その後依頼を片付け、昼食をご馳走になったリィン達は昼からの依頼の消化をして集落に戻ると集落の人が使っている導力車が故障しており、集落の人々が知る導力技術で作られた物の故障を直せる技術者を呼ぶ為に、技術者がいる湖の近くにある小屋に向かった。
~ラクリマ湖岬~
「……どうやら中に誰かいるみたいだな。」
小屋の中から人の気配を感じたリィンは呟き
「中にいる人は話にあった例の御老人かしら?」
小屋の中にいる人物が件の人物かどうかをレンはガイウスに尋ねた。
「ああ、たぶん釣りから戻られたんだろう。」
「フン、なかなか優雅な暮らしをしているじゃないか。」
ガイウスの話を聞いたユーシスは鼻を鳴らし
「……どうするの?」
アリサはリィン達に判断を仰いだ。するとリィンは扉をノックして中にいると思われる人物に声をかけた。
「ごめんください!いらっしゃいますか!」
「おお、開いとるぞ。遠慮なく入ってくるがいい。」
「!」
リィンの言葉に返した老人の声を聞いたアリサは目を見開いて息を呑み
「どうしたの、アリサお姉さん?」
アリサの様子に気付いたレンは不思議そうな表情で首を傾げてアリサを見つめた。
「……?えっと、失礼します。」
アリサの様子に首を傾げながらもリィンは仲間達と共に小屋の中に入った。
「あ―――――」
部屋の中でパイプを吸っている老人の姿を見たアリサは呆け
「……ご隠居。ご無沙汰しています。」
ガイウスは老人に会釈をした。
「おお、ガイウス。半年ぶりくらいじゃの。それとアリサ、直接会うのは5年ぶりになるかな?」
「え。」
「あら、もしかしておじいさんってアリサお姉さんの……」
親し気な様子でアリサに声をかけた老人を見たリィンは呆け、ある事に気付いたレンは目を丸くして老人とアリサを見比べた。
「お、お、お……お祖父様っ、どうしてこんな所にいらっしゃるんですかっ!?」
アリサは口をパクパクさせた後信じられない表情で声を上げた。その後リィン達は席に座って改めて老人の話を聞き始めた。
「フフ……まあ見当はついておるじゃろうがあらためて自己紹介と行こうか。グエン・ラインフォルト。そちらのアリサの祖父にあたる。よろしく頼むぞい。トールズ士官学院・Ⅶ組の諸君。」
「こ、こちらこそ。リィン・シュバルツァーです。」
「お初にお目にかかる。ユーシス・アルバレアだ。」
「レン・ブライトよ。よろしくね、グエンおじいさん。」
老人――――アリサの祖父であるグエンが名乗るとリィン達はそれぞれ自己紹介をした。
「ふむ、なかなか見所のありそうな面々じゃな。いや、しかし5年も経つと見違えるほど成長したの~。背はもちろんじゃが、出てるところも立派に出て。うむうむ、本当にジジイ冥利につきるわい♪」
アリサの身体をよく見て感心したグエンの言葉を聞いたリィン達は冷や汗をかき
「お、お祖父様!本当に……!今までどうしてたんですか!?す、全て放り出してルーレからいなくなって……!どれだけ私が心配したと思ってるんですかっ!?」
アリサは呆れた後グエンを睨んで声を上げた。
「一応、季節ごとには便りを出しておったじゃろう?お前がシャロンちゃんに届けた手紙もいつもちゃあんと読んでおるしな。」
「だ、だからと言って……!……5年も前からここでずっと暮らしてたんですか?」
「うむ、もっとも1年中、暮らしておるわけではないが。1年の半分くらいは、帝国に戻ったり、大陸各地の知り合いの所に遊びに行っておる。」
「そう……だったんですか。」
今まで知らなかった祖父の5年間の行動を知ったアリサは複雑そうな表情を浮かべた。
「その、グエンさん。どうやら俺達の実習についても詳しくご存知だったみたいですね?」
「まるで俺達が来るのを待っていたような様子だったな。」
「うふふ、もしかして通信でレン達が来ることについての連絡を受けていたのかしら?」
リィンの疑問を聞いたユーシスは呆れた表情で指摘し、レンは意味ありげな笑みを浮かべてグエンに訊ねた。
「ふふ、集落の運搬車が壊れたというのは偶然じゃが。実習の期間中、お前さんたちが訪ねてくるだろうとは思っていた。イリーナの連絡にもあったしな。」
「!?か、母様と今でもやり取りをしてるんですか!?」
グエンの説明を聞いたアリサは信じられない表情で尋ねた。
「まあ、必要最低限じゃが。我が娘ながら、仕事が楽しくて仕方ないようだからの~。やれやれ、どこでどう育ったらあんな仕事中毒オーバーホリックになるのやら。」
「……………………」
呆れた表情で母親(イリーナ会長)の事を語るグエンをアリサは複雑そうな表情で見つめ
「……………………」
アリサの様子に気付いたリィンはジッとアリサを見つめていた。
「さて、コーヒーも飲み終えたしとっとと修理に向かうとするか。ガレージで工具を取ってくるから少し待っておるがいい。そうじゃガイウス。大岩魚が何匹か釣れたから持って行ってくれんか?」
「ええ、ありがたく。」
そしてグエンとガイウスは小屋を出て行き、その様子をリィン達は見守っていた。
「………RFグループ先代社長、グエン・ラインフォルトか。名前だけは知っていたがずいぶん軽妙な老人だな。」
「クスクス、とても大企業の社長だったとは思えない愉快なおじいさんね。」
