの鬼共、ゴットヴェイドー隊を狙ってんな。さては詩乃が上手い具合に誘き出したな♪」

「姐さん♪ワイらでいてこましたろやんけ♪」

 

 桐琴に江戸城行きを止められてふて腐れていた小夜叉は、ゴットヴェイドー隊が鬼を引き寄せたと直感で判断し嬉々としていた。

 熊もやっと小夜叉に追い付き一緒に刀が振るえると意気込んでいる。

 

「ごめん、小夜叉ちゃん!楽しみにしてる所申し訳ないんだけど、八咫烏隊の新兵器の威力を水晶玉の向こうに見せたいの。」

「ああっ!?ったく、しょうがねぇなぁ…………いいぜ、待ってやんよ。」

「ありがとう、小夜叉ちゃん♪さあ♪烏ちゃん♪雀ちゃん♪八咫烏のみんな♪出番よっ♪」

 

『『『はーーーーーーーーい♪』』』

 

 昴の呼び声に八咫烏隊(ようじょ)五十人の元気な返事が返ってくる。

 そして彼女達の乗って来た小さな馬車を横一列に並べ始めた。

 その馬車は烏と雀が乗って来た二人乗りの戦車と同じ物で全部で二十五台。。

 荷台となる場所に新兵器の石火矢『御煮虎呂死』が備えられている。

 

「弾込めろーーーっ!」

 

 雀の指示でせっせと発射準備を整える八咫烏隊(ようじょたち)

 そこにゴットヴェイドー隊が中心となった殿隊が到着すると、詩乃が慌てて昴の所にやって来る。

 

「昴さん!御煮虎呂死を使われるのですかっ!?」

「うん♪実は…」

 

「姉ぇーーーーーー♪」

「あねーーーーーー♪」

 

 昴の言葉が止まり、小夜叉に向かって走る蘭丸と坊丸を首が追い掛ける。

 

「ああっ!?蘭と坊じゃねぇか!なんでお前らがここに居んだよ?」

 

 小夜叉は蘭丸と坊丸の体当たりを難なく受け止め、二人の頭をワシャワシャと掻き混ぜる様に撫でた。

 その顔は思いがけない再会に喜んでいるのが滲み出ている。

 

「ワシが半羽に頼んだ。」

「母ぁーーー♪」

「ははーーー♪」

 

 今度は桐琴に突撃する蘭丸と坊丸だったが、桐琴は簡単に捕まえて空中に放り上げ、左右の両腕に抱え込んだ。

 豊満な乳房のクッションに受け止められた二人の幼児は、ケラケラ笑って数ヶ月振りに会う母の温もりにしがみ付く。

 

「んだよ、聞いてねぇぞ。」

「気まぐれだ。まあ、お陰で結菜さまへの良い援護になりそうじゃ♪」

「私への援護ってどういう意味?」

 

 ここに来るまで蘭丸と坊丸をあやしていた結菜が二人を追ってやって来た。

 

「はっはっは♪直ぐに判る♪それより、昴!さっさとやらんとワシとクソガキであの鬼を全部平らげるぞ!」

 

 蘭丸と坊丸を見るのに夢中になっていた昴は、桐琴に言われて我に返った。

 

「あ!そうでした!烏ちゃん!雀ちゃん!お願いっ!」

「(グッ!)」

 

 烏は親指を立てて返事をすると、距離を測り仰角を伝える。

 

「こ、昴さんっ!まだ事情を聞いては…」

「みんな耳ふさげーーーっ!」

 

 詩乃が目に入っていない雀は八咫烏隊の見せ場と張り切って号令を出す。

 

「撃てーーーーーーーーーーっ♪♪」

 

ドドドドドドォオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 天地を揺るがす大轟音と共に二十五発の砲弾が、完全に射程距離に入っていた鬼の群れ目掛けて飛んで行く。

 

ドゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 着弾地点で大爆発が起こり、二十五個の炎の花が武蔵野に大輪を咲かせた。

 使用された砲弾は通常弾ではなく炸裂弾である。

 鬼は粉々になって飛び散り、飛び散る鬼の牙や爪や骨が爆心地から離れた鬼を巻き込み、群れの八割の殲滅に成功した。

 派手な音と爆発に蘭丸と坊丸がまた興奮して桐琴の腕の中でキャッキャとはしゃいだ。

 

「見たかーーーー♪八咫烏隊の秘密兵器の威力をーーーーー♪」

 

 雀は御煮虎呂士の威力にご満悦だ。

 

「なんじゃ。あれならワシや壬月に御家流とそう変わらんではないか。」

「えーーーーー!?そんなお母さん、ヒドイよーーーーー!結菜さまもなんか言ってーーー!」

 

 良い気分に水を差されて雀は頬を膨らませて桐琴に文句を言い、続いて結菜に涙目で縋った。

 

「ええと…………と、とても大きな音だったわよ♪」

 

 先程半羽の御家流を見たばかりの結菜はつい比べてしまい、頑張って褒める所を探し出した。

 しかし、その顔は少々引き吊っており笑いがぎこちない。

 

「普通ならお城の門や塀を一発で壊せるんだよーーー!お母さんや壬月さまがスゴすぎるんだよーーー!もっと大きな弾を使えば威力だって増すもんっ!」

 

 雀の主張に三若などがウンウンと大きく頷いている。

 

「ではでかい弾を使えば良かったではないか。」

「それは…………………八咫烏のみんなが扱える重さじゃなきゃ一斉に撃てないし………」

「桐琴さん、あんまり雀ちゃんを苛めないであげてよ……」

 

 見かねた昴が桐琴の前に出る。

 

「鉄砲や大筒を扱うにも力は必要という事だ、昴!甘やかしてばかりではそいつらが死ぬぞ!」

 

 いざと言う時に自分の身を守れる様にしろと桐琴は言っているのだ。

 小夜叉を育てた桐琴の言葉は昴の心に鋭く突き刺さる。

 

「大丈夫です!」

 

 暁月の声が割って入った。

 桐琴に睨まれるが暁月は臆せず桐琴の目を見つめ返す。

 

「わたしも腕っぷしは全然ダメですが、八咫烏隊の皆さんと一緒に日々鍛錬を行って降ります。今はまだ守ってもらわねばなりませんが、敵から逃げ延びるくらいには直ぐになってみせます!」

 

 暁月の瞳に決意を見た桐琴は笑い出した。

 

「がっはっはっはっは♪昴、お前より奴らの方がしっかりしておるではないかっ♪」

「あはは♪そうですね♪」

 

 笑い合う二人に詩乃と結菜が我慢できずに口を挟む。

 

「昴さん。御煮虎呂死を使用した理由をまだ伺っておりませんよ。」

「桐琴も!蘭丸と坊丸が援護になるってどういう意味?」

 

「それはこの水晶玉で僕の国にこちらの声と姿が伝わっているからだよ♪」

 

 聖刀が台座に在った水晶玉を持ってやって来た。

 

「詩乃ちゃんと結菜ちゃんも空に映ってた姫野ちゃんを見たでしょ。宝譿がもうひとり現れたのも。あれは僕の国に居た宝譿で、その時に聞こえた声も僕の母さんのひとりなんだ♪」

「それは…………………」

「という事は…………」

「うん、御煮虎呂死を使ったのは丞相室の母さん達に威力を見せる為なんだよ♪それから祉狼のお母さんの二刃叔母さんがちょっと荒ぶっていてね♪」

 

 祉狼の母親の話が出た時点で詩乃の頭から御煮虎呂死の事は頭から吹き飛び、結菜に青ざめた顔で振り向いた。

 結菜も姑の機嫌が悪いと聞き顔が引き吊っている。

 

「そこで♪」

 

 聖刀は桐琴に抱かれた蘭丸と坊丸に微笑み掛ける。

 

「久し振り♪蘭丸ちゃん♪坊丸ちゃん♪覚えているかな?」

 

 上洛前に数える程しか会っていないのだ。

 普通なら覚えていなくても仕方が無い。

 

「まさとだーーー♪」

「まぁとーーーー♪」

 

 聖刀の着けている仮面が印象的だった為、蘭丸と坊丸はしっかり覚えていた。

 

「蘭、坊、お前らの新しい父じゃ。」

「父かーーー♪」

「ちちーーー♪」

 

 理解しているのかいないのか、判断は難しいが二人は聖刀を気に入っている様だ。

 

「あはは♪ありがとう♪それじゃあ、ちょっとこれを見てくれるかな?」

 

 聖刀は蘭丸と坊丸の目の前に水晶玉を翳して見せた。

 

 

 

 

 皇帝執務室で二刃が一刀たちを殴り倒した後、駕医こと華陀と璃々に宥められて取り敢えず椅子に座った。

 

「さっきまで久遠さん達が居たんでしょっ!あたしも挨拶したかったのにっ!」

「いやいや!あのまま会ってたら二刃、祉狼くんのお嫁さんと今後ずっと気まずいよ?」

 

 璃々は親友として歯に衣着せず二刃を諭す。

 

「そ、それは判ってるわよ…………でも…」

「二刃。はい♪」

 

 二刃が言い掛けた所で華琳が目の前に水晶玉を置いた。

 

「え?」

[[んーーー?]]

