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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ二十二

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2016-06-28 06:01:00 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:2280   閲覧ユーザー数:1982

 

 

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ二十二

 

 

 駿府屋形を鬼の手から取り戻さんと、東西両軍が攻め寄せる。

 東軍の先陣を担う粉雪率いる武田赤備え隊が城下町に辿り着いた。

 

「うえぇっ!ひっでぇ臭いなんだぜっ!」

 

 町の中は肉の腐臭と糞尿の臭いが混じり合い、粉雪は顔を顰める。

 そして至る所に骨が散らばっているのを見て、鬼に食われた人の物だと直ぐに判り吐き気以上に怒りが湧き上がった。

 

「生存者と鬼がいるかもだからよく確かめるんだぜ!生存者がいなければ建物に火を掛けるんだぜっ!!」

『『『はっ!』』』

 

 鬼の潜伏と接近を警戒する為の焼き打ちだが、食われた人の火葬という気持ちの方が粉雪と赤備え隊には強かった。

 鞠が来た時に穢れた城下を見せるのも忍びないという気持ちも在る。

 

「粉雪さま!鬼も生存者も、まるで見当たりません!」

「どの家屋にも鬼が最近まで居た形跡が残っていますが……」

 

 その様な報告がだけが次々ともたらされ、粉雪は眉間に皺を刻んだ。

 

「貝子!どう思うんだぜ?」

 

 粉雪は副将の貝子こと小幡信貞に問い掛ける。

 貝子も怪訝な顔で頷いた。

 

「駿府屋形に集められたと見るべきでしょうね…………普通ならば。」

 

 貝子は首の後ろに手を当てている。

 赤備え副将としての勘が普通では無いと告げているのだ。

 

「あたいもさっきから首の後ろがチリチリしてるんだぜ………っ!総員集結っ!!」

 

 粉雪が叫んだ直後、大地が揺れた。

 

 

 

 

 西軍の先陣を歌夜が松平衆を率いて務めていた。

 東海道を東に進み安倍川を渡れば駿府屋形は北に一里も無い。

 詩乃と雫の指示通り細心の注意を払って渡河を終え駿府屋形をめざす。

 

「ここまで来ても鬼の姿が無い………………だけど…」

 

 そう呟いた時、地鳴りと地震が起こった。

 松平衆の周囲の地面が崩れ家屋を飲み込み土煙が上がる。

 

「ギャシャァアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 聞き慣れた鬼の咆哮が土煙の中から上がり、夥しい数の鬼が地中から這い出して来た。

 

やっぱり(・・・・)………そう来ると思ったわ!」

 

 歌夜は赤龍独鈷を構えて迫り来る鬼を睨んだ。

 

 

 

 

「やはり地中から現れましたね。」

 

 駿府屋形から南西に一里半程、間に安倍川を挟んだ山の上に置かれた西軍本陣で詩乃は状況を確認していた。

 その横で雫も戦場に目を凝らしながら頷く。

 

「一乗谷でザビエルが地中に消えましたからね。鬼が地中に潜んで待ち伏せる。警戒しておいて正解でしたね。」

 

 詩乃と雫は実際にザビエルが地中に消えたのを見てはいないが、その穴を検分して鬼が地中を掘り進む能力を有していると認識していた。

 

「しかし、こうなると信虎殿が鬼となり、戦の指揮をしている可能性が高くなりました………」

 

 詩乃と雫は振り返り祉狼を見る。

 

「どんな形であれ、俺は信虎さんを治療するだけだ。」

 

 祉狼は床几に座っているが、湧き上がる凰羅がまるで篝火の様で直ぐにでも飛び出したいのを我慢していると物語っていた。

 そんな祉狼を横に居る久遠が嗜める。

 

「落ち着け、祉狼。信虎の居場所が判らんし、ザビエルが潜んでいる可能性もまだ依然残っている。」

「しかし、久遠!いくら備えていたとはいえ負傷する人が…」

 

 反論する祉狼を久遠は両手で顔を挟んで黙らせた。

 

「祉狼!お前の育てたゴットヴェイドー隊を信じろ!ひよの木下隊やころの蜂須賀隊の応急処置はどうだ!それを守る蒲生衆や明智衆は頼りにならんのか!?」

 

 正面から見つめる久遠の澄んだ瞳をみていると、祉狼の焦りが鎮まって行った。

 

「結菜が現場の指揮をしておるのだ。あれの気配りが負傷者を漏らすと思うか?」

「いや………結菜ならその心配は無い。」

「であろう♪それに全体の采配は詩乃と雫がしておる。」

 

 久遠は祉狼の首を捻って二人に向けた。

 両兵衛は力強く頷いて見せる。

 

「そうだな♪判った♪」

 

 祉狼の激しかった凰羅は炭火の様に静かで力強い物に変わっていた。

 

 

 

 

「でぇええええりゃぁああああああああああああっ!!」

 

 粉雪が掛け声と共に愛槍『紅桔梗』で鬼を袈裟懸けに斬り伏せる。

 

「この山県粉雪を舐めるんじゃねぇんだぜっ!」

 

 粉雪を先頭に赤備えの騎馬隊が駿府の城下町を駆け巡る。

 

「脚を止めんな!武田赤備えの突破力は日の本一だって所を見せてやるんだぜぇえええええっ!」

 

『『『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』

 

 粉雪の檄に副将の貝子以下赤備え隊全員が雄叫びを上げ、馬蹄の音を響かせて鬼を屠って行った。

 その隊列はまるで地上に降りた赤龍の如く。

 咆哮を上げうねる様に町中に身を踊らせ、屠った鬼が塵になって風に舞い上がる様は赤龍の吐く黒煙の様であった。

 

〈粉雪さま。町の北と南に春日さまと兎々さまが取り付きました。森衆も粉雪さまの後詰めに到着。〉

「了解だぜ!小波っ!」

 

 粉雪の上げた声に貝子が驚いた顔をするが、直ぐに小波の句伝無量だと思い出す。

 

「なかなか慣れないものですね。情報戦が得意と自負する武田の者として早く慣れなければいけませんね。」

「あたいだってまだ慣れてないんだぜ。でも、これは頼もしいんだぜ♪

 

 これまでは戦闘中の命令を陣太鼓や鏑矢で知るしか無かったが、他の部隊の情報まで知る事が出来、敵の居場所や戦力まで小波は伝えてくれるのだ。

 鬼の地下からの出現も事前に詩乃からその可能性を伝えられていたので、余裕を持って迎撃する事が出来ているのである。

 それでも与えられた情報を正しく理解出来なければ意味が無い。

 

「おらぁあああああああっ!デコ助!そこどけやぁああああああっ!鬼と一緒に刈っちまうぞっ!!ごらぁっ!!」

 

「なっ!?森の鬼婆ぁ!?」

 

 桐琴が率いる森一家が直ぐ後まで近付いている。

 粉雪のミスは森一家全員が桐琴の様に戦狂いだと思い至らなかった点だ。

 

『『『ひゃっはぁああああああああああああああああああああ!』』』

 

 最後尾が本当に桐琴の攻撃範囲に入りそうになった所で、森一家は三叉路を曲がって行った。

 それは駿府屋形へ向かう最短コースだ。

 

「おいおい!あの鬼婆!自分から鬼の群れのど真ん中に突っ込む気なんだぜ!?」

「薫さまが『森一家には近付かない方がいい』と言っていた意味がわかりました………」

 

 赤備え隊は城下の鬼を減らす為、不規則に町中を駆けていたのが幸いした訳である。

 

 

 

 

「華旉伯元祉狼が妻のひとりにして松平家譜代!榊原歌夜康政!推参なりっ!良人の様に救ってあげる事はできませんが!我が愛槍赤龍独鈷で冥土に送ってあげます!」

 

