No.854301

恋姫OROCHI(仮) 肆章・弐ノ参ノ弐 ~陽平関へ~

DTKさん

どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、78本目です。

函谷関で、念願の紫苑救出を果たした一刀たち。

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2016-06-20 23:53:46 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3913   閲覧ユーザー数:3368

 

 

 

「そんなことが…」

 

星から漢中の状況を聞いた本陣は静まり返っていた。

 

定軍山を拠点に漢中の調査をしていたところ異変が起こり、その中から敵部隊に追われた二人の少女を保護し、今は陽平関に拠っているらしい。

定軍山から撤収の際、璃々を残していってしまい、それを助けたのち、山を降りていた最中だったようだ。

 

「それじゃあ、綾那と歌夜は無事なんですね!?」

 

剣丞が二人の無事を念を押して確認する。

 

「確証は出せないが、少なくとも私が関を出るまでは無事だった。ただ、陽平関がいつ落ちるとも限らん」

「それじゃあ、急がないと!」

「そうだな。ならば先導は私がしよう」

 

と、話をしながら傷の応急処置を受けたとはいえ、満身創痍の星が立ち上がる。

 

「いえ、趙雲さんは休んで頂いても…」

 

止めようとする剣丞を制し、

 

「大丈夫だ。それと剣丞。私のことは星と呼ぶがいい」

「あ、はい。ありがとうございます!」

 

柔らかく微笑む星に、剣丞も笑顔を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「うぅ~~~……星はまだなのかーーー!!」

 

関の上から敵軍後方を見ながら、地団太を踏む鈴々。

そろそろ星が言った二刻が経とうとしていた。

輜重の準備は既に整い、一部は先行して剣閣方面に撤退を開始させている。

あとは星の到着を待つだけなのだが…

 

「あ!あれはっ!!」

 

 

…………

……

 

 

「桔梗!桔梗!!」

 

関の中で綾那と歌夜から事情を聞いていた桔梗。

ひと段落といったところで、上から鈴々が降りてきた。

 

「なんだ騒々しい。星が来たのか?」

「そうじゃないんだけど!桔梗にも来てほしいのだ!」

「一体どうした?何かあったのか?」

「ん~~!!いいから上がってくるのだ!口じゃ説明出来ないのだ~!!」

 

見たものを説明できないのがもどかしいのか、手足をばたつかせる鈴々。

こういう風な慌て方をする鈴々も珍しい。

 

「分かった分かった、いま行く」

 

桔梗もそれに気付き、鈴々に促されるまま階段を登る。

 

「…歌夜」

「うん」

 

綾那と歌夜もこれに続いた。

 

 

…………

……

 

 

「「「――――っ!?」」」

 

三人は驚きをもって、その眼下の光景を見た。

その驚きの種類は桔梗、そして綾那と歌夜で違っていた。

 

「何故孫家がここに!?しかも、月と詠の旗もあるだとっ?」

「そうなのだ!訳が分からないのだ!」

 

鈴々と桔梗の驚きは単純な疑問。

ここに居るはずのない人物の旗が林立していること。

 

「歌夜……歌夜っ!」

「えぇっ!剣丞さまが…剣丞さまが助けに来てくださったのね!」

 

二人の視線は一つの旗で交錯していた。

円の中に太い線が一本入った図形。

鈴々や桔梗には意味の分からないその旗は、綾那と歌夜にとっては救いの旗。

新田一つ引き。

二人の愛しき人がそこにいる証だった。

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「いるわいるわ~うじゃうじゃいる♪」

 

最前線の雪蓮は眼前の部隊を見て、涎を垂らさんばかりに歓喜していた。

剣丞たちの布陣は、先程とほとんど同じ。

第一陣に雪蓮、第二陣に蓮華。

本陣と後備えを剣丞隊が務める。

唯一違うのが…

 

「私の獲物も残しておいて下されよ、雪蓮殿」

 

雪蓮の隣には、祭の他にもう一人。

大斧を構える壬月がいた。

 

 

もともと本陣にいたのだが、

 

「我らが仲間の尻拭いを、孫呉の方々だけに任せておくわけにはいかん」

 

と直訴して、前線行きが決まった。

 

 

「ふふっ、それはどうかしらね?我が孫呉の戦場は早い者勝ちが常なのよ♪」

「これはこれは。それですと、雪蓮殿の獲物が無くなってしまうことになりますが?」

「あら…面白いことを言うのね」

 

雪蓮と壬月の間に火花が散る。

 

「これこれ策殿、落ち着いて下され。壬月殿も、あまり策殿を煽らんで頂きたいの」

 

止め役に回らざるを得ない祭。

 

「別に本気になってる訳じゃないわよ、祭。なんだか壬月といると昂ってくるのよね~。相性が良いのかしら?」

「そう言って頂けると、私としても光栄の至りですな」

「……儂はなんだか壬月殿の声を聞くと、背筋がゾッとするんじゃがのぅ?」

 

そんな話をしていると、

 

「敵軍、動きました!」

 

敵がこちらに向かって進軍してきた。

 

「活きがいいわね~!それじゃあ壬月、行くわよ!」

「応っ!」

 

