午後19時、ホウエン地方。
煙突山と呼ばれる山岳地帯にて…
「カズキさん、ここって確か…」
「昔、マグマ団のアジトがあった場所だ。今はもう取り壊されてなくなってるけどな」
リーグ協会から場所を移動したokakaと刃は、ある人物と合流する為に、煙突山の頂上付近でその人物の到着を待ち続けていた。ロープウェイ入り口のある麓ではなく、わざわざマグマが煮えたぎって危険な頂上付近を待ち合わせ場所に選んだのも、okaka自身がリーグ協会からの任務で動いている以上、あまり人の目につくような場所で話すのは得策ではないと判断したからだ(ちなみにその到着を待っている人物も、OTAKU旅団の存在については詳しく知らない為、違和感が無いように二人は現在もコードネームでの呼び合いは避けている)。
「その元マグマ団の一員……カガリ、でしたっけ。本当に信用出来るんですか? 聞いた話だと、かつてはトクサネシティで宇宙センターを占拠するなど暴走しまくっていたようですが…」
「問題ないさ。これでもかと言うくらいリーダーのマツブサを溺愛するほどのファザコンな上に、今はウルの奴に対してもご執心だからな。アナライズしたいやら、エンゲージしたいやら、何したいやら…ってな」
「…ウルさん、また一人堕としたんですね」
「この程度で驚いちゃいかんぜ。アイツのフラグの建設っぷりはこれよりもっと酷い」
「そ、そうなんですか…(どんだけキャラぶっ飛んでんだよ旅団のメンバーって)」
「ちなみにシノブ、それはお前が言えた義理じゃないからな」
「何故バレた!?」
「アサシンを舐めて貰っちゃ困るぜ……なぁ、頭領」
「…ゲッコウガァ」
okakaが見上げる先には、高い岩の上で物静かに佇むポケモンがいた。青色をベースにした体色、首の周囲に巻いている長いピンク色の舌が特徴的なカエル型ポケモン―――ゲッコウガだ。両腕を組んだまま、長い舌をマフラーのように靡かせるその佇まい、そしてokakaから呼ばれた“頭領”という呼び名……まさに忍者の如し。
「? 見た事の無いポケモンですね…」
「あぁ、シノブはまだ知らなくて当然か……コイツの種族名はゲッコウガ、カロス地方のポケモンだ。ちなみに呼び名は頭領だ」
「カロス地方…?」
「ホウエンから更に遠い地方だな。大抵のトレーナーの場合、最初のポケモンは研究所で貰えるだろ? コイツはその水タイプのポケモンに該当する」
「ふむ……いわゆる“御三家”という奴ですか」
「俺の場合、出会った経緯は少し違うけどな……まぁそれはさておき」
okakaは腕時計を確認する。もうすぐ予定していた待ち合わせ時間になるが、その到着を待っている人物は未だに姿を見えていない。
「妙だな。流石のお嬢さんも、仕事においては時間にルーズじゃなかった筈だが…」
「何かあったんですかね…?」
「…!」
その時、無言で岩の上に佇んでいたゲッコウガが両目をパチリと開き、両腕に水のエネルギーで形成された『みずしゅりけん』を装備。煙突山の麓付近を見下ろしながら戦闘態勢に入り始めた。
「! 頭領さん、どうかしたんで…」
-ドガァァァァァァァァァァァァン…!!-
「「!?」」
突如、ゲッコウガの見下ろしている麓付近で謎の爆発音が聞こえて来た。それだけで、okakaと刃は一瞬で察する事が出来た。
「…どうやら、何かあったようで間違いなさそうだな」
その煙突山の麓付近では…
「ッ……コイツ……邪魔…!」
轟音と共に土煙が舞い上がる中、黒スーツに短いスカートを履いた紫髪の少女がいた。彼女こそokakaと刃が合流する筈だった元マグマ団の幹部―――カガリである。しかし彼女は今、自身の目の前にいる存在逹を見て忌々しげに歯軋りしていた。そんな彼女と対峙しているのは…