 歌夜が先頭に立って襲い来る鬼を次々と斬り伏せて行く。

 更に命知らずの松平衆が鬼の勢いに負けず劣らず怒濤の勢いで叩き伏せる。

 

「鬼は女武者を狙ってきます!女武者は囮となって鬼を引き付けなさい!男武者は女武者を守る形で戦いなさいっ!」

 

『『『おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』

 

 ザビエルの付加した習性を逆手に取った囮作戦は詩乃と雫の立てた策である。

 男達は”女性を守るのだ”といつも以上に意気が上がった。

 しかし、当の女武者達はというと。

 

「邪魔だ!男共っ!」

「おみゃあ!あたしの獲物を横取りすんでにゃあよっ!」

「歌夜さまや綾那さま相手に三合は打ち合える様になってから出しゃばりなっ!」

 

 三河武士に男も女も関係無いと不満を隠さず怒鳴りながら鬼を斬り伏せていた。

 

「かぁ〜!三河女は氣が強くてかわいげがにゃあなも!」

「おみゃあらみてぇなんでも、一応はオナゴじゃから守ってやるでよ♪」

「まあ、鬼も歌夜さまに多く寄って行っとるで、べっぴんの方が好きみたいじゃがのお♪」

 

 そんな軽口で言い合う余裕も見せていた。

 しかし、鬼の地中からの出現はまだ止まっておらず、松平衆は次第に包囲され始める。

 

「葵さまと藤さまが見ていらっしゃるわよっ!気張りなさいっ!」

 

 歌夜は檄を飛ばして鼓舞するが数の差は覆し難く、徐々に松平衆の陣形は小さくされて行った。

 

(拙い!このままではジリ貧だわ!)

 

 士気は低下していないが怪我人が出始めていて、擂り潰されるのは時間の問題。

 そう思った時、後方から歓声が上がった。

 

「歌夜さま!お味方が到着!」

 

 後方からの短い報告は松平衆全員の耳に届き力を与えた。

 

「歌夜!よく持ち堪えましたっ!」

 

 その声は戦場の喧騒の中でも凛と響き、暗雲の中に射す一条の光の様だった。

 

「エーリカさんっ!」

 

 鬼の攻撃を捌きつつ、一瞬だけ白馬に乗った女騎士の姿を捉える。

 それは以前に梅と雫に見せて貰った天主教の宗教画に描かれた天使の様であった。

 

「明智衆一番隊、二番隊は右翼!三、四、五番隊は左翼に展開して鬼を押し戻しなさい!六、七、八番隊は負傷者の応急手当をっ!重傷者は大至急救護本隊へ搬送っ!掛かれっ!!」

 

 エーリカの指揮に一糸乱れぬ統率を見せ、明智衆が十字を切ってから散開する。

 

『『『アーメーンッ!!』』』

 

 明智衆は全員が天主教に改宗しており掛け声も独自の物となっていた。

 しかも、エーリカ自身が行った洗礼により、十字を切って唱える事でデウスの加護を得られるのである。

 不死身になるという訳では無いが、鬼の毒に対して抵抗力が上がるので、ゴットヴェイドー隊の攻撃組の中では死亡率が一番低いのだ。

 

「援軍ありがとうございます、エーリカさん♪」

「小波から歌夜の危機だと連絡が有りました。間に合って良かったです♪」

「あ!後続の隊の状況はっ!?」

「大丈夫ですよ♪皆さん落ち着いて対処しています。」

「そうですか♪エーリカさんがこちらの援護に来られるくらいですもの。救護隊の本隊も蒲生衆だけで守れているってことですものね♪」

「それが実は…………」

 

「えっ!?それはどういう…」

 

「い、いえ!決して悪い状況ではありません!その………」

 

 

 

 

 松平衆と明智衆の展開している地点の西、安倍川の東岸に結菜を隊長としたゴットヴェイドー隊の救護本隊が渡河を終えていた。

 

「雷閃胡蝶っ!!」

 

 結菜の掛け声に雷光の蝶の群れが襲い来る鬼達へ向かって飛んで行く。

 

『『『ゲギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』』』

 

 一頭の蝶が停まっただけで、感電した鬼がガクガクと痙攣しながら生きたまま焼かれ、絶命して塵になる前に消炭になってボロボロと崩れ去った。

 結菜の操る雷の蝶は低周波の高電流で出来ているらしい。

 

「お見事です、結菜さま♪葵は久しぶりに拝見しましたが、相変わらず美しい御家流です♪」

「ありがとう、葵♪でも、久々で少し疲れたわね♪」

 

 ニコニコと手を叩く葵と双葉以外、ひよ子や転子、蒲生姉妹などは青ざめていた。

 

「(結菜さまが『鬼蝶』と呼ばれ、雹子さんですら恐れる理由がわかりましたわ………)」

「(ちょっと、ひよぉ!結菜さまがあんなに強いなんて聞いてないよぉ!)」

「(私だって結菜さまの御家流なんて初めてみたよお!不干さんはどうなんですかぁ?)」

「(わ、私も実際に見るのは初めてです………結菜さまが嫁がれて来たときに、母上がこの御家流を見たととても上機嫌に言ってたけど………納得だわ……)」

 

 ゴットヴェイドー隊の将兵は結菜に対して畏怖と敬意を新たにしていたが、当の本人はそんな事に気が付かず指示を飛ばす。

 

「ほらほら!鬼が地面から現れて驚いたのは判るけど、負傷者が出始めているのよっ!松は壬月、竹は麦穂、梅はエーリカの援護に!不干は眞琴と市の援護に向かいなさい!ひよところは雪菜さんと藤を連れて救護用天幕の設営指示!さあ、行った、行った♪」

 

 結菜は最後に笑顔で送り出したのだが雷閃胡蝶で鬼を殲滅して見せた後では、ひよ子達にはその笑顔さえも畏怖を覚えずにいられなかった。

 

『『『は、はいっ!直ちにっ!ゴ、ゴットヴェイドーーーーーーーッ!!』』』

 

 一同は背筋を伸ばして頭を下げた後、弾ける様に散開した。

 

「……………やだ、刺激が強すぎたかしら?」

 

 苦笑いをする結菜を葵と双葉はクスクスと笑っている。

 

「うふふ♪最近は『鬼蝶さま』の噂を聞いていなかったですから、こうなると思ってました♪ですが、双葉さまは流石、見抜いていらっしゃったのですね♪」

「わたくしは漠然とで、見抜いていたのはお姉様です♪お姉様が結菜さんの側なら安全とここに出る事を許して下さったのですから♪」

「一葉さまが納得される…」

 

ドゴォォオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 葵の言葉の途中で駿府屋形の方角から轟音が聞こえ、城下町の上空を眩い光が幾つも乱舞する光景と家屋が崩壊していく姿が見えた。

 

「「「あれは…………」」」

 

 明らかに一葉が三千世界を使っている光景だ。

 

「一葉さまは祉狼や久遠と本陣に居る筈だったんじゃ………」

「それは……………お姉様ですから…………」

「そう……………ですね………」

 

 三人は顔を見合わせて深い溜息を吐く。。

 それを後ろで控えている悠季が思案顔で眺めていた。

 

(こちらで公方様がこの調子では、東軍の桐琴殿もきっと聖刀さまの手綱を引き千切って突出していることでしょうねえ………まあ、それで駿府屋形に居る敵の首魁を引っ張り出す事ができるでしょう……………果たして鬼が出るか邪が出るか………)

 

 視線を葵達から駿府屋形の方向へ移し、悠季はこれから何が起こるのかと不安げに瞼を伏せる。

 

 

 

