No.872799

じさつもの

三日月亭さん

自殺という物凄く後ろ向きのものに対し
酔狂に思えるじさつものの話
作法を重んじ、生きてる物に配慮し、粋に最後を演出して
摂理に中指を立てるそんな変人のお話。
多分全四回

2016-10-03 22:29:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:448   閲覧ユーザー数:448

 

世の中作法と言うのは大事である

これを解っていない輩が多く嘆くばかりだ

特に私が推奨する自殺に関しては

 

よくよく混同されるが何も生活や人生に窮して自殺しようと言うのではない

私はただ自然の摂理に流されるのが嫌いなだけだ

もっと完結に言えば節理に中指を立てたいのだ。

 

だからこそ自らを殺す、これまた難しい物だと知ってほしい

特に昔のように死んだあとは自然に帰るわけでもなくただ腐敗するだけなので

大変宜しくない、私ほどの人間になれば、この社会に関わっている者

明日も生きていこうとしている者になるべく負担をかけないようにしなければならないのに

生きてるのが嫌で死のうとする者はそこいらの配慮が足らない

とにかく自分勝手だ、そのようにてまの考えだけで死のうというのだから

行き方も手前勝手なのだろう…

 

いつものようにその他の違いのわからない自殺者(じさつもの)の

昨今を思慮しながら私はある目的地へ向っていた

そこはちょっとした雑居ビルであたりは人通りは少ない

私の選んだ自殺場所なのだ

何故か?と問われると説明しなければなるまい

ここ一週間入念に調べた結果ここの人通りのタイミングやビルの高さが実に良い

人通りは夜は表の繁華街に人が集まるがこのビルの路地にはほぼ人は来ない

そして高さだが計算して落ちる事により人体の損傷を軽減ししっかり致命傷を

受けることが出来るのだ、そして一晩この気温に晒されていれば昏倒したまま

死にいたるというわけだ

 

ここで大事なのが事故と思わせないようにしなければならに

確かに事故だと処理が簡単かもしれないがそこは私の自殺者としての矜持が許さないのだ

その為にも遺書とそろえた靴が必須のだそれを心得ていないと

事故だけならまだしも事故と事件両方の線で捜査された場合

非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになる

まだまだこの酔狂は人には理解されていないから仕方があるまい

「ふふ、また思考が迷子になっているな」

つい呟いてしまう、ツイッターでもあるまいに

そうこうしている内に目的地の雑居ビルに到着する

そして建物内に潜入する、スピーディーかつ軽やかに

我ながら惚れ惚れするこの動きは日ごろの研鑽の賜物だろう

だが今はどうやら無人らしい…

「少々気張りすぎたかな?」

照れてしまう、やはりこのように事がすべて上手くいっているとどうしても

張り切ってしまう、人とは気持ちで左右される生き物なのだろう

最上階へ続く階段を足早に上り屋上の扉を…

「開いている?」

言葉に出てしまった開いている何故だまさか

流行る気持ちを抑えながら屋上に出ると…先客が居た

先客は私が落ちるその場所で柵にまたがりながら叫んでいた

「クソ!死んでやる!!死んでやるぞぉ!!って!!!アンタ誰だ!!」

先客は私に気が付き怒鳴りながら問いかけてきた

私は答えず先客である男を観察した

 

男は三十代前半で左手薬指には指輪をつまり既婚者だ

そして衣類は少し乱れている、だがスーツは安物ではなくある程度のものだ

普段はちゃんと着こなしているが今は心が乱れて衣類に頓着してないのだろう

しかも最悪なのがこの男やけになったらしく酒を少々煽ってるようだ

仕事の失敗で自棄酒と言うより夫婦仲のような気がしないでもない

私にとっての問題はそこではない

「お前、衝動的に死のうとしているな」

 

言葉が漏れた先客の男はぎょっとした顔で私を見つめてきている

私が常々募らしている不満をこの男が全て体現しているのだ

 

一つ勢いだけで無計画

二つ遺書も用意しておらず

三つ残した物の事などお構いなし

四つ何より粋でも酔狂でもない

 

この大ばか者を見ている私は怒りを覚えた

「連絡先は?」

男は私を理解できないって顔で見ている

「君は実に不愉快な男だ私の興をそいだところか、無作法極まりない」

「どうせ、夫婦仲が上手くいかないとかそんなくだらない理由なのだろう不愉快だ!」

私は怒った、今までの高揚感はうせ激高する

「れ!連絡先を知ってどうする気だ!?」

男はしどろもどろする

「君の家族に連絡するのだ」

私はそう答えると男はうろたえ

「か、家族を呼ぶきか!絶対にそんなことはさせんぞ!」

向こうも激高するが酔った怒りと本物の怒りでは比べ物にならない

私は真の怒りを持ってこの男にガツン!といってやろうと思った

「いまからお前は死ぬんだろう、不愉快だ!作法もなってない不心得者の自殺を見るのだぞ

 遺族に連絡を取り賠償請求をするのだ、不愉快な物を見せられた精神的苦痛ののな!」

私のこの怒りが解ったのか、男は震えだした

「解ったなら出したまえ!出したらさっさと飛び降りろ!興がそれて気分ではないのだ!」

この一言を放つと男は柵からこっち側に来て私に踊りかかった

不意にも私はこの不心得者の奇襲に引っかかりまんまと顔面に拳骨を食らってしまう

「お前のようなキチガイに誰が従うものか!!家族は俺が守る!!」

そういうと男は立ち去り私一人だけが残った

仰向けになり秋の夜空を眺めていた

ふと私は自分の認めた遺書を読み返すと

この夜に似つかわしくない文章に思えてきた死かも不心得者に殴られる始末

「今日は逝かんな、逝かん逝かん」

逝くに逝けないこの気持ち、実に良くないしかも追い討ちをかけるように

空腹感が私を支配する下に降りれば繁華街美味しい物がいっぱいだ

生きてるのであれば食べることに幸福感を感じようか

「じさつもの あきよにしくじる こともある」

つい一句詠んでしまった

 

 

それにしても初対面の人に向ってキチガイってひどくないかな?


 
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