No.856895

魔法使いと弟子3 無垢鳥の章

ぽんたろさん

ほのぼの回になった。まだ相関図を付ける必要がないので必要になったらつける
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2016-07-05 09:00:56 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:679   閲覧ユーザー数:679

これは技術

あたしがあたしであるために必要なもの

 

ゲームのスキルも、勉強の知識も、スポーツの技も、魔術もあたしにとっては変わらない

あたしを飾り立てるものであってそれ自体はあたしの本質じゃないわ

ねぇ。あなたは本質って何だと思う?

+++++++

魔法使いと弟子

+++++++

 

ね子だるま(ぽんたろ)

望月朔は魔法使いである。 

 カウンターに頬杖を付き、俺は書類を書いている。

薄暗い店内では正式に弟子になった環がテーブルの拭きあげをしていた。

 朔は環の師匠になった。

そして環は『露光』初めてのアルバイトになった。

 

 遡ること一週間…

入り口を閉めた『露光』の店内で俺はたまと向かい合って座っていた。

「いろいろあったが、俺が……おまえの面倒を見る。」

「はい!よろしくお願いします。師匠!」

「……」

「ではなく先生ですね。はい」

 俺はため息をついた。

邦子のことはたまには話していなかったが、またあんなことが起こらないようなんとかしよう、と呼び出したのだが。

「それでだな………」

「私は先生のお手伝いをするんですよね?」

「……は」

 たまは持ってきた鞄の中から洗剤やら雑巾やらをまぁ出すは出すは……魔法のように取り出していく。

「ぴかぴかにします!お任せください」

「いや、そうじゃなくてな」

「大丈夫です。ニスを剥いだりしませんよ」

「そうでもなくてな…」

 しかし、なんと言ったものか。まさか正直におまえの友達に殺されかけたんだが?と言うのも…。

邦子の口ぶりからたまに術士であることは隠しているようだし、伝えていいものか。

朔が思い詰めている間にも環はエプロンをつけて掃除を始めている。

かなり手慣れている。

「…それ、自前か?」

「はい」

「前も思ったが、おまえ小遣いいくらもらってるんだ?」

 アンドロイド端末も録音器具も決して安いものではない。

「これは家で使ってるものを持ってきたんですが、知り合いのところで時々アルバイトをしているんです。あとはお年玉で」

ふむ

「バイトか…」

「一般的な型ならレジも使えますよ。ここのもいけると思います」

「!」

「そういえば先生はお店にレジがあるのに使いませんよね?何でですか?」

「…」

 

使えない…訳では無い

機械音痴では決してない

 

「マニュアルを、なくしてな」

 

 そんなこんなで、たまはとりあえず週末、15時から19時まで手伝いをしてその後1時間の魔術指導を受けることになった。

環は給料の受け取りを辞退したが、俺はちゃんとしないと面倒は見ないと譲らず、こうして学校に提出する書類を書いている。

「制服とかはないんだが……白シャツと黒の綿パン、持ってるか?無いなら買うからサイズを……」

「もってきます」

 

 それから……二週間で店内は見違えるほどきれいになっていた。

テイクアウトしか買わなかった客も驚いてコーヒーを飲んでいった位だ。

これは俺としてはかなり想定外の活躍だ。

「エプロン位は仕立てるか……うーん……」

「先生」

「おう」

「あの、魔法の方なんですけど……」

「あ」

 時計の針は7時をとっくに回っていた。

 

