~夜・特務支援課~
「―――そうか。その名前が出てきたか。”真なる叡智(グノーシス)”………」
ロイド達の報告を聞いたセルゲイはロイド達に背中を向けて外の景色を見ながら重々しい様子を纏わせて呟いた。
「………課長、教えてください。6年前に兄が関わったという、ティオを拉致した教団―――”D∴G教団”について。」
「当然…………課長はご存知なんですよね?」
「最初っからティオすけの事情を知ってるような感じだったしな。」
「………………」
レンが黙り込んでいる中ロイド達に尋ねられたセルゲイは黙り込んだ後振り向いて話を始めた。
「―――俺が知ってるのは当然だ。当時、ガイと共に教団のロッジの一つを制圧した当事者だったからな。」
「そ、そうだったんですか!?それじゃあ課長は、兄貴の―――」
「直接の上司だった。………当時から俺はちょいとハミ出し気味でな。ある時、規格外の新人を2人も押し付けられちまったんだ。そのうちの一人が、お前の兄貴だ。」
「あ…………」
「直接的で無鉄砲だったが………ヤツは優秀な捜査官だったよ。いい意味で、もう一人の新人と好対照な組み合わせだった。」
「もう一人の新人の方というのは……?」
「ひょっとしてあの一課のダドリーとか?」
セルゲイの話を聞いていてある事が気になったエリィとランディは質問し
「いや、ヤツは生粋の一課上がりの男だ。俺が受け持ったもう一人の規格外の新人……―――それがあの、アリオス・マクレインだ。」
「ええっ!?」
「あの人、元は警察の………!?」
「うふふ、いつもコートを身に纏っているアリオスおじさんの刑事姿なんて全然想像できないわね♪」
セルゲイの答えを聞いたロイドと共に驚き、レンは小悪魔な笑みを浮かべていた。
「数年前に警察を辞め、遊撃士に転向しちまったがな。警察が遊撃士協会に微妙な距離感を持っている理由の一つでもあると言えるだろう。」
「なんとまぁ……」
「というか警察が遊撃士協会に対して微妙な距離感ができた経緯もパパの時と微妙に似ているわね。」
「兄貴とアリオスさんが同期の新人同士だったなんて………」
「年齢はアリオスの方が2つばかり年上だったがな。」
自分の話を聞いて驚いているロイド達にセルゲイは話を続けた。
―――既に結婚して、娘も生まれたばかりのアリオスはとにかく生真面目すぎる男だった。一方ガイは、奔放で無鉄砲でとにかく前向きな馬鹿野郎だった。そんな2人だからこそ、逆にウマが合ったんだろうな。わずか2年足らずで、あいつらはクロスベル警察最強の若手コンビと言われるようになった。
「…………………………」
「た、確かにその2人なら最強という言葉もわかりますね……」
「まあ、どっちも一人でもいれば状況は大きく変える事ができる存在だものね。」
「ああ………正直、俺も誇らしかったもんだ。そんな凄い部下どもを育てる絶好の機会に恵まれたんだからな。そうして俺達の班は華々しい実績を打ち立てて行き……ついには一課に代わって国際的な犯罪事件の合同捜査を任されることになった。」
「国際的な犯罪事件……」
「ひょっとしてそいつが……」
セルゲイの話の中である事が気になったロイドは察し、ランディは目を細めて尋ね
「ああ―――例の”教団”だ。『D(ディー)∴G(ジー)教団』………それが連中の正式名称らしい。」
尋ねられたセルゲイは重々しい様子を纏って答えた。
「『D∴G教団』…………」
「その∴ってのは何なんだよ?」
「∴は『~ゆえに』を意味する数学的な記号だけど………『D∴G』というのは何を意味してるんでしょう?」
「未だそれは不明だが………そのうちの”G”に関しては何とか突き止められている。G―――すなわち”真なる叡智(グノーシス)”だ。」
「あ……」
「ヨアヒム先生が言っていた悪魔の力を得る薬…………」
「そう繋がんのかよ………!」
「……………」
セルゲイの説明を聞いたロイド達は表情を厳しくしている中レンは真剣な表情で黙り込んでいた。