 

「桐琴さん!駿府屋形の堀が見えました!あの角を右に曲がれば大手門ですっ!」

「おうっ!各務!一番乗りじゃ!野郎共!鬼の放つ矢なんぞに当たるんじゃねぇぞっ!」

 

『『『ヒャッハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』』』

 

 森一家は周囲の家屋の中や屋根の上から襲い掛かる鬼を蹴散らし水堀に辿り着く。

 すると駿府屋形の塀から桐琴の言う通り矢が飛んで来た。

 矢狭間は勿論、塀の上にも鬼が鈴生りに並び矢を射掛け、雨霰(あめあられ)と矢が飛んで来るが、その矢は森一家を襲おうとしていた鬼にまで容赦無く降り注いだ。

 桐琴と雹子を始め、森一家の者は鬼の死体を盾にして矢から身を守り大手門へと駆けて行く。

 

「所詮は鬼か。馬鹿丸出しじゃ。」

「この分なら沙綾殿が言っていた通り、敵の矢は直ぐに尽きそうですね。」

 

 雹子の言う沙綾の言とは、鬼には矢を買い足す事は勿論、あの指では作って補充する事も出来ないだろうという至極尤もな話だった。

 刀や槍を持つ鬼も居るが、手入れがされていないのは戦場で生きる者誰が見ても明らかであり、手入れのされていない弓から放たれる矢なぞ、森一家にとっては群がる蚊ぐらいにしか感じていない。

 

「鬼が石合戦を始めない内に大手門へ取り付いてしまいましょう!」

 

 雹子はむしろ鬼が石を投げて来る方を恐れていた。

 鬼の膂力で石を投げられれば鉄砲どころか、大筒と変わらない威力を発揮するに違いない。

 しかも何百何千という鬼が投げて来るのだ。

 一刀ならばその光景を機関砲と表現する様な威力を見せるだろう。

 だから雹子は鬼が気付く前に、肉弾戦を仕掛けてくる距離まで近付くべきだと考えるのだ。

 

「早くも鬼の群れを抜けてここまで来たか。」

 

 その声は大手門の上から聞こえ、桐琴と雹子が顔を上げればそこには壊れた甲冑を身に纏った”モノ”が腕を胸の前で組んで睥睨していた。

 

「おうっ!来てやったぞっ!日の本一の悪侍!鬼より強ぇ『鬼三左』!美濃の森三左衛門たあワシの事よっ!」

 

「鬼より強いだとぉ。ほざきよるわっ!ならば我を倒してみるか!鬼となった、この武田信虎をなあっ!!」

 

 雹子はすかさず小波に武田信虎発見と鬼化を伝えた。

 

 

 

 

 信虎発見の知らせは直ちに小波から祉狼へ伝えられた。

 

「よしっ!貂蝉!卑弥呼!往診だっ!!」

「美人看護婦1号ぅん♪準備はオッケ〜♪いつでも出られるわよぉ〜ん♪」

「わたしこそが美人看護婦1号であるっ!往くぞっ!祉狼ちゃんっ!」

 

 祉狼が床几から思い切り立ち上がると、その横で女の子座りをしていた貂蝉と卑弥呼も立ち上がり、ポージングでアピールを始める。

 正直、とても暑苦しい絵面だ。

 しかし、久遠の目には頼もしく映っているらしく、爽やかな笑顔を三人に向ける。

 

「祉狼!思う存分やってこい♪貂蝉!卑弥呼!頼んだぞ!」

 

「ああっ!行ってくる!久遠!」

「むぅわっかせて!ちょだ〜い♪」

「わたし達が無事に武田信虎の所へ届けようっ!」

 

 そう言うと三人はクラウチングスタイルで力を溜める。

 

「「「レッツラッ!ゴーーーーーーッ!!」」」

 

 三人の掛け声はドップラー効果を伴いながら、弾丸の様に駿府屋形へ向かって走って行った。

 

 久遠は笑顔のまま見送ったが、詩乃はと溜息交じりに、雫は苦笑いで三人の走り去った跡を眺めている。

 

「清州から稲葉山に向かったお三方を思い出します…………」

「やっぱりあの時もこんな感じだったんですか…………」

 

 

 

 

 一方、東軍の本陣でも信虎発見の報を聞き立ち上がる者が居た。

 

「お母さんっ!」

 

 武田光璃晴信である。

 

「光璃!」

 

 それを美空が呼び止める。

 光璃は人前では絶対に見せた事の無い焦りの顔をしていたが、直ぐにいつものポーカーフェイスを取り戻し美空に振り返った。

 

「…………大丈夫。光璃は祉狼に任せるって言った。だから…」

「馬鹿。」

「え………」

 

 美空が真面目な顔をしているので光璃は思わず聞き返す。

 

「行きたいんでしょ!信虎を助けに!会いたいんでしょ!母親に!祉狼が信虎を助けてくれると信じているなら娘のあんたが治った母親を迎えに行かないでどうするのっ!私なんかっ………」

 

 美空が激昂したかと思ったら下を向いて黙ってしまった。

 光璃は思い出す。

 美空の母は病に倒れ他界した事を。

 もしその時に祉狼が居れば助かったのではないか。

 いや、間違い無く美空の母、長尾為景は今も健在だった筈だ。

 

「行っても…………いいの?」

「だから行きなさいって言ってるでしょっ!背中は私ら越後衆が守ってあげるわよっ!」

 

 再び激昂する美空に光璃は笑顔を見せた。

 

「うん。ありがとう、美空♪」

 

「べ、別にあんたの為じゃないわよ!し、祉狼はその方が喜ぶと思ったからよっ!」

 

 真っ赤顔をして言う美空を見て、光璃はクスリと笑う。

 

「これが本家のつんでれ。流石。」

「バカなこと言ってないでさっさと行きなさいってばっ!」

「うん♪」

 

 光璃は落ち着きを完全に取り戻し、軍配団扇を掲げて前に出た。

 

「これより武田は全軍を以て祉狼の援護に向かうっ!」

 

 

 

 

 信虎は大手門の上から飛び、堀のに架かる橋に居る桐琴の前に降り立つ。

 その手には長大な斬馬刀が握られ、片手で易々と扱う所から鬼の膂力をしっかりと持ち合わせているのを桐琴達は確認した。

 

「紛い物の鬼に真実(まこと)の鬼の力を思い知らせてやるわ!」

 

 言うと信虎は斬馬刀を振りかぶり、力任せに振り下ろす。

 

「フンッ!」

 

 桐琴が蜻蛉止まらずを振ると、キンと金属同士が当たる音が聞こえた。

 意外にも軽い音だったのは蜻蛉止まらずが斬馬刀を斬ったからだ。

 手に残った斬馬刀は太刀程の長さになり、信虎はそれを見てニヤリと嗤う。

 

「ほほう♪大法螺吹きのうつけかと思ったが、言うだけはある。」

「そんななまくらでこのワシをどうこう出来ると思ってたのか!舐めんじゃねぇぞ!こるぁああっ!!」

 

 桐琴が不機嫌を顕わにしても信虎は嗤うのを止めなかった。

 

「気に入った。貴様も我の物としようぞ。」

「あ゙あっ!?」

 

「我の鬼子を孕ませてやろうという意味よ!」

 

 桐琴の後ろで聞いていた雹子は躑躅ヶ崎館での評定で眞琴の語った推測が当たったと悟る。

 そして祉狼にこの信虎を人に戻せるのかと心配になった。

 別に信虎を心配している訳ではなく、失敗した時に祉狼が傷付く事を恐れたのだ。

 

