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真・恋姫†無双 ~夏氏春秋伝~ 第百二十八話

ムカミさん

第百二十八話の投稿です。


いよいよ本格的に最終章が始まります。

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2016-11-28 03:05:40 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2617   閲覧ユーザー数:2176

 

春蘭、秋蘭、華琳の三人と飲み明かした夜から一月と少しの時が過ぎた。

 

この間、未だに国境での小競り合いは続いている。

 

変わったことと言えば、一刀が積極的に最前線へと赴くようになったことだった。

 

時には火輪隊を引き連れて新兵器と新戦術で敵を退け、時には黒衣隊を率いて敵を掻きまわす。

 

その時々で連れて行く将は様々。

 

ただ、その多くがここ最近の一刀の評価について口を揃えたかのように同じことを言う。

 

曰く、鬼のようだった。曰く、逆に相手が不憫に思えた。

 

その評価が示すように、一刀はここ最近の戦では初めからリミッターを外した攻撃を行っていた。

 

もちろん、考え無しにそのようなことを行っていたわけでは無い。

 

このような行動を取る一刀の思惑は二つあった。

 

一つは各地に積極的に出陣してその先で猛威を振るうことにより、小競り合い自体を収束に向かわせるため。

 

そしてもう一つは”奥の手”の実地活用の可否を己の感触から調べるためだ。

 

このうち、一つ目の思惑は上手く嵌まった。

 

桂花を説得して協力を漕ぎ付けたことで、一刀は転戦・連戦含めてこの一月は戦に出ずっぱりだったのだ。

 

その行く先々で得物を交えた将は様々。

 

蜀の将の中には関羽がいたこともあったし、呉の将の中には孫策がいたこともあった。

 

その二人を含むいずれの将も一刀の初っ端からの全力には出端を挫かれ、まともに働かせてもらえていなかった。

 

「何といいますか……あの時の一刀さんには鬼気迫るものがありました。

 

 相手は関羽だったのですが、一刀さんは多少の傷を物ともせず手数で攻め通し、あっと言う間に相手の撤退まで持ち込んでいました」

 

とは菖蒲の談。

 

他にも色々と話を聞く。

 

霞に言わせれば、前より踏み込みが深くなっていることがあるそうだ。まるで斬られることを恐れていないか、それすらも捌けると主張しているかのように。

 

凪からも変わった意見を聞くことが出来る。

 

曰く、一刀の氣の使い方が今までとは変わっている、とのこと。

 

これは一刀の思惑の一つが原因である。

 

様々な意見があれど、総じれば言われることは一つ。

 

悪鬼羅刹かはたまた阿修羅か。敵軍から見ればそのようにも見えてしまうほどの暴れっぷりだった。

 

この一月の一刀の大暴れが功を奏し、一つ目の思惑の通り、魏の国境は静けさを取り戻し始めていた。

 

それと時を同じくして、各地の間諜から同様の報告が上がり始める。

 

つまり、蜀と呉が足並みを揃えようとしている気配がある、と。

 

大陸に来て以来、間違いなく最大の戦がもう目と鼻の先にまで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成都の地では諸葛亮、龐統、徐庶を中心にてんやわんやの大騒ぎとなっていた。

 

今まで取った策の内容とその結果の整理、今遂行中の策とその成行きの予想、そしてこれから取ろうとしている、或いは取るべき策の選定・改善。

 

ほんの一月前までは押しつ押されつの状況であったというのに、ここ最近の報告に挙がる内容は芳しくないものばかり。

 

一部手を組んだことで周瑜から得ている情報を信じれば、呉でも同じような状況らしい。

 

「はわわ~!さっきの報告にありましたが、星さんもダメだったそうです!」

 

「あわわ……これじゃあ当面の策は全部見直さなきゃ……

 

 どうしよう、雫ちゃん」

 

「はわあわ言ってないでちょっとは落ち着きなさい、朱里、雛里。

 

 碧さんと月蓮さんは前線に出ないと聞いてから、こうなる可能性は考慮されていたはずでしょう?」

 

飽くまで冷静に、徐庶は二人を叱りつつ状況の整理を始める。

 

何時如何なる時でも冷静であらんとする徐庶は、蜀において貴重な纏め役たる人物だった。

 

