「ヴヴヴヴヴヴ…!!」
巨大樹内部に作られたミツハニー逹の巣。その巣を支配する女王―――ビークインは細い両腕にエネルギーを収束させ始めた。それを見たチルタリスはヤバいと勘付いたのか、全身に蜂蜜が粘りついている事など気にせず飛び上がり、嘴の先に波動エネルギーを収束させていく。
「チィィィィィィ…ルゥッ!!」
「ヴヴッ!!」
「キャア!?」
「うわー!」
『あわわわわわ!?』
細い腕から繰り出した風の斬撃『エアスラッシュ』と、ドラゴンの形状をしたエネルギー砲『りゅうのはどう』が激突。相殺されて大爆発が起こり、その衝撃で周囲を取り囲んでいたミツハニー逹が散らばっていく。
「ッ……咲良ちゃん、逃げよう…!!」
「うわぷっ」
「ヴヴヴ……ヴゥッ!!」
「!? チルルゥッ!!」
チルタリスがビークインと対峙している間に、咲良とジラーチを連れて逃走を図る美空。しかしビークインは逃がすつもりは毛頭ないようで、周囲にピカピカに輝く宝石状のエネルギー『パワージェム』を生成。巨大樹の外へ逃げようとする彼女達に向けて一斉に撃ち放ち、チルタリスが即座に割って入る。
「!? チルタリス…!!」
「チ、チルゥ…ッ…!!」
「ヴヴヴヴヴ!!」
岩タイプの技である『パワージェム』は、飛行タイプのチルタリスにとっては効果抜群の技だ。今の一撃で体力を削り取られたチルタリスは美空の腕の中に落ち、そこへビークインが追撃を仕掛けようと、体内の毒液から生成した弾丸『ヘドロばくだん』を容赦なく撃ち放ったが…
『させない!』
「え…!?」
「じーくん!?」
美空達を守るべく、ジラーチが飛び出した。ビークインの『ヘドロばくだん』が真正面から直撃した為、美空と咲良は思わずジラーチがやられてしまったように見えた……が。
『―――ふぅ、びっくりした』
「ヴヴ…!?」
煙が晴れると、そこには無傷のジラーチがフワフワ浮いていたのだ。これには美空と咲良だけでなく、攻撃を当てたビークインすら驚きの表情を示す。
「じーくん、すごーい!」
「ジラーチ……平気、なの…?」
『うん! 僕、毒の攻撃は平気なんだ!』
そう、ジラーチは鋼とエスパータイプのポケモン。鋼タイプを持っていた為、毒タイプの技を真正面から受けても平気だったのだ。
『さぁ、ここから逃げるよ……しっかり捕まって!』
「う、うん…!」
「ヴヴヴッ!!」
ジラーチは頭の短冊を光らせ始め、美空達もすかさずジラーチの身体にしがみつく。そうはさせまいとビークインが再び『エアスラッシュ』を放つが、それが命中するよりも前にジラーチ逹は一瞬で転移し、その場から姿を消してしまった。
「ヴヴヴヴヴゥッ!!!」
「探し出し、始末しろ」とでも言っているのだろうか。ビークインが怒り狂っているかのような高い鳴き声で腕を上げると、それに応じた配下のミツハニー逹も一斉に巨大樹から飛び立ち、森全体へと散らばっていく…
一方、ディアーリーズ達は…
「グォォォォォォォォォォォッ!!!」
「くっそ、いい加減しつけぇなコイツ…!!」
「ぜぇ、ぜぇ、そろそろ本気で足が痛い…!!」
「こなた、諦めないで!! 止まったら本当に儚い犠牲にされちゃうよ!!」
「まだ続いてたんですかその話!?」
美空達と逸れた後も、野生のイワークの襲撃を受けている真っ最中だった。一同が全力で走っている中、イワークは再びエネルギーを収束させ、『すてみタックル』を発動しようとする。
「ヤバい、また来ます!!」
「避けろ!!」
「はぁ、はぁ……あだっ!?」
「グォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