「事件が終結して6年あまり―――多くの謎を残した宗教団体だが………一つ確かに言えることがある。それは、ここ数十年で最悪の組織犯罪を引き起こした最低の連中だったってことだ。……各地で拉致した子供達を何十人と犠牲にしやがったな。」
「っ………」
「昨日、イアン先生が言っていた……」
そして怒りの表情のセルゲイが語った言葉を聞いたロイドは怒りの表情になり、エリィは静かな様子で呟いた。
――――『D∴G教団』………奴等はゼムリア大陸の各地で10以上の拠点(ロッジ)を持っていた。そして、それぞれのロッジで様々な形での”儀式”を繰り返した。おぞましい悪魔召喚的なもの、”古代遺物(アーティファクト)”を利用したもの、そして人体実験的なもの………そして、それらの儀式の時に必ず使用されていたのが……”グノーシス”という名の正体不明の薬物だったという。
「…………………………」
「………その……衝撃的すぎる話ですね………」
「それで、事件はどんな風に解決されたんスか……?」
「ああ………」
―――昨日も言ったが、被害が各国に広がっていた事から国際的な捜査体制が設立された。各国の軍、警察、ギルド、教会関係者が一堂に会する中………ある高名な遊撃士の指揮により各地のロッジを一斉検挙・制圧する大規模な作戦が実行された。そして俺達3名は、共和国最先端、アルタイル市の郊外にあるロッジの制圧を担当し………ガイは、当時8歳だったティオ・プラトーを保護した。ティオは衰弱しきっていたが、まだマシな方だったのかもしれん。………それ以外の子供たちがティオ以外の一人を除いて全員、助からなかったというのもあるが………他のロッジで試みられていたおぞましい”儀式”に比べたら、まだマシな扱われ方だったからだ。
「………なんで………なんでそんな連中が存在を許されてるんだ………ッ!!」
「……吐き気がしてきたわ………」
「クロスベルにおける犯罪とはちょいと次元が違いすぎるな………」
「…………………」
セルゲイの説明を聞いたロイドは怒りの表情で叫び、エリィは静かに呟き、ランディは考え込みながら呟き、レンは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「そう言えば課長。さっき『ティオ以外の一人を除いて全員、助からなかった』と言っていましたが……『もう一人の助かった子供』はどうなっているのですか?」
「あ………」
「確かに今の話だとティオすけ以外の子供も一人だけ助かったって事になるよな……」
ロイドの疑問を聞いたエリィは呆け、ランディは真剣な表情で考え込んだ。
「あー………そいつについてだが………」
ロイドの疑問に対してセルゲイは答えを濁そうとしていたが
「―――言っちゃって構わないわよ、セルゲイおじさん。どうせ”教団”の事を調べていたら絶対にレンにも辿り着くでしょうし。」
その様子を見たレンが静かな表情で指摘した。
「なっ!?」
「『”教団”の事を調べていたら絶対にレンにも辿り着く』って事は………!」
「……課長、マジで小嬢が『もう一人の助かった子供』なんッスか?」
レンの答えを聞いたロイドは血相を変え、エリィは不安そうな表情をし、ランディは目を細めてセルゲイに訊ねた。
「………ああ。正直レンが特務支援課に出向してくる事を知らされてそいつの資料にあったそいつの顔写真を見た時は自分の目を疑ったくらいだ。何せ『D∴G教団』から救い出されたもう一人の子供まで”特務支援課”に来たのだからな。」
「課長………」
疲れた表情で溜息を吐いたセルゲイの話を聞いたロイドは静かな表情で見つめていた。
「………ちなみにレンがいたロッジを制圧し、レンを救助した人物達の中には先程話に出た高名な遊撃士――――『剣聖』カシウス・ブライトの息子である『焔の剣聖』ルーク・ブライトもいる。」
「『剣聖』カシウス・ブライト……!」
「『百日戦役』で窮地に陥っていたリベール軍を立て直して、帝国を追い払っていうあの”リベールの守護神”ッスか!?」
セルゲイの説明から出てきたある人物の名前を聞いたエリィは驚き、ランディは信じられない表情で訊ねた。
