”サンクト地区”に到着したリィン達は”聖アストライア女学院”の正門前まで行き、待機していた。
~夕方・サンクト地区~
「そういえば……ラウラはここに入るつもりは無かったの?」
聖アストライア女学院の正門前で待機していたフィーはある事が気になったラウラを見つめ
「父から勧められはしたが武術の授業が無いらしくてな。まあ、その時点で私の選択肢からは無くなった。」
「はは、なるほど。」
ラウラの答えを聞いたリィンは苦笑した。
「うーん、ラウラが女学院に入ったらとんでもない事になりそうだね。」
「確かに……目に浮かぶようだな。」
「???まあ、何人か知り合いもいるし、素晴らしい学院だとは聞いている。あのアルフィン殿下も在学されているそうだからな。」
「ああ、そうらしいな……」
エリオットとマキアスの会話の意味がわからないラウラは首を傾げた後話を続け、ラウラの話にリィンは頷いた。
「あるふぃん殿下……?」
「君な……いくら帝国出身じゃないとはいえ……」
「はは……でも、そんなものかもな。」
「アルフィン殿下っていうのはユーゲント皇帝陛下の娘さんだよ。『天使のように愛らしい』ってすっごく人気があるんだ。」
ある人物を知らないよう様子でいるフィーを見たマキアスは呆れ、エリオットは苦笑しながら説明し
「へえ……」
エリオットの説明を聞いたフィーは目を丸くした。
「ふふ、たしかフィーと同い年だったか。以前お会いした事があるが噂にたがわぬ可憐さだったぞ。」
「やっぱりそうなのか……何度か雑誌の写真で見かけたことはあるんだが。」
「(そういえばエリゼと同学年だったはずだけど……)―――双子の弟君がおられてそちらはセドリック殿下だ。エレボニアの皇太子でもある。」
「ふむふむ。」
リィン達の話を聞いたフィーは自分の頭に情報を詰め込んだ。
「そういえば、前に雑誌でオリヴァルト皇子を見かけたけど。二人はオリヴァルト皇子の家族?」
その時ある事を思い出したフィーはリィン達を見つめて問いかけた。
「ああ、オリヴァルト皇子はアルフィン殿下たちのお兄さんにあたるよ。」
「お兄さんなのに皇太子じゃないの?」
エリオットの説明を聞いて疑問に思ったフィーは首を傾げた。
「詳しくは知らないが母君が平民だったらしくてな。馬鹿げた決まりだとは思うが皇位継承権から外れるらしくてね。」
「でも、最近その名前を結構聞くようにはなったな。たしか、何とかっていう飛行船でリベールから帰還したとかで……」
「ああ、リベールの異変後の”アルセイユ号”での帰還か。」
「うーん、あれは僕も見たけどかなり衝撃的だったよ。あんな真っ白で綺麗な飛行船、初めてみたもん。」
「父さんが帝都知事として殿下を出迎えたらしいが……確かにあの時以来、オリヴァルト殿下の名前をよく聞くようになったな。」
リィン達が話し合っているとB班のメンバーがリィン達に近づいてきた。
「あ、もう来てたのね。」
「ふふっ、お疲れ様です。」
「早いな、そっちは。」
「うん、ちょうどいい所で課題の方にケリを付けてね。」
「そちらの方は終わったのか?」
「フン、当然だろう。帝都に馴染みはないがちょうどいいハンデだな。」
「ぐっ……この男だけは。」
相変わらずの様子のユーシスの答えを聞いたマキアスは唸り
「んー、仲良くするのはちょっと難しそうだね。」
「フフ、喧嘩をするほど何とやらかもしれないが。」
「あら、あなた達……」
「……ひょっとして?」
互いの顔を見合って会話をしているフィーとラウラの様子に気付いたアリサとエマは目を丸くした。
「はは……さすが女子は鋭いな。」
「コホン………うん。その、なんだ………そなた達にも心配をかけたな。レンに関しても大丈夫だ。」
「もう心配無用。」
「そっか……!うんうん、良かったじゃない!」
「ふふっ……そうですか。実習が終わったら誰かの部屋で一晩中話したい気分ですね。」
ラウラとフィーの答えを聞き、ラウラ達が和解した事を悟ったアリサとエマは嬉しそうな表情で二人を見つめた。
「ちょっといいかも。」
「フフ、少し照れくさいが。」
(うーん、女の子だな。)
(あはは、お泊り会は女の子の特権みたいなものだからね。)
女子達の様子を見たリィンとエリオットはそれぞれ苦笑していた。
「……?そう言えばレンはいないようだが……」
その時レンがいない事に気づいたガイウスはリィン達を見つめ