 

 不意を突かれた上に、水晶玉に映っていたのは幼児二人である。

 子供好きの二刃は完全に毒気を抜かれた。

 

[おまえだれだーーー?]

[だれらーーー?]

 

 お姉ちゃんの真似をする舌っ足らずな妹。

 二刃はこの外史に来たばかりの時に出会った姪っ子達を思い出し、思わず相好が崩れた。

 

「あたしの名前は北郷二刃よ♪お二人はお名前言えるかなぁ♪」

[蘭丸ぅーーー♪]

[ぼうまるーーーー♪]

 

 二刃は『蘭丸』『坊丸』と聞いて直ぐにこの子供達が何者か察した。

 

「元気に言えたねぇ♪えらいえらい♪」

[んふーーー♪]

[んーーー♪]

 

 幼児二人は褒められてご満悦だ。

 

「聖刀くん、そこ居るんでしょ。」

[お久し振りです、二刃叔母さん♪]

 

 聖刀も映り軽く会釈をする。

 

「久し振り♪もう、策士なんだから………もう落ち着いたから大丈夫よ♪」

[後で祉狼の事を色々伝えます。先ずは祉狼を愛してくれている人達の事を知って下さい。]

 

 聖刀からいつもの和やかな笑顔が消え、真摯な顔で二刃に頭を下げた。

 

(祉狼を愛してくれている…………か………聖刀くんがそこまで太鼓判を押してくれるなら間違いないんだから!しっかりしろ、あたしっ!)

 

 二刃が気合を入れた所で大事な事を思い出す。

 

「ちょっと、駕医さん!祉狼のお嫁さんの挨拶なんだからこっちに来て!」

「あ、ああ、そうだな………」

 

 さっきまで一刀たちをサンドバッグする程荒れていたのに、今はすっかり受け入れている妻の姿に駕医は苦笑していた。

 水晶玉に映る映像では聖刀が下がり、結菜が緋毛氈を敷き正座をしていた。

 

「御尊父様、御母堂様、お初にお目に掛かります。斎藤利政が娘、斎藤帰蝶にございます。真名を結菜と申します故、どうか結菜と気安くお呼び頂ければ幸いにございます。」

 

 深々と平伏する結菜に対し、二刃は(この子があの濃姫なんだ)と今更ながら感じ入っていた。

 二刃は歴女だ。それもここに来た時は中学三年生だったが同年代の歴女仲間と比べてかなりディープな。

 実家が剣の道場で自身も剣士だった二刃は過去の剣豪に興味を持ち、母親も歴女だった事も在り知識をこれでもかと詰め込んだ。

 三国志の知識は祖父、父、兄から教えられたのが切っ掛けで、独学する様になったのだ。

 そんな自分が三国志の武将を義姉に持ち、華陀を夫に迎え、次は日本の戦国武将を息子の嫁として迎えるのだから、何て贅沢な経験をしているのかと他人事の様に可笑しくなった。

 

「結菜さん、お顔を見せてください♪」

[はい。]

 

 自分を見る結菜の顔が一瞬驚きの表情を見せたのを二刃は見逃さなかった。

 正確には自分と夫を見てだ。

 

「初めまして、結菜さん♪あたしが北郷二刃子盾です。」

「初めまして。俺が華陀元化だ♪結菜さんが息子の嫁として真名を預けてくれるなら、俺も駕医という真名を預けよう♪ただ、その………」

 

 駕医が言い淀んだので結菜が緊張に身を固くした。

 

「済まないが、そんなに畏まらないでくれないか………堅苦しいのは苦手なんで砕けて話してくれると助かるんだが………」

「そうね♪公式な場ならともかく、御尊父御母堂なんてガラじゃないし♪お義父さん、お義母さんって呼んでくれる?」

[そ、それは……で、ではお義父様、お義母様と呼ばせていただきます……]

「祉狼も同じ様な事を言わない?あの子も公式行事には出たがらないんだけど♪」

[はい!先程のお義父様は祉狼にそっくりで……あっ!]

 

 思わず身を乗り出した結菜は恥じ入って顔を赤くする。

 

「あの子の事をそう呼んでるんだ♪姉さん女房だもの、それくらいが丁度良いわよ♪祉狼って思い込みが激しいから苦労するでしょう………ごめんなさいね。」

[いえ!それは全て人の命と幸せを守る為だと判っています!ですからそれを支えるのが私達の役目だと思います!]

「…………ありがとう♪祉狼は本当に良いお嫁さんと出会えたわ♪」

[そ、そんな………恐縮です……]

 

 妻と嫁の会話の途中だが、駕医は眉間に少し皺を寄せて割り込んだ。

 

「話の途中ですまない。慌ただしい声が聞こえるが、もしかして例の『鬼』が出たんじゃないのか?」

 

 駕医の言う通り水晶玉から周りの喧騒が聞こえていた。

 

[少し前に石火矢で迎撃した鬼の残りがこちらに…]

「ちょっとその鬼を見せて貰えないだろうか?祉狼達の手紙である程度は判っているんだが、やはりこの目で診てみたいんだ。」

[はい、畏まりました、お義父様。]

 

 結菜はどうしたら駕医と二刃に鬼を見せられるかと聖刀に振り向く。

 

[結菜ちゃんはそのままで待っててくれる?吉祥母さん、こっちはどうすればいいかな?]

「大丈夫、こっちで照準を合わせるから♪」

 

 吉祥が水晶玉に手を翳すと映像が切り替わり鬼の姿が映し出された。

 二刃と駕医から揃って唸り声が漏れる。

 

「………本当に病魔の塊じゃない………」

「人の姿をここまで変えてしまうとは…………俺達も出来る事ならそっちに行って治療をしたい!」

 

「行けるわよ。」

「「え?」」

 

 二刃と駕医は先程の華琳の話が聞こえてなかったので吉祥の言葉に驚いた。

 

「現状をちょと説明しておくわね。そっちも聞こえてる?」

[はい、吉祥母さん。]

「二刃ちゃん、駕医くん。祉狼くんがザビエルくんを倒したわ。いえ、正確には治療したわ。でも、元々が邪念の塊だった彼は取り戻すべき人の体を持っていないから塵となって消え去った。」

 

 駕医はザビエルを改心させられなかった祉狼の気持ちを察して目を閉じた。

 

「問題はここから。ザビエルくんは鬼の温床を作る為に地球を丸ごと包む結界を張っていたの。しかもザビエルくんが死んだら地球を爆発させて、その力を利用し鬼を数多の外史に飛ばす様にしていた。それを防ぐ為に私と貂蝉ちゃんと卑弥呼ちゃんが協力して結界を縮小させ、何とか鬼の居る場所のみを包む程度にまでした。でもそれだけじゃ日の本が消し飛んでしまうから、術をねじ曲げて転移術に変換したの。その結果として、日の本の本州、四国、九州をこちらの世界に移動させたわ。」

 

「……………ええと………スケールが大き過ぎて実感が湧かないんだけど…………」

 

「ほら、さっき地鳴りと空が暗くなったの。あれ、術の影響だから♪」

「ええっ!あの時はそんな大事になってたのっ!?地鳴りの音だってそんなに大きくなくて、空だってなんか薄暗くなった程度で、それも直ぐに治まったのにっ!?」

 