しかし走り続けている内に体力が底をついてしまったのか、疲れ果てたこなたが途中で転んでしまった。そこへ容赦なくイワークの『すてみタックル』が迫る。
「こなたっ!?」
「マズい……シャマシュ!!」
「エルッ!!」
朱雀が即座にエルレイドを繰り出すも、イワークの『すてみタックル』の方がエルレイドのスピードよりも僅かに速い。このままではこなたがイワークに潰されてしまうと思われた……その時だった。
「ドダイトス、『ハードプラント』」
「ドッダァァァァァァァァァァァァァァァイ!!!」
「!? グォォォォォォォォォォォッ!?」
突如、地面から生えた無数の太い蔓『ハードプラント』がイワークの真横から伸び、イワークの巨体を大きく吹き飛ばした。吹き飛ばされたイワークは近くの木々を薙ぎ倒しながら倒れる中、支配人、刃、カガリ、竜神丸の4人がディアーリーズ達の下に駆けつけて来た。
「皆、無事か!!」
「うわ、凄くデカいイワークですね」
「…ビッグ」
「レイさん!? それにシノブさん、カガリさん、アルファさんまで…」
「おや、あなた達もいたんですか。てっきりイワークだけかと思いましたよ」
「ドダァ…!」
先程の『ハードプラント』は、竜神丸の後ろに控えているドダイトスが繰り出した物のようだ。竜神丸はディアーリーズ達に対しては目も暮れず、折れた木々の中から起き上がろうとするイワークの方に視線を向け、手に持っていたモンスターボールを投げつける。
「イワーク、捕獲開始」
「ッ!? グオォォ―――」
ボールはイワークの巨体を瞬く間に吸い込み、地面に落下。数秒間揺れた後、カチッという音と共にイワークの捕獲が完了された。
「おぉ、イワークを捕まえたのか…」
「ありがとうございますアルファさん。おかげで助かりました」
「うぅ、まさかアルファに助けられるなんて…」
「勘違いしないで下さい。私はイワークを捕まえたかっただけです」
ディアーリーズとこなたのお礼を無視し、竜神丸はドダイトスをボールに戻した後、イワークの入ったボールをポケモン図鑑でスキャンし始めた。しかしイワークの能力を確認した竜神丸は不満そうな表情を浮かべる。
(『すてみタックル』自体は確かに強力、しかし特性が『がんじょう』ではそれも活かせそうにない……か)
「…あなたにも用はありません。失せなさい」
竜神丸の投げたボールから、青白い光と共にイワークが出現。イワークは竜神丸に見向きもしないまま森の奥へとのそのそ立ち去って行き、朱雀とディアーリーズはそれを見て驚いた。
「逃がすんですか!? せっかく仲間にしたのに…」
「いくら技が強力でも、特性がそれに合っていませんでしたからね。何より……
「「ッ…!!」」
竜神丸の発言に、ディアーリーズと朱雀が眉を顰める。そんな二人をロキが宥める。
「よせ、二人共。アイツはポケモンに対しても常にあんな態度だ。いちいち気にしてちゃキリが無い」
「ッ……ですが…」
「お前等の手持ちにも
「! …そうですね。今は美空さん達を探さなきゃ」
「? 美空達がどうしたんだ?」
「実は…」
場所は変わり、美空達は…
『ミソラ、サクラ、チルタリス、怪我は無い?』
「私は、大丈夫……でも、チルタリスが…」
「チルルゥ…」
「ちーちゃん、だいじょうぶ?」
ジラーチの力で逃げ出す事に成功した美空達は、再び森の中を歩いているところだった。しかしビークインの攻撃で傷付いたチルタリスは、現在は美空の腕に収まる形で運ばれている。
「木の実……早く、見つけなくちゃ…!」
『でも、こんな所に木の実なんて……あれ?』
「? じーくん、どうしたの?」
『何だろう、凄く良い匂いだぁ~…♪』
「え、ジラーチ…!?」