それがこの場でも遺憾なく発揮される。

 

「今まではあまり出てきていなかった北郷と呂布を度々見るようになった。

 

 ただそれだけのことよ」

 

「それだけ、で済ませられることでは無いと思うのですが……」

 

「そうは言うけれど、雛里、現状私たち蜀にも、そして呉にも、あの二人に単騎で対抗出来る将はいないのでしょう?」

 

「そ、それはそうですけど……」

 

「愛紗さん達も実力は十分に付いたと仰っていました。碧さんのお墨付きも頂いています。

 

 現に、一月前まではあの北郷とも互角に戦えていたのですから」

 

言い淀む龐統の横から諸葛亮が口を挟む。

 

それは龐統も徐庶も知っている事実。その事実があるが故に龐統は言い淀んでしまった面もある。

 

「何か切っ掛けがあって北郷の武力が急に伸びた。或いは実力を隠していた」

 

「それは私も考えました。ですがそうする利点が見当たらないんです」

 

「……そうね。でも、そういう可能性はある。私たちが理由を思いつかないだけなのかも知れない。

 

 北郷に得体の知れないところがあることは貴女達も分かっているでしょう?」

 

可能性を追い、事実を受け止めろ。徐庶はそう言っている。

 

龐統とて別に現実逃避がしたかったわけでは無い。

 

すぐに切り替えて策の見直しに移った。

 

「北郷に限らず、魏の他の将がまだ実力を隠している可能性はあると思いますか?」

 

「断言は出来ないけれど、これ以上は無いと思うわ」

 

「雛里ちゃん、雫ちゃん。北郷や呂布ほどでは無いけれど、楽進も要警戒対象だと思うよ」

 

「ああ、そういえば楽進も氣を使う将なのでしたね。

 

 北郷同様、何をしてくるか分からないところがあるのは確かですね」

 

「碧さんに何か聞くことは出来ないでしょうか?」

 

「前に北郷絡みで一度聞いてみたことがあるわ。

 

 何でも、氣を扱う者の資質と鍛錬次第でなんでもありとなる可能性はある、とのことよ」

 

「碧さんでもはっきりしないということですか?」

 

「氣の可能性は扱える者にしか分からず、扱える者もそれを言葉にして上手く説明することが出来ない。

 

 だからはっきりしたことは分からない。そう言っていたわね」

 

「厄介、ですね。対策が打ち辛いことこの上ないです」

 

龐統の言葉がまさに現状をはっきりと物語っていた。

 

一刀の急な大暴れを氣が原因だと断定することも出来ず、仮にそれが原因なのだとすれば凪にもその可能性があると見なければならない。

 

かと言ってこれに焦点を絞って対策を打ったところで、他に要因があったならば全てが空回りにもなりかねないのだ。

 

議論は行き詰まりを見せる。

 

特定の方面にしか有効でない対策しか思いつかない。

 

 

 

「結局のところ、蜀では人手不足ということに帰結するわね」

 

長々と、しかしまるでループしているかのようだった議論の果てに、徐庶はそこまでの話し合いをあまりにも簡潔な一言にまとめた。

 

しかし、それは残酷なまでに真実で、諸葛亮にも龐統にも否定する言葉は無い。

 

考えつく有効な策を全て行うには蜀の人材では絶対的に人手が足りていないのだ。

 

となれば、取り得る選択肢は限られてくる。

 

的を絞って策を実行に移していくか、あるいは――――

 

「最早蜀だけでは手に余ると判断するべきかと思います」

 

「雛里ちゃん?それって……」

 

「うん、朱里ちゃん。私は決めたよ。桃香様に、呉と本格的な協力態勢と取って事に当たることを進言する。

 

 ここまでやってきて、ここで中途半端にしたり賭けに出たりはしたくないもん」

 

「…………雛里の言う通りね。

 

 蜀も大きくなってきたとは言え、まだまだ単体で正面から魏に勝ちきれるほどでは無いわ。

 

 無理は禁物。ここは大人しく呉と手を組みましょう」

 

「……分かりました。明日の軍議で早速進言することにします」

 

龐統が口火を切り、徐庶が同意し、諸葛亮が決定を下す。

 

