むかーし、むかし、とある山奥に十数人で集落を形成し、俗世間から隔離された小さな村がありました。村人達は大自然の中で、争うこともなく、穏やかに日々を暮らしていました。しかし、そこへ狼がやって来たのです。狼は村に侵入し、村人を襲おうとしました。ところが、村人達の絆は固く、狼は村人達の団結力の前に討たれたのでした。村人は誰も傷付くことなく、再び平静を取り戻しました。
ところが、翌朝、事件が起きました。争いのない村で村人の死体で見つかったのです。死んでしまった村人の首筋には噛まれた痕がありました。間違いありません。この噛み痕は狼の仕業です。これは一体どういうことでしょう? 狼は昨日、討ちとったはずです。新しい狼が夜に襲ってきたのでしょうか? そんなはずはありません。夜は皆、家にしっかり鍵をかけて寝ています。村人達は殺された村人に起こった悲劇を想像し、皆で泣き、二度とこんなことが起こらないように祈り、土に埋めました。
しかし、翌朝、またもや村人の一人が首元を噛まれて死んでいました。二日連続死者が出たなんてこの村史上最悪の出来事です。村人は全員集結し、会議を開きました。何故このような悲劇が起きてしまったのか? 村人達は不可解な事件に頭を悩ませました。しかし、ある村人が思い付いたように言ったのです。
「狼は村人に化けているんだ!!」
それは衝撃の一言でした。村人達はすぐに討ちとった狼の死体を確認しにいきました。しかし、そこにあったのは……狼ではなく、見知らぬ人の死体でした。村人達は混乱しました。あの日討ちとったのは狼ではなく、人だったのです。これは一体どういうことなのでしょうか? 村人は奇妙な事件の連続に、恐怖と不信感という感情を抱くようになりました。
「狼は生きている。しかし、今は探し出す術が思い付かない。もう一日だけ様子をみよう」
村長のこの言葉に、村人達はお互いに疑心を抱きつつも夜を迎えたのです。しかし、それぞれの家で、村人達は妙に胸騒ぎがして眠れませんでした。すると――
「ワオオォォォォォオオオウゥゥゥー」
深夜、村中に狼の遠吠えが響きました。村人達は恐怖に怯えてただひたすら朝が来るのを待つことしかできませんでした。
翌朝、やはり村人の一人が喰い殺されていました。村人達はこの現実を見て狼がまだ生きていることを確信し、言い知れぬ恐怖に心が支配されました。
「毎晩、毎晩、一人ずつ喰い殺していって……狼は私達を弄んでいるんだわっ! 私達は狼に食い殺される運命なんだわっ!」
一人の女の村人がヒステリーを起こしました。一人が不安に支配されるとその空気が周りにも感染していきます。お互いがお互いを疑い合う……平静な村はいつしか狂気をまとった恐ろしい村に変貌してしまったのです。
村人達はただ恐怖に怯えて狼に喰われてしまうしかない運命なのでしょうか?
「狼を退治する方法が一つだけある。しかし――」
村外に旅をしたことがある男が皆の前で言いよどみました。村人達は男に注目しました。
「何でもいい。知っているなら教えてほしい」
村長が男を促し、男は旅の途中で聞いた人に化ける狼を退治する方法を話しました。その方法とは、太陽の元で十字架に掛け処刑することです。夜は満月のチカラを受けて昼間の狼より強く、村人が団結して攻撃しても敵わないというのです。しかし、昼間、狼は村人に化けています。一見しては狼か村人かは見分けがつきません。なので、誤って村人を処刑してしまうかもしれないリスクも生じますが、狼を処刑できる可能性もあります。そこで、村人で話し合って、狼だと思う人に投票し、投票数が多かった人が犠牲になります。残酷な方法ですが、これしか狼に喰い滅ぼされることを回避できる術はないのです。
村人達は絶句しました。しかし、男はこれしか方法がないと言うのです。村長はしばしの間、口を閉ざして考えていましたが、この方法を実行することを宣言しました。苦心の末に決意した村長を誰も責めはしませんでした。狼と村人達との命を賭けた運命のゲームが始まったのです。
早速、村人全員が集まり、狼と疑わしい者を匿名で投票していきます。この時、村人は気が気じゃありません。もし自分に投票されていたらどうしましょう? 投票する手は震えます。投票の結果、最初の犠牲者に選定されたのは、口数の少ない男でした。自分の意見をあまり言わないことが怪しいと疑われてしまったのです。
「違うッ!! 俺は……俺は狼なんかじゃない!! ヤメロ、助ケテクレェ――」
男は必死に抵抗しましたが――皆の決まりに従い、処刑されました。
しかし、翌朝、また一人新たに喰い殺されていました。狼はまだ生きているのです。昨日、処刑された男は本当にただの村人だったのです……
村人達は心を鬼にし、狼を討ちとるその日まで投票を続けました。しかし、狼は一向に姿を現しません。村人は嘆きと悲しみの中、人数を減らしていきます。そして、とうとう村人は三人になってしまいました。
「ねぇ、もういい加減やめよう。私、疲れた」
少女が盛り上がった土を見て、その場に膝を折りました。
「そうだね、もう、喰われちゃってもいい。でも、最後にどっちが狼だったか教えて」
少年が諦めたように言いました。
「それはこっちのセリフだよ」
少年に反して、青年が言いました。
「私は違う」
「僕も違う」
「俺も違う」
三者三様の否定、狼は最後まで嘘を付いているみたいです。
「かーっはっは。最後まで村人を演じるつもりらしいな。まぁいい、夜になればわかることだ。今日は皆、同じ家で夜を過ごそうか」
青年は愉快そうに大いに笑い、それを少年少女は疑いの眼差しで見ていました。
深夜になり、三人は誰が狼かを確認するため、お互いを監視しています。しかし、狼が現れる気配はありません。
「しぶといなぁ。いい加減化けて楽にしてくれよ」
青年は少年少女に向かって言いました。
「それはこっちのセリフよ」
「そうだ」
少年と少女は青年に向かって言いました。
「おいおい、二対一かよ」
青年は苦笑しました。
時間は刻々と過ぎて行きます。そして、零時を回った瞬間、少年に異変が起きました。低い唸り声をあげ、体中から獣毛が生えてきたのです。
「お前だったのか!」
青年は変身する少年を憎しみの眼差しで見ます。
「や、ヤダ! 何これ?」
一方、少女にも同様の変化が起こり始めました。
「お前ら……」
青年は舌打ちして二人を睨みました。
「違う! 私は……それに、あなただって」
少女に指摘されて青年は自分の体を見ました。すると、体中から獣毛が生えてきました。
「へ? 何で、嘘だ……」
三人は狼へ変身し始めました。耳が尖って頭の上へ移動し、爪が鋭くなり、鼻先が突き出てマズルができます。お尻からはしっぽが生え、骨格が変わり、二足歩行できない体になりました。
〝ククク。ここには霊媒師がいなくてやりやすかった。処刑じゃ死なないが、祓われるとさすがにマズイ〟
三人が三匹なると、どこからともなく声がしました。
〝おめでとう。君らは人狼に選ばれた。我は霊体ゆえ憑依した者を人狼に変えることができる。昼間は狼の姿しかなれなくて目立ちすぎるのが問題でねぇ。でもまぁ、代わり代わりに憑依して、この村は美味しかったよ〟
そう言うと、声は遠ざかっていきました。そして三匹は血肉を求めて村を飛び出していきました……
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「汝は人狼なりや?」という心理ゲームを元にしたお話です。読まれる前にwikiしてルールを把握するとより面白いと思います。