「ゲンッガァァァァ…!!」
「チャーレェ…!!」
「…目標、確認。元マグマ団幹部、カガリと断定」
黒いゴーグルを装着した謎の男性と、その男性に従っている二体のポケモン達だった。紫色のボディを持った幽霊型ポケモン―――ゲンガーと、たらこ唇と太い下半身が特徴的な人型ポケモン―――チャーレムの二体を従えているその男性は、装備しているゴーグルの複眼部分を怪しげに赤く光らせる。
「任務、遂行……排除、開始」
「ゲンッガァァァァァッ!!」
「チャア……レェムッ!!」
「…ッ!!」
ゴーグルの男性が告げると共に、ゲンガーは暗黒エネルギーで生成した『シャドーボール』を、チャーレムは右腕にエネルギーを集中して『きあいパンチ』を発動し、二体同時にカガリに襲い掛かる。カガリは真横に転がる事で二体の攻撃をかわし、すかさずモンスターボールを放り投げる。
「バクーダ、『かえんほうしゃ』…!!」
「バックゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
カガリの投げたモンスターボールから、背中に火山の形状をしたコブが二つあるラクダ型ポケモン―――バクーダが召喚され、バクーダは口から強力な『かえんほうしゃ』を発射。しかしゲンガーとチャーレムはバクーダの『かえんほうしゃ』をいとも簡単に回避し、突っ込んで来たゲンガーがバクーダと真正面から頭部でぶつかり合い、二体は互いに押し合う拮抗状態になる。
「ッ……バクーダ、『ふんえん』…!!」
「バクゥッ!!」
「!? ゲンガッ!?」
「チャア!?」
そんな状況を打破するべく、バクーダは背中の火山から赤黒い炎を放射。赤黒い炎はゲンガーだけでなく、別方向から攻撃しようとしていたチャーレムをも巻き込む形で周囲に広まっていく。しかしゴーグルの男性は全く微動だにしないまま、モンスターボールを投げて三体目のポケモンを繰り出す。
「ピジョット、『ぼうふう』」
「ピジョオーッ!!」
長いトサカを持った鳥型ポケモン―――ピジョットが翼を羽ばたかせて強烈な風を放ち、バクーダの放射した赤黒い炎をどんどん掻き消していく。そして数十秒も経たない内に、バクーダ逹を包み込んでいた赤黒い炎は『ぼうふう』で全て吹き飛ばされてしまった。
「チィ…!!」
「『きあいパンチ』」
「チャアレッ!!」
「バックゥ!?」
「ッ……バクーダ…!!」
そしてゲンガーと拮抗し合っていたバクーダを、真横から突っ込んで来たチャーレムが『きあいパンチ』で容赦なく吹き飛ばす。吹き飛ばされたバクーダは近くの木々を薙ぎ倒す形で地面に倒れ、フラフラながらも何とか立ち上がろうと力を振り絞る……が、そんなバクーダを放置し、ゴーグルの男性はカガリに狙いを定める。
「目標、消去……ゲンガー、『シャドーボール』」
「ゲンガァァァァァァァッ!!」
「!? くっ…!!」
ゴーグルの男性の指示でゲンガーは再び『シャドーボール』を生成し、それをカガリ目掛けて投擲。そのままカガリに命中しそうになったその時…
-ズドォォォォォォォンッ!!-
「ゲンガァ!?」
「「!?」」
カガリに命中する筈だった『シャドーボール』が、別方向から飛んで来た『みずしゅりけん』によって瞬く間に掻き消された。それを見たゲンガー、そしてゴーグルの男性とカガリが驚いたその時…
「頭領、『みずしゅりけん』乱舞!!」
「ゲッコウガァッ!!」
「ゲンガッ!?」
「チャアァッ!?」
草木から飛び出して来たゲッコウガが複数の『みずしゅりけん』を一斉に放ち、ゲンガーとチャーレムの二体を纏めて攻撃。それを見たピジョットはゲッコウガ目掛けて風の斬撃『エアスラッシュ』を放とうとするが…
