第2章.反董卓連合編 1話 檄文
一刀が馬超達のところに来てから約半年が経っていた。
この地にも慣れ、城や町の人達にも馴染んできておりそれに伴い仕事(苦情処理や懸案問題の対策立案、町や村を見て回るよりこちらの方が知識を生かしやすいだろうとの馬騰の判断により一刀の仕事となった。一部では馬騰が一刀に厄介ごとを押し付けただけとの説もあり)の範囲も広がり忙しい日々を送っていた。
尚、一刀は会話はできたものの読み書きができず最初の2週間はその習得に費やされていたがその甲斐有り今では書簡の作成等十分にこなせるようになっていた。
今、一刀、馬超の2人は馬騰に呼ばれ執務室へと向かっていた。
「なあ、あたし達を呼ぶってなんの用だろうな?」
「さあ?俺に心当たりはないけど。翠は?」
「あたしだってないよ。なんだろな?」
と言ってるうちに執務室に到着。
「母様、入るよ。」
扉を開け入ってきた2人に気付いた馬騰は机上の書簡から目を離し2人の方へ顔を上げた。
「来たわね。早速だけどこの書簡を見てくれない?」
馬騰より書簡を受け取ると一刀は書簡に目を走らせ出した。
「………こッこれは!」
それは河北の雄、袁紹よりの反董卓連合への参加を促す檄文であった。
一刀より書簡を受け取り馬超も目を走らせた。
「なになに……! 月達が洛陽を不法に占拠し民に圧政を強いてる?うそだろ?あの月がそんなことする訳がねーよ!」
馬超の絶叫が部屋に響く中、一刀は数ヶ月前に董卓達と始めて逢った時のことを思い出していた。
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「おやじさん、この部分もっと強度上がらないかな?」
「ここでやすか?う~ん。」
一刀は馬具職人の親方と共に鐙の試作品を作っていた。
そこにだれか人を探してる風にキョロキョロと顔を左右に振りながら兵がやってきた。
「北郷殿はいらっしゃいますか?」
「んっ、ここにいるよ。」
「太守様が御呼びです。執務室の方へいらしてください。」
「なんだろ?わかった、すぐ行くよ。じゃあおやじさんちょっと行ってくるよ。」
「へい、わかりやした。なにか方法がないか考えて見ますわ。」
一刀は立ち上がると執務室の方へ駆けていった。
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執務室に着いた一刀は声をかけて部屋に入っていった。
「失礼しま~す。菖蒲さん 御用ですか?」
部屋の中には馬騰、馬超の他に2人面識のない少女がいた。
一刀が入ってきたのに気づいた馬騰は
「来たわね。一刀君、来て貰ったのはこの2人を紹介しておこうと思ったからなの。」
と言いつつ一刀に向かってこっちに来いと手招きした。
一刀が近くまでくると、儚げな感じのする色の白い美少女の方に手を向けながら
「こちらが西涼の太守で董卓殿。涼州における二大勢力の一方の方よ。」
「へぅ~、小母様それはお父様のことで私はまだ大したことしてませんよ~」
「何言ってるのよ、民を安んずる賢君だって民達が褒め称えているの聞いてるわよ。そしてもう一人が賈駆ちゃん、董卓ちゃんの軍師をしているとっても賢い娘よ。月ちゃん、詠ちゃん。彼は北郷一刀、ちょっと前に都で流れてた天の御遣いの噂、知ってる?彼はその天の御遣いなのよ。今はうちで保護してるの。仲良くしてあげてね。」
一刀を紹介する馬騰の話しを聞いて董卓と賈駆はかなり驚いた。
2人ともその噂は知ってはいたものの眉唾ものであるというのが一般的な認識であったし、目の前の青年はどう見ても一般人にしか見えずとても英雄とは見えなかったからである。
「菖蒲様。天の御遣いというのは本当なんですか?」
「彼が流星と共に現れたのは私も翠も見たし、彼が見せてくれたものはこの世界のものとは思えなかったわ。だから私は天の御遣いだと思ってるわ。」
賈駆が馬騰や馬超と話しているのを見ながら一刀は別のことを考えていた。
「(董卓?それって三国志ですごい暴君だったはずだよな。でも目の前のこの少女がそんなことするか?とてもそうは思えないよな~。……ってことは圧政はなしなんだから反董卓連合との戦いは起きない?そうなると俺の知ってる三国志の知識は当てにならなくなるな~)」