 それは水晶玉の向こう側でも同じ感想だった。

 始まった時は驚いたが直ぐに治まり、その直後に小波から句伝無量で祉狼の勝利を伝えられ、恐らく祉狼がザビエルの妖術の発動を止めたのだと誰もが勝手に思い込んでいたのだ。

 

「それはみんなの命が助かったんだから良しとして、問題はこの先よ。九州が鬼に征服されてしまっているわ。」

 

 

 

 

 水晶玉から聞こえた吉祥の言葉に全員が言葉を失った。

 蘭丸と坊丸も周りの大人達の雰囲気に黙ってしまったくらいだ。

 

「……………そんな………儂らが東国で戦っておる間に………」

 

 沙綾の呟きは全員の代弁だった。

 

[ザビエルくんが死の間際に祉狼くんに言ったの。私は祉狼くんを動揺させる嘘かと疑ってたんだけど、実際に鬼の居る地域に絞って転移させようとしたら九州の鬼の密度がとんでもない事になってて………更に拙い事にザビエルくんは今日にも鬼を載せた船が大陸に向かって出航するって言っていたの。]

 

「それはっ!目的地は対馬、その次は韓じゃないかっ!房都は勿論、許都からだって援軍が間に合わないっ!」

 

 焦る聖刀に狸狐が縋り付いて顔を見上げる様に見詰める。

 声は出さないがその表情は聖刀に落ち着いて欲しいと必死に訴えていた。

 

「狸狐…………済まない………もう大丈夫だよ♪」

 

 いつもの落ち着きを取り戻した聖刀は狸狐の頭を撫でる。

 その手がいつもより冷えていると気付いた狸狐は、聖刀の冷えた手を取り胸に抱いた。

 

[聖刀くん。九州の鬼は私が新たな結界を張って閉じ込める。だけど保ってひと月だと思ってちょうだい。]

[聖刀。こちらは既に出陣の手配を丞相室が始めているから。それに白蓮が丁度幽州に戻っているので、直ぐに連絡をとります。彼女なら朝鮮四群、高句麗、韓をまとめて防衛線を築いてくれるわ。]

 

 吉祥の横から華琳が再び現れ聖刀に言い聞かせた。

 

「うん………了解したよ、母上♪今は一刻も早く関東の鬼を一掃して西に向かう。」

[ええ♪直接会える日を楽しみにしているわ♪]

 

 聖刀は水晶玉に映る母へ頷くと振り返る。

 

「みんなっ!聞いての通りだっ!九州を占領した鬼が海を渡り大陸へ向かおうとしているっ!だが鬼は大陸だけでは無く西国にも絶対に上陸しようとするだろうっ!これ以上鬼に日の本を蹂躙させてはならないっ!我等は西に向かう為にも、東国の鬼を一匹残らず消し去ろうっ!!」

 

『『『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』』』

 

 武蔵野に荒武者達の新たな決意を込めた雄叫びが響き渡った。

 

 

 

 

「祉狼!もうすぐこの階も一杯になっちゃうしっ!」

 

 姫野の叫び声が階段で鬼と対峙する祉狼の耳に届く。

 祉狼が鬼から戻した人達を姫野と小波が奥へと運び寝かせているのだが、姫野が囚われていた最上階はとっくに一杯で、ダブル宝譿が広げた結界内のこの階でももう間も無く収容仕切れなくなるのは明白だった。

 

「くっ!これ以上の治療は無理か………」

 

「ご主人さまっ!お味方到着ですっ♪」

 

 祉狼達に窓の外を見る余裕は無いが、大勢の人の上げる気迫の声が聞こえて来る。

 江戸城を包囲する鬼の群れに連合軍が攻撃を開始していた。

 

「良し!助けが来るまで時間稼ぎを…」

「その必要は無いよ、祉狼くん♪」

 

 一二三がいつもの笑顔を見せて窓から室内に入って来た。

 

「さあ!風魔忍軍の諸君!君らのお頭を助け出すまであと一息だ!吾妻衆!三つ者!軒猿!天守から鬼を追い出すぞ!小波、伊賀者も連れて来ている♪みんなお頭の下知を待っているよ♪」

 

 天守の屋根には北条、武田、長尾、松平の忍び集団が集まり陣取っていた。

 鬼の密集する中を抜けて集まったのだから、全員相当腕が立つ者ばかりだ。

 その中から風魔忍者三名が窓から飛び込んで姫野の下に跪く。

 

「「「お頭様!ご無事で何より!」」」

「うんっ♪さあ!風魔忍軍の力を見せてやるしっ♪」

 

 一方、小波も句伝無量で配下の者に指示を飛ばす。

 

〈先ずはこの天守内から鬼を追い出すっ!〉

〈〈〈はっ!〉〉〉

 

 姫野と小波が同時に印を結び始める。

 

「「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前っ!!」」

 

 姫野に合わせて風魔忍軍が。

 小波に合わせて伊賀者が配置に着き同じく印を結ぶ。

 

「封魔結界っ!!」

「伊賀退魔陣っ!!」

 

 二つの術が同時に発動し、天守の一階に居た鬼数十匹が壁をぶち抜いて外へと吹き飛んだ。

 

「ご主人さまっ!天守は完全に結界で守られました!鬼は絶対に侵入できませんっ!」

「その代わり姫野と風魔忍軍、服部と伊賀者は術の持続で動けないしっ!」

「祉狼くんの補佐は引き受けた!しかし祉狼くん!ここだって収容できる人数は限られる!我らは普通に鬼の対処をさせて貰うよ!」

 

 祉狼は直ぐに返事が出来なかった。

 一二三を先頭に吾妻衆、三つ者、軒猿が階下に下りて散開し、結界に阻まれ見えない壁にぶつかって来る鬼を斬り伏せ塵に変える。

 その光景に、今は自分の力量がまだまだなのだと思い知る。

 

「判った!今は己の未熟さを心に刻む!この光景を目に焼き付けるっ!修行を怠らないと死に逝く人達にここで誓うっ!!」

 

 一二三が攻撃を中断し、祉狼の所に静かな足取りで戻って来た。

 

「祉狼くん…………君には前から言いたい事が有った。今までは遠慮が有って言わずにいたが、今の私は君の妻だ。遠慮無く言わせて貰う。」

 

 一二三は腰に手を当てて前屈みになり、口を尖らせて祉狼を睨んだ。

 

「いいかい?夫婦というのは苦楽を共にする物だ。君ひとりが苦しみや悲しみを背負い込むんじゃない!私達にも背負わせてくれ!君は私達妻が苦しむ姿を見たくないというだろうが、私達だって君が苦しむ姿を見たくはないんだ!」

 

 不意に一二三が祉狼の頬を両手で引っ張った。

 

「へあ?」

「祉狼くんは人から『薬師如来の化身』と呼ばれると只の人間だと答えるクセに、目指す物は神仏の所業だよ………それは確かに立派だが、君は自分で言う通り人間なんだ!我が儘で、頑固で、時々人の話を聞かずに走り出す猪で………何処までも優しい男の子だよ♪………私達はそんな君を好きになった。そんな君だから愛した。そんな君を守りたいんだ♪救いの手が届かなかった人達へは君の妻である私達もそれぞれのやり方で懺悔し、供養する。御屋形様も美空さまも公方様も眞琴さまも、何より久遠さまがそう想っていらっしゃるよ♪」

 

 間近で一二三に見詰められ、真剣で、慈愛に満ち、力強く、それでいて儚げな瞳を祉狼は正面から受け止めた。

 

「…………ありがとう、一二三………見失いかけた物を思い出させてくれて♪」

「どういたしまして♪良人どの♪」

 

 

「一二三ぃいいいいいいいっ!なにひとりで良い所を持って行ってるのよっ!!」

 

 

 天守の外、いや、江戸城の堀の外から美空の怒声が聞こえて来た。

 

「三昧耶曼荼羅っ!!!」

 

 今までで一番強烈な三昧耶曼荼羅が江戸城を取り囲んでいる鬼に叩き付けられた。

 飛び交う護法五神は苦笑しているが。

 