これ以上の最適解は無い。

 

三人はそう判断したのである。

 

 

 

翌日の軍議にて。

 

劉備の承認は特に障害も無く得られ、蜀はすぐに呉への協力打診へと移ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうど同じころ、建業の地でもまた、周瑜に陸遜、そして呂蒙の三人が議論を交わしていた。

 

議題はほぼ蜀のものと変わりはない。

 

つまり、ここ最近の一刀の大暴れについてである。

 

「明命の部隊からまた新しい報告が上がっている。

 

 蜀の趙雲が北郷に完敗したそうだ」

 

「またですかぁ~。

 

 これで蜀の関羽さん、張飛さん、趙雲さんに私たちの方も雪蓮様、木春様、思春ちゃんと連敗を喫していますねぇ」

 

「これは非常に良くない状態かと。

 

 どういった理由かは分かりませんが、北郷の武力は上がったものと考えておかなければいけないかと思われます。

 

 雪蓮様まで破られている現状、月蓮様でなければ対抗は難しいかと」

 

「やはり、そこが一番の問題だな」

 

深く思い溜め息と共に周瑜が漏らす。それは残りの二人も同様であった。

 

一刀が大暴れを始めた当初から、呉の軍師達はどうにか対策を打とうと色々試してみている。

 

特異な策を考え出してみたり、囮や罠を仕掛けてから侵攻してみたり。

 

それらの全てが完全に突破されたわけでは無い。

 

一部の策では一刀に手傷を負わせることに成功してはいるのだ。

 

ただ、それで一刀に怯む様子が無かったことが問題なのである。

 

手傷を負わせ、少しでも動きが鈍ればそこを突破口にすることが出来る。にも拘わらずその突破口が開かなければ――――

 

「奴に真っ向から対応しようとするのが間違いだったか」

 

策の方向性を全面的に見直すしか無い。それを呉の軍師筆頭たる周瑜が切り出す。

 

陸遜と呂蒙にも否やは無かった。

 

「そうかも知れませんねぇ~。

 

 皆さんの報告によれば、呂布もますます強さを増しているようですしぃ。

 

 この二人は月蓮様と同格と見做して策を練る必要がありますねぇ~」

 

「げ、月蓮様と同格、ですか。

 

 そこまでとなると、私には策が思いつきません……」

 

「まあまあ、そんなこと言わずにぃ~。

 

 亞莎ちゃん、何か策を挙げてみてください」

 

「そうだぞ、亞莎。”今の自分には出来ない”ばかりではいつまで経っても先には進めん。

 

 まずはお前の策を聞こう。議論はそれからだ」

 

「えぇっ?!え~と、え~っと……」

 

周瑜も陸遜も、呂蒙を軍師として一人前以上に育て上げようとしている。

 

時に今のように厳しく、またある時は丁寧に策の考え方を教えてやり。そうして呂蒙の中に軍師として必要な知識と心構え、考え方などを叩き込んで来た。

 

呂蒙自身も数多の書物を読み込み、軍師としての腕を格段に上げている。

 

更に言えば、根が真面目であるので、例え無茶振りが来たとてどうにかして応えてきたのだ。

 

今も必死に頭をフル回転させて呂蒙は自らの考えを纏めようとしている。

 

やがてたっぷりと時間を使ってどうにか策らしきものを纏め上げた。

 

「三重に罠を仕掛ける……のはどうでしょうか?」

 

「ほう?それは具体的に案があるのか?」

 

周瑜が驚いたように問い返す。

 

その顔には面白いものが聞けそうだという期待感が浮かんでいた。

 

分かりにくいが、陸遜も同様のようで、呂蒙の発言をジッと見つめて待っている。

 

そんな二人に少々気圧されながらも呂蒙は自らの考えを口にする。

 

「北郷相手に生半な策では通用しないことは分かりました。

 

 それでは北郷を相手にしても通用するような策を打つべきか、とも考えたのですが、この一月で散々試した結果から、それは厳しいと見ます。

 

 そこで、三段式の罠を張ります。

 

 一段目は比較的分かりやすい罠を。少し雑に、正面から当たらせた部隊を敗走に見せかけて退かせます。

 

