No.87019

真・恋姫無双~魏・外史伝25

 今日から夏休みのアンドレカンドレです。
今日から投稿を再開します。

 今回は前回投稿した第十二章の(仮)に修正を加え、前編
として組み直した内容です。一刀君と華琳さんが再会するまでの経緯をここで明らかに!

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2009-07-29 18:04:06 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7358   閲覧ユーザー数:5792

第十二章~今再び、君の元へ・前編~

 

 

 

  それは、一刀が陳留に到着するほぼ一日前の事、洛陽の城にて・・・。

  「なぁ、秋蘭・・・。」

  「何だ、姉者。」

  「一体、この大陸で何が起きているのだ?」

  「・・・?いきなりどうしたのだ?」

  「うん、いや・・・。この前の建業の事と言い、五胡の侵攻の事と言い、蜀での正和党の反乱と言い、

  急に戦事があちらこちらと起こっている。そうだろ?」

  「確かにそうだな。」

  「華琳様の言うとおり、この大陸に再び動乱が起こっている。だから我々もそれに備えて、軍備の増強を

  しているわけだが・・・。ついこの間まで平和だったはずなのに・・・、一体これからどうなるのかなぁと・・・な。」

  「・・・・・・。」

  「夏侯惇将軍、夏侯淵将軍。」

  城のとある廊下を歩いていた春蘭と秋蘭に、一人の兵士が礼をしながら話しかける。

 後ろから呼びかけられた二人は足を止め、後ろを振り返った。

  「ん?何だ、貴様?」

  「お前は確か警備隊の人間だったな・・・。我々に何用だ?」

  秋蘭の発言を聞き終えた兵士は、話を続ける。

  「はっ。・・・実は先程、街の警羅をしていましたら、北郷隊長の事を耳にしましたので、

  それをお二方の耳にもと・・・。」

  北郷という単語を聞いた瞬間、二人の顔が驚きに豹変する。二人は互いに顔を見合う。

  「・・・それで、お前が耳にしたというのは?」

  秋蘭は、兵士から北郷に関するその詳細を求めた・・・。

  

  「か、華琳様!」

  華琳の執務室に、春蘭が慌てて入って来る。部屋には王としての業務をこなす華琳と、それを補佐する桂花がいた。

  「どうしたの、春蘭?そんなに慌てて・・・。また何かやったのかしら?」

  華琳はそんな春蘭に呆れながら、一体何をそんなに慌てているのかを尋ねる。

  「い、いや・・・華琳様。私がどうという事じゃなくてでして・・・!」

  「・・・でしょうね。仮に何かしでかしたのなら、馬鹿正直にここに来るはずないものね。」

  「ちょっと待て桂花!何だその物言いは!!」

  慌てている春蘭に、桂花が横からちゃちゃを入れる。

  「止めなさい二人とも!私は忙しいのよ、口喧嘩なら外でやってくれる。」

  「「は~い・・・。」」

  華琳に叱られる二人・・・。そこにもう一人、秋蘭が遅れて部屋に入って来た。

  「華琳様・・・、失礼します。」

  「秋蘭、あなたまで・・・。一体どうしたの?」

  「姉者?華琳様にまだ言っていないのか?」

  華琳の発言から、秋蘭は春蘭に確認する。

  「うぐ・・・、すまん。まだ言えていない。」

  春蘭はバツがあるそうに答えると、秋蘭は軽くため息をついた。

  「申し訳ありません、華琳様。実は先程、警備隊の者からの報告で・・・。」

  「警備隊の警羅報告なら後で聞くわ。今私は・・・。」

  「北郷に関する事なのですが・・・?」

  一瞬、華琳の左眉が動く。そして手に持っていた筆をゆっくり硯の上に置いた。

  「聞きましょう。」

  「はっ。では・・・。」

   秋蘭の報告は以下のものであった。

  先程、廊下で会った兵士の話によると、街の警羅の途中で、ここより東からやって来たという旅商人が

 道端で商売を商っている時、たまたまではあったが天の御遣いの話をしていたのを聞いたのであった。

 兵士はその商人から詳細を聞いてみると、洛陽に来る道中・・・山陽と陳留のちょうど真ん中にて北郷一刀

 と思われる青年に陳留までの道を尋ねられたとのことであった・・・。天の御遣いかと尋ねると、

 彼は人違いだと鼻で笑ったらしい・・・。

  その旅商人は魏領内で運営されている人が乗り降り出来る様になっている馬車(バスの馬車版と考えて欲しい・・・。)を利用してここまで来たのであったが、その青年は金が足りないという理由からそこで別れた、と言っていた。