「とりあえずはこれを貸してやる」

 朔は2階に上がると自室から杖を持ってきた。

先についた籠の中で青い鳥がさえずる。大きさは掌に乗る位小さい。

先日の戦闘で喪った分は回復中であるがたまは知らない。その内大きくなったと驚くことだろう。

『ハジメマシテ。僕はとってもユウシュウな使い魔、メルキオルだよ。よろしくね』

「喋る鳥さん……!インコとかじゃないですよね……?」

「こいつは鳥類ではない。術でできた生物のメルキオルだ。杖とセットにしている」

「鳥さんじゃないんですか……?」

「術士はそもそも動物が懐かない」

 魔術素子量が高い人間は自然生物に忌避されるらしい。

何の用意もなくペットショップに行くと大概大変なことになる。

生物に術をかけて使い魔にする場合もあるのだが、その場合昏倒させた状態で施術する。

しかし出来る事と便利なことはイコールではなく、疑似人格を仕込まなければ知能は低く、早死にしてしまうのでやるヤツは滅多にいない。

どうでも良いことだが、魔術生物研究の国内一の権威は神楽坂である。

「……私、猫を飼ってますけど……肩に乗せられますよ」

「!?」

「や、やっぱり才能……ないんでしょうね……」

しょんぼりと肩を落とす環。

「う……うむ……いいんじゃないか……それはそれで……」

 実は朔は猫が好きだ。出来れば飼いたい位大好きなのだ。

まぁ……飼えないのだが……

たまはおそらく対抗術の影響で素子量を検知されにくいのだろう。俺も初見で全く分からなかったくらいだ。

うらやましい

と、そんなことはどうでも良い。

「とにかくだ。お前の家の猫が鈍感なのかも知れないし、術の基礎的な使い方位は教えておきたい。触媒も適当な物が見付かれば作ってやる」

「献血ですか?」

「あれは非常用だし、おまえの重さだとそんなに血は抜けないだろう。繰り返し使うこの手の触媒は大体事故で死んじまった術士の遺骸から作る」

「……」

「同意は取った相手だからまぁそこは気持ちの問題だな」

死体と聞いてまたしょぼくれる環の頭に手を伸ばす。

「!」

びくりと環が身をひいた。

撫でやすい位置にあったのでつい近所のちびを撫でる感覚で手を伸ばしてしまったが女子に対してデリカシーがなかったか。

「す、すまん」

朔は財布からカードを取り出す。

カードには譲り渡せる部位と譲る相手の範囲が選択項目として書かれている。

「今は術士用にこういうドナーカードがある。知り合いの形見分けみたいな感じだと思ってくれればいい。」

「……」

「他にも触媒は取引方法もあるからな。気まずければ他の方法もその内な」

「すみません」

「てーことは夜会に行くのが手っ取り早いか……」

「?」

「いや、それは後でいい。それよりメル、俺の弟子の環だ。」

『朔は美少女に縁があって羨ましいね。このロリコンめ』

「名前をやきとりに改名してやろうか」

 俺は悪態をつきながら杖をたまに握らせる。

「まずは回路接続からだな。基本中の基本なんだが……メル、お前の方から繋げ」

『朔が繋いであげればイイジャナイか。ラヴラヴランデヴ、あ、痛い、朔、やめ』

俺はポケットに入れてきていたアイスピックで鳥をつつく。

メルキオルは渋々と小さな翼を広げた。

『タマチャン、籠に触って目を閉じて貰えるかな?』

「はい」

環は言葉に従い目を閉じる。

メルキオルの体が光を帯びる。広がった光は指先から環の体に広がっていく。

「その感覚を覚えろ。出来れば文字にして記録しておくといい」

「すごく、軽い水に…包まれていくみたいです。」

「メルキオルは受信器だ。意思のある人間同士だと反発し合ったりするから加減が難しい。しばらくはメルと接続の練習をして貰う」

『えー』

「やきとり」

『朔のDV亭主…』

ぶつくさと呟きながらメルキオルの光が治まっていく。

「繋がったか。環、目を開けていい」

「寒くはないんですけど…なんだか変な感じです…」

環は杖をまじまじと見つめる。

「効率は悪いが魔法らしいところから使うのがいいかな。環。この椅子を浮かせてみろ」

朔はテーブルの下から椅子を引いた。

「むっ、無理ですよ!急にそんな!」

「触媒があれば儀式は殆ど必要無い。そうだな、メルキオルを向けてやりたいことを言葉にしてみろ。どうしたいか、その結果を想像しながら」

朔は隣にもう一つ椅子を置いて座る。

「…」

環は朔に従い杖を構える。

「う、浮いて下さい」

頼むのか

一呼吸置いて椅子はゆっくり浮き上がり

ごっ

と勢いよく天井に当たって床に落ちた。

「わああああああああああご、お、ごごごごめんなさい」

「落ち着け。制御が上手くいかないくらい誰でもある。杖は離すなよ。」

肉体に術をかけるのは大分先になりそうだな、と俺は苦笑した。

 

+ + +

「~♪」

 時を同じくして、露光の最寄り駅から数駅ほど離れた近隣市、少し煤けたゲームセンターの音ゲー筐体前で鼻歌を口ずさむ少女がいた。

長い金髪のツインテイル、白い肌に青い目の人形のような愛らしい容姿の少女。

「久し振りね。えっと……今のバージョンは……?……14!?」

 Black Blood Vampire。通称ブラバン。

プレイヤーは吸血鬼の女王になり、黄金の魔法剣と蝙蝠を操って支配の楽曲を奏で敵を倒す。という設定だ。

操作は画面に表示された弦を両手でつま弾くように操作するシンプルな操作だが、サイドに置かれたボタンと足下のペダルがネックである。

一昔前にはかなり流行り全国大会も開かれた物だが、ゲームの難易度が上がりに上がり今はマニア向けのゲームと成りはて無駄に細かくナンバリングを刻んでいる。

 ゲームセンターの入り口に置かれた筐体の前で機械を覗き込む姿はやや幼い。身長は140cm程。

 18歳未満に見える子供は18時以降身分証の提示を求められるゲームセンターなのだが、店員は少女に目もとめず隣に置かれたキャッチャーに新作のぬいぐるみマスコットを詰めている。