「かっ!やはり牡の鬼になっておったか!その割に乳は付いたままか!」

「乳どころか陰戸も残っておるわ。我が鬼子を孕む事もできるが、孕ませる方が面白い。男が女を犯す気持ちがよう理解できたわ!泣き叫ぶ女を蹂躙する悦び!実に愉快ぞ!」

 

 桐琴の凰羅に変化が生じる。

 

「信虎ぁ………貴様もガキを五人産んだ身だろうが……」

「ああ、産んだなぁ。産んだ母を捨てる様な親不孝共をっ!だから今度は我があの親不孝共を我が孕ませ!鬼子を産ませてやるのよっ!これで奴らも親の苦労というの思い知るだろうさ!はぁああああっはっはっはっはっ!」

 

ギリッ

 

「…………てめぇは…………ブチのめすっ!!!」

 

 

 

 

「薫!あの母が外道に堕ちたとあらば、祉狼義兄(あに)上が到着する前にどちらかが命を落としかねないでやがるっ!」

「ゆ、夕霧ちゃんっ!先に行ってっ!夕霧ちゃんと昴ちゃんならっ!」

 

 スバル隊と聖刀の率いる松永衆逍遥軒衆連合隊は遊軍として配置されていた。

 元から信虎の居場所が判り次第祉狼の為の血路を開く予定だったので駿府屋形近くの鬼を相手していたのだが、周りに出現した鬼の数が多い上に桐琴が森一家を率いて突出してしまったので隊としての戦力は半減している。

 そんな中で夕霧と薫は光璃と同じ想いで突出しようとしていた。

 

「あの母がそう簡単に死ぬかっての。」

 

 小夜叉は余裕の笑みを浮かべて人間無骨を振り回しながらツッコミを入れる。

 

「でも、桐琴さんが信虎さんを殺しちゃう可能性が有るわよ。」

 

 昴に言われて三秒間呆けた顔をした小夜叉が「ああ」と頷いた。

 その間も人間無骨で鬼の頸を刈る手は止まっていない。

 

「殺しちまったら拙いんだったな♪よし!そんじゃあコイツの力を借りるか。」

 

 そう言って小夜叉は腰に下げた瓢箪を叩いた。

 

「小夜叉ちゃん!それって…」

「出てこいやぁあ!百段っ!!」

 

 昴が止める間も無く、小夜叉は瓢箪に貼られた封印の御札を剥がす。

 すると突然瓢箪の口から激しい馬の(いなな)きが聞こえ、靄の様な物が吹き出し、その靄が見る見る内に甲斐黒の馬の姿になっていった。

 

「夕霧なら乗れんだろ♪あ、油断すると頭食われるから気を付けろよ♪」

 

 夕霧と薫は呆然と現れた馬、百段を見ていた。

 

「………………小夜叉…………これは何でやがるか………」

「馬に決まってんだろ!てめぇはこれが犬にでも見えんのか!?」

「いや………見た目は確かに馬でやがるが………」

「四の五の言ってんじゃねえっ!昴!夕霧乗っけて先に行けっ!父も薫を連れて行ってくれ!オレ達も直ぐに追い付くからよ♪」

 

 小夜叉がニカっと笑うと昴は腹を決めて百段の鐙を履き、その背を跨ぐ。

 

「ほら、夕霧ちゃん!急ぐわよ!」

 

 昴の差し出した手を見て、夕霧も今は大手門に向かう事を優先すべきと意を決する。

 

「はいでやがる、昴殿!頼むでやがるよ、百段♪」

 

 夕霧も百段の背を跨ぎ、昴の背中にしっかりとしがみ付いた。

 

「ブヒヒヒヒィイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!」

 

 百段が大きく嘶き地を蹴って鬼の群れの中に飛び込んだ。

 鬼を蹄で踏み潰し、パチキで弾き飛ばし、襲い掛かる刀剣の様な爪を噛んで受け止め鬼の腕を引き千切り突き進む。

 

「薫ちゃん!行くよ!」

「は、はい!聖刀お兄ちゃん!」

 

 聖刀と薫も馬を駆って百段の後を追う。

 更にその後ろをスバル隊達が追い駆け鬼を駆逐して行った。

 

「小夜叉ぁ………あんなのが居るならさっさと出せよなぁ………」

 

 和奏が小夜叉の隣で槍を振るいながらぼやく。

 

「まあ、お前のことだからどうせ『自分の獲物が減る』って理由で出さなかったんだろうけど。」

「へっ♪判ってんじゃねぇか♪」

 

 小夜叉は笑って大きく頷いた。

 

 

 

 

「ふ、我をぶちのめすだと?やれるものなら…」

 

バキィッ!

 

 桐琴の右拳が信虎の左顔面を殴りつけた。

 

「これ以上くだらねぇ御託を並べんじゃねぇ………」

 

 怒りの形相をした桐琴が連続で拳を繰り出す。

 信虎の顔面と胴を渾身の力で殴る。

 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る!

 信虎の着けた面が砕け散り、胴鎧も割れて、直に拳が叩き込まれる。

 

「おらぁああああああああああああああああああああっ!!」

 

ガシィッ!

 

「どうした?もう終わりか?」

 

 右ストレートを顔面で受け止めた信虎が嗤っていた。

 

「では、次は我の番だな♪」

 

ドンッ!!

 

 重い拳が桐琴の腹に突き刺さった。

 

「げふっ!」

 

「貴様の様に活きの良い女も面白い。簡単に根を上げるなよ♪」

 

 動きの止まった桐琴を、今度は信虎が殴りだした。

 

「はぁああああっはっはっはっはっは♪良いぞ!どれだけ殴られようと瞳の炎が消えぬ!そうだ!その目で我を睨みながら蹂躙されよ!」

 

 殴られ続ける桐琴は信虎が言う通り猛る瞳で睨み返していた。

 信虎の動きを読み、起死回生の一撃を放つ為に。

 そして信虎が大きく右腕を振りかぶった時、左腕をガードに上げて右の拳を強く握り締める。

 

ボキィイッ!!

 

 桐琴は左腕を叩き折られたが、信虎の顔面をカウンターで捉えた。

 が、

 

「今のは少しだけ効いたぞ。だが、所詮人の拳よ。鬼である我を倒すには弱いなあ♪」

 

 嗤う信虎が桐琴の腕を掴んで組み伏せる。

 

「ぐぅっ!」

 

 折れた腕の痛みは奥歯を噛んで飲み込むが、動きは完全に封じられてしまった。

 

「くっくっく。今から貴様を犯してやる。貴様を慕う者達の目の前で泣き叫びながら我の鬼子を孕むが良いわ!」

「はっ………悪いがワシの胎は……天人の子の予約が入っておるから………それは聴けんなぁ…」

「我の摩羅を味わえば、そんな物忘れてしまおうさ!」

 

 桐琴の着物を引き千切ろうと信虎が手を掛けた。

 

「母上っ!そこまででやがるっ!」

「お母さんっ!やめてえっ!正気にもどってっ!!」

 

 到着した夕霧と薫が橋の袂で叫んだ。

 下手に近寄れば桐琴を殺されると思い踏み止まっている。

 その後ろには聖刀と昴の姿も有った。

 

「ほう♪次郎に孫六ではないか♪この女の次はお前達を可愛がってやろう♪そこでよう見ておるが良い♪」

 

「それは困るなあ♪桐琴も薫ちゃんも僕のお嫁さんなんですよ、お義母さん♪」

「初めまして。夕霧ちゃんをお嫁にもらった孟興子度と申します。」

 

「嫁だと………我は認めんぞっ!」

 

「光璃が認めたよ…………お母さん。」

 

 聖刀と昴の後ろで足軽達が左右に割れ、その中央を光璃が軍配団扇を手に現れた。

 気が付けば駿府屋形は武田軍が包囲しており、鬼はその包囲網の外で連合軍が更に包囲殲滅戦を繰り広げている。

 