(美空ちゃんってばヤキモチやき〜♪)

 

 小さな姿の増長天が一直線に天守へ向かって飛び、鬼を浄化しながら道を作る。

 

(以前に比べたら良いんじゃない♪素直に自分の気持ちを言えるんだから♪)

 

 桃色の髪をフワリと靡かせ多聞天が舞う。

 

(惚気を無理矢理聞かされているみたいで、こっちが恥ずかしくなる………)

 

 大きな鎧で口元を隠した広目天が顔を赤くしていた。

 

(ふふふ♪祉狼くんがあれだけ素敵な男の子ですから♪わたくしもつい力が入ってしまいますわ♪)

 

 眼鏡っ子の持国天がクスクス笑った。

 

(私語を慎みなさい。聖徳太子の祈願に応えて以来この日の本の守護を担って来た我等が、大事な所で吉祥に助けられたのです。祉狼殿を助け出し、面目を躍如しましょう。)

 

 紅の鎧に身を包む帝釈天は毅然と鬼を浄化していく。

 

(そう言う帝釈も祉狼くんがお気に入りだよねぇ♪神をも誑すとは流石北郷の血を引くだけあるよねぇ♪)

(だ、黙りなさい!多聞天っ!)

 

 そんな神々の言葉は地上の人々には聞こえない。

 なので、いつも以上に姿を顕現させ続ける神々に対し、信心深い者は手を合わせていた。

 信仰は神に力を与える。

 終には帝釈達護法五神が江戸城に取り付く鬼の八割を成仏させてしまったのだった。

 美空自身、剰りの威力の大きさに驚きを禁じ得ないが、それよりも祉狼の下へと他の祉狼の妻達と一緒に走り出した。

 

 久遠、美空、光璃、一葉、眞琴、市、エーリカ、雹子、梅、松、竹、歌夜、不干、麦穂、壬月、柘榴、秋子、貞子、粉雪、心、春日、湖衣、朔夜、朧、十六夜が江戸城の天守へ駆け付ける。

 帝釈達も最後に祉狼の上に集まった。

 

『聞こえますか、祉狼殿。』

 

 鬼の姿が消えた江戸城内で、天守から出ていた祉狼の頭上から帝釈天が声を掛けた。

 その声はこの場に居る全員の耳にも届き、驚きを以て祉狼と帝釈天に注目する。

 

「ああ!あなたは美空を護る神様だろう?名前を訊いても良いだろうか?」

『我が名は帝釈天。美空とは姉妹の契りを結んだ者。私が護るのは日の本その物です。卑弥呼と貂蝉、吉祥とは旧い仲です。』

「そうだったのか!?知らなかったとは言え、挨拶が遅れて申し訳ない……」

『構いません。こうして言葉を交わすなど、普通は有り得ないのですから。それよりも祉狼殿、伝えるべき事が有ります。我ら護法五神が調伏した鬼は、全て人として極楽浄土へ向かいました。輪廻の輪に戻り、いつかまた地上に生を受けるでしょう。ですから祉狼殿は気に病まないで。己の成せる事を全力で成したのだから。そんな祉狼殿を責める者が居れば、その者には仏罰が下るでしょう…………具体的には貂蝉と卑弥呼が下します。』

「いや、俺の力が不足しているのは事実だ。責められるのならば甘んじて受け入れる。その上で、みんなと一緒に乗り越えるよ♪」

 

 祉狼の笑顔に帝釈天の顔にも笑顔が浮かんだ。

 

『良い覚悟です♪では我らはまた姿を消しますが、常にあなた達を見守っていますよ♪』

 

 帝釈天の姿が宙に溶ける様に薄くなって行く。

 四天王も祉狼の周囲を飛んでから天に向かった。

 

『新たなる日の本の王よ。我らは常に貴方と共に在る。』

 

 帝釈天の残した言葉に祉狼以外の全員が驚き目を見張った。

 

「帝釈天は何か勘違いをしてるんじゃないか?日の本の王は一葉だろう♪」

 

 勘違いをしているのは祉狼だ。

 一葉は征夷大将軍ではあるが、王では無い。

 日の本の王とは畏き所に住まう者であり、聖徳太子が戦勝祈願を行って以来、護法五神が日の本を守護する理由であった。

 美空は帝釈天が言った通り、姉妹の契りを結んだ仲。

 神主や巫女に近い。

 そんな護法五神が祉狼を日の本の王と呼ぶ理由を考えた時、京で何かが起きたと一葉達は思わずにはいられなかった。

 

 

〈祉狼!そっちのみんなに九州の事を伝えるんだ!〉

 

 

 句伝無量で聞こえた聖刀の声に、祉狼はザビエルが言い残した言葉を思い出す。

 

「そうだった!みんな、聞いてくれっ!鬼が九州を攻め滅ぼしたとザビエルが死ぬ間際に言ったんだっ!」

 

 やっと戦いが終わると思った矢先に新たな脅威を知らされ、祉狼は久遠達が驚くと思った。

 

「そこまで勢力を伸ばしておったかっ!」

 

 しかし、鬼が居る事は想定済みで、その規模の大きさにだけ驚いている。

 

「一刻も早く関東の鬼を根切りにし!西国へ向かうぞっ!」

 

『『『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』』』

 

 力強い雄叫びが江戸城を震わせた。

 

〈みんなにもうひとつ、伝えなきゃいけない事が有るんだ!〉

 

 再び聖刀の声が句伝無量で全員に聞こえた。

 

 聖刀は日の本が外史を転移した事を伝える。

 

「日の本が外史を越えただと?………………」

「…………と、言う事は………………」

 

 正室五人に姑の事が思い出された。

 

〈祉狼のお母さんが久遠ちゃん達とも話がしたいって言ってたけど、江戸城に集まっている鬼を全部片付けるまで待ってもらう様には言ってあるよ。僕らがそっちに到着する頃には片が付きそうだね♪〉

 

 再び迫る姑の脅威に正室五人は緊張が蘇り、他の側室や愛妾達にも緊張が伝播して行く。

 

「よしっ!それじゃあ後もうひと踏ん張りだな!江戸城全部が使えるなら残っている鬼を全部治療しても収容出来るぞっ♪」

 

 祉狼の相変わらずな言葉に久遠は呆れた様に声を掛けた。

 

「おい、祉狼。久し振りにご両親と言葉を交わすのだぞ。何か感想は無いのか?」

「ん?伝えたい事は山程有るが、目の前に患者がまだ大勢居るんだ。父さんも母さんも話をするより患者を優先しろと言うに決まっている♪」

 

 祉狼の自信に満ちた表情に、久遠の姑に対する緊張が霧散した。。

 

「ははははは♪そうだな♪祉狼のご両親であればその通りであろう♪」

 

 久遠は笑って祉狼の妻一同に向けて声を張る。

 

「皆の者っ!我らの良人のワガママに付き合うのが妻の務めであろう♪」

 

『『『応っ♪』』』

 

 一同も笑顔で頷いた。

 

「さあ行け、祉狼♪思う存分人々を救えっ♪」

 

「判った!久遠っ♪」

 

 祉狼は輝く笑顔で頷くと、城門へ向かって走り出した。

 久遠と、そして妻達がその後を追って走る。

 

 

「ゴットヴェイドォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「元気にっ!なれぇえええええええええええええええええええええええっ!!」

 

 

 祉狼の声が日の本の空に鳴り響く。

 

 

 

 

 

エピローグ その壱

 

 祉狼の治療によって鬼から人に戻った佐竹美奈義重は、意識の戻らない状態で馬車に乗せられ江戸城へ運ばれた。

 江戸城の一室に寝かされた美奈に、祉狼が再び治療を施す。

 

「はぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああっ!

 我が身!我が鍼と一つとなりっ!

 一鍼胴体!全力全快!必察必治癒!病魔覆滅!!