  さらに、その旅商人を乗せていった馬車の運転手からも話が聞けたようで、どうやらその運転手は元・警備隊

 出身で一刀のもとで働いていた事もあり、彼と面識もあった。運転手の話によると、どうやらその旅商人の言う通り

 一刀と思われる青年を途中下車地にて見かけたとの事であったが、勤務中であったためその時はそのまま行ってしまった、ということであった・・・。

 

  「・・・成程、しかしそれだけではいささか信用性に欠けるわね・・・。」

  「はい、ですが・・・。」

  「何?」

  「一週間程前に、山陽付近の村が五胡の残党に襲われた事件は覚えていらっしゃいますか?」

  「・・・ええ。確か、近くに駐在してい隊が駆けつけた時には、すでに五胡の残党達は皆死んでいたらしいじゃない?

  それが一体・・・?」

  「実はその報告には続きがありまして、その時はあまりに信憑性に欠けた内容でしたので報告しなかったのですが

  その村唯一の飯屋にて、北郷思われる人物が老人と一緒にいるのを目撃したという証言がありました・・・。」

  「何ですって・・・?本当なの?」

  「はい・・・。ただ先程も言った様に、・・・見間違いの可能性があったため伏せていました

  が・・・。今回の報告から考えると・・・、どうもそれが事実の可能性が上がってきました。」

  「・・・?どうしてそうなるんだ?」

  良く分からないという顔して、秋蘭に尋ねる春蘭。

  「山陽からここ、洛陽に行くなら・・・陳留を経由していた方が最短で着けるからよ・・・。全く、それも分からない

  なんて・・・あなた、よく魏の将がやっていられるわね・・・。」

  秋蘭に代わって、桂花が説明する。説明し終えた桂花は、春蘭に向かって溜息をついた。

  「まぁ・・・、そういう事だよ姉者。・・・それを踏まえた上で、どういった経緯かは分かりかねますが、現在

  北郷は陳留に徒歩にて向かっていると思われます・・・。今までの証言からして、恐らく明日明後日には陳留に

  到着する計算になります・・・。」

  長い報告を終えた秋蘭は華琳の意見を仰ぐため、華琳の方を見た。

  「・・・そう、よく分かったわ。報告ご苦労だったわね、秋蘭。」

  そう言って、華琳は再び筆をとると、そのまま業務に戻った。

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  そんな華琳の反応に思わず、三人は固まった・・・。彼女のその反応は、彼女達の予想していたものと