「ああ。何でもサラ教官がレンに別の用事があって、レンだけ今は別行動中だ。」
「ふむ……?一体何の用事なのだろうな?」
「フン、大方団体行動を乱すような言動が目立っているのだから、説教でもされているのではないか?」
「アハハ……さすがにそれはないと思うよ。」
リィンの答えを聞いたガイウスが考え込んでいる中鼻を鳴らして呟いたユーシスの推測を聞いたエリオットは苦笑した。するとその時鐘の音が聞こえて来た。
「”ヘイムダルの鐘”か……」
「……荘厳な響きだな。」
「さすがにオスト地区で聞こえるのとは違うな……」
「これが5時の鐘……そろそろ約束の時間だけど。」
鐘の音を聞いたリィンが考え込んだその時
「兄様……?」
正門が開き、正門から出て来た女学院の制服を身に纏うエリゼがリィン達を不思議そうな表情で見つめた。
「エリゼ、どうして……!って、ここに通ってるんだし別におかしくはないか。」
「え、ええ……Ⅶ組の皆さんもお揃いみたいですけど……」
リィンの言葉に頷いたエリゼは戸惑いの表情でアリサ達を見回した。
「ふふ、一週間ぶりかしら。」
「えへへ……ちょっと事情があるんだけど。」
「……ちょっと待ってください。兄様たち、ひょっとして……5時過ぎにいらっしゃるという10名様のお客様―――でしょうか?」
「ああ、確かにⅦ組全員でちょうど11名になるけど……って、ええっ!?」
エリゼに問いかけられたリィンは頷いた後ある事に気付いて驚き
「あの、それでは……私達に用事があるというのはエリゼさんなのでしょうか?」
「いえ……わたくしの知り合いです。ああもう……!本当に悪戯好きというか……いきなりこんな不意打ちをしてくるなんて……!」
エマの質問に答えたエリゼは呆れた表情でリィン達から視線を逸らした後頬を赤らめた。
「えっと、エリゼ?」
「失礼しました。トールズ士官学院・Ⅶ組の皆様。―――ようこそ、”聖アストライア女学院”へ。それでは案内させて頂きます。」
「あ、ああ。あ、そうだ。レンだけ他の用事があって、急遽欠席する事になったけど、大丈夫か?」
「レンさんが?ええ、そのくらいの事を気にする御方ではありません。―――それでは、どうぞ、学院の中へ。」
そしてリィン達はエリゼと共に女学院の中に入り、エリゼの先導によって進んでいた。
~同時刻・ヘイムダル中央駅~
同じ頃、帝都の駅の出入り口にレンが到着した。
「さて………と。一体誰が迎えに来るのかしら?」
駅に到着したレンが意味ありげな笑みを浮かべたその時
「あら……フフ、逆に待たせてしまったようですね。」
クレア大尉が駅から現れてレンに近づいてきた。
「うふふ、”氷の乙女(アイスメイデン)”直々のお出迎えという事はサラお姉さんやクレアお姉さんは”学生としてのレン”を呼んだ訳じゃないのね?」
「ふふっ、やはり感づいていらっしゃいましたか。――――お待たせしてしまって、申し訳ございません。サラさんは既にブリーフィングルームにて待機していらっしゃいますので、ご案内します。」
小悪魔な笑みを浮かべたレンに問いかけられたクレア大尉は苦笑した後レンに会釈をした。
「ええ。」
そしてレンはクレア大尉の案内によって鉄道憲兵隊が使っているブリーフィングルームに案内され、部屋にいたサラ教官と案内したクレア大尉と共に何かの会議を始めた。
~聖アストライア女学院~
「お、男の方……!?」
「あの制服……どこかの高等学校かしら?」
「”トールズ士官学院”ですわ!以前、わたくしのお兄様が通っていましたもの……!」
「まあ、あの皇族ゆかりの……!?」
「平民の方も入学されているそうですけど……」
「ラウラ様……!……ラウラ様だわ……!」
「なんて凛々しい……まさかこちらに転入を!?」
「あの金髪の方……公爵家のユーシス様!?」
「はぁ、あの背の高い男性は異国の方なのかしら………」
「小柄で紅茶色の髪の方は何とも可愛らしいというか……」
「あの銀髪の娘さんもとても愛らしいですわねぇ。」
「あの金髪の女性は………どこの家の方なのかしら?」
「眼鏡の女性は……その、羨ましすぎるスタイルですね。」
リィン達が女学院の中を歩いていると、女学院に通う女学生たちがそれぞれ興味ありげな表情でリィン達を見つめて会話をしていた。
「うう、これはキツイな……」
「フン、あの程度の囀り、流せばいいだけだろうが。」
疲れた表情をしているマキアスにユーシスは呆れた表情で指摘し
「あはは……みんな興味津々みたいだね。」