「ダーテング、『いあいぎり』!!」
「ダァテェングッ!!」
「!? ピジョオォォォォォッ!?」
今度は別のポケモンが飛び出し、ピジョットに斬撃『いあいぎり』を炸裂させた。『いあいぎり』を繰り出したのは天狗のような特徴を持ったポケモン―――ダーテングで、ダーテングが地面に着地すると同時にピジョットが地面に落下する。
「! あなた…」
「よぉ、お嬢さん。余計な助太刀だったかい?」
「あなたがカガリさんですね?(へぇ、何か不思議系っぽいガキだな)」
尻餅をついたまま一部始終を見ていたカガリの隣に、同じく草木から飛び出したokakaと刃が着地。okakaはカガリが無事である事を確認し、刃はカガリを見てそんな感想を抱く。
「…あなた…」
「ん?」
「…私……ガキじゃない…」
(だから何故分かる!?)
初対面のカガリにまで心を読まれ、思わず戦慄する刃。そんな彼を他所に、okakaは無表情に戻ったゴーグルの男性と対峙する。
「さて。お前さんは何者だ? このまま同行を願いたいところなんだが…」
「ゲンッガァァァァァ…!!」
「チャアァァァァ…!!」
「ピジョオォォォォォォォォォ…!!」
「まぁ、無理そうだよなぁ……ん?」
その時、okakaは対峙しているゲンガー達を見てある事に気付いた。一見、ゲンガー逹は特に何ともない普通のポケモンのように見える。だがokakaは気付いた。常人ではそうそう気付けないような事に。
okakaの視界に映っていたのは…
「…マジかぁ」
ゲンガー、チャーレム、ピジョットの全身から、モヤモヤのようなドス黒いオーラが放たれている光景だった。
「カズキさん、どうしましたか?」
「面倒だな……コイツ等、
ダークポケモン。
かつて某組織によって特殊な改造を施され、戦闘マシーンと化してしまったポケモンの総称である。
元々あった心を無理やり閉ざされた彼等が取る行動は、主から下された命令に従う事のみ。戦う為だけに生み出された哀れな奴隷とも言えるだろう。
現在はダークポケモンを生み出した某組織も壊滅しており、もう二度とダークポケモンに巡り合う機会は無いだろうと思われていた……それがまさか、こうして再び巡り合う日が来ようとは、流石のokakaでも想定は出来なかったようだが。
「そうかぁ……ちと厄介だなぁ」
「…?」
ゲンガー逹の発しているオーラは、どうやら刃やカガリには見えていないようだ。okakaはめんどくさそうな表情を浮かべつつも、何かを決意したような表情に変化する。
「もう使わないだろうと思ってたけど……こうなった以上、使うしかないよなぁ」
「「!?」」
okakaは左手を掲げて指を鳴らす。その瞬間、okakaの背中から黒い機械パーツが出現し、それが左肩から左手にかけて変形しながら装備されていき、あっという間に装着が完了された。
「カズキさん、それは…!」
「詳細は後で話す。今は目の前の相手に集中しな」
刃とカガリが驚く中、okakaはゲンガー逹を冷静に見据える。ゲンガー逹の全身からは今もなお、ドス黒いオーラが禍々しく放出され続けている。
(まずはポケモン達を弱らせなきゃ話にならんが……さて、奴さんは俺の
「……」
その時、ゴーグルの男性は左腕の袖を捲り、左腕を高く掲げてみせる。その左手首の部分には、謎の紋章が描かれた紫色の宝玉が埋め込まれたリングが装着されていた。
「? 何を…」
「メガウェーブ、発動」
「「「!?」」」
ゴーグルの男性がリングを右手で軽く触れた後、左腕を目の前に突き出す。するとリングの宝玉部分から紫色の怪しげな光線が放たれ、それがゲンガー、チャーレム、ピジョットの頭部にそれぞれ当てられる。