 難しい撤退戦となりますので、明命か思春様の部隊に任せるべき段です。そこで引き込んだ部隊に挟撃を仕掛けます。

 

 暫くしてから二段目として、その周囲から近接戦特化の部隊を雪崩れ込ませます。

 

 近接戦闘に強い雪蓮様や木春様の部隊に任せるのが良いでしょう。

 

 そして三段目ですが、頃合いを見計らって二段目の部隊も敗走するように見せます。

 

 後背から追い迫る敵部隊に祭様の遠距離部隊の力で仕留めます」

 

説明し終え、採点を問うかのように周瑜の顔を伺う。

 

周瑜も陸遜も顎に手を当てて考え込んでいる。

 

呂蒙の策について真剣に考えているのだ。

 

それだけの価値があると踏んだ。上手くいけば絶大な戦果を挙げられる可能性を秘めていると評価したのである。

 

やがて思索を終えて口を開いたのは周瑜。

 

「中々良い策だと思うぞ、亞莎。

 

 難易度は高いが、上手く運用できれば被害を抑えて戦果を挙げられるだろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「だが、残念な点が一つある。それも、その一点がため、運用が難しいくらいの、な」

 

「え、えっと、それは……」

 

自らの策の駄目だった点をどうにか探し出そうと四苦八苦する呂蒙だったが、すぐにはその答えは分からない。

 

少しだけ待ってから、陸遜からその答えが齎された。

 

「それはですね~、亞莎ちゃん、彼我の兵力差、ですよ~」

 

「戦力差、では無く兵力差、ですか?」

 

「はい~」

 

呂蒙の頭上には疑問符が浮かぶ。

 

呂蒙としてはきちんと考えたつもりだった。にも関わらず、足りていないと陸遜は言う。

 

「致命的なのは二段目ですね~。

 

 亞莎ちゃんも知っての通り、魏の兵力は物凄いです。それはもう、本気を出せば平原を埋め尽くせるんじゃないかというぐらいです。

 

 その中で北郷の部隊は比較的人数が少ないという報告がありますがぁ~――――

 

 亞莎ちゃん、その報告を基準に今の策を組み立てたのではないですか~?」

 

「お、仰る通りです」

 

「んふふ~。亞莎ちゃん、報告はただ情報を覚えるだけでは無くて、他の報告と合わせて新たな情報を見つけることもしなければいけませんよ~?」

 

一体何を言いたいのだろうか。それが呂蒙には分からなかった。

 

ただ、自分が何かを見落としたのだろうことだけは分かった。

 

「北郷の部隊が少人数なのはその部隊が非常に特殊なものだからですよ~。

 

 見たことも無い武器を使っていて、兵の皆が皆遠弓も近接戦もこなせるという不思議な部隊で、厄介なものですよぉ~?」

 

「あ……」

 

どうやらここにきて呂蒙も思い至った様子。

 

周瑜はそれに気付き、一つ首肯を入れてから陸遜の後を継いだ。

 

「奴はその部隊を率いている時は深追いをしてこない。

 

 機動力を持ったままの遠距離戦が主戦法ということなのだろう。

 

 一方で、奴が深追いして来ることもあるにはある。

 

 だが、その場合は全く別の、兵数が非常に多い部隊だ。他の将の部隊と共にあることが多い。

 

 これを相手に包囲に包囲を重ねようとすれば、我等の手勢の大多数を送り出さねばならない。

 

 そうなると必然、こちらの本拠地の兵数が減り、手薄になってしまう。

 

 蜀とは連携こそ取ってはいるが、同盟を結んでいるわけでは無いことも考えると、利点よりも危険の方が大きいのだ」

 

呂蒙も周瑜の言っていることは理解し、納得した様子だった。

 

しかし、ふと思いついたようにこう言う。

 

「あの、冥琳様。でしたら、いっそ蜀と完全に同盟を結んでしまうのはいかがでしょう?