エリオットは苦笑していた。
「ふふ、でもラウラはさすがに人気があるわね。」
「ふむ、慕ってくれるのは光栄なのだが……」
アリサの指摘を聞いたラウラは考え込み
「…………お許しください。普段、外部の者と接する機会があまりないものですから……」
エリゼは静かな口調でリィン達が注目される理由を答えた。
「先頭にいる黒髪の方は平民の方なのかしら………?」
「わ、わかりませんけど凛々しくって素敵ですわね……」
「エリゼさんが案内してますけどどういう関係なのかしら……?」
「……………………」
女学生たちの会話を聞いていたエリゼは呆け
「いや、確かにこれはちょっと居心地が悪いな……みんなエリゼと同じくらいの年齢なのか?」
居心地悪そうな表情をしていたリィンはエリゼに尋ねたが
「……知りませんっ。」
エリゼは怒気を纏って明確な答えを言わなかった。その後エリゼの案内によってある建物の前に来た。
「ここは……」
「屋内庭園、みたいですね。」
「本学院の薔薇園になります。こちらに、本日皆さんをお招きした方がいらっしゃいます。」
「そ、それって……」
エリゼの説明を聞いて何かを察したアリサは焦り
「どうやらやんごとなき身分の方らしいな。」
ユーシスは静かな口調で呟いた。
「――姫様、お客様をお連れしました。一人だけ急用があって来られていないのですが、構わないでしょうか?」
「ええ、勿論構わないわ。入って頂いて。」
「……っ!?」
「ま、まさか……」
扉を開けたエリゼとある人物の会話を聞いて正体を察したマキアスとエリオットは信じられない表情をした。
「エリゼ、もしかして……」
「ご想像通りかと。さあ―――どうぞ中へ。」
そしてリィン達は建物中へと入って行った。
~ローズガーデン~
「あ――――」
「や、やっぱり……」
建物の中に入ったリィン達はテーブルの前で自分達を見つめている金髪の少女を見て驚き
「ふふっ……ようこそ―――トールズ士官学院”Ⅶ組”の皆さん。わたくしは、アルフィン。アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。どうかよろしくお願いしますね?」
リィン達の反応を面白そうに見ていた金髪の少女――――エレボニア帝国の皇女であるアルフィン皇女は上品に会釈をした後リィン達に微笑んだ。その後リィン達はアルフィン皇女の手配によって、用意された紅茶を楽しみながらアルフィン皇女とのお茶会を始めた。
「もう、エリゼ。悪かったから機嫌を直して。ちょっとしたお茶目じゃない。」
アルフィン皇女は怒気を纏って自分から視線をそらしているエリゼに話しかけ
「……知りません。兄たちに話がおありならご勝手にどうぞ。」
話しかけられたエリゼは未だ怒気を纏い続けて答え、その様子を見守っていたリィン達は冷や汗をかいた。
「ふう……まあ、それはともかく。ユーシスさん、ラウラさん。お久しぶりですね。お元気そうで何よりです。」
「……殿下こそ。ご無沙汰しておりました。」
「ふふ……お美しくなられましたね。」
「ふふ、ありがとう。……でも、ラウラさんとはこの学院でご一緒できるかと期待していたのですけど。やっぱりトールズの方に行ってしまわれたのね?」
ユーシスとラウラの称賛に微笑んだアルフィン皇女は残念そうな表情でラウラを見つめた。
「ええ、剣の道に生きると決めた身ですので……ご期待に沿えずに申し訳ありません。」
「ふう、アンゼリカさんもトールズに行ってしまうし……こうなったらわたくしも来年そちらに編入しようかしら。」
「ひ、姫様……!?」
アルフィン皇女の口から出た信じられない提案に驚いたエリゼはアルフィン皇女を見つめた。
「ふふっ、やっとこっちを向いてくれたわね。」
「も、もう……!」
そしてアルフィン皇女のからかいに頬を膨らませているエリゼの様子を見たリィン達は冷や汗をかいた。
(なんか楽しい人だね。)
(随分軽妙でいらっしゃるな。)
(うーん、噂には聞いてたけど、実物はそれ以上と言うか………)
(と、とんでもないな……これが皇族のオーラか……)
(天使みたいな表現も大げさじゃないよね……)
(ふふっ……同感です。)
(……確かにいい友達に恵まれたみたいだな。さすがに皇女殿下だったとは思わなかったけど……)