少女は店員の存在を意に介さずコインを入れてゲームを始める。

 やがて彼女の後ろに人垣が形成されていく。

最初は女王の設定画に似た後ろ姿に対する「コスプレ?」などという冷やかしだったが、2曲目が終わる頃には歓声が上がるようになっていた。

「スゲェ……これも最高難易度曲だろ……??」

「フルコンしてやがる……」

「人間やめてる。動画とっていいかな……」

 少女のプレイ姿は美しかった。

無駄のない動きで的確にターゲットを捉え、滝のように流れる画面にはMAXコンボの虹色とPerfectの文字が乱舞している。

ギャラリーから上がる賞賛の呟きを舐めるようにぺろりと舌を出すと、少女は最期のボタンを音を立てて叩いた。

画面に表示されるSSSの文字とハイスコアマーク。

「ふふふ、操作は変わって無くて良かったわ」

ギャラリーから拍手が上がる。しかし変わらず店員は気付かないかのようにぬいぐるみを詰めている。

「女王様の帰還よ」

少女はユーザーネームを入力する。

LieRie

 

+ + +

少し予定より遅くなってしまったので朔は環を送ることにした。

隣を歩くたまは上機嫌だ。

飲み込みは良いほうだったようで、30分ほどで椅子は空中に浮かぶようになっていた。

「なんだか魔法使いになった気分です!」

「杖無しで出来るようになってから言え。自主練は当面禁止だからな」

自信を付けさせるのも大事だが、怪我をする前に窘めておかねば。

「来週から、まぁ、なんだ。よろしくな」

露光は現状大分喫茶店としては難のある状態なので良いきっかけになるかもしれない。

本業は喫茶店の店主であるのだから、確かに復讐にかかりきりになるだけよりいいだろうと朔は前向きになっていた。

「あの、先生」

「ん?」

「お母さんは……亡くなられたと言うことですが……他のご家族は……お父さんはどうされたんですか……?」

「長野で野菜を作ってる」

「…………え」

「父さんは普通の、魔術適性の無い人間だ。母さんが死んで、普通に落ち込んでるただのおっさんだ」

俺もそろそろおっさんだからじいさんかなとひとりごちる。

「こんな……まぁ魔女狩りだな……やってると……怨みを買うことも少なくない。そういうのから身内を守る為の街があるんだ。そこに行って貰ってる」

「……寂しく……無いんですか?」

「俺の使い魔はお喋りだし、橙もいるしな。」

「……すみません」

「謝るな。そうだな、おまえも来てくれたし、寂しくはない。」

環が顔を上げる。目に一瞬の光。

「星……?」

「ああ、そういえば。流星群」

環が空に目を向ける。

「天体観測。好きなんだっけか」

仕事中、暇なときに趣味を聞いたのを思い出す。予想通りオカルトも好きらしい。

「はい」

「折角だ、ちょっと見物していくか」

「……?」

 

+ + +

 

「う、わあ……」

銀色に抱かれ

光の雨の中に、いる。

「時たま火球が混じるからな。ここまで落ちてくることはあんまりないが気を抜くなよ」

環はメルキオルを掲げた朔の腕に掴まっていた。

高度はおよそ2万メートル。旅客機が遙か足下を飛んでいくのが見える。

本来酸素マスクと鉄の機体があって初めて人間が生きられる環境に。朔と環はいる。

月は細く、淡く発光する朔の他に殆ど光源はない。

「おー結構流れてるもんだな」

プラズマの輝きがちらちらと現れては消えていく。

障害が少ない分雨のように降る流星。

「すごいです……こんなにたくさん……」

「今なら願い事もし放題だな」

「……」

たまは天体ショーに魅入られている。

俺は下の自販機で買ってきた缶コーヒーを開けた。

絶対に下に零さないようにしなければならないが、慣れているので危なげもない。

「……」

 