「ああ、そうだ。『剣聖』カシウス・ブライト……………彼が当時の事件の指揮を取っていてな。あの事件の解決は彼の働きが大きかった。」
「ちなみにカシウス准将はエステル達の父親でもあるんだ。」
「まさに”英雄”の血筋じゃねえか………」
「親子揃って、”英雄”って、凄い家族よね………もしかしてレンちゃんがブライト家に養子入りしたのもその事が関係しているのかしら?」
セルゲイとロイドの説明を聞いたエリィはランディと共に疲れた表情で溜息を吐いた後ある事に気づき、辛そうな表情でレンに訊ねた。
「ええ。レンがお兄様達に救助された当時”あの二人”はまだ借金を返すのに必死な時期だったからレンの身元がわからなくてね。加えてレンは”あの二人”の事を”偽物の家族”で、レンを助けてくれたお兄様が”本当の家族”だと思い込んでいたもの…………そして目が覚めた時看護師さん達に”レンの家族”が誰なのか聞かれた時ルークお兄様の名前を出したら、翌日ルークお兄様が病室に来てくれてレンから色々事情を聞いた後、恐らくパパ達にも相談したのでしょうね………その次の日から毎日”レンの家族”としてお見舞いに来てくれて、退院後は”ブライト家というレンの新しい家族”が住んでいるリベールに一緒に帰って………そこからの続きは………話さなくてもわかるでしょう?」
「あ…………」
「……………」
「それが君がブライト家に養子入りした経緯か…………―――!もしかして君の”Ms.L”としての才能を含めたあらゆる能力に秀でている能力もティオが持つ感応力と同じ……!」
レンの話を聞いたエリィは呆けた声を出した後辛そうな表情で黙り込み、ランディは目を伏せて黙り込み、ロイドは重々しい様子を纏って呟いた後ある事に気づいて血相を変えてレンを見つめ
「うふふ、中々鋭いわね。――――まあ、レン自身に備わっている元からの才能もあるから全てとは言わないけど、レンに投与され続けた”グノーシス”も確実に影響しているでしょうね。既にレン以外の”実例”が弁護士のオジサンの口から出てきたもの。」
「まるで未来が見えていたかのようなツキとカンで株を売買した証券マンの話か…………」
「レンちゃん…………」
ロイドの推測に感心した様子で答えたレンの説明を聞いたランディは重々しい様子を纏って呟き、エリィは辛そうな表情でレンを見つめていた。
「……話を続けるが、レンがいたロッジってのがまた、とんでもない事をしていた場所でな。………何でもそのロッジに集めた子供達を使って各国の権力者達に売春行為をさせて、活動資金を受け取っていたらしい。」
「なっ!?」
「そんな………!じゃあ、レンちゃんとユウナちゃんも………!」
「チッ………外道どもがっ!!」
セルゲイの口から出た驚愕の事実を知ったロイドは厳しい表情で声を上げ、エリィは悲痛そうな表情でレンを見つめ、ランディは舌打ちをした後怒りの表情になり
「…………まあ、レンとユウナはあの”ロッジ”にいた子供たちの中でも”目玉商品”のような扱いをされていたお陰で”色々な性行為”をやらされたけど、他の子達と違ってレンとユウナは処女(ヴァージン)だけは奪われなかったから、その事だけは不幸中の幸いだったわ。」
「………っ!」
「…………………」
「…………そんな事があったのにレンちゃんはよく男性恐怖症や心的外傷後ストレス障害(PDSD)にならなかったわよね………?」
レンの話を聞き、レンやユウナに売春行為をさせた者達に怒りを抱いたロイドは唇を噛みしめ、ランディは重々しい様子を纏い、エリィは辛そうな表情で訊ねた。
「うふふ、レンは”天才”だもの♪――――だからこそレンはレンを”ロッジ”から連れ出して”今の家族”――――”ブライト家の一員”にしてくれたルークお兄様には心から感謝し、慕っているの。ルークお兄様が望むのだったらレンは躊躇いなく処女(ヴァージン)をお兄様に捧げるし、愛人やセックスフレンドになってもいいと思っているわよ。」
「まだ子供の癖にそんなマセた事を言うなよな………」
「そうよ……第一そのルークという人もレンちゃんにそんな事をして欲しいと望んで助けた訳じゃないでしょう?」