「太郎かあ!よくぞのこのこと我の前に顔を出せたな!」

 

「お母さん………昔にもどって………民のことを考え……民に慕われていた頃のお母さんに!」

 

「まあ良いわ。わざわざ探しに往く手間が省けた。今からたっぷりと仕置きをしてやるわ!」

 

 完全に噛み合わない母子の会話。

 それが今の光璃と信虎の関係を如実に表していた。

 

「出でよ!白川!鬼子共!獲物が集まったぞ!その食欲と性欲を思う存分満たすが良いっ!」

 

 信虎の号令で駿府屋形の塀を飛び越え数十の巨体が包囲している武田軍の中に降り立った。

 

「ききぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

『『『ギャシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』』』

 

「ぎゃぁああああっ!」

「こいつすばしっこいぞ!うぎゃあっ!」

「ひぃいいいいっ!」

 

 今まで姿を現さなかった鬼子の襲撃に武田軍の足軽達はその強さに浮き足立つ。

 その中で一体だけ鬼子とは毛色の違う、より獣じみた鬼が居た。

 

「白川っ!?あの鬼が白川でやがるかっ!?」

「夕霧ちゃん。白川ってどちらさん?」

「白川は母上の飼っていたとんでもない猿でやがる!」

「お母さん非道いよ!白川まで鬼にしちゃうなんてっ!」

 

 薫は白川を目で追いながら憤慨する。

 その猿鬼は女武者ばかりを襲い、鎧と衣服を剥ぎ取っては嬉しそうにはしゃぎ回っていた。

 

「キャァアアアアア!」

「いやぁあああああああ!」

「こっち来んな!スケベ猿っ!」

 

「鬼になった所為であんな風に…」

「違うでやがるよ、昴どの。白川は前から女の尻や胸を触り、下着を剥ぎ取るとんでもない猿でやがりました。」

「……………………………そ、そうなんだ…………」

 

 武田四天王は恐慌に陥りそうな兵を纏める為、声を張り上げ檄を飛ばす。

 

「落ち着けっ!良く見て包囲しろっ!」

「鬼の動きがバラバラなんだぜっ!赤備え!仲間を守るんだぜっ!」

「戦法は今まれと同じれ対処れきるのらっ!落ち着くのらっ!」

「先ずは守りを固めなさい!付け入る隙が必ず有ります!」

 

 春日、粉雪、兎々、心が奔走する中、白川は嘲笑いながら被害者を増やして行く。

 

「ウキキキキキ♪」

 

 その白川の前に立ちはだかる姿が現れた。

 

「ブルルルルッ!」

 

 小夜叉の凶馬、百段が鋭い眼光と鬼よりも威圧的な凰羅を放っている。

 

「ウキィイイイイイイイッ!」

「フンッ!!」

 

 白川の威嚇を鼻息ひとつであしらい、前足で踏みつける。

 白川も素早く躱して百段に掴み掛かる。

 しかし、今度は百段が軽やかに躱して後ろ脚の蹴りを白川の顔面に叩き込んだ。

 金山城の石段を百段飛ばしに駆け上がる所から付いた名だ。

 その威力をまともに喰らい、骨が砕け肉が潰れる音と共に白川の躯が宙に舞う。

 更に落ちて来た所にもう一度後ろ蹴りという空中コンボを決めて、白川を堀と塀の向こうの駿府屋形の中へ打ち込んだ。

 

「すげぇ………」

「卑弥呼様と貂蝉様の馬に続いてこんな神馬を見られるとは………」

「我らには神仏の加護が在るぞ!奮え!武田の荒武者よっ!」

 

 武田軍の足軽達は大いに沸き立ち、組頭達もここぞとばかりに檄を飛ばす。

 

「使えん奴よ。鬼となっても所詮は猿か。」

 

 信虎は白川を目で追っていたが、その間も桐琴を押さえ付け隙も見せなかった。

 

「ほれ、どうした?仮面の者よ。妻を助けに来んのか。」

 

 ニヤニヤと嗤って聖刀を挑発する。

 

「そうだね。僕としては直ぐにでも助け出したいんだけど、奥さんが身を挺して行っている策を台無しにしたら後で機嫌を取るのが大変だしね。」

 

「策ぅ?面白い。どんな策を弄しているか見せて貰おう。尤も、どの様な策でも力でねじ伏せてやるがなっ!」

 

「大丈夫。もう着いたから♪」

 

 聖刀の口元が爽やかな笑みを見せたと同時にその声が聞こえて来た。

 

 

 

 

「うっふぅううううううぅうぅうぅううううううん!!」

「ぬっふぅぅうぅうぅううううううううぅうぅうぅううんっ!!」

 

 貂蝉と卑弥呼の声が聞こえると、光璃の時以上に人垣が割れた。

 まあ、こちらの場合は単に弾き飛ばされるのを避ける為だが。

 しかし、貂蝉と卑弥呼はそんなモブの思惑を裏切り、城下町の家屋を突き破って一直線にやって来た。

 

「我ら、漢女道はっ!」

「可憐な風よんっ!」

「全身!」

「恵烈!」

「天覇!」

「胸乱!」

 

「「見よっ!漢女はっ!!赤く萌ているううぅぅううううううううううううううううううっ!!」」

 

 漢女に耐性のある極々僅かの数人以外、二大漢女の登場パフォーマンスに凍りつく。

 それは鬼子ですら同様であった。

 

「な…………なんだこの化け物共は…………」

 

 信虎も貂蝉と卑弥呼のポージングに気圧されている。

 

「にょわぁあああんですってぇええええええええっ!確かにわたしはご主人さまに黄色くって可愛くって電気をビリビリ出すようなお名前をつけていただいちゃったけどぉ!“ば”の部分を“ぽ”に言い換えなきゃダメでしょうがぁああぁああぁぁああっ!!」

 

 いや、言い換えたとしても貂蝉を見て黄色い電気鼠を想像する者は居ないだろう。

 

「まあ待て、貂蝉。武田信虎は鬼の毒に侵され美しい物を正しく判断出来ぬのだ。」

「んまぁ!それじゃあしょうがないわねぇ………」

 

 凍りついた者達は全員が同じツッコミを心の中で思ったが、誰ひとり口に出す者は居なかった。

 

「では、祉狼ちゃん!」

「要救助者一名、発見よ~~~ん♪」

 

「応っ!!」

 

 漢女二人の声に応えて、祉狼が城下町の瓦礫を飛び越え、太陽を背に信虎の前に降り立った。

 

「往診ですっ!光璃の為にも全力で治療するぞっ!信虎さん!いや!お義母さんっ!!」

 

「…やっと来おったか………祉狼♪」

 

 返事をしたのは信虎では無く桐琴だった。

 

「桐琴さん!?何で…いや!それより酷い怪我じゃないか!」

「ワシの怪我は自業自得よ♪時間稼ぎのつもりが信虎のほざく事につい頭に血が上ってしまったわ♪」

 

「はっ!この孺子を待つのが貴様の策か!さっき言った通り力でねじ伏せてやるわ!」

 

 信虎がまたも嗤う。

 しかし、

 

「いつまでも乗っかってんじゃねえぞ!このクソアマがっ!」

 

 桐琴が無造作に立ち上がって信虎を押し退けた。

 

「な、なにい!………なんだっ!?力が入らぬ!?それに身体が縮んで………」

 

 信虎の身体が桐琴と闘っていた時よりも、明らかに小さくなっていた。

 いや、正確には漢女を見た時に、その姿は縮んだのだ。

 それは信虎だけでは無く、鬼子達も同様だった。

 