何かの匂いを感じ取ったジラーチは、匂いに釣られてフラフラと何処かに飛んで行ってしまう。美空はチルタリスを抱き締めたまま慌ててジラーチを追いかけ、咲良もそれに続く形で後を追いかける。そしてジラーチを追いかけ続けて数分後、木々を潜り抜けたジラーチはドームのような形状の少し広めの場所へと辿り着いた。
『この匂いは……あ!』
「はぁ、はぁ、ジラーチ、どうし……え?」
「あ、木の実だー!」
「チルゥ…!」
美空達の目の前には、様々な種類の木の実が生っている大木が存在していた。しかも本来の目的であるチーゴの実だけでなく、体力の回復が出来るオボンの実、毒状態を治せるモモンの実、麻痺状態を治せるクラボの実、様々な状態異常を治せるラムの実などの木の実も生っており、これには美空も呆気に取られ、咲良は両目をキラキラ輝かせる。
「じーくんすっごーい! いっぱい見つかったねー!」
『うん、僕もびっくりだよ~!』
「凄い……と、とにかく、早くチーゴの実…採らなきゃ…!」
早いところチーゴの実を回収して、タブンネの所まで持って行かなければならない。そう考えた美空は大木の傍まで歩いて行こうとしたその時…
「ハニィ~」
「―――ッ!?」
美空は一瞬で表情が青ざめる。聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきたからだ。
「ハニィ~」
「ハニィ~」
「ハニィ~」
「ハニィ~」
「ハニィ~」
「ハニィ~」
「!? そん、な…ッ!!」
美空達の身体中に付いている蜂蜜の匂いを辿って来たのか、気付けばミツハニー逹が一斉に彼女達の周囲を取り囲んでいたのだ。先程までと違い、ミツハニー逹は可愛らしい笑顔から一斉に邪悪な笑顔へと変貌し、一斉に『かぜおこし』を繰り出した。
『え……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
「ジラーチ…キャアッ!?」
「うわぁっ!」
「ヴヴヴヴヴヴ…!!」
宙に浮いていたジラーチはミツハニー逹の『かぜおこし』で吹き飛ばされ、それを助けようとした美空達の足元には『エアスラッシュ』が飛んで来る。ビークインが腕を上げると、一部のミツハニー逹が先程『かぜおこし』で吹き飛ばしたジラーチの周囲を取り囲んだ後、羽根の振動を利用して『むしのさざめき』を繰り出し始めた。
『う、ぁあぁぁぁぁ……うるさいよぉぉぉぉぉぉ…!!』
「コラー! じーくんをいじめちゃダメー!」
「チルゥ~ッ!!」
「あ、チルタリス…!?」
『むしのさざめき』で苦しみ始めるジラーチを助けようと、チルタリスは傷付いた状態ながらも美空の腕の中から飛び立つ……が、飛び立とうとしたチルタリスに、再びビークインの魔の手が伸びる。
「ヴヴヴヴ……ヴゥッ!!!」
「チルッ!?」
「!! 駄目、木の実が…!!」
ビークインが放つ『ヘドロばくだん』を、チルタリスは何とか回避に成功。しかし外れた『ヘドロばくだん』はそのまま大木に命中し、その所為で大木の一部が毒でジュワジュワと溶け始めたのだ。このままでは大木に生っている木の実まで駄目にされてしまう。
『う、ぐぅぅぅ…あぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!』
「じーくん!!」
そうしている間も、ジラーチはミツハニー逹の『むしのさざめき』で苦しめられ続ける。
「ッ……お願い、やめてっ!!」
「ヴヴヴヴヴッ!!」
美空の悲痛な叫び声も、怒りを覚えているビークインには届かない。ビークインは美空達にも容赦なく『ヘドロばくだん』を飛ばした……その時。