「………………もしかして君が”Ms.L”として莫大な財を築いたのも自分を助けてくれたルークさんの為か?」
レンの本音を知ったランディとエリィは疲れた表情で指摘し、複雑そうな表情でレンを見つめていたロイドは気を取り直して訊ねた。
「うふふ、中々良い所をついているわね。正確に言えば”ブライト家”の為よ。」
「莫大な財を築いた理由が”ブライト家の為”って……一体どういう事なのかしら?」
レンの説明を聞いてある事が気になったエリィは不思議そうな表情で訊ねた。
「そんなの決まっているじゃない。――――ようやく手に入れた”レンの新しい家族”を”前の家族”の時みたいな事にしない為よ。」
「それは………」
「再び借金によって家族がバラバラになる事を防ぐ為か…………」
「だからと言って幾らなんでも稼ぎ過ぎじゃねぇか?」
レンの答えを聞いたロイドはエリィと共に複雑そうな表情をした後溜息を吐き、ランディは呆れた表情で指摘した。
「お金はたくさんあればある程様々な問題を解決できる可能性が広まるでしょう?―――特に荒事関連はお金さえ用意できれば、大概は解決できる………そうでしょう、ランディお兄さん?」
「……まあな。”猟兵”みたいな”裏の仕事”で生活している奴等にとってミラが全てだ。ましてや莫大な金額の”報酬”を値引き交渉する事もなく支払う”大口の依頼人”と関わる事があった場合自分達の腕を信用して、今後も自分達を雇ってくれるように”依頼人”の”要請(オーダー)”を完遂できるように本気で仕事をするだろうな。」
「ランディ………………」
「…………レンちゃん、ミシェラムで助けてくれたメイドの人達もレンちゃんが雇っている”西風の旅団”の猟兵達と同じような存在なのかしら?」
レンに問いかけられて疲れた表情で答えたランディをロイドは心配そうな表情で見つめ、エリィは複雑そうな表情でレンに訊ねた。
「ジョーカーお兄さん達の事?あの人達は違うわ。あの人達はレンが困れば、お金とか関係なくレンを助けてくれる”忠臣”よ。」
「”忠臣”………」
「”忠臣”………”主”に心から慕う”臣下”という意味ね。」
「確かに言われてみればあの執事達は心から小嬢に従っているって感じだったよな………」
レンの説明を聞いたロイドは呆け、エリィは静かな表情で呟き、ランディはミシェラムでの出来事を思い出していた。
「経緯は省くけどジョーカーお兄さん達はみんな、昔仕事を失ったり、家族が怪我や病気で高い治療費が必要で困っていた時にレンが救いの手を差し伸べてあげたら、みんな、レンに感謝してね。それでみんな受けた恩を返す為に、レンの”忠臣”―――”味方”になってくれたのよ。」
「どうしてレンちゃんは自分の”味方”を増やしているのかしら?」
「昔今のパパ―――『剣聖』カシウス・ブライトから教えてもらったの。『人は様々なものに影響を受けながら生きていく存在だ。逆に生きているだけで様々なものに影響を与えていく。それこそが『縁』であり―――『縁』は深まれば『絆』となる。そして、一度結ばれた『絆』は決して途切れることがないものだ。遠く離れようと、立場を違(たが)えようと何らかの形で存在し続ける……だからレン、お前さんも俺達”家族”だけでなく他人も大切するように心がけるのだぞ。そうすればいつかその人達はお前さんを助けてくれる存在になる』……ってね。」
「『一度結ばれた『絆』は決して途切れることがないもの』……か。」
「各国の軍組織の指揮をした『剣聖』らしい言葉だな。」
「…………………」
レンの話を聞いたロイドとセルゲイは静かな表情で呟き、ランディは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「だからこそレンは様々な方面からの情報を集めて、色々と”訳あり”な様々な理由で困っている人達を助けてあげたの。みんな、”訳あり”なだけあって、”対価”としてレンの味方としてレンの元で働いてくれるように提示したらみんな、喜んで頷いてくれたわ♪中には涙を流して一生レンに仕えて恩を返すみたいなことを言っていた人達もいたわ♪」