 全く違うものであったため、思考停止してしまったのであった。

  「あの・・・、華琳様?」

  春蘭が先に口を開く。

  「あら、まだ何か報告があるのかしら・・・?」

  「いえ・・・そうではなくて・・・ですね。それだけ・・・ですか?」

  「それだけとは・・・?」

  「いやぁ、ですから!その・・・、これから何処かに行くという予定とか・・・。」

  「別に今日は何処かに視察する予定は無いわよ?」

  華琳は業務をこなしながら、会話を続ける。彼女の視線は竹簡の方に向けられていた。

  「あの・・・、華琳様?」

  今度は桂花が口を開く。

  「何、桂花・・・?」

  「お、お疲れのようでしたら・・・、ここは私に任せて少しご自分のお部屋でお休みになって・・・。」

  「私は別に疲れてなどいないわよ?」

  華琳は業務をこなしながら、会話を続ける。彼女の視線は竹簡の方に向けられていた。

  「華琳様、北郷を迎えには行かないのですか?」

  最後に秋蘭口を開く。それは他の二人が言いたかった事であった。

  「どうして?」

  「どうしてって・・・華琳様?秋蘭の話・・・聞いておりましたか?」

  すかさず春蘭が華琳に確認する。

  「そうね。聞いていたわ。一刀が陳留に向かって来ているという話でしょう?」

  「でしたら・・!」

  「春蘭、あなた・・・今私達が、この国が置かれている状況がどのようなものか分かっていない様ね・・・。」

  華琳は業務をこなしながら、会話を続ける。彼女の視線は竹簡の方に向けられていた。

  「あの五胡の大軍勢の侵攻から、国境付近では何度も五胡と衝突し、この間だって擁州に侵攻してきた五胡

  を撃退したばかり・・・。一人の男に現を抜かしいる場合では無いでしょうよ。」

   華琳の言う通り、約五十万の大軍勢が魏領に攻め入ってから、間も置かず、国境付近にて五胡と魏軍が

  何度も衝突していた・・・。五十万程では無かったが、西方の涼州・擁州に五胡の侵攻を許してしまっていた

  のであった・・・。

  「それは、そう・・・でしょうが・・・。ですが、華琳様。あの男一人で果たしてここまで来られるか・・・。」

  桂花は苦しいながらも、何とか発言する。

  「そ、そうです!桂花の言う通りです!あ奴が一人でここまで・・・、それどころか陳留に辿りつけるか!!」

  それに春蘭が続いた・・・。が華琳はそれでも筆を止める様子は無かった・・・。

  「あの男だって馬鹿では無いわ。もし本当に陳留を経由して来ているのなら、そこの警備隊に保護されて

  ・・・後は向こうから勝手に来るでしょう。その時に・・・。」

  「・・・曹孟徳とあろう方が、一人の男に会うのに何を恐れているのですか?」

  華琳が話を続けようとしたその時、沈黙を通していた秋蘭が突然、彼女の話を遮った。

 華琳の話と一緒に、華琳の手も止まる・・・。

  「何ですって・・・?」

  華琳は少し不愉快そうな表情で秋蘭を見上げた・・・。

  「しゅ、秋蘭・・・?」

  隣で聞いていた春蘭は目を丸くしながら、秋蘭を見る。

  「先程から黙って聞いていれば、最もらしい事を仰られておりますが・・・。要するにあなたは北郷に

  会うのが怖い・・・、そう言う事ですか?それを言葉を多く並べ立て、上手い事隠しておられたつもりのようですが・・・。」

  「・・・・・・。」

  秋蘭の暴言を黙って聞く華琳。

  「秋蘭、いくらあなたでも言葉が過ぎるわよ!!」

  一方、その暴言に華琳に代わって怒る桂花。しかし、秋蘭はそんな桂花に目もくれず、話を続けた。

  「一体何が怖いのでしょう?

  また自分の前からいなくなる事が・・・?

  それとも無様な今の自分の姿を北郷に晒す事が・・・?