「な、何だ…!?」
紫色の光線を浴びたゲンガー逹は、その場で苦しそうにもがき始める。そして三体それぞれの身体が紫色の結界に包まれていき…
「ゲェンッガァァァァァァァァァァァァッ!!!」
「チャアァァァレェェェェェェェムッ!!!」
「ピジョオオォォォォアァァァァァァァァァァァァッ!!!」
三体のポケモン達は一斉に、
ゲンガー……否、メガゲンガーは下半身が地面に沈み、両腕の形状も変化。背中にあった鋭いトゲは更に増加し、額部分には第三の目と言われる新しい目まで出現している。
チャーレム……否、メガチャーレムは灰色だった肌が白色に変化し、頭部にはバンダナのような物が巻かれ、背中には布の飾りのような新たな四本腕が形成されている。
ピジョット……否、メガピジョットは長かったトサカが短くなり、一本だけ赤いアンテナのように伸びている。そして筋力も大きく強化された事で、変化前より更に荒々しい外見となった。
「な、姿が変わった…!?」
本来ならばポケモンの進化は、一定回数まで行われた後は二度と進化する事は無い。その進化回数は、多くても最大で二回までだ。
そう、通常の進化ならば。
彼等の目の前で行われた進化は、通常の進化ではなかった。
「ッ……メガシンカだと…!!」
「どう、して…!?」
「? メガシンカ…?」
okakaが告げた“メガシンカ”という単語に、刃は聞き覚えが無かった。そもそも刃の場合、まだ旅団に加入してからポケモンに触れ合った経験はまだそれほど長くない為、ポケモン関連の知識が豊富でないのも無理は無い。だからこそ刃は今、彼以上に驚きの反応が大きいokakaとカガリを見て、現在目の前で起こっている光景が只事でない事だけは正確に判断出来た。
「何故だ……何故メガシンカを使えるんだ…!! 何故よりによって
「メガシンカ、完了。攻撃、再開」
珍しく熱くなっているokakaの疑問に答える事なく、ゴーグルの男性はメガシンカを果たしたポケモン達に再び命令を下す。メガゲンガーは両腕に『シャドーボール』を生成し、メガチャーレムは両腕にエネルギーを集中して『きあいだま』を生成し、メガピジョットは再び『ぼうふう』を放とうと翼を羽ばたかせ始める。
「ッ……頭領、『かげぶんしん』!!」
「「「「「ゲッコウガァ!!」」」」」
okakaの指示で、木の枝に乗って構えていたゲッコウガが大きく跳躍。空中に飛んだまま『かげぶんしん』で分身逹を生成し、一斉にメガゲンガー逹に突撃するが…
「『ぼうふう』」
「ピジョアァァァァァァァァァァァッ!!!」
メガピジョットが翼を大きく羽ばたかせ、強力な風がゲッコウガの分身逹を次々と打ち消し始める。そしてゲッコウガの本体が特定されると同時に…
「ゲンッガ!!」
「チャアレッ!!」
「!? ゲッコォ、ガァ…!!」
「ッ…頭領!!」
メガゲンガーの『シャドーボール』と、メガチャーレムの『きあいだま』がゲッコウガに命中。命中する直前で両腕を使って防御したのか、ゲッコウガは両腕を負傷しつつも致命傷には至らず、何とか地面に着地する。
「『エアスラッシュ』」
「ピジョオォォォォォォォォ…」
今度はメガピジョットが翼を振り下ろし、風の斬撃『エアスラッシュ』を発動。『エアスラッシュ』がそのまま負傷中のゲッコウガに命中―――
「『リーフストーム』!!」
「ダァテンッ!!」
―――する前に、ダーテングが両腕で発射した『リーフストーム』が『エアスラッシュ』を掻き消してみせた。
「全くよぉ……俺達の事を忘れて貰っちゃあ困るぜぇっ!!! ダーテング、『だましうち』だゴラァッ!!!」
「ダテェングッ!!!」