レンの説明を聞いたロイド達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「どう考えてもレンちゃんの今のお父さんの教えを歪んだ形で再現しているとしか思えないのだけど……」
「つーか、何で”訳あり”な連中に絞って、そいつらだけ助けてやったんだ?」
我に返ったエリィはジト目でレンを見つめ、ランディは疲れた表情で訊ねた。
「だって、そういう人達の忠誠心は高いと思わない?」
「ある意味その推測は当たっているから、洒落になっていねぇな……」
そしてレンの答えを聞いたロイド達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ランディは疲れた表情で溜息を吐いた。
「クク………そろそろ話を戻させてもらうが………いずれにせよ、6年前のその作戦をもって、『教団』は完全に叩き潰された。信者たちは全員、自決するか精神に破綻を来して衰弱死した。残党もいたって話だが………教会や例の”結社”とやらが動いて密かに殲滅したっていう噂もある。『D∴G教団』の悪夢は完全に終わったはずだった―――」
「ですが、この『蒼い錠剤』。これがその教団が使っていた『グノーシス』である可能性は出てきたというわけですね。」
セルゲイの話を聞いたロイドは真剣な表情で蒼い錠剤が入った袋を取り出して尋ねた。
「現時点では憶測の範囲だが………もしそれが本当なら6年前の悪夢が別の形で引き起こされるかもしれん。それもマフィア同士の抗争を巻き込むような形でな。」
「最悪すぎんだろ………」
「下手をすれば6年前の悪夢より酷い事になるかもしれないわね……」
「それが本当なら………絶対に見過ごせません………!」
「ああ……もちろんだ。」
怒りの表情のエリィの言葉に怒りの表情で頷いたセルゲイは煙草を口に咥えて火を付けた。
「―――ロイド。3年前、お前の兄貴を殺った犯人はいまだ見つかっていない。」
「……はい。何でも手掛かりが少なすぎて迷宮入りになってしまったとか。」
「ああ……一課に移ってからヤツはもっぱら単独で調査をしてたって話だからな。大国の諜報機関、ルバーチェ、それとも全く別の犯罪組織………もしくはどこぞの猟兵団やテロリストなんてのも考えられた。だが―――それ以外にも俺の頭を掠めた可能性があった。」
「『教団』の残党……ですね。」
「ああ……今となってはその可能性も現実味を帯びてきた。その意味では、俺にとっては元部下の弔い合戦になるだろう。お前らには悪いが、この先は俺も出しゃばらせてもらうぞ。」
「課長………」
「わ、悪いどころかすごく助かりますけど……」
「うふふ、一体どんな風の吹きまわしかしら?」
「つーか、まるで今まであえて放任してたような口ぶりッスね?」
セルゲイの申し出を聞いたロイドは驚き、エリィは明るい表情をし、レンはからかいの表情で呟き、ランディは苦笑しながらセルゲイを見つめた。
「クク、どうだかな………ただまあ、この特務支援課は元々はガイのアイデアを参考に設立したってのは確かだ。」
「そ、そうなんですか?」
「ギルドの評判に対抗するため設立された部署だったのでは………」
「そいつは上層部を納得させるための口実だ。―――生前、ガイのヤツが俺に語っていた言葉がある。今のクロスベルに必要なのは”壁”を乗り越える力だ………若いモンが失敗してもいいから力を合わせて前に進める場所……それが警察には必要なんじゃないかってな。」
「兄貴が……」
「やれやれ……とんだ熱血アニキだな。」
”特務支援課”ができた経緯に隠されていた真実を知ったロイドは驚き、ランディは苦笑していた。
「もしかしてティオちゃんが支援課に来たのも………?」
「あ……」
「ああ、ガイの意志が息づく場所に居たかったんだろう。本人からはっきりと聞いたわけじゃないがな。………レン、ちょうどいい機会だから聞いておく。まさか”特務支援課”に来た本当の理由は”自分と同じ存在”であるティオがどんな奴なのか興味があったからか?」
