No.87898

紋章の女神-旅人の詩- プロローグ

地図猫さん

小説「紋章の女神-旅人の詩-」のプロローグです。
小説初挑戦なため、表現方法等かなり経たかもしれませんが、添削や感想をお願いします。

2009-08-02 23:53:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:581   閲覧ユーザー数:544

 

 宿屋の一室、入り口の木製の扉を照らしていた暖かな朝の日差しを、影がさえぎった。

 影は人の、それも子供のものであろうか。扉は大人でも余裕を持って通れるように設計されていたが、影はその半分ほどの高さしかなかった。

 影の主は、少年であろう。銀色の髪を後ろで結っているものの顔立ちから男性であることが何となく分かる。また肩から提げている大きめの鞄や服装にも男性らしさがある。

 ただ少年には人のものとは明らかに違う、異質な部分があった。耳と思われる部分は横に長く尖がっており、腕は身長と比較して太く長い。この特徴は、樹住族と呼ばれる種族の典型的な特徴であり、少年もその種族の一人であることに間違いはなかった。

 

 少年は見慣れた木製の扉に、見慣れない張り紙がちょうど自分の目線の高さに合わせて貼り付けられていることに気付いた。

『ロスの部屋 勝手に開けるな!』

 汚い字で書き殴られた張り紙に、少年は切れ長の目を細め頭を抑えた。

 目の前の光景はあまりにも間抜けであった。扉は張り紙の主の意志にそぐわず、少年を迎え入れるように少し口を開けていたからだ。

 長い付き合いだから分かるが、この部屋の主はだらしがない。張り紙を貼り付けたことに満足して扉を閉め忘れた可能性はいくらでも考えられた。

 それに、こんな張り紙程度では少年の目的を阻止できないことぐらい考えれば分かることだと思うのだが、と少年はため息をついた。

 そう、少年はある目的をなす為にこの部屋の主に気付かれず、部屋の中に進入しなければならない。

 少年は少しだけ開かれた扉の隙間に、そっと横長の耳を寄せる。樹住族は他の種族に比べて特段耳が良いため、扉が開いている部屋であれば入らずとも大体の状況を音だけで把握することが出来た。

 部屋の中からは、小さい呼吸が一定の感覚で繰り返されている。どうやら部屋の主はまだ眠りについているようだ。それも、熟睡している。

 そうと分かれば、これから先の行動は難しいものではない。

 少年は、扉をその太い腕で押し開けた。

 扉を開くと対面の窓から日差しが入り込んでおり、部屋全体が見渡せる状況であった。部屋は2人部屋の大きさで、そこそこの広さがある。窓際に寝台が1つと衣類入れであろう箪笥、あとは壁に剣が掛けられているぐらいで他に物はあまり無い。部屋の主がだらしないにしてはきれいに片付いているのは、主の持ち物が少ないことと、主の母親がきれい好きで毎日掃除しているためだ。

 窓際にある寝台で、今だ少年の侵入に気付かず熟睡している少女が、部屋の主であるロスである。

 少年は足音を出来るだけ立てないように注意しながら、ロスの顔がしっかりと見えるところまで近づいた。

 まだ顔立ちに幼さが残るものの、発育は中々に良い。下着の上に大きめの布の服一枚という大胆な格好で何とも無防備だ。普通の男性なら如何わしい行動を起こしてしまいそうなものだが、彼女は耳も短く腕も細い賢人族と呼ばれる通称「人」であり、樹住族である少年にとってはそういった感情の対象にはならなかった。むしろ、寝癖のついた黒髪と緩んだ口から流れる涎があまりにも間抜けで、またため息が出た。

 少年の目的もここまで来ればあと少しだ。最後のそして最も重要な作業を終わらせれば目的達成である。

 肩にかけていた大きめの鞄を慎重に空け、中から”ある物”をつまみ出す。

 ”ある物”は、強くつまんだ為か激しく抵抗してきた。ぬめり気のあるそれを落としそうになるが、どうにかそれを押さえつけ、ロスの顔の上まで運びそして、落とした。

 

--べちゃ。

 

 それは見た目通りの粘着質な音を出し、ロスの顔にへばり付き、粘液を撒き散らした。

 少年は、成功の余韻を感じる間もなく部屋の外に向かって走り出し、あっという間に部屋からいなくなっていた。

 

 間もなく、朝の恒例となった『目覚めの絶叫』が宿屋中に響くのである……。

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択