「!? ゲンガァアッ!!?」
放置されて怒り狂った刃の命令で、ダーテングは瞬時に姿を消してメガゲンガーの真後ろまで移動。そのまま『だましうち』が命中し、メガゲンガーに大ダメージを与える。
「負けない……バクーダ、メガシンカ…!!」
その横では、カガリが首に吊り下げていたペンダントを握り締める。ペンダントに埋め込まれている虹色の宝玉らしき装飾が光輝き、そこから放たれる虹色の光がバクーダの全身を包み込んでいき…
「バァァァァァァァァァァァァァァァ…クウゥッ!!!」
虹色の光から解き放たれると共に、バクーダもまた同じようにメガシンカを遂げた。背中にあった二つの火山状のコブは一つに一体化した他、四本足も隠れるほどに体毛が増殖。額部分にはかつてカガリが属していたマグマ団の頭文字である『M』の模様が出現する。
「『だいちのちから』…!!」
「バックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「チャ、チャアァァァァァッ!?」
バクーダ……否、メガバクーダは大きく吼え上がり、前足を地面に力強く叩きつける。次の瞬間、メガチャーレムの足元の地面が大きく盛り上がり、そこから強大なエネルギー『だいちのちから』が勢い良く噴出した。それに巻き込まれたメガチャーレムは空中に大きく吹き飛ばされ、それを見たメガピジョットはメガバクーダに向かって再び翼を振り下ろして『エアスラッシュ』を放とうと仕掛けるが…
「『ハイドロカノン』!!」
「ゲッコォ…ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
「ピジョオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!?」
「!? ゲンッガァ…!?」
両腕を負傷したならば、両腕を使わなければ良い。ゲッコウガは迷わず跳躍し、メガピジョット目掛けて強大な水流の弾丸『ハイドロカノン』を口から発射。『ハイドロカノン』は一直線に飛んでメガピジョットに直撃し、メガピジョットは成す術なく吹き飛ばされてメガゲンガーと衝突する。
(やるなら今か…!!)
okakaは空きのモンスターボールを三つ、取り出してから左手に持って構える。すると左腕全体に装着されていた機械パーツが起動し、三つのモンスターボールが一瞬だけ光に包まれる。そしてokakaがモンスターボールを一斉に投げつけ…
「―――“
「「「ッ…!!」」」
メガゲンガー、メガチャーレム、メガピジョットの頭部にそれぞれモンスターボールが命中し、三体は同時にモンスターボールの中へと吸い込まれた。そして三つのモンスターボールが地面に落ち、数回ほど揺れた後にカチッと音が鳴り、三体のダークポケモンの確保が無事完了された。
「人のポケモンを、奪った…!?」
「…興味、深い……アナライズ、したい…!」
本来ならば、人のポケモンはモンスターボールで奪う事は出来ない。しかしokakaは今、相手のポケモンを三体同時に奪い取ってみせたのだ。刃が驚いている横では、カガリはokakaが装備している左腕の機械パーツを興味深そうに見据える。
「ッ……ポケモン、紛失。任務、失敗。撤退、余儀なし…」
「おっと、させんよ」
「ゲッコォガ!!」
「!? ガグ、ァ……ガァアァ…!!」
手持ちのポケモンがいなくなった為、撤退しようとしたゴーグルの男性。しかし『オボンの実』を食べる事で負傷した両腕を回復したゲッコウガは『みずしゅりけん』を投げつけ、男性のゴーグル部分に見事命中。男性は苦しげにのたうち回るが、数秒後にはそれも収まり、その場に倒れ伏したまま動かなくなった。