「どうれ、私達美人看護婦1号2号が患者を押さえておくから、祉狼ちゃんは治療を始めるがよい♪」

「大丈夫よ~ん。ちょっとチクッとするだけで、スグに終わっちゃうんだからぁ~♪」

 

「よ、寄るな!寄るなぁあああああああっ!!」

 

 漢女二人が近付く程、信虎の身体が収縮して行く。

 

「こ~んな美人看護婦さんを前にしてモリモリ滾るならわかるけど、そんなに縮こまっちゃうだなんて失礼じゃなぁい?」

「うむ、これは一刻も早く治療をせねば!」

 

 貂蝉と卑弥呼は上手く身体を動かせなくなっている信虎をしっかりと捕まえる。

 実は貂蝉の言葉はある意味この現象の正解を言い当てていた。

 漢女を前にして信虎を始め鬼子が縮んだのは、ザビエルが鬼の性欲を強化した副作用だ。

 簡単に言うと『萎えた』のである。

 普通の男は視覚で簡単に滾りも萎えもするという事を、元が女の信虎は頭では判っているが自分の身に起きていると実感出来ずにいるのだ。

 

「貂蝉。卑弥呼。鍼治療はチクリとも痛みを感じさせないぞ。それに今回は…」

「あ~ら♪そうだったわねぇ~ん♪」

「うむ♪遂に修行の成果を見せるのであったな♪」

「ああ!最後にもう一度確認する!この技を使う事を許可してくれるか!?」

 

「「ファイナル・コンファメイション!承認っ!!」」

 

 華佗と二刃の代わりである貂蝉と卑弥呼の許しを得て、祉狼の瞳は燃え上がる。

 三人が話し合っている間、信虎は何とか逃げようとしていたが、萎えて力の入らない身体では漢女に対抗出来る筈も無かった。

 

「では行くぞっ!!」

 

 祉狼の凰羅が全身から噴き上がる!

 

「はぁああああああああああああああああああああああああっ!!

我が拳は、我が魂の一撃なり!拳魂一擲!全力全快!必察必治癒!病魔覆滅っ!!

鬼の毒が溜まった凝りを!俺が指圧で温め治す!」

 

 祉狼の両拳に氣が集まり今まで以上の輝きを放った!

 

「俺達の全ての勇気!この指先に全てを賭けるっ!!

もっと輝けぇぇえええええええええええええええええええええっ!!

 

 

凝溜治温(コルジオン)按摩(アンマ)ァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 目にも止まらぬ指圧の連撃で信虎の凝りを解し、身体に溜まった毒素を排出しやすくして行く!

 

「母の心を取り戻しっ!人にっ!なれぇえええええええええええええええええええ!!!」

 

 七つのチャクラへの七連擊を加え、氣の循環を活性化させる!

 

「ぐぁあああああああああああ!おごっ!げぇぼぉおおおおおお!」

 

 信虎は口や鼻は勿論、全身の穴という穴から毒素を排出し始めた。

 

「あ、あれで母上は元に戻るでやがるか?」

「大丈夫!祉狼は医者だから!」

 

 心配そうに見つめる夕霧に、昴は説明になっていない事を力強く答えた。

 

「ね、ねえ………あのままだとお母さん、息が詰まっちゃうんじゃ………」

「大丈夫だよ、薫ちゃん♪ほら、よく見てごらん。信虎さんの肌が♪」

「あっ!浅黒かった肌が剥がれてスゴく綺麗に♪」

 

 信虎の肌がひび割れ、ボロボロと剥がれ落ちて塵になり、その下から美しく張りの有る皮膚が現れて行く。

 髪も抜けるそばから新たな黒髪が生えて艶やかな輝きを放ち始めていた。

 

ボトッ

 

 服の裾から落ちたのは、この鬼の毒の象徴である男根だった。

 鬼の歪な男根はあっと言う間に塵となって消え去った。

 

「げほっ!げほっ!げほっ!」

 

 咳と共に残った鬼の毒素を吐き出すと、信虎は荒い息をしているものの、その全身から生気が溢れだす。

 

「成功だっ♪光璃♪夕霧♪薫♪お義母さんを支えてあげてくれ♪」

 

「お母さんっ!」「母上っ!」「お母さんっ!」

 

 三姉妹が駆け寄る。

 光璃が信虎の背中を支えて顔を覗き込んだ。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…………光璃…夕霧…薫………」

 

 三姉妹は息を呑んで母が正気になったのか、期待と不安の眼差しで見守っている。

 

 

「いままですまんかった…………われは……わるい母であった………」

 

 

 その顔に邪気は無く、心からの後悔が現れていた。

 

「「お母さんっ♪」」「母上っ♪」

 

 三姉妹は涙を流して母親に抱き着く。

 

「すまなかった………本当に済まなかったの…………」

 

 信虎も涙を流して三人の娘を抱き返す。

 その涙は鬼の毒素とは違い、清流の様であった。

 

 

 

 

 今は武田母娘に声を掛けるのは無粋だと、祉狼は桐琴に振り向いた。

 

「桐琴さん、待たせた。直ぐに治療しよう!」

「ワシは後で構わん。まだ生き残っている鬼子を人に戻すのと、この駿府屋形の中に囚われて居る女達を救ってやれ。」

 

 桐琴は折れた腕を抱え、顎で鬼子達と大手門を指した。

 その顔は長久手で力丸を助けた時と同じだ。

 

「だったら尚更桐琴さんを治療しないとな。鬼子相手に手加減して戦える人は少ないんだ♪」

「はっ♪こき使いよる♪判った、やってやろう♪」

 

 祉狼は桐琴の折れた腕にそっと手を添える。

 

「はぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

「お?なんじゃ、もう痛みが引いたぞ♪」

 

 気合と共に氣を送り込んだだけで骨折と腫れを治してしまった。

 そこへ昴がスバル隊を引き連れて声を掛ける。

 

「祉狼、桐琴さん。外の鬼子は任せるわね。私達は鞠ちゃんの為に駿府屋形の掃除を始めるから!」

「判った!気を付けろよ、昴!」

「ありがと♪あんたは早く鬼子を人に戻してこっちに合流しなさい。患者さんが溢れてるんだからね!」

 

「応っ!任せろっ!!」

 

 患者と聞くと祉狼の闘志が震え立つ。

 斯して鬼子の治療と駿府屋形の掃除が始まり、十分後には残っていた鬼子二十を人に戻し、一時間後には駿府屋形に集められていた鬼を全て倒し、更に一時間後には捕らえられていた女性達を救出。

 女性達の殆どが鬼子を孕んでいたが、祉狼はその全てを治療、浄化したのだった。

 

 

 そして祉狼、昴、聖刀は駿府屋形の一室に信虎と光璃、夕霧、薫が集まり、改めて話をする場を設けた。

 

「祉狼殿、この度は罪深き我を止めて頂き、感謝の言葉もございませぬ。」

「俺は医者だ。病気になった人を救うのが使命だし、信虎さんは光璃の母親だ。奥さんの悩みを解消したかったというのもある。」

「光璃の悩み…………」

 

 信虎は祉狼の横に座る光璃の顔を見る。

 

「光璃…………お前は優しすぎる。本当なら狂った我を義元公に預けなどせず、甲斐の為にならずと斬り捨てるべきだった。その結果がこの有様よ。」

「でも!………」

「今のは武田家元当主の言葉………母としては我を見捨てずにいてくれた事を嬉しく思っている。夕霧と薫もよく光璃を支えた。姉妹の仲が良く、母はとても嬉しいぞ♪」

「母上……」

「お母さん……」

 

 夕霧と薫に微笑み掛けた後、昴と聖刀に体を向けて平身低頭する。

 