+ + +

花火のように上空のそこかしこで光る塵の末期を10分ほど眺め、朔と環は環の家の近くの林に降りた。

「ありがとうございます!人生で一番素晴らしい体験です!!」

「大げさだな」

たまは興奮冷めやらぬ表情だ。

「マフラーと手袋しててもそれなりに寒かったろ。今日はさっさと寝ろよ」

「えへへ、ありがとうございます」

寒さのためか、頬を赤くして笑顔を浮かべる環。

その後ろの木が、燃え上がる。

「!?」

俺はメルキオルを掲げる。飛ぶだけの術にそこまで素子は消費していない。壁を作りながら環を抱え倒木の範囲から離れる。

「朔」

朔は声を掛けて来た相手に目を向ける。

「りり子」

金髪にツインテイル。青い瞳は涙で潤んでいる。

「そのこ。なに」

「質問するのはこっちだ。なんのつもりだ。火事でも起こすつもりか馬鹿」

金髪の少女は手に持っていた大鎌にしか見えないそれを振る。

燃えていた木は瞬時に燃え尽き、炭になった。

「朔……そのこはなんなの……」

「それにおまえ学校はどうした?まだ帰国予定は……」

「答えてよ!!」

「!?!?」

環は朔の腕の中で目を白黒させている。

「こいつは俺の弟子だ」

「う……そ……あたしは……弟子に……してくれなかったのに……」

「あのなぁ……」

「う……う……」

少女は鎌を取り落とし、数歩下がるとその場にへたりこんだ。

「うわあああああああああああん」

 

+ + +

 朔は自分が飛ぶ極小範囲にしか領域を張っていなかったので、その泣き声は近隣に轟いてしまった。

「名前、りーりーちゃんっていうの?」

泣き声を聞いて出てきたたまの母親に家に通され、俺は居心地悪くソファに座っている。

そしてそんな俺の隣には貼り付くようにリーリーが座っている。

こくりと頷き少女は環の持ってきたホットミルクに口を付ける。

 彼女の戸籍上の名前はリー・リー・グジェスコフ・望月。朔の妹ということになっている。

名前から分かるだろうが無論、本当の妹ではない。

「ごめんなさい。私が無理を言ってで……アルバイトに雇って貰ったんだけど。リーちゃん……?がそんなに思い詰めてたこと……知らなくて……」

台所で朔達の分も料理を作ってくれている母親に配慮してか、少し声を潜めながらも言葉を選んでたまは話す。

「リーリーで良い……」

「概ね俺のせいだ。悪いな……」

「おにいちゃん……」

リーリーの表情が明るくなる。

「じゃああたしも弟子」

「それは断ると言ったはずだ」

 リーリーの言葉を遮り俺もミルクに口を付ける。ほんの少し蜂蜜が入っている。優しい甘さだ。

「朔……」

「まず謝れ」

「……」

「この子にも怪我をさせるところだった。謝りなさい」

「……ごめん……なさい……」

「気にしてないから…ケンカしないでください…」

たまは苦笑いを浮かべる。

そんな環の足下にとことこともこもこした生き物が寄ってくる。

「あ、これ、うちのにゃんこのちろるです。」

環が猫を持ち上げる。

俺は表情が強ばるのを自覚した。

少し肥満気味ながら愛らしい。なるほどピンクではないがチョコレート色の混じる丸いフォルム。

ちろるの名前の由来はピンクの肉球か。長い毛に埋もれてつやつやと輝いて見える。

夜だからか黒眼がちな緑の目もとてもかわいらしい。

しかし、俺は知っている。自分がどれほど動物に好かれないか。

むしろこの距離に寄ってきたことが脅威的事態だ。

「もう一匹居るんですけど寝てるのかなぁ…」

一度奥の部屋をのぞいて、猫用ベッドに居なかったのかちろるを抱えて環は戻ってくる。

「おにいちゃん……ねこすきよ……」

りり子め余計な事をと朔がリーリーを睨む。

「だっこしますか?大人しいですよ?」

 俺は固まった。

引っ掻かれるか、噛まれるか。

心臓が高鳴る。

たまが猫をそっと朔の膝に乗せると

猫はそのまま丸くなった

「!!」

「すごい……朔が引っ掻かれてない…」

 リーリーが呟く。

俺はどうして良いのか一頻りわたついてから、そっと立派な毛並みに触れた。

見かけ通り、素晴らしいふわふわだった……。

「あらあら、仲良しさんね」

ふふと笑いながらシチューを持ったたまの母親が出てきて、俺は最悪のタイミングで最高にだらしない顔を見られてしまったのだった。

 

 


 
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