「はぁ……色々と起こり過ぎだろ、たく……」
「あの装置……アナライズ、したい……あは♪」
(コイツもコイツで何なんだよ一体…)
驚くような出来事が目の前で何度も起こり、刃は敬語が完全になくなるレベルにまで驚き疲れていた。一方、カガリは今もokakaの装備している機械パーツに興味津々であり、そんな彼女に刃も流石にドン引きのようだ。
「さて。事情聴取の前に、まずはボールの確保だな」
「ゲッコォ…!」
okakaの指示で、ゲッコウガはスナッチの完了されたモンスターボールを全て回収し、okakaに渡す…
-シュンッ-
「…へ?」
「ゲコ?」
…と同時に、okakaの両手に渡ったモンスターボールが三つ全て、小さな石コロに入れ替わってしまった。これには流石のokakaとゲッコウガも、思わず呆気に取られる。
「…ッ!? しまった!!」
すぐに我に返ったokakaは周囲を見渡し、モンスターボールを入れ替えた犯人を発見する。視線の先には、崖の上からokaka逹を見下ろしているゴーグルの女性と、その女性に連れられているフーディンの姿があった。フーディンの手元にはスナッチされたモンスターボールが三つ全て収まっていた。
「回収、完了。これより、撤退…」
「待て!!」
「ゲッコォ!!」
ゲッコウガの投げた『みずしゅりけん』が届く前に、ゴーグルの女性はフーディンと共に『テレポート』でその姿を消してしまった。『テレポート』で逃げられては流石に逃亡先も掴めない為、okakaは舌打ちする。
「あぁくっそ、完全に骨折り損じゃねぇか」
「ゲッコォ…」
逃げられてしまった以上は仕方ないとokakaは思考を切り替え、倒れているゴーグルの男性に歩み寄ってから男性の装着しているゴーグルを取り外す。
「おい、起きろ」
「…ん、あ…?」
okakaに頬を軽く叩かれた衝撃で、意識を取り戻した男性が目を覚まして起き上がる。そして周囲をキョロキョロ見渡した後…
「あ、あれ……ここ何処だ…? 何で俺、こんな所に…」
目覚めて最初に発したのが、そんな発言だった。これにはokakaも、頭を抱えざるを得なかった。
「なるほどねぇ……ボルカノの野郎、無駄に徹底してなさる」
場所は変わって、ディアーリーズ達はと言うと…
「ミミロップ、『でんこうせっか』!!」
「ミミロォーッ!!」
「ルカリオ、かわして『バレットパンチ』連打!!」
「ワオォン!!」
「行けぇ~ルカリオ~!! 負けるな~!!」
「ウルさん、頑張って…!!」
「ろーくんもファイトー!」
「チルチルゥ~!」
ダブルバトルに参加したポケモン達の手当てをユイに任せ、一同は再びポケモンバトルを再開していた。今度はロキとディアーリーズが勝負する形となり、現在はロキのミミロップとディアーリーズのルカリオが激闘を繰り広げている真っ最中。もちろん、こなた逹も頑張って応援中である。
「やれやれ。よくもまぁ、あそこまでバトルを頑張れますねぇ…」
「それだけポケモン達との絆も深いって事さ。というか最初にバトルを提案したの、他でもないお前じゃなかったっけな?」
「さぁ? もう覚えていませんねぇ」
「はっはっは」
支配人に指摘されて惚ける竜神丸に、支配人も楽しげに笑う。そんな時、支配人の所にユイがやって来た。
「兄さん。回復用の薬、そろそろ在庫が切れそうかも…」
「おっと、そりゃいかんな……んじゃ竜神丸、俺はユイと一緒に買い出しに出て来る」
「お気を付けて……んむ?」
支配人とユイが飛行タイプのポケモンに乗って出掛けてから数秒後、竜神丸の持っていたタブレットに突如通信が繋がり、竜神丸がそれに応対する。
『こちらカズキ。アルファ、応答せよ』