 

ゴットヴェイドオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

元気にっ!なれえぇええええええええええええええええええええええええっ!!!」

 

 祉狼が鍼を打つと、美奈はゆっくりと瞼を開いた。

 

「…………ここは………どこだっぺ………」

 

「江戸城よ、美奈ちゃん。」

 

 美奈の枕元、祉狼と向かい合わせに座る朔夜が答えた。

 

「…江戸城………おめぇは北条氏康でねぇか…………なんで………」

「佐竹さん。俺が誰だか判るか?」

 

 祉狼の声に顔を向ける。

 

「おめ………誰だっぺ………なんか見とことある気がすっけど…………」

 

 美奈の態度は演技とは思えない。

 

「美奈ちゃん。この子は薬師如来の化身と言われてる、田楽狭間の天人、華旉伯元くんよ。」

「田楽狭間の………」

「あなたはザビエルに鬼にされていたのよ。覚えてない?」

「おらが………鬼に………そうだ…おら、あいつに変な薬飲まされて………すんげぇ苦しかった………」

「その後のことは?」

「…………なんかあったのけ?………あれからどんだけ経ってんだ?………」

「今はもう師走よ。」

「師走?………おらがザビエルに会ったのは長月だっぺよ………三ヶ月も………」

 

 美奈は愕然となり天井を見上げた。

 その目の焦点は合っておらず、虚空を見ている。

 

「………その三ヶ月で………おらは何をしただ?………」

 

 祉狼は美奈が覚えていないのなら、このまま知らずにいた方が良いと考えた。

 

「佐竹さん、疲れているだろう?もう一度寝た方が…」

「あなたは常陸に居た武士も領民も全て鬼に変えたわ。そして周辺諸国に襲いかかり、関東から北の全てを滅ぼしたのよ。」

 

「朔夜おばさんっ!」

 

「祉狼ちゃん。ここで教えないのは美奈ちゃんに対する侮辱よ。佐竹も武田と同じ、新羅三郎義光の流れを組む家柄。光璃ちゃんが同じ目に合っていたとして、祉狼ちゃんはどうする?」

 

 光璃なら何を望むか理解した祉狼は口をつぐんだ。

 

「………おら……そんな酷ぇことしたんだっぺ………正に鬼の所業だっぺよ………」

 

 美奈は天井を見上げたまま涙を流す。

 

「………なしておらを生かしてんだ………こんな腹切る資格もねぇ鬼に………磔でも何でもしてくれっぺよ!」

 

「駄目よ。あなたの生殺与奪の権限は祉狼ちゃんに有る。鬼となった美奈ちゃんと正面から闘い、一度は敗れたけど再び闘い勝利し、鬼から人に戻した祉狼ちゃんに!」

 

 美奈は跳ね起きて祉狼をマジマジと見た。

 

「おめぇが………鬼になったおらに勝った………………」

 

 祉狼は黙って頷く。

 

「だったらおらはおめぇ………いんや、あなた様の言葉に従うっぺ………煮るなり焼くなり好きにするっぺよ。」

「判った。なら、佐竹さん。あんたは生きて罪を償ってくれ。あんたが殺した人々を弔いながら生きるんだ。」

 

「何言ってるっぺ!おらが死ななきゃ殺された人が浮かばれねぇっぺよ!」

 

 美奈が流石に上体を起こして祉狼へ訴えた。

 その美奈に言い返す者が居る。

 

「んなこたねぇだっ!」

 

 祉狼の横から聞こえた声に美奈は初めてこの部屋に多くの人が居る事に気付いた。

 

「おめぇは………伊達の雪菜…………」

「んだっ!オラの姉ちゃんとおっ母、それに米沢のみんなが鬼に殺されただ!」

 

 涙を浮かべて怒る雪菜に美奈は呼吸すら出来なくなり体が固まった。

 

「オラは美奈さんが死んで楽になるなんて許さね!少なくとも五十年は罪を償い続けてもらわなきゃ気が済まねぇだっ!」

 

 人間五十年という時代である。それは天寿を全うしろと言っているのと同じだ。

 

「具体的にはゴットヴェイドー隊で人の命を救ってもらうだ!」

 

 雪菜の言葉に祉狼が微笑んで頷いた。

 

「そうだな♪死んだ人は生き返らない!ならば、今生きている人をひとりでも多く救って貰おう。それが俺の佐竹さんに与える刑罰だ♪」

 

「………判ったっぺ………おらは生き恥を晒すっぺよ………」

 

 朔夜は美奈が納得するまで時間が掛かると思うが、決して理解出来ない事は無いと確信してコッソリと微笑んだ。

 

「その、ごっとべいどうとか言うのに…」

 

 室内に居た全員が固まった。

 

 

「違うっ!ゴットヴェイドー隊だっ!!」

 

 

「…………………………は?ご、ごっとべ…」

「ゴットヴェイドー隊だっ!!」

 

 突然の祉狼の剣幕に美奈は気圧されて、そのまま発音の特訓が始まった。

 

「まあ、これももう見慣れた光景だがな♪」

 

 久遠がヤレヤレと芝居がかった仕草をして見せた。

 

 

 

 

 

エピローグ その弐

 

 江戸城の戦いから二日後。

 祉狼は小田原城の市を訪れていた。

 祉狼の横を歩くのは緊張してガチゴチになった姫野だ。

 

「姫野、そんなに緊張してどうしたんだ?」

「べ、べべべべべべ、べつになんでもにゃいしっ!」

「?………美衣の物真似か?」

 

 祉狼は首を傾げながら姫野の手を引いて町中を進んで行く。

 

(お義母さまからお許しをいただいてるとは言え、やっぱり恥ずかしいしぃ〜〜〜!)

 

 話は二日前に遡る。

 鬼を全て治療し終えた祉狼は、水晶玉で父母と対面した。

 

[祉狼…………話は結菜さんから聞いたわよ。]

 

 明らかに怒っている二刃に祉狼はハッとなり頭を下げる。

 

「ごめん、母さん………俺がもっと修行に励んでいればもっと多くの人を救えたのに…」

 

[そうじゃないでしょっ!!]

 

 水晶玉が二刃の怒声でビリビリと振動する。

 祉狼と駕医は大きく目を見開き、そっくりな顔で驚いて二刃を見た。

 

[直ぐに風魔小太郎さんをお呼びしなさいっ!]

 

 祉狼の後ろに控えていた正室五人の顔から血の気が引く。

 朧、朔夜、十六夜が姫野の背中を押して祉狼の隣に座らせた。

 

「は、ははははは、はじめまいて!ふぃ、ひいまこたろう!姫野だしっ!!」

 

 呂律が回らず噛み噛みな姫野に、二刃は先ず頭を下げた。

 

「え?」

[この度は息子がご迷惑をお掛けしてしまって、本当にごめんなさいね………]

「そ、そんな!姫野が勝手に舞い上がってただけだし………」

[この子ったらあんなに大勢の従姉妹に囲まれて育ったのに、まるで女心に疎くて…]

 

[[[それはお前が市井の女の子を祉狼から遠ざけたからげぼぉおっ!]]]

 

 背後からぼそりとツッコミを入れた一刀たちを、振り返りもせず裏拳一発で窓の外まで殴り飛ばした。

 駕医が慌てて一刀たちを追って窓から飛び出す。

 

[そのお詫びと言っては何だけど…………祉狼のお嫁さんになってもらえないかな?もちろん、姫野ちゃんが嫌でなければだけど………]

 

「…………………」

 

[どうかしら?]

 

「…………………」

「母さん。姫野が気絶してるからちょっと待ってくれ。」

 

「おうおうおう!ちょいと待ちな!」

 

 祉狼が姫野の気付けをし始めた横から割り込む声が。

 

[あら、宝譿♪]

「俺はあんたと初対面だぜ。あんたの知り合いの宝譿はこいつだ。」

 

 エーリカが右手にいつもの宝譿を、左手に空から飛んで来た宝譿を置いて台座の様に立っている。

 

[そうだったの?ごめんなさい、見分けがつかなくて………]

「まあ、素人じゃ見分けるのは無理だろうから許してやるぜ。」

 

 ヒヨコの雌雄選別士の様な宝譿を識別する玄人が居るとは思えないが。

 実際、長く一緒に居るエーリカですら見分けが着いていないのだ。

 

「話を戻すぜ。俺は姫野に祉狼と市で一緒に買い物をさせるって約束をしてんだ。それをすっ飛ばして嫁ってのはねぇんじゃねえか?」

[そうだったのっ!?町で初デート♪いいわねぇ♪あたしもお父さんと房都の街を初めて一緒に歩いた日を思い出すわ♪暴れ牛が出てあたしを庇ったお父さんが…]

「母さん。その話は長くなるから又の機会に。」

[そう?…………まあいいわ。それじゃあ祉狼、姫野ちゃんをしっかりとエスコートするのよ!]