「一刀君?」
自分の世界に入り込んでいた一刀は馬騰の声で我に返った。
「えっ?えッと……なんですか?」
「もうなにぼーっとしてるのよ。あ・い・さ・つ。」
「あっ、失礼しました。姓は北郷、名は一刀といいます。字はありません。よろしくお願いします。」
馬騰に急かされ、一刀はあわてて挨拶をした。
「へぅ~、名は董卓、字は仲穎、真名は月です。こちらこそよろしくです~。」
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「……えっええ!月、うそでしょう。なんでこんな奴に真名を許すの?」
「詠ちゃん、天の御遣い様だし小母様や翠ちゃんも真名許してるんだよ。きっといい人だと思うよ。」
「月、しっかりして!菖蒲様や翠に突拍子も無い話をされて混乱しているだけよ。正気に戻ってー!」
賈駆は董卓の肩を掴むと訂正させるべく必死の形相で説得していたがその横では馬騰と馬超はあきれた顔で思っていた。
「「(……あいかわらずね~(だな~))」
やがてあきらめたのか董卓に促されながら賈駆は親の敵でも見るように睨み付けてきた。
「名は賈駆、字は文和、真名は詠よ。いい、月に手を出したらこ・ろ・すわよ。」
それを見ていた馬超はなんだかわからない感情を持て余しながら
「おいっ一刀。月は純情ないい子なんだから手だすんじゃないぞ!」
「(…俺、そんなにナンパな奴にみえるんだろうか?…)」
そこに見かねたのか馬騰がなぜかニヤニヤしながら間に入ってきた。
「大丈夫よ、詠ちゃん。一刀君、……手を出すなら翠からにしてね。」
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「かっかか母様!」
「(菖蒲さん……絶対わざとだな。……はぁ~)」
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「(あの時は酷い目にあった。……)」
その後、一刀は馬超と賈駆によりボロボロにされて気絶し、董卓達が勅令により黄巾賊討伐に向かう為留守になる領地をよろしくと挨拶にきていたことを知る由もなかった。
「一刀君?」
馬騰の声で一刀は我に返る。
「あっ、菖蒲さんこの書簡に書かれてあることは本当なんでしょうか?」
「月ちゃん達を知ってる私達からすれば信じられないのは当然なんだけど、商人等に聞いた限りでは月ちゃん達が洛陽を占拠しているのは本当らしいの。……実はね、もう1つ書簡があるのよ。」
馬騰は机の上にあった書簡を手に取ると一刀へと手渡した。
「?菖蒲さんこれは?」
「月ちゃんからよ。事の経緯と助けを求めてきてるわ。」
悲痛な顔で書簡を一刀は読み進めた。
皇帝の死に始まる後継者争い。
何進の軍事力により劉弁が新帝となったものの報復を恐れた十常侍による何進暗殺。
激高した何進の部下、袁紹・袁術による宮殿襲撃。
からくも逃れた十常侍筆頭張譲が新帝と協太子を連れて逃亡中、董卓達と接触。
董卓の力を以って袁紹達を追い払い、董卓達は洛陽の安定の為そのまま駐留。
しかし朝廷はすでに機能していない為、董卓達主要メンバーは混乱の沈静化に手一杯になる。
そこをついて張譲や不正官吏達が軍の不平分子を煽って略奪等に走らせた。
すぐに賈駆が張遼や華雄をつかって不平分子を押さえにかかったがその混乱の最中、新帝が暗殺される。
止むを得ず、協太子を即位させた上で張譲、不正官吏達を一斉摘発し粛清した。
これにより洛陽はやっと落ち着きを取り戻そうとしていたのだが追放された袁紹達が洛陽を奪還すべくその粛清を曲解して伝え諸侯を糾合しようとしている。
残念ながらその話は諸侯に信じられ袁紹達はかなりの戦力を有するようになっている。
自分達は洛陽を占拠しつづける気はなく混乱が収まり朝廷が正常になれば涼州に帰るつもりである。
このままでは袁紹達が攻め込んできて洛陽がまた戦乱に巻き込まれることになるのでなんとか力を貸してもらいたいと書簡には事の経緯と救援要請が記されてあった。
「(どういうことだ?細かい所は違うけど俺の知ってる三国志と同じ流れになってきてるぞ。)菖蒲さん……どうするんですか?」