 

 向こうも単独で魏に対抗するのは難しい点は同じはずだと思うのですが」

 

「そうだな。私もそれを考えてみた。

 

 結論から言えば、蜀との同盟はアリだ。むしろ、今打てる中では最善とも言えるかも知れない」

 

「そうですねぇ~。月蓮様やその盟友たる馬騰さんも、同盟を組んでいよいよ本格的に魏と雌雄を、ということにもなれば、前に出て来てくださるかも知れませんしねぇ~」

 

周瑜が呂蒙の意見を肯定し、陸遜もそれに乗って来る。

 

現状、呉の方針を決めている三人の意見が一致したのだ。次なる行動はもう決まったも同然だった。

 

更に周瑜が口を開く。

 

「それに、蜀と同盟を結べば利点も多い。

 

 何より、兵数の問題と後顧の憂いが解消されることが大きいな。

 

 そして、そうなってくると、先ほどの亞莎の策もより勝率の高い方向に持っていくことが出来るだろう」

 

「より勝率の高い方向に、ですか?」

 

「ああ。だが、この辺りは蜀と同盟が為った後、諸葛達と話し合って決めねばならないことだがな」

 

まだ決まったわけでは無い、と周瑜は言うが、呉の軍師筆頭が腹案があるとはっきり言い切ったことに、計り知れない安心感が生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一月と経たず、建業の地に大物が遣いとしてやってきた。

 

諸葛亮、龐統、そして馬騰である。

 

周瑜達は呉の将を集め、この三人を謁見の間で迎え入れた。

 

儀礼的な挨拶を行った後、そのまま合同での軍議となる。というのも――

 

「それでは周瑜さん。我々の申し出を受けてくれるとの認識でよろしいのですね?」

 

「ああ。我々もそちらに同様の事を打診しようとしていたところだったのだ。

 

 よろしく頼む、諸葛孔明」

 

諸葛亮たち三人がやってきた目的は、蜀呉同盟の持ち掛け。

 

あの会議の後、すぐに成都を発っていたのであった。

 

馬騰と孫堅は顔を合わせた際に二言三言言葉を交わした後は、ほとんど言葉を発さない。

 

まるで若い世代に任せて見守る、といった対応だ。

 

合同の軍議は諸葛亮と周瑜による同盟締結の打診と許諾に始まり、この二人が進行役として進んでいく。

 

議題となるは魏への対処。

 

特に意見が多く出るのはやはりと言うべきか、一刀と恋への対応についてである。

 

双方がこれまでに得てきた情報を取りまとめ、どうにかこの二人を抑え込めないかと苦慮する。

 

そのやり取りの中、呂蒙の策も遂に話に挙がってきた。

 

「それは確かに効果がありそうですね。兵数の問題は同盟によって解決できますが……

 

 果たしてここまで力を掛けなければならないものなのか、と問うてみれば、何とも言えないところですね」

 

「それに関してなのだが、私に一つ、腹案がある。

 

 こうして同盟が為ったのだ、次なる戦は最早総力戦に持ち込んでしまえば良いのではないか?」

 

「これまでの細々とした侵攻で魏の少なからず疲弊はしているでしょう。

 

 確かに、ここが攻め時かも知れません。ですが、要の決定打となる策が……」

 

「そこは私に一つ、腹案がある」

 

周瑜が切り出したのは、呉での軍議の最後にも言っていた、呂蒙の策に改良を加えたもの。

 

その策の内容を聞き、諸葛亮はそれが良いと判断した。但し、条件を突き付ける。

 

「周瑜さん、その策を実行する上で、一つ我々からお願いがあります」

 

「なんだ?」

 

「呉から誰かを出していただき、我等の将と兵に水練と船上戦闘の訓練を付けて頂きたいのです」

 

「ふむ、それもそうだな。承知した。

 

 亞莎、悪いがこの辺りの調整は頼んだ」

 

「は、はい!お任せを、冥琳様!」

 

「他には……――――無いようだな。

 

 それでは、この策を以て魏に当たることにする。

 

 月蓮様、馬騰殿、それで宜しいでしょうか?」

 

ずっと黙って聞いていた二人に、周瑜は最後に水を向けた。とある期待を込めて。

 

果たして、その請う気持ちが通じたか、二人はゆっくりと口を開いた。

 

「どうやら、次の一戦で大陸の行く末が決まりそうだね、碧」

 

「ああ、そのようだな。

 