「「『れいとうビーム』!!」」
「ミィロォォォォォォォッ!!」
「ラァグゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
美しい鱗を持った細長い魚のような姿のポケモン―――ミロカロス。ガッシリした体型を持つ青色のポケモン―――ラグラージ。2体の繰り出した『れいとうビーム』が、ビークインの放った『ヘドロばくだん』を相殺し、大爆発が起こる。
「ヴヴヴ…!?」
「二人共、大丈夫!?」
「あ、ウル兄ちゃーん!」
「ウルさん…!」
美空と咲良の下に、ディアーリーズ達が一斉に駆けつけて来た。美空と咲良は安堵の表情を浮かべる中、ビークインは邪魔された怒りからディアーリーズ達にも『エアスラッシュ』を撃ち放つ。
「させるか!! レントラー、『ワイルドボルト』!!」
「グルァァァァァァァァァァッ!!!」
「!? ヴヴヴヴヴ…ッ…!?」
ロキの命令と共に飛び出したのは、黒い鬣を持ったライオン型ポケモン―――レントラーだ。レントラーは全身に電流を纏って『ワイルドボルト』を発動し、飛んで来る『エアスラッシュ』を打ち消し、ビークインに強烈な体当たりを炸裂させる。
「美空ちゃん、大丈……うわ甘っ!? これ蜂蜜の匂いか!」
「皆さん……どうして、ここが…?」
「私のグラエナが、あなた達の身体に付いた蜂蜜の匂いを嗅ぎ取ってくれたんです」
「グラッ」
どうやら刃のグラエナが、その嗅覚を使って美空達の居場所を特定したようだ。
-ポンッ!-
「スピィィィィィィ…!!」
「うわ、また出たなスピアー!?」
「何で虫ポケモンの時だけやる気満々なんだよ…!!」
「そ、それはともかく、今は戦いましょう!! スピアー、『ミサイルばり』!! ミロカロス、『ハイドロポンプ』!!」
「スッピィィィィィィィィィィッ!!」
「ミロォォォォォォォォォォォッ!!」
「アプス、『みずのはどう』だ!!」
「ラグゥゥゥゥゥッ!!」
「俺も戦うとするか……デンチュラ、『かみなり』だ!!」
「チュラァァァァァァァァァッ!!」
スピアー、ミロカロス、ラグラージ、デンチュラはそれぞれ攻撃を繰り出し、周囲を飛び交っているミツハニー逹を次々と撃ち落としていく。
「カガリさん、良いんですか? 手伝わなくて」
「…木の実、回収、最優先」
その間に、刃とカガリの2人がこっそり木の実を回収していく。
そんな中…
「ヴヴヴヴヴッ!!」
「ッ……ラ、グゥッ…!!」
「アプス、大丈夫か!?」
ビークインが連続で繰り出した『エアスラッシュ』は、ラグラージのボディに連続で命中。追加効果で怯まされたところに更に『ヘドロばくだん』まで命中し、ラグラージは体力を大幅に消耗させられてしまう。
「スピアー、『どくづき』!!」
「スッピィィィィィィィィィィィィィッ!!!」
「ヴヴヴヴ……ヴゥッ!!!」
「!? スピ…ッ!!」
「く、『まもる』で防がれたか…!!」
スピアーが両腕の毒針から繰り出す『どくづき』も、ビークインは両腕を前に突き出して発動した『まもる』で防がれてしまう。攻守共に隙が無いビークインにスピアーが敵意を剥き出しにするその時…
「ヘルガー、『かえんほうしゃ』」
「ヘェェェェェル…ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
「スピッ!?」
「うわ危なっ!?」
「!? ヴヴヴヴヴ…!!」
竜神丸のヘルガーも参戦し、強力な『かえんほうしゃ』を発動。直線状にいたスピアーは危うく当たりかけた事から素早く回避し、ビークインは即座に『ヘドロばくだん』をぶつけて相殺する。