「判った!」

 

 こうして祉狼と姫野の初デートが決められたのだった。

 その陰でエーリカが落ち込んでいる。

 

「(あの…………私、お義母さまから無視されていませんか…………)」

エーリカさん!耐えて!お願いだから耐えてっ!))」

 

 ひよ子と転子が小声で必死にエーリカを応援していた。

 

 そして現在に至っているのだが、デートをする二人をゴットヴェイドー隊の選抜メンバーが追いかけて陰から見守っているのだった。

 

「やっぱりデートが失敗しないか心配じゃねえか♪」

 

 エーリカの胸の谷間に鎮座する宝譿が曰う。

 

「俺も関わったからには見届けねぇとな♪」

 

 風の所から来た宝譿は、小波の胸の谷間で曰った。

 

「デウスよ………大罪である嫉妬を抱く我をお許し下さい………」

「駿府屋形でご主人さまをお止めしていればこんな事には………」

「どう考えてもただの野次馬だよねぇ………」

「姫野ちゃんいいなぁ〜。私もお頭とでーとしたいなぁ……」

 

 嫉妬に身を焦がすエーリカと、ひたすら後悔に没頭して現実逃避をする小波。

 我に返って少々自己嫌悪に陥ってる転子と、新しく覚えた『デート』という言葉に憧れるひよ子。

 既に監視役もカオスな状態だった。

 

「あ!小物屋で止まった!」

 

 転子の言う通り祉狼と姫野が立ち止まって店先に並べてある小物を見ている。

 商品には櫛や簪といった装飾品も有った。

 

「う〜ん………俺はこういった物の良し悪しが判らないんだよな………」

「そうなの?…………それじゃあ姫野が祉狼に教えてあげるしっ♪」

 

 姫野は自分の得意分野になり、それまでの緊張が一気に解れた。

 

「こういうのは値段なんか見ないで、似合うかどうか着けた所を想像するとか、自分の好きな意匠で決めるの♪ほら、ひよちゃんは瓢箪の形の髪飾りとか着けてて、ころちゃんは蜂の意匠が好きじゃん♪」

 

 姫野の声が聞こえたひよ子と転子は良く見ていると感心する。

 

「そうか!じゃあひよにはこれ何かいいな♪」

 

 そう言って祉狼が手に取ったのは本物の瓢箪だった。

 物陰で見ていたひよ子がずっこける。

 

「いや…………そう言う意味じゃないし………」

「そうか?なかなかしっかりして良い瓢箪なんだが…………」

「もう少し捻った物を選ぶし!」

「捻った物………………ならこれはころにどうだ♪」

 

 今度は小さな壺を手に取った。

 

「これって…………炒り蜂の子じゃんっ!まさか糸でつないで首飾りにっ!?って、何で小物屋にこんなの置いてるしっ!」

 

 今度は転子が地面に手を着いて項垂れる。

 

「はっはっは♪いくら俺でもそこまで世間知らずじゃないぞ♪蜂の子はとても栄養価が高く、耳の病気に効くんだが美肌効果も優れていてな♪」

「え?肌が綺麗になるの?って、今は身に着ける物を選んでるのっ!」

「ああ、そうだった!…………それじゃあ、これはどうだ?」

 

 今度はちゃんと髪飾りを選んだ。

 

「へえ、桜の髪飾り…………これは誰に?」

「姫野に似合うと思ったんだが…………駄目だったか?」

「え………これを姫野に?…………ううん♪嬉しい♪」

「よし♪じゃあこれを買おう♪」

 

 祉狼は店主に金を払い、早速姫野に着けてあげた。

 

「うん♪似合ってるぞ♪」

「ありがとう、祉狼♪大事にするよ♪」

 

 姫野は自然に祉狼の腕を取り、満面の笑顔で歩き出す。

 監視役もその後を付いて行くが、今の小物屋で蜂の子はしっかりとゲットしてから後を追った。

 次に二人が立ち止まったのは武器屋だ。

 

「何か欲しい武器が有るのか?」

「う〜ん………」

 

 姫野ははっきり答えずに暫く店先で唸っていた。

 そして意を決して祉狼に振り向く。

 

「ねえ、祉狼はお医者さんだから人を殺すのは嫌だよね?」

「…………ああ、本当は戦も嫌いなんだ。」

 

 祉狼は忍がどの様な任務を遂行するか、思春と明命からじっくりと教え込まれていた。

 姫野が忍だから今までも、そしてこれからもその任務をこなすのだと思い出した。

 鬼を相手に戦う今はその手の汚れ仕事は無いだろうが、この先がどうなるかは祉狼も判らない。

 

「でも……」

「姫野、もう人を殺さないよ!ご本城さま…じゃなくて、ご隠居さまが姫野にゴットヴェイドー隊に入るようにって言ってくれたの!」

「そうなのか♪……いや、不殺の誓いは嬉しい………でも俺は万が一にも自分の好きになった人に死んで欲しくない!身を守る為なら襲ってくる相手を殺してでも生き延びて欲しい!……………かなり自分勝手な言い草なのは自分でも判ってる。だけどこれが俺の本心なんだ!」

 

 物影で見ていた小波の胸の谷間に居る宝譿が「ほう」と感心する。

 

「祉狼の奴、成長したじゃねぇか♪」

「そうなのですか?」

「ああ♪ガキの頃はとにかく人殺しは駄目の一点張りでよ。こっちに来る前くらいは、頭じゃ判ってるが心の根っこの部分で納得して無かったな。他人の命を奪ってでも守りたい相手が出来たって事だ♪お前さん達のおかげだ。ありがとよ♪」

 

 自分達の存在が祉狼を変え、祉狼がそこまで自分達を愛してくれていると実感してひよ子、転子、小波、エーリカは嬉しさに瞳を潤ませる。

 

「うん♪どうしてもしょうがない時はそうする♪でも普段は…」

 

 姫野は店先に置いてあった木刀を手にした。

 

「これで身を守るよ♪まあ、木刀だって頭とか首を狙えば殺しちゃうから、腕や足を折って動けなくすればいいっしょ♪その怪我も祉狼が直してくれるし♪」

 

 姫野がイタズラっぽく祉狼に笑ってみせると、祉狼も同じ様に笑い返す。

 

「判った♪姫野が動けなくした鬼は全て俺が人に戻す!悪党は全て俺が改心させる!」

「うん♪」

 

 祉狼は姫野が手にした木刀の代金を支払い武器屋を後にした。

 この後は茶店でお茶と団子を食べ、服屋を眺めるなどして健全なデートを続け、西に見える山々が茜色に染まり間も無く日が沈もうという頃、小田原城の本丸に戻り二人で夕食の膳を囲んだ。

 

「姫野ちゃんへのお詫びも兼ねて、腕に縒りを掛けて用意したよ♪」

「聖刀兄さん、ありがとう♪」

「あ、ありがとうございます………」

 

 姫野と聖刀はまだ自己紹介の挨拶を交わした程度で、仮面を着けてる事も有り姫野は聖刀を警戒していた。

 

(ねえ、祉狼の従兄って皇太子なんでしょ?料理できるの?)