「……ふう、いいわよ。別に気を遣わなくっても。趣味人で、飄々としててみんなから愛されているけど気まぐれでいいかげんで……5年前だって……」
ユーシスとレンの自分に対して気を遣っている言葉を聞いたアリサは溜息を吐いた後複雑そうな表情でかつての出来事を思い出し
「アリサ……?」
その様子をリィンは不思議そうな表情で見つめた。
「ううん、何でもない。―――私達も行きましょ。すぐに集落に戻るでしょうし。」
「ああ、そうだな。」
その後リィン達はグエンと共に集落に戻る事になり、グエンの希望によってグエンはリィンの後ろに乗せてもらい、リィン達は馬で集落まで戻り始めた。
~ノルド高原・夕方~
「……まったく……どうしてリィンなのよ……ま、まさか変なこと吹き込まれてないでしょうね?」
馬を走らせているアリサは時折リィンの背後に乗るグエンを見た後ブツブツ呟いたが
「うふふ、あの愉快なおじいさんの事だからアリサお姉さんの昔の出来事とかを面白おかしく伝えていそうね♪」
「ちょっ、洒落にならない事を言わないでよ!?」
隣で馬を走らせているレンにからかいの表情で見つめられると疲れた表情で答えた。
「そうそう、そう言えばシャロンちゃんは元気かね?お前さんたちの寮で働き始めたと聞いたが。」
一方アリサの様子を気にしていないかのようにグエンはリィンに呑気な様子で尋ねた。
「ええ、俺も知り合ってまだ日は浅いですけど……すごく有能な人みたいですね。」
「有能というのは勿論じゃが、それ以上に可愛いじゃろ~?慎ましくて可憐で、それでいて悪戯っぽい立ち振る舞い……く~っ、ワシの専属メイドとしてこちらに来てほしいくらいじゃ!」
「は、はあ……」
グエンに同意を求められて答えに困ったリィンは戸惑いの表情で頷いた。
「ふむ、しかしあのレンちゃんもまるで天使のような可愛らしい容姿に加えて小悪魔な性格っぽい雰囲気をさらけ出しておって将来どんな美女になるのか今から楽しみで、ええの~。お前さんもそう思うじゃろ!?」
「いや、確かにそう思わなくもないですけど…………………………」
答え難いグエンの問いかけに対して言葉を濁していたリィンは少しの間考えてグエンに会ってからずっと疑問に思っていた事を尋ねた。
「―――あの、グエンさん。どうして今までアリサに所在を教えなかったんですか?」
「ふむ……なあ、リィン君。お前さんから見たアリサはどんな子だと思う?」
「それは…………頑張り屋だと思います。その、色々な意味で。」
グエンに問いかけられたリィンは今までのアリサの事を思い出して答えた。
「ああ、そうじゃな。見ての通り器量良しじゃし、貴族の子女にも負けぬ振る舞いや教養を身につけておるじゃろ?無理をしているわけではなくて。」
「そうですね……正直、凄いと思います。……ですが…………」
「人に頼らず何でも一人で解決しようとする……そんなところがあるじゃろ?」
「ええ……そんな風には感じていました。義理堅くて、人には親切で。でも、自分の事は人に頼らず全て一人で抱え込もうとする……」
学院生活でのアリサの今までの言動を思い出したリィンは真剣な表情で考え込みながら答えた。
「多分、あの子のそんな性分はワシと娘の仲が原因なんじゃろう。すなわち祖父と母親の対立が。」
「……!」
「ワシが所在を告げなかったのもそのあたりが原因でな……だがまあ、これ以上ワシの口から言うわけにはいかん。お前さんが孫娘とイイ仲になれば自然と教えてくれるじゃろ。」
「いい仲って……何か誤解していませんか?」
グエンがアリサと自分の関係について誤解している事に気づいたリィンは冷や汗をかいて答えた。
「おや、違うのかの?手紙でお前さんの名前を見たからてっきり何かあったかと思ったが。」
「いや、その……不幸な偶然はありましたけど。単なるアクシデントですし仲直りしてからは何も……」
「ほう、アクシデントか。登校途中にパンを咥えたあの子と曲がり角でぶつかりでもしたかの?それで偶然、ムフフでラッキーな体勢になったりしたとか!」
「な、何でそんなに意味不明に具体的なんですか。それにラッキーな体勢って――――!………………」
グエンの問いかけにリィンは戸惑った後入学式の後にあったオリエンテーションでのアリサとの”あるハプニング”を思い出すと黙り込み
「おおっ!?本当に何かあったのか!?それは詳しく、えぐり込むように聞かせてもらおうじゃあないか!?」
リィンの様子を見たグエンは興味ありげな表情でリィンに問いかけた。
「もう、お祖父様っ!」
するとその時グエンとリィンの様子に気づいたアリサが馬のスピードを抑えてリィンが走らせている馬と並んでグエンを睨んで怒鳴った。
「んー、あれって……シカンガクインの人達だ。何でこんな所にいるんだろう?」
一方その頃水色の髪の少女が遠くにある高い丘からリィン達の姿を確認して首を傾げ
「ま、いっか。何だか色々と面白くなりそうだし♪」
「―――――」
すぐに気を取り直して片手を天へと掲げた。すると少女の背後に銀色の人形兵器が現れ
「うん、それじゃあ任務、開始しちゃおっかな♪まったくオジサンたちも要求レベルが高すぎるよねー。」
「――――――」
少女は人形兵器の片腕に乗ってどこかへ飛び去った――――――
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第97話