「この子達の事を宜しくお頼み申す。母親として碌なことをしてやれませんでしたが、娘の幸せを願う心に偽りはございませぬ。どうか、末永く可愛がって下され。」

「夕霧ちゃんは必ず幸せにするとお約束します、お義母様。ですからお顔をお上げください。」

「僕は薫ちゃんを自分の国にいずれ連れて行きます。それまでの間に薫ちゃんとの楽しい思い出を沢山作って下さい、お義母さん♪」

 

 信虎が顔を上げると、その目からは涙が溢れていた。

 

「本当に………良き良人殿に巡り遭うたの………光璃、夕霧、薫………」

 

 三姉妹は嬉しそうに、そして力強く頷く。

 祉狼もこの光景が見れた事に達成感を感じていた。

 

「ですが、聖刀殿。我は思い出を薫に与えてやる事は出来ませぬ。」

 

「え………お母さん………」

 

「薫…………我は今川家に………鞠殿にこの命を以てしても償いきれぬ事をしでかした。腹を掻っ捌いて武士として死ぬ事すらおこがましい………罪人として張り付けや鋸引きにされるべきなのだ。」

 

 

「それは駄目だっ!俺が信虎さんを救ったのは死なせる為じゃないっ!」

 

 

 祉狼の剣幕は夕霧と薫が驚いて思わず後退りする程だった。

 しかし、信虎本人は動じていない。

 

「祉狼殿のお言葉は誠に有難く、またそれ故、誠に申し訳ない。我が罪を償わねばならぬのは鞠殿だけでは無く、我が断絶させた家の者達もおる。我が生きていては光璃が武田を纏めるのに支障が出よう。」

 

「それは………」

 

 祉狼は言葉に詰まった。

 鞠とは信虎が謝れば許すという話をしているが、武田家の内情については何となくしか光璃から聞いていない。

 だからと言って折れる祉狼ではなかった。

 

「それは俺も一緒に謝ろう!生きて償う方法は絶対に有る!いや!死んで侘びるよりも辛い日々となるかも知れないが、今の信虎さんの覚悟が有るなら!」

 

 信虎はその真っ直ぐな瞳を見て、胸に熱い物が込み上げて来る。

 だからこそ、信虎は祉狼に己の覚悟を曲げてはならないと、祉狼に人の生き様死に様を見せねばならないと感じた。

 

「祉狼殿。我の処遇を決めて良いのは鞠殿であり、我の犯した過ちを被った者だ。我は勿論、祉狼殿にもそれを覆す事は出来ぬ!」

 

 

「鞠は生きて罪を償ってほしいの、信虎おばさん。」

 

 

 声と同時に襖が開き鞠がその小さな姿を現した。

 

「…………鞠…殿………」

 

「先代様。わたしも先代様には生きて罪を償っていただきたいです。」

 

「………工藤虎豊の娘か……」

 

 鞠の後から姿を見せたのは心だった。

 

「我らも居りまする、先代様。」

 

 春日と粉雪、そして兎々もその後ろに控えている。

 

教来石信保(きょうらいしのぶやす)の娘と飯富虎昌(おぶとらまさ)の妹であるな………」

 

「拙は馬場の名跡を、粉雪は山県を、心は内藤を頂いておりまする。」

 

 三家は全て武田の譜代、重臣でありながら信虎が断絶させた家である。

 

「その上で、先代様には心の言った通り、生きて罪を償って頂くと申し上げる!」

 

「お主ら………それで馬場、山県、内藤の家中が納得すると思うのか?」

「拙ら三人は祉狼さまを良人に迎える所存。良人の意を叶えるは女の誇りにござる♪」

 

 信虎は春日、粉雪、心の瞳に祉狼への信頼を見た。

 かつての自分もこの様な目で今は亡き良人を見ていた事を思い出す。

 長女と三女を病で亡くし、薫を産んで間も無く良人も同じ病にかかり他界した。

 その悲しみを忘れる様に戦へ没頭していく。

 

(思えばあの人を失った時に我の心は壊れたのであろう………悲しみと一緒にあの人への想いまで忘れてしまうとは…………本当に…………我は愚か者だ…………)

 

「うっ………うくっ………ううぅ………」

 

「せ、先代様!?」

 

 信虎が嗚咽と共に涙を流し泣き出した。

 春日達は大手門で信虎が光璃達と抱き合って涙を流す姿にも驚いたが、今の信虎は何とも弱々しく、『甲斐の虎』と恐れられた人のこの様な姿など想像すらした事が無い。

 

「…すまぬ……すまぬ…………うぅ…竹松……犬千代………すまぬ……わが君…………」

 

 背中を丸めて啜り泣く。

 そのあまりに小さく見える姿に春日達は唖然となり、祉狼の治癒術に改めて畏敬を覚えた。

 

 

 

 

 啜り泣く信虎の背を光璃が労り優しく摩る。

 鞠はその光景を優しげな眼差しで見ていた。

 その時、突然邪悪な気配を感じ、一挙動で庭に面した襖を開け放つ。

 祉狼、聖刀、昴も共に、隣の部屋で控えていた貂蝉と卑弥呼も同時に飛び出した。

 

「はっはっはっはっはっは♪御機嫌よう♪お久しぶりですねぇ♪」

 

 修道士の服を着て眼鏡を掛けた長髪の男が庭の宙に浮いていた。

 

『『『ザビエルッ!』』』

 

 異口同音に怒りの籠もった声がその名を呼んだ。

 

ズドンッ!

 

 間髪入れず重い発砲音がする。

 屋形の屋根に陣取っていた烏が躊躇無く狙撃したのだ。

 しかし、烏は次の瞬間驚愕に目を見開く事となった。

 

「おやおや♪いきなり鉛玉でご挨拶とは物騒ですね♪ですが残念。これは私が妖術で映し出した幻影に過ぎません♪ですから攻撃しても無駄ですよ♪」

 

「貴様ぁあああああああああっ!!」

 

 怒りに燃えるその声は祉狼達の背後、部屋の中から響いた。

 

「ざ・び・え・るぅううううううううっ!貴様は絶対に許さんっ!!我を誑かし!我を騙し!鬼にしただけでは飽き足らず!我が娘を我に犯させようなどとしおってっ!!貴様は絶対に我自らが八つ裂きにしてくれるわああああっ!!」

 

 信虎だ。

 つい先程まで声を上げて泣いていた人物とは思えぬ怒りの形相。

 小さく見えていた姿は鬼化していた時よりも鬼気迫る怒りの凰羅に大きく見えた。

 

「ほほう。華旉伯元くんはかなり腕を上げたみたいですね♪あの状態の信虎をここまで浄化しただけでは無く、脳腫瘍まで綺麗に治している♪いや、お見事ですよ♪」

 

 ザビエルの幻影はわざとらしい拍手をして嗤う。

 そこに銃声と信虎の怒声を聞き付けた武将達が廊下や建物を廻って庭に集まり出した。

 

「ああ、それから、今川氏真殿。この度は駿府屋形を見事に取り返され、おめでとう御座います♪心よりお祝い申し上げますよ♪」

 

 元凶が言う余りにも露骨な挑発に和奏や綾那、梅や粉雪などが幻と判っていても斬り掛かろうと飛び出す。

 

 

「三昧耶曼荼羅っっ!!!」

 

 

 庭に五芒星が輝きザビエルの幻と禍々しい気配を一瞬で吹き飛ばす。

 

「ああああああっ!あのクソメガネっ!何で実体じゃ無いのよっ!!越中以来溜まりに溜まった恨みを晴らしてやろうと手ぐすね引いて待ってたってのにっ!!」

 

 美空も幻影と判っていても三昧耶曼荼羅を放たずにはいられなかったのだ。

 