「うふふ、『もう一人の助かった子供』であるティオについて興味がある事は否定しないけどそんな理由の為だけに”特務支援課”に来ないわよ。レンが特務支援課に出向してきた真の理由はいくつかあるけど、一つはロイドお兄さんのお兄さん――――ガイ・バニングスに頼まれたからよ。」
真剣な表情をしたセルゲイに問いかけられたレンは意味ありげな笑みを浮かべて答えた。
「…………………何?生前のガイはお前と面識があったのか?」
レンの口から出た驚愕の答えを聞いたセルゲイは一瞬固まった後我に返ると戸惑いの表情で訊ね
「……その、課長。絶対に誰にも他言無用と言う事でお願いします―――――」
その様子を見たロイドは説明を申し出、レンと共にガイ・バニングスが生きている事等も含めて説明をした。
「…………クク、まさか生きていたとはな。しかも偶然クロスベルを訪れたレンと”焔の剣聖”によって九死に一生を得るとは……奴の悪運の強さはもはや神がかっているな。」
「ハハ、俺もそう思います。」
兄の生存を皮肉も交えて喜んでいるセルゲイの指摘にロイドは苦笑しながら頷いた。
「……ちなみにレン。ガイを殺った……いや、殺りかけた”容疑者”の件でロイドは俺とダドリー、警察関係者以外にいると言っていたが……その”容疑者”の中にはアリオスも入っているのか?」
「か、課長!?突然何を……」
「レンちゃんは”警察関係者”と言いましたから、元刑事であったアリオスさんは”容疑者”でないのでは……?」
セルゲイのレンへの質問にロイドは驚き、エリィは戸惑いの表情をした。
「………うふふ、どうやら言葉が足りなかったようね。ガイお兄さんを殺害しかけた”容疑者”に入らない人物はセシルお姉さんたちを除いて”ガイお兄さんが殺害されかけた時点の警察関係者”よ。」
「そいつは…………」
「信じたくはないけど、”ロイドのお兄さんが殺されかけた時点では警察関係者ではなく遊撃士である”あのアリオスさんまで”容疑者”に入るという事になるわね………」
「……………………………」
意味ありげな笑みを浮かべて答えたレンの答えを聞いたランディは目を細め、エリィは不安そうな表情をし、セルゲイは真剣な表情で黙り込んでいた。
「…………兄貴の事はともかく………今は、この薬の被害を食い止めることが先決です。それと、キーアですが………例の『教団』と何らかの関わりがあるかもしれません。」
一方複雑そうな表情で黙り込んでいたロイドは気を取り直して話を戻した。
「あ…………!」
「チッ、そいつはありそうだな。記憶喪失の原因が薬物って話もあったし……」
「ああ……俺もそう睨み始めている。」
「……………」
「ですから課長………動くのは俺達に任せて課長はここでキーアを守ってやってくれませんか?一課との連携もありますし、俺達には司令役が必要なんです。」
「ほう…………」
そしてロイドの意外な提案を聞いたセルゲイは驚き
「た、確かに……」
「誰かが支援課に詰めとく必要はありそうだな。」
「もし、”教団”の狙いがキーアなら支援課の守りをがら空きにできないものね。」
エリィとランディ、レンはそれぞれ納得した様子で頷いた。
「……すみません。せっかくの申し出なのに、生意気なことを言ってしまって。」
「クク……いや。―――いいだろう、引き受けた。ただし今まで通り、わざわざ俺から指示は与えん。相談にはいくらでも乗るし、各方面と連絡も取ってやるが………お前達自身が判断して今回の事件を解決してみせろ。どうだ、やれるか?」
申し訳なさそうな表情で謝罪するロイドに静かな笑みを浮かべて見つめたセルゲイは真剣な表情で指示をして尋ね
「はい……!」
「了解しました!」
「うふふ、レンも支援課のメンバーなのだから、大船に乗ったつもりで朗報を待っていていいわよ♪」
「やれやれ、明日から鬼のように忙しくなりそうだぜ。」
訊ねられたロイド達はそれぞれ力強い返事をした。そして翌日―――――
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第55話