「ちょ、アルファさん!! スピアーまで巻き込まないで下さい!!」
「スピッスピッ!!」
「おや、あなたのスピアーがトロいだけでしょう?」
「ヘルッ」
ディアーリーズとスピアーが抗議するも、竜神丸とヘルガーは気にも留めていない。そんな竜神丸とヘルガーを周囲にいたミツハニー逹は一斉に彼等を取り囲み、竜神丸は小さく舌打ちする。
「鬱陶しい……ジバコイル、『10まんボルト』」
「ジバババババ…!!」
「「「「「ハニイィ~ッ!?」」」」」
竜神丸の投げたモンスターボールから、鋼のボディと3つの磁石を持ったUFOのような姿のポケモン―――ジバコイルが出現。ジバコイルは全身から放つ『10まんボルト』でミツハニー逹を全て撃墜し、すかさずビークインの方へと狙いを定める。
「ジバコイル、『ロックオン』」
「ジババババ…」
「ヴヴ、ヴ…ッ!!」
分が悪いと判断したのか、ビークインはその場から飛んで逃げ出そうとする。しかしそんなビークインを、ジバコイルは『ロックオン』でしっかり狙いを定める。
「『でんじほう』」
「ジバババババッ!!」
「!? ヴヴヴ―――」
ジバコイルの繰り出した電流の砲弾『でんじほう』は、回避しようとしたビークインにしっかり命中した。『ロックオン』で一度狙いを定められてしまえば、次に繰り出される攻撃から逃れる術は無い。
「ヴ、ヴヴッ…!!」
「まだ戦る気ですか…・・・ヘルガー、『かえんほうしゃ』」
「ヘェェェェェル……ガァッ!!」
「ヴヴヴヴヴヴ…!?」
『でんじほう』の追加効果で麻痺してしまったビークインを、ヘルガーが『かえんほうしゃ』で容赦なく追い打ちをかける。ビークインは更なるダメージを受けるが、竜神丸は命令を続ける。
「徹底的にやりなさい。抵抗の意志を失うまで……ジバコイルは『ラスターカノン』、ヘルガーは『あくのはどう』です」
「ジババババ…!!」
「ヘェェェェルガァァァァァァッ!!」
「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!?」
その後も、ジバコイルとヘルガーは容赦の無い攻撃でビークインを追い詰めていく。あまりに一方的な彼等の攻撃に、流石の朱雀も止めにかかる。
「アルファさん、もう充分でしょう!? それ以上やったらビークインが…」
「ジバコイル、『10まんボルト』」
「ジババババババ!!」
「アルファさん!!」
「ヴ、ヴッ…ヴ……ゥ…」
朱雀が呼びかけても、竜神丸は命令を一向にやめようとしない。
「『かえんほうしゃ』」
「ヘェェェェェェェェェルガァッ!!」
『かえんほうしゃ』で焼き焦がし…
「『ラスターカノン』」
「ジバババババ…!!」
『ラスターカノン』で痛めつけ…
「ヴ、ヴッ……ゥ…」
ジバコイルとヘルガーはビークインを一方的に攻撃し続け、流石のビークインも体力が尽きる寸前なのか、既に抵抗の意志を完全に失ってしまっていた。それでもヘルガーとジバコイルは攻撃の手を緩めない。
「ふむ……まぁ、次で終わらせましょうか」
散々ビークインを攻撃し続けた後、竜神丸はようやくモンスターボールを手に取り、全身黒焦げ状態のビークインに軽く投げ当てる。
「ビークイン、捕獲開始」
「ヴ、ゥ―――」
ビークインを吸い込んだボールが地面に落ちる。既に反抗する体力も無かった為か、もはや1秒も揺れる事すら無いままボールがカチッと鳴り、ビークインの捕獲が完了されたのだった。
「美空さん、大丈夫ですか?」
「私は、大丈夫……でも、チルタリスが…」
「それなら、オボンの実を食べさせると良い。これで体力を回復出来る」