クラスメイト達がアルフィン皇女の印象について話し合っている中、リィンはエリゼと会話しているアルフィン皇女の様子を見てエリゼの手紙に書かれてあったエリスの”友人”がアルフィン皇女である事に気付いて静かな笑みを浮かべてアルフィン皇女を見つめた。
「ふふっ……リィン・シュバルツァーさん。お噂はかねがね。妹さんからお聞きしていますわ。」
するとその時エリゼと会話をしていたアルフィン皇女はリィンに微笑み
「ひ、姫様……」
アルフィン皇女の言葉を聞いたエリゼは頬を赤らめた。
「はは……恐縮です。自分の方も、妹から大切な友人に恵まれたと伺っております。兄としてお礼を言わせてください。」
「に、兄様……」
「ああ、聞いていた通り……ううん、それ以上ですわね。」
リィンの言葉を聞いたエリゼは恥ずかしそうな表情をし、アルフィン皇女は悩ましげな様子を見せた。
「え……」
「―――リィンさん、お願いがあります。今後、妹さんに倣ってリィン兄様とお呼びしていいですか?」
「え”。」
「ひ、姫様!?」
アルフィン皇女の突然の提案にリィンは表情を引き攣らせ、エリゼは驚きの表情でアルフィン皇女を見つめた。
「その、事あるごとに妹さんからリィンさんのお話を聞いているうちに他人とは思えなくなってしまって……実際にこうしてお会いできて気持ちが抑えきれなくなったというか。わたくしにも兄がおりますし、すぐに慣れると思うのですが……?」
「いやっ……!さすがに畏れ多いというか!」
「い い か げ ん に し て く だ さ い。」
アルフィン皇女の話を聞いたリィンは慌てた様子で辞退しようとし、エリゼは膨大な威圧を纏ってアルフィン皇女を微笑みながら見つめた。
「……エリゼのケチ。ちょっとくらいいいじゃない。」
エリゼの答えを聞いてつまらなさそうな表情をしているアルフィン皇女の様子をリィン達は冷や汗をかいて見つめていた。
「まあ、それはともかく。今日、皆さんをお呼びしたのは他でもありません。ある方と皆さんの会見の場を用意したかったからなのです。」
「ある方……ですか?」
「そ、それは一体……?」
そしてアルフィン皇女の説明を聞いたアリサとマキアスが尋ねたその時、リュートを弾く音が聞こえて来た。
「これは……」
「ギター……ううん、リュートの音?」
「リュート……もしかして。」
音を聞いたガイウスとエリオットは不思議そうな表情で首を傾げ、音の正体がリュートである事からある人物を思い浮かべたフィーは目を丸くした。
「ふふ、いらしたみたいですね。」
「あ……」
アルフィン皇女の言葉を聞いたエリゼが音が聞こえた方向を見つめたその時
「フッ、待たせたようだね。」
白いコートを身に纏ったリュートを手に持つ金髪の青年がリィン達に近づいてきた。
「……ご無沙汰しております。」
「ハッハッハッ。久しぶりだね、エリゼ君。まー、ラクにしてくれたまえ。」
エリゼに会釈をされた青年は笑顔で答えてアルフィン皇女の背後へと移動した。
「……やっぱり。」
「えっと、どこかで見た事があるような……」
「フッ、ここの音楽教師さ。本当は愛の狩人なんだが、この女学院でそれを言うと洒落になってないからね。穢れなき乙女の園に迷い込んだ愛の狩人―――うーん、ロマンなんだが♪」
フィーはジト目で青年を見つめ、エマの疑問に答えた青年は髪をかきあげ
「……!」
「……もしや……」
青年の顔を見たユーシスとラウラは血相を変えた。するとその時!
「えいっ。」
「あたっ。」
なんとアルフィン皇女が立ち上がってどこからともなく取り出したハリセンで青年の頭を叩いた!
「お兄様、そのくらいで。皆さん引いてらっしゃいますわ。」
「フッ、さすがは我が妹……なかなかの突込みじゃないか。」
アルフィン皇女と青年の会話を聞いていたリィン達は冷や汗をかいて呆れた。
「ま、ま、まさか……」
「ひょ、ひょっとして……?」
二人の会話を聞いて青年の正体を察したマキアスとエリオットは信じられない表情をし
「フッ……オリヴァルト・ライゼ・アルノール―――通称”放蕩皇子”さ。そして”トールズ士官学院”のお飾りの”理事長”でもある。よろしく頼むよ――――”Ⅶ組”の諸君。」
青年―――オリヴァルト皇子は自己紹介をしてリィン達にウインクをした。
その後リィン達はオリヴァルト皇子とアルフィン皇女の好意によって、夕食をご馳走になろうとしていた。
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第120話