  もしそんな理由でしたら・・・、これ以上そんなふ抜けた姿をさらして、我々を幻滅させないで下さい。」

  「おい、秋蘭!?一体どうしたんだ!いくら何でもそれは言い過ぎだぞ!!」

  華琳に向かって、冷たく言い放つ秋蘭に、その横で慌てふためく春蘭。

  「私が心から敬愛する曹孟徳は・・・、自分が欲しいものは自らの手で手に入れて来ました。そして・・・

  周りから如何な事を言われようとも、如何なる障壁にぶつかろうとも自分の信じる道を決して曲げる事無く、

  真っ直ぐと突き進んでいきました。・・・少なくとも今までは。」

  「・・・・・・。」

  秋蘭の暴言を未だ黙って聞く華琳。その表情にもはや怒りの色は無く、全くの無表情・・・。冷め切った無表情が

 そこにあった。それでも、秋蘭は話す事を止めない。

  「今のあなたは・・・どうでしょうか?私の知る曹孟徳であれば、話を聞き終えたら一目散にこの部屋から

  飛び出すはずなのですが・・・。もし、このままそこから離れないというのならば私が代わりに、

  北郷を迎えに行きます。あなたはそこで・・・私が奴を連れて帰るのを待っていて下さい。」

  「「なっ・・・。」」

  秋蘭のとんでもない発言に、怒り心頭だった春蘭と桂花は唖然とする。そして華琳は下を俯いてしまった・・・。

  「私の内心を告白すると、この事をあなたに報告なんてしたくなかった。早く北郷に会いたいという衝動を

  押さえ込み、わざわざその役所をあなたに譲ってやろうという・・・私達の計らいを汲んで

  欲しかったのですが・・・。」

  そんな罵りにも近い言葉を華琳に放った秋蘭は彼女に背中を向けると、そのまま扉の方へと

 向かう・・・。

  「桃香や雪蓮ならともかく・・・、まさかあなたにそこまで罵られようとは・・・。

  曹孟徳も・・・随分と舐められたものね。」

  秋蘭の足が止まる。そして下を俯いたまま、言葉を紡ぐ華琳。

 その言葉には怒りとも悲しみともとれない・・・、表現しがたい感情が籠っていた・・・。

  「華琳様・・・。」

  秋蘭が華琳に声をかけると、華琳は顔を俯かせたまま、ゆっくりと席から立ち上がる。

  「覚悟は・・・出来ているのでしょうね?」

  「如何様にも。」

  「・・・・・・。」

  「か、華琳様っ!わ、我が妹の失態は・・・姉である私の失態でもあります!ですからここは・・・」

  秋蘭を庇うように、彼女と華琳の間に入り込む春蘭。

  「誰があなたに発言を許したの、春蘭!?」

  「ひぅ・・・っ!?」

  しかし、華琳の怒鳴り声によってそれは阻まれた。すると、華琳は後ろの壁に掛けられていた自分の武器『絶』

 を手に取った。

  「華琳様!?」

  華琳の行動から嫌な予感が頭を過った桂花は思わず声を荒げる。しかしそんな桂花に目もくれる事無く、

 華琳は絶を持ったまま秋蘭の前に立った・・・。春蘭と桂花に緊張が走る・・・。それに対して秋蘭は

 澄ました顔をしている。いや・・・、そう装っているのかもしれない。

  「秋蘭・・・。」

  「はっ・・・。」

  華琳がゆっくりと、顔を上げる。

  「私が不在の間・・・、ここの事は全てあなたに任せるわ。いいわね?」

  「・・・承知致しました。」

  「ありがとう・・・。」

  秋蘭の横を過ぎる瞬間、小声でそれだけを言い残し、華琳は一目散に部屋から出ていった・・・。

  「うぇ・・・えぇ!?」

  「はぁ・・・!?」

  春蘭と桂花は、状況がいま一つ理解出来ず頭にはてなを浮かべながら混乱していた。

  「・・・・・・。」 

  ―――大変だなぁ、華琳の家臣ってのも。

  ふと、いつかの北郷の言葉が秋蘭の耳に蘇る・・・。

  「・・・・・・ふぅ、全くだ。本当に世話が掛かるお人だよ。」

  一人納得する秋蘭、そんな彼女を囲むかのように、他の二人は秋蘭の目の前に顔を寄せる。

  「秋蘭!?一体何を考えているのだ、お前は!!」

  「全くだわ!!あんな暴言を華琳様に吐くなんて・・・。あなたもとうとう

  春蘭みたいに、頭がおかしくなったの!?」

  「何だと!?誰の頭の中身がおぼろ豆腐だぁっ!!」

  「誰もまだそこまで言っていないでしょう!!」

  「まだとは何だ、まだとは!?」

  秋蘭を余所に、二人は鼻と鼻がぶつかるすれすれの所でいがみ合う・・・。

  「こら二人とも。私を挟んで喧嘩しないでくれないか?」

  そう言いながらも、どこか満足げな顔をする秋蘭であった。

 

  ―――日輪が地平線から登り始めた刻。 

 

  この地平線が続く大地を一頭の馬が駆け抜ける。その馬の名は『絶影』。

 

  名前の由来は影を留めないほどの速さからとされる・・・。

  

  そしてその絶影にまたがるは、その主・・・曹孟徳こと華琳であった。

 

  今、彼女はかつて失ったものをもう一度、手に入れるため・・・。周りの物など目もくれず、

 

  ただ前だけを見つめていた。その先に、彼がいると信じて・・・。

 