(食べてみてのお楽しみだな♪)

 

 祉狼の笑顔がどんな意味なのか計りきれず、姫野は少しむくれる。

 

「頂きます♪」

「いただきます………」

 

 二人は手を合わせ軽く頭を下げてから箸を取った。

 膳の上には白米と味噌汁、そして数品の中華料理が載っている。

 おかずがどれも姫野の見た事の無い物ばかりで益々戸惑った。

 取り敢えず馴染みのある味噌汁から口を付けると、

 

「っ!!!???」

 

 その美味しさに目を白黒させて驚いた。

 スッキリしているのにコクが深く、僅かなエグ味も無く旨味だけが見事に調和している。

 

「これ………おみそ汁だよね?…………」

 

 椀をマジマジと見詰めるが、豆腐が入っている以外は姫野の良く知る野菜が数種類入っている、見た目はごく普通の味噌汁だ。

 

「姫野♪おかずも食べてみてくれ♪」

「……おかず……これなに?…………」

「それは春巻きだ♪中に具が入っていて美味しいぞ♪」

 

 祉狼が先に春巻きを齧り、美味そうに食べるのを見て姫野も意を決してひと口齧った。

 

「            」

 

 余りの美味しさに意識が飛んだ。

 

「あははは♪予想通りの反応だな♪聖刀兄さんの料理は美味しいだろう♪そう言えば姫野は駿府屋形での戦勝の宴を辞退したんだったな。出ていればあの時に聖刀兄さんの料理がたべれたのにな♪」

「えーーーーーーっ!?あの時もこんな美味しいご馳走が出てたのっ!?…………ううっ………姫野あの時は干し飯だったのに…………」

 

 姫野はその時の分を取り返す様により味わって食べたので、この後二人は食べ終わるまで殆ど会話が出来なかった。。

 しかし、終始笑顔で互いの目を見て頷き合うという、言葉の要らない幸せな時間を過ごしたのだった。

 

 食事を終えた後、姫野だけ朔夜の部屋に呼ばれる。

 部屋に入ると朔夜の他に十六夜、三日月、暁月、名月、朧の北条家の面々と結菜、双葉、慶、四鶴の奥を取り仕切る四人が正座をしていた。

 場の雰囲気に圧倒されながらも、姫野は朔夜の前で平伏する。

 そんな姫野に朔夜が早速要件を伝えた。

 

「お風呂を沸かしてるから祉狼ちゃんと一緒に入ってね♪」

 

「……………は?」

 

 朔夜の言葉が理解出来ず、姫野は思わず顔を上げて聞き返した。

 

「ほら、もう結構寒いじゃない?お風呂で身体を綺麗にしてから閨に移動してたら湯冷めしちゃうし♪」

 

 朔夜の笑顔と優し気な物言いに思わず納得しかけるが、寸手の所で我に返る。

 

「で、でも一緒にお風呂に入るって事は………その……は…ハダカ………」

 

 真っ赤になってモジモジする姫野の初心な姿は場の全員、年下の四姉妹も萌えてしまう程だった。

 

「なに言ってるの♪閨では裸になるのよ♪……あ♪もしかして、姫野は着たまま乱されるのが好きなのかなあ♪」

「え?服を着たままでもできるの!?」

 

 その手の知識が少ない姫野はそれならと期待を寄せた。

 そんな姫野を不憫に思った暁月が傍に寄って耳打ちする。

 

「(姫野。母さまは無理矢理組み伏せられ犯されるのが好きな被虐的趣味を持っているのかと言っているのです。)」

「(っ!!)」

「(姫野はそんなの望んでいないでしょう?)」

 

 姫野は必死に何度も首を縦に振った。

 

「姫野ぉー。((夫婦(めおと)になるんだから恥ずかしいなんて思ってたらダメだぞ♪」

「三日月、それでも恥ずかしい物は恥ずかしいのです。姫野、私にはその気持ち良く判りますよ♪」

 

 朧に笑顔を向けられ姫野は百万の味方を得た気持ちになる。

 

「ですが…」

 

 と、思ったら一転して朧の表情が厳しくなる。

 

「朔夜姉さまを始め、ご本城さまとなった十六夜、そして名月と私も未だ湯を共にしていません。本心を言えば私達も旦那様と湯を共にしたいのを我慢しています。ご隠居さまとご本城さまに先んじて旦那様と湯を共にする栄誉を与えるのは今回の働きに対する褒美であり、詫びでもあると心得て下さい。」

「朧姉さまの言うとおりですわ♪姫野はあんなに大変な目にあったんですの。その資格はありますわ♪」

「私もそう思うよ、姫野ちゃん!祉狼さんとのんびりお湯に浸かって甘えちゃえばいいんだよ♪」

 

 姫野にとっては仕える北条家のご親族様である。

 そのご親族様がこぞって祉狼と風呂に入る事がとても貴重な事の様に言うので、姫野も段々そんな気になってきた。

 

「し、祉狼とお風呂に入るのってそんなにスゴいことなんだ………」

 

「どうやら本人も納得した様なので、姫野さんに奥向きの序列を説明しておきます。」

 

 姫野が納得しているかはともかく、隙を見付けて結菜が攻めに入った。

 

「十六夜さんが北条家のご本城さまとなられたので、晴れて六人目の正室と認められました。それに伴い雪菜さんも七人目の正室となります。更に名月ちゃんと空ちゃんが側室となりました。朔夜さんと朧さんは本人の希望も有り愛妾と決まっています。ですので姫野さん。あなたは祉狼の愛妾となりますが、異存は有りませんか?」

 

「ご隠居さまと朧さまが愛妾なの!?」

 

「私は十六夜に家督を譲ってやっと肩の荷が下りたのに、また正室や側室なんかで堅苦しくなるのやだし♪」

「私は旦那様の妻である事が重要なので、特に気にならないですよ♪」

 

 この二人と同じ立場というのに少々恐れ多いと思ったが、小波も愛妾だったのを思い出した。

 何より朔夜が言った「堅苦しい」で、正室には公方と諸大名が居るのを思い出し、更に駿府屋形での窮屈な会見の記憶が蘇る。

 これは自分も朧を見習った方が良いと姫野は心に決めた。

 

「姫野に異存は全然無いしっ!」

 

「はい♪了承しました♪それじゃあ早速お風呂に向かってちょうだい♪」

 

「え?」

 

「はい、姫野♪行きましょう♪湯殿は私達の使っている所を用意させてるわよ♪」

「石鹸と按摩に使うお薬も用意してあるからね、姫野ちゃん♪」

「え?えっと…ご隠居さま?ご本城さま?……」

 

 朔夜と十六夜に左右から腕を取られ、そのまま引き摺られながら姫野は部屋を連れ出された。

 三人を見送り部屋に残った結菜、双葉、慶、四鶴が小さく溜息を吐く。

 

「姫野さんには明日の掃除が楽な場所を選んだとは言えないものねぇ………」

「西国に一日でも早く到着する為ですもの、致し方ないかと………」

「祉狼さまはまだお若いですから♪」

「朧殿と十六夜殿の時も後始末が大変じゃったからのう♪」

 

 言われて朧が顔を真っ赤にして縮こまった。

 それでも伝えるべき事が有るので怖ず怖ずと口にする。

 

「そ、その………旦那様が禄寿応穏を継承されて、今日が初めての………どの様な影響が出るのか心配です……」

 

 これに四鶴が首を傾げた。

 

「はて?朔夜殿の時、既に祉狼さまは禄寿応穏をその身に宿しておいでじゃろう?」

「あの時はまだ継承したばかりで恐らく覚醒していなかったと思われます。佐竹義重から受けた怪我を治し、ザビエルから受けた毒を消した事で完全に旦那様へ定着したと見て良いでしょう。」

 

 四鶴は御家流を持っていないので慶と結菜を振り返った。

 

「わたくしの神威千里行とは継承の型が違いますが、やはり思い通りに使える様になるには時間が必要です。」

「私の雷閃胡蝶は禄寿応穏に近いわ。母から受け継いで、まともに使えるまでひと月掛かったけど……」

 

「………と、いう事は…………」

 

 禄寿応穏は回復系の御家流である。

 病気を治し毒を消すが、今問題視する場所はそこでは無い。

 

 怪我を治す。

 

 病原菌や毒といった外的要因を排除するだけでは無く、身体に欠損や異常が有ると禄寿応穏が認識すれば正常な状態に戻す。

 

 では、もし禄寿応穏が射精後の身体を肉体の欠損と捉え『正常な状態』に戻したとしたら?