「御大将〜、何人か三昧耶曼荼羅に巻き込まれたみたいっすけど………」

「今のは浄化だけに絞ったから怪我すらしないわよ。今、この庭が駿府屋形で一番清浄に違いないわ♪」

 

 美空の言う通り怪我人はひとりも居なかった。

 しかし、何やら妙な騒ぎにはなっている。

 

「ザビエルはどこに消えたですかーーーーーっ!綾那が成敗してくれるですーーーーーーっ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、お団子をつまみ食いしたのはボクですごめんなさい…」

 

 和奏は遠い目をしてブツブツと懺悔を呟いていた。

 

「和奏、何言ってるですか?犬子、和奏がおかしいです。」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、和奏をおだててご飯をおごらせてました、ごめんなさい…」

「犬子もなのです………」

「綾那さん、こちらもですわ。」

 

 梅が指した先では粉雪がやはり遠い目をしてブツブツ呟いている。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ここを独り占めしてごめんなさい…」

 

「おそらく三昧耶曼荼羅で心の邪気が祓われたからでしょうね………なんだか中途半端な気もしますけど………」

「梅は何ともないです?」

「わたくしはでうすの教えに従い、何ひとつ天に恥じる事無く生きておりますもの♪」

「綾那も武士として真っ正直に生きてるのです♪」

 

 どうやら牡丹にも微妙な違いが有るらしい。

 

「あれ?あそこに居るのって…」

「武田の先代様ではございませんこと?」

 

 綾那と梅の視線の先に居るのは、間違いなく信虎だった。

 怒りに我を忘れて飛び出したのだ。

 

「「「信虎さんっ!」」」

「「お母さんっ!」」

「母上っ!」

 

 祉狼、聖刀、昴、光璃、薫、夕霧が急いで駆け付けると、信虎は実に穏やかな顔で振り向いた。

 

「良人殿方♪我の通称は躑躅じゃ♪躑躅お義母さんと呼んでもらえると嬉しいんじゃがのぉ♪」

 

「(ま、聖刀さま!明らかにまた人格が変わってますよっ!)」

「(これは三昧耶曼荼羅で恨みの感情が浄化されちゃったのかな?)」

 

 昴と聖刀が信虎の変化に戸惑いを見せる中、祉狼はまるで気にせず話し掛ける。

 

「それでは躑躅お義母さん。改めてよろしくお願いします♪」

「おうおう♪よろしく頼みますぞ、祉狼どの♪」

「ひとつ訊ねたいのですが、躑躅ヶ崎館というのはやはり…」

「ほっほっほ♪あれはの、我がこの通称が好きでなく、躑躅の名を館に残し虎となって戦に赴く。その思いを込めて付けた………と、皆には言うておったが、本当は誰も我の通称を呼んでくれんから拗ねて付けたのじゃ♪」

 

「え?」

「そうだったのでやがりますか!?」

「お母さん、ひねくれすぎだよぉ………」

 

 光璃ですら初耳の真実に三姉妹は驚き、呆れ、結局は母の子供っぽい抵抗に笑い出す。

 

「それでは次に我から良人殿方にお尋ねしたい事があるのじゃが♪」

「はい、何でも訊いてください♪」

 

 祉狼は母の二刃に対するのと同じ気持ちで躑躅に接した。

 

 

「孫の顔はいつ頃見られますかのぉ…………」

 

 

 祉狼は笑顔のまま言葉に詰まり、昴と聖刀に振り向いた。

 しかし、二人も額に冷や汗を浮かべている。

 三人は頷き合ってから躑躅に向き直り頭を下げた。

 

「「「鋭意努力します。」」」

 

 揃って頭を下げる三人を見て、光璃、夕霧、薫の方が躑躅よりも嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

今回の話をひと言で表すなら、『怪獣大決戦』でしょうかw

一番の大怪獣はモチロン、貂蝉と卑弥呼w

 

 

祉狼の新治癒技や小ネタは華陀の基本コンセプトに立ち返りガオガオガーネタを。

この為にバンダイチャンネルに入会して数年ぶりに見直しましたw

 

 

戦国恋姫Xでは綾那が信虎相手に東国無双を繰り広げましたが、この外史では母親対決となりました。

越前を生き残った桐琴さんは雪蓮なみにフリーダムな感じがしますw

 

 

今回の新キャラ

 

小幡信貞 通称:貝子

粉雪に作戦行動中の会話をさせたかったので急遽登場させたキャラですw

通称は甲斐絹の蚕から付けました。

 

百段

小夜叉の馬の百段はXでも瓢箪から出られない上に諏訪の蛇神に出番を奪われてしまったので、ここで登場となりました。

小夜叉って実は召喚士なんじゃないの?

作中では原作の注釈通り「百段飛ばし」としましたが、正史では「百段を一気に駆け上がった」そうです。

森長可が狙撃されて死んだ時、死体を守って徳川兵と戦い見事に守りきり、更に三十年後の大坂の陣で長可の弟の忠政を乗せて豊臣方の首級二百六挙げたそうな。

正に“怪獣”です。

 

白川

正史では今井貞邦が切腹しなくちゃならなくなる原因を作った猿。

Xの世界では白川が生きて鬼になっているので、今井貞邦も生きているのかも。

Xでは鬼化促進剤でしたが、ここではバイアグラw

 

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

・ 佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)

・ 佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)

・ 佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)

・ 各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)

・ 森蘭丸

・ 森坊丸

・ 森力丸

・ 毛利新介 通称:桃子(ももこ)

・ 服部小平太 通称:小百合(さゆり)

・ 斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

・ 三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

・ 蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

・ 蒲生氏春 通称:松(まつ)

・ 蒲生氏信 通称:竹(たけ)

・ 六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)

・ 三好右京大夫義継 通称:熊(くま)

・ 武田信虎

・ 朝比奈弥太郎泰能 通称:泰能

・ 松平康元 通称:藤(ふじ)

・ フランシスコ・デ・ザビエル

・ 白装束の男

・ 朝倉義景 通称:延子(のぶこ)

・ 孟獲(子孫) 真名:美以

・ 宝譿

・ 真田昌輝 通称:零美

・ 伊達輝宗 通称:雪菜

・ 基信丸

・ 戸沢白雲斎(加藤段蔵・飛び加藤) 通称:栄子

・ 小幡信貞 通称:貝子

 

 

今回はPixiv版とtinami版共に同じ内容になっております。

 

 

最後にオマケ

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 今まで姿を現さなかった鬼子の襲撃に武田軍の足軽達はその強さに浮き足立つ。

 その中で一体だけ鬼子とは毛色の違う、より獣じみた鬼が居た。

 

「一刀っ!?あの鬼が一刀でやがるかっ!?」

「夕霧ちゃん………………一刀って………………」

「一刀は母上の飼っていたとんでもない猿でやがる!」

「お母さん非道いよ!一刀まで鬼にしちゃうなんてっ!」

 

 薫は一刀を目で追いながら憤慨する。

 一刀は女武者ばかりを襲い、鎧と衣服を剥ぎ取っては嬉しそうにはしゃぎ回っていた。

 

「キャァアアアアア!」

「いやぁあああああああ!」

「こっち来んな!スケベ猿っ!」

 

「ええと…………………」

「昴どの!一刀は前から女の尻や胸を触り、下着を剥ぎ取るとんでもない猿でやがりました!」

「……………………………そ、そうなんだ…………」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 本文を書いている最中に思いついたのでwww

 

 

さて、次回こそは朔夜、朧、姫野は今度こそ登場するのか?

駿河奪還戦後始末と北条編の導入に、

ファイナル・フュージョン!承認!

 

 

 

 


 
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