 朱里、雛里。次の戦、あたいも出よう」

 

「あ、碧さんっ?!ほ、本当ですかっ?!」

 

驚きの声と共に嬉々とした表情を見せる諸葛亮と龐統。

 

その傍らでは――

 

「私も出るぞ、冥琳。但し、策は今まで通りあんたに任せる。

 

 私も祭も粋怜も好きに使いな」

 

「承知致しました、月蓮様。必ずや、ご期待に応えてご覧に入れます」

 

策の出しようがいかようにも増えると喜ぶ陸遜と呂蒙をわき目に、周瑜が極めて冷静に受け答えていた。

 

孫堅たちほどでは無いが、周瑜もこれで割と年季の入った将となりつつある年齢である。

 

もしかしたらこのタイミングでの孫堅と馬騰の参戦は想定の内であったのかも知れない。

 

 

 

いずれにせよ、いよいよ魏以外の国の準備も整った。

 

大陸に横たわる大きな爆弾の導火線は、既に火が点き、爆発間近である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜀呉同盟の成立より少し時を戻り。

 

とある日の早朝――よりも早い時間、魏の許昌の調練場にはひっそりとある部隊が揃っていた。

 

ただし、各々私服のままであるために一見何の集いなのかもわからないだろう。その綺麗な整列具合から軍関係を疑う程度だろうか。

 

集団の前には向かい合うようにして立つ一刀の姿。

 

そう、これは黒衣隊の集まりである。

 

敵にも可能な限り味方にも、どちらにも知られたくない話。それを隊員たちにするためにこの時間のこの場所を選択したのだ。

 

さすがに皆が皆裏で暗躍するために鍛え上げられた部隊、無駄な口を開く者は当然おらず、気配すらも押し殺している。

 

隊員が揃ったことを確認すると、一刀はようやく声を発した。

 

「皆、突然の招集で済まない。

 

 今日はお前たちに一つ、言っておきたいことがある」

 

決して声は張り上げない。隊員たちにギリギリ通るだけの声量。

 

一刀を含めてこれだけの隊員がいて、かつこの時間。周囲に間諜が潜んでいて、しかもそれに気付かない、とそんなことにはならないだろうが、念のためである。

 

「もう一月と待たず、決戦が起こる。

 

 この戦で”獲りに行く”」

 

一刀が言わんとしていることを隊員たちは既に薄々理解し始めている。

 

「黒衣隊も全て動員し、表側でも裏側でも総力を挙げて事に当たるつもりだ」

 

ようやくこの時が来たか。一体幾人の隊員がそう思ったのだろうか。

 

「皆を隊に引き入れる時にも言った言葉だが、敢えてもう一度ここで言おう。

 

 お前たち。魏の為に、死んでくれ」

 

返答は無い。それは黒衣隊の常。

 

しかし、隊員たちの瞳は明確に返答していた。

 

一刀の耳には綺麗に揃った『応っ!』という声が聞こえた気がした。

 

人選と訓練に間違いは無かった。その再確認にもなった。

 

「決戦に際し、局長にも話していない秘策がある。

 

 その実行において、お前たちを駒にするかも知れない。その覚悟は持っておいてほしい」

 

一切の動揺は起こらない。覚悟などとうに済んでいる。誰もがそう感じていた。

 

「その代わり、約束する。

 

 決戦には俺も覚悟を持って臨み、大陸に平穏を、そして魏に覇権を齎すことを」

 

隊員の瞳により一層強い色が宿る。

 

一刀が言い切ったならば、それは実現される。

 

今までの経験から、隊員たちはそう信じているから。

 

「話は以上だ。詳細は随時連絡する。

 

 特に、いざ戦場に出てからの方が細かい内容を数多く飛ばすことになるだろう。それは覚えておいてくれ」

 

 

 

最初から最後まで誰も声を張り上げない、しかし灼熱の熱気を伴った一つの部隊の会合が終わった。

 

これまでの魏を裏から支えてきた、そしてこれからの魏も同様に支えていく男たち。

 

その自負を胸に、彼らは今日も仕事をこなすべく街に散らばっていく。

 

 

 

時代のうねりは極大を越え、今まさに一点に向かって急速に収束しようとしていた。

 


 
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