 

「…………………まさかそこまでの事は有り得ぬじゃろう………」

「そうとは言い切れないわ………………私達は傍に控えて様子を確認していた方が良いわね。」

 

 結菜の決断に頷き、早速姫野達を追いかけた。

 但し、三日月と暁月は事が祉狼の問題なので部屋に残っている。

 

「ええと……………どうする、暁月ぃ?」

「わたし達がこれ以上関わる訳にはいきません。昴の所に戻りましょう。」

「それでいいのかなぁ……………ま、いっか♪」

 

 三若のスチャラカな部分に毒されつつある三日月だった。

 

 

 

 

 祉狼は既に湯船の中に居た。

 

「今日のデートで姫野は楽しんでくれただろうか?……………結構笑っていたから大丈夫だとは思うが、母さんにも言われた通り俺は女心に疎いからなぁ…………」

 

 風呂場の窓から見える月を見上げて今日の姫野の顔を思い出す。

 そして月を見てもうひとつ思い出した。

 

「そういえばこの月は房都のみんなも見ている月なんだな♪早く水晶玉越しじゃなく直接会いたい物だ♪……………久々に璃々叔母さんの作ったカレーが食べたいな♪流石に聖刀兄さんも香辛料が足りなくてカレーは作れなかったし……」

 

 そんな独り言を言っていると脱衣場に人の気配を感じた。

 直ぐに姫野だと判ったが、特に声を掛けずにじっと待つ。

 

(久遠と結菜もこんな風に待ったんだよな…………あれから半年くらいしか経ってないのか………もっと長かった様な、もっと短い時間だった様な…………不思議な感じだ♪)

 

 考え事をしている間、脱衣場の姫野はウロウロ歩き回ったり踞って頭を抱えたりとなかなか風呂場に入って来ない。

 

(いかん………これ以上湯に浸かっていたらのぼせる………まてよ?禄寿応穏は湯中りも治すかな?治すだろうな………いや!この程度の健康管理を怠る様では医者として失格だ!)

 

「ああもうっ!迷ってたって仕方ないしっ!ここは勢いでっ!」

 

 祉狼が湯船から上がったのと姫野が意を決して木戸を開けたのは同時だった。

 

「あ…………………………」

「ああ、姫野♪早く湯に浸かると良い。脱衣場に長く居たから体が冷えただろう?」

 

 

「祉狼っ!前隠してっ!」

 

 

 姫野は手拭いで前を隠していた手で顔を覆って叫んだ。

 手で手拭いを掴んだままなので、当然手拭いは身体を隠す役を終えていた。

 祉狼もそこを指摘して姫野に恥を掻かせる程気が回らない訳では無い。

 

「姫野♪目を瞑ったままで良いからじっとしていて♪」

「な、なに?…………」

 

 祉狼は素早く姫野をお姫さま抱っこをすると、湯船に戻りゆっくりと姫野を風呂に入れる。

 

「ほら、風呂に入るぞ♪湯は熱くないか?」

 

 裸の肌に祉狼の腕や身体が触れていると目を瞑っていても判り、心拍数と体温が急上昇して湯の温度など気にするどころでは無い。

 

「ほら、もう大丈夫だ♪先ずはゆっくり湯に浸かろう♪」

「え?……………あ…………」

 

 祉狼の身体が離れ、檜の湯船の感触が背中と尻に当たった。

 目を開けると祉狼の顔が有り、湯と湯気のお陰で互いの身体が隠れていた。

 

「う、うん……………」

 

 姫野は祉狼の身体が離れた事に寂しさを感じたのを自覚する。

 

「月が綺麗だぞ、姫野♪」

 

 祉狼が湯船で身体を伸ばして窓を見上げる。

 

「…………うん♪ホントだ♪」

 

 姫野も窓から見える月を眺め、身体を祉狼に預ける様に寄り添う。

 もう恥ずかしさは無く、祉狼の肌の温もりを求めていた。

 

「祉狼………助けに来てくれた時…………スゴく嬉しかったよ♪」

 

「俺も姫野が無事でいてくれて心底ホッとした…………宝譿には幾ら感謝してもしきれないな♪」

「うん♪ホントに♪」

 

 二人は互いを見つめ合って微笑む。

 

 自然に二人の顔は近付き…………口付けを交わした。

 

………………………………

 

………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

 二人は何度も愛し合い、姫野は最後の絶頂で遂に気を失いそのまま寝入ってしまう。

 

「姫野?…………寝てしまったか♪」

 

 寝顔には笑顔が浮かんでいて、祉狼は何処か達成感の様な物を感じていた。

 

「しかし困ったな…………俺の方はまだ治まらなさそうだぞ………」

 

 祉狼は何度も絶頂を迎えたにも関わらず元気なままだ。

 朧が懸念した禄寿応穏による超回復が現実となったのだ。

 

 

「祉狼さまっ♥この雹子めがお相手をしてさしあげますっ♥」

 

 

 突然木戸が開いて全裸の雹子が飛び込んで来た。

 

「雹子さんズルいですの!っていうか、いつの間にいらしてたんですのっ!?」

「私も来ちゃった♪祉狼ちゃん、夜はまだまだこれからよ♥」

「祉狼さん♥私もお相手します♥」

「わ、私にも………その………お情けを♥」

 

 名月、朔夜、十六夜、朧も全裸で雹子の後から湯殿に入って来た。

 

「私達は先ず姫野の身体を洗って、隣で寝かせてあげましょう♪双葉さま、四鶴、慶、小波♪」

「はい、結菜さん♪」

「「「はい,結菜さま♪」」」

 

 こちらの五人もその後で祉狼に情けを貰う気満々だ。

 

 こうして小田原城の長い夜の戦いが始まったのだった。

 

 

 

 次の日、十六夜以外の正室六に風呂場を使った全員がジト目で睨まれ、風呂掃除をする事になった。

 

「なんで姫野までお風呂掃除しなきゃなんないのぉ……………」

「まあ、そういうな、姫野♪自分で使った物は自分で片付けよう♪」

「祉狼が一緒だからまだ良いけど…………………♪」

 

 姫野と祉狼もタワシを使って一緒に風呂の床を洗っている。

 その様子を監視する正室六人の内、光璃が脱衣場に置いてある木刀を見付けた。

 

「これ………昨日祉狼が姫野に買ってあげた…………」

 

 光璃は懐から小刀を取り出し、木刀に文字を刻み始める。

 

 木刀には『風林火山』の四文字が刻まれ、光璃に念も込められた。

 

「うん♪これなら祉狼を護れる♪」

 

 光璃は木刀を眺めて満足気に頷いたのだった。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

これにて『戦国†恋姫 三人の天の御遣い』は終了となります。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました♪

まだ九州に鬼が残っているし、中国地方や四国も残っているとお思いでしょう。

ですが、祉狼、聖刀、昴の三人が元の外史に戻り、日の本も違う外史の千三百年も前の時代に飛ばされてしまいました。

そこで突然ですがお知らせです!

 

この続きは新タイトル『鍼・戦国†恋姫†無双X』でお送りいたします!

 

但し、連載ペースは遅くなりますのでご了承下さい。

その代わり現在連載を中断していた『三爸爸』と『黒外史』も再開します!

更に三爸爸内のおまけも独立させ、全て短編形式にして書き上がる毎に投稿するスタイルに変更する予定です。

 

取り敢えず次は前から予告していた戦国の幕間劇となります。

お題はこの時期ですので『クリスマス』です!

お楽しみに♪

 

 

木刀の『風林火山』を結局出しちゃいましたw

 

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)

佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)

佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)

各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)

森蘭丸

森坊丸

森力丸

毛利新介 通称:桃子(ももこ)

服部小平太 通称:小百合(さゆり)

斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

蒲生氏春 通称:松(まつ)

蒲生氏信 通称:竹(たけ)

六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)

三好右京大夫義継 通称:熊(くま)

武田信虎 通称;躑躅(つつじ)

朝比奈弥太郎泰能 通称:泰能

松平康元 通称:藤(ふじ)

フランシスコ・デ・ザビエル

白装束の男

朝倉義景 通称:延子(のぶこ)

孟獲(子孫) 真名:美以

宝譿

真田昌輝 通称:零美

真田一徳斎

伊達輝宗 通称:雪菜

基信丸

戸沢白雲斎(加藤段蔵・飛び加藤) 通称:栄子

小幡信貞 通称:貝子

百段 馬

白川 猿

佐竹常陸介次郎義重 通称:美奈

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7532217

 

 


 
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