その後、傷ついていたチルタリスはオボンの実を食べる事で無事に体力を回復し、残りのメンバー逹はポケモン達と協力しながら、大木に生っている木の実を回収する事になった。そんな中…
「『パワージェム』、『ヘドロばくだん』、『まもる』、『エアスラッシュ』……なるほど。流石は群れを率いる女王蜂、技も能力もなかなかに優秀ですね」
技や能力の優秀さを気に入ったのか、竜神丸は捕まえたビークインを逃がす事なく、そのまま手持ちポケモンの1体に加える事にしたようだ。そんな満足気な様子の竜神丸に、朱雀は今も眉を顰めたままだ。
「……」
「納得がいかないって顔だな、コハク」
「! キリヤさん…」
そんな朱雀の隣に、ロキが並び立つ。
「俺がアイツと一緒に旅した時もそうだった。アイツが求めるポケモンは強い奴だけ、そして反抗するポケモンは絶対的な力と恐怖で黙らせる……それがアイツのやり方だ」
「ッ……けど、いくら何でもアレはやり過ぎでしょう…! 戦う気力すら失ったポケモンに、あんな2体がかりで一方的に攻撃するなんて…!」
「だが、そのやり方でアイツは自分のポケモン達を徹底的に鍛え上げた。俺とウルが昨日戦ったプテラとドラピオンも、それによって強くなったんだ。そんな強くなったポケモン達に俺とウルは負けたんだ。加入したばかりのお前じゃまだアイツには敵わんよ」
「ッ…!!」
ロキの言葉に、朱雀は拳を強く握り締める。反論の言葉が出なかったのは、実際に自分がまだまだ未熟である事を理解しているからだろう。
イワークに襲われた時も、こなたを助けたのは自分ではなく竜神丸だった。
ラグラージやスピアーを圧倒したビークインを、竜神丸は簡単に捻じ伏せてみせた。
それだけでも、朱雀は竜神丸との力の差を存分に思い知らされた。
「ポケモンと共に歩む時間はいっぱいあるんだ、少しずつ強くなっていけば良いのさ……まぁ正直な話、俺もアイツに負けっぱなしのままでいるのは御免だしな」
「……はい…!」
ロキの言葉で少なからず怒りが引いたのか、朱雀の返事は落ち着いた物だった。それでも彼の心は、更なる決意を固めていた。
(僕はまだ弱い。もっと強くならなきゃいけない……アルファさんと、対等に戦えるくらいに…!!)
一方…
「zzz…」
飛行するボーマンダの背中で、気持ち良く昼寝をしていたガルム。
-ビュオォォォォォォォォッ!!-
「ボ、ボマァッ!?」
「うわ寒ぅ!? どっかのアホ妖精の冷気よりずっと寒ぅ!?」
…それは数秒前までの話だった。突然襲ってきた『ふぶき』にボーマンダは慌てふためき、ガルムも突然の寒さにガバッと起き上がる。
-バサァ…-
「フゥゥゥゥオォォォォォォォ…」
「! アレは…」
そんなボーマンダとガルムの前に、ある鳥型ポケモンが姿を現した。
氷のように輝く、2対の大きな翼。
風で靡いている、青くて長い尻尾。
フワフワとした、胸部の白い羽毛。
結晶のように冷たい、3対の鶏冠。
それらの特徴を持ったそのポケモンに、ガルムは心当たりがあった。
「…!? まさか、伝説ポケモンのフリーザーか!?」
「その通りでございます」
「! その声は…」
青い鳥型ポケモン―――フリーザーの背中から、侍女服に身を包んだ女性がヒョコッと顔を出した。その人物の顔にガルムは見覚えがあった。
「あれ、桃花ちゃん?」
「安眠の妨害をしてしまい、申し訳ありません。ユウヤ様」
okakaに仕える侍女式人形―――桃花は、ガルムとボーマンダに対してペコリと頭を下げてみせたのだった。
『七夜の願い星 その12』に続く…
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七夜の願い星 その11