No.87317

アルビノ

さん

倉庫から引っ張り出してきたシリーズ第二弾(

ローゼンメイデンより水銀燈をお呼びしました。
銀様の一人称視点で進んでいきます。

2009-07-31 02:09:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1087   閲覧ユーザー数:1025

私は誇り高いローゼンメイデンの第一ドール水銀燈。

そしてアリスゲームでは誰にも負けない。最強の薔薇乙女。

だから私にはマスターなんていらない。

あんな余分な物がなくても私は十分やっていける。

そう、私は強いんだから。

 

今日のアリスゲームも私が勝った。

真紅も雛苺も翠星石も蒼星石もみんな私の敵ではない。

ただ今日もあの子たちにとどめを刺せなかったのは、あの子たちのマスターがそばにいたから。

認めたくないけど、やっぱりマスターがいるあの子たちは強い。

あの子たちもただのおバカさんじゃないってことね。

まあ、そうでなくては倒しがいがないけれども。

 

“なんで私にはマスターがいないの?”

内なる私がそう聞いてくる。

 

それは私が契約をしないから。

と私は答える。

 

“なんで契約をしないの?”

それはマスターがいなくても勝てるから。

“でも今日は負けたわよね?”

負けてなんていないわ!私は最強の薔薇乙女よ!!

“嘘ばっかり。あれだけ有利な状況に持ち込んでおいてとどめを刺せないなんて。負けと同じよ”

違う!私は最強の誇り高いローゼンメイデン第一ドール水銀燈よ!!マスターの有無なんて関係ない。私が最強なのよ!!!

“本当は分かってるくせに。あの子たちとあなたの力の差は徐々に縮まってきてるわ。”

“このままの状況が続けば、近い将来あなたは負ける。完膚なまでに叩き潰されるわ”

“負けることが分かり切っているのに手を打たないなんて。あなたの方がどうかしてるわ”

 

“・・・それとも、打つ手がないのかしら?”

 

うるさい!!!!!!!

 

私は近くにあった壁を思いっきり殴りつけて、内なる私を意識の外に追い出した。

壁が見事なまでにへこんでいる。少し手を傷めたかもしれない。

 

こんな弱気な私がいるから、あんな子たちに負けるのよ。

全く私らしくないわ。

 

 

 

私は月夜の空へと飛んだ。

こうしてただ空を漂っていると、だんだんと頭が空っぽになってくる。

 

今日は満月みたい。

星は見えにくいけど、月明かりのおかげで遠くまで見通せる。

一体、この先には何があるのかしら。

この先には海があって、大陸があって、ずっと真っすぐ行くとまた戻ってくる。

そんなことは知識として知っているけど、私は見たことがない。

一度、行ってみたいなと私は思う。

でも、それが叶わぬ夢だということも私は知っている。

 

 

なぜって?

 

 

私の力は徐々に無くなってきているから。

 

私にはマスターがいない。

だから私の力は私のローザミスティカの力の量と同じ。

力は使えば無くなるもの。

だから私のローザミスティカの力も徐々に無くなってきている。

ローザミスティカの力がなくなったらどうなるか。

私はただの動かないお人形になるでしょうね。

 

 

そんなことは絶対に嫌!!

私は誇り高いローゼンメイデンの第一ドール水銀燈。

そしてアリスゲームでは誰にも負けない。最強の薔薇乙女。

ただの人形ですって?そんなことは絶対に嫌!!

 

だから私はアリスゲームに勝たなくてはいけない。

勝って、全てのローザミスティカを手に入れて、アリスにならなくてはならない。

アリスになれば、この忌々しい体とも別れられる。

 

 

私は自分の体が大嫌い。

ローゼンメイデンは至高の少女、アリスを作り出すために作られた存在。

 

なのに、私の体は一体どうなっているの?

 

黒い翼

逆十字の刺繍入りドレス

それに・・・欠けた体

 

どこをどうしたらアリスになれるの?