  一刀が陳留に到着した頃、陳留の警備隊本部にて・・・。

  「そう・・・、まだ一刀はここに来てはいないの。」

  華琳は、応接間にて、陳留警備隊隊長から一刀の事を聞いていた。

  「はい、我々も北郷総隊長に関する情報は逐一集めてはいるのですが・・・。

  まだ、ここ陳留に到着したという報告はまだ入っていません。」

  「・・・・・・。」

  長い沈黙が続く・・・。

 華琳の顔が俯こうとした・・・その時であった。

  「隊長!・・・こ、これは曹操様!?失礼いたしました!」

  慌てた様子で一人の兵士が応接間に入って来る。華琳の姿を見て、兵士はすぐさま気を付けの態度を示す。

  「気にしなくていいわ。それより、何かあったのでしょう?私には気にせず、言いなさいな。」

  「はっ・・・。じ、実は先程、北郷総隊長と思しき人物を街の中で・・・。」

  その瞬間、華琳の目が大きく見開く。

 すると、華琳はすかさず椅子から立ち上がる。

  「!?・・・あなた、悪いけれどその人物を見つけた場所に案内なさい。」

  「御意!では、こちらへ!」

  そして華琳は兵士の案内で、一刀が入って行った店前へと着く。

  「そう、ここ・・・。」

  店を見上げながら、兵士に確認する華琳。

  「はい、この店に入るのを部下達と一緒に見ましたので。」

  「・・・。」

  「曹操様・・・?」

  問いに答えたにもかかわらず、何の反応を示さない華琳に兵士は尋ね返した。

 すると突然、華琳から笑みがこぼれたのであった。

  「・・・何でも無いわ。ちょっと行ってくるわね。」

  「は、はっ・・・。」

  そして、華琳は店の中に入って行った。

  

  店の中に入った私は店の中を見渡す。

 店内は客と店員達で賑わっていた・・・。そんな中、店の奥の方を覗くとそこには他の客達とは

 雰囲気が異なった。黒髪の男がこちらに背を向けた状態で座っていた。

  「・・・・・・。」

  私はその男の元へ駆け寄ろうと奥へと足を進める。すると、私の横を駆け足で通り過ぎようとする

 店の女店員が目に入る。彼女の右手には、白い器に盛られた出来たての炒飯があった。

  「ちょっと、あなた。」

  私はすかさずその店員を呼びとめた。

  「はい、なんでしょう?」

  店員は、足を止めると私に振り向いた。

  「その炒飯・・・、奥の机の男が注文したものね?」

  「そうですが・・・。それが何か・・・?」

  「これは私が運んであげるから。それと、あなたのその前がけも貸しなさい。」

  「は、はい・・・。」

  店員は、疑問を抱きながらも否応もなく私に炒飯と白い前がけを渡した。

 私は前がけを身につけると、そのまま両手で炒飯が盛られた器を持ち、その男の元へと近づいた。

  「お客様ー!ご注文の炒飯、お待ちどう様で~す!」

  「あ、はい!店員さん、こっち、こっ・・・ちぃ・・・・・・。」

  憎たらしい程に清々しく答えながら、私の方に顔を向ける。

  「!!」

  その憎たらしい程に清々かった顔が一瞬にして青ざめ、ガタガタを体が震えているのが分かった・・・。

 

  それから約半刻・・・、店先では大勢の野次馬でごったがえし、各々が店の中を覗いていた。

 その反面、まだ昼の真っただ中にもかかわらず店の中はがらんとしていた・・・。

 客も当然ながら、厨房にいるはずの店員や料理人さえもいなかった。だからと言って、別に今日が休業日という訳では無い。

 では何故か・・・?その原因は、店の奥の机に座る男女二人にあった。

  「・・・・・・♪」

  「・・・・・・。」

  女は頬杖しながら、頬笑みを絶やさず反対側に座る男を眺め・・・。

 男はガタガタと震える小動物のように小さくなり、目線を下に向けていた。

  「どうしたの、一刀?早く食べないと、折角私が運んできた炒飯が冷めちゃうじゃない?」

  「は・・・、はぁ・・・。」

  まさに修羅場・・・、人々はこの修羅場の結末を店前から見ていたのであった。

  「ねぇ・・・あの人、曹操様よね?」

  「もしかして、向こうに座っているのは・・・天の御遣い様じゃない?」

  「かかさま~?あの人たち、なにしてるの~?」

  店の外の野次馬達のどよめきが店の奥にいる二人の所まで聞こえる。

 だが、一刀はそんな事などどうでも良かった・・・。

 今、自分が置かれているこの修羅場を如何にして切り抜けるかを、必死に考えていたのであった。

 目の前の彼女から発せられる殺気に近い何かをひしひし感じながら・・・。

  しかし、可笑しな事である。この世界から消えてからこの1年、目の前の彼女にもう1度会いたいと何度も願い、

 そしてやっとの思いで再会できた・・・はずにもかかわらず、喜びや嬉しさが湧いて来ないのだから。

  今、彼を支配するのは恐怖・・・、ただそれだけであった。

  「あ、あの・・・華琳、さん?」

  滞っていた会話を視線だけを目の前の華琳に向けながら、たどたどしい声で再開する一刀。

  「な~に♪」

  それに対して、華琳は恋人のような甘えた声で返した。

  「・・・やっぱり、怒って・・・ますよね。」

  至極当然の事を華琳に尋ねる一刀。彼の気のせいか、一瞬彼女のこめかみ辺りに血管が浮き出たように見えた。

 その瞬間、彼の背筋に戦慄の悪寒が走る。

  「あらぁ~・・・。そんな風に見えるのかしら?だとしたら、それは気のせいよ。

  私は・・・、ぜ~んっぜん!これっっっぽちも!!怒ってなんかないわよ♪

  あなたに会えて・・・私はとてもとても嬉しいのよ・・・何せこの二年間私達を放っておい

てぇ?戻って来たらあっちこっちと私達を振り回してぇ?それで・・・やっと会えたのだしぃ♪」

  滅茶苦茶、怒ってらっしゃる~~~!!!