敵軍に突撃する雪蓮と壬月。

いつもの、主の久遠を諌める姿は影も形もない。

織田家筆頭家老という立場から解放されているからなのか、はたまた雪蓮の気に当てられたからなのかは分からないが、今の壬月は一人の武士(もののふ)だった。

 

 

 

 

 

「前線、戦闘始まりました。雪蓮さまと壬月殿が先頭で戦っているようです」

「あぁ…姉様は~もう!壬月殿は何となく止めてくれそうだったのに…」

 

思春の報告に頭を抱える蓮華。

 

「ああなった雪蓮さまを止めるのは、冥琳さまでも難しいと思いますが…」

 

思春の呟きは、悩む主の気休めにもならなかった。

 

「もういいわ。万が一にも無いと思うけど、突破されないよう警戒だけは怠らせないように。両翼には特に注意しておきなさい」

「はっ!」

 

 

 

 

「ご主人様」

 

斥候に出ていた小波が戻ってくる。

 

「お疲れ様。前線の様子は?」

「はっ。敵軍こちらに攻めかかってきました」

「隘路で関と部隊に挟まれたら、こちらに攻めかかるは必定かと」

「なるほど、それで?」

 

雫の補足に頷き、小波に先を促す。

 

「は…お味方前曲が、その…突出して、交戦中です」

「ま~雪蓮さんなら仕方ないですね~」

「雪蓮姉ちゃんなら仕方がないか…」

 

もはや端から諦めていた。

 

「いえ、それが…雪蓮さまだけでなく、壬月さまも単騎駆けを…」

「いいっ!?」

 

想定外の事態に思わず奇声を上げる剣丞。

 

「それは…本当なのですか?」

 

詩乃も信じられずに目を丸くする。

 

「はぁ……金剛罰斧を振り回し、敵をバッタバッタと薙ぎ倒し…あぁいえ、もちろん峰打ちのようでしたが…」

「いや、峰打ちでも死んじゃうんじゃ…」

「そんなことより、陽平関の動きは?」

 

剣丞の呟きを掻き消すように、詠が質問を被せる。

 

「まだありません。遠目には、関の上に人影が数人分確認できましたが…」

「桔梗は動かない、か…」

 

疑り深い星と桔梗対策の董旗と賈旗だが、桔梗に対して効果はまだ出ていないようだ。

 

「でも、死地に追い詰めないほうがいいのかしら?」

 

これで陽平関からも兵が出れば、敵は完全に死地に追い詰められる。

死地に追い詰められた敵は、文字通り死に物狂いで戦うため、味方にも大きな被害が出る。

そのため、殲滅戦でもない限り、敵を完全包囲するのは悪手にもなりうる。

 

「んまぁ~、今のまんまでも死地にような状態ですし~」

「しかも、どうやら敵は正気ではないようですし、早めに兵を繰り出し、無力化することが肝要かと」

 

風と詩乃の意見は同じようだ。

 

「待っていればそのうち、桔梗姉さんじゃ止められずに鈴々姉ちゃんが出てくると思うけど…」

 

いかにもありそうなことを言う剣丞。

そんな時、

 

「小波さん、私を陽平関へ連れて行く事は出来ますか?」

 

月が小波にそう尋ねた。

 

「え?」

「ちょっと月!なに言ってるの!?」

「どうですか、小波さん」

 

声を荒げる詠に構わず、月は小波に続けて問う。

 

「は、はぁ…月さまお一人を運ぶことなら、可能だと思いますが……」

 

剣丞をチラチラと窺いながらなので歯切れの悪い小波。

 

「私が行って、鈴々ちゃんと桔梗さんに兵を出すようお願いしてきます」

「そんな月、危ないよ!」

「そんなことないよ。小波さんに連れて行ってもらうんだけだもん。小波さんの腕は知ってるでしょ?」

「う…そ、それじゃ他の人に行ってもらおうよ!そうだ!星がいいんじゃない?」

「ダメだよ。星さんは怪我してるし、小波さんの負担を考えても、体は小さい方がいいと思う」

「なら風が…」

「いえ~。風が行っても、事情を説明している間に、戦闘が終わってしまいそうですね~」

「自分で言うなっ!」

 

ツッコむ詠。

 

「ならボクが行くよ!それならいいでしょ!?」

 

しかし、月は首を横に振る。

 

「詠ちゃんならここに居て知恵を出すことが出来る。でも、私には何も出来ないから。だから少しでも役に立ちたいの」

「でもっ…!」

「詠姉ちゃん」

 

なおも食い下がろうとする詠の肩を優しく剣丞が止める。

 

「こうなった月姉ちゃんが梃子でも動かないこと、詠姉ちゃんが一番良く知ってるでしょ?」

「うぅ~~~……はぁ。分かったわよっ…」

 

詠はガックリと肩を落とす。

 

「小波、月姉ちゃんのこと、よろしくお願いね」

「はっ!」

「よろしくお願いします」

 

よほど心配なのだろう。詠は深々と頭を下げた。

 

「はい。お任せ下さい」

 

小波はお姫様抱っこの形で月を抱き上げると、音もなく駆け出した。

 

 

 


 
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