「う~ん……どうしようか?月ちゃん達を助けたいのは山々なのだけど、暴政をしてるという嘘が信じられてるのが問題なのよ。董卓=悪 袁紹=正義という形ができあがってしまってるの。こうなるとね……風評等のことを考えると袁紹に付かざるを得ないし……翠、あなたはどう思う?」
「あたしは難しいことはわからないけど、友人が困っているなら助けたいと思う。」
「ふふ、翠ならそういうと思ったわ。でもその難しいことを少しは考えるようにしてね。私の後を継ぐものが余りにも考え無しじゃ安心して隠居もできないわ。」
「う~、どうせあたしは馬鹿だよ。」
「一刀君はどう思う?」
「俺個人としては翠と同じく月達を助けたいと思うんですけど……でも後のことを考えると袁紹の方に付いた方がいいんじゃないかとも思います。」
一刀の話を聞いていた馬騰は何かを思い出したのか一刀に尋ねてきた。
「ねえ一刀君、前に君1800年ぐらい未来から来たと言っていたわよね?」
「………はい。」
「ということはこの後起こることを知ってるんじゃないの?」
「……知っていると言えば知っています。でも俺が知ってる通りになるとは限りませんよ?」
馬超は?を浮かべていた。
「どういうことだ?」
「つまりな……」
一刀は馬超に自分が知ってる歴史とこの世界の違い(性別等)を説明し、だから同じようになるかわからないと告げる。
「ふ~ん……でもさ黄巾賊や連合の結成なんかはいっしょなんだろ?あたしには同じにしか思えないけどな。」
「そうね、細かいところで違いはあるものの今のところ大筋では同じと言ってもいいわね。一刀君、この後どうなるの?」
「この戦いは袁紹達の勝ち、そして月は、董卓は死に、その後は群雄割拠の戦乱の時代になります。」
馬超は沈痛な顔をして何か言いたげだったが言葉にできないようだった。
「まあ、そうなることはわかるわ。月ちゃん達の戦力は2~3万に対し袁紹達は20万ほどにはなるでしょう。それに今回のことで朝廷に最早諸侯を制する力がないことがあきらかになるからね、みんな好き勝手するでしょう。」
「そんな!じゃあ母様、月達を見殺しにするのかよ。」
「そんなことする訳ないじゃない!でもいくら堅牢な要塞があるとはいえ10倍の兵力差。ちょっと勝ち目はないわ。」
さすがの馬超も10倍と聞いては何も言えなかった。
「菖蒲さん、3~4倍だったらなんとかなりますか?」
なにやら考えていた一刀が馬騰に問いかけてきた。
「?そうね~全騎馬隊に鐙を装備できればなんとかなるかもね。」
「では、こういう策はどうでしょう。」
一刀は馬騰、馬超に策について説明した。
(策の内容については後のおたのしみということで)
「うん、この策ならなんとかなりそうね。でも時間的に間に合うかギリギリよ。後だれにするか心当たりはあるの?」
「心当たりはあります。この人は他の諸侯と違う思いで参戦するはずですし切り札が間に合えば大丈夫でしょう。時間についてはギリギリですので全てを同時進行でやるしかないと思います。」
「わかったわ、翠!月ちゃん達を助けるわよ。」
「よっしゃ、そうこなくちゃ。袁紹達をぶっ飛ばしてやる!」
「一刀君、あなたを軍師に任命する。全て君に任せるわ。」
「はい!わかりました。」
後の世に天翔ける龍騎兵と呼ばれる馬一族が表舞台へと躍り出た瞬間であった。
<あとがき>
どうもhiroyukiです。
第2章反董卓連合編が始まりました。
はい、馬一族は董卓側につきました。
最初はよくあるパターンで反董卓連合側についてこっそりと董卓達を助け出すやり方を考えたのですがパターンすぎて面白みにかけるなと思い董卓側につけることにしました。
唯、董卓と馬超達だけでは戦力が足りないのと後のことを考えて、ある人物を引き込む予定です。
(まあ、皆さん大体おわかりだと思いますが……)
この反董卓連合編では一刀の身にあることが起き、馬超の特殊な設定がある程度出てきます。
このことがこの後の物語にどのような影響を与えるのか、乞うご期待といったところです。
では、また次回のあとがきでお会いしましょう。
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第2章反董卓連合編のスタートです。
ここからついに原作や演義、史実との乖離が始まります。