 全身から脂汗を流しながら、一刀は心の中で叫んだ。

  「あ、ああ・・・あの、華琳・・・さん。自分も・・・華琳さんに会えて凄く・・・嬉しいです。」

  恐怖に打ち付けられながらも、一刀は声を絞るようにして話す。そんな彼を見ていて楽しいのか、華琳は

 不敵な笑みをこぼす・・・。

  「ふうん・・・、もしそう思っているなら、今ここで・・・私に言うべき事があるのではないかしらぁ?」

  「すいませんでしたぁ・・・!!」

  一刀は情けなくも、椅子から降りるとすぐさま土下座の体勢を取ると、すかさず謝罪の言葉を華琳に捧げる。

  「・・・・・・・・・。」

  「・・・・・・・・・。」

  二人の間に長い沈黙が続く。時間が止まったような錯覚に襲われる一刀。これから降りかかるであろう、

 怒りの撤鎚を待ち続ける・・・。

  「・・・・・・・・・。」

  「・・・・・・・・・。」

  しかし、今だその沈黙は続く。

  「あ・・・、あの、かり・・・んさん?」

  沈黙に耐えられず、床にすれすれまで下げていた一刀は頭を上げようとした瞬間・・・。

  ドサッ!

  「っ・・・?」

  頭の上から何か押し付けられ、再び一刀の顔は床とにらめっこする。

  「・・・駄目。それだけじゃ・・・まだ足りないんだから。」

  静かな声で華琳は呟くように一刀に囁く。その声には怒りではなく、哀愁に近いものを一刀は感じた。

  「二年・・・、あなたがいなくなった後、春蘭達をなだめるのにどれだけ苦労した事か・・・。

  一体あの娘達がどれだけ悲しんだ事か・・・。・・・あなたにはきっと分からないでしょうね。

  ・・・私だって。」

  「・・・・・・。」

  一刀は何も言わず、黙って聞いていた。この2年、華琳達は一体どんな思いで過ごしてきたのだろう。

 華琳の言うとおり、彼は知る由が無かったのだ。

  「だから、そんな言葉だけじゃ・・・まだ足りないんだから。あなたがいなかったこの二年間・・・

  これからちゃんと埋め合わせしないと承知しないんだから・・・。」

  「・・・ああ、分かって・・・いるよ。」

  一刀がそう言うと、彼の頭に圧し掛かっていたものが無くなる。一刀は、華琳が右足で自分の頭を

 押し付けていた事をここで初めて分かった。一刀はゆっくりと立ち上がると、目の前で俯いている小柄な女性と

 対峙する。

  「・・・華琳。」

  一刀が彼女の真名を呼ぶ。

  「一刀・・・。」

  華琳は一刀を見上げ、彼の名を呼ぶ。

  

  「そ、曹操様!!・・・あっ・・・。」

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  店前の人ごみをかき分けて店に入って来た一人の警備隊の兵士、何か慌てた様子ではあったが・・・。

 彼は自分がどれだけ場違いかを瞬時に理解した。

  「ごゆるりと。」

  兵士はそのまま人ごみの中へと戻ろうとした。

  「ちょ、ちょちょッ・・・!?気を利かして戻らなくていいから戻らなくて!!」

  一刀は慌てて兵士を止める。今さらここでやり直すのも恥ずかしいだろ?と一刀は心で呟く。

  「はっ!しかし北郷総隊長・・・。」

  「何かを急ぎの用だったんだろ?だったら早く報告しなよ・・・うぎゃあ!?」

  一刀は突然、自分の脛を抑える。一方、華琳は軽くため息をつく。

 兵士には何が起きたのかいまいち理解できていなかった。

  「・・・で、一体何用かしら?」

  「はっ!つい先程、洛陽方面の狼煙台から緊急時の狼煙が・・・確認されました!」

  


 
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