そもそも、なぜお父様はこんな体の私を作ったの?

こんな体でお父様に抱きしめてもらえるの?

こんな体でお父様に褒めてもらえるの?

こんな体でお父様に愛してもらえるの?

 

 

意味のない問いかけだということは分かっている。

でも、・・・それでも私は問わずにはいられない。

 

 

以前の私のマスターたちは私を出来るだけ遠ざけようとしていた。

逆十字に黒い羽根。私のことを悪魔の化身と思う人も少なくなかった。

捨てられそうになることもあった。

教会に持っていかれて燃やされそうになることもあった。

あんな目に会うならマスターなんていない方が良い。

裏切られるのはもう嫌。

誰にも心を許してはいけない。

誰も信頼してはいけない。

信頼しなければ裏切られることもないのだから。

 

そこらへんのマスターとお父様が全く違うことは私だって良く分かっている。

それでも私は恐れずにいられない。

拒絶されることを

それでも私は。

それでも私は問わずにはいられない。

 

 

 

『お父様。なぜ私を作ったのですか?』

 

 

 

月が空の真上に来たころ、私は自分の寝床に戻ることにした。

私の寝床は廃ビルにある。

作りかけなのか、壊している途中なのかわからないけど人気がないので使わせてもらっている。

ガラスもほとんどないし、明かりもないけど、ほこりっぽくないから私としては気に入っている。

 

私の鞄は汚れたりいたずらされたりしないようにちゃんとビニールシートで覆ってある。

落ちていたものだけど。

 

ビニールシートをめくり、鞄を引っ張り出した。

鞄を開け、すぐにその中に潜り込んで私は眼を閉じた。

 

やはり鞄の中に入っている時が一番落ち着く。

でも、やはりマスターがいるときのような全身を包む優しい感じは感じられない。

まあ、それは仕方のないことだけど。

あの優しい感じはマスターからの力を受け取っている証拠だから。

今の私には忌々しいものでしかないけど・・・。

 

今日は意外と早く寝られそう。

やっぱりこのくらいの時間まで起きていないと寝られそうもないわね。

 

 

 

 

鞄の隙間から差し込む光で私は目が覚めた。

鞄を開けて外を見ると、そろそろ太陽が真上に来るころだった。

普段ならすぐに真紅たちとアリスゲームをするところだけど、昨日の傷がまだ癒えきってないから今日はパス。

だからといって特にやるべきこともないけれど、ビルの中にいても仕方がない。

少し考えた後、散歩でもすることにした。

 

普段、空から見ている場所でも実際に歩いてみるとずいぶんと感じが違うものね。

空から見ていると人の存在を感じないけど、歩いていると町の活気というか人の生気を肌で感じることができる。

でも人混みは好きじゃないから、私は近くの公園へと向かうことにした。

 

その公園はわりと大きい方で、噴水や芝生もちゃんと整備されている。

犬の散歩をしている人や昼寝をしているサラリーマンがいる中、私は木で影ができているベンチに腰かけた。

 

すると、私が腰かけたとたんに鳩がベンチの周りに集まってきた。

 

餌がもらえると思ったのかしら?

でも残念ながら私は餌を持ってないのよ。ごめんなさいね。

 

すると鳩は私の周りから離れ、隣のベンチに移動した。

どうやら鳩は私から餌をもらうのをあきらめ、隣のベンチに座ったサラリーマンからもらおうと考えたらしい。

すると、サラリーマンは食べていたパンを少しだけちぎって鳩の群れの中に投げ込んだ。

一斉にパンに群がる鳩たち。

瞬く間にパンは小さくなっていく。

 

しかし、私はその群れの中に入り込めていない鳩を見つけた。

その鳩は真白だった。

 

私はしばらくその鳩を観察することにした。

 

その鳩は常に群れの後ろをついて歩いていた。

そして、人が餌をあげるときも常に群れの後ろにいる。

別に他の鳩が白い鳩に対して意地悪をしているのではなさそうだ。

ただ、その鳩が群れに入らないだけ。

 