「! …こちらアルファ。ボルカノの件はどうなりましたか? カズキさん」
名前で呼ばれた瞬間、コードネームで呼ぶべきでないと瞬時に判断した竜神丸もまた、okakaの事を名前で呼ぶ形で応対する。そんな竜神丸の問いかけに、okakaは少しだが言葉に詰まる。
『あぁ~……まぁ、それが…』
「どうせ逃げられたんでしょう? ビリリダマが投下されるだろうと想定はしてましたので」
『じゃあ何で聞いたんだよ!? …シノブとカガリに合流した。だが少しばかり面倒な事になってきた』
「おや、面倒なのはいつもの事でしょう。一体何があったと言うんで『敵がダークポケモンを使ってきた。メガシンカとのセットでな』…………何ですって?」
okakaから伝えられた内容に、竜神丸の表情も一瞬で切り替わる。
『ダークポケモンはゲンガー、チャーレム、ピジョットの三体。ボルカノの尖兵と思われる男が従えていた……どうやら男の方も、ボルカノに操られていただけのようだがな。今言った三体については、別の尖兵がフーディンを利用して回収して行ったよ。たぶんあのフーディンもダークポケモンだ』
「おやまぁ。あのポケモン七忍集を従える人間が、そんなんで良いんですか? アサシンの癖に」
『喧しい。いちいち一言多いんだよ……………メガシンカにおいて、重要視されるのはトレーナーとの絆だ。心を完全に閉ざしたダークポケモンではメガシンカを使うなんて到底不可能な筈なんだが……そっちの方で、何か分かる事は無いか?』
「…まぁ、心当たりならありますよ。一つだけですけどね」
竜神丸はタブレットを操作し、okakaに映像資料を送る。
「カロス地方のアゾット王国をご存じですか?」
『…エリファスという人物が発明した神秘科学によって発展したカラクリ都市、だっけか』
「あなたが言うそのダークポケモン逹、何か怪しげな装置を使っているでしょう?」
『! まさか、あれも神秘科学の一つだってのか…?』
「正確には
『…なるほどな。そのメガウェーブとダークポケモンを組み合わせりゃ、強力かつ従順な兵士がいとも簡単に量産出来るって訳だ。つくづく苛立たせてくれる奴等だな』
「…話を聞く限りでは、こちらも必要なメガストーンを一通り揃えた方が良さそうですね」
『メガストーンについては支配人の方が詳しいだろうからなぁ……ちなみにアルファ、お前はメガストーンは持っているのか?』
「持っていますよ、七つほど。数回だけですが既に実践済みです」
『何でお前だけそんなに用意が良いんだよ…』
「私の場合、団長から授けられましたからね。裏仕事をこなす者の特権って奴ですね」
『…俺にはそんな物、何一つくれた覚えが無いんだけどなぁ』
「団長に頼んでみたらどうですか……って、今はジラーチの護衛任務中だから
『…俺の分は支配人から分けて貰うとするさ。それより、ジラーチの様子はどうだ?』
「今もまだ眠ってる真っ最中で、咲良さんが付きっきりです。たった七日間しか地上に滞在出来ないのに、呑気に寝てばかりなポケモンで正直呆れ返ってますよ……っと」
『どうした?』
「…どうやらお目覚めのようですよ。
『ふわぁ~…よく寝たぁ~…』
「!」
咲良の腕の中でずっと眠りに付いていたジラーチ。それに気付いた咲良が、ジラーチに挨拶する。
「じーくん、おそよう♪」
『ふみゅう……おそ、よう…?』
この時、一同はまだ知らなかった。
これからジラーチが原因で、ちょっとした騒ぎが発生してしまう事に…
『七夜の願い星 その7』に続く…
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七夜の願い星 その6