私はその鳩をずっと見ていた。

 

あの白い鳩はどうしたいのかしら。

やっぱり自分の姿が普通の鳩と違うのを自覚しているのかしら。

普通と違うから自分から一歩引いている・・・かもしれないわね。

 

そうこうしているうちに鳩の群れは一斉に飛びたった。

 

しかし、あの白い鳩だけは飛びたなかった。

公園の石畳の上に一羽だけ残る白い鳩。

 

白い鳩は私の方を見た。

どうやら私の視線に気がついたみたい。

そして、そのまま私の方へ歩いてきた。

 

私の足元まで来た鳩は可愛く「くるっぽー」と鳴いた。

 

私はベンチから降りた。

それでも鳩は逃げようとしなかった。

私は鳩に向かって手を伸ばしてみた。

それでも鳩は逃げようとしなかった。

私は鳩に触れた。

鳩は少し身じろぎをしたが、暴れなかった。

私は鳩を抱えた。

鳩と私の目が合った。

私はしばらく鳩と目を合わせていた。

 

私は鳩を少し観察してみた。

良く見ると、鳩の羽根の一部が欠けていて地肌が見えていた。

 

私はその鳩を自分の寝床へ持ち帰った。

なぜそうしたのかは自分でもはっきりとは分らない。

でも、その時の私にとってはそれが一番自然だったと思う。

 

鳩を寝床へ持ち帰った後、私は餌を探すために街へと戻った。

鳩が何を食べるかは分からなかったけれども、とりあえずパンを持っていくことにした。

 

私が帰ると鳩は私の方へ歩いてきた。

そして、私がパンを与えると一生懸命ついばんでいた。

 

一通りパンを食べ終わった鳩は丸くなって寝てしまった。

 

なんとなく私はほほえましくなった。

 

次の日も、そのまた次の日も私は鳩の世話を続けた。

鳩は私が帰ってくるまではずっと起きていてくれた。

そして、私が帰ってくると必ず「くるっぽー」と可愛らしく鳴いて私の元へと歩いてきてくれた。

誰かが出迎えてくれる環境。

それがこんなに心温まるものだということを私は長らく忘れていた。

 

そして、鳩を看病し始めてからちょうど一週間経った朝。

私が朝起きると、鳩は飛べるようになっていた。

鳩は私の頭の上を2,3回飛んだあと、ガラスのなくなった窓枠に降り立った。

鳩は私をしばらく見つめ、大空へ飛び立っていった。

 

正直、少し寂しかった。

でも、私は嬉しかった。

 

こんな私でも。

黒い羽根があっても。

逆十字を背負わされていても。

悪魔の化身と言われていても。

体の一部が欠けていても。

 

鳩を助けるくらいできるのだと。

一つの命を救うことぐらい出来るのだと。

 

 

その後、あの鳩がどうなったかは知らない。

ただ願わくはあの白い翼で大空を自由に飛んでいてほしい。

 

 

今の私には自由に空を飛ぶことなんて出来そうもない。

正直、次の戦いが私にとっての最後の戦いになるだろう。

私はどんなに汚い手を使っても、どんなに醜くても戦いに勝とう。

勝って、アリスになって、お父様に抱きしめてもらおう。

そしてお父様に「よく頑張ったね」って誉めてもらおう。

 

私は誇り高いローゼンメイデンの第一ドール水銀燈。

そしてアリスゲームでは誰にも負けない。最強の薔薇乙女。

私の存在意義はアリスになること。

 

私がアリスになったら立派な庭をお父様に作ってもらおう。

色とりどりの花を植えて、動物もいっぱい飼おう。

その時に、あの白い鳩にも来てもらいましょう。

そのころの私はもう飛べないでしょうけど、一緒にお茶をすることぐらいならできるはず。

それを実現させるためにも今度は私が頑張らないとね。

 

しばらく空を見上げたあと、私はnのフィールドの入